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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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量子開放系のダイナミクスにおける完全正値性の役割(修
士論文(2001年度))
木村, 元
物性研究 (2002), 79(1): 81-125
2002-10-20
http://hdl.handle.net/2433/97292
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
物性研究
修士論文
7
9-1(
2
0
0
2-1
0)
(
2001
年度)
量子開放系のダイナ ミクスにお ける完全正値性 の役割
早稲 田大学 大学院理工学研究科 物理学及び応用物理学専攻
大場 ・中里研
木村 元*1
目次
1 序論
2 密度行列の状態空間
- ・・・- ・・・- - - ・.・・・・-
8
5
2・
2 密度行列の性質 - ・- ・・・・・- - - - ・- - ・- - - - ・- -
8
8
2・
1 密度行列の導入一 純粋状態,混合状態-
9
0
3 状態の時間発展
3.
1 密度行列空間上の時間発展
‥ ‥ ‥ .‥ ..‥ ‥ ‥ .‥ .
9
0
3・
2 力学 的半群 (
Dyna
mi
c
a
lS
e
mi
g
r
o
up)- -
91
3
・
3 縮約 された力学 (
Re
duc
e
dDyna
mi
c
s
)と完全正値性 ・・- .
・- ・
3・
4 完 全正値力学 的半群 (
Co
mpl
e
t
e
l
yPo
s
i
t
i
v
eDyma
mi
c
a
lSe
ml
g
r
O
up)
3.
5 2準位系 の完全正値力学 的半群 と等価 な Bl
oc
h方程式 と緩和 定数 .
9
2
9
7
9
8
4 結果
物
理
的
考
値
力的
半
値
性議
論-・
の
証‥
4
の.
3
の
4
の
5
の
2の
4・
1 [
7
1
,
D]- 0条件の
4・
2 2準位系 の完全正
察 ‥ .・ . ...‥ ‥ ‥ ..‥ ...‥ .. . ‥
学
4・
3 初期相 関 と完全正
群 と緩 和 定数
- - - - ・- - -
- - - ・- ・- - - - - ・-
4・
4 定理 12に関する
A 種々の証明
1
0
2
- - - ・- ・- - - - -
2節 :定理 2
A.
1 第 2.
明
‥ .
A.
2 第 3.
3.
3 節:定理
証明
‥ .
A.
3 第 4.
1
.
2 節:補遺
証明 ‥ ‥
A.
4 第 4.
1
.
2 節:補題
証明 ‥ ‥
A.
5 第 4.
1
.
2 節:補選
証明 ‥ ‥
・-
-
-
-
-
-
-
-
・-
-
-
‥
1
0
2
-
1
0
9
1
2
・ 11
5
・1
1
7
1
1
7
・ 11
8
・ 11
8
・11
9
・11
9
・12
0
・1
A.
6 第 4.
2節 :定理 1 の証明 補足 .
*1 Ema
i
laddr
e
s
s
:gen◎he
p.
phys
・
wa
S
eda・
ac・
j
p
- 81-
木村
元
概要
量子開放 系のダイナ ミクスに対す る一般論 に基づいた議論が展開 され る.そ こでは状態 を密度行列 に
よ り特徴付 け,状態空間上の 1パ ラメー タ写像 として量子 ダイナ ミクスが定義 され る・特 にメモ リー
を引きず らない Ma
r
k
ov過程 に着 目し,力学的半群 に対す る考察 を行 な う.まず は vonNeumal
l
n方
程式の超演算子 と散逸部 の超演算子が可換 であるクラス と,Pa
ul
iマス ター方程式,(
現象論的)Bl
oc
k
方程式 との関連性 が示 され る.さらに詳細釣 り合いの原理 が成立す ることを証明す る.続 いて,ミク
ロな立場 に よるダイナ ミクスの考察 (
縮約 され た力学)か ら完全正値性 に関す る議論 を行 な う・対象
系が 2準位 系であ る場合 ,Gor
i
l
l
ie
ta
l
.の緩和時間に対す る議論 が一般化 され,完全正値性 を特徴付
ける制約 が示 され る.この制約 が完全正値性 ,また縮約 され た力学 に対す る実験検証 を与 える可能性
について議論す る.また完全正値性 と初期相 関に関す る考察 もな され る.
記号の説明
以下の記号 を説 明無 しに用い る.
。C,A,Z,N,をそれ ぞれ複 素数 ,実数 ,整数 ,自然数 の集合 とす る.また n次元実 (
複 素)ベ ク ト
ル空間を R n (
Cn),nxn複素行列空間 を M (
n)と記す ・
・C∈Cの絶対値,複素共役 ,実部,虚部 に対 してそれぞれ
帖C,Rec
,
I
mcを用い る・
●任意 の集合 S上の単位 演算子 を Ⅰと記す .
・Hi
l
be
r
t空間 7
1の元 を,Di
r
acのケ ッ ト表 示 悼)∈7
1で表す・また,1
4
,
1
)
,I
,
4
,
2)∈ 7
1の 内積 を
(
洲 4
,
2)
,ノル ムを 沼 研 市 ≡ =
洲 と記す・
・Hi
l
be
r
t空間 7
1上 の演算子 A の共役演算子 を AIと表す (
ただ し,Hi
l
be
r
t空間上 の演算子 に作
用す る超演算子 Aに対す る共役演算子 には A*を用い る).
・「
任意 の A」,「
B が存在す る」 に対 し,それぞれ論理記号 ∀A,∃β を用い る・
B - 1に統一す る.
また,本稿 を通 じてプ ランク定数 は h- 1,ボル ツマ ン定数 は k
1 序論
量子力 学 で は,系 の- ミル トニア ン ガ が与 え られ る とそ の ダイ ナ ミクスは完全 に決 ま る:状 態
∈7
l
l
)
i
) 1(
i∈a)は Sc
hr
6di
nge
r方程式‥
新
-Hl,
1
,
/
,
i
)
と
)
(
1
)
に従い,ユニ タ リー発展 をす る [
1
]
:
勅 )-Ut
l
4
,
.
)
,
UJUt- Ut
Ut
l-Ⅰ.
(
2)
ここで ,
H,U了2はそれ ぞれ 71上 のハ ミル トニア ン演 算子 ,時 間発 展 演算 子,71は可分 な Hi
l
ber
t
空 間で あ る
*2 H
[
2
]
.ユ ニ タ リー 性 は,確 率解 釈 か ら要 請 され る‥全 確 率 が 1で あ るた め に,量 子 状
が時間に依存 しない場合 は Ut- c
xpト i
Ht
)
,FIが時間に依存す る場合 F
I- Htは T 積 (
時間順序積 )を用いて,
Ut-r
I
l
e
xpト il
o
tdt
/
I
I
t
,
]
・
-
8
2
-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
1 には規格化条件 悼神州 2 - 1が課せ られ る・
,初 期 時刻 に規格化 され た任 意 の状態
態 陣)∈ 7
∀l
d
,
)∈7
1(
(
4
,
1
4
,
)- 1
)は,時刻 tにおいて 1
4
,
i
)-Ut
l
4
,
)とな り,規格化条件が保たれ るためには,
1-(
4
,
t
l
,
由)-(
4
,
1
Ut
Ut
f
O)
,
∀1
4
,
)∈7
1,(
梱 )-1⇔U
l
Ut-Ut
Ul- Ⅰとなる 【
3
]
.
これに反 して本稿 は,ユニタ リー性がない現象 を扱 う枠組みに対 して興味がある.熱平衡状態-の
移行,量子観測過程に伴 う非干渉化等がその例である.上述の議論は,これ らの現象を量子論 に基づ
いて説 明す るのは困難 であるよ うに思わせ る.特 に,ユニ タ リー性 が確率解釈 によって要請 された
ことは,非ユニタ リー現象 を扱 うためには確率解釈が不可能であるかのよ うに も思われ るか も しれ
ない.
このよ うなジ レンマを克服す るために,まず は状態概念の一般化が必要 とされ る:ユニタ リー性が
l
bert空間 7
1の規格化 されたベク トルによって与える
確率解釈か ら要請 されたのは,状態空間を Hi
という前提に基づ く.状態概念が一般化 され ることによ り,ユニタ リー性 は確率解釈の産物でな くな
Hi
l
be
r
t空間 7
1のベ ク トルか ら Hi
l
be
r
t空間上の トレース 1の正値演算子- と拡張 し
る.本稿では,
た密度行列空間を量子状態空間 として扱 う.第 2節において密度行列 を状態 に用いることの意義,ま
たその性質が詳細に説明され る;そ こでは,古典統計描像や量子系の合成 の際の状態概念に基づいて,
1節)
・さらに,密度行列 を数学的に特徴
密度行列-の拡張が 自然に行なわれ ることが示 され る (
第 2・
2節)
.
付 け,状態空間が明確 に表 され る (
第 2.
続いて,第 3節 において密度行列空間上の時間発展が考察 され る:密度行列に拡張 された状態空間
においては,ユニタ リー性 は確率解釈 によ り要請 され るものではない;この場合 の確率解釈 は,密度
1
(
71)*3,曙刻 t-の時間発展演算子 を A
tとす ると,
行列空間を T+,
∀p∈T+,1(
刀 )⇒
At
p∈T+,1(
7
1)
(
3)
となる・つま り, 「
初期時刻 において状態である任意の pは,時刻 tにおいて も状態になる」とい う要
請である.この性質は,ユニタ リー発展は もちろん,非ユニタ リー発展 も含んでいる.状態空間を密
3)である*4.
度行列によって表す とき,確率解釈か ら要請 され る性質はユニタ リー性 でな く,性質 (
熱平衡化や非干渉化 された状態 も密度行列 によ り表 され非ユニタ リー発展 を伴 うが,もちろん確率
1
(
刀 )とし,実 1パ ラメータ
解釈が破 られ るわけではない・本稿では,状態空間を密度行列の空間 T+,
)写像で,性質 (
3)を満たす ものとして量子ダイナ ミクスを定義す る (
第 3.
1節)
.つま り,時間
(
時間 t
tをパ ラメータとして持っ,状態空間上の写像が時間発展演算子であると考える*5.
さて,原子,ス ピン緩和な ど多 くの現象は,時間発展に対す る局所性,すなわち Ma
r
k
o
v性 を備 え
6
】
・Ma
r
k
o
v性 は時間発展演算子 ALに対 し,群特性 ・
.At
+S -At
Asを課す.非ユニタ リー
ている 桂一
発展 を示す多 くの現象 (
熱平衡化や非干渉化)が不可逆 な現象 であるために,考察対象 となる時間
領域が初期時刻以後 t≧ 0に限 られ る.そ こで,i≧ 0において定義 された時間発展演算子
Alで,
群特性 を備 える実 1パ ラメー タの半群は,多 くの現象 を説 明す る土台 となる.この よ うな ことか ら
Ko
s
s
a
k
o
ws
kiは,状態空間を密度行列 によ り与えた半群,すなわち性質 (
3)を満たす半群 によってダ
Dyl
l
a
mi
c
a
lSe
mi
g
r
o
up)【
7
]である・よって,力学的
イナ ミクスを特徴付 けた.これが,力学的半群 (
r
k
o
v過程の一般論 を与えることができる.第 3.
2節 に
半群は (
密度行列 を状態空間に持つ)量子 Ma
*3記号の説明は第
*4 第
2.
2節参照.
3.
1節 において この仮定 を (
i
)強い確率解釈 と呼ぶ.
+5他 に時間 Lに対す る連続性の条件な どを物理的な条件 として加 える.詳 しくは第
-8
3-
3.
2節参照
木村
元
力学的半群の レビュー を与 える.
このよ うに密度行列空間上の実 1パ ラメー タ写像 としてダイナ ミクスを特徴付 けることは,状態 を
密度行列 によって表す意味では量子論 を基礎 に置 くが,そのダイナ ミクスに関す る ミクロ的な考察が
欠 けてい る.す なわち,ダイナ ミクスに関 しては現象論の範噂 を超 えるものではない;できるな らば,
非ユニタ リー発展 を伴 う現象 を ミクロな理論である量子論 に基づいて説 明す るのが望ま しい.この問
題 は, r
ユニタ リー発展によって非ユニタ リー発展 を説明す る」 とい う,一見パ ラ ドキシカル な命題
を伴 うことになる [
8ト これ を解決す る有力 な理論が縮約 された力学 (
Re
dt
l
C
e
dDynami
c
s
,以後 RD
と略す こともある)である [
6,
9,
1
坤 RD は対象系 と相互作用す る環境系 (
熱浴,観測装置等)の存在
を考慮 に入れ ることによ り,量子論 に基づいて対象系の非ユ ニ_
タ リー発展 を説 明す ることができる.
第3
・
3節 において,RD の概念的枠組み,非ユニタ リー発展 の説明 (
第3
.
3.
1節),導出 され るマスター
方程式 (
第3
・
3・
2節)等 を説 明す る・しか しなが ら,本研 究は具体的モデル を考察す るよ うなことはせ
9
71年 ドイツの Kr
at
l
Sに
ず に,RD の一般論 を考察す る.そ こで注 目す るのが完全正値性である.1
よ り RD には完全正値性 と呼ばれ る強い性質が備 わ ってい ることが指摘 された
[
1
1
]
.す なわち,RD
に従 って説 明 され るダイナ ミクスであれ ば,それ は完全正値性 を備 えてい るはずである*6.そ こで,
完全正値性 を備 える時間発展,つま り,完全正値性 と性質 (
3)を備 える写像が,RD に基づ く量子 ダイ
ナ ミクスを特徴付 ける と考 え られ る.第 3
.
3.
3節 において完全正値性 の定義 ,RD が完全正値性 を備
えること,その物理的意味等 を詳細 に説明す る.
本稿 は主 に,量子 Ma
r
k
ov過 程 の一般 論 を与 え る力 学 的 半群 に,完全 正値性 を課 した完全正値
力 学的 半群 (
Compl
e
t
e
l
yPos
i
t
i
v
eDyl
l
ami
c
alSe
l
T
l
i
gr
ot
l
p)に着 目す る:す なわ ち,完全正値 力学
r
kov過程 の一般論 を与 える. この枠組 み は 1
9
7
0年代 に
的半群 は,RD によって説 明 され る Ma
Li
ndbl
a
dt
1
3
]
,Gor
i
l
l
i
,Kos
s
ak
o
ws
ki
,Sudar
s
l
l
ant
1
4
]に よって相次いで完成 させ られた・第 3・
4節
において完全正値力学的半群 の レビュー を与 える.
.
1節 において ,YonNeuma
′
1
1
m方程式の
第 4節 において本研 究の主な る結果 を述べ る.まず,第 4
超演算子 と散逸部の超演算子が可換 であるよ うな力学的半群 に着 目す る,本研究では,この条件 はエ
ネル ギー と干渉項がそれぞれ独 立に時間発展 をす るための十分条件 であることを示す.この系 とし
て,この性質 を持つ力学的半群が Pa
ul
iマスター方程式 (
第 4.
