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1 地域経済の問題点
Ⅰ 地域経済の問題点 1.今のままでは立ち行かなくなる地域経済 釧路地域はこれまで豊かな資源を背景に農林水産業と食料品製造業、石炭鉱業、紙・パルプ 産業などを主力産業として発展してきた。しかし、国際経済の動向や競争の激化により、これ らの産業を取り巻く環境は総じて厳しく、地域経済は低迷を続けている。そして焦燥感だけが 募っている。 石炭鉱業では大幅な業務の効率化が求められ、 平成13年度までに従業員800人体制とすること が緊急の課題となっている。また、漁業は200カイリ規制や資源の減少などの影響を受け、水揚 量・金額ともに大きく落ち込んでおり、水産食料品製造業が大きなウエイトを占める工業全体 も落ち込んでいる。さらに、紙・パルプ工業においても、従業員数は生産効率化に伴って減少 傾向にある。 図 1 釧路地域における経済の状況 石炭鉱業(釧路市) 8,000 7,300 344 7,000 6,100 6,000 5,000 漁業(釧路支庁) 400 180 350 160 300 268 250 213 4,000 80,000 160 72,342 70,000 140 60,000 54,218 120 100 50,000 96 44,845 200 40,000 80 3,000 150 1,860 2,000 100 1,000 0 20,000 40 50 20 0 0 25 10,000 0 昭和48 昭和62 平成9 水揚量(万トン;左軸) 水揚額(百万円;右軸) 昭和36 昭和43 平成8 従業員数 (人;左軸) 石炭生産量(万トン;右軸) 紙・パルプ工業(釧路市) 工業全体(釧路支庁) 1,600 1,500 30,000 60 5,400 14,400 1,499 1,510 14,100 5,200 5,188 13,800 1,391 1,400 5,300 5,208 13,807 5,100 13,500 1,300 5,000 1,290 1,302 13,200 1,200 1,286 12,900 13,029 12,824 4,800 12,600 1,100 4,700 12,300 4,643 12,000 1,000 昭和60 平成元 平成4 従業者数( 人;左軸) 従業者数( 人) 出荷額 (億円) 資料)北海道統計書、釧路市史、釧路市統計書より作成 3 4,600 4,500 平成元 平成8 4,900 平成8 出荷額 (億円;右軸) 釧路地域の工業は、地方資源型(食料品製造業、紙・パルプ工業、飲料・飼料製造業など) のウエイトが高く、柱の産業が揺らぐと思いきり結果に表れてくる構造になっている。 また、このような状況を背景に、昭和50年代に約31万人に達した釧路地域の人口は徐々に減 少し、28万人前後という状況となっている。 図 2 地方資源型業種が顕著な釧路地域 釧路支庁 0% 20% 40% 全 道 60% 80% 100% 0% 事業所数 事業所数 従業者数 従業者数 出荷額 出荷額 地方資源型 雑貨型 基礎素材型 加工組立型 20% 地方資源型 40% 雑貨型 60% 80% 基礎素材型 100% 加工組立型 注)地方資源型: 食料品、飲料・飼料・たばこ、木材・木製品、窯業・土石製品、パルプ・紙・紙加 工品、繊維工業 雑 貨 型: 衣服・その他の繊維製品、家具・装備品、出版・印刷・同関連、プラスチック製品、 ゴム製品、なめし革・同製品・毛皮、その他 基礎素材型: 化学工業、石油製品・石炭製品、鉄鋼業、非鉄金属 加工組立型: 金属製品、一般機械器具、電気機械器具、輸送用機械器具、精密機械器具 資料)北海道統計書より作成 図 3 ︵ ︶ 人 人口の推移(釧路支庁管内) 315,000 310,000 305,000 300,000 295,000 290,000 285,000 280,000 275,000 270,000 S.47年 53年 59年 H.2年 8年 資料)北海道統計書より作成 「太平洋炭鉱の存続」が大きな課題となり、 クラスター研究会でもそのことが話題になった。 太平洋炭鉱の存続はこの地域の経済にとって影響が大きく、何としても存続させなければなら ないことは言うまでもない。しかし、私たちはもう1つのことをきちんと認識しなければなら ない。それはなぜ今日、太平洋炭鉱が、その存続が危ぶまれるほどの事態になったかというこ とである。 4 今までこの地域はどうやって発展してきたか。それは外の地域にモノを売って、それでお金 を稼いで経済が発展してきたのである。石炭、紙パ、水産、酪農いずれもそうである。 どのように外の地域にモノを売ってきたか。今までは太平洋炭鉱のように資源を供給するこ とでそれを果たしてきた。そしてその「資源」が、自由貿易の進展、円高ドル安の時代の中で 競争力を失いつつあるのである。このことはひとり太平洋炭鉱だけの問題ではない。この地域 のかなりの産業に共通することである。 今のままでこの先10年、20年を過ごせば、地域経済はどうなっていくのか。