Comments
Description
Transcript
石灰窒素散布により、飼料用イネ等多収品種由来の漏生イネの発生を
[成果情報名]石灰窒素散布により、飼料用イネ等多収品種由来の漏生イネの発生を低減できる [要約]石灰窒素に含まれるシアナミドは、水稲種子の休眠覚醒効果と発芽能力を低下させ 死滅させる効果を持つ。多収品種収穫後の秋に石灰窒素を 50kg/10a 散布すると、東北日本 海側地域では翌年の移植栽培における漏生イネの発生を 1/6 以下に低減できる。 [キーワード]イネ、飼料用、漏生イネ、石灰窒素、シアナミド [担当]東北農業研究センター・水田作研究領域 [代表連絡先]電話 0187-66-2776 [区分]東北農業・稲(稲栽培) [分類]研究成果情報 -------------------------------------------------------------------------------[背景・ねらい] 食料自給率の向上、水田の高度利用の観点から、飼料用イネの作付けが奨励されている。 これらの栽培では単収を高めるために食用品種とは異なる多収品種の作付けが推奨されて いる。しかし、多収品種の作付け後に食用品種を作付けると多収品種由来の漏生イネが発 生し、食用米に多収品種の米が混入して品質低下の問題を生じることがある。また、こう した問題を生産者が懸念して食用品種を飼料用向けに作付けている事例が多い。したがっ て、多収品種の普及促進には漏生イネ対策が重要である。 寒冷地では、漏生イネ対策として、多収品種の収穫後は耕起せずに圃場表面で種子を越 冬させること、食用品種の移植栽培時にプレチラクロールを含む除草剤散布が有効である ことが知られている。しかし、これらの対策では不十分な場合があり、より積極的な漏生 イネ対策が求められている。石灰窒素はイネ科であるノビエの防除に有効であることから、 漏生イネ対策としての有効性を明らかにする。 [成果の内容・特徴] 1.水稲種子を石灰窒素由来のシアナミド溶液に浸漬すると、シアナミド総処理量の増加 に伴い、始めに休眠覚醒効果、次に発芽能力低下・死滅効果が強く現れる(図1)。 2.圃場表面で種子が越冬する条件では、石灰窒素 50kg/10a を秋、冬、春のいずれの時期 に散布しても、石灰窒素を散布しない無処理と比較して、畑条件における漏生イネの出 芽率は有意に低下し(図2)、中でも秋処理の効果が大きい。 3.表1に示す様々な品種で、秋に石灰窒素を 50kg/10a 散布して3週間程度経過後に耕起 すると、翌年の移植栽培において漏生イネの苗立ち率は石灰窒素無処理よりも低下し、 総じて苗立ち率の高い 2012 年秋~2013 年春の試験では無処理の1/6以下である。 4.秋に耕起して種子が土中に存在すると、翌年春に石灰窒素を散布しても漏生イネの苗 立ち率は石灰窒素無処理と変わらない(表1)ことから、漏生イネの発生を抑制するた めには、圃場表面の種子に石灰窒素を散布し、一定期間不耕起状態を保つ必要がある。 [成果の活用面・留意点] 1.漏生イネ対策技術の一要素として活用する。 2.本成果は、多雪の東北日本海側地域である秋田県大仙市の東北農業研究センター大仙 研究拠点圃場(北緯 39°29’・東経 140°29’、標高 30m、細粒褐色低地土)における 試験結果に基づく。 3.石灰窒素には窒素の肥効があり、秋季から春季の散布時期によりその肥効は異なる。 秋季に石灰窒素を 50kg/10a 散布した翌年に一般食用稲品種を栽培する上では、基肥を窒 素成分で 1.0~1.5kg/10a 低減できることを予備的な試験により確認している。 4.石灰窒素散布後に不耕起状態を保つ適切な期間については現在検討中である。 5.本研究で用いた粒状石灰窒素(カルシウムシアナミド 55%、窒素分 20%)50kg の価 格は約 7,500 円である。 [具体的データ] 100 発芽能力低下・ 死滅種子 割合 (%) 80 60 休眠覚醒種子 40 20 表1 石灰窒素散布が移植栽培における漏生イネの苗 立ち率 (%) に及ぼす影響. 品種 石灰窒素 処理時期 ふくひびき 無処理 秋 休眠種子 0 0 5000 10000 15000 シアナミド総処理量 (mg L-1 d) 春 北陸193号 秋 図1 石灰窒素由来のシアナミド処理が種子の生理状態に及 ぼす影響 シアナミド総処理量=処理溶液中のシアナミド濃度×処 理日数。多収品種「タカナリ」の2011年産種子を供試。種 子の生理状態は、石灰窒素由来のシアナミド溶液に浸漬後 の調査による種子の発芽率に基づく。 無処理 春 タカナリ 無処理 秋 春 ホシアオバ 無処理 秋 zu 1.6 春 a 萌えみのり 1.4 出芽率 (%) 1.0 b 0.8 0.6 c c 0.4 0.2 a a b b b b d c 2010年秋 ~ 2011年春 2011年秋 ~ 2012年春 0.0 石灰窒素 処理時 期 1.2 石灰窒素 無処理 秋 冬 春 2012年秋 ~ 2013年春 図2 圃場表面での種子越冬条件における石灰窒素散 布時期が漏生イネの出芽に及ぼす影響 各年次・時期に多収品種「ふくひびき」、食用品種「萌え みのり」を含む3~4品種 (多収品種「べこあおば」、「ホシ アオバ」、「べこごのみ」、「夢あおば」のいずれか) を供 試。数値は全品種の平均値。 10月上中旬に種子をわら等残渣のない圃場に散播して擬似 的な脱落籾を作出。防鳥網を設置して圃場表面で越冬。播種 翌日 (秋)、積雪前の11月下旬 (冬)、雪解け後の4月中旬 (春) に粒状石灰窒素を50kg/10a散布する処理と石灰窒素無 処理を設定。 4月下旬に耕起。畑条件のままとして6月下旬に漏生イネの 出芽数を調査し、播種粒数で除して出芽率を算出。 同一年次・時期における同一の英文字間には5%水準で有 意差がないことを示す (Tukey法、n=3)。 無処理 (食用品種) 秋 春 品種平均 無処理 秋 播 種 後 約 3 週 間 経 過 後 に 秋 耕 し て 種 子 は 土 中 で 越 冬 2011年秋 ~ 2012年春 2012年秋 ~ 2013年春 0.034 a 0.141 a 0.000 a 0.007 b 0.144 a - 0.021 a 0.071 a 0.000 b 0.000 b 0.051 a - 0.019 a 0.065 a 0.000 a 0.010 b 0.069 a - 0.029 a 0.069 a 0.014 a 0.005 b 0.064 a - 0.057 a 0.409 a 0.023 b 0.041 b 0.481 a - 0.033 a 0.146 a 0.007 b 0.011 b 春 0.145 a - 上記品種の他に、「きたあおば」、「べこごの み」、「夢あおば」を供試し、いずれも品種平均と 傾向は類似。品種平均はこれら品種も含む。 10月中旬に種子をわら等残渣を除いた圃場に散 播。翌日に粒状石灰窒素を50kg/10a散布する秋処 理、石灰窒素を散布しない無処理を設定。2012年秋 ~2013年春の試験では、2013年4月中下旬に石灰窒素 を散布する春処理も設定。 4月下旬に耕起、5月中下旬に圃場に入水、5月下旬 に代かきして機械移植を実施。移植後28~29日目に 移植株の間の漏生イネの本数を調査し、播種粒数で 除して苗立ち率を算出。 「-」は未供試。同一年次・時期で同一品種内に おいて同一の英文字間には5%水準で有意差がないこ とを示す (制約付きLSD法、n=2~3)。 (大平陽一) [その他] 研究課題名:省資材・低コストの雑草・病害防除技術と持続的土壌管理技術の開発 予算区分:交付金、委託プロ(国産飼料) 研究期間:2010~2014 年度 研究担当者:大平陽一、白土宏之、山口弘道、福田あかり 発表論文等: 1)大平ら(2014)日作紀 83:223-231 2)大平ら(2015)日作紀 84:22-33