1.
1節 )を満 たす こと,2準位系では現
oc
h方程式 と等価 になること,また詳細釣 り合 いの原理 (
第 4.
1.
2節)を満 たす ことが示 さ
象論的 Bl
れ る.続 いて第 4.
2節 では,2準位系の完全正値力学的半群 において常 に成 立す る緩和時間-の制約
が存在す ることが示 され る.緩和時間が物理量 (
測定可能量)であることか ら,この制約 は,完全正値
力学的半群 に対す る実験 による検証 を与 える.また,力学的半群 と完全正値力学的半群の相違は,RD
によ り特徴付 け られ る完全正値性 であることか ら,前者 にな く後者 に特有の現象 は,RD を特徴付 け
る現象であることが推測 され る.つ ま り,この制約 は RD を特徴付 ける性質である可能性 がある.こ
れ らは第 4
.
3節 にお ける初期相 関 と完全正値性 の関係 に関す る考察 を踏 まえ,第 4.
4節 において議論
され る.
*
6逆に完全正値性 を備 えるダイナ ミクスがあれば,背後に大きな Hi
l
ber
t空間があ り,全体系がユニタ リー発展を してい
1
2
1
.
ることも示 されている [
-8
4-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
2 密度行列の状態空間
本節 は密度行列 に関す る レビュー を与える.第 2
.
1節 は,古典統計性 を踏 まえた本義混合性,また
l
be
r
t空間か
合成系か ら縮約 されて得 られ る転義混合性 に基づいて混合状態 を導入 し,状態空間が Hi
.
2節では密度行列のい くつかの性質 を示 し,
ら密度行列空間- と一般化 され る概観 を説 明す る.第 2
本質的な性質に基づいて密度行列の数学的定義 を行な う.これは密度行列の状態空間の構造を明確に
す る.また純粋性,混合性 に関す る定義 も改めて行 なわれ る.
2.
1 密度行列の導入一 純粋状態,混合状態一
密度行列は元来,量子論 に対す る古典的な統計性 を説明す るために提案 された概念である・1
4
,
)∈7
1
(
7
1は可分な Hi
l
be
r
t空間)を規格化 された状態 (
(
4
,
回,
)- 1
)とす るとき,ある力学量 A (
7
1上の 自
己共役演算子)の期待値
(
A)は内積
(
4)
(
A)-(
朝Al
4
,
)
によ り計算 され る (このよ うに,Hi
l
be
r
t
,
空間 7
1上のベ ク トル 1
4
,
)によって表 され る状態 を,純粋状
1にあるとはい えない場合
態 と呼ぶ)
・ しか し,情報 の不足な どの理 由か ら,状態が厳密 に 陣)∈7
∑i
Pi- 1
)で状態が L
・
4
,
i
)∈7
1,
がある;その ときは (
古典統計の よ うに)
,ある確率 (
重み)pi≧ 0(
(
(
洲4
,
i
)- 1∀i‖こあると考えることが妥当である.力学量 Aの期待値は,状態が 1
4
,
i
)である場合の
4
,
i
l
A回,
i
)に重み piの平均 を施 した
期待値 (
く
A)
-∑
p
i
(
4
,
i
l
A励 )
i
(
5)
によ り与え られ る.この場合,状態は純粋状態 と区別 され,混合状態 と呼ばれ る.特にここで説明 し
たよ うに.,情報の不足か ら生 じた混合状態 を本義混合状態 と呼ぶ
[
1
5
]
・
純粋,混合状態は期待値の形 (
式(
4)
,
(
5)
)を見て も明 らかに異質の扱いを要求するよ うに思われる.
l
be
r
t空間の元 として扱 えることに対 して,混合状態はそ うではない.しか し
そ もそ も純粋状態が Hi
なが ら,次のよ うに して両者 を統一的に記述す ることが可能 となる:
∑i
Pi- 1
)で 恢 )∈71にある場合の状態 (
混合状態)か ら,Hi
l
be
r
t空間 7
1上で定義
重みが pi(
され る演算子
β≡ ∑ l
′
減 価
1
(
6)
を導入す る・この とき期待値 (
5)は,
∑
p
i
(
4
,
i
I
A
l
4
,
i
)
t
(
A)
- ∑ pi
(
4,
i
l
A
I
(s L
n'
車
-F '
nl(F '
*i
'
pL
'
4
,
i
E
)Al
n'-t
rp(
A
7)
とな る (
ここで,t
rA ≡∑ n(
nI
A回 ,回 は Hi
l
be
r
t空間 7
l
t上の任意の完全正規直交系 (
CONS)で
ー
8 5
-
木村
元
7
)
.つ ま り,重み piで l
V
,
i
)にある混合状態 にお ける期待値 (
A)は,演算子 (
6)を用 いて
あ る*
(
A)-trp
A
(
8
)
に よって与 え られ る.演算子 βは (
混合状態 の)密度行列 (
密度演算子)と呼ばれ るものである・これ
は,純粋状態 も自動的に定義 に含む:純粋状態 悼)を重みが pl- 1
,
p2-P3- - - 0で ある と考 え
る と,純粋状態 は混合状態 の特殊 な場合 である.その場合 の密度行列 は,
p- ∑ 勅 )
p湖 (-1
4
,
)
(
朝
(
9
)
i
で ある.期待値 (
4)に関 して もこの密度行列 (
9)を用 い る と,混合状態 の場合 の期待値 の表記 (
8)と
同 じであ るこ とがわか る.つ ま り,密度行列 を用い ることに よ り純粋 ,混合状態 は統一的 に扱 うこ と
が可能 となる.この ことは,単 なる形式的取 り扱 いの統一 に留ま るものではない.む しろ重要 な こ と
は,状態空間 を密度行列の空間 と して明確化す ることにある*8.
次 に,二つ の合成系- 対象系 S十環境 系 E - の部分 としての,対象系の状態 を表す密度行列 (
縮
S,環境 系 E に対す る Hi
l
be
r
t空間 をそれぞれ 7is,71E と記
す .全体系 S㊥E (
S と E の合成 系)に対す る Hi
l
be
r
t空間は,7
isと 7
1E のテ ン ソル積 7
i
s㊤7
1E
に よ り構成 され る 【
1
6
]
.全 体 系 の状態 を密 度行列 pTOlrに よって与 え られ るもの と しよ う.この と
約 され た密度行列)を説 明す る・対象系
き,環境 系の部分和 を とることによ り得 られ る演算子 を,対象系の (
縮約 された)状態 psと見 なす こ
とがで きる:
psIt
r
EPTOT・
(
10 )
[
こ こで ,t
r
E は次 の よ うに定義 され る環境 系 の部 分和 で あ る‥I
j)を 7
1E 上 の CONS とす る・B
を全 体 系 の あ る演 算 子 (
正 確 に は トレー ス ク ラス T(
カS㊥ 7
1E)の 演 算 子)とす る とき,t
r
E は,
t
r
E:T(
7
t
s㊤7
1E)- T(
7
is)
,S・
L
・
,∀E
,
4
,
)∈7
is,(
4
,
L
t
r
EBE
4
,
)≡ ∑,
(
4
,
I
(
jl
Bl
j)
冊 で定義 され る.]
式(
1
0)が対象系 Sの状態 を表す ことは,次 の よ うに理解 す ることがで きる:我 々が実験 に よ り測 定
l
b
c
r
t空間 7
is上で定義 され る 自己共役演算子 A (
全体
す る観測量 (
対象 とす る観測量)は,対象系 Hi
E,I
Eは環境系の単位演算子)のみであることを前提 とす る (
第 3・
3.
1節参照)
.式 (
8)よ
系では A㊤I
り A㊥I
Eの期待値 は,
(
A)-t
r
sE(
PTOTA㊤I
E)-t
r
s(
t
r
EPTOT)
A.
(l l)
一方,対象系 Sの状態が βで ある場合 の力学量 A に対す る期待値 は,
(
A)-t
r
spA
(
1
2)
によって与 え られ ることか ら,式 (
ll
)と比較 して,ps-t
r
EPTOT を得 る‥あ らゆる対象系の観測量
r
EPTOTは同 じ状態 と見なす こ とがで きる*9.この
に関す る同 じ (
統計的)予言 を与 えるので ps と t
1
0)を,縮約 され た密度行列
よ うに して全体系か ら部分和 を とるこ とで縮約 して得 られ る密度行列 (
(
Re
duc
e
dDens
i
t
yMat
r
i
x)と呼ぶ.
ここで,縮約 された密度行列 の重要 な性質 を述べ よ う:
'7 Hi
l
ber
t空間
7
1は可分 (
s
epar
abl
e)であ るので,高々加算無限個 の完全正規 直交系 (
CONS)が存在す る [
2ト t
rは
CONSの選択 に依 らない ことを注意 してお く.
*8詳 しくは次節参照.
*9数学的には,
∀A ∈β(
7
1)
,
t
rApl-t
rAp2⇔ pl- P2を用いてい る.
- 86-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
is㊤7
iE 上の密度行列
合成系 7
pTOT
が純粋状態 p
TOT- l
O)
(
01である とす る.この とき縮約
説明: P
TOT- l
O)
(
01を固定す る・l
O)-∑i
iCi
j
L
i
)
l
j
)(
∑i
jl
Ci
j
l
2- 1
,1
i
)
,l
j
‖まそれぞれ 7is,
t
r
E
P;aS
1E の CONS
)と展開す ると,PTOT -∑i
j
;
L
l
l
Ci
j
否k
l
l
i
)
I
j)
(
kl
(
1
1
・この とき縮約 された状態は
7
ps
-
TOT
-∑
-
Ll
Ci
,
(
,.(
ek
L
.
i
,
I
j,
〈
拍 巨
-拍
ci
j,
i
,
) (; eL
・
j(
k・
)
勅)
pj
(
舶
(
13)
J
回,
i
)≡
∑ cijli)/Zj,Zj≡【
(
∑eik(kl)(∑ ci
j
l
i
)
)
]
1
/
2
,pj≡Z,
?
(
⇒ ∑ p
j-1
)
・
t
A
.
t
L
J
l
(
1
4)
一般的 に,
pjの うち少な くとも二つは 0でないために,縮約 された密度行列 (
1
3)は混合状態 (
6)と
な る (よ り詳細 な条件 に関 しては,次節定理 2参照)
.つま り,全体系が純粋状態であって も,対象系
の状態が混合状態 になるのである.簡単な具体例 として,2量子 ビッ ト系 (
二つの 2準位系の合成系)
にお ける,一重項状態 (
純粋状態)を考 えよ う:
l
O
)
義(sll)
l
T)
E刊
)
smE)
(
1
5
)
ただ し,(
旧 S,旧 S
)
,(
旧E
,li
)
E)はそれぞれの系の 2準位 系の正規直交基底である・S を対象系,
E を環境系 とす る と,縮約 された密度行列 (
1
O)は,
ps- trE I
,
(
,
)
(
拒 E(。(帖 州 T)E+E(。(帖 州 l)E-去I
T)
S(
Tl
・去I
l)
S(
l
l
(
1
6)
とな り,これが混合状態であることは次のよ うに して示 され る:
式(
1
6)で表 され る状態が純粋 であると仮定す る:
∃1
4
,
S)∈7t
s
s.
i.p
s-悼,
S)
(
4
,
sI
.
(
1
7)
ところで,I
T
)
S,旧Sは 7
i
sの基 底 で あ るので,1
4
,
S
)- aI
T
)
S+bl
Ds(
a,
b∈C)と表 され る・
よって,
ps-I
l
,
S)
(
4
,
st
-(
aI
T
)
S+bl
J
)
S)
(
なく
TI
s+盲川s)
2I
T)
S(
†回 b
L
2I
DS(l
L
+a
bl
†)
S(
1
l
+叫 いS(
†ト
-I
aI
(
1
8)
式 (
1
6)と比較 して ,l
aI2 - 回2 - 1/2,
百b-a
石-0.しか し,百b-0⇔ a-Oo
rb- 0.これ は,
回2 -回2 - 1/2と矛盾す る.
この よ うに,た とえ全体系の状態が純粋 であって も,縮約 して得 られ る状態が混合 にな ることがあ
り得 るのである・この場合の混合性 を,本義混合 と区別 して,転義混合 と呼ぶ
囲 .本義混合性 が古
典的統計,も しくは情報の不足か ら課せ られた ものであることに対 し,転義混合性 は,部分系 として
の対象系 Sの情報 に着 目す ることによって産 まれ る混合性 である.数学的 には両者 を区別す る理 由
RD)が対象系
はないが,概念上の明確 な区別立てが重要である.後述す るよ うに,縮約 され た力学 (
の混合化 を説明す るのは,転義混合 を利用す る (
第3
.
3節参照)
.
-87-
木村
元
2.
2 密度行列の性 質
本節 にお いて,密度行列 の主な性質 を見 る.ここでは,本質 的な性 質 を抜粋 し,密度行列 を数学的 に
定式化す る.
i
)
,
(
i
i
)
,
(
i
i
i
)が基本 的で あ る・
まず は次 の 3つ の性 質 (
密度行列 の性 質]
補題 1 【
密 度行 列 p- ∑i
l
,
4
,
i
)
Pi
(
4
,
i
l
(
ただ し,∀
i
,
(
裾 *i
)- 1
,
pi≧ 0,∑i
Pi- 1
)は以 下 の性 質 を満
たす:
補 題 1の証 明
(
i
)t
rp-∑n(
nl
(
∑il
4
,
i
)
pi
(
4
,
i
l
)l
n)-∑i
Pi
(
1
,
i
l
(
∑n回 (
nL
)J
・
Oi
)-∑i
Pi- 1・
(
i
i
)pT-(
∑if
4
,
i
)
pi
(
4
,
i
l
)
I-∑i1
4
,
i
)
pi
(
4
,
L
l
-p.
