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蛋白質核酸酵素:核酸のキャピラリー電気泳動

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蛋白質核酸酵素:核酸のキャピラリー電気泳動
特集 キャピラリー電気泳動
核 酸 の キャピラリー 電 気 泳 動
馬場嘉信
内 径100、μm以
下 の 溶融 シ リカ キ ャ ピラ リー 内 で電 気 泳 動 を 行 な うキ ャ ピ ラ リー一電 気 泳
動 は , 従 来 の ゲル 電気 泳 動 やHPLCと
比 較 して 非 常 に 高 い分 離 能 を有 す る 方 法 と して,
分 子生 物 学 の分 野 にお い て も 注 目を 集 め て い る新 しい 分 離 法 で あ る 。特 に , キ ャ ピ ラ リー
中 に ゲル あ る い は ポ リマー 溶 液 を 満 た した キ ャ ピラ リー 電 気 泳 動 は ,DNAを
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分 解 能 で分 離 で き る と こ ろ か ら, 次世 代 の ヒ ト ・ゲ ノムDNA解
高速かつ高
析 装 置 の有 力 な 候 補 と し
て期 待 され て い る。 本 稿 で は, 核 酸 の新 しい 分 離 法 で あ る キ ャ ピ ラ リー 電 気 泳 動 の 基 礎 を
中 心 に,DNAシ
ー ク エ ン シ ング な ど ヒ ト ・ゲ ノ ム 解析 へ の応 用 に つ い ての 最 新 の 研 究 動
向 を 紹 介 した い 。
は じめ に 核 酸 の分 離 に は, 従 来 , ゲ ル 電 気 泳 動 と
HPLCが
広 く用 い られ て きた が ,最 近 は, キ ャ ピラ リー
に 有 効 で あ る こ と が 明 ら か と な っ て き た8,23 29;)
。こ れ ら
の 方 法 は , ヒ ト ・ ゲ ノ ム 解 析 に お け るDNAの
高速
電 気 泳 動 (capillary electrophoresis) が そ の分 離 能 力 の
シ ー ク エ ン シ ン グ30∼40)
,DNAの
高 さ か ら注 目を 集 め て い る1 7)。種 々 の分 子 量 の 核 酸 を
merase 緩衝 液 の みを 満 た した キ ャ ピラ リー中 で電 気 泳 動 させ る
グ ,DNA診
と,サ イ ズ の小 さい 核 酸 も大 き い核 酸 も同 じ程 度 の移 動
るま で に発 展 して きて い る。 本 稿 で は , 筆 者 らの試 み を
度 で 泳動 し, 核 酸 を 分 離 す る こ と は で き な い8)
。 しか
し, キ ャ ピラ リー中 に ゲル を 充 填 した キ ャ ピ ラ リー ゲル
chain reaction)
多 型 解 析25),PCR(poly-
解 析 , サ ザ ン プ ロ ッテ ィ ン
断 ・鑑 定 へ の 応 用 お よ び 装 置 化 が 検 討 さ れ
中 心 に キ ャ ピ ラ リ ー 電 気 泳 動 に よ るDNA解
析 の 基礎
と応 用 に つ い て 概 説 し た い 。
電 気 泳 動 (capillary gel electrophoresis)5∼7,9∼221を
用い
る と, 幅 広 い分 子量 範 囲 の核 酸 を 非常 に高 い分 解 能 で分
Ⅰ
. 核 酸 の 分 離 に 用 い られ るキ ャピ ラ リ一
離 す る こ とが で きる。 これ は , ゲル マ トリ ッ クス の分 子
ふ るい効 果 に よ り,す ば ら しい分 別能 力 を 発 揮 す る こ と
キ ャ ピ ラ リー電 気 泳 動 の装 置 は , キ ャ ピラ リー以外 に
に起 因 して い る。 た とえば , キ ャ ピラ リー ゲ ル電 気 泳動
は , 高電 圧 装 置 と 検 出器 だ け の 簡 単 な もの で あ る1 4)
。
は ,500塩 基 (b) ま で の1本 鎖DNAを
キ ャ ピ ラ リー は , キ ャ ピラ リー 電 気 泳 動 の心 臓 部 とも い
違 い で わず か30分
,1bの
みの
か ら1時 間 以 内 に分 離 す る こ とが で
え る部 分 で あ り,高 純 度 シ リカ か らで きて お り, 内径 が
きる ほ どの性 能 を 有 して い る。 また , 同 じ方 法 に よ り,
50∼100μm,
50塩
基 対 (bp)か ら20,000bpのDNA断
れ る。 また ,そ の外 側 を ポ リイ ミ ドで コ ーテ ィ ン グす る
bp程
度 の違 い で30分
片 を10
外 径 が150∼400μm程
度 の もの が用 い ら
以 内 に分 離 可 能 で あ る。 さ ら
こ とで , キ ャ ピラ リーが 折 れ に くい よ うに 工 夫 され て い
に ,分 子 ふ るい 効 果 を 有 す る ポ リマ ー溶 液 を 利 用 した キ
る。 核 酸 を 分 離 す る場 合に は , キ ャ ピ ラ リー ゲル電 気 泳
ャ ピラ リー電 気 泳 動 が ,2本 鎖DNA断
動 に お い ては , キ ャ ピ ラ リー中 に ポ リア ク リル ア ミ ドな
Yoshinobu College
Capillary
Baba,神
of
片 の 高速分離
戸 女 子 薬 科 大 学 薬 学 部
(〒658神
戸 市 東 灘 区 本 山 北 町4-19-1)
Pharmacy,Motoyama,Kitamachi,Higashinada-ku,Kobe
Electrophoresis of Nucleic
[Department
of Chemistry,Kobe
Womett’s
658,Japanコ
Acids
【キ ャ ビ ラ リー 電 気 泳 動 】 【DNA解
析 】 【ヒ ト ・ゲ ノム解 析 】
2243
20
蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol38No.13(1993)
どの ゲル を充 填 した , ゲ ル充 填 キ ャ ピ ラ リー が 用 い ら
れ9 22),ポ リマ ー溶 液 を 利 用 した キ ャ ピ ラ リー 電 気 泳 動
で は , 内壁 を化 学 修 飾 した キ ャ ピラ リー が お も に用 い ら
れ る8,23 29)。
ゲル充 填 キ ャ ピ ラ リー に は , ポ リア ク リル ア ミ ドゲル
が お もに用 い られ て お り, ポ リア ク リル ア ミ ドゲル充 唄
キ ャ ピ ラ リー の調 製 は, お も に2種 類 の方 法 で行 なわ れ
て い る。 これ ら は ,① キ ャ ピラ リー 内壁 を前 処 理 した の
ち , ア ク リル ア ミ ドを キ ャ ピラ リー 内 で ゲル化 し, キ ャ
ピ ラ リー 内壁 の シ ラノ ー ル基 とゲ ル化 した ポ リア ク リル
ア ミ ドの一 部 を化 学 結 合 させ る 方 法9,10)
, ② キ ャ ピラ リ
ー 内 壁 を未 処 理 の ま ま ア ク リル ア ミ ドを キ ャ ピ ラ リー 内
で ゲル化 す る方 法11,12),
で あ る。 これ ら の方 法 は , キ ャ
ピ ラ リー 内壁 の前 処 理 を 行 な うか 否 か の違 い のみ で, ほ
とん どは共 通 の操 作 を 行 な う。
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方 法 ① では , 以 下 の手 順 で, ゲ ル充 填 キ ャ ピ ラ リーを
図1.
