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ポリテイカル・コレクトネス論争に関する研究ノート

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ポリテイカル・コレクトネス論争に関する研究ノート
『人間科学研究』文教大学人間科学部第 1
6号
1
9
9
4
年三本松政之・関井友子
【共同研究】
ポリテイカル・コレクトネス論争に関する研究ノート
三本松政之・関井友子
ReserchNoteonThePCControversy
Masayuki Sanbonmatsu,Tomoko Sekii
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ついては,日本社会の国際化の進展という文
脈のなかでその検討も多く試みられているが,
I はじめに
近年,マスコミにおいてポリテイカル・コレ
P Cに関するものはいまだ少ない.
クトネスとか PC (
P
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という言葉を自にすることが多くなっている.
ポリテイカル・コレクトネスは,アメリカ
において 1
9
9
0年代にはいって大きく注目され
朝日新聞の小田隆裕は PCをめぐるアメリカ
米国を, 2
の事情を次のように伝えている. r
ている考え方である.近代社会は「西欧,白
人,男性」を中心に形成され,そのもとで西
つの現象が熱病のように覆っている. 1つは
欧,白人,男性中心の価値観が強化された.
その結果として,人種や性差などにもとづい
PCと略称される『ポリテイカル・コレクト
ネス~ .法律的だけでなく政治的にも正しく
なくてはならない,という考え方だ.もう l
てさまざまな不利益を被ってきた集団が存在
している.このような差別や偏見の基盤にな
つは MC. W マルチカルチャリズム~ . 多
る思想や歴史観の変更を主張するものが P C
文化主義』である.この 2つは,本質的に違
PCはわが国では「政治的
政治的適正 J r
政治的正しさ」
妥当性 J r
「政治的正当 J r
政治的潔癖主義 j などさま
うが,少数派に関係する問題という点では共
通しており,この国の多数派である白人男性
である.なお,
や保守派からは苦々しい思いで見られてい
るJ• (1) ここに指摘されているように P Cと
ざまな訳語が当てられているが,いまだ定訳
密接な関係をもっ MC(
M
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)に
とする価値判断」を意味し元来はマルク
はない.この言葉は rw政治的に見て正しい』
- 88-
ポ リテ ィ カ ル ・コ レ ク トネ ス 論 争 に 関 す る 研 究 ノ ー ト
ス主 義 が 正 統 的 立 場 か ら,異 端 を 判 定 した 時
HPC運
の用 語 だ った 」(2)が,1980年 代 に 復 活 し学 園
で 使 用 され る よ うに な った.そ れ は 「人 種 や
PC運
動 の背景
動 の 成 立 の 過 程 を み る と,60年
代
性 差,階 級 な ど に よ る偏 見 を 打 破 す る新 しい
後 半 か らの 「自 由主 義,個
思 潮 」(3)であ り,「 犠 牲 者 革 命 」 で あ る と も
と さ れ た,大 学 紛 争 な ど に 根 差 し,そ れ が
され る.
70年 代 末 か ら80年 代 に か け て 「自 由 主 義,
マ ル チ カル チ ャ リズ ム は 「
少数派 による 自
人主 義 の反乱 」
個 人 主 義 に 対 抗 す る 反 乱 」 に な っ た の がP
己 主 張 」 とい え る.た とえ ば 「
全 米 の大 学 で,
C運 動 だ と され る.(9)PCは
少 数 派 の 学 生 が 自分 た ち の好 む カ リキ ュラ ム
偏 見 無 く物 事 を 見 直 し公 平 に位 置 付 け る」
(10)こ と を 主 張 す る も の で あ っ た .そ し
を 要 求 す る形 で 表 れ て い る 」(4)ので あ る.
この よ うなMCに
た い してrPCに
は政 治
的,経 済 的,文 化 的,道 徳 的 にrか
くあ らね
本来 「
政 治的な
て,一 「1980年 代 か ら次 第 に 高 ま っ て き た こ
う した根 本 的 な 問 い に真 っ先 に取 り組 ん だ の
ば なち な い 』 と い った 原 則論 あ るい は理 想 論
は ア メ リカの 教 育 界 で あ った 」.(n)小
田隆
的意 味 合 いが 込 め られ て い る」.㈲rPCと
裕 の紹 介 に よれ ば,歴 史 学 の ロバ ー ト ・マ ッ
は何 か 」 とい う問 い に対 す る答 え は,論 者 に
カ ヒー はrPCは
よ うて も異 な る が 共 通 項 と して は 「社 会 的
半 に大 学 の キ ャ ンパ スで 起 きた リベ ラ ル派 の
少 数 派 に 配 慮 す る生 活 態 度 」 と い う点 が あ
運 動 」だ と し,ダ ー トマ ス大 な ど保 守 的 な と
もとは とい え ば1980年 代 前
げ られ る.厂 少 数 民 族,女 性,障 害 者,同 性
こ ろで は反 発 が 強 い こ とを 指摘 して い る.ま
愛 者 ら に 気 を 使 い,発 言 に 注 意 す る こ とな
た80年 代 前 半 の レーガ ン大 統領 時代 の保 守 主
ど は最 低 限,要 求 さ れ る 」 の だ が,そ こ に
「強 制 的 色 彩 を帯 び て い る のが 特 徴 」(6)で も
義 の 全盛 期 に 「60年代 の ヒ ッピー た ち が90年
あ る.