(
i
i
i
)任 意 のベ ク トル l
¢)∈7
1を固定す る・(
軸1
4
,
)-∑i
(
4
,
I
*i
)
pi
(
4,
i
I
4
,
)-∑i
Pi
削,
i
1
4
,
)
F
2 ≧o
・
QED
これ らの性 質 (
i
)
,(
i
i
)
,(
i
i
i
)は密度行列 が一般 的 に備 える重要 な性 質 で あ る・上では,密度行列 が性
質 (
i
)規格化 条件 ,(
i
i
)自己共役性 ,(
i
i
i
)正値性 を満 たす こ とを見 たが,逆 に,Hi
l
bc
r
t空 間 7
1上 の演
i
)
(
i
i
i
)を満 たす演算子 を密度行列 と定義す るこ とができ る.つ ま り,密度行列 に よる状態空
算子 で ,(
T
l
,
+(
カ )を,
Tl
,
+(
カ )≡(
pl(
i
)t
rp-1
,(
i
i
i
)p≧0
)に よ り定義す るこ とがで き る (ここで は数
間7
i
i
)自己共役性 を除い て定
学 的理 由一 正値性 を備 える演算子 は 自動 的 に 自己共役 で あ る*10- か ら,(
1
1
)
.つ ま り,密度行列 (
状態)とは ,
Hi
l
be
r
t空 間 7
1上 で定義 され る演算子 で ,(
i
)規格化 条件 ,
義す る*
(
i
i
i
)正値性 を持 っ もので あ る と定義す る*12.条件 (
i
)
,(
i
i
i
)を満 たす任 意 の演算子 を密 度行列 と見 な
す ことがで き る理 由は固有値展 開定理 に基づ く
[
1
7
]
‥
定理 1 【
固有値展 開定理 ]
Aが 7
1上 の コンパ ク トな 自己共役 作用 素 な らば,有 限個 ま たは 0に収 束す る無 限列 (
p,
i
)∈R
と,
ONS(
正規 直交系 )
回 が存在 して,
A-∑ pnl
n)
(
"
′
l
(
1
9)
7
L
と表 され る.
i
)t
rp- 1よ り,pは トレー ス クラス の作用素 t
rl
pl< ∞ とな り,コンパ ク ト性 も持 っ (/̀ト
性質 (
レー ス クラスの作用素 ⇒ コンパ ク ト作用 素)
・固有値展 開定理 よ り,p-
∑
,
,
I
,
nE
n)
(
nlt展 開す る こ
*10 例えば偏極恒等式を用いると示すことができる.
り
1(
i
i
)密度行列の自己共役性は,観測量の期待値が実数であるための必要条件であるなど物理的には重要なことである.
状態空間をTl
.
+(
7
1)と記すのも,
(
i
)
規格化条件を 1,
(
i
i
i
)正値性を+,さらに,
Hi
l
b
e
r
t空間7
1上で定義される演算
Tr
a
c
eCl
a
s
s
)と呼ばれる- t
r
l
Arく∞1空間を T(
7
1)と表す.
子で,特にトレースクラス (
*12
ー8
8-
量子 開放系の ダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
とがいっ で も可能 とな る・t
rp-1よ り ∑np
n- 1・ここで,性 質 (
i
i
i
)よ り,pは 自己共役演算子 な
ので ,
pnは pの固有値 で あ り,さ らに,性 質 (
i
i
i
)正値性 よ り,固有値 の正値性 pn≧ 0が成 立 し,式
(
6)として導入 され た密度行列 と解釈す ることがで きる・
密度行列 の他 の重要な性 質 として次 を挙 げる:
補題 2 搾 度行列 の性質 2]
(
i
V)密度行列 p∈7
T
l
,
+(
7
1)は,
0≦t
rp2≦1を満 たす.
(
V)特 に,純粋状態 であ る場合 (
p- 悼)
佃 )は,t
rp2- 1.逆 に,t
rp2= 1を満たす密度行列 は
補題 2の証明
(
i
v)任 意 の密 度 行 列 p∈7
T
l
,
+(
カ )を 固 定す る・ 固有 値 展 開 定理 1に よ り,
p- ∑
(
た だ し,∀
i
,
i, (
i
l
j
)- di
" P,
i ≧ 0,∑ i
PL -
P
i
l
i
)(
i
I
i
1
) と表 す こ と が で き る・ よ っ て t
rp2
-
た(
kl
(
∑i
Pi
l
i
)
(
i
I
)
(
∑ ipjl
j)
(
jl
)
l
k)- ∑i
PZ
・pi≧0,∑ i
Pi-1なので,
0≦trp2≦ 1・
(
V)【
必要条件]
‥任意の純粋状態 p- 悼)
(
4
,
lを固定す る.p
2- (
回,
)
(
羽)
(
1
4
,
)
(
刺)- 悼,
棉,
I-pで
rp2-t
rp- 1.
あるか ら,t
∑
i
v)の証 明で,一般 に密度行列 pは ,t
rp
2- ∑ 7
l
PZで あ るこ とがわか ってい るので,
仕 分条件]
:(
t
rp2- 1⇔ ∑ i
PZ- 1⇔ ]is・
t
・pi- 1
,pj- 0 (
j≠ i)(
●
/pt≧ 0,∑i
Pi- 1
)
・よって,
p-l
i
)
(
i
I
・
QED
前節 では純粋状態 を,∃陣)∈7
1,a
.
i
.p- 卜
¢)
刷 として定義 したが,補題 2 (
V)は,t
rp2-1を満
たす状態 を純粋状態 と定義す ることが可能 であることを示す .さらに性 質 (
i
v)
,(
V)は t
rp2が,状態
が純粋 であるか,混合 である ことの 目安 を与 える:t
rp2が 1か らどれ だ け離れ てい るかに よって,ど
の くらい混合度が高いか を与 える.t
rp2は Fi
dc
l
i
t
yと呼ばれ てお り,t
rp
2-1を純粋状態 ,t
rp2-0
を最大混合状態 (
Ma
xi
mal
l
yMi
xe
dSt
at
e
)と呼ぶ .また,同 じ目安 として線形エ ン トロピー (
密度行
列 空間上の汎 関数)が導入 され る:
(
a)線形エ ン トロピー:S2l
p]…1-t
rp2.
補題 2(
i
v)よ り,線形エ ン トロピーは 0≦
S
2
l
p]≦1を満た し,純粋状態で 0を とる・特 に,S2l
p】-1
を満 たす βが最大混合状態 である.同 じ混合度 の 目安 を与 える量 として,
(
b)volュNe
ul
nannエ ン トロピー:Sl
[
p]≡-t
rPl
ogp
l
p
]≡一
三
山
王
二
士
(
C
)Ts
a
l
l
i
sエ ン トロピー ‥Sq
q
l
l
が有名 であ る・特 に,(
a)
,(
b)は (
C
)
Ts
a
l
l
i
sエ ン トロピー Sql
p]において,q- 2,q- 1に相 当す る
ので,表記 を Sq
l
p
]で統一 した
[
1
8
]
・
補題 2(
Ⅴ)の系 として
密度行列 の性 質 3
]
系 1[
(
vi
)βが純粋 であることと,〃2-〟(
射影演算子)で あるこ とは等価 である.
が得 られ る*13
*13 射影演算子
A は,自己共役なべ き等演算子 AI- A,A2- A で定義 され る.一般 には ]A - L
V,
)佃 は射影演算子で
-8
9-
木村
元
系 1の証明
必要条件は 自明である.十分条件 は,p2 - pよ り,t
rp2-t
rp- 1.よって補題 2によって pは純
QED
粋状態である.
つま り,密度行列が純粋状態であることは,(
a)]p- 悼)
(
Ol
,(
b)t
rp2- 1,(
C
)p2- pのいずれ に
よって定義 して もよい.
最後 に,縮約 された密度行列が純粋,混合状態であるための条件 として次の定理が有用 であ る (
証
明は付録 A.
1参照)
.
G.
K.
]
定理 2【
7
is,
T
t
Eを,それぞれ対象系
S,環境系 Eの Hi
l
be
r空間,7
is㊤7
1E をその合成 系 とす る.さら
に,pTOTを合成系のある密度行列 ,ps-t
r
EPTOTを縮約 された状態 とす る.この とき,
つ ま り,縮約 された密度行列 が純粋状態であるためには,全体系の状態が相 関を持 たない場合 に限 ら
れ るこ とにな る・逆にい うと,全体系が相 関を持つ と,縮約 された状態 は必ず混合状態 になる.この
命題 は,た とえ全体系の状態が純粋 であって も相関がある場合には,縮約 された密度行列が混合状態
になることを導 く (
転義混合性)
・
1
3 状態の時間発展
本節では密度行列空間上 のダイナ ミクスが説明 され る・第 3
・
1節 にて密度行列空間 7T
l
,
+(
7
1)上の
実 1パ ラメー タ写像 として時間発展 (
ダイナ ミクス)が定義 され る・また,確率解釈 に関す る二つの仮
定(
i
)強 い確率解釈 ,(
i
)
′弱 い確率解釈が導入 され る.第 3.
2節 では,ダイナ ミクスの線形性 ,
Ma
r
k
o
v
性 を課 した力学的半群 が説 明 され,その生成子の具体形が与 えられ る.第 3
.
3節 では,量子論 に基づ
(
Re
du
c
e
dDy
l
l
a
mi
c
s
,以後 RD とも略
す)の レビューー その概念的説 明,使用方法 に関す る説 明- が与え られ,特 に,
RDの最大の特性 であ
いて非ユニタ リー性 を説 明す ることのできる縮約 された力学
る完全正値性が説 明 され る.第 3.
4節 では力学的半群 に完全正値性 を課 した完全正値力学的半群が説
5節 では,2準位系にお ける Bl
o
c
h方程式が説明 され る.
明 され,その生成子が与え られ る.第 3.
3.
1 密度行列空間上の時間発展
状態空間の指定 (ここでは,密度行列空間 Tl
,
+(
力)
)が行 なわれ ると,それ上のダイナ ミクスが定義
l
,
+(
7
1)上の写像 として時間発展演算子が
され る*14:す なわち,時間 t∈R を 1パ ラメー タに持つ 7l
与 えられ る:
1
(
7
1)⇒ At
p∈T+.
1
(
カ)
,t∈R.
(
i
) ∀p∈T+,
あることの十分条件あるが,必要条件ではないので,この系は 自明ではない.
*14 ぁる集合
S上の写像 A とは,Sか ら Sへの写胤
- 90-
(
21
)
量子 開放系の ダイナ ミクスにおける完全正値性 の役割
第 1節 に も述べ た よ うに,性 質 (
i
)は密度行列 を密度行列 に写像す るた め確 率解釈 を保 証 してい る・
他方 ,これ よ りも弱い性質:
(
i
)
′ ]p∈T+,
1
(
7
1)⇒ At
p∈T+,
1
(
Tt
)
,t∈R
(
22)
を考 え るこ とがで きる;密度行列 空間 Tl,十 (
カ)全体で はな く,そ の (
真)部分集合上の密 度行列 のみ
に確率解釈 を保証す るものである*15
本研 究では,性 質 (
i
)
,(
i
)
′を区別 し,前者 を強 い確率解釈 ,後者 を弱 い確 率解釈 と呼ぶ こ とにす る・
この区別 は街学的興味 にす ぎない よ うに思 われ が ちだが,縮約 され た力学 で初期相 関が あ る場合 に
.
4節 に説 明す る.次節以降に
は,密度行列 の性質か ら原理的 に要請 され るものである.詳 しくは,第 4
説 明す る,力学的半艶 完全正値力学的半群 に課せ られ るのは性質 (
i
)強 い確率解釈で ある・
3・
2 力学 的半群 (
Dy
n
a
mi
c
a
lSe
mi
gr
ou
p
)
時間発展演算子で性質 (
i
)を満 たす ものを考 える.これ に,線 形性 と Mar
k
ov性 を課す ことに よっ
Mar
k
o
v過程 を記述す るための一般論 を与 えるこ とがで きる・
て,量子 (
線形 )
線形性 とは混合性 を保持す る性質である:時間発展演算子 を Atとす る と,
(
i
i
) ∀pt,
P2∈I(
7
1)
,∀α1
,
α2∈C,At(
α1
β1+α2
P2
)-α1
At
(
pl
)+α2At
(
p2
)
(
2
3)
を満 たす ことを要請す る.量子 ダイナ ミクスが線形性 を持つ ことか ら,ここで も線形性 を課す こ とに
r
k
o
v性 は,時間 に対す る局所性 を意味 し,過 去の メモ リー を引 きず るこ とのない性 質 を指
す る.Ma
す l
l
g
]
.数学的 には半群 の性 質 を もつ もの と して定義 され る*16:正 の時刻 t≧0において定義 され
る時間発展演算子 を At(
t≧0)とす る と,半群 の性質 At
+S
-At
AL
,が成 立す ることを 「
時間発展 は
半群 の性質 を持つ,または時間発展 は Ma
r
k
o
v的である」 とい う.Ma
r
k
o
v性 の仮定は数学的扱 い を
簡 略化す るのみでな く,レーザー理論,ス ピン緩和現象 な どの記述 にお ける実験 との整合性 も確認 さ
れ てい る.そのた めに,Ko
s
s
ak
o
ws
kiは Mar
k
ov過程 を一つ の基礎 的 ダイナ ミクス と位 置付 け,その
7
]
.これ が力学的半群 (
Dyl
l
al
T
l
i
c
alSe
l
T
l
i
gr
oup)である・
一般論 を展 開 した [
定義 1 力学的半群 とは ,1パ ラメー タの半群 At:
T+.
1
(
力 )- I+,1(
7
1)を満 たす線 形写像 の集 合
に よって定義 され る (
I+
,
1
(
Tt
)は密度行列 に よる状態空間)
.つ ま り,力学的半群 は,三つの仮定:
(
i
)強い確 率解釈 , (
i
i
)線形性 , (
i
i
i
)Mar
k
o
V性 (
半群性 )によって構成 され る [
7
]
.
条件 (
i
)が確 率解釈 か らの要請 であったた めに,力学 的半群 とは,線形 な量子 Mar
k
ov過程 を記述
す る一般論 を与 えるもの と考 え られ る.
数 学 的 に は さ らに,トレー ス ノル ム I
l Hlに対す る連 続性 :l
i
mー
0+ H
At
p-pl
l
1-
0, ∀p∈
Tl
,
十(
7
1)を課す ・す なわち,時間発展 に対 して非連続的振舞 いは起 こ さない とい う物理的 な要請 で あ
る.Atが縮小写像 (
Col
l
t
r
aC
t
i
onMap)であることか ら Af- eL
:
tを満 たす生成子 L
:の存在が保 証 さ
*1
5数学的には,時間発展演算子 ^tの定義域 Dom(
At)が Tl,
+(
7
1)全体ではないことを意味す る.
*16 半群性 は時間に対する局所性 よりも強い.例 えばメモ リーを引きず ることがな くて も時間に陽に依存す る時間発展演算
子を考えることは可能であるが,それは半群性 を備 えない.
