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23-B-15 64Cu-DOTA-抗体医薬を用いた各種固形がんに対する分子

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23-B-15 64Cu-DOTA-抗体医薬を用いた各種固形がんに対する分子
(平成 25 年度研究報告書)
23-B-15
64
Cu-DOTA-抗体医薬を用いた各種固形がん
に対する分子イメージング
田村 研治
独立行政法人国立がん研究センター
中央病院
乳腺科・腫瘍内科 医長
研究の分類・属性
TR/早期開発
研究の概要
64
Cu 標識した抗体(64Cu-DOTA-抗体)のマイクロドーズ臨床試験を行い、64Cu-DOTA-抗体/PET イメージング撮像
条件の確立と安全性の評価を行う。このことにより、抗体医薬投与後の生体内分布と、標的分子の生体内局在を、
画像のみで評価する新技術の確立と臨床応用を目指す。
先行研究として、HER2 陽性乳がん患者に対する 64Cu-DOTA-トラスツズマブのマイクロドーズ臨床試験(予定症
例数 40 症例、登録中)を実施している。既に一部の登録症例において、HER2 陽性乳がんの原発巣、脳転移巣、
肺転移巣、リンパ節転移巣などの生体内腫瘍局在を、64Cu-DOTA-トラスツズマブ/PET により、描出することが
可能であった。
本研究班では、
「HER2 陽性乳がん患者に対する 64Cu-DOTA-トラスツズマブ臨床試験」については、予定症例数
を完遂することを目標とし、今後は、64Cu-DOTA-トラスツズマブの腫瘍への取り込みと HER2 タンパク質の腫瘍
内局在との一致(Proof of Concept)などについて検討する。又、偽陽性、偽陰性に関する検出率の評価、又、
治療経過中の HER2 タンパク質の変化におけるモニタリングの有効性について検討する。
さらに本研究班では、HER2 陽性乳がんに対する 64Cu-DOTA-トラスツズマブで得られた知見を土台に、他のが
ん種、他の抗体医薬への、新規分子イメージング技術の応用展開を目標とする。
具体的には、1)HER2 陽性進行胃癌に対する 64Cu-DOTA-トラスツズマブの有用性、2)進行大腸がんにお
ける 64Cu-DOTA-セツキシマブの有用性、3)EGFR 陽性グリオーマにおける 64Cu-DOTA-セツキシマブの有用性、4)
EGFR 陽性(Basal type)乳がんにおける 64Cu-DOTA-セツキシマブの有用性、などについて、新たに臨床試験を開
始する。
又、腫瘍特異的な標的分子のみならず、
「がん新生血管」の分子イメージングへの応用も検討する。
このような、64Cu-DOTA-抗体を用いた新規分子イメージング技術は、
(1)早期スクリーニング、
(2)創薬に
おける標的分子阻害の検証(Proof of Principal)
、(3)抗体医薬を含む治療法の選択のための画像診断、(4)
分子イメージングによる薬物療法の最適化、
(5)ドラッグデリバリー研究への応用、(6)抗体医薬の効果お
よび副作用のマーカー、
(7)単一患者における標的分子の変化のモニタリングへの応用が期待される。日本は
海外と比較し PET の普及率が高い背景があり、このことは新技術の国内での臨床応用の可能性が高いことを示
す。又、研究成果は、がんの早期発見、非侵襲的な検査法を確立、創薬の推進のための技術向上、個別化医療
の促進と治療成績の向上、その結果、費用対効果の上昇などが期待され、このことは、我が国の医療行政に直
結する。
平成 25 年度研究経費
3,639 千円
-1-
研究班の組織
田村 研治
乳腺・腫瘍内科 科長
研究全体の統括・臨床試験の推進
片井 均
消化管腫瘍科 科長
臨床試験の推進・臨床検体および臨床情報の
提供
山田 康秀
消化管腫瘍科 医長
臨床試験の推進・臨床検体および臨床情報の
提供
成田 善孝
脳脊髄腫瘍科 副科長
臨床試験の推進・臨床検体および臨床情報の
提供
栗原 宏明
放射線診断科 医長
臨床PET検査の実施と解析
研究の目的と到達目標及び実績要点
全期間(目的と到達目標)
64
Cu 標識した抗体(64Cu-DOTA-抗体)のマイクロドーズ臨床試験を行い、64Cu-DOTA-抗体/PET イメージング撮像
条件の確立と安全性の評価を行う。このことにより、抗体医薬投与後の生体内分布と、標的分子の生体内局在を、
画像のみで評価する新技術の確立と臨床応用を目指す。
(第3年次評価時点の実績要点)
64
Cu-DOTA-トラスツズマブ/PET や、64Cu-DOTA-セツキシマブ/PET 技術を確立し、その安全性と有用性を明ら
かにする。
第3年次(到達目標)
1. 乳がん、胃がん、大腸がん、グリオーマにおける 64Cu-DOTA-トラスツズマブ/PET や 64Cu -DOTA-セツキシマ
ブ/PET の安全性および有用性について総括する。