と,ち ょ う ど新 た な移 民 が 大 学 に は い って き
代 にな って 大学 の教 授 や 管 理 者 に な った こ と
日本 で も,貿 易 問 題 を め ぐ ってr日 本 た た
た時 期が 重 な って今 の状 況 を 生 ん で い る」 と
き と ポ リテ ィカ ル ・コ レ ク トネ ス 』 と題 す る
パ ネ ル 討 論 が 行 わ れ た り,「 メデ ィア に よ る
い うニ ュ ー ヨー ク州 立 大 学 の デ ー ビ ッ ド ・
差 別 」 に異 議 を 申 し立 て て い こ う とい う市 民
運動 の芽 生 え が伝 え られ て い る(η.ま た,P
る.(12)能 登 路 雅 子 は,こ の 状 況 に つ い て
「ア メ リカで は19世 紀 以 来,公 教 育 をr人 間
Cに 関 連 す るで き ご とと して 筒 井 康 隆 の 「断
の条 件 の偉 大 な 平 等化 装 置 』 と見 る教 育 理 念
デ ィル ワー ス教授(哲 学)の 説 を 紹 介 して い
筆 宣 言 」 にか か わ り 「
言 葉 狩 り」 の問 題 が 提
が 発達 して き たが,多 様 な人 間 を ア メ リカ市
起 され て い る.
民 に統 合 す る共 通 の 価値 体 系 と は いか な る も
の で あ るか が,現 在,教 育 の場 で 問 い 直 され
日本 で はマ ス コ ミに よ るア メ リカ のPC運
動 の紹 介 が 先 行 して お り,PCを
研究対象 と
て い る ので あ る 」 とす る.(13)ア
して論 じ た もの は少 な く,ま と ま った もの と
PC運
して は ア メ リカ で のPC運
経 た 今 日で も衰 えを 見 せ ず,む
した澤 田 昭夫 に よ るrPC運
動 の動 向 を整理
動 とrア メ リカ
の分 裂 』 」(8)など い くっ か の もの が み られ る
が,PC運
動 の成 果 を め ぐって は評 価 も分 れ
て い る.こ
こで は,さ き に も述 べ た よ うに 日
本 で い ま だ な じみ の うす いPC論
の現 状 を ま
ず 把 握 した い.
メ リカで の
動 は そ の成 立 期 か らお よ そ20年 以 上 を
しろ 日常 生 活
にお け るあ らゆ る分 野 に広 が りをみ せ,そ
の
考 え 方 は社 会一 般 に拡 大 して い る.
PC運
動は 「
西 欧的 個 人 主義,民 主 主 義,
合 理 主 義,客
観 主 義 は,黒 人,ヒ
スパ ニ ッ
ク,先 住民,女 性 そ の他 さ まざ ま の少 数 派 を
抑 圧 す るた め の欺 瞞 に過 ぎな か った と して,
少 数 者 グル ー プ の 集 団 権 や,グ
義 」 を 主 張 す る.(14)荒
一89一
ル ープの 正
この み に よ れ ば,
『人間科学研究』文教大学人間科学部第 1
6号
1
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年三本松政之・関井友子
「体制の価値観が『解体』していった 6
0年
口は今 5割を超え,民族の数は 200近い.
代のポストモダンの急進派が,社会の中枢
昨秋,南北戦争のテレビ番組が人気を呼んだ
を占めるようになった今日,価値の多様化
のは『前世紀末以降に米国に流入した祖先を
が押し進められ,価値の無意味化をひき起こ
持ち,南北戦争と全く無縁の市民』が過半数
を占めているのも一因と言われた J• (20)
しているという心配もあれば,岩のようにか
たいアングロサクソン・男性優位主義のアメ
リカでは,さらに『解体』をしていかねばな
らないと主張するものもいる」のである (15)
m pc運動の諸側面
また,外岡秀俊は「マイノリティーや女性が,
な要素をもち,その強調点によって運動への
PC運動は,一面的なものではなく多面的
自己を確認する運動として始めた米国の改革
評価も大きく異なり,論争を呼ぶことにもな
思想が,フランスの構造主義,ポスト構造主義
っている.ここでは PCを 4つの側面から検
などの潮流と結びつき,独自の展開を見せた
といわれる(16) とその背景を紹介している.
討したい.
1.差別表現改革運動としての PC運動
なお PCは「その基本的カテゴリーである
津田は,
PC運動を身近に感じられるのは
rpCとは
人種,性,階級のうち,最近は階級のイデオ
日常用語の言い換えであるとし,
ロギー的重要性を強調し(貧富の差への還
元),それとともにマルクシズムへの傾斜を強
さしあたり毎日の会話のなかでの『適正な表
現』のことである (2 1) とする.中村徳次も,
めJて お り 正 面 き っ て マ ル ク シ ス ト 運 動
「性,人種,障害などについての差別語を,
とは宣言しないが,フェミニズム,人種差別
だれからも非難されないような表現に換える
反対,環境保護運動を通じてマルクシズムへ
ことを指す J と説明している.その例として,
「日本語でも障害者という言葉は『害』が入
と傾斜する. P Cの隆盛は,古い共産主義の
崩壊に反比例し,ペレストロイカ以後の『新
装共産主義』の発展とほぼ時を同じくしてい
る」という指摘もある (17)
アメリカにおける
PCの動向は,すでに見
っているので不快感を招くという人がいるが,
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d (異なった能力のある人)と言い換
える.あるいは『年老いた』を単に o
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てきたように新聞の特派員たちによって伝え
はなく c
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d (歳月の恩恵、
られている.日本経済新聞の深沢記者は保守
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rの代わりに
を 受 け た ) に 貧 し い 』 はp
的な地方紙のからかい半分の「典型的 PC論
者像 J を紹介する.それは rw白人男子でキ
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d (経済的に搾取され
た)と書くようなものだ」と紹介している.
