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不動産証券化の将来 - 不動産証券化協会
巻 頭 言 Special 不動産証券化の将来 田村 幸太郎 牛島総合法律事務所 弁護士 (不動産証券化協会フェロー) 2001 年の J リート初上場から 2007 年まで、不動産証 よりアセット・マネジメント会社がファンドの中核的存在と 券化ビジネスはほぼ右肩上がりで成長してきたが、リーマ して法的な位置づけを明確にされたが、SPC の背後にい ンショックを経た 2009 年以後は新規組成案件が急減し る投資家とアセット・マネジメント会社との間には契約関 ている。読者諸氏は力を持て余していることと思うが、 係 (形式上)があるわけではない。筆者のここでの関心は、 中には証券化ビジネスの将来に悲観的な方もいらっしゃる SPC の意思決定の問題であり、投資家からみた制度全 かもしれない。 体のガバナンスの問題である。このことは私募ファンドで しかし、不動産証券化ビジネスは、むしろこれからが 本番であろう。というのも、この激動の時代のおかげで、 も J リートでも本質的には変わらない。 J リートについて言えば、この制度は日本の不動産取引 我が国の不動産証券化にまつわるいくつかの疑問や改善 全般に大きな影響をあたる。しかし、現状は到底満足の 点があぶり出されてきており、その解明は今後、我々に大 いく状況ではないので、数々の論点が指摘されている。 きな果実をもたらすと思われるからだ。 それこそ、世界における市場(あるいは都市)間競争の 筆者自身の疑問点をいくつか述べると、まずは 2008 問題や情報の発信力(英語の問題だけではない) 、取引 年秋以降の世界的な信用収縮に関連することである。こ 慣行というような根源的問題から、財務能力を拡充する の信用収縮は日本の不動産ファンドにも大きな影響を与 資金調達方法やガバナンスの問題など論点は多岐にわた え、私募ファンドの SPC が相当数デフォールト状態になっ る。 ただけではなく、J リートでも倒産が生じた。好調な成長 その中でも個人的に大きな問題と思うのは、まずJリー 過程にあった新興デベロッパーの倒産も少なくなかった。 トの存在理由(あるいは位置づけ)を明確にすることが 強気のレバレッジ型経営という本質的原因は破綻したファ 難しいことである。ミドルリスク・ミドルリターンの商品と ンドも事業会社も同じである。 いうのでは何も言っていないのに等しい。例えば年金制 ここでの素朴な疑問は、なぜ、これが予測できなかっ 度の補完制度として位置付けることができれば制度設計 たのか、 あるいは防げなかったのかである。もっとも予測、 はもっと楽になるのではないか。しかし、不動産で年金 特にそれが起こる時期については、最近の欧州経済危機 を補完するということが政策的に受け入れ可能なのかどう をみても、我が国の財政問題の帰趨を考えても、聞くだ か。もう一つは、リートの投資対象として相応しい不動 け野暮ということなのかもしれないが。過去の経験則は 産の創出の問題である。税制を変えることは正直、 難しい。 将来発生し得る大きな経済変動に対して役にたたないと そこで、関東圏の大震災を現実のリスクとして実感できる いう覚悟が必要ということであろうか。 ようになった今日、耐震性を確保された不動産を創出する 次に考えたのは、SPC とはそもそも何なのかという疑 (改修・建替え工事を促進する)ことは政策的にも受け入 問である。それは新しい透明性をもったシステムとして、 れられやすいと考えられる。そのための方策としては、J 金融安定化の一助となったと思う反面、モラルハザードを リートよりもリスクを取れる投資家の私募ファンドを活用し 引き起こしやすくさせる隠れ蓑であり、意思決定のルール て、まずは不動産の耐震性確保を促進する。そのために が曖昧な欠陥商品だったのではないかという疑問である。 は何をすれば良いのか。読者諸氏に与えられた課題は大 このことはアセット・マネジメント会社の機能や存在理由 きい。 とも関わる。金融商品取引法の施行(2007 年 10 月)に 3 ARES53.indb 3 11.12.5 5:27:02 PM