2. 抗体医薬投与後の生体内分布と、標的分子の生体内局在を、画像のみで評価する新技術を確立する。
(年次評価時点の実績要点)
乳がん、胃がん、大腸がん、グリオーマ等の臨床試験の結果を総括し、64Cu-DOTA-抗体/PET イメージング撮像条件
の確立と安全性の評価を行う。抗体医薬投与後の生体内分布と、標的分子の生体内局在を、画像のみで評価する
新技術を確立する。臨床導入への明確な指針を得る。
-2-
(予定症例数と研究期間)
予定症例数:100 例(HER2 陽性乳がん 40 例、HER2 陽性胃がん 20 例、EGFR 陽性 KRAS 野生型大腸がん 20 例、グリオ
ーマ 10 例、ベバシズマブの治療対象となる固形がん 10 例)
。
3 年間
研究成果と考察
第3年次評価時点
第3年次到達目標に従い研究を進めた。項目ごとに以下に述べる。
1)
ヒト投与に値する GLP グレードの 64Cu-labeled cetuximab の精製
①64Cu-labeled cetuximab の調製
放射性同位物質を用い、64Ni → 64Cu 崩壊反応をさせ、64Cu を Ion chromatography を
用いて 64Cu の単離をした。
Purified 64CuCl2
Specific activity : 312 – 732 GBq/μmol
Cu : 5.2 – 17.5 ng, Ni : 0.0 – 90.4 ng (in 64CuCl2)
②64Cu -DOTA conjugation の精製
64
Cu-DOTA-cetuximab UV
-3-
③64Cu -DOTA 放射性標識
[Radio-TLC]
Test
Specification
Results
Radioactivity
Actual value
403 – 491 MBq(EOS)
Volume
Actual value
4.7 – 4.9 mL
Appearance
Clear, particle free
Clear, particle free
Harf-life
12.4 – 13.0 hr
Passed
pH
5.0 – 8.0
6.5 – 7.0
Energy peaks are 511 and 1345.8
Passed
64
Identification : Cu
64
Cu-DOTA-cetuximab
Free 64Cu
[HPLC]
Cu-DOTA-cetuximab
64
RI
keV
Identification :
Retention time of radioactive peak
Cetuximab
is equal to Cetuximab
Passed
(± 0.5 min)
UV
64
Purity : Cu
64
Peaks except Cu are less than
Less than detection limit
detection limit
Radiochemical purity
≧ 95 %
97.2 – 99.9 %
Quantity of protein
≦ 100 μg/vial
97.8 – 99.2 μg/vial
0.25 EU/mL
Passed
Bacterial entodoxin test
(Japanese pharmacopeia)
Sterility test
Japanese pharmacopeia
Passed
Specific activity
≧ 100 GBq/μmol
311.6 – 732.3GBq/μmol
Immunoreactivity
(Reference data)
3.6 - 4.4E-08
(Kd value)
→ヒト投与に値する GLP グレードの 64Cu-labeled cetuximab の精製が可能となった。
2)64Cu-トラスツズマブの HER2 陽性腫瘍への移行の、ヒトでの分子生物学的な検証
HER2 陽性乳がん IIB 期にて、術前化学療法を施行中の患者に、64Cu-トラスツズマブ(PET Probe)を静脈
注射し、48 時間後に PET で撮像、さらに、手術にて腫瘍検体を回収した。採取された腫瘍における 64Cu の
局在をオートラジオグラフィーにより、又、HER2 陽性腫瘍の局在を免疫組織染色法で評価した。
<結果>
64
Fusion
HER2/IH
Cu-DOTA-Trastuzumab
-4-
HER2 positive cells
Radioactive 64Cu
免疫組織染色による HER2 陽性腫瘍細胞の局在とオートラジオグラフィーによる 64Cu-DOTA-トラスツズマブ
の取り込み部位は、よく一致している。
P < 0.001
縦軸:Radioactive 64Cu uptake
BG: BG level
Yellow: > BG x 2, Orange: > BG x 3
Red: >BG x 4, Dark red: > BG x 5
HER2 陽性細胞には、HER2 陰性細胞と比較して
統計学的に有意に 64Cu の取り込みをみとめる。