リスト教と西欧文明の信奉者が正統とされ,
0
年代から言葉
さらにアメリカの動向として 8
彼らが不当な権威を振るっている』とし『伝
の上での性差別を是正する働きが活発になっ
統的価値から抜け出し,女性・少数民族・向
たとし
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n (議長)は c
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(スチュワーデス)は f
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tattendant~こ
性愛者などを平等に扱うのが急務』と信じ
るJ というものである (1 8) ここに津田は
rpCに は 本 来 正 統 と 異 端 』 を 想 起 さ せ
る厳しさがある J とみる (1 9)
さらにこれが大論争に発展した引き金は湾
岸戦争だったイラク悪玉説の多数世論の
蔭で『石油資源争奪戦~
w
民族主義の圧殺』
言い換えられ」ており, 1
9
9
1年に刊行された
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y (ランダムハウス社干のには,すでにこれ
らの単語が集録されていることを指摘してい
る (22)
このように PC運動は「現象面では言葉の
との米国人の自己批判もあった.米社会の多
様性が PC論争の原動力なのは間違いない.
言い換えが急ピッチ」で進行している.
3
0
年前に 2割だったニューヨークの非白人人
用語と呼ばれる表現があり, H. ビアード,
- 90-
PC
ポ リテ ィ カ ル ・ コ レ ク トネ ス論 争 に 関 す る 研 究 ノ ー ト
C.サ
行 わ れ,「
ー フ に よ る"TheOfficialPoliti-
(邦 訳 は 馬 場 恭 子r当
辞 典 』,文
他 に,障
藝 春 秋)も
害者を
世 ア メ リカ ・タ ブ ー 語
か らま りrPC規
で て い る.上
裁 を 受 け る」(28)こ とにな る.
ー 」 ,「
る.こ
人を
2.文
「ア フ リ
ペ ッ ト」 を
政 治 文 化 の変:革に よ って 社 会
kultur-kampf)r文
「動 物 伴 侶 」 な ど が あ
volution)に
人 はメ
化 革 命 』(culturalre-
な った.こ の文 化 革 命 は必 ず し
な ど とい うと
も物 理 的 暴 力 に よ って で は な く,不 可 視 の 強
rあ な た は ポ リテ ィ カ リ ー ・イ ン コ レ ク ト
制 力 に よ って 推 進 され る」 とい う.そ の 例 と
(穏 当 で は な い)』
流 派)』
動を 「
不 可 視 の 文化:革命 」 と
変 革 を 達 成 す るr文 化 闘争 』(culturewar,
「エ イ ズ に か か っ
れ と は 逆 の 禁 止 語 も あ りrr白
ー ン ス ト リ ー ム(主
範 に反 す る言 動 は厳 しい 制
化 ・改 革 運 動 と して のPC
澤 田 はPC運
呼 ぶ.rPCは
厂ピ ー プ ル ・オ ブ ・カ ラ
エ イ ズ犠 牲 者 」 が
た 人 」,「
記 の例 の
「フ ィ ジ カ リー ・チ ャ レ ン ジ
ド(身 体 が 挑 戦 さ れ た)」,黒
カ ン ・ア メ リ カ ン」
いか な る分 野 で も人 事 問 題 に は必
ず,人 種,民 族 や 性 とr性 的志 向 』 な ど 」 が
callyCorrectDictionaryandHandbook"
と 皮 肉 られ か ね な い 」 と
言 い 換 え は,「
して 「積 極 的 優 遇 措置 」(ア フ ァー マ テ ィ ブ ・
ア ク シ ョ ン)を あ げてrr積
紹 介 さ れ て い る.(23)
言 葉 狩 り 」 へ の 懸 念 と な る.
極的優遇措置』
を と る こと は 当然 だ が,そ れ を 口 に 出 して は
こ の 点 に つ い て 小 田 は 次 の よ う に 紹 介 して い
な らな い 」こ とを 指 摘 して い る.す な わ ち 「
文
る.rPCが
化 革 命 の可 視 性 を保 証 す る手段 はr自 己規 制
行 き過 ぎ る と,r言
な り米 国 憲 法 第1条
的検 閲 』(self-censorship)」
の言 論 の 自由 を 侵 す と心
配 す る 人 も少 な くな い.デ
rPCは
葉 狩 り』 に
ィ ル ワ ー ス 教 授 は,
思 想 や 言 論 を抑 圧 す る雰 囲 気 を 生 む
独 善 的 な りベ ラ リズ ム だ.コ
リカ をr発
ロ テ ス タ ン ト)
へ の 反 発 な の だ 過 と い う」.(24)
こ の よ う な 観 点 か らPCの
このPC運
動 と密接 な関 係 にあ る思 潮 と し
て マ ル チ カ ル チ ュ ラ リズ ム が あ る.MCも
す る にWASP
ン グ ロ サ ク ソ ン,プ
も な く自 発 的 に 不 文 律 と して 下 す 慣 習 で あ
る 」 と.(29)
酷 な こ とを や らな
か っ た か の よ う に い う.要
(白 人,ア
黒 人 優先 の)人 事 決 定 を,誰 か らいわ れ る と
ロ ンブ スが ア メ
見 』 した と い う 表 現 に 反 対 し,あ
た か も先 住 民 族 は 一 切,残
にあ り,「 能
力 に よ らざ る,性 や人 種 によ る(女 性 優 先,
PC同
様 近 年 にい た って用 い られ るよ う にな
った 概 念 で,多 文 化 主義,文 化 多 元 主 義,多
主張 には
「旧 来
数 文 化 主 義 な どの 訳 が み られ 定 訳 はな い.こ
の 価値 観 や 体 制 的思 考 を徹 底 的 に排 す る とい
のMCは,「
う 偏 狭 さ 」 が あ り,そ
もはや 同 化 主 義 は有 効 で は な く,む しろエ ス
ニ ッ ク紛 争 の原 因 で あ る との認 識 」 に た ち,
狩 り を 生 み,議
れ が 結 果 と して
「
言 葉
論 や良 識 を封 殺 す る タ ブ ーを
多 民 族,多 文化 社 会 の 統 合 に は
「政 治 的,社 会 的,経 済 的,文 化 ・言 語 的 不
つ ぎ つ ぎ に 作 り 出 す 」 と の 指 摘 も あ る.(25)
な る差 別 表
平 等 を な くそ う とす る一 種 の 国民 統 合 あ る い
現 改 革 運 動 を越 えた性 格 が 明 らか にな る 」 と
は社 会 統 合 イ デ オ ロギ ーで あ り,具 体 的 な一
し,PC運
治運動
群 の 政 策 を 導 きだ す 指導 原 理 で あ る 」.(30)
