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付き合うのには 覚悟がいる

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付き合うのには 覚悟がいる
「いい女」
と
付き合うのには
覚悟がいる
クルマは女性のタイプに例えられる。VW ゴルフなどの丈夫な実用車は結婚して
生涯をともにするタイプ、フェラーリは 1 ヵ月に 1 〜 2 度デートする愛人とか……。
それじゃ、8.32 やダブルシックスって手を出してはいけない“悪女”
?
いや、エンスージアストの石丸 淳氏は“悪女”
とも結婚できる! と断言する。
Text:石丸 淳 Photo:丸山博人
Lancia Thema 8.32
Daimler Double Six
Jaguar XJ 3.2 Executive
056
ク
ルマのことをメディアに書き始めるもっと昔
デルである。で、その出会いは突然やってきた。
てすっかりその魅力にはまり、日本に帰るとすぐ輸
す盲目的な愛に似る。 残念ながら、日本初のタ
から、70 年 代 後 半 以 降に輸 入 車( 並
87 年の初頭、仕事でミラノに赴いた際に、
入元のガレーヂ伊太利屋に相談したのは言うまで
イミング・ベルト切断の栄誉は康夫ちゃん(田中
行)銀座と言われた目黒通りの等々力界隈をうろ
撮影機材などが多かったため、ランチアに対して
もない。日本へ到着した最初のロットから広報車
康夫氏)に譲ったが、今一度欲しい。愛すべき
つき、アクセサリー・ショップや工場にも出入りし
広報車のセダンを用意して欲しい由、伝えておい
となったものを早速借用、結果としてそれを引き
イタリア的“悪女”は、記憶に深く刻まれる 1 台
ていたために、それはそれは膨大な数のモデルに
た。頭の中ではプリズマ等を想定していたのだが、
取ることになった。
となったのである。
乗ってきた。旧くは戦前のレーシングカーから、日
果たして、回送してくれたミラノ中心部の駐車場
その走行感覚はミラノで感じたことと一切違わ
本人は乗ったことがないであろうカロッツェリアの
へ取りに行くとそこから出てきたのは何と発売前の
ず、クルマとしてダメな部分もあるのだが、そんな
プロトタイプまで様々である。
テーマ 8.32 だったのである。
ことをすべてどうでも良くしてしまう魅力に溢れてい
本当に多くの素敵なクルマたちと出会ってきた
これには驚いたが、10 日間一緒に生活してみ
た。ポルトローナ・フラウの内装も良いが、一番
が、時を経ても手許に置いておきたいと思うクル
はやはりエグゾーストノート。308
マが幾つかある。 所謂、エンスージアスティック
や 328 で背後から聞こえていた
なものとは別に、日常の道具としてのチョイスであ
すべての音は、メカニカルなもの
る。それらは自分のクルマ生活にとても大きな影
が前から、排気系は後へと変わ
響を与えてくれたのだった。
るにあたり、ランチアはサウンド
のチューニングという点で素晴ら
8.32 はイタリア的“悪女”
しい仕事をしたと思う。
その一つがランチアのテーマ 8.32 である。
タウンスピードでも充分に惚れ
UCG 読者にはお馴染みのモデルだから説明は
たが 3 速の 80km/h から 4 速、
不要だろうが、
“テーマ・フェラーリ”
、あるいはイ
タリアで“ランチア・フェラーリ”と呼ばれるラン
チアにとって 2 つ目のフェラーリ・ユニット搭載モ
石丸氏が、普段使いできる道具として考えればこれ以上のクルマはないと絶賛す
るランチア・テーマ 8.32。もちろん 80 年代後半、日本に導入されると早々にオー
ナーとなった。ご存じのとおり、フェラーリ V8 ユニットを搭載するモデル。8.32 と
は 8 気筒・32 バルブを意味している。オーバーヒート癖だけは治らなかったと苦
笑する。