3)64Cu-トラスツズマブの HER2 陽性脳腫瘍への移行の、ヒトでの分子生物学的な検証
HER2陽性乳がん、脳転移症例などを用いて、6 4 Cu-DOTA-ト ラ ス ツ ズ マ ブ を 用 い た PETに よ り 脳 腫 瘍 を
描出後、開頭手術(あらかじめ、臨床的な必要性から予定している症例を選択した。)を行い、
脳 腫 瘍 を 摘 出 し た 。病 理 学 的 に がん細胞部位を確認した後(HE染色法)、同位切片を用い、HER2特異抗体
を用いた免疫組織染色法(IHC)、オートラジオグラフィーによる6 4 Cu-DOTA-の 描 出 を 施 行 し た 。 図 2 に
示 す よ う に 、IHCによるHER2陽性腫瘍の位置と、オートラジオグラフィーによる64 Cu- DOTA-ト ラ ス ツ ズ マ
ブ の 位 置 は 完 全 に 一 致 し て い る 。 こ の こ と に よ り 、 6 4 Cu-DOTA-ト ラ ス ツ ズ マ ブ が 、 HER2陽性細
胞に特異的に取り込まれていることを、ヒト脳転移症例を用いて検証できた。
HER2陽性乳がんの脳転移症例における分子イメージング。
Cu-DOTA-ト ラ ス ツ ズ マ ブ が 、 HER2陽性細胞に特異的に取り込まれている。
64
又、64 Cu-DOTA-ト ラ ス ツ ズ マ ブ を 用 い た PETに お け る 標 的 分 子 特 異 性 に 関 し て 、全 く 異 な る 分
子イメージング技術によって検証した。
具 体 的 に は 、 質 量 分 析 計 を 用 い た MASイ メ ー ジ ン グ 技 術 を 用 い た 。
HER2陽性乳がん、脳転移症例において、主要部分と正常部分を、Laser capture micro dissection法
を用いて切り分けた。
-5-
Laser capture micro dissection法を用いた、HER2陽性乳がん、脳転移症例における腫瘍部分と正常部分
採取された腫瘍部分に処理を施し、トラスツズマブの質量分析のためにトラスツズマブを特異的な部位
により修飾(切断)する。
トラスツズマブの構造と質量分析のためのトラスツズマブの切断部位(赤線)。
HER2陽性乳がんの脳転移症例における正常部分と腫瘍部分におけるトラスツズマブの質量をMASイメージ
ング分析により測定したところ、1:11の比であった。このことは、6 4 Cu-DOTA-ト ラ ス ツ ズ マ ブ の HER2陽
性 細 胞 へ の 取 り 込 み の 、正 常 細 胞 へ の 取 り 込 み( バ ッ ク グ ラ ウ ン ド を 含 む 。)に 対 す る 分 子 量 か
ら 推 察 さ れ る 値 と 同 等 で あ っ た 。こ の こ と に よ り 、他 の 分 子 イ メ ー ジ ン グ に よ っ て も 、 64 Cu-DOT
A-ト ラ ス ツ ズ マ ブ の HER2陽 性 細 胞 へ の 特 異 的 な 移 行 を 証 明 し た 。
-6-
質量分析計を用いた64 Cu-DOTA-ト ラ ス ツ ズ マ ブ の HER2陽 性 細 胞 へ の 特 異 的 な 移 行 の 証 明
4)乳がんにおける 64Cu-DOTA-トラスツズマブ/PET の安全性および有用性についての総括
①HER2 陽性乳がん
予定登録数 40 例に対して、35 例登録し内 33 例について実施した。被ばく量は、通常の FDG-PET と同等であ
り、外来で施行可能であった。HER2 発現細胞に特異的に陽性になることを生体内で証明した。
②64Cu-DOTA-セツキシマブ/PET
64
Cu-DOTA-セツキシマブ/PET に関しては、ヒト投与に値する GLP グレードの 64Cu-labeled cetuximab の
精製に、当初の予定より時間を要した。平成 25 年度内にヒト投与レベルまでの精製が可能となった。
予定していた、乳がん、大腸がん、グリオーマに対する 64Cu -DOTA-セツキシマブ/PET は今後ヒトを対象
に施行する。
倫理面への配慮
動物を用いた研究を実施する際には、「動物の愛護及び管理に関する法律(動愛法;S48 年 10 月 1 日施行、H18 年 6
月 2 日最終改正)」、「実験動物の飼育及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(環境省告示第 88 号;H18 年 4 月 28
日告示)」、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(文部科学省告示第 71 号;H18 年 6 月 1 日告
示)」、及び「厚生労働省の所管する動物実験等の実施に関する基本指針(厚生労働省通知科発 0601002 号)」を遵守
する。
ヒトを対象とした遺伝子診断を含む臨床研究においては、ヘルシンキ宣言を尊重して計画された臨床試験計画に基
づいて実施される。本研究中、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理
指針」