な お,荒 この み に よれ ば,「 か つ て よ く使 わ
動 な の
れ た 複 合 文 化 主義(プ
澤 田 は,こ
こ にrPC運
動 の,単
動 は 「政 治 運 動 で あ り,政
と して の 言 語 浄 化(languagecleansing),
思 想 浄 化(thoughtcleansing)運
で あ り 」(26),「
言 葉 のr言
治 化 過 程 と して のr思
と す る.そ
して,学
校,学
術,行
政 組 織,議
ど 社 会 の あ らゆ る分 野 で
会,職
ア メ リカ社 会 の 望 ま しい姿 を あ らわ す,ひ
庭,教
と
は社 会 的 な運 動 を あ らわ す 表 現 に な って い
業 団 体,フ
ス コ ミ,映 画 ・演 劇,
会,家
リュ ー ラ リズ ム)は,
っ の 理 念 で あ った の に対 して,多 数 文 化主 義
想 浄 化 』 」 で あ る(27)
ィ ラ ン ス ロ ピー 財 団,マ
音 楽,美
い 換 え 』 は,政
会な
「
差 別用 語 」 狩 りが
一91一
る」(3')と し,PCと
同様 にMCが
社会運動
の側 面 を もつ こ とを 指摘 して い る.こ の よ う
なMCやPC運
動 の 旗 の も とで 「黒 人,ヒ
ス
『人間科学研究』文教大学人間科学部第1
6号
1
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4
年三本松政之・関井友子
パニック,先住民,女性など今まで下積みに
団や『勇気ある』一部の知識人の言動 J は
,
なっていた少数者グループが, W A S P的男
一般大衆により静かに支持される J のである.
(3 8) し
かし, P C運動は「人種や民族や性
性中心的西欧文化への順応,統一,同化を
(たとえば大学のキャンパスで黒人が白人と
の平等実現を妨げているのは機会の平
同じテーブルで食事をするのを)拒否し,そ
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)原則と実力
等A (
れぞれのグループの平等権を主張し自発
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)試 験 で あ る 」 と し 真 の 民 主
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)を要求するよう
的分離 A (
主義,平等主義を実現するためには,入学,
になった(ただし P C運動の指揮者には白
人が少なくない) J(32) のである.
採用,昇進の決定に際し結果の平等』
(
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fr
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)原則を適用せねばな
M Cに対しては「もろもろの民族文化価値
らなしりと主張するのである.それは「二百
の平等・生存を主張する」が, r
無視されてき
年にわたって黒人を差別,抑圧してきた白人
た下積み文化 Bの自己主張のために,従来の
の犯罪に対する当然の償いなのである. J
(3 9) とされる.
支配的文化 Aに対抗して多文化主義を称える
のはわかるが, Aを否定して Bを主張するの
P C運動において「植民地主義,帝国主義,
J
I
の形の単一文化主義 (
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)
は
, 5
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ではないか (33) との疑義が呈せられ,それ
人種差別主義 (
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) ,覇権 (
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)
と抑圧と搾取,家父長主義,階層制 (
h
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)の結晶」としての「西方文化中心の学習
規範は『非神聖化 A (
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e
) されるべ
は「普遍的文化を否定し社会統合を危うく
すると意識され」やすい.ここに M Cへの反
きもの J になった死んだ,白人,男性」
対者を生み出し,同化主義を強調する議論が
高まる可能性をもっ (34)
の西方文化覇権主義ないしヨーロッパ中心主
E
u
r
o
p
o
c
e
n
t
r
i
s
m
) に対抗する文化民主主
義 (
P C運 動 に た い す る 批 判 も 文 化 の 多 元
性を主張する P Cが 西 欧 中 心 』 の 一 般 教
義 (
c
u
l
t
u
a
ld
e
m
o
c
r
a
c
y
) としての, PC
養科目を大学から駆遂し政治的』なマイ
的学問スタイルの文化規範を支えるのは R
.
ノリティー・女性研究などの科目に置き換え
G.Cなる 3つの集団価値つまり人種 (
r
a
c
e
)・
ている J と 主 張 し マ イ ノ リ テ ィ ー へ の 優
g
e
n
d
e
r
) ・階級 (
c
l
a
s
s
) である.そ
性 (
先措置を定めたアファーマティブ・アクショ
して特定の個人の差別ではなく,たとえ
ン(積極的措置)が学園で P Cに政治的に利
ば黒人差別になっているか,女性差別にな
用され,入学や職員採用枠などで『逆差別』
が行われている
(3 5) と 指 摘 す る 逆 差
っているか,被抑圧階級差別になっている
か,それが P Cの規範」としての特徴とな
る (40)
別 J を生み出す P Cの 政 治 的 利 用 と は 多
文化主義批判やマイノリティ援助批判は,そ
新堀達也は「伝統的に世界を牛耳ってきた
れがどんなに合理的と思われるものでも,人
白人,男性,強国など,強者,勝者,上位者
種・民族差別主義者というレッテルを貼られ
などによる旧悪,すなわち搾取,収奪,侵略,
やすく,批判は正しくないと『政治的正し
さA J (:16) の観点から反論されやすいことに
差別,抑圧を暴露告発し,弱者,敗者,下位
者などの権利と地位を優先的に回復すべきだ
よる人々の「自己規制 j を意味する.たとえ
とする P Cの主張者には『正義の味方』だと
ば,宮本は「学生なら,けなされ,除け者に
いう自負がある.いささかでも弱者,敗者,
される.教師なら職を失ったり,処罰の対象
下位者に不利なことはいってはならない・・.