5 速と、240km/h まで引っ張っ
たらそれはもう夢見心地である。
あらゆる欠点はすべてが無に帰
057
BG
NT
BG
デイムラー・ダブルシックスを 2 台も乗り継いでいるし、同年代のジャガー XJ-S を所有したこともある石丸氏。自他ともに認めるジャガー製 V12 ユニットのファンである。写真は彼が 94 年
に購入した 91 年式のデイムラー。イグニッションコイルは必ずスペアーを積んでおく、真夏は乗らない、そのあたりがこのクルマと付き合うコツとか。
80 年代の半ばから毎日の仕事が忙しく、必然
その後、本誌にも登場する(06 年 2 月号)
的にその移動の間が、考え事をする時間、ある
2 代目のダブルシックスとの生活を昨年の夏に終
いは逆に現実逃避の時間となっていた。そうした
えた。流石に 15 年を超えるといろいろと問題が
中で、移動を快適に行なえるだけでなく、それを
起きる可能性が高く、他にもランニングコストを抑
素敵な時間へと変えてくれるこのクルマの魅力に
えたいと思ったからだ。そんな時、たまたま V8 を
はまっていったのである。
搭載する XJ 3.2(X308)の素晴らしい個体に
ドイツ車や 8.32 は、概ね走り出すとつい目一
出会えたのである。しかしその直後に友人の所有
杯で走ってしまうことが多く、それはクルマから求
するデイムラーを、とあるジャガー・スペシャリスト
めてくるものだったが、ダブルシックスは違った。
の工場に持って行った際、途端に自分が手放し
制限速度を少し超えるぐらいで“ゆるゆる”走るこ
てしまったことを深く後悔するハメになった。そこ
とが気持ち良かった。
に生息するダブルシックスたちが驚くばかりに素晴
エンジンやトランスミッションの発する音、サス
らしい状態だったのだ。エンジンの音からしてまっ
ペンションのタッチといったものが渾然となって、
たくの別物だった。そしてまた、欲しいクルマ・リ
何とも心安らぐ馥郁とした癒しの時間を与えてくれ
ストで上位に並ぶことになる。
る。英国の良さを体現した、
“優女”といったとこ
その一方で、
この 3 〜 4 年ずっと乗りたいと思っ
ろだろうか。
ていたディーゼル車を今年の春、手に入れた。
ランチアのイプシロン・マルティジェットで、最近
現 在の愛 車は V8 ユニットを搭 載する 01 年 式のジャガー
XJ3.2 エグゼクティブ。購入から 1 万 km 以上を走っているけ
れど、
まだ自分でボンネッ
トを開けたことがないと笑う。巷の噂通り、
この世代の XJ3.2 は本当に丈夫なようだ。ただし、
「いい個体
と出逢えればもう一度ダブルシックスと暮らしたい」と話す。
はもっぱらこれが日常の足。 前述のランニングコ
スト低減の延長線上にあるのだが、これまで大排
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ダブルシックスは英国の“優女”
ん”
(徳大寺有恒氏)のクルマを借りて以来、コ
ど、このパワーユニットとは本当に永い付き合い
気量車でガソリンを撒き散らしてきたことへのエク
ンフォートという部分で、今だ自分の中でのスタン
となった。これについても、本誌で何度となく取
スキューズでもある。
テーマ 8.32 でドイツ車一辺倒から脱却、さら
ダードの一つになっている。
り上げられているから詳細には触れないが、こち
ただし、これはあくまで“ポーズ”だったりして。
に視野を拡げてくれたのが、デイムラーのダブル
80 年代後半に念願かなってやっと自分の会
らも 8.32 同様、代わるもののないモデルの一つ
今でも、
“悪女”と“優女”の感触が忘れられな
シックス(シリーズ 3)だった。これも巨匠“徳さ
社で導入、個人でも XJ-S の V12 を購入するな
かもしれない。
い……。
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