キ ャ ピ ラ リー中 に 溶 液 を 通 す 装 置
(文 献11よ
調 製 す る。 方 法 ② で は,以 下 の 手 順 の うち,(2) を省 略
り引 用 )
す れ ば よい。
(1) 内径50∼100μmの
10∼100cmに
キ ャ ピ ラ リー を適 当 な長 さ
切 る。キ ャ ピラ リー の外 側 に コー テ ィ ン
キ ャ ピ ラ リー 中 に安 定 に存 在 で き る。 し た が っ て ,1
本 の ゲル充 填 キ ャ ピ ラ リー で100回
程度 く り返 し て
グ して あ る ポ リイ ミ ドを は が して ,適 切 な位 置 に検 出用
DNAを
の 窓 を あ け る。
か か るな どの欠 点 が あ る。 ② の方 法 は 非 常 に簡 便 で あ る
(2) キ ャ ピラ リ ー に0.1MNaOH水
分離 す る こ とが で き る。 しか し, 調 製 に 時間 が
溶液を通す。
が , キ ャ ピ ラ リー 中 で ゲル が 安 定 に存 在 で き ない の で ,
さ らに ,二 官 能 基 を 有 す る試 薬 [3-メタ ク リ ロキ シ プ ロ
20回 程 度 の く り返 し測 定 しか 行 な うこ とが で きな い。
ピル トリメ トキ シ シ ラ ン :
キ ャ ピ ラ リー ゲル電 気 泳動 の 場 合 は , キ ャ ピラ リー 内壁
CH2=C(CH3)−OCO−
(CH2)3−Si(OCH3)3]
溶液 を キ ャ ピラ リー に通 し, 数 時 間 放 置 す る。 そ の後 ,
の化 学 修飾 は , ゲ ル充 填 キ ャ ピ ラ リー の安 定 性 に は影 響
す るが ,核 酸 の分 離 に は ほ とん ど影 響 を 与 え な い。
メ タ ノー ルお よび 水 でキ ャ ピラ リー 内 を洗 浄 す る。
ポ リマ ー溶 液 を利 用 した キ ャ ピラ リー電 気 泳 動 で は ,
(3) ア ク リル ア ミ ド の 保 存 溶 液 (40%T,0∼5%
内 壁 の シ ラ ノー ル基 を非 架 橋 ポ リア ク リル ァ ミ ドな どで
C) お よび緩 衝 液 を調 製 す る。
(4) ア ク リル ア ミ ド溶 液 を緩 衝 液 で 希 釈 し,DNA
の サ イ ズ に あわ せ て適 当 な ゲ ル濃 度 に調 節 す る。
(5)
この溶 液 を超 音 波 で よ く脱 気 した 後 ,過 硫 酸 ア
化 学 修 飾 した キ ャ ピ ラ リー が 用 い られ る8,2329)。
キ ャ ピ
ラ リー内壁 を化 学 修 飾 す る際 に は , 図2に 示 す よ うに ,
二 官 能 基 を有 す る試 薬 (3-メタ ク リ ロキ シ プ ロ ピル トリ
メ トキ シ シ ラ ン) を介 して, 非 架 橋 ポ リア ク リル ア ミ ド
ンモ ニ ウム とテ トラメ チ ル エ チ レ ン ジア ミン (TEMED)
とシ ラ ノ ール基 を化 学 結 合 さ せ る41)。ま た , 市 販 の化 学
を 加 え て, キ ャ ピ ラ リー中 に通 す 。
修 飾 キ ャ ピ ラ リー を使 用 す る こ と も で き る。 化 学 修 飾 し
(6) ゲ ル化 が 終 了 す る ま で 数 時 間 か ら一 夜 放置 す
る。
キ ャ ピラ リーに 溶 液 を 通 す 場 合 に は ,図1に 示 す よ う
な ,簡 単 な 装 置 を 用 い る。 こ の装 置 の三 角 フ ラ ス コを ア
てい な い キ ャ ピ ラ リー を用 い て , 核 酸 の分 離 を行 な う こ
と も可 能 で あ るが ,化 学 修 飾 した キ ャ ピラ リーを用 いた
場 合 と比較 して核 酸 の分 離 能 が 低 下 して しま う8)。
これ らの キ ャ ピラ リー に よ り核 酸 を 分 離 す る際 に は ,
ス ピ レー タで 減圧 す れ ば , キ ャ ピ ラ リー に溶 液 を満 た す
緩 衝液 と して,100mM程
こ とが で きる。 以 上 の よ うな方 法 で , ゲ ル充 填 キ ャ ピラ
液 (pH8程
リーを 調製 す る こ とが で きる。 方 法 ① で は , 用 い た 二 官
剤 と して尿 素 , ホ ル ム ア ミ ドな どが 用 い られ る。 ゲル充
能 基 を 有 す る試 薬 を介 して ポ リア ク リル ア ミ ドゲ ルの 一
填 キ ャ ピラ リー の場 合 のサ ン プル 注 入 の際 には , キ ャ ピ
部 とキ ャ ピラ リー の 内壁 が化 学 結 合 す るた め に , ゲル が
ラ リー の一 端 と陰 極 側 の電 極 を サ ン プル チ ュ ー ブに両 方
2244
度 の トリスーホ ウ酸-EDTA溶
度 ) が お もに用 い られ , 必 要 な らば, 変 性
21
核 酸 の キ ャ ピ ラ リー 電 気 泳 動
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図2.
