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シメジ談義

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シメジ談義
Godo Express
Kobore Banashi
印刷こぼればなし
「世の中に 絶えてタラノメ無かりせば 春の心
「茜さす 紫野 行き標野行き 野守は見ずや君が袖
はのどけからまし」
振る」(万葉集・額田王)
右の歌は、ふざけて「桜の」を「タラノメ」に
額田王と言えば元々天武天皇の妃であり、その間に
変えただけである。
女児までもうけているのに、いつの間にか天武の兄の
自然食ブームのせいか、春の野山は山菜狩りの
天智天皇の妃になってしまい、この兄弟二人の天皇は
人出で大賑わい。テレビや新聞で山菜の紹介をす
彼女をめぐって随分ごたごたしたようである。そんな
るのはいいとして、ちゃんとした木の芽の摘み方
事情を踏まえていなければ、この歌は理解できない。
を手ほどきしないため、ここ数年のうちにタラノ
「紫草の花が咲き乱れている野原や御料地の中を馬で
メやコシアブラなどの木々が枯死してゆく惨状は
走り回っているあなたが、いくら元の亭主だったから
目を覆うばかり。
といって、私の方へ向かってそんなに手を振ったりな
とまれ、ようやく山菜の時期の終わった
さると、その辺にいる御料地の番人たち
五月初旬、静かになった近隣の山中で
の目につきますわよ」
小生は多量のシメジを採取した。
というのがこの歌の大意である。
しかも、本シメジである。
この歌に出てくる「標野」とは、
Kunishige Kinoshita
スーパーで売っている「本
シメジ」なるもの、そのほと
一般庶民の立入り禁止地区
の野原のことである。
木下 訓成
んどがヒラタケを人工栽培し
元来「シメジ」という
た偽物である。食品改善ナン
呼称の由来は、湿った地、
トカ団体とか生活改良ナント
つまり「湿地」であろうと
カ婦人団体からよくも苦情が
『シメジ談義』
言うのが大方の学者の意見
出ないものだと、不思議に思っ
であるが、キノコを知らな
ている。
いにも程がある。じめじめ湿っ
小生の採取した本シメジは、本来
た場所などにシメジが発生する筈
は秋のキノコであるが、毎年春にも同じ
雑木林の中で多量に採取している。
がないからである。むしろからから
に乾いた土地にしか生えない。現在は小生一
今年はその採取量が余りに多いので、向こう三
人が唱えているのだが、
「シメジ」の語源は右の歌の「標
軒両隣にお裾分けしましょう、と言う家内の言葉
野」=「標地」、つまり立入り禁止地区からきたもの
を制して曰く。
だと思っている。これほど美味なキノコを庶民に食わ
「待て、待て、キノコを知らない者は、ひょっと
せてなるものか、というわけである。
してこれは毒キノコかも知れないと勘ぐって、せっ
こうやって自分なりにその語源を詮索できればそれ
かくのキノコを捨ててしまうかもしれないではな
なりに愉しいが、さっぱり見当のつかないものもある。
いか」
印刷人なら誰もが日常使っている言葉で「ドンコ穴」
とどの詰まりは、行きつけの赤提灯に持ち込む。
というのがそれである。
この店の主人はその日の午前中に海や山で収穫し
某博士は、これも実はキノコに関係のある言葉で、
た物を料理して食わせてくれる。その名も『山海』
。
シイタケの出来損ないの小さな丸いやつを「ドンコ」
いささか長すぎたが、ここまでが枕。
と呼ぶので、これが「ドンコ穴」の語源だと主張され
るのだが……。
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