、又、
「臨床研究倫理指針」に基づいた研究計画書を作成する。研究実施計画書、患者への説明書文書について
国立がん研究センター中央病院における倫理審査委員会の承認を得るとともに、臨床試験対象者の書面によるインフ
ォームド・コンセントを得ることとする。特に、インフォームド・コンセントの取得にあたっては、直接研究に関与
しない診療科スタッフによる臨床試験説明を加え、生検サンプルにおける匿名化には最新の注意を払う。学術的な発
表、論文化においては、個人情報の流出のないように細心の注意をする。
本研究に関連する、本研究期間中の主な発表論文等
(雑誌論文)(本研究に関連するもの)
1. Kurihara H, Tamura K, Yoshida M, Hamada A, Miyakita Y, Fujiwara Y. 64Cu-DOTA-trastuzumab PET
imaging and HER2-specificity of brain metastases in HER2-positive breast cancer patients. Seminars in
Nuclear Medicine. In press
2. Sun D, Bhanu Prasad BA, Schuber PT Jr, Peng Z, Maxwell DS, Martin DV, Guo L, Han D, Kurihara H, Yang
DJ, Gelovani JG, Powis G, Bornmann WG. Improved synthesis of 17β-hydroxy-16α-iodo-wortmannin,
17β-hydroxy-16α-iodoPX866, and the [(131)I] analogue as useful PET tracers for PI3-kinase. Bioorg Med
Chem. 21: 5182-5187, 2013.
3. Kobayashi T, Masutomi K, Tamura K, Moriya T, Yamasaki T, Fujiwara Y, Takahashi S, Yamamoto J, Tsuda
H. Nucleostemin expression in invasive breast cancer. BMC Cancer. 14: 2407-14-215. 2014
4. Shimma S, Takashima Y, Hashimoto J, Yonemori K, Tamura K, Hamada A. Alternative two-step matrix
application method for imaging mass spectrometry to avoid tissue shrinkage and improve ionization efficiency.
J Mass Spectrom. 48:1285-1290. 2013
5. Tamura K, Kurihara H, Yonemori K, Tsuda H, Suzuki J, Kono Y, Honda N, Kodaira M, Yamamoto H,
Yunokawa M, Shimizu C, Hasegawa K, Kanayama Y, Nozaki S, Kinoshita T, Wada Y, Tazawa S, Takahashi
K, Watanabe Y, Fujiwara Y. 64Cu-DOTA-trastuzumab PET imaging in patients with HER2-positive breast
cancer. J Nucl Med. 54:1869-1875. 2013.
6. Kurihara H, Honda N, Kono Y, Arai Y. Radiolabelled agents for PET imaging of tumor hypoxia. Curr Med
Chem. 3282-3289. 2013
(学会発表)
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1. 野口瑛美、栗原宏明、津田均、米盛勧、清水千佳子、高橋和弘、渡辺恭良、藤原康弘、田村研治
64Cu-DOTA-trastuzumab-PET imaging in patients with HER2-positive breast cancer
第11回日本臨床腫瘍学会学術集会 仙台
2013 年 8 月 29 日-31 日
2. 田村研治
MOLECULAR IMAGING IN CANCER PATIENTS
日本薬物動態学会 第 28 回年会 東京(タワーホール船堀)
2013 年 10 月 9 日-11 日
(書籍)
1. 田村研治 分子イメージング研究の概要と今後の展望, P249-254 腫瘍内科 第11巻第2号(2013 年 2 月号)
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