入 れ ,5∼10kVの
電圧 を1∼10秒
非 架 橋 ポ リア ク リル ア ミ ドに よ る キ ャ ピ ラ リー内 壁 の 化 学 修 飾
間 印 加 して,電 気 泳
動的 に行 な う。 ポ リマ ー溶 液 を利 用 した キ ャ ピ ラ リー 電
気 泳 動 で は , サ ン プル注 入 は ,電 気 泳 動 法 以 外 に 加 圧 法
あ るい は 吸 引 法 に よ り行 な う こ とも で き る。 核 酸 の検 出
は ,HPLCと
同様 のUV検
出 器 に よ り, 泳 動 して きた
DNAの260nm付
近 の 吸収 を モ ニ タ ーす る。UV検
器 は ,DNAの
マ ー カ ー な どの標 準 試 料 を 検 出 す るに は
充 分 で あ るが , ヒ ト ・ゲ ノムDNAを
出
解 析 す るた め に
は検 出 感 度 が低 す ぎる の で , レー ザ ー蛍 光 検 出 器 な ど の
高 感 度 検 出法 を 採用 した キ ャ ピ ラ リー電 気 泳 動 の 装 置 化
が検 討 さ れ て い る。
Ⅱ
. ゲ ル お よび ポ リマ ー 溶液 中 で の泳 動
ゲル電 気 泳 動 に お け る核 酸 の分 離 は , 分 子 ふ るい 効 果
に よ り達 成 され る。 そ の メカ ニ ズ ムは , 核 酸 のサ イ ズ と
ゲル マ ト リッ クス の ボ ア の大 き さ の関 係 に よ りい くつ か
の領 域 に分 類 さ れ る こ とが知 られ てい る42 46)。
そ れ らの
うち , キ ャ ピ ラ リー ゲル電 気 泳動 に関 連 して い る のは ,
図3に 示 す2つ の 領域 :オ グス トン領 域42 44)と レプ テ
ーシ
ョン領域45,46)
であ る。
オ グス トン領 域 (図3a)
に お いて , 核 酸 は, 球 状 に
近 似 す る こ とが で き, レプ テ ー シ ョン領 域 (図3b)
の
よ うに ,核 酸 と ゲル マ ト リヅ クスが 絡 み 合 うよ うな 現 象
図3.2つ
の領 域 (a: オ グ ス トソ領 域 ,b: レプ テ
ー シ ョン領 域 ) で の ゲル マ トリ ッ クス 中 (
細 線)
にお け るDNA(
太線) の挙動
は起 こ らな い。 オ グス トン領 域 で の核 酸 のサ イ ズ (N)
と電 気 泳 動 の移 動 度 (μ) との関 係 は , 式 (1) で表 わ
こ こで, μ0は 自由 溶液 中 (ゲル が 存在 しな い場 合 ) で
の核 酸 の移 動 度 ,Cは 比 例 定 数 ,Tは ゲ ル濃度 で あ る。
され る36)
。
Inμ=1nμ0-CNT(1)
図4に 示 す よ うに,DNAの
サ イ ズ が 小 さい とき は, 核
2245
22
蛋 白 質 核 酸 酵 素 図4.DNAフ
Vo138No.13(1993)
ラ グ メ ン トの サ イ ズ と 電 気 泳 動 移 動 度
と の 関 係
電 場
:■ :50, ▲ :100.◆
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(文 献36よ
:150,
● :200,
□ :400V/cm
り引 用 )
酸 の 泳動 挙 動 は , オ グス トンモ デル に よ く一 致 して い る
こ とがわ か る。 しか し,DNAの
サ イ ズが 大 き くな るに
つ れて ,移 動 度 は ,式 (1) の 直 線 か らの ず れ が 大 き く
な り, しか も, 泳 動 挙 動 の電 場 依 存 性 が み られ る よ うに
図5.DNAフ
ラグ メ ン トの フ ァ ー ガ ソン プRッ
数 字 は 塩 基 数 (文献19よ
り引 用 )
ト
な る。 こ の よ うな 領 域 が , レプテ ー シ ョン 領 域 と よ ぼ
れ ,DNAの
泳 動挙 動 は, 式 (2) で表 わ され る46)
。
る。 これ らの直 線 の傾 きか ら,KRの
で き る。 以上 よ り, 比較 的 サ イ ズ の小 さ いDNAフ
(2)
μ=a(1/N+bE2)
値 を求 め る こ とが
ラ
グ メ ン トの キ ャ ピラ リー 中 で の泳 動 挙 動 は , オ グス トン
こ こで ,aお よ びbは 定 数 ,Eは 電 場 で あ る。 キ ャ ピ
モ デ ル に従 うこ とか ら, そ れ ぞれ の フ ラ グ メ ン トのKR
ラ リー電 気 泳動 を用 いた 場 合 の , レプ テ ー シ ョ ン領 域 で
の 値 か ら泳 動 時間 を 予測 す る こ とが 可 能 で あ る。 た だ
の 核酸 の 泳 動挙 動 に つ い て は , あ ま り検 討 され て い な い
し, フ ラ グ メ ン トの サ イ ズ とKRの
の で , こ こで は , オ グス トン領 域 に焦 点 を絞 る こ とにす
だ ほ とん ど検 討 され て い な い 。
る。
関係 につ いて は ま
同様 の分 子 ふ るい 効 果 は , ポ リマ ー溶 液 を利 用 した キ
お く と,Ferguson47)
ャ ピラ リー電 気 泳 動 にお い て も期 待 さ れ る 。 ポ リマ ー溶
に よ り実験 的 に 見 い だ され て い る 関 係式 に対 応 させ る こ
式 (1) に お け るCNをKRと