になったりする. PC活動家は少数だが,道
『正義の味方』の告発を恐れる人たちは警戒
義的に多数派を形成し,人種差別などに敏感
心が先に立って臆病となり萎縮するので,社
な学園では,自己検閲効果を含め大きな力を
会から言論や表現の自由が失われてしまう.
持つ J ことを伝える.けりこのため「極右集
『正義の味方』のお墨付きを得た考えだけが
n
u
“
ヮ
ポ リテ ィ カ ル ・ コ レ ク トネ ス 論 争 に 関 す る 研 究 ノ ー ト
支 配 す るよ うに な る.す べ て を他 の角 度 か ら
本 主 義 ・帝 国 主 義 的 階 級 差 別 の 社 会 と捉 え,
判 断 す るの で,か え って差 別 が 内 に こ もっ て
平 等 実 現 の ため の 社 会 改 革,政 治 改 革 」 にあ
永 続 化 さ れ る 恐 れ が あ る.米
る.そ こで の 「教 育 と学 問 にお け る適 正 と は,
国 に お け るP
C論 争 の 中 心 は こ う した 点 に あ る」 と伝 え
それ が 政 治 的 にr十 分 』(adequate)で
る.(4D
こと,つ ま り社 会 変 革,政 治 革 命 に貢 献 す る 齟
以 上 にみ たPC運
動 の もっ 特 徴 や 主 張 がP
もの だ とい う ことで あ る」 と され,「 黒 人,
C運 動 の もっ 矛 盾 と して の 批 判 を 生 み や す い
ヒス パ ニ ッ ク,女 性,貧 者,ゲ
こ とはす で に見 た とお りで あ る.す な わ ち,
rPCは
ある
イgレ ズ ビァ
ン,そ の 他 す べ て の ア ウ}サ イ ダ ー は グ ル ー
建 前 上 は多 文 化 主 義 を 標 榜 す るが,
プ と して 差 別 の犠 牲 者/被 害 者 で あ る こと,
現 実 に は,非 白人,女 性,被 抑 圧 階 級,同 性
被 害 者 こそ 真 実 の知 識 の担 い手 で あ る か ら,
愛 者 以 外 の 人 間 を 許 容 しな い 単 一 文 化 主 義
た とえ ば 十 分 な 黒 人研 究 は黒 人以 外 の 人種 に
(monoculturalism)に
な って い る場 合 が 少 な
よ って 行 わ れ 得 な い こ と,被 害者 側 の個 人 的
くな い 」(42)と い うので あ る.能 登 路 に よれ
責 任 を 論 ず る こ と は被 害者 身 分 集 団全 体 へ の
ばPC運
生 同 士 の 日常 会 話 に 至 るす べ て の言 論 に厳 し
攻 撃 を 意 味 す る こ と 」 な ど が 教 え られ る.
「被 害 者 学 」(victi搬ology)は
「黒 人 研究,
動への 「
反 対 派 は,講 義 内容 か ら学
い政 治 的 妥 当 性(politicalcorrectness)を
ア フ リカ研 究,ヒ
要 求 す る文 化 多 元主 義 派 の この よ うな動 きに
ィ ブ ・ア メ リカ ン研 究,先
PCと
民 族 研 究,第 三 世 界 研 究,パ
い う否 定 的 な 意 味 あ い の レ ッテ ル を 貼
スパ ニ ッ ク研 究,ネ
り,危 機 意 識 を煽 って い る.近 年,保 守 化 傾
ホ ロ コ ー ス ト研 究,女
向 を強 め て い る マ ス メ デ ィ ア も,rPC警
察
の思 想 統 制 』rマ ッカ ー シズ ム以 来 の 魔 女 狩
ビ ア ン研 究 が,被
イテ
住 民 研 究,少
数
レス チ ナ研 究,
性 研 究,ゲ
イ ・レズ
抑 圧 グル ニプ研究 」 によ
って構 成 され る.そ して 「批 判 的 知 識 」 の 普
り』 とい った セ ンセ ー シ ョナ ル な見 出 しを 掲
及 は,被 害者 側 に連 帯 意 識 と優 越 感 を 醸 成 し,
げ て,公 教 育 の政 治 化 に拍 車 を か け て い る」.
(43)ま た
,澤 田 は こ の よ う なPCの
世界を
「拷 問 や 政 治 犯 の強 制収 容 所 や 問答 無 用 の処
逆 に被 害 者以 外 の側 に加 害 者 と して の劣 等 感
刑 な どで 特 徴 づ け られ るr硬 い全 体 主 義 』 世
プの 政 治 的権 力 関係 を反 映 せ ね ば な らな い」
界 で はな くr柔 らか い 全体 主 義 』(Soft-Tot-
と され るの で あ る.澤 田 は,こ の よ うなPC
alitarianism)の
は 「
相 手 の暴 力 に対 す る当然 の報 復 と して 合
3.権
世 界 で あ る」(44)と す る.