-
9 1
-
木村
元
れる (
Hi
le
Yo
s
hi
daの定理 【
2
0】
)
‥密度行列 に対す るマ スター方程式 は,
l
(
2
4)
孟 p(
i
)- Lp(
i
)
とな り,解 は p
(
i
)-eL:tp(
0)である・
Kos
s
a
k
o
ws
kiに よ り与 え られ た以下の定理 を紹介す る*17:
3[
A・Kos
s
a
k
o
ws
kit
7
]
〕
有 限準位 系 (
Di
m7
1-N < ∞ )にお ける力学的半群 の生成子 L
:: M (
N)- M (
N)は以下の形
定理
に表す ことがで きる:
i
:- 71
+D
(
25a)
,
岩
i
,
J
-
u p- -il
H,
p
'
,Dp- 去
P
F,
回 Fi
刷
1ci
,'l
Fi
,
1
}
・
(
25
b)
ここで ,
ガ は7
1上のある自己共役演算子 ,
Fi(
i-1-N2- 1)は Tt上の t
rFi-0,
t
rFil
Fi- 6iJ
を満 たす任意 の演算子である・複素行列 【
Ci
j]t
まエル ミー ト行列 (
筍
- ci,I)である・
γ は系のユニ タ リー発展 を与 えるハ ミル トニア ン部 (
Ha
l
ni
l
t
ol
l
i
a
nPa
r
t
)であ り以下に説 明す る 、
′
on
1方程式 (
第3
.
3・
2参照)に相 当す る部分 であ る・H は系の (
繰 り込 まれ た)ハ ミル トニア ン
Ne
uman1
.
と見 な して もよい.以後 H を有効ハ ミル トニア ンと呼ぶ D は非ユニ タ リー発展 を与 える部分 で散
逸部 (
Di
s
s
i
pa
t
i
v
ePa
r
t
)と呼ばれ る・
3
.
3 縮約 された力学 (
Re
du
c
e
dDy
n
a
mi
c
s
)と完全正値性
第
3
.
1節 によって,密度行列 空間上 の時間発展 を考察す る準備 が整 ったが,これ らはあ くまで も現
象論的な議論 に過 ぎない.ダイナ ミクスの起源 が ミクロな理論 によ り与 え られ る可能性 について議論
す る必要性 が残 され てい る.しか しなが ら序論 で考察 され た よ うに,ミクロな理論 としての量子論 が,
ユニ タ リー性 (
または可逆性 )を備 えてい るた めに,非ユニ タ リー性 (
または不可逆性 )を伴 う時間発
展 を量子論 に基づ き説 明す ることには困難 があ るよ うに思われ る.に もかかわ らず ,縮約 された力学
(
Re
duc
e
dDyl
l
ami
c
s
,以後 RD とも略す)は,量子論 に基づいて非ユ ニタ リー性 を説 明す ることを可
能 とす る有力 な理論 である.本節 では,RD の概念 的説 明か らは じめ,いかに して非ユ ニ タ リー性 を
説 明す るのか (
第
3.
3.
1節),また,(あ くまで原理 的 な レベル に留 め るが)具体 的 な計算 法 (
第3
・
3・
2
節)
,さらに RD の最大の特徴 と考 え られ てい る完全正値性 (
第
3.
3.
3節 )に渡 って詳細 に説 明す る.
3・
3.
1 縮 約 され た力学 (
RD)の概念的説明
縮約 され た力学 (
RD)は,対象 とす る量子 系 の非ユ ニ タ リー発展 (
混合化等)を量子論 に基づ いて
説 明す る有力 な方法 である.以下にその概念 的枠組み を説 明す る.
^t- eL
:であるための必要条件である.Ko
s
s
ak
ows
kiは行列 l
Ci
,]ある
凸集合 に属す るもの と限定 して必要十分条件 も導いている [
7ト
'17 この定理はあ くまで生成子 L
:が力学的半群
- 92 -
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
量子論が孤立系に対す る理論体系であるため,外界 (
環境 系 E
)との相互作用が無視できない よ う
な対象系 Sには,直接 に量子論 を適用す るこ とができない.この場合 は,対象系 S と相互作用す る
対象系 Sと環境 系 E の合成系)に量子論 を適用す る必要があ り,対象
環境系 E を合 わせ た全体系 (
系 Sのダイナ ミクスは,全体系 S㊤E のダイナ ミクスー ユニタ リー発展- の部分 として抽 出 され る.
こ うして得 られ る (
対象系 Sの)ダイナ ミクスを縮約 された力学 (
Re
duc
e
dDyna
mi
c
s
,以後 RD)と
非ユニ タ リー発展の例;詳 しくは第
呼ぶ.RD が非ユニタ リー発展 を説 明す る一例 として,混合化 (
3.
31
2節参照)を説 明す る‥初期時刻 において,対象系 Sが純粋状態にあるとす る.この とき対象系 と
環境系の初期相関はない (
第 2・
1節 定理 2参照)
・しか しなが ら,時間発展 (
ユニタ リー発展)を通 じ
環境系 E の部分和 を とること
て両系の相 関が産まれ る.この相関を持つ全体系 S㊨E の状態か ら,(
によ り)対象系 S の状態 を引き出す (
第 2・
1節縮約 された密度行列 (
1
0)参照)と,対象系 S の状態 は
混合状態 とな る (
第 2.
1節定理 2参照)
,す なわち,全体系の相 関によ り産み出 され る転義混合性 が,
対象系の混合化 を説 明す るのである (
不可逆性 に関 しては 【
21
1参照)
・
この よ うに,
RD は対象系 Sの非ユニタ リー発展 を自然 に説 明す るのだが,一方で批判的意見 も見
受 け られないわけではない ことを注意 してお く.例 えば Pr
i
g
o
g
i
neは対象系 と環境系 を分けるは人間
であるので,物理学 に対す る客観性が失われ るとして RD を批判す る t
2
2
1
・観測問題 に関 して も RD
に基づ く理論の提唱 [
1
1
,
2
3
]もあるが,観測問題 に対す る意 見の統一は未だに成 されていない.本稿
では このよ うな議論 に深入 りす るのは避 けるが, 「
対象 とす る系 と環境系 とに分 ける」 ことが物理的
に何 を意味す るかに関 しては明確 に してお こ う:対象系 と環境系の分割 は,我 々が実験 によ り引き出
l
be
r
t空間上で定義 され る,自己共役演算子*
1
8
)
す情報が,多 くとも対象系の観測可能量 (
対象系の Hi
だけであることを意味す る.それ以外の観測量 (
つま り,環境系に関係す る観測量)に興味がある場合
には,縮約 された密度行列 (
1
0)は正 しくない.この ことが ,
RD を使用す る際の前提であることを認
識 してお く必要がある.
3.
3.
2 縮約 された力学 (
RD)とマスター方程式
本節 は,(
Sc
hr
6
di
ng
e
r方程式 (
1
)に基づいて導出 され る)
RD の基礎方程式 (
マスター方程式)を説
c
hr
6
di
l
l
g
e
r方程式 と等価 な V
o
l
1Ne
uma
l
l
l
l方程式 *19を説 明
明す る.まず は,孤立系で記述 された S
す る-S
c
hr
6
di
n
g
e
r方程式が Hi
l
bc
r
t空間のベ ク トル の時間発展 を扱 うのに対 し,Y
onNe
uma
nn方
o
nNe
ul
l
l
a
l
l
n方程式か ら縮約
程式は密度行列の時間発展 を扱 う.その後環境系を導入 し,全体系の v
された力学 (
RD)のマスター方程式 を導 出す る.
孤立系のハ ミル トニア ン H が与 え られ てい る とき,状態
悼(
i
)
)の時間発展 は,Sc
l
l
r
6
di
l
l
g
e
r方程
式 によ り与 え られ る:
新
*1
8全体系の
(
i
)
)-鞘 (
i
)
)
・
(
2
6)
Hi
l
ber
t空間は,対象系 と環境系の I
i
i
l
ber
t空間のテ ンソル積 による合成系であるが,対象系の 自己共役演算
子 A とは,よ り正確 に合成系の 自己共役演算子 A ㊥ IEで定義す る.ここで ,I
Eは環境系の Hi
l
ber
t空間上で定義 さ
れ る単位演算子である.
*1
9 ここでの等価 とは,両者は共にユニタ リー発展 をす るとい う意味に過 ぎない.数学的には純粋状態に限れ ば両者 は等価
である.しか し後述す るよ うに,V
onNe
umann方程式は混合状態 をも扱 うことができるので,Shr
6di
nge
r方程式 よ
りも広い.
-9
3-
木村
元
これ を密度行列 p
(
i
)- 悼,
(
i
)
)
(
4
,
(
i
)
lで表す場合 ,時間発展方程式は,
孟
,
)
〈
刷)
p(
i
,- ( 柵
州 +(孟〈
-(
-i
Hl
,
O(
i
)
)
)(
4
,
(
i
)
A
+ 悼(
i
)
)(
i
(
*(
i
)
J
H)ニーi
Hp+i
pH
--il
H,p(
i
)
]
孟
l
(
27)
となる.特 にその形式解 は
p(
i
)-Ut
p(
o)
UT
,Ut≡cxp(
-i
Ht
)
t
(
28)
である (
Utの具 体 形 はハ ミル トニ ア ン H が 時 間 に依 存 しない場 合 を書 い た)・ 状 態 が混合 状 態
p-∑il
e
,
i
)
pi
(
4
,
i
lである場合 に も,各 勅 )(
i- 1,
2,・..)が,同 じハ ミル トニア ン H の Sc
l
l
r
6
di
l
l
gC
r
方程式 に よって発展す る場合 には,同 じ方程式 (
27)
,(
28)で記述 され る・この よ うに,密度行列 に対
す る方程式 で ,S
c
hr
6di
nge
r方程式 と等価 な方程式 を v
ol
lNeumanl
l方程式 と呼ぶ.v
ol
lNc
umanl
l
方程式は確 か に混合状態 をも扱 う時間発展方程式であ るが,それ は Sc
l
l
r
6di
l
l
g
e
r方程式 と同様 ,混合
0)- 悼)
(
朝 な らば,vonNe
umal
1
1
1方程式 の形
化 に関す る説 明はできない:初期状態 が純粋状態 p(
28)よ り p(
i
)-p(
i
)-Ut
l
4
,
)
(
4
,
l
Ut
T- l
,
卓(
i
)
)
(
4
,
(
i
)
Eとなって純粋状態 であ り続 ける.
式解 (
これ に対 して,縮約 され たは力学
(
RD)は,対象 系 と相互作用す る環境 系の存在 を考慮 に入れ ,量
v
onNeumal
l
n方程式 (
28))を (
孤立系 としての)全体系 一対象系 +環境系一
一に適用す る:す な
子論 (
TOT(
i
)∈7
T
l
,
+(
7
is㊤ 7
1
E)は量子論 に従 ってユニタ リー発展 (28)をす る:
わち,全体系の状態 p
pT。T(
i
)-Ut
p
T。T(
0)
Ut
l
.
(
2
9)
ここで ,Utはある 7is⑳7
iE 上のあるユニ タ リー演算子である (
7
is,
7
iE はそれ ぞれ 対象 系,環境系
の Hi
l
bc
r
t空 間,7is㊤ 7
iE は全体系 (
合成 系)の Hi
l
ber
t空 間).対象 系の状態 は,縮約 され た状 態
(
1
0)によ り与 え られ るため,た とえ全体系がユニ タ リー発展 を して も,時間発展 によって両系の相 関
が産 まれ る と対象系の混合化 (
転義混合性 )が説 明 され る.
OTが与 え られ てい る場合 ,
RDのマスター方程式 (密度行列
ここで,全体系のハ ミル トニア ン HT
に対す る基礎 方程式)と v
ol
lNeuma1
1
1
1方程式 との相違 がいかに して現れ るかを見てお こ う.全体 系
のハ ミル トニア ン HT
OTは一般 に,対象 系- ミル トニア ン Hs,環境 系ハ ミル トニア ン HE,両者 の
相互作用ハ ミル トニア ン HI
NTに分割 され る:
HTOT-Hs
+H INT +HE,
(
3
0)
全体系は,ハ ミル トニア ン (
30)に基づ く vol
lNe1
1
1
T
l
al
1
1
1方程式 (
27)を満 たす :
〟
扇 PTOT(
i
)--i
l
HTOT,
P
TOT(
i
)
]--i
l
Hs,
P
TOT(
i
)
]-i
l
HI
NT,
P
TOT(
i
)
ト i
l
HE,
P
TOT(
i
)
]
・
(
31
)
対象 系 に対す るマス ター方程 式 (
縮約 され た密度行列 (
1
0)p
s(
i
)- t
r
EP
TOT(
i
)に対す るマス ター
方程式)は,両辺 に対 して環境 の部分和 t
r
Eを とるこ とに よ り得 るこ とがで きる.:
嘉
ps(
i
)--i
l
Hs,
p
s(
i
)
]- t
,
r
E(
l
H
i
-9
4-
I
NT,
PTOT(
i
)
。・
(
3
2)
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
-i
l
Hs,・
]と トレース t
r
Eの
(■
/Hsは対象系の演算子)そ して,(
i
i
i
)t
r
Et
HEPTOT(
i
)
)- t
r
E(
P
T
OT(
i
)
HE)(/̀HEは
式変形の際には,(
i
)時間微分 嘉 と トレース t
r
Eの可換性 ,(
i
i
)超演算子
可換性
環境 の演算子)を用いてい る.V
onNe
umann方程式か らのずれ は,相互作用ハ ミル トニアンが与 え
る(
3
2)式右辺 の第二項 (
散逸部)である.この項がダイナ ミクスの非ユニタ リー性 を生み出 し,散逸
の効果 を与 えるのである.本稿 では具体的- ミル トニア ンを与 えずに,一般的な議論 のみ を行 な うの
4
-6,
9,
1
0,
24-27
]
・ここで重要な ことは,形式的な
で,散逸部の導出等 に関す る詳細 は文献 にゆず る 【
議論の段階において散逸の効果の起源が見て取れ ることである.
ここで,初期相関が無い場合の時間発展演算子の具体形 を与 えてお く (
初期相関がある場合 は,第
4.
3節 参照)
:初期 時刻 において,対象系 と環境 系の相 関が無 い場合,す なわ ち全体系の初期状態 が
PTOT(
0)- p
s㊤pEによって与 え られ る場合 に,時間発展演算子の形は
p
s(
i
)-trEUt
p
s㊤pEUtt ≡At
p
s
(
0
)
(
3
3
)
となる (ここで,p
s(
0
)-psに注意)・さらに,固有値展開定理 1に基づ き pE - ∑,Pjt
j)
(
jtと展 開
す ると:
Ap -
¥
@(
t
rL
・
J
I
Up
) U †- 吉
-
例
・
UL
j,
pn
jP .・
k,- 妄 wj
kPWI
た,
(
34)
Wjk ≡J打(
k
l
Ul
j)
)と表す ことがで きる (
時間の添 え字 tは省略 した)
・よって,初期相関の
無い場合の RD の時間発展演算子は (
添 え字集合 t
i
,
i)を (
α)に統一 して)
(ただ し
-∑
wap
wi
(
Ap
(
35)
I
と表す ことができる (
第 3.
