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橡 ロシア語史

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橡 ロシア語史
2002年度 ロシア語史
第VI話 標準語とロシア語の方言
ロシア語の方言 äèàëåêòíûå ñëîâà
ロシア語には北方言( ñåâåðíîå íàðå÷èå )と南方言( þæíîå íàðå÷èå )という2つの基本
方言があり、その下にさらにお国ことば( ãîâîðû )がある。モスクワを中心とする中部方言
は、第3のグループを構成しているが、これは北の特徴も、南の方言要素も含んでいるという
変わり種である。
どんな方言にあってもロシア語共通の単語が基本にあるのだが、その他に特定地域の住民に
しかわからないことば( ìåñòíûå ñëîâà, äèàëåêòíûå ñëîâà )がある。
[1] 方言の中には、発音については標準語に一致するが、意味が異なるものがある。
ðàçáèòü ïðîöåññ íà ðßä äðîáíûõ îïåðàöèé
行程を多くの細分操作に分割する
äðîáíûé ñòóê êîïûò
*äðîáíûé ìàëü÷èê
小刻みに響くひずめの音
痩せた少年
共通語では「細分化された」とか、「ひんぱんな」という意味を表すのだが、方言では「痩
せた、弱々しい」の意味で使われる。これが意味に関する方言(ñåìàíòè÷åñêèå äèàëåêòèçìû) であり、標準語とは発音が一致するが、意味の異なる単語をさしている。
共通語の ïåòóõ は同時に、方言としても使われる。つまり、北部方言ではニワトリという
類を表わす名称に用いられる一方で、南部方言では雄鳥のことを êî±÷ å ò と呼んでいる。標準
語の ïåòóõ は、北部方言では ïåòóõ + êóðèöà の意味になり、南部方言では ïåòóõ を使わ
ずに êî÷åò という。
[2] ロシアの人々はさまざまな地理的条件の下に生活している。あるものは森林地帯に、
あるものは草原に、またあるものは山岳地帯に、別のものは平野部にというように。このこと
が、彼らの生活や日常になんらかの痕跡を残していく。たとえば。北部地方で住居 (èçáà)は、
地下室をつけて建てられる。そして、地下室の入口は、ãî±ëáåö と呼ばれる。一方、南部では
家 (õàòà) の中には地下室がない。寒気が家の中に入り込んでくる心配がないのだから、その
必要もない。従って、南部にはãîëáåö という単語がない。このように方言とは、一定地域の
住民が話すことばの特性を特徴づけるものでもあるから、このような単語を民俗的な語いと呼
んでいる。
[3] 方言のなかには複数の地域にまたがって使われていても、意味が異なっている場合が
ある。たとえば。クールスク州の âà±ãà は「天秤」だが、タンボフ州では「長竿」を意味して
いる。áóðà±ê という語は、南部方言では「赤かぶ」、北部では「白樺什器」のことをいう。
□ 1 □
北方言と南方言を少しばかり挙げてみよう。前者が北で、後者が南である。
1.
3.
5.
7.
9.
11.
13.
15.
17.
èçáà
êîñóëß
ãàäþê
ñàðàôàí
âîëê
ñëåãà
ñëàáûé
áàèòü
òóåñ
õàòà
ñîõà
êîçþëß
ïîíÞâà
áèðþê
âàãà
êâîëûé
ãóòîðèòü
???
2.
4.
6.
8.
10.
12.
14.
16.
18.
óõâàò
ñêîâîðîäíèê
óòêà
âàðåæêè
ïûðîê
áàñêîé
óïèòàííûé
ïîãîäà
êóëèãà
ðîãà÷
÷àïåëüíèê
êà÷êà
âßçÞíêè
èíäþê
ëè÷ìàíèñòûé
ñïðàâíûé
ïîãîäà
???
