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2009年5月号
マシンツール ジャーナル 2009年 5月号 Inter Factory Machinery Journal issued by Mile Mark Zero Studio MMZ工作機械センターから発信する技術屋のための機械情報 工作機械のフェラーリ スイス STREAM グラインディングセンター TGM-102 の思い出 今月紹介する機械はストリーム/グラインディングセンターです、1990年私と義兄とでスイスまで行って導入を決めた 思い出の機械だ、義兄の会社はハマツール、総型特殊工具製造の草分けである。当時、有名なエワーグで熟練技能 者しか研磨できなかった細ものバニシングリーマーなどを自動生産する工作機械を探してスイスまで行ってしまったの である。 現在、ハマツールはストリームを5台所有し、当社の看板となっている、この1号機はもちろん現役でミクロンの精度で 活躍している。この機械はボールねじを使わず0,1μ 制御で動く、機械全体に一定温度のオイルを回し熱変位を防ぐ、 オイルミストであらゆる部分をパージしスラッジから守る、まるで人間の体の循環器のような構造をしている、動きが違 う、精度も面粗さも桁違いだ、私達はこの機械を「フェラーリ」と呼んでいる、この機械でしか出来ない加工があるのだ この機械の設計者はグイド ベクトーリオさんといい、今年90歳をこえたそうである、この方はイタリアでは著名な設計 者でマエストロと敬意をこめて呼ばれる、私は彼が書いたコレットチャックの画をピカソの価値があると言われて今も大 切にしている。 ストリーム社はスイスとイタリアの国境近くに在る、スイスでは10人程度の小さいメーカーが値段で5千万もする超精密 機械を造って、世界中に販売している、彼らの技術は本物である、まねをせず、とにかく粘る、よく働き、無駄をせず、倹 約で商売に長けている、長靴を履いてたった一人で旧ソ連の奥深く営業に行った話も聞いた、大橋機械はこの機械の エンジニアリングを通して機械技術の真髄を学び、輸出入も学んだ、小さい会社がどう生きてゆくべきかを知った そして20年にもわたる付き合いで私達はスイス/イタリアに多くの友人を持つこととなった、一緒に苦労してきた真の 友人だ、このような友情は義兄もスイス側も私も男として「仁義」を忘れなかったからだと思っている この間、世界の経済の変わりようは著しく、日本もスイスも小規模の私達は経済の大波に小舟のように翻弄されたが、 どんなことにも負けず、お互いに生き残りなんとかやっている、2号機を買う時、ものすごく難しい精度上の条件を突きつ けてスイスまで立会に行った、2μ の研削精度を3σ で達成してもらいたいというものだ、結果はどんなにやっても出ない 幾晩も徹夜して頑張ったが出ない、いよいよ帰国がせまった前の晩、仲良くなったイタリア人のダニーロ ギナッシ氏が 日本で世話になったお返しに、自宅で夕食を食べさせてくれるということになった、ところが、道々、彼の口から会社の 経営が難局にあり、給料半額でみんながんばっている、しかもその給料はグイドが私財で賄っているとの話を聞いてし まった、翌日、オーナーのグイドから、どうやっても今の技術では要求精度は出せないので販売をあきらめるという、が 兄は即座に「買おうじゃないか」と言った、「なあお前、ここまで一生懸命やってこれ以上は無いんだから、やるしかない さ」こう言ったのだ、機械が世界最高である以上、これ以上ないという事なんだ、私は兄に脱帽した、みごとだった、 以来、スイス側はこの時の「恩義」に報いてくれている、メーカー、顧客、エンジニアリング会社が心を一つに仕事をして ゆく土台がこの時に出来たのだ、私はこの時のことを何時も思い出す、これからもけして忘れないだろう。 キーワード/小さいメーカーの魅力 1 2 3 4 5 6 世の中にはすごい機械がある、私達は世界一の機械に手が届く分野で仕事をしている すごい機械は小さなメーカーでしか出来ない場合が多い 著名な技術者(天才)が設計した機械は時代を造る、その機械で多くの技術屋が飯を食うことが出来る機械のことだ 大会社ならなんでも出来るか、そんなことはあり得ない、小さくなければ出来ない仕事があり、機械があるのだ 優れたリーダーに率いられてさえいれば小さい会社には限りない魅力がある 小さい会社はなによりレスポンスが早い、オーダーメイドに応じてくれる 経費に無駄がなく余計な金を払わないでよ い 気持ちが通じる 関係者の気持ちが一つになった時信じられないほどの仕事が出来る 7 小さい会社とつきあうためには 押し付けをしてはならない お互いフェアにやるこれが鉄則だ 8 世界一の機械は難しいが、半面、仕事の後、いっしょに一杯ひっかけるようなつきあいができる気楽さがある 9 それにしても、設備投資を成功に導く鍵は、どこまで相手と機械が信じられるかにかかっている リーダーの度胸 ぶれない覚悟 論理的な道筋 負けじ魂 つまり男の資質が問われるのが設備投資なのだ