3.
3節 における Kr
aus表示 も参照)
.
Atは (
状 態 を時 間発 展 させ るの で)
Sc
l
l
r
6di
l
l
g
e
r描 像 の 時 間発 展 演 算 子 で あ るが,対応 す る
He
i
s
e
l
l
be
r
g描 像 にお け る時 間発 展演 算子 A;は Aとの (
次 の意 味 での)共役 で与 え られ る:任 意
の p∈T(
7
is)
,A ∈β(
7
is)に対 して
t
r
s(
At
p
)
A-t
r
sp
(
At
A)
(
3
6)
を満 たす もの と して Atの共役 A;が定義 され る. ここで,Tt
sは対象 系 の Hi
l
be
r
t空 間,
I(
カS)
,
カS)はそれぞれ 7
i
s上の線形 トレースクラスの作用素の空間,線形有界作用素の空間である.時間
β(
発展演算子の具体形 は,∀p∈T(
カS
)
,
∀A ∈β(
カS
)を固定 して,
t
r
s
(
(
t
r
EUt
p㊤p
E
U
t
)
A)
t
r
s(
(
At
p
)
A)-
-t
r
st
r
E((
p㊨
p
E
U
t
T
A
U
t
)
ト ー
r
st
p
t
r
E
(
p
EUt
AUt
))
(
3
7)
よ り,
At
*
A-t
r
i
,(
p
EUt
AUt
)
(
3
8)
となる・これが初期相関の無い場合 の He
i
s
e
nbe
r
g描像 にお ける時間発展演算子の具体形である.
- 95-
木村
元
3.
3.
3 完全正値性
本節 において,(
初期相 関の無い場合の)
RD の特性 である完全正値性 について説明す る*20
定義 2 【
完全正値性]
β(
カ )を Hi
l
be
r
t空間 7
1上 の線形有界作用素の空間 とす る・写像 A :β(
カ )- β(
7
1)に関 して,
任意の 自然数 n∈N に対 し,合成写像
An…A㊥I
n:
β(
7
1)㊤M(
n)- β(
7
1)㊤M(
n)が正値保
存である一 正演算子 を正演算子に写像す る-とき,A は完全正写像 (
Compl
e
t
e
l
yPos
i
t
i
v
eMal
)
)
であると呼ばれ る.ここで,M (
n)は n xnの複素行列空間,Ⅱ
nはそれ上の単位行列 .また,この
9,
ll,
28]
・
性質を特 に完全正値性 と呼ぶ [
1
971年 ドイツの Kr
at
l
Sによ り,RD の時間発展演算子 に対す る次の定理が得 られた.
定理 4 【
K.Kr
aus【
11
】
]
初期相 関の無い場合 の縮約 された力学 (
RD)か ら得 られ る,He
i
s
e
nbe
r
g措像 にお ける時間発展演
2節 にゆず り,ここでは Li
l
l
dbl
a
dによって与 え られた,物理的な説 明を行 な う [
1
3
]
・
証明は付録第 A,
対象 系 S,環境 系 E の どち らとも相互作用 をせず,さらにエネル ギーが 0であるよ うな仮想的な n
準位系 V(
その Hi
l
be
r
t空間は 7
iv-Cn)を考 える・さらに,初期時刻 において全体系- 対象系 S+
環境 系 E+仮想系 V - の状態が ,p
v㊥p
s㊥pEであるとす る.合成系 S㊤Vの レベル において見
㊥I
E㊤Z
v)の期待値 は,
る対象系力学量 A (
(
A)-trsEVPv@ ps@ pE
UI
AUt-t
r
svpv@pstrE
-t
r
svpv㊤psAi
*㊤I
,
t
A
となる (
前節式 (
3
8)参照)
.この とき,合成系
算子 は
(
p
EU
t
f
AUt
)
(
3
9
)
∫㊤Vにお ける Hei
s
e
l
l
be
r
g描像 にお ける時間発展演
A
言㊦I
nとみなす ことができる.ところで,時間発展演算子は確率の正値性 を保証す るために
,
正値保存の性質 を持つ・よって,合成系 S㊥V上の時間発展演算子
A
f
T㊥I
nは正値保存性 を持つ・こ
の議論は任意の 自然数 nに対 して当てはまるので,定義 よ り A
t
Tは完全正写像である.
このよ うに,(
初期相 関の無 い場合 の)
RD には,完全正値性 と呼 ばれ る性質 が課せ られ ることにな
る*21.完全正値性 は非常に強い性質である.孤立系の時間発展 が,ユニタ リー性によって特徴付 け ら
れたのは,波動関数 の確率解釈 か らの要請であったのに対 して,完全正値性 は対象系 S自体の確率解
釈か ら得 ることはできない.この ことは,完全正値性 は,確率解釈 を保証す るのでな く,さらに物理量
2節参照).
の時間発展 を特徴付 けるよ うな強い性質 を持つ可能性 を示唆 している (
第 4.
'20完全正値性 は C'代数の間の写像に定義 され る性質であるが,本稿 で用いる場合 には C'
*代数 として,Hi
l
ber
t空間 7
1
〟)以外 を用いることはないので,有界作用素上の写像 に限定 した完全正値性 の定義 を与
上の線形有界作用素の空間 β(
える.
*21初期相 関がある場合の完全正値性 に関 しては現在 もなお未解決の問題 である (
第 4.
3節参照)
.
19
6-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正価性の役割
Kr
ausは さらに,性質 (
i
)強い確率解釈 ,(
i
i
)線形性 ,(
i
i
i
)完全正値性 を備 える時間発展演算子の一
11
]
:
般形 を導出 した 【
定理 5 [
Kr
a
us表示 【
11
]
]
7
1を可分な Hi
l
be
r
t空間 ,T(
7
1)を線形 トレースクラスの作用素の空間 とす る.性質 (
i
)強い確率
i
i
)線形性 ,(
i
i
i
)完全正値性 を備 える T(
7
1)上の写像 Aは
解釈 ,(
]wa
,S
・
t
・Ap-∑ l
/
叱 pWi
(
1
と表す ことができる.
aus表示 と呼ばれ ている.初期相 関の無い場合 の RD の時間発展演算子が この形
この形 の表現は Kr
35
)参照).この ことは,初期相 関の無い場合の RD の時間
に書 き表 され ることは既 にみた (
前節式 (
i
)強い確率解釈 ,(
i
i
)線形性 の仮
発展演算子が完全正値性 を備 えることを示 しているばか りでな く,(
定が正 しい ことも表 してい る.
3・
4 完全正値 力学的半群 (
Comp
l
e
t
e
l
yPo
s
i
t
i
v
eDy
n
a
mi
c
a
lSe
mi
gr
oup
)
第 3.
2節 において説明 された力学的半群 は,確 かに量子 Mar
k
ov過程 を記述す る一般論 を提供す る
が,それ は現象論的枠組みの範境 を超 えるものではない.そのダイナ ミクス (
特 に非ユニタ リー発展
を伴 うもの)の起源 は,ミクロな ものに基づいてい るわけではな く,Ma
r
k
o
v的で確 率解釈 に矛盾 し
ない ものの集合 に過 ぎない (
ただ し,状態概念 を密度行列 の空間 とす る ところには,量子的記述 の背
景があることは大 きい)
.そ こで,非ユニタ リー性 の起源 を RD に基づいて考 えるのが,完全正値力学
Compl
c
t
c
l
yPos
i
t
i
v
eDynami
c
alSc
mi
gr
oup)*(
21
2である:(
初期相関の無い)
RD に基づいて
的半群 (
3.
4節参照)
.そ こで,力学的半
導 出 され るダイナ ミクスであれ ば,完全正値性 を備 えるはず である (
i
)強い確率解釈 ,(
i
i
)線形性 ,(
i
i
i
)
Mar
k
ov性 に (
i
v)完全正値性 を加 えた ものが, 「
RD に
群 の仮 定 (
r
k
o
v仮定の一般論」を与 えるもの と考 えられ る.
基づいた量子 Ma
定義 3 完全正値力学的半群 とは,1パ ラメー タの半群 At:
I+,1(
7
1)- T+,1(
力 )を満 たす線形写
7
1)は密度行列 による状態空間)
.
像 の集合で,完全正値性 を備 えるものによって定義 され る (
T+,1(
つま り,完全正値力学的半群 は,四つの仮定:
(
i
)強い確率解釈, (
i
i
)線形性, (
i
i
i
)Mar
k
o
v性 (
半群性)
, (
i
V)完全正値性
Li
ndbl
ad[
1
3
]や Gor
i
l
l
i
,Kos
s
ak
o
ws
kiそ して Sudar
s
l
l
al
l[
1
4
]は,完全正値力学的半群 の生成子
I
:の一般形 を導 出す るこ とに成功 した.今 日では,それ は Li
ndbl
ad型生成子 (
または,Li
ndbl
ad原 子緩和,ス ピン緩和)【
4
-6,
1
0]
,量子情報理論 [
29
]
,
Kos
s
ak
o
ws
ki型 生成子)と呼 ばれ,量子光学 (
11
]
,QSD(
Qua
nt
J
ulnSt
at
eDi
fus
i
on)[
3
0]
,散逸系の量子カオス [
31
]
,そ して素粒子
量子観測理論 [
*22 文献によっては,量子力学的半群
(
Quan
t
um Dynami
c
alSemi
gr
oup)と呼ばれ ることもある
-
97
-
木村
元
論 【
32
]に渡 って広 く用い られている.対象系の Hi
l
ber
t空間の次元 Ⅳ が有限である場合 *23を考 え
ると,それ は
定理 6 【
G・Li
nd
bl
a
d[
1
3
]
,Ⅴ・Gor
i
ni
,A.Kos
s
ak
o
ws
ki
,E.C.G.Suda
r
s
hal
l【
1
瑚
有限準位 系 (
Di
m7
1- N < ∞ )にお ける完全正値力学的半群の生成子 L
::M (
N)- M (
N)は
以下の形 に一意的表 され る.また以下の型 を満たす生成子は完全正値力学的半群の生成子である:
I
:- 7
1十D,
41
a)
(
l
Fp
F
,
,
]
+[
FP
,
F
I
]
}
・
H,
p
]
,Dp- 三㌢
ci
j{ "
"p- -il
i
,
J
-1
i
ここで,H は Tt上 の あ る 自己共役 演算子 t
rH - 0 ,Fi(
i- 1
-
O,
t
rF!Fi-
(
41
b'
N2 - 1
)は 7
1上 の t
rFi -
匡 M(
N2 - 1
)は正値行列である.
6i
j を満 たす任意の演算子である.複素行夕
日C ij
Ci
j】∈ M (
N2 - 1
)が 正 値 行 列 で あ る とは,任 意 の
(こ こで,行 列 【
∑i
,
jii
Ci
jX'≧0であることに よ り定義 され る・)第
の相違 は,力学的半群 で は
l
xi
]
∈ CN2-1 に 対 し,
3・
2節 にお ける力学的半群 の場合 の定理 3と
【
Ci
j]がェル ミー ト行列 で あ るの に対 し,完全正値力学的 半群行 列正値
行列 に変 わった ことであ る*24.完全正値力学的半群 が力学的半群 に (
i
v)完全正値性 を加 えた もの
であるか ら,完全 正値性 は行列
[
Cl
・
j]の正値性 を課す こ とが分か る・力学的半群 と同様 7
1をハ ミ
ル トニア ン部 ,H を有効ハ ミル トニア ン,D を散逸部 と呼ぶ.ハ ミル トニア ン部 にあ る H は,第
3・
31
2節 で得 られ た RD のマスター方程式 (
32)と比較す る と,対象系のエネル ギー Hsに相 当 して
い るよ うに思われ る.しか しなが ら一般 には,式 (
32)の右辺第 2項か ら密度行列 との交換関係 -の
繰 り込みが あるために,Li
ndbl
ad型 マスター方程 式 にお ける H は,対象 系の繰 り込 まれ たェネル
ギー H - Hs+△H と見なす ことが正 しい (これ が H を有効ハ ミル トニア ンと呼ぶ理 由であ る)
.
t
rH -0は,表現の一意性 か ら要請す るが,物理的にはエネルギー原点を 0にそろえることに対応 し
1
3,
1
4】にゆず るが,完全正値性 の条件 が散逸部の行列 [
Ci
.
,
・
]の正値性
ている・定理 6の証明は文献 [
に完全 に帰せ られ ることを覚 えておいて欲 しい.
3.
5 2準位 系の完全正値 力学的半群 と等価 な Bl
o
c
h方程 式 と緩和定数
本節 において 「
2準位 系 (
完全正値)力学的半群の緩和定数 (
緩和時間)
」を厳密 に定義す る.その
ために,まず 2準位 系の (
完全正値 )力学的半群 と等価 な一般化 され た Bl
oc
h方程式 を説明す る*25:
Bl
oc
h方程式 とは,三つの偏極成分 M i(
i
)-t
rP(
i
)
gi
/
2(
i-1
,
2,
3)に対す る方程式である (ここで,
'
2
3Gor
i
nie
tal
.は有限準位系で議論 しているが,Li
ndbl
adは無限準位系を含む,よ り一般的な結果 を導出 している.以
i
nietal
_の議論で十分である.
下で我 々が興味あるのは有限準位系であるため,Gor
*
2
4もちろん定理 3は力学的半群 の必要条件であるために,行列のエル ミー ト性以上の性質が課せ られ る.Kos
s
akows
ki
は行列 [
C り 】に さらに強い性質 を課す ことで力学的半群の必要十分条件を導出 した 【
7
ト この性質を陽に書き下す こと
は避 けるが,この性質は正値性 よ りも弱い条件であることを強調 してお く.よって,完全正値力学的半群の特徴はやは
Cり]の正値性に帰着 され ることには相違ない.
り行列 [
Bl
och方程式,緩和定数の定義は平行 して説明 され る.
*25 力学的半群,完全正値力学的半群それぞれに対す る
- 98 -
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
qiは Paul
i行列 であ る)
.Bl
oc
hによって核 ス ピン緩和 を記述す るために導 出 された Bl
oc
h方程式
33
]
.一方 ,2準位 系
は,量子論に基づ く磁場 中の際差運動 を現象論的に緩和 させ る方程式で あった 【
力学的半群 (
または,完全正値力学的半群)と等価 な一般化 された Bl
oc
h方程式は,密度行列 p
(
i
)が
2
5
)
(
または,Li
ndbl
ad型マスター方程式 (
41)
)によって記述 され る場
力学的半群のマ スター方程式 (
合 の Bl
oc
l
l方程式 に よ り定義す るのである.その具体形 は初 めて Kos
s
akows
kiに導 出 された t
341
・
本稿では,Bl
oc
l
lによって現象論的に導出 された方程式を Bl
oc
h方程式 (
または現象論的 Bl
oc
h方程
,Kos
s
ak
oWs
kiによって導出 された 「
2準位 系力学的半群 (
または完全正値力学的半群)と等価な
式)
Bl
oc
h方程式 」 を 「
一般化 された Bl
oc
h方程式」 と呼び,区別す る.