力 闘 争 と して のPC
を 植 え付 け る.「 あ らゆ る学 問研 究 は,こ れ
らグル ー プ の 利益 を代 表 し,そ れ ら諸 グル ー
動 は 「権 力 闘争 」 で あ
理 化 」 され た 暴 力 で あ る と し,そ の戦 術 が
「
検 閲(censorship)や
恐 喝(intimidation)
る と され る.そ れ は 「長 く複 雑 な 政 治 闘 争 の
か ら身分 や 職 の剥 奪,雇 用 契 約 の 更 新 拒否 に
結 果 で あ り,さ らにエ ス カ レー トす る政 治 運
まで わ た る」 こ とを指 摘 す る.(45)
澤 田 に よれ ばPC運
動 」 で,そ
の キ ー ・コ ンセ プ トは,「 今 まで
下 積 み に な って い た人 種
1991年3月
級 の 諸 グ ル ー プ 」 に 権 力 を 与 え る こ と(受
権)と 彼 らが権 力 を握 る こ と(掌 権)を 意 味
す る"empowerment"で
あ る.ま た,rPC的
判 の 政 治 的 な 文 脈 にま で
ッ シ ュ大 統 領 が 『
に 「ミシガ ン大 学 の講 演 でPCの
r非 寛 容 』 を 批 判 し,リ ベ ラ ル攻 撃 を強 め る
ク エ ー ル 副 大 統 領 も,PCをr非
教 育 とは 平 等 社 会 に 向 け て の社 会 変 革 に必 要
なr批
外 岡秀 俊 はPC批
の 広 が りを 伝 え て い る.ブ
少 数 民 族,性,階
判 的 知 識 』(criticalknowledge)
を与 え る こ と」で あ り,大 学 の 教 育 ・
研究 の 目
通 す るの は,学 園 に お け るPC運
的 は 「人 種,民 族,性,階
圧 運 動 と と らえ,rr差
級 の 視 点 か ら現 代
社 会 を 人 種 差 別,民 族 差 別,性 差 別 そ して 資
一93一
寛容 の形
式 』 と非 難 した 」.PC論 争 は,主 に,保 守 派
に よ るキ ャ ンペ ー ン と して始 ま り,彼 らに共
動 を言 論 抑
別者 』 の レ ッテ ルを
張 って 批 判 を 葬 り去 る急 進 派PCの
風潮 を,
『人間科学研究』文教大学人間科学部第1
6号
1
9
9
4
年三本松政之・関井友子
言論・学問の自由への脅威とみなす J 点にあ
る (46)
新しい価値観を求める米社会再生運動への理
4
.
念」を提起していること,その新しい理念は
社会の統合への問いかけとしての PC
コミュニティーとかかわった新しい生き方,
rw コミユニタリアニズム~
運動
ブッシュ大統領は rpCは人種,性別,憎
(共同体主義と
でも訳すべきか) J と呼ばれる.そしてそれ
悪による偏見の一掃が目的だったが,逆に他
は「人々の再生への思いと,クリントン政
人の言動の端々をチェックして新たな偏見を
権や政治家たちに支持されて, 9
0
年代の米国
rpC退治 J を宣
の社会運動になっていくのではないかと思
う」と述べている (49) クリントン大統領は
強制している」と指摘し
言したことで, pcは一躍内政のキーワー
ドになったブッシュ大統領は今春ミシガ
rp C的理想を代表する人々を政府の要職
ン大での講演で wpCは検閲やイジメ』と決
に任命することによって, pcを公共政策
めつけた. J しかし,
rpC派は民主党リベ
ラル派と重なるが,同党の分裂状況をみるま
でもなく民族や文化で細分化が進む支持基盤
の統合は難しい大統領はリベラル派すべ
てに pc のレッテルを張った~
(
p
u
b
1
i
cp
o
1
i
c
y
) としてまつりあげた (
e
n
s
h
r
i
n
e
d
) J (50) のである.
N PC運動の論争点、
pc運動批判にたいする反論は,
(米紙)ため,
p
c派を結束させた」と伝えられて
皮肉にも
いる (47)
PC批判
キャンペーンを,マイノリティの大学進出や
学問の多様化に対抗して,保守や伝統主義者
このようなアメリカの政治状況について外
岡は,冷戦の終結により「共産主義」を敵視
するという点での保守とリベラルの一致点が
の側から起きた「揺り戻し J 現象だと見る.
そして有志連合『民主的文化のための教
師』は,その宣言の中で, PC批判を『右派
なくなり民族や人種,宗教をめぐる自己
の思想家によって始められたキャンペーン』
主張をどう調和するかが大きな問題として浮
と非難 J し,また「文化の多元性やフェミニ
上 Jするなかで,アメリカが新たな統合原理
を持つことができるのかに関わる問題として
ズムの考えは,むしろ教育内容の拡充に貢献
PC論争が究極におい
取り上げて,新たな学問の流れ全体を,研究
pc論争を位置づけ,
してきた J と し さ ら に , 極 端 な 急 進 派 を
p
cという言葉で
て問いかけているのは「まだ輪郭の定かでな
成果を吟味することもなく
い脱冷戦時代の自画像 J の模索であるとす
る (48)
くくり,批判するのは,それこそ言論封じに
ほかならない,と主張している (5 1) という.
ジェトロの長坂寿久もアメリカ社会が「市
すでにみたように,このような反
pcキャン
民も地域社会(コミュニティー)も分裂し,
0
年代のマッカーシ
ペーンに対して, PCは5
国民的合意〔コンセンサス)を失っており,
ズムとの類似性が指摘される.
pc批判にたいする反批判としては「突
緊張が広がっている」ことを指摘し米国
は今,人々をつなぎとめる国民統合の新しい
価値観(国是)を探し求めている J とする.そ
出した民族ナショナリズムに焦点を当てる
ことで文化多元主義全体をスティクゃマ化し
して長坂はアミタイ・エツィオーニの『コミ
たシュレジンガーへの回答として 1
9
9
3
年に出
ュニティーの精神』を紹介し,彼は「権利を
された J ロナルド・タカキの『異なる鏡一
主張するだけではなく権利』と『責任』
文化多元的アメリカ史』をあげるものが多い.
