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飼養2009年夏の号原稿
飼養2009年夏の号原稿 「MS サイズの力」 (1)鶏卵取引規格について 鶏の一生を見ると、孵化から120日程度で成鶏舎に移動され、130日齢頃から除々に 産卵を開始し、190−200日頃には産卵のピークをむかえます。 日ごとに鶏が卵を 産む率を産卵率としていますが、それが最高の率になることをピークと言い、現在の鶏で は 95%以上のピークにもなります。 その後は何週間か 90%産卵を維持し、それが徐々に 低下していき、450 日齢を過ぎる頃から、卵質の低下が目立っていきます。 その結果、新 しい鶏に更新されるために、520-550 日ぐらいで「お役御免」となり、アウトされます。 こ の鶏の一生において、卵のサイズは産み始め頃は小さく、成長するに従ってサイズが大き くなっていきます。 鶏の一生の中でも、M から L サイズの卵を産卵する期間が最も長い のですが、産み始めから SS→S→MS→M→L→LL→3L というサイズでの卵が産まれるというのが一般的です。 但し鶏それぞれの個体差や季節要因で必ずしもこのパターンで産卵されるとは限らず、日 齢が若くても、L を産卵するケースなどもあります。 200 日齢では M と MS が殆どです が、L も 15%程度は産卵されています。 農林水産省規格での卵のサイズは以下となっています。 鶏卵の取引規格(一個あたりの重量/グラム) サイズ 重量サイズ 中間重量 LL 70 グラム以上 76 グラム未満 73 L 64 70 67 M 58 64 61 MS 52 58 55 S 46 52 49 SS 40 46 43 (2)サイズの季節性 夏場になると暑さのために鶏は温度調整を行い飲水量が増加しますが、これは同時に飼料 食下量の低下に繋がります。 その結果、暑さが厳しくなるほど産卵率の低下、斃死率の 増加、個卵重の低下現象が起こり、鶏卵生産量の低下から8月から 9 月にかけて鶏卵相場 が上昇に転じるという季節的な需給ギャップが生じます。 暑くなると鶏卵のサイズがそ れまでよりも小さくなり、日齢的に L 中心に産卵していた鶏群が M 中心に、また M 中心 に産卵していた鶏群が MS 中心に産卵するということになり、相対的に MS 卵の比率が高 まります。 つまり猛暑時には大玉(L、LL)が減り、中・小玉(M 以下)が増加するこ -1- とになります。 冬場には鶏は寒さに備えるために、飼料を多く摂取する傾向があります。 その結果、産卵される鶏卵のサイズが大玉中心になる傾向があります。 大玉増加・中小玉減少という傾向になります。 夏場とは逆に、 これらの傾向は当然相場に反映されます が、鶏卵全体として冬場=需要期、夏場=不需要期というパターンの中での展開となりま す。 (3)サイズによる需要・供給 鶏卵サイズによる主な用途としては以下の物があります。 LL 外食用、割卵用、加工用、パック用 L、M パック用、外食用 MS 加工用(ゆで卵、温泉卵他)、外食用、パック用 通常のパック卵は農林規格で販売されますが、現在増加しつつあるブランド卵では MS か ら LL までのサイズを混合した「ミックスサイズ」卵が主流となっています。 これはサイ ズを限定しないことにより、特定の鶏群に給与した機能性栄養成分が有効活用されるから です。 これらのミックスサイズの場合の卵重表示としては、卵 1 個当り 52 グラムから 76 グ ラム、もしくは 10 個パック当り 610 グラム以上等の表示が一般的な様です。 従来はたこ焼き やお好み焼などの「粉物」を好む関西地区の消費者は大玉を好み、反対に関東地区の消費 者は M サイズを好むと言われてきましたが、現在はこれらの傾向がぼやけている様です。 5 年ほど前から、食品のデフレ化が言われてきましたが、外食業界では従来使用していた卵 のサイズをダウンして使用するという傾向が、デフレ化とともに起こりました。 これは 外食店内で消費者に提供する卵のサイズを下げることにより、卵一粒当りのコストを下げ ようというものです。 いわばすき焼き用の卵を従来は L サイズを提供していたお店が、 M サイズにすることにより、コストを下げるという傾向が広がったということです。 こ の傾向の結果、従来よりも M や MS サイズに外食需要がややシフトされたと思われます。 卵のサイズを供給サイドから見ると、常に同じサイズの卵を産み続ける鶏は存在しません。 鶏群としては同一日齢での飼養が一般的であり、前述の様に若い日齢の時には小玉を、日 齢が高くなると大玉中心に産卵が続きます。 平均したサイズを取り揃える(サイズバラ ンスを平準化する)ためには、出来るだけ多くのロットを持ち、同一間隔を離しての導入 により、最もサイズバランスが良くなります。 例えば 3 万羽のロットを 1 ヶ月おきに導 入して 12 ロット持てば、年間を通じてのサイズバランスが平準化されることになります。 どのサイズが年間を通して産卵されるかですが、ごく一般的には以下の比率程度でしょう か。 LL 10%、L 30%、M 33%、MS 12%、合計 85% 残りが3L 以上、S 以下及び格外卵ということになります。 -2- (4)平成 5 年以降の推移 平成 5 年から現在までの東京全農鶏卵相場のサイズ別の月ごとの価格推移を見ると、M サ イズに対して MS が最も安かったのが平成7年の 8 月で 51 円安となっていました。 