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論文要旨・審査の要旨

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論文要旨・審査の要旨
学位論文の内容の要旨
論文提出者氏名
論文審査担当者
田村
主
査
北川
昌伸
副
査
三宅
智、
三木
宜子
義男
Clinicopathological predictive factors for ipsilateral
論
文
題
目
and contralateral events following initial surgery to treat ductal
carcinoma in situ
(論文内容の要旨)
<要旨>
1993 年から 2008 年まで国立がん研究センター中央病院で手術施行された非浸潤性乳がん 301
例に対し臨床病理学的因子ならびに予後を検討した。平均観察期間 5.7 年、同側乳がんは 7 例
(5.7%)、対側乳がんは 18 例(6%)に認められた。家族歴とホルモン受容体陽性・HER2 受容体陰性
症例に有意に対側乳がんが多く、独立した予測因子であった。ホルモン受容体陽性非浸潤性乳が
ん罹患は乳がんの罹患し易さを表す可能性があり、非浸潤がんの検討は乳がんの自然史を検討す
るに有用であると考える。
<緒言>
乳がんの年齢別罹患数は二峰性を示し 60-65 才に最も多く認められるが、非浸潤性乳がんは
45-49 歳に最も多く認められ浸潤がんに比較して若年発症であることが知られている。同一患者
に複数の乳がん発生することも多く非浸潤性乳がんの長期予後の検討から乳がんの自然史や乳が
んのリスクを検討できる可能性が示唆されるが、日本からの報告は少ない。
<方法>
国立がん研究センターにおいて手術施行された 301 例について、その術式や治療方針、患者背
景と病理学的因子を再度検討した(中央観察期間 6.0 年)。301 例のうち、179 例は乳房切除を、
122 例は部分切除を施行された。年齢・月経状態・BMI・家族歴の他、腫瘍径・部分切除例に対し
ては断端評価・核異型度・組織型を再評価した。ホルモンレセプターや HER2 レセプターの免疫
染色については、再染色し評価した。予後については Cox 比例ハザードモデルにて解析した。
<結果>
301 例のうち対側乳がんは 18 例(5.9%)に発生した。ホルモン受容体陽性費浸潤性乳がんは閉経
前・non-comedo type・低悪性度に有意に多く認められた。またホルモン受容体陽性/HER2 受容体
陰性・家族歴有は対側乳がんの独立した予測因子であることが分かった。122 例のうち同側乳が
んは7例(5.7%)に発生し、若年発症例に多く認められた。
- 1 -
<考察>
家族歴を有する若年の非浸潤性乳がん患者は対側乳がんの発癌が多く、前がん病変である乳管
内増殖病変を有する患者へのタモキシフェンの投与により乳がんの発生を予防することが報告さ
れている。一般的にホルモン受容体陽性であることは乳がんの予後良好な予測因子とされるが、
長期予後を検討すると遅発性の転移再発がより多く認められることから、ホルモン受容体陽性乳
がんの更なる検討が期待される。
今回の結果から理論上転移再発しない非浸潤性乳がんにおいて、ホルモン受容体陽性であること
が対側乳がんの予測因子であることが示唆され、また 18 例の新たな乳がんもホルモン受容体陽性
例が多く認められることから、現在の治療指針では対側乳がんの発がん予防目的でのタモキシフ
ェン投与については明示されていないが、前向きに検討されるべきであると考える。
<結論>
非浸潤性乳がん罹患後の対側乳がんの発生において家族歴を持つこととホルモン受容体陽性・
HER2 受容体陰性であることが予測因子であることが分かった。これらの患者に対してタモキシフ
ェンやアロマターゼインヒビターなどの内分泌療法が新たな乳がんの発生を予防する可能性があ
ることが示唆された。ホルモン受容体陽性非浸潤性乳がんの検討により、がんの自然史や乳がん
の罹患リスクを検討できる可能性があると考える。
- 2 -
論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号
甲 第
論文審査担当者
4732 号
田村
主
査
北川
昌伸
副
査
三宅
智、
三木
宜子
義男
【論文審査の要旨】
1.論文内容
本論文は非浸潤性乳管癌の同側乳癌、対側乳癌の臨床病理学的予測因子の解析についての論
文である。
2.論文審査
1)研究目的の先駆性・独創性
非浸潤性乳管癌は部分切除後の同側乳癌の発生が多く、また対側乳癌の発生も比較的多い
と報告されているが、日本人における病態には不明な点が多い。申請者は非浸潤性乳管癌の
臨床病理学的特徴を同側乳癌、対側乳癌の発生という観点から解析するとともにホルモンレ
セプター、HER2の発現解析を行っておりその着眼点は評価に値するものである。
2)社会的意義
本研究で得られた主な結果は以下の通りである。
1.
非浸潤性乳管癌のうち、同側乳癌は1.9%、対側乳癌は7.7%に発生した。
2.
部分切除症例の解析では同側乳癌は4.7%に発生したが、年齢、組織型、核異型度、
腫瘍径、断端評価、放射線治療の有無、内分泌治療の有無は同側乳癌のリスク因子と
して有意ではなかった。
3.
乳房切除症例を含めた全例の検討では、家族歴があることとホルモンレセプター陽性
であることが対側乳癌の独立した予測因子であることがわかった。
以上のように申請者は、非浸潤性乳管癌症例の同側乳癌、対側乳癌の発生に関する臨床病
理学的因子を解析し、予測因子が存在することを明らかにしている。これは臨床的にも極め
て有用な研究成果であると言える。
3)研究方法・倫理観
研究では207例の非浸潤性乳管癌症例(うち163例は乳房切除、85例は部分切除)を用い
て臨床病理学的解析がなされた。本手法は十分な病理学的および臨床的知識と分子生物学的
技術の裏付けのもとに遂行されており、申請者の研究方法に対する知識と技術力が十分に高
いことが示されると同時に、本研究が極めて周到な準備の上に行われてきたことが窺われ
る。
4)考察・今後の発展性
さらに申請者は本研究結果について、同側乳癌、対側乳癌発生例の臨床病理学的特徴を明
( 1 )
らかにするとともに、新たな予防手段としてタモキシフェンやアロマターゼインヒビターが
有用となる可能性があると考察している。これは極めて妥当な考察であり、今後の研究にて
さらに発展することが期待される。
3.審査結果
以上を踏まえ、本論文は博士(医学)の学位を申請するのに十分な価値があるものと認めら
れた。
( 2 )
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