の発展的なバランスを保つような新しい社会
タカキは,日系二世の歴史家であり「各少数
運動 Jを呼びかけ,保守主義への回帰ではな
民族集団の差異への固執がアメリカの統一的
く「獲得してきた『権利』は前提として承認
アイデンティティを解体するとみるシュレジ
しつつ,それに対応する『責任』を認識し,
ンガーに対し,各集団の体験を文化多元主義
- 94-
ポ リテ ィ カ ル ・ コ レ ク トネ ス 論 争 に 関 す る 研 究 ノ ー ト
視 点 か ら語 る こと こそ,違 い と類似 点 の全 体
像 を明 確 にす る」(52)も の だ とす る.ま た,
「こ う した動 き が 続 い た ら米 国 は ど うな る
位 置 づ け る.こ れ と は反 対 に そ の本 来 の 思想
の 「
原 点 」 か らで は な く,過 剰 な主 張 に行 き
の 問 題 を 研 究 して い る フ ォ ー ド財
着 い た と ころ か らみ た と き それ は た とえ ば,
「陳 腐 な表 現 を借 りれ ば,今,rポ
リテ ィ カ
団 の エ ドガ ・ベ ッカ ム前 ウ ェズ リア ン大 教 授
ル ・コ レ ク トネ ス 』 と い う聞 き なれ な い名 の
は,r多
妖 怪 が ア メ リカ を俳 諧 して い る 」(56)と い う
の か.こ
文 化 主 義 を 推 し進 あ て い け ば,国 家
と して の一 体 感 を 損 な うと い う人 は い る.し
形 で の過 度 の警 戒 感 を も って論 じ られ る こ と
か し,2000年
に な る。
に は この 国 の人 口の3分 の1は
ピー プ ル ・オ ブ ・カ ラ ー(非 白人)に な る.
ア メ リカ のPC運
動 の あ り方 につ いて 朝
い ま の動 きは こ う した人 口動 態 の 大 きな変 化
日新 聞 に お い て 『USAト
が もた ら して い る』 と,PC語
論 調 査 が紹 介 さ れ て い る.そ の記 事 に よ る と
rPCは 行 き過 ぎた か,ま だ不 十 分 か 」 と題
を 使 って,肯
定 的 だ 」 との意 見 も紹 介 され て い る.(53)
しか し,「 ア フ リカ 的思 考 を 含 め て,多 様
な 声 を響 かせ て い る 」MC運
動 に 「ユ ー トピ
ァを 夢 見 る者 は,そ の な かか らひ とっ の 新 し
して,16歳
か ら29歳 ま で の若 い世 代 を 対 象 に
した そ の 調 査 の結 果 は,「48%がr女
性 や少
数 派 を 傷 っ け な い よ うに言 動 に もっ と気 を っ
い 統 合 の 力 が 出 て くる の を期 待 す る」(54)が
け.るべ きだ 』 とPC肯
現 実 は,た や す く 「
変 化 」 はせ ず,む
42%はr行
しろ澤
ゥデ イ』 紙 の世
定派 だ った の に対 し,
き過 ぎだ 』 と回 答.7%がrど
ち
田が 述 べ るよ うに 「
人 種 的,民 族 的,文 化 的
ら も一 理 あ る』 と答 え て い る.具 体 的 に は,
多 様性 の た め に,つ ま り,よ り多 くの 人 種,
フ ッ トボー ル の 強豪rワ
民 族 グル ープ が代 表 さ れ,互 い に学 び あ う,
キ ンズ 』 のrレ
よ り豊 か な学 園生 活 を生 み 出す たあ に始 ま っ
人 の 肌 の 色 を 示 し,差 別 的 だ か らと改 称 を 迫
た はず のPC運
し
る よ うな こ とに つ い て は73%が 行 き過 ぎだ と
動 が,新
しい分 裂 主 義,新
シ ン トン,レ ッ ドス
ッ ドス キ ン』 が先 住 ア メ リカ
い人 種 的 緊 張,学 園 のrバ ル カ ン化 』 と さ え
感 じ,神 は男 で も女 で もな い との聖 書 の書 き
呼 ばれ る現 象 を 生 み 出 して い るの は悲 しい皮
換 え に も81%が 行 き過 ぎを 感 じて い る.一 方,
肉 で あ る」(55)と い わ ざ るを え な いの が 現 状
で あ ろ う.
男 性 が 職 場 や 学 校 の 同 僚 女 性 に彼 女 らの性 的
VPC論
PC運
魅 力 につ い て 話 す こ とに つ い て は,男 性 の63
%,女
の提 起 す る もの
性 の74%が
動 は,本 来 既 存 の 社会 的 な価 値 の再
う こと につ い て は86%の 黒 人,76%の
点 検 を 提 起 す る もの で あ った.い まだ 日本 で
ニ ッ ク,67%の
はPC論
る.ω7)
を紹 介 した もの は少 な い.だ がPC
論 の紹 介 は,マ ス コ ミに よ る ものが 先 行 して
い る.こ
侮 辱 的 と感 じ,民 族 的,人
種 的 ステ レオ タイ プ に 基 づ い た ジ ョー クを 言
こで は,日 本 で どの よ うにPC論
が
ヒスパ
白 人 が 攻 撃 的 だ と感 じて い
浅 田彰 は,「 マ イ ノ リテ ィの ア イ デ ンテ ィ
テ ィをや た らに振 りか ざ すPC論
議 」 自体 は
受 け止 あ られ て い るの か につ い て,ま ず そ の
不 毛 で あ る と同 時 に,「 過 度 のPCの
概 要 を把 握 す る と と もに その 受容 の あ り方 に
社 会 全 体 の 保 守 化 とな らん で 進 行 して い る ア
つ いて 同 時 に注 目 した い.