逆に MS サイズが M より高かったのは平成 14 年の 3 月、6 月と平成 20 年の 5、6、7 月で 15 円高となっていました。 (資料1「M 対 MS 値差 推移」参照) 年ごとの推移で MS と M の差での最大幅は下記となっています。 M 高 MS 安 22 円(平成 6 年) MS 高 M 安 11 円(平成 20 年) また MS が M より高かった月を MS の勝ち、M が MS より高かった月を M の勝ち、同値 に終わった月を引き分けとして、各年 12 ヶ月の勝敗を星取表にし、毎年の値幅とともに表 したのが資料2「MS 対 M 価格差推移 星取表」になります。 添付資料と過去の業界動向をかえりみて、以下の事が推察されます。 ① 平成 12 年頃から、MS に対する新たな需要が起こり始め、平成 14 年には鶏卵相場始ま って以来始めて年間 MS 価格が M 価格を上回りました。 新たな需要というのは、卵 加工で最大のメーカーであるキユーピー(株)(現在のキユーピータマゴ)が「三分た まご」を開発し、サラダ向け・牛丼向けなどの需要を開拓したことによります。 また 同時期にビール会社がビールと一緒に「温玉・燻玉」という TV コマーシャルを打ち、 温玉が全国的なブームになったことによります。 平成 14 年こそ MS が M に対して強 烈な存在感を示した、MS 元年と言えます。 ② 平成 17 年以降では、外食向けを中心とする業務用での小玉志向が MS 需要の大きな要 因になったと、考えられます。 業界全体としてせいぜい 12%程度しか生産されない MS への人気が着実に根付いた時期と言えます。 ③ MS 元年以降の大まかな推移では、比較的に卵価が高かった年(平成 17、18、20 年) には MS の勝ち越しになっています。 この現象から、MS の旺盛な需要が、鶏卵相場 全体の上昇の一つの重要な要因になったのではないか、と思われます。 強烈なのは昨 年の星取表で MS が M より常に高かった、つまり全勝であったということです。 特 に 5、6、7 月と 3 ヶ月間連続で MS は M の 15 円高という展開になりました。 また 8、 9 月に MS が M より高いという前代未聞の現象も起きましたが、これは加工筋による 手当がしっかり行われ、その結果相場が高く維持されたものと、推察されます。 ④ 昨年は全勝であった MS も今年になってからは、M に対して 4 連敗となっており需要 の弱さを示しています。 昨年秋以降から加工・業務用需要の減退が言われておりまし たが、それが今年になって本格的に相場に反映されているという事です。 また今年に なってからテーブルエッグ需要を示す鶏卵家計消費量も前年対比落ち込んでおり、加 工・業務用需要減退と相俟って、鶏卵需要そのものの減退であるということであり、今 年の鶏卵相場が安くなる方向で展開していることを示唆しております。 -3- 鶏卵業界では大手養鶏家によるコストダウンのための大型化が、鶏卵相場を低迷させてい る要因と言われ、農水省による鶏卵生産指針や日本鶏卵生産者協会等の生産者団体のアピ ールでも、自主的な早期淘汰等の生産調整が卵価安定の要因になると、訴えています。 こ れも事実ですが、「三分たまご」により新規需要が拡大され、鶏卵相場が上昇したという事 実を良く踏まえて、需要の喚起こそが鶏卵業界の大きな課題であると認識すべきでありま しょう。 鶏卵業界としては「コレステロール有害論」を論破して、日常的な卵の消費拡 大を訴えておりますが、この動きをベースに「卵そのものが良いもの」であるという、業 界あげての全国的な宣伝活動による需要拡大が必要なことであると、考えております。 資料1 M 対 年 平成 5 年 平成 6 年 平成 7 年 平成 8 年 平成 9 年 平成 10 年 平成 11 年 MS 値差 推移 東京全農相場 単位:円/Kg 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 平 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 均 M 150 196 154 162 166 155 138 138 157 180 160 171 161 MS 144 184 140 159 157 137 111 105 112 153 147 160 142 差 -6 -12 -14 -3 -9 -18 -27 -33 -45 -27 -13 -11 -18 M 140 194 210 166 140 134 128 145 198 187 182 219 170 MS 143 165 190 146 116 110 91 95 161 177 171 217 149 差 3 -29 -20 -20 -24 -24 -37 -50 -37 -10 -11 -2 -22 M 175 190 180 170 156 149 147 149 227 211 208 248 184 MS 173 177 159 159 144 130 129 98 178 201 198 247 166 差 -2 -13 -21 -11 -12 -19 -18 -51 -49 -10 -10 -1 -18 M 190 221 224 187 182 164 162 166 221 218 213 266 201 MS 186 226 217 195 182 158 153 150 201 207 204 265 195 差 -4 4 -6 8 0 -6 -9 -17 -20 -12 -8 -1 -6 M 179 228 220 