今までのやり方 では今後も衰退を免れない。21世紀に釧路は生き残っていけない、というのが私たちの思いで あり、生き残っていけるように変革して行かなければならない。 2.手足を動かすが、頭を使わない構造 北海道全体でみても同じことが言える。北海道は、資源供給基地として発展し、金もモノも 内地から持ってきた。また、北海道の発展の多くを支えてきたのが国の重点的な公共投資であ ったことも事実である。 しかし、もはや中央からは、北海道はもういらないとの声も聞こえてくる。北海道は3兆円 の域際収支の赤字であるが、これは道民1人当たり50万円、一家4人で200万円である。 北海道の産業構造の特色は、資本が中央にあり、意思決定もまた中央でなされ、北海道は原 材料を供給する地域であったということである。要するに原材料は供給するが、その先の工夫 をしてこなかった。例えば、北海道では質のよい昆布が採れる。これは関西などに送られ美味 しい加工品となって市場に出る。付加価値をつける技術が北海道では育たなかったのである。 もう少し言うと、実は資源を供給するだけでなくモノも作ってきた。しかし、製造を考えて いてもその先のことは考えていない。例えば、おいしいジュースを作ったが、それで終わりに なる。ノウハウの蓄積がなかったのである。 ヨーロッパの一部地域などでは研究開発が企業の利益に止まらず、国民の財産になるとの考 えが浸透しつつある。フィンランドでは民間分も含めて国全体の研究開発費がGDPの約3% である。北海道はどうか。GDP約20兆円に対して研究開発費は250億円程度、わずか0.1%台 である。いかに実態がないかの1つの表れである。 「手足を動かすが、頭を使わない構造」 、これが今までの北海道の特色である。このような地 域において、もし資源がその競争力を失えばどういうことになるか。短い期間のうちに多くの 人に理解してもらうことは難しいが、厳しい変革を迫られることになる。 この数年の間に、北海道開発庁の再編や北海道拓殖銀行の経営破綻など様々な出来事が集中 5 したが、これらは一過性の出来事ではなく、北海道の自立を促したシステムの変化と受け止め なければならない。 3.何が問題点・阻害要素なのか いったい何が問題点なのか、どういう阻害要素があるのか。研究会のメンバーから出された 主な意見は次のとおりで、大きく二つの事柄であった。私たちはこれらのことを踏まえ、ある べき姿を正面から討議する勇気を持たなければいけない。 1つは、大変だと言いながらなかなか変わらない意識と、それを作ってきた風土である。 ・ 官に頼って、知恵も予算も他からもらってというのが多かったのではない か。 ・ 公共投資が長期的に減少することは避けて通れない。それがわかっている けれど止められないという状況になっている。 ・ 景気のいい時、一部には新たな取り組みも見られたが、全体としてみれば やってこなかったのではないか。 ・ 水産王国という言葉があるが、まだ、過去の栄光から抜け切れていないと ころがあるのではないか。 ・ 今の釧路では自分の生活しか考えていない人が多い。郷土愛が育たない。 ・ 釧 路 の 場 合 、 お 手 並 み 拝 見 、「 あ い つ ら は 何 を や っ て い る ん だ 。」 と い う 意 識が強い。新しいことをやるときは業界の8割は冷ややかに見る。 ・ 競争社会の中で知恵を生み出していかなければならないが、そうでない雰 囲気がある。今までの釧路の場合、1番の企業をそれ以外の企業が足を引 っ張ったり、繁栄している企業に対するやっかみと反発によって全体が成 長しない環境になっていたのではないか。 ・ 地元のものをフランチャイズ化して全国に出ていく、というような意識が 欠けているのではないか。起業家意識が足りない。 ・ 基幹産業に依存してきたため、他の分野に興味を持ったり、積極的に接触 しようとする気風が少なかったのではないか。一部に危機感の高まりに合 わせて新展開を試みる企業も出てきているが、全体として大きな動きには なっていない。 ・ 基幹産業も他のいろいろな産業、大学、研究所との連携で事を進めてきた とは考えられない。皆が異業種でテーブルについての議論になっていない。 ・ 釧路市内だけで3つも基幹産業があったから何とかやっていられるので あって、もしこれが石炭だけ、あるいは水産だけの街だったらもっと危機 感やその議論の広がりがあったかもしれない。 もう一つには、企業を育てる体制がないことである。 ・ 釧路の場合、企業を育てる空気になっていないのが最大の問題である。企 業が伸びようとすると皆で抵抗する。行政も育てることをしていない。企 業を育てることに視点を置かなくてはならないのに置いていない。 6 ・ リスクを背負って新しいチャレンジをしようとすることができるのかが 大きな問題であるが、資金面でも阻害要素がある。 ・ 制度自体が紋切り型であり、何か新しいことをはじめるに当たっての支援 策になっていないこと、体制がないことがある。 ・ 情報が大量にしかも瞬間的に流通する変化の激しい時代であるが、行政の 意思決定が対応できていない状況にある。 7