液 を用 い て, 分 子 ふ る い効 果 を得 る に は , ポ リマ ー ど う
とが で き る。
しが溶 液 中 で絡 み 合 うよ うな 条 件 を設 定 す る 必 要 が あ
る26)
。 図6Aに
(3)
lnμ=lnμ0-KRT
示 す よ うに, ポ リマ ー の濃 度 が希 薄 な 溶
液 で は , ポ リマ ー間 の相 互 作 用 が ほ とん ど起 こらな い 。
こ こ で ,KRは
あ る。 式
遅延係数
(retardation
coefficient)
で
(3) を キ ャ ピ ラ リー 電 気 泳 動 で よ く 用 い ら れ
る泳 動 時 間
(の
で 表 わ す と, 式
(4) が 得 ら れ る 。
(4)
l nt=lnt0+KRT
こ こで ,t0は
自由 溶液 中 で の 核 酸 の 泳 動 時 間 で あ る。
キ ャ ピ ラ リー ゲル 電 気 泳 動 に お け る1本 鎖DNAフ
ラ グ メ ン トの フ ァ ー ガ ソ ン プ ロ ッ トを 行 な った 例 を 図5
に示 す 。10bの
サ イ ズ のDNAか
これ に対 して, 図6Cに
越 えた ポ リマ ー溶 液 で は , ポ リマ ー問 の 絡 み合 いが 起 こ
り, ゲル の場 合 と同様 の分 子 ふ るい 効 果 を 示 す よ うにな
る。 ポ リマ ー の絡 み 合 いが 起 こる 条 件 を 決 定 す る 因 子
は , ポ リマ ー のサ イ ズ と濃 度 であ る。 ポ リマ ーのサ イ ズ
をn, 絡 み 合 い が起 こ り始 め る ポ リマ ー の体 積 分 率 の 閾
値 を φ*とす る と, そ の 関 係 は, 式 (5) の よ う に な
る26)
。
ら200bのDNAま
φ *・=n-0・8
で そ れ ぞれ , 良好 な直 線 関 係 が得 られ て い る こ とがわ か
2246
示 す よ うに,あ る一定 の濃 度 を
(5)
核酸の キャピラ リー電気泳動
23
で あ る。 キ ャ ピ ラ リーを 用 い た 場 合 の最 大 の利 点 は ,従
来 法 に比 べ て高 い電 圧 が 印加 で きる の で ,核 酸 の分 離 能
が 増 大 しか つ 分 析 時 間 が短 縮 で き る とこ ろ に あ る。 た と
え ば ,キ ャ ピ ラ リー電 気 泳 動 で は,10,000∼30,000Vも
の 電 圧 を か け る のに 対 して, 従 来 の ゲ ル電 気 泳 動 では ,
100∼1,000V程
度 の 電圧 で泳 動 を 行 な う。これ は, キ ャ
ピ ラ リー電 気 泳 動 で は ,高 電 圧 の下 で発 生 す る ジュー ル
熱 を 効 果 的 に放 熱 す る こ とが で き る こ と に起 因 し て い
る。
Ⅲ
. 核 酸 の 分 離 条件 設 定 の ガ イ ドラ イ ン
ポ リア ク リル ア ミ ドゲルを 充 填 した キ ャ ピラ リーは ,
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1本 鎖 お よび2本 鎖DNAの
分離 に用 い られ る。DNA
の分 離 に 影 響 を 与え る主 要 な 因 子 と し て は, ゲル 組
図6.
ポ リマ ーが 溶 液 中 で絡 み 合 う条 件
A: 閾 値 よ り低 い濃 度 ,B: 閾 値 と同 程度 の濃 度 ,
C: 閾 値 よ り高 い濃 度 。
成9 13,19)
, 電 圧9 13,18,19)
キ ャ ピラ リーの長 さ9,10)
, キャ
ピ ラ リーの 温 度15,21)
, 緩衝 液 組 成17,22)
,DNAの
こ の式 に よ り,分 子 量192,000の
ハ イ ドロキ シ エ チ ル
セ ル ロー ス の閾 値 を計 算 す る と,n=1026と
φ*=0.39%と
な る の で,
な る26)
。 これ は,次節 で述 べ る,分 離 条 件
塩基組
成16,20)
な どが あげ られ る。 図7に キ ャ ピ ラ リー ゲル 電 気
泳 動 に よるDNAの1本
7の
鎖 断 片 の分 離 の例 を 示 す11)
。図
分 離 条 件 は , ゲ ル 組成 (5%T,1.5%C)
,電圧
と よ く一 致 して い る。 ポ リマ ー の絡 み合 いが 起 こる濃 度
(200v/cm,10kv) , キ ャ ピ ラ リ ー の 長 さ (全 長50
に お け る核 酸 の 泳 動 の メカ ニ ズ ムは , キ ャ ピラ リーゲ ル
cm, サ ンプ ル注 入側 か ら検 出 器 ま で30cm)
電 気 泳動 の場 合 と同様 に , オ グス トン領 域 と レプ テ ー シ
リー 温 度 (30℃) で あ る。 こ の 条 件 下 で は , オ リゴ
ョ ン領 域 に分 類 さ れ26)
, 核 酸 の泳 動 挙 動 はそ れ ぞ れ の理
DNAか
論 式 に従 う。
に分 離 され て い る。
キ ャ ピ ラ リー 中 を泳 動 す る核 酸 の バ ン ド の 広 が り
(σ2T)
は , 式 (6) で表 わ され る36)
。 この広 が りを効 果
的 に抑 えー
こ とが
とか
きれば ,高 分 解 能 の分 離 を達 成 す る
き る。
(6)
こ こ で,σ2Injは サ ン プル 注 入 時 の 広 が り,σDetは
検 出部 分 を サ ンプ ルパ ン ドが通 る とき に生 じる広 が り, .