194 185 174 168 174 217 219 217 219 199 MS 183 237 218 183 176 163 155 151 181 189 194 207 186 差 4 9 -1 -12 -9 -11 -13 -23 -37 -30 -23 -12 -13 M 156 200 170 161 142 137 128 134 192 181 194 233 169 MS 151 195 161 148 127 122 116 114 152 160 185 228 155 差 -5 -5 -9 -13 -15 -14 -12 -20 -40 -22 -8 -5 -14 M 159 190 193 198 192 168 165 177 220 205 214 242 194 MS 158 190 190 209 188 157 153 158 190 184 205 236 185 差 -1 0 -3 10 -4 -11 -12 -19 -30 -22 -10 -6 -9 サイズ -4- 平成 12 年 平成 13 年 平成 14 年 平成 15 年 平成 16 年 平成 17 年 平成 18 年 平成 19 年 平成 20 年 平成 21 年 M 175 218 228 203 181 166 157 150 183 198 192 220 189 MS 172 218 228 204 181 161 146 133 153 189 190 213 182 差 -3 0 0 2 1 -5 -11 -17 -30 -9 -2 -7 -7 M 164 215 187 158 141 140 137 138 174 174 181 209 168 MS 167 220 191 149 131 130 125 121 151 165 194 208 163 差 3 5 4 -9 -10 -10 -12 -17 -22 -9 13 -1 -5 M 155 187 176 163 157 150 140 149 197 196 201 213 174 MS 158 195 191 173 171 165 148 140 182 182 190 203 175 差 3 8 15 10 14 15 8 -9 -15 -14 -11 -10 1 M 141 179 176 161 144 131 120 127 157 158 166 156 151 MS 142 184 181 167 149 125 109 117 143 133 151 149 146 差 1 5 5 6 5 -6 -11 -10 -14 -25 -15 -7 -6 M 95 127 133 144 171 178 147 149 196 204 256 272 173 MS 90 122 128 139 166 173 142 139 189 200 261 285 170 差 -5 -5 -5 -5 -5 -5 -5 -10 -7 -4 5 13 -3 M 206 272 267 239 222 193 156 145 175 190 189 199 204 MS 199 272 275 249 232 203 159 145 169 180 179 194 205 差 -7 0 8 10 10 10 3 0 -6 -10 -10 -5 0 M 155 190 181 184 184 171 154 158 187 204 208 226 184 MS 153 201 193 186 186 181 156 147 181 199 208 229 185 差 -2 11 12 2 2 10 2 -11 -6 -5 0 3 2 M 157 193 183 168 168 154 145 157 166 170 175 186 169 MS 164 199 184 168 168 154 141 149 155 158 178 194 168 差 7 6 1 0 0 0 -4 -8 -11 -12 3 8 -1 M 135 190 195 193 195 185 193 196 216 211 205 207 193 MS 140 199 205 204 210 200 208 210 226 221 215 213 204 差 5 9 10 11 15 15 15 14 10 10 10 6 11 M 149 186 180 173 172 MS 144 181 166 155 162 差 -5 -5 -14 -18 0 0 -5- 0 0 0 0 0 0 -11 資料2「「MS 対 M 価格差推移 勝 負 平成 5 年 0 平成 6 年 星取表」 ネット 年間幅 M 価格 12 ▲ 12 ▲ 18 161 1 11 ▲ 10 ▲ 22 170 平成 7 年 0 12 ▲ 12 ▲ 18 184 平成 8 年 2 9 ▲ 7 ▲ 6 201 平成 9 年 2 10 ▲ 8 ▲ 13 200 平成 10 年 0 12 ▲ 12 ▲ 14 169 平成 11 年 1 10 1 ▲ 9 ▲ 9 194 平成 12 年 2 8 2 ▲ 6 ▲ 7 189 平成 13 年 4 8 ▲ 4 ▲ 5 168 平成 14 年 7 5 2 1 174 平成 15 年 5 7 ▲ 2 ▲ 6 151 平成 16 年 2 10 ▲ 8 ▲ 3 173 平成 17 年 5 5 2 0 1 204 平成 18 年 7 4 1 3 1 183 平成 19 年 5 4 3 1 ▲ 1 168 平成 20 年 12 0 12 11 193 丸紅エッグ(株) 分 1 島田博 -6-