3・
5・
1 (
現象論的)Bl
och方程式
oc
l
lによ り現象論的に導入 され た Bl
oc
h方程式 を説 明す る.磁気回転比 を
ここでは ごく簡単に Bl
T とす る と,磁場
B- (
0,
0,
B)
*
2
6内におけるス ピン系のエネル ギー H(
系のハ ミル トニアン)は
1
H =-TBSZ
, Sz=亘Jz
(
4
2)
で与 え られ る.偏極成分 (
ス ピン期待値 )
Mi
(
i
)- trP
(
i
)
0
i
/
2(
i- 1,
2,
3
)は Scl
l
r
6di
nger方程式 に
従 って際差運動 を行 な う:
孟M (
i
)ニーAM (
i
)
,
(
43a)
0
.
O
.
-(
i
,-( A
i ;
(
?
,) , A-( 7B -三B o)・
(
43b)
しか しよ り現実的 には,周 りの電磁場 との光子のや り取 りに よって,次第 にエネルギー を失い,また
その非干渉化 も起 こる.そ こで,Bl
oc
hは現象論的にこの効果 を導入 した.彼 はエネル ギー散逸 と非
干渉化 をす る時間スケール TL,
,TTを導入 し,際差運動 (
43)か らのずれ として Bl
oc
l
l方程式:
(
44a)
孟M (
i
)--AM (
i
)十 b,
rT
Ml
(
i
)
M(
i
)-
M2
(
i
)
-T
B
O
A
= TB r 0
( 0 0r 巨
T
上′
i
))
(M 3(
(≡
) (44b)
を導出 した.ここで,
r
T ≡1
/
TT(
横緩和定数)
,
rL ≡1/TL
,
(
縦緩和定数)である・aは定常状態 を決定
・
-o
⇔r Oor
r
T-TB - 0
de
tA -r
L(
拷 +(
TB)
2)
す る定数で,定常解 は A-1bである*27 (
L
に注意)
.ここで,定常解 の方 向 A 1bと磁場方 向は一致す ることを強調 してお く (
A 1b∝ B
⇔
b⇔ AB - i
(
0,
0
,
a
r
L
)
.よって,b∝ B).これ が (Z軸方 向 を磁場方 向 と選 んだ際 の)現象論的
Bl
oc
h方程式である.
*26簡 単のため磁場方向を Z軸 と選んだ.
+27 定常解が温度
-去tanh旦芋
T- 1
/
βの熱平衡状態 (pβ- e
xp(
-βI
I
)
)t
=なるためには ,a
- 99-
である
木村
元
3.
5.
2 一般化 された Bl
och方程式
2準位 系 (
〟 - 2)力学的半群 のマスター方程式 (
25)
(
または,Li
ndbl
ad型マスター方程式 (
41)
)に
,
i
/
2(
i- 1-3- 22- 1
)を採用す る.Ⅰ
,
Ft(
i- 1,2,
3)は M(
2)にお ける完全性 をな
おいて Fi- C
す ために,
3
(
4
5
)
(
i
)H -∑ hl
Fi
,
hi∈汲,
i
i
i
i
l
と表す こ とがで きる (ここでは ,
t
rH -0を用 いた)・散逸部 の行列 [
Ci
,
]はエル ミー ト行列 で ある・
そ こで,上手 く座標軸 を選択す ることで,非対角成分 の実部が 0で あるよ うにパ ラメ トライズす るこ
とが可能である*28:
72+73-71
(
i
i
) l
Ci
j
]-
i
a3
(
⇔
-号
a2
7
-
Ci
j-(
2
-W3
i
a2
73+71-72
-i
a1
i
al
l
′
1+72-73
・ ,
Ti∈A,
a i
…
7i
)
6
i
j-i
e
i
j
k
ak
,7
71+72+73・
(
4
6
a)
(
4
6
b)
偏極成分 Mi
(
i
)-t
rP(
i
)
Fiに対す る,一般化 され た Bl
oc
h方程式 は,
d
扇t
rP(
i
)
Fi-t
r
(
7
1+D)
p(
i
)
Fi
l.
一
2
り
レ
-i
h
,t
rp(
i
)
l
Fj,
Fi
]・芸C,
it
rP(
i
)t
FL
l
l
Fi
,
F,
回 FL
"Fi
]
F,)
Jr
- -ei
J
kh t p
(
i
)
Fk+
(
(
7 I2
7
j
)
6
j
L
l-i
E
Jk
,
nan)t
rp(
i
)(
e
i
J
l
Fk
Fl+E
た
i
l
FI
Fj)
7
(.
/Ci
,-(
7-2i
)
6
i
,-i
E
i
,
とa
l
"l
Fi
,
Fj
]-i
e
i
j
L
・
Fk)
L
l
+
i
去
恒2n・)trp(i)E lF,F
--E
i
,
k
h,tr
p(
i
)
F
(i
j
1
+亘ejkmam trP(i
)
(
e
i
j
l
F
k
Fl+e
k
i
l
FI
F,
l・
E
,
uFI
F
j)
)
1
ーe
i
j
L
l
h,t
rp(
i
)
Fk・i
去(
7-27j)
E
i
j
l
t
rP(
i
)
l
Fj,
Fl
]
・盲ejr
-a-e
i
j
l
t
rP(
i
)
l
Fk,
Fl
]
.
1
--e
i
,
i
h
J
,t
rP(
i
)
Fk-去(
7-27
,
)
e
i
j
l
e
,
I
-t
rP(
i
)
F-+盲E
j
k
-E
i
,
k
a- (
.
:l
Fi
,
F,
i
.- 三∂
i
,
)
ニ
T
i
t
rP(
i
)
Fi・去
--E
i
j
A
hjt
rP(
i
)
Fk-
ai,
(
47)
となる.
行列形式 にま とめる と,
孟M (
i
)--AM (
i
)十 b,
'28 実対称行列が実直交行列
(
4
8a)
[
V
t
J
]によって対角化 され ることを利用す ると,(。般 に複素成分 を持つ)エル ミー ト行列は,
実直交行列 によって非対角成分実部を 0にす ることが可能 とな る.そ こで上手い実直交行列 を採用 し,新 しい F;とし
て
F
l
'
- ∑
,VijFj を選択すれ ば,式 (
46)のパ ラメ トライズができる.以後 ′は落 とす・
-1
0
0-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
ん 3
(4 8b )
72
-
(
i
,- ( 芸
tH
…:
, A-
(
:
L
f
l
z3
-
h
l
で与 え られ る.これが (
力学的半群,または完全正値力学的半群 に対す る)一般化 され た Bl
oc
l
l方程
式である.
Li
ndbl
ad型マスター方程式 (
41)
)の場合 には,行列 [
Cij】は正値行列である
完全正値力学的半群 (
た めに,対角成分 は非負 で ある (
∀xi,∑ i
声 Ci
jXj ≧ 0であ るので誹
つま り,パ ラメー タ Tiには次の制約 が課せ られ る:
)- 6
i
jを採用すれ ば よい)
・
71+TL
2≧73, 72+73≧71
, 73+71≧72・
(
4
9)
この条件 は,さらに Tiの正値性 を導 く:
71
,
72,
73≧0
.
(
5
0)
(
●
・
●一般性 を失 うことな く,73≦72≦71とす ることができる.(
4
9)よ り,71≦72十73であるので,
73≦72≦ 71≦ 72+73・よって,72≦ 72+73⇔0≦ 73.よって Ti
'
Sの正値性 0≦ 73≦ 72≦ 71
が成立す る.)つま り,
が成 立 してい る.条件 (
51)は,力学的半群 の場合にはな く,完全正値 力学 的半群 に特有な性質で
ある.
3・
5・
3 緩和定数 (
緩和時間)
Bl
oc
l
l方程式 (
48)の解 は行列 A の固有値
右
(
i- 1
,
2,
3)を指数の肩 に乗せた形:
e
xI
)
(
一入
i
t
)-eXP(-il
m入L
t
)e
xp(
-ReA
i
t
)
(
52)
で ある*29ために,行列 A の固有値 の虚 部 は振動 を与 え,固有値 実部 が指数 関数的 な散逸 の時間ス
i(
i- 1,2,3),緩和時間 Ti(
i- 1
,
2,
3)を
ケール を決定す る・そ こで,緩和定数 r
ri≡ ReAi,Ai:行列 A の固有値
(
53a)
によって定義す る.これは実験 によ り観測が可能な物理量であることを強調 してお く.
*29行列
A が対角化可能でない場合 は,さらに tのべ きがかか る
-1
01-
木村
元
現象論的 Bl
oc
h方程式 (
44)の場合行列 A の固有値 は,
rL
,
,
I
I
Tj=iTB であるので,二つ の独立な緩
和定数 I
I
L
,
I
I
Tがあるこ とにな る.よって,Bl
oc
hの導入 した縦 ・横緩和定数 (
またその逆数 の縦 ・横
緩 和時間)は,上定義 にお ける緩和定数 に一致す る.また,これ らの固有値 に属す る固有ベ ク トル は,
縦緩 和定数 の場合 が Z 軸 に比例 し,横緩和定数 の場合 が X,
y平面 に属す るベ ク トル の集 合 である.エ
ネル ギー方 向 (
磁場方 向)を Z 軸 に設 定 したために,縦緩和 とはエネル ギー緩和 を,横緩和 とはその非
干渉化 をす る時間スケール を与 えるのである.
次 に,一般化 された "
縦 ・横"緩和定数 を定義す る 【
35
]
‥現象論的 Bl
oc
l
l方程式 の縦 ・横緩和が;実
固有値 の実部,複素固有値 の実部 に対応 してい ることに着 目す る.そ こで,一般化 され た Bl
oc
h方程
式 において も,Bl
oc
h方程式 と同様 に "
縦 ・横"緩和定数 を,
:
.圭 ≡ ÷
二
:
I:
=
∴
:
_
一二
によって与 えるもの とす る.実 固有値 は振動 を伴わない指数 関数 的減衰 を,複素 固有値 は振動 を伴 う
oc
h方
減衰 を もた らす .この物理 的特徴 に よって,縦 ,横緩 和 を定義 しなおす のである.現象論的 Bl
程式の場合 は,さらに縦緩和 がエネル ギー緩 和 と同一視 され ,また横緩和 はエネル ギーの非干渉化 と
同一視 され る.
4 結果
4,
1 [
7
1,
D]-0条件の物理的考察
本研究では,力学的半群 の生成子 (
25)で,ハ ミル トニア ン部 と散逸部が可換 な クラス:
[
7
1,
D]-0
(
55)
に着 目した・例 えば対象系 と環境系が弱結合 である RD のマスター方程式 は,ある時間の粗視化 (
van
Ho
v
e極 限 [
24】
)の下,条件 (
55)を備 えるこ とが一般 的 に示 され てい る [
36
]
・また第 3・
5・
1節 に紹 介
した現象論的 Bl
oc
l
l方程式 と等価 なマスター方程式 もこの条件 を満 たす .この ことか らも,条件 (
55)
を満 たす クラスに的 を絞 り,考察す ることには意義 があると考 え られ る.
55)が,エネル ギー緩和 とその非干渉化 が独立 に時間発展 をす るための十分条件
本研 究では,条件 (
1
.
1節 定理 7)
.この こ とは,条件 (
55)を満 たすマ スター方程式 が ,Paul
iマ
である ことを示す (
第 4.
oc
l
l方程式
スター方程式 を満 たす ことを意味 してい る.また 2準位 系の場合,この条件 が現象論的 Bl
1・
2節)
.
を完全 に特徴付 けること,一般化 され た詳細釣 り合 いの原理 を満 たす ことを示す (
第 4・
-1
02-
量子開放系の ダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
4.
1.
1 Paul
iマスター方程式
まず,以下の定理 を示す ことができる:
G・
K・
]
定理 7【
力学的半群 における生成子 L
:- 7
1+D (
25)が,
D]
-0
[
7
1,
を満 た し,かつ有効ハ ミル トニア ン H が非縮退 Ei(
i∈Z)の離散固有値 のみ を持つ もの とす る‥
HI
i
)-E
I
I
i
)
・この とき,
pi
j
(
i
)≡t
rP(
i
)
I
i
)
(
j I
は,対角成分,非対角成分にそれぞれ閉 じた方程式で記述 され る (
ただ し,
HI
i
)- E
i
l
i
)
)
:
(
i
) 孟()-∑ wi
j
P"・
(
i
)(
i-i)
,
3
pi
ii
(
i
i
)
孟
pi
,
(
i
) ∑v
i
j
;
k
l
Pk
l
(
i
)(
i≠j
)
I
-
た≠∼
ここで,係数 Wi
j
,
Vi
j
;
L
・
lは次の関係式 を満たす:
(
i
) 評t
j- Wi
J
,∑ W1
,-0
i
(
i
i
) Vi
j
;
k
l-∇j
i
;
l
k・
これ よ り,次の系を得 る:
系 2[
G・
K.
]
定理 7の条件 を満 たす マス ター方程式 は,Pa
ul
iマスター方程式 を満 たす:す なわ ち,対角成分
pi
i
(
i
)≡t
rP(
i
)
I
i
)
(
i
l-(
i
l
p(
i
)
I
i
)≡pi
(
i
)
孟-
-∑
wj
i
I
,
i
(
0・
≠も
pi
(
i
) ∑ wi
j
Pj(
i
)
j≠i
j
定理 7,系 2の証明
まず,力学的半群 の生成子 (
25)
i
:- 7
1+D に対 して,
[
7
1,
D]
-0⇔ [
7
1,
i
:
i-0⇔ [
げ
-
103 -
0
,
i
:
*
]
(
63)
木村
元
,
I
:
*は Hi
l
be
r
t
Sc
hmi
d内積 による 7
1,I
:の共役)
.ここで,任意の p∈I(
7
1)
,
が成立す る (
ただ し,〟
A ∈β(
カ )に対 して,
t
r7
1(
p)
A-t
r
仁i
l
H,
p
]
A)--it
r
(
(
HpA-PHA)
)
ニーit
r
(
p(
AH -HA)
)-t
rp,
i
l
H,
A]-t
rp7
1*
(
A)
(
6
4)
が成立す るので,7
1- -7
で である (
三番 目の等式 には t
rAB -t
rBA を用いている)
・よって,式
(
63)よ り,
(
6
5
)
[
7
1,
I
:
*
]- 0
が成立す る・ところで,超演算子である 7
1・
- -i
l
H,・
]の固有値 L
Jは,H の固有値の差 を -i倍 した
J--i
(
Ei-Ej)であ り,その固有ベ ク トルは J
i
)
(
jl
・特に,H が非縮退であるので 7
1の 0固有
もの‥L
i
)
(
i
Iの重ね合わせのみである.つま り,Ttの 0固有値に属す る固有空間
値 に属す る固有ベ ク トルは I
は
(∑i
a
・
i
附く
i
l
, al
i∈
C)となる・式 (
6
5
)よ り L*と ナ‖ま可換であるので,I:*が 71の O固有値に
i
)
(
i
‖こ作用す ると,それ はまた 7
1の 0固有値 に属す る固有ベ ク トル
属す る固有ベ ク トルの一つの I
Viに対 し,ある Wi
j∈C が存在 し,
でなくてはな らない‥すなわち,
L
:
*l
i
)
(
i
l-
∑wijJj)(jI,
(
66)
j
が成 立す る・ 同様 に,i≠ jに対す る L
:
*l
i
)
(
i
lも,Ttの同 じ固有値 -i
(
E
1- e
j)に属す るので,
∀i
,
i(
i≠j)に対 し,ある Vi
j
;
k
l∈C が存在 し,
i
:
*I
i
)
(
jl-∑v
j
i
:
l
L
t
l
l
)
(
kl
,
l
≠た
(
67
)
が成立す る.