σ2Thermは キ ャ ピラ リー 中 の温 度 勾配 に よ る 広 が り,
2Diffは サ ン プル の拡 散 に よ る広 が りであ る
σ
。 これ ら の
パ ラ メ ー タ の うち, 電 場 が 低 い 場 合 (200V/cm以
下)
は, σ2Injお よび σ2Diffが 核 酸 のバ ン ドの 広 が りを 決
定 す る重 要 な因 子 で あ る。 電 場 が 高 くな る と (200v/cm
項 が 重要 に な る。 これ に 対
でが ,100分
以 内 に 完全
次 に , 図8の 例 で は , ゲ ル濃 度 を3%Tに
300v/cmへ
と変 化 させ て,DNAの
る19)。こ の例 に 示 す よ う に,10b程
350bのDNAま
σ2T= σ21+et+σ2Therm+σ2Diff
以 上 ), 相 対 的 にσ2Thermの
ら450bのDNAま
, キ ャピラ
でが ,1bの
, 電圧 を
分 離 を 行 な って い
度 のDNAか
ら
み の 違 い で完 全 に分 離 さ
れ て い る。 さ らに ,分 析 は, わ ず か24分
で終 了 して お
り, 図7の 例 に比 べ て, よ り高 速 化 を 達成 して い る 。 こ
れ らの例 で は ,理 論 段 数 が,1000∼2000万
段 に も達 して
い る。 この こ とは , キ ャ ピ ラ リ ー 電 気 泳 動 がHPLC
(
数 十 万 段 ) お よび ス ラ ブ ゲル 電 気 泳 動 (500万 段 )に 比
較 して ,著 し く高 い分 離 能 を もつ こ とを 示 して い る。 さ
らに , ゲル濃 度 を適 切 に設 定 す れ ば ,1bの
分 離 を1秒
以 内 に行 な う こ とも可 能 であ る19)
。
これ らの例 にみ られ る よ うに , ゲル 濃 度 と電圧 は分 離
条 件 を検 討 す る際 の最 も重 要 な 因 子 とな る。 これ らの条
して, いず れ の場 合 も σ2Detは 無 視 で き る ほ ど に 小 さ
件 とDNAの
い 。 これ ら の こ とを 考 慮 に いれ て, で き るだ け 高 い分 離
が な され て お り,条 件 選 択 の ガイ ドライ ンが提 唱 され て
能 を 得 る こ とが で き る実 験 条 件 を 設定 す る必 要 が あ る。
こ の よ うに, キ ャ ピラ リー ゲ ル電気 泳動 にお け る核 酸
の分 離 の メカ ニ ズ ムは ,従 来 の ゲル電 気 泳 動 とほ ぼ 同 様
分 離 に 関 しては , す で に い くつ か の 報 告
い る6,7)
。 そ れ に よる と,1本 鎖DNAを
合 , ゲル 濃 度 が3%
分 離 す る場
の とき50∼1,000bのDNAが
分
離 可 能 であ り,5% で20∼500b,8%0で10∼300bの
2247
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24
蛋 白 質 核 酸 酵 素 図7.
キ ャ ピ ラ リー ゲ ル 電 気 泳 動 に よ る1本 鎖DNAフ
ピ ー クの 上 の 数 字 は 塩 基 数 。 条 件 は本 文 参 照 。
(
文 献11よ
図8.
ラ グ メ ン トの 分離
り引用 )
キ ャ ピ ラ リー ゲ ル 電 気 泳 動 に よ る1本 鎖DNAフ
ピー クの上 の 数 字 は塩 基 数 。 条 件 は 本 文 参 照 。
(文 献19よ
2248
Vol38No.13(1993)
り引 用 )
ラ グ メ ン トの分 離
25
核 酸 の キ ャ ピ ラ リー 電 気 泳 動
表1.
2本 鎖DNAの
各 ポ リア ク リル ア ミ ド濃 度 にお け る分 離 可 能 な
1本 鎖DNAの
塩 基 数 (b) お よび2本 鎖DNA
分 離 条 件 選 択 の際 の ガイ ドライ ン に つ
い て は,1本 鎖DNAの
の塩 基 対 数 (bp)
DNAを
場 合 とほぼ 同 様 で あ る。2本 鎖
分 離 す る場 合 の キ ャ ピ ラ リーゲ ル 電気 泳動 の 分
離 条 件 は以 下 の よ う に な る 。 ゲル濃 度 が3%の
100∼10,000bpのDNAが
50∼5,000bp,8%
で10∼1,000bpが
分離 可能 なDNA
のサ イ ズ で あ る。 そ の他 は ,1本 鎖DNAの
であ る。 表1に2本
DNAが
cmの
分離 可 能 で あ る。 電 場 の 強 度 は,200∼400V/
100cm程
塩 基 対 数 と 一 般 的 に用
こ の よ うに, ポ リア ク リル ア ミ ドゲル を用 いた キ ャ ピ
度 の も のを 用 い る。 キ ャ ピ ラ リ ー の 内径 は