[4] また方言のなかには、他の方言には確かにあるのに、ある対象を名指すのに使う単語
が欠如していることもある。たとえば。北部では羊毛皮をいうのに特定の呼び名がないのに対
して、南部ではこの用向きに
âîëíà が使われる。北部では刈り取られたライ麦畑のことを
ðæàíèùå と呼び、カラス麦のそれを îâñßíèùå という。ところが南部ではどんな場合でも
刈り取られれば æíèâî が用いられる。
標準語をマスターしている教養人と方言の話し手が交われば、標準語と方言の間に相互干渉
が起こる。その結果、標準語には方言のいい回しが入り込み、また方言では土地なまりととも
に、同意語として共通語いが使われ始める。方言から標準語に入ってきた語いには、 îòàâà,
ôèëèí, õèëûé, ìßìëèòü などがある。
[5] 帝制ロシアでは住民は基本的に文盲であったから、標準語が方言に影響を与えること
などはほとんどなかった。ところがソビエトの時代になってから標準語は学校やラジオ、出版
メディア、テレビを通じてどんどん広まっている。標準語の普及に伴い、方言的な語いやいい
回しの枠が、ますます狭まっている。方言はもはや、古い世代の人々によって命脈を保ってい
る状態なのだ。共通語で言い換えられるものは、方言から抜けていく。
方言もまた、民族語としてのロシア語の一部なのである。方言のなかにはいまや標準語には
保存されていない、かつての共通語も含まれている。言語学者としては、ことばの発達史を解
明するためにも方言を研究しなければならないと考えている。方言研究に人生を賭けた学者と
してまずウラジーミル・ダーリの名前が、筆頭に挙げられる。彼は、収録語数20万語を誇る
『現用大ロシア語詳解辞典』全4巻を自分一人で作り上げて、その功績により帝室アカデミー
から表彰を受けている。当時のことばを知る上で、またロシアの辞書学に果たした功績の点で
も、ダーリの辞典はロシア人の民族的財産と呼ぶことができる。
ロシア語の方言は、現在も科学アカデミーロシア語研究所によって研究が進められている。
言語学者や学生、教師らが、方言研究のため現地調査に出かける。収集された資料をもとに学
者が地域毎の方言辞典を編纂しており、これが『ロシア語方言辞典』に集大成される運びにな
る。また文学作品などでひんぱんに使われる方言については、辞典に「方言」という意味で
îáë. (îáëàñòíîå ñëîâî) の注記がつけられる。
□ 2 □
方言差の主な特徴
1.無アクセントの[î]
(北)îêàíüå
(南)àêàíüå
[ãîëîâà±]
[ãàëàâà±]
2.有声の後舌子音
(北)[ã Ð ê]
(南)[ã Ð õ]
[íîãà± Ð íîê]
[íàãà± Ð íîõ]
3.子音 [ö],[÷]
(北)[ö = ÷] öîêàíüå
[öà±ñòî], [ëè±öíûé], [íîö]
(南)
4.子音 [j]
(北)[j]が消失
[çíà±ýò], [ìîëîäà±à]
(南)−
5.硬軟子音の対立
(北)硬化
[ãî±ëóï], [êðîô], [ñåì]
(南)−
6.子音の簡素化
(北)同化現象や子音消失
(南)標準語の規範
[îììà±í], [ëà±ííî], [õâîñ]
[àáìà±í], [ëà±äíà], [õâîñò]
7.動詞3人称現在形の軟化
(北)−
(南)軟化
[õî±äèòü], [õî±äßòü]
8.語幹アクセント型動詞の変化
(北)標準語の規範
(南)第1変化型に統合
[ïè±øóòü], [íî±ñþòü]
9.人称代名詞、再帰代名詞
(北)ìåíß, òåáß, ñåáß
(南)ìåíå, òåáå, ñåáå(古形)
10.名詞
(北)ó ñåñòðû
(南)ó ñåñòðå, ê ñåñòðå, î ñåñòðå
□ 3 □
(北)ê ïóñòûì âÞäðàì, ñ ïóñòûì âÞäðàì
(南)ê ïóñòûìè âÞäðàì, ñ ïóñòûìè âÞäðàì
11.後置代名詞の使用
(北)ñòîë-îò, èçáû-òû, æåíó-òó
(南)−
12.アクセントの移動
(北)
[動詞]äà±ðþ, äàðè±øü, äàðèòå±, äàðß±ò
[形容詞]ïî± ñàäó, ïî±ä îñåíü
[前置詞]ãðßçíî±é, ëîâêî±é, êðóïíî±é
(南)
[名詞]ðóêó±, ãóñè±
[動詞]çâî±íèò, âà±ðèò, õî±÷ó, äû±øó, áû±ëà, áðà±ëà, ñïà±ëà
[形容詞]ãó±ñòûé, ðî±äíûé, êðó±òûé
13.名詞
êâàøíß±
äåæà±(方)
ïàõà±òü
îðà±òü(旧)
î±çèìü
çåëåíß±(方)
各地の慣用句
â âå±ðøó âëåçòü
äîæäÞì íå ñìî÷è±òü
òðåçâî±íèòü â ëà±ïîòü
äûì âîäè±òü
áà±éäàêè áèòü
íîñ çàêîïû±ëèòü
íå ñâîäè±òü ãëàç ñ ãëà±çîì
不快な状況に在る(プスコフ地方)
大量に(プスコフ)
おしゃべりする(プスコフ)
無為に過ごす(スモレンスク)
無為に過ごす(スモレンスク)
もったいぶる(ドン)
眠っていない(リャザン)
□ 4 □
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