:
(
AI
)- (
I
:
(
A)
)
1 , 特 にそ の共役 な 関係 の L
:
*
(
AI) 力 学 的 半群 の性 質 (
エル ミー ト保 存)i
(
£*
(
A)
)
Iに注意す ると,
評i
j- (
jl
(
i
:
*
(
l
i
)
(
i
l
)
)
I
l
j
)-(
jl
L
:
*
(
I
i
)
(
l
i
t
)
l
j)-(
il
l
:
*
(
I
i
)
(
i
l
)
J
j
)-Wi
J
,
(
6
8)
∇j
i
;
l
た-(
kl
(
i
:
∼
(
l
i
)
(
jl
)
)
t
I
l
)-(
kI
L
:
∼
(
l
j)
(
i
l
)
I
l
)- 町 L
t
l
(
69)
また,
が成立す る.
i
(
t
‖こ対す る方程式は,
よって,対角項 pi
d
pi
i
(
i
) at
rP(
i
)
I
i
)
(
i
I-
孟
-
t
r
L
p
(
i
)
l
i
)
(
i
l- trp(
i
)
(
L・
(
l
i
)
(
i
O)
T
- ∑ 評i
jt
rP(
i
)
I
j)
(
jl - ∑ wi
,t
rP(
i
)
J
j)
(
jt- ∑ wi
j
P,
,
.
7
'
3
(
7
0)
)
I
非対角項 pi
.
)
I
(
i
)
(
i≠i)に対す る方程式は,
孟
p
♂
i
j(
i
)- dit
rP(
i
)
I
i
)
(
jJ
-t
・
r
l
(
l
j)
(
i
I
)
ILp(
i
)
]-t
r
l
(
L*
(
I
j)
(
i
I
H†
p(
i
)
]
-∑∇
j
i
;
l
L
.
t
rP(
i
)
l
k)
(
l
I
-∑
k≠I
-1
04-
vi
j
*l
Pk
l
(
i
)
k≠L
(
71
)
量子開放系の ダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
となる.
7
0)の両辺 を it
こついて和 を とると,∑ iPi- 1が成立す る*30ために,
式(
O-
∑
wi
j
Pj,∀(
pj)
⇔∑ wij-0
z
L
j
i
が成立す る・これ を変形 した Wi
iニ ー∑
痢
(
7
2)
Wi
jを対角項 の方程式 (
7
0)に代入す る と,Pa
ul
iマス
ター方程式 (
6
2)が成立す る・
QED
(
5
7
)の対角項 はエネル ギーが eiにある確率 pi,非対角項 はエネル ギーの非干渉項 と見なす こ
とがで きる.一般的 に,これ らは従属 して時間発展 をす るものである.定理 7は,条件 (
5
5
)がエネ
式
ル ギー と非干渉項 が独 立に時間発展 をす るた めの十分条件 であ るこ とを示 してい る.これ に よ り
,
Paul
iが現象論的にエネル ギー緩和 を記述す るために導入 した,Pa
ul
iマスター方程式が成 立す るこ
とがわかる.
41
1・
2 一般化 された BL
och方程式 と [
7
1,
D]- 0
定理 7
,系 2を 2準位系の場合 に当てはめると,興味深い結論が導かれ る.ハ ミル トニアン H を
H-L
J
(
I
+)
(
十t
+ド)
(
1)
(
7
3)
と対角化す ると,Pa
ul
iマスター方程式 (
6
2)よ り,対角成分 p± -t
rp
(
i
)
仕)
(
j
=lは,
♂
&p.= W
d
&p-=W
.,
12p
-- W 21P
21p
-
W 121
'
-
が成立す る・よって,Z 方向の偏極成分 (
Jz
)- L
J(
p+-p-)は
孟(
JZ
)- -(
W 12 +W21
)
(
Jz
)十(
W
12-
W21)
--rL(
Jz
)+ 冒, r
L ≡W12 十 W 21,a - 2
(
W ]2- W 21)
(
7
6)
に従 う・よって,Z方向の偏極成分は TL
J ≡1
/
rI,の時間スケールで指数関数的に散逸す ることがわ
かる・これ はエネル ギー期待値 (
I
I
)-L
J(
o
I
z
)が指数関数的に散逸す ることを意味 している・
rp(
i
)
I
+)
(
」,p_+-t
rp(
i
)
ド)
(
+lは
また,非対角項 p+- -t
♂
扇p- = Vp.-,
♂
嘉 p-+= Vp-+
となる・ここでは,7
1の
I
+)
(
-)と ト)
(
+lに対す る固有値 は異な るため,p+_,p+_それぞれ に閉 じ
y方向の偏極成分 (
o
l
x)-P+-+p-+,(
C
,
y)ニ ーi
(
pト -p-+)
た式 となることを用いた・よって ,I,
'30 正確には,力学的半群の
トレー ス保存の性質 よ り,∑ tPl- ∑ t
t
・
rP(
i
)
L
L
)
(
i
I-t
rp(
i
)-t
rp(
0)- 1が成 立す る
-1
05-
木村
元
は
孟
(
(
J
gx
y‡
)
ニー
o
( rT
rTO
(
霊
) (
) ,
-rT =ReV・ l
n
=
I
l
nV
(
79)
とな り,これはエネル ギーの干渉項が TT
,≡1
/
rT の時間スケールで指数関数的に散逸,つま り指数
関数的に非干渉化が起 こることを意味 している.
以上をま とめると,偏極成分 Mi
(
i
)-(
Ji
)(
i- a
・
,
y,
I)は
孟坤
二
α
J
n
o
o
一
2
l
T
O
\
︺
00
/L
\
︺
o o
c; h
:
i
)
( M 3(
C
(
i
)
ht
Y
2
し
M
こ
4.
M(
i
)-
′
/
\」
八日J
I
(
8
0a)
)ニーAM (
i
)・b,
(
80b)
を満 たす ことにな り,これ は現象論的 Bl
oc
h方程式 と完全 に一致す る (
第3
・
5・
1節,(
44)式参照)・
よって,次の定理 を得 る:
G.
K.
]
定理 8【
2準位系力学的半群 における,生成子 L
:- 7
1+D に対す る条件 裾 D]-0は,現象論的 Bl
oc
1
1
以上の議論では,縦 ・横緩和定数 rI
,
,rT の正値性 については触れていない.この性質は,力学的半群
の確率保存の性質か ら保証 され る (も し,緩和定数が負であったな ら,偏極成分は時間発展 に対 して
発散 して しま う.しか しなが ら,確率解釈 よ り,偏極成分は有界な値 しか とらないため矛盾する・)
・
oc
h方程式の表現 (
48)式 を用いることで,定理 8を別の角度か ら考察す
続いて,一般化 された Bl
ることに しよ う.そのための幾つかの補題 を示す ことか ら始 める:
補題 3[
G・
Ⅰ
く・
]
力学的半群の生成子 (
3)が [
7
1,
D]
-00.
1〈
p∈M(
2
)暮
p-喜(
1+n・q),n∈R(
3
)
)
)を満たす
ことの必要十分条件は
(
i
)
/
l
′
1 - Oo
r72- 73;
(
i
i
)
h2 -00
r73- 71;
(
i
i
i
)
h3 - Oo
r71- 72;
(
1
V) axh-0,i
・
e・
,a∝ 九・
-1
0
6-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
補題 4【
G.
K.
】
一般化 された Bl
oc
h方程式 (
48)の行列 A が正規行列 (
t
A,
A†
l- o
)で るあための必要十分条
件は
(
i
) h1 -Oo
r72-731
,
(
i
i
) h2 - 00r73-71;
(
i
i
i
) h3 -Oo
r71-72.
補題 3,4の証明は付録第 A.
3節,第 A.
4節参照.
補題 3,4に基づいて,以下の定理が成立す る.
G・
K・
】
定理 9【
2準位系力学的半群で,生成子 L
:- 7
1+D が,[
7
1,
D]
-0を満たす とき,一般化 された Bl
oc
l
l方
48)次の性質を満たす (
ただ し H - 0の 自明な場合は除 く)
:
程式 (
(
a) 縦 ・横緩和定数が常に存在す る;
(
b) 縦緩和方向 とハ ミル トニアンの方向が同 じ;
(
C
) 縦 ・横緩和が直交す る;
(
d) 定常状態 と有効ハ ミル トニアンの方向が同 じ.
7
1,
D]- 0を満たす力学的半群 は現象論的 Bl
oc
l
l方程式 と等価 である (
第
つま り,2準位 系の [
3.
5.
1節参照)
.
ここで,縦 ・横緩和 とは一般化 された "
縦 ・横緩和"
(
5
4)
.さらに,縦方向,横方向とは縦 ・横緩和に対
応す る固有値 (
つま り,実固有値 と複素固有値)に属す る固有ベ ク トルの方向である.有効ハ ミル トニ
(
hl,
h2,
h3)の方向である.
アンの方向 とは t
oc
l
l方程式 (
48)に基づ き証明 したものになるが了 ベラメータの
これは,定理 8を,一般化 された Bl
対応がよりはっき りす る.
定理 9の証明 :H ≠0であるので一般性 を失 うことな く h3≠0とす る.補題 3(
i
i
i
)より,71-72.
ここで,(
a)
73≠ 71
(
-72)
,(
b)
73-71
(
- 72)と場合分けす る.
a)
:補題 3(
i
)
,
(
i
i
)よ り,hl-h2 - 0・さらに,補題 3(
i
v)よ り,a- i
(
0,0,
2c
h3), C ∈R と
場合 (
oc
h方程式 (
48)の行列 A とベ ク トル bは,
表す ことができる・Bl
0
A- 持
0 ,b-(
0,0,
c
h
,
3)
7
3
h
T
.
:
)
(
81
)
とな り,第 3.
5.
1節 に導入 した現象論的 Bl
oc
h方程式 と完全 に一致す る.現象論的 Bl
oc
h方程式が
(
a)
(
d)を満たす ことは既 に見た.
b)
‥補題 3(
i
v)よ り,a - i
(
2c
h1,
2c
h2,
2c
h3), C ∈R と表す ことができる.Bl
oc
l
l方程式
場合 (
(
48)の行列 A とベ ク トル bは,
A- ( :
h
t3
h3 -h2
71 h1
-h1 71
,b-i
(
c
hl
,
C
h2,
C
h3)
-1
0
7-
(
8
2)
木村
元
A の固有値方程式は
de
t
(
^Ⅰ-A)- (
A- 7
1
)
3+hf(
A- 7
1
)-hlh2h・3 +h2
3(
A-71
)+hlh2h3 +h2(
A-7
1
)
(
83)
-(
A- 7
1
)
(
入2-2
71
人+7
1
2+h亨+h…+h三)-0.
よって固有値 ,71,
72j
=i
l
hlを持つ.つ ま り (
a)が示 され た (`
・
●h ≠ 0)
・さらに,(
b)縦緩和 71 に対
h
l
,
2 7
h
2
h
,
3
)
・
(
T
J
… 1
hl
,
h2,
h3) に比例す ることは直 ちに示 され る:
す る固有ベ ク トルが t(
h3
h
ぷ 1 h
( 葱
(
84)
ここで,補題 3,4によって,力学的半群で条件 [
7
1
,
D]-0を満 たす ものは,Bl
oc
h方程式 (
48)の行列
A が正規行列である.よって異な る固有値 に属す る固有ベ ク トル は直交す る (
C
)
.最後 に (
d)定常解
が有効ハ ミル トニアンの方向 と同 じであることの証明を行 な う.定常解 A l
b∝ t
(
hl,
h2,
h3)⇔ b∝
At
(
hl
,
h2,
h3) であるが,(
84)よ り At
(
hl
,
h2,
h3) ∝ t
(
hl
,
h・
2,
h3)・ 一方 (
82)よ り b- t
c(
hl
,
h2,
h3)
であるために,b∝ At
(
hl
,
h2,h3)が成 立す る.
QED
この証明にお いて,パ ラメー タ Ti(
i- 1,
2,
3)は常 に行列 A の固有値 の実部,す なわち緩和定数
ri(
i- 1,2,
3)であることに注意 され たい:
[
7
1
,
7
)
]
-0⇒
-Il
i(
i- 1,
2,
3)
Ti
(
8
5)
が成立す る (
第 4.
2節補題 6参照)
.
2準位 系の場合 [
7
1
,
D]
-0の条件 は,一般化 され た詳細釣 り合いの原理 [
3
7
】を満 たす こと
さらに,
がわかる:
定理 1
0[
G.
K.
】
2準位 系力学的半群で,生成子 L
:- 7
1+D が,[
7
1,
D]- 0を満たす とき,定常状態 伽 に関す る-
ここで.
,一般化 された詳細釣 り合いの原理 とは次のよ うに定義 され る:
3
7
】
]
定義 4 「 般化 された詳細釣 り合いの原理 【
力学的半群 において生成子 L
:が ,po∈I(
7
1)に対す る一般化 された詳細釣 り合いの原理 とは,
(
1
)7ip0-0,(
2)D(
Apo)- (
D'
A)
po
を満たす ことによ り定義す る.
これ は Pa
ul
iマスター方程式 (
62)の場合 には通常の詳細釣 り合いの原理 【
1
9
】
=
T
y,
k(
kf
poF
k)- Wk
J(
jf
p
ol
j
)
を以下の よ うに演鐸す る.