範 囲 で あれ ば 分 離 には影 響 しな い。 キ ャ
ラ リー ゲ ル電 気 泳 動 は ,核 酸 の 分 離 に きわ め て有 効 で あ
るが , さ ら に, ヒ トゲ ノ ムの よ うに巨 大 なDNAを
解析
ピ ラ リー温 度 が 高 い ほ ど,分 析 時 間 は短 くな る15,21)
。表
す るた め に, よ り分 離 性 能 の 高 い ゲル の開 発に 興 味 が も
1に1本
た れ て い る。 しか し, 現 状 で は , ポ リア ク リル ア ミ ドゲ
鎖DNAの
塩 基 数 と一 般 的 に用 い られ る ポ リ
ア ク リル ア ミ ド濃 度 との関 係 を示 す 。
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鎖DNAの
場 合 と同様
い られ る ポ リア ク リルア ミ ド濃 度 との 関係 を示 す 。
範 囲が 適 当 で あ り, キ ャ ピラ リー の 長 さは10∼
50∼100μmの
とき
分 離 可 能 で あ り,5%0で
ル以 外 に は, ア ガロー ス ゲル14)
あ るい は非 架橋 ポ リア ク
次 に , キ ャ ピ ラ リー ゲ ル電 気 泳動 に よるDNAの2
リル ァ ミ ド13,38,39)
な どが 検 討 さ れ て い るの み で あ る。 ア
本鎖 断 片分 離 の 例 を 図9に 示す13)
。 図9は ,500bpの
ガ ロー ス ゲ ル は あ ま り有 効 性 は 見 い だ せ て い な い が ,非
PCR生
架 橋 ポ リア ク リル ア ミ ドは , ゲ ル充 填 キ ャ ピ ラ リー を調
成 物 と1kbpDNAラ
ダ ーサ ンプ ル の混 合 物 を
分 離 した例 で あ る。 分 離 条 件 は,fr`ル組成 (3%T,0.5
), 電 圧 (200V/cm,10kV)
(
全 長50cm,
製 す る のが 容 易 でか つ 分 離 能 も良 い こ とか ら,最 近 は ,
, キ ャピラ
%Cリー の長 さ
サ ンプ ル注 入側 か ら検 出器 ま で30cm)
,
キ ャ ピ ラ リー温 度 (25℃) で あ る。 こ の 例 で は,75bp
か ら12,216bpま
に20分
で のDNA断
片 の 混合 物 が ほぼ 完 全
程 度 で分 離 され て い る。 しか も, ス ラ ブ ゲ ル電
気 泳 動 で は 分 離 困難 な500,506お
DNAで
よ び517bpの
ポ リア ク リル ア ミ ドゲ ル の代 わ りに 非 架 橋 ポ リア ク リル
ア ミ ドを 使 用 す る こ とが 多 くな って きて い る。 さ らに 高
い分 離 能 を 得 るた め に, ポ リア ク リル ア ミ ドゲル あ る い
は非 架 橋 ポ リア ク リル ア ミ ドに 代 わ る新 規 ゲル の 開発 が
待 た れ る と ころ であ る。
キ ャ ピラ リー ゲ ル電 気 泳 動 は , 核 酸 を 高 い 分解 能 で分
さえ も 完全 に分 離 され て い る。 この例 で も 明 ら
離 す る こ とが で き るが , ゲル 充 填 キ ャ ピラ リーを 調製 す
か な よ うに, キ ャ ピ ラ リ ー ゲ ル 電 気 泳動 は,2本 鎖
る のが 煩 雑 で あ る。 最 近 は ,ゲ ル の代 わ りに誘 導体 化 セ
DNAの
ル ロー ス な どの ポ リマ ー溶 液 を 用 いた キ ャ ピラ リー電 気
分 離 に お い て も非 常 に 高 い分 解 能 を もち , か つ
分 析 時 間 も きわ め て短 くてす む。 した が っ て,PCR生
泳 動 で も,分 子 ふ る い効 果 に よ る2本 鎖DNA断
成 物 のサ イ ズを 正 確 にか つ 速 く決 定 す る こ とが で き る。
分 離 が可 能 で あ る こ とが わ か り, ゲ ル充 填 キ ャ ピ ラ リー
片 の
を調 製 す る手 間 が省 け る の で, さか ん に
行 な わ れ る よ う に な っ た8,23 29)。
ポ リマ ー 溶 液 を 利 用 した キ ャ ピ ラ リ ー
電 気 泳 動 に よ るDNAの2本
の 例 を 図10に
DNAラ
鎖断片分離
示 す29)。 図10は1kbp
ダ ー を 分 離 した 例 で あ る 。 分 離
条 件 は ,0.5%0メ
チ ル セ ル ロー ス, 電 圧
(200V/cm,10kV)
, キ ャ ピラ リーの 長
さ (全 長50cm,サ
出 器 ま で30cm)
ンプ ル注 入 側 か ら検
, キ ャ ピ ラ リ ー 温 度 (室
温 ) で あ る 。 キ ャ ピ ラ リー の 内 壁 は 非 架
橋 ポ リア ク リ ル ア ミ ドで 化 学 修 飾 し て あ
図9.