メ リカ の状 況 は危 険 」 で あ る と し,日 本 に は
PCを
追求が
運 動 と し七 と らえ る と き,そ れ は そ
「それ を さ らに矮 小 化 した レベ ル で反 復 す る
の展 開 の プ ロセ ス に お いて 強 調 点 を異 にす る
危 険性 」 の あ る こ とを 指 摘 して い る.一 般 社
もの と な る.PCの
会 へ のPCの
る もの は,「
主 張 の 「原 点 」 に着 目す
も と も とPCは
社 会 的弱 者 や少
浸 透 とい う点 で,ア
と比 した場 合 に 「日本 はPCの
メ リカ社 会
過剰 を批 判 す
数 派 へ の 差別 と偏 見 を な く して い こ う とす る
るど ころか,ま だPCが
文 化 多 元 主義 に基 づ く社 会 変 革 運動 」 と して
い う段 階 」で あ る と述 べ て い る.(58!ま ず は
一95一
行 き届 い て い な い と
『人間科学研究』文教大学人間科学部第1
6号
津田が述べるように,人間と社会のありかた
1
9
9
4
年三本松政之・関井友子
。
位
深沢,前掲
について深く考えさせこのように思いを
(
2
1
) 津田,前掲2
), 1
4頁
巡らさせてくれる P Cは,まことに豊かな
『思考の糧~ (
f
o
o
df
o
rt
h
o
u
g
h
t
)J (59) とし
ω 中村徳次「いんぐりっしゅ漫歩 J,朝日
て,その提起するものについてさらなる検討
邸) 小田,前掲
をしていくことが課題となるのではないか.
〔付記〕本研究は,財団法人日本証券奨学財
団の平成 5年度の助成金による研究の一部で
新聞, 1
9
9
4
年 5月2
2日日曜版
ω 小田,前掲
四宮本,前掲
。
位
津田,前掲2
),1
6頁
ある.
仰 津 田 , 前 掲3
), 1
4頁
(
1
) 小田隆裕『政治的公正と多文化主義~ ,
側 津 田 , 前 掲4
),2
2頁
朝日新聞, 1
9
9
3
年1
2月2
4日夕刊
(
2
) 宮本倫好『アメリカ 民族という試練~ ,
側 津 田 , 前 掲4
),2
3頁
筑摩書房, 1
9
9
3
年
, 1
56-164頁
(
3
) 外岡秀俊「ポリテイカル・コレクトネス
論争,米で活性化
弱者への偏見正す動
9
9
2年 7月2
1日夕刊
きJ ,朝日新聞, 1
(
3
0
) 関根政美『エスニシティの政治社会学~ ,
名古屋大学出版会, 1
9
9
4年
, 1
9
9頁
倒荒,前掲
(沼津田,前掲1), 7頁
(却津田,前掲4
),2
6頁
(
4
) 小田,前掲
(甜津田,前掲, 2
1
2
頁
(
5
) 日米パネル討論「日本たたきとポリティ
(
お
) 外岡,前掲
カル・コレクトネス J ,東京読売新聞,
(
話
) 関根,前掲, 2
1
9
頁
(拘宮本,前掲
1
9
9
2
年 6月 1
0日朝刊
(
6
) 小田,前掲
(
沼
) 関根,前掲,
(
7
) (
5
)および本田雅和「差別の根っこはステ
(湖津田,前掲1),
レオタイプ J,朝日新聞, 1
9
9
4年 3月3
1日
朝刊
(
8
) 津田昭夫 r
PC運動と『アメリカの分
裂~ 1
)'
"
"
5
), W書斎の窓~ ,1
9
9
4
年 3月
7・8月号
(
9
) 津田,前掲1),
6頁
(
1
0
) 深沢「アメリカの選択 2
) 価値多様化
2
1
9
頁
7
'
"
"
8頁
側 津 田 , 前 掲2
), 1
2
'
"
"1
3頁
刷
新堀達也「“ P C現象"に繋がる家永裁
判 J,産経新聞, 1
9
9
3
年1
0月2
9日
幽 津 田 , 前 掲2
), 1
3頁
回) 能登路,前掲, 1
1
2
'
"
"
1
1
3頁
幽 津 田 , 前 掲4
),2
4頁
回
) 津田,前掲 3
)
の悩み J,日本経済新聞, 1
9
9
1年 8月 7日
(制外岡,前掲
(
1
1
) 能登路雅子「文化多元主義の行方 J ,蓮
(羽深沢,前掲
賓重彦,山内昌之編『いま,なぜ民族か~ ,
(掛外岡,前掲
東京大学出版会, 1
9
9
4
年
, 9
8頁
1
(
2
) 小田,前掲
(
4
9
) 長坂寿久「米社会再生への新理念 J ,朝
9頁
(13)能登路, 9
(
5
0
) 津田,前掲 4
),2
3頁
(1心津田,前掲1),
9
9
3
年 9月 1
1日夕刊
日新聞, 1
6頁
(
5
U 外岡,前掲
(
1
5
) 荒このみ米黒人社会に『アフリカ主
義~ J ,朝日新聞,
1
9
9
3年 1
1月 2日
(
1
6
) 外向,前掲
1
4
頁
倒能登路,前掲, 1
(羽小田,前掲
(硝荒,前掲
(17)津田,前掲4
),2
5
頁
(5~
津田,前掲1),
1
(
8
) 深沢,前掲
岡
(
高山正之 rpCというアメリカの表現狩
1
(
9
) 津田,前掲1),
6頁
8頁
りJ,諸君~ , 1
9
9
4
年 2月号, 1
5
8頁
- 96-
ポ リ テ ィ カ ル ・コ レ ク ト ネ ス 論 争 に 関 す る 研 究 ノ ー ト
(5の 本 田,前
側
浅 田彰
る 」,r諸
翻
澤 田,前
A.シ
掲
「筒 井 康 隆 氏 は や は り 間 違 っ て い
君 』,1994年7月
佐 伯 啓 思r「
Sブ
考
文
H.ビ
献
ル ー ム,菅 野 盾 樹 訳 『ア メ リカ ン ・マ イ
ア メ リカ ニ ズ ム 」 の 終 焉 』,TB
ア ー ド ・Cサ
馬 場 恭 子rア
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