キ ャ ピ ラ リー ゲ ル 電 気 泳 動に よ るPCR生
成 物 (500bp) と
2本 鎖DNA分
子 量 マ ー カ ーの 分 離
ピー クの 上 の 数 字 は 塩 基 対数 。 条件 は 本 文 参 照 。
る 。 こ の 例 で は ,75bpか
ま で のDNAの
ら10,180bp
混 合 物 が18分
以 内 で完
2249
26
蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol38No.13(1993)
ヤ ピ ラ リーの 内 径 は50∼100,μm程
度 の も のを 用 い る
が , この 範 囲 で あれ ば分 離 に ほ とん ど影 響 しな い。 表2
に2本 鎖DNAの
塩 基 対 数 と一 般 的 に用 い られ る 誘 導
体 化 セ ル ロ ース濃 度 との関 係 を 示 す 。
Ⅳ
. ヒ ト・ゲ ノ ム 解 析 計 画 に お け る
キ ャピ ラ リー電 気 泳 動 の応 用
ヒ ト ・ゲ ノ ム解 析 は ,医 学 ,生 命 科 学 の分 野 に とど ま
らず , 有 用 物 質 の発 見 や 新 薬 の開 発 な ど科 学 ・産 業 ・社
会 へ の 膨 大 な波 及 効 果 が 期 待 され て い る。 しか し, こ の
計 画 の達 成 に は ,30億bpあ
図10.0.5%
DNAフ
DNAを
メチ ル セ ル ロ ース 溶 液 を 利 用 した2本 鎖
ラ グ メ ン トの 分 離
か って い る。 この情 報 量 は, 約20年
ピー クの 上 の 数 字 は 塩 基 対 数 条 件 は本 文 参 照。
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(文 献29よ
る といわ れ て い る ヒ トの
す べ て正 確 に解 読 す る とい う難 事 業 が立 ち はだ
に 匹 敵 し, 最新 のDNA解
り引用 )
分 の新 聞 の文 字 数
析 装 置 を も って して も ,解 読
に は 数 十 年 要 す る といわ れ て い る。 した が っ て , ヒ ト ・
全に 分 離 され て い る。また ,10,000bp以 上 のDNAの
分
離 も不 完 全 で は あ るが 達 成 され て い る。 この例 で も明 ら
ゲ ノム解 析 計画 の 成 否 を 握 る鍵 と して, 新 し いDNA
解 析 装 置 の 開発 が待 ち望 まれ て い る。
か な よ うに, ポ リマ ー溶 液 を 利 用 した方 法 は キ ャ ピ ラ リ
キ ャ ピ ラ リー電 気 泳 動 は , 今 ま で の分 離 法 に なか った
ー ゲ ル電 気 泳 動 よ り分 離 能 力 は 若 干 劣 る もの の ,10,000
ほ ど高 い 分 解 能 で核 酸 の分 離 を行 な う こ とが で き る こ と
bp程
度 ま で の2本 鎖DNAに
つ い て は 高 い分 解 能 を も
が 明 らか とな った。 した が っ て, 従 来 , ス ラ ブ ゲ ル 電
ち ,か つ 分 析 時 間 も きわ め て 短 くて す む こ とがわ か る。
気 泳 動 が利 用 され て いた ,DNAシ
しか も , ゲ ル充 填 キ ャピ ラ リーを調 製 す る必要 が な い の
RFLP解
で, 今後 ,2本 鎖DNAの
ピ ラ リー電 気 泳 動 が応 用 され 始 め た ◎ キ ャ ピ ラ リ ー 電
高 速 分離 法 と して普 及す る も
の と思 わ れ る。
ー ク ェ ン シ ン グ,
析 ,サ ザ ンプ ロ ッテ ィ ン グな どの分 野 で も キ ャ
気 泳 動 の 応 用 と して現 在 最 も重 要 視 さ れ て い る の は,
この方 法 で使 用 され る ポ リマ ー と して は , メチ ル セ ル
DNAの
高 速 シ ー クエ ンシ ン グ法 の開 発 で あ る。 従 来 法
ロー ス , ヒ ドロキ シ プ ロ ピル メチ ルセ ル ロ ース , ヒ ドロ
で のDNAシ
キ シエ チ ル セ ル ロー ス, ア ガ ロー スな どが あ る。 ポ リマ
に よ るDNAの
ー溶 液 を利 用 した キ ャ ピラ リー電 気 泳 動 で は , ポ リマ ー
が あ った。 特 に , ヒ ト ・ゲ ノ ム解 析 計 画 で検 討 され て い
ー クエ ンシ ン グは, ス ラ ブ ゲ ル 電 気 泳 動
分 離 に時 間 が か か りす ぎ る とい う 欠 点
の種 類 と濃 度 が 分 離 条 件 を 検 討 す る際 の 最 も重 要 な 因 子
る, ヒ トDNAの
とな る。2本 鎖DNAを
時 間 の うち に解 析す る に は, 従 来 法 は適 して い な い。 そ
分 離 す る場 合 には ,分 離 条 件選
択 の際 の ガ イ ドラ イ ンは ,以 下 の よ うに な る。 誘 導 体化
セ ルロー ス で は, ポ リマ ー濃 度 が0.2∼0.5%の
50∼10,000bpのDNAが
で は1∼2%
とき ,
分 離 可 能 であ り,ア ガ ロー ス
で50∼1,000bpのDNAが
る。 電 圧 は200∼400V/cmの
ピラ リー の長 さは20∼100cmの
分 離 可能 で あ
範 囲が 適 当 で あ り, キ ャ
範 囲 が 適 当 であ る。 キ
こで , キ ャ ピ ラ リ ー 電 気 泳 動 の 高 速 性 をDNAシ
ー
クエ ン シ ン グに活 か そ うと さ ま ざ ま な試 み が な され て い
図11にDNAシ
ー クェ ン シ ン グの一 例 を示 す35》
。シ
ー クエ ン シ ン グの際 には ,DNAを
検 出 す るた め に,
.レ
ー ザ ー蛍 光 法 が 適 用 され て い る
。 しか も,DNAのA,
類 の塩 基 は , そ れ ぞれ4種 類 の蛍 光 波
長 の異 な る 試 薬 に よ る ラベ ル 化 され て い る の で , そ の
4色 の 蛍 光 を 同 時 に 検 出 で き る 装 置 が 開 発 さ れ て い
る82,34・35)
。 図11に
示 す よ うに, キ ャ ピ ラ リー 電 気 泳
動 を 用 い れ ば ,500bま
で のDNAの
分 以 内 に解 読 で き る。 図11の
(6%T,5%C)
2250
を短
る30 40)。
G,C,Tの4種
表2. 各誘導体化 セルロー ス濃度におけ る分離可能な
2本 鎖DNAの
塩 基対数 (bp)
よ うに 巨大 なDNA(30億bp)
遺 伝 情 報 を100
分離条件 は, ゲ ル 組成
, 電 圧 (150v/cm,6kv)
, キ ャピラ リ
27
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核 酸 の キ ャ ピ ラ リー電 気 泳 動
図11.
一の 長 さ (
全 長41cm
キ ャ ピ ラ リー ゲル 電 気 泳 動 に よ るDNAシ
ー クエ ン シ ン グ
条件は本文参照。 (
文 献35よ
り引 用 )
のDNAサ
ン プ ルを シ ー クエ ン シ ン
27cm) , キ ャ ピ ラ リー温 度 (
室 温 ) で あ る。 これ と同 じ
グで き る シス テ ム (図12)
が 最 近 開 発 され た37 40)。こ
シー クエ ンシ ン グを従 来 法 で行 な う と,8∼10時
の装 置 を 用 いれ ば ,超 高 速DNAシ
,サ ン プル注 入 側 か ら検 出器 ま で
間必要
て, 同 時 に100個
ー クエ ンシ ン グ を
で あ り, キ ャ ピラ リー電 気 泳 動 に よ り, 数 倍 の高 速 化 が
実 現 で き る こ とが示 さ れ て い る 。 近 い将 来 こ の よ うな シ
達 成 で き る こ とが 明 らか と な った。 さ ら に, ゲ ル濃 度 を
ス テ ム が装 置 化 され る よ うに な れ ば , ヒ ト ・ゲ ノム解 析
3%Tに
計 画 の実 現 に 向か っ て はず み が つ くこ とは 疑 い の 余地 の
,電 場 を300v/cmへ
と変 化 させ る と シ ー クエ
ンシ ン グの速 度 を さ ら に増 す こ とが で き る32 35)。DNA
シ ー クエ ンシ ング の際 の 理 論 段 数 は,1000∼2000万
に も達 して い る。DNAシ
な い とこ ろ で あ る。
段
ー クエ ンシ ング の分 離 条 件 の
最 適 化 の際 に も, 前 述 の1本
鎖DNAの
分離条件選択
お わ りに
以 上 述 べ て き た よ うに, キ ャ ピラ リー電 気
の ガ イ ドラ イ ンを ほ ぼ そ の ま ま適 用 す る こ とが 可 能 であ
泳 動 は ,核 酸 を きわ め て高 い 分 解 能 で分 離 す る こ とが で
る。
き る。 この 特性 を 活 か して , ヒ トゲ ノムDNAの
こ の よ うに , キ ャ ピ ラ リー電 気 泳 動 はDNAシ
高速
ー クエ
シ ー クエ ン シ ン グへ の 応用 が 試 み られ て お り,装 置 化 も
ンシ ング の高 速 化 に 応 用 で き る こ とが 明 らか とな った 。
間 近 とな って い る。 した が って , 近 い将 来 , ス ラ ブ ゲル
しか し, こ の方 法 で は ,1回 に1個 のDNAサ
ン プル し
電 気 泳 動 で行 なわ れ て い る 実験 の全 部 で は な い に しろ ,
か シ ー クエ ン シ ン グが で き な い の で効 率 が 悪 い。 した が
あ る一 定 の部 分 は キ ャ ピ ラ リー 電 気 泳動 に置 き換 わ って
っ て, 多 数 のサ ン プル を 同 時 に シ ー クエ ン シ ン グで き る
い く もの と予 想 され る。 さ らに ,遣 伝 子 診 断 や 遺 伝 子 鑑
装 置 を 開 発 す る こ とが で きれ ば , さ らにDNAシ
定 な どキ ャ ピ ラ リー電 気 泳 動 法 を利 用 した新 しいDNA
ーク
エ ンシ ン グの ス ル ー プ ッ トを 増 加 させ る こ とが 可 能 とな
る。 そ のた め に ,キ ャ ピ ラ リーを100本
の 解 析 法 が 開 発 さ れ る こ とを期 待 した い。
程 度並列に並べ
2251
28
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蛋 白 質 核 酸 酵 素 図12.
Vol38No.13(1993)
マル チ シ ー ス フ ロー キ ャ ピ ラ リー ア レイ 電 気 泳動 に よ る超 高 速DNA
シ ー クエ ソ シ ン グ装 置
(
文 献40よ
り引 用 )
献
文
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(1964)
お 知 ら せ
ノ ボ ノルデ ィスク 酵素 シンポジウム1993
「ニ コ ー フ ロ ン テ ィア か ら の メ ッセ ー ジ」
日時 :平 成5年11月26日
会
(金 )13:00∼17:00
場 :銀 座 ガ スホ 一ル (東 京都 中 央 区 銀 座7-9-15 Te1.03-3573-1871)
1. 好 冷 性 細 菌 とそ の 酵 素
2.
3.Achromobacterプ
4.
浜本 哲郎 (
理化 学研 究所 )
高橋和彦 (
北海道大学薬学部 )
正木武 治 (
茨城大学農学 部)
セ レ ソ含 有 抗 酸 化 酵 素 グル タ チ オ ンペ ル オキ シ タ ーゼ の 構 造 と 機 能
ロテ ア ー ゼ1の 特 性 と食 品 蛋 白 質 の 機 能 改 善
糸状 菌 の 新 規 酵 素 ラ ク トノ ヒ ドロ ラ ーゼ :パ ソ トラ ク トン の 光 学 分割 へ の利 用
5. 耐 熱 性 リ ンゴ 酸脱 水素 酵 素 の蛋 白質 工 学
清水 昌 (
京都大学農学部 )
西山 真 (
東京大学農学部)
6. 細 菌 の チ ロシ ンフ ェ ノ ール リア ーゼ =反 応 機 講 とL一 ドー・
パ生産
熊谷英 彦 (
京都大学農学部 )
7. 微 生 物 の リパ ー ゼ
トムB.
ニ ール セ ン (ノボ ノル デ ィ ス ク バ イ オ イ ン ダス ト リー社 , 日本 )
8. バ イ オ テ ク ノ ロジ ー の基 盤 と展 望
ウル リッ クV.
ラ ッセ ン (ノボ ノル デ ィ ス ク社 , デ ン マ ー ク)
シ ンポ ジ ウ ム聴 講 参 加 ご希 望 の 方 は , 官製 葉 書 に , 住 所 , 氏 名 , 年 齢 , 職 業 また は 学 校 名 (専 攻 ) を 明 記 の うえ ,11月10
日 まで に 下 記 事 務 局 まで お 申 込 み くだ さ い。 参 加 は 無 料 で す 。 (定 員300名
に な りしだ い 締 め 切 らせ て い た だ きま す )
〒261-01千
葉 市 美 浜 区 中瀬1-3幕
張 テ ク ノガ ー デ ンCB-6
ノ ポ ノル デ ィス ク バ イ オ イン ダ ス ト リー(株 )内 酵 素 シ ンポ ジ ウ ム事 務 局Te1.043-296-6770
2253
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