ー1
0
8-
(
87)
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
Paul
iマスター方程式が成立す るとす る.
a
扇t
rP(
i
)
I
i
)
(
i
l
-t
rWi
j
P(
i
)
L
j
)
(
jI⇔ t
rp(
i
)
【
L*
(
l
i
)
(
i
l
)-Wi
j
l
j
)
(
jl
]-0
⇔ D'
(
l
i
)
(
i
L
)-Wi
j
l
j
) -0
・
(j l
(
8
8
)
(
最後 に H*
I
i
)
(
i
1-0を用いた・)両辺 に定常解 p
oを作用 させ,一般化 され た詳細釣 り合 いの原理
(
8
6
)の (
2)を用いると
D(
l
i
)
(
i
l
p
o)-Wi
jl
j)
(
jl
p
o・
(
8
9)
さらに両辺 を (
可 ・
回 にては さむ と
(
aI
D(
I
i
)
(
i
l
p
o
)
t
a)- Wi
a(
al
p
0回
(
9
0
)
を得 る.よって,
p
Wi
a(
alol
a)-(
aI
D(
l
i
)
(
i
l
p
o
)
回 -t
r7
)
(
I
i
)
(
i
l
p
o
)
回(
aI
-t
rl
i
)
(
i
l
p
o
D*
(
I
a)
(
al
)
-t
rl
i
)
(
i
L
D*
(
l
a)
(
可)
p
o-t
rl
i
)
(
i
l
D(
I
a)
(
al
p
o
)-(
i
l
D(
l
a)
(
al
p
o
)
L
i
)-W
o
i
(
i
l
p
ol
i
)
I
式変形の際に一般化 された詳細釣 り合いの原理
(
91
)
(
8
6
)の (
1
)か ら得 られ る 【
po,
I
i
)
(
用 -0
・
定理 10の証明
5節参照)
.
証明には次の補題 を用い る (
補題 の証明は付録第 A.
∑3
=
1
補題 5【
G.
K.
]2準位 系力学的半群が p
. -i
(
I十
ni
Fi
)に対 して一般化 された詳細釣 り合
いの原理 を満たす ことの必要十分条件は以下の よ うに与 え らる:
(
1
)7ip
o⇔ n Xh-0
(
9
2)
定理 1
0の証明はこの補題 よ り明 らかである.
4.
2 2準位系の完全正値力学的半群 と緩和定数
本節 では,RD に基づいた量子 Mar
k
ov過程 を記述す る完全正値力学的半群 に着 目す る.これ まで
に完全正値性 の定義 ,RD との関連 については触れた ものの,完全正値性が課す物理量-の影響 につ
いては考察 を していない.ユニタ リー性が波動ベ ク トル に対す る確率解釈であるのに対 し,完全正値
性 は密度行列 に対す る確率解釈でない ことを考える と,確率解釈 に反 しない振舞い以上の影響 を物理
量の時間発展 に及ぼす可能性 が高い.この ことは,完全正値性 に対す る実験 による検証 を与 える可能
性 が出て くるた めに重要である.そ こで,本節 では完全正値力学的半群 を考察 し,力学的半群 にはな
く,完全正値力学的半群 に特有 な物理量-の影響 を明 らかにす る.完全正値力学的半群は力学的半群
に完全正値性 の仮 定を加 えた ものであるために,後者 にな く前者 にある性質 は,完全正値性 の特性 を
与えると考 え られ る.
対象系が 2準位系の場合 ,Go
r
i
nietal
.に よる緩和定数 (
緩和時間)に関す る議論がある.まずは,
彼 らの よ り得 られた定理 を紹介す る:
- 10 9
-
木村
元
定哩 ll【
V.Gor
i
l
l
i
,A.Kos
s
ak
o
ws
kiandE・C・G・Sudar
s
han【
1
4
】
]
2準位完全正値力学的半群 において,生成子 (
41
)I
:- 7
1+D が条件
[
7
1,
D]-0
を満たす場合,緩和定数 (
53)Il
l(
i- 1,
2,
3)の間に以下の関係式が成立す る:
rl+r2≧ r3≧0, r2+r3≧ rl≧0, r3+rl≧ r2≧0
.
(
95)
前節 において議論 された (
94)を満たす力学的半群 に,完全正値性 が課せ られ ると,緩和定数の間に式
(
95)の よ うな制約 が課せ られ ることにな る.一般 に三つ存在す る緩和定数 の任意 の二つの和 は残 り
の緩和定数 よ りも大きい とい う制約 である.
定理 11の証明
その証明には,完全正値性 か ら課せ られたパ ラメー タ Tiに対す る制約 (
51)
:
71+72≧ 73≧0, 72+73≧71≧0, 73+71≧72≧0
と,次の補題 6を用いる.
補題 6 [
パ ラメータ 7i(
i- 1,
2,
3)と緩和定数 riとを結ぶ補題 [
1
4]
]
Li
ndbl
a
d型マスター方程式 (
41
)の生成子において (
94)[
7
1,
D]-0が成 立す る特別 な場合には,
2,
3)は Bl
oc
h方程式 (
48)の行列 A の固有値 の実部,つま り,緩和定数 I
l
i(
i- 1,
2,
3)
Ti(
・
i- 1,
に一致す る:
Ti- I
l
i(
i- 1,
2,
3)
.
(この補題 の証明は前節の定理 9の証明の際 に既 に示 されている.第 4・
1
・
2節式 (
85)参照・)
条件 (
94)が成立す る場合 は,補題 6によって式 (
51)の Tiを緩和定数 riに置 き換 えることができ
るため定理 11が成立す る.
QED
定理 11は条件 (
94)の下に限定 され る.条件 (
94)は弱結合系の一般的特性であることや ,2準位 系
oc
l
l方程式 を完全 に特徴付 けることか らも,この限定は実
では前節で議論 されたよ うに,現象論 的 Bl
用上の面か ら考 えるとさほ どの支障 をきたす ものではない.しか しなが ら近年注 目を集 める強結合
6,
35,
38】な どにおいては,条件 (
94)は成 立 しない・よって,この よ うな系に対 して定理 11は無
系 [
力である.さらに本節 の 目的が,完全正値力学的半群 を特徴付 ける現象の探索であることを考 えると,
94)等の付加的仮定がない,完全正値力学的半群 に普遍的な現象 を探 さな くてはな らない・
条件 (
最近我 々は,2準位 系完全正値力学的半群 の具体的なモデルで,条件 (
94)を満た さないにもかかわ
95)が課せ られ るものを見つけた 【
35
1
.この ことは,条件 (
94)は,緩和
らず,緩和定数 に同様の制約 (
定数-の制約 (
95)に対す る本質的な条件 ではな く,この制約 は さらに広 い範囲において成立す るも
のであることを示唆す る.そ こで ,
2準位 系完全正値力学的半群 において制約 (
95)は どの程度広い範
囲において成立す るものであるのかに興味がある;その答 えは次の定理 によって与 え られた.
- 11
0-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
定理 12 t
G.
K.
日39]
2準位系完全正値力学的半群において,緩和定数 Il
i(
i- 1,
2,
3)の間に以下の関係式が成立す る:
す なわち,緩和定数-の制約
とによって制約
(
9
7
)は,2準位系の完全正値力学的半群全てにおいて成立す る・この こ
(
9
7
)のモデル に依 らない普遍性が明 らかになった;この制約 に必要な仮定は完全正
i
)
(
i
v)
(
第 3.
4節参照)だけである.緩和定数が実験により測定可能である
値力学的半群 を構成す る (
ことか ら,制約
(
9
7
)は (
2準位系)完全正値力学的半群に対す る実験検証 を与えることになる・
定理 1
2の証明
補題の証明は付録 第 A・
6・
1節参照)
‥
証明には次の補題 7が有効である (
補題 7t
G.
K.
]
3×3実行列 Aの固有値 入i(
i-1
,
2
,
3
)の実部が非負 Re入i≧0(
i-1
,
2,
3
)であるとき,不等式
Re入1+Re入2 ≧Re入3 ≧0,
Re入2+Re入3 ≧Re入1 ≧0,
Re入3+Re九l ≧Re入2 ≧0
が成立す ることの必要十分条件は,
f(
t
rA/
2)≧
0 ,
(
ただ し,
I(
I)は行列 A の固有値多項式 f(
I)-det
(
.
TIIA)
)である.
2準位 系完全正値力学的半群 と等価 な Bl
oc
h方程式 (
48)の行列 A の固有値実部は非負である・な
ぜ な らば,完全正値力学的半群 は,確率解釈 を保証す る条件 (トレース と正値性 の保存)があるため
6・
2節参照)
.
に,緩和定数が負であると確率解釈に矛盾す るか らである (よ り直接的証明は,付録第 A・
oc
h方程式 (
48)の行列 A に対 して上補題 を用い ることができる.式 (
48)の行列 A に関
よって,Bl
t
rA/
2)を直接的に計算 して,ま とめると
して J(
1
I(
t
rA/
2)-一百71
72
73
十去((
Th
hf
)
(
72・73-71
)・(
7
,
2・hZ)(
T。・ 71-72
)十(
7
3
2・h
Z
)
(
T
l
十つ′
2- 73)
)
(
7
2・T。-71
)
(
73日 1-72
)
-去[
(
71・72-73
)
+hS(
71+72-73
)+hf(
72+73-71
)+h2
,
(
73+71-72
)
i
(
1
0
0
)
となる・完全正値性か ら課せ られたパ ラメー タ Ttに対す る制約 (
51
)よ り式 (
99)が成立す るのは明
9
8)が成立す る.これ は制約 (
97)に他な らないので,定理 1
2が成立す
らかである;補題 7よ り式 (
QED
る,
ここで定理 1
2の重要な系 3を示す ことができる.
-
111 -
木村
元
系 3t
V.Gor
i
n主
,A.Kos
s
akows
kial
l
dE.C.G.Sudar
s
l
l
an【
1
4】
,G.
K.
]
2準位 系完全正値力学的半群では,縦 .横緩和定数 rL,
,rT の間に以下の関係式が成立す る:
2
rT ≧ rL,≧0
.
(10 1 )
系 3の証明
縦,横 緩 和 定数 rL,rT が存在す る複 素 固有値 が存在す る場合 で あ る (
第3
・
5・
3節参 照).Bl
oc
h
方程式 (
48)行列 A は実行列 であるた めに,固有値 が実 固有値:入R - rL,と,共役 な複 素固有値 :
Ac土 i
O- IIT 士 i
O がある場合 のみである.よって I11 - rL,
I
1
2 - rT,
r3 - I
l
r
J
.とお くと,制約
(
97
)は
rI
,+ rT ≧ I
I
T
≧0 ,
rT + rT ≧ rL,≧ 0, I
I
T + rl
,≧ rT
≧0
(
1
02)
となる.この うち二つは IIL,IIT ≧0であるので残 りの 2
rT ≧ rL ≧0に吸収できる.よって題意は
QED
示 された.
この関係式は,Gor
i
nic
lal
.によって も議論 されているが,彼 らの議論 はあくまで も条件 (
94)下の
制限付 きである*31・これ に対 して,系 3は,この条件 な しに成立す るものである・実は,関係式 (
1
01
)
は 縦 ・横緩和定数の間に知 られ てい る実験 において,この関係式 を満 た さない例 は知 られていない
1
0,
40]
・つま り,定理 1
2は縦 ・横緩和 に関す る実験 を再現す るのである.これ は (
2
有名な式である [
準位系)完全正値力学的半群 に対す る実験 による支持 を与 える結果である.この ことに関 しては,詳
4節 にて議論 をす る.
しくは第 4.
4.
3 初期相関 と完全正悟性
第3
.
3.
3節 において,初期相 関が無い場合 の RDには完全正値性 が課せ られ ることが示 された.そ
こでは,具体的に He
i
s
e
l
l
ber
g括像 における時間発展演算子 を構成 (
式(
3
8
)
)す ることによ り,その完
全正値性 が証 明 された (
第 A・
2節参照).初期相 関がある場合 に も,第 3
.
3節 において説 明 した RD
の方法 を用い ることには何 の問題 もない.ある時刻 (
それ を初期 時刻 と考 える)において,対象系 と
l
r
6di
nger方程式
環境系の相 関がある状態 (
量子的絡み合 いの状態)であった として も,全体系は Sl
(
26)
(
または v
onNeumann方程式 (
27)
)に従 ってユニタ リー発展 をす るのみである:
pT。T(
i)- Ut
pT。T(
0)Ul.
(
1
03)
(
ULは時間 tをパ ラメー タ と持つ あ るユニ タ リー演算子.)対象 系の状態 は,縮約 され た密度行列
(
1
0)に基づいて,環境系の部分和 trE を とることによって導 出 され る:
ps(
i
)-t
rl
j
.
PTOT(
i
)
・
(
1
04)
この意味において初期相 関のある場合の RD には何 ら混乱 も生 じることはなく,統一的な見解が課せ
られ る.問題 は,具体的な時間発展演算子の構成である.初期相関が無い場合の式 (
3
3)
,(
3
8)の構成
*31前節 では,2準位系の場合 に条件
(
94)が現象論的 Bl
oc
h方程式 と等価 となる条件であった ことが判明 した.現象論的
Bl
och方程式が必ず縦 ・横緩和定数 を持つ ことを考 えると,粂作 (
94)の下での議論 は制約 (
95)と (
1
01
)は全 く同 じ
であることになっている.
ー 112-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
At:ps(
0)- ps(
0)
:
に対 して,初期相関が存在す る場合 に,
(
1
05)
ps(
i
)-Atps(
0)
を構成す ることは難 しい.一連 の流れ (
式(
1
03)
,(
1
04)
)に基づいた時間発展演算子 (
1
05)の構成 に
7
T
l
,
十(
7
is⑭7
1E)- Tl,
十(
7
is)
:
は,ある写像 ◎ ‥
(
1
06)
@(
ps(
0)
)-pTOr
r(
0)
の存在が要請 され るよ うに思われ る 【
4ト43
]
・すなわち,
ps(
i
)-t
r
EUtp
T。T(
0)
Ut
l-t
r
EUt@(
ps(
0)
)
Ul
,
(
1
07)
に基づいて,時間発展演算子の構成 が行なわれ る.初期相関が無い場合 p
TOT(
0)-ps㊤pEには,演
算子 ◎ の具体形は明 らかで,任意の p∈Tl
,
+(
7
is)に対 して
(
1
0
8
)
@P-P@pE
となる.
1
994年 Pe
c
l
l
uk
a
Sは 「
Re
duc
e
dDynami
c
sNe
e
dNotBeCompl
e
t
e
l
yPos
i
t
i
v
e
」 とい う題 の論文
の中で,初期相関がある場合 の RD では完全正値性 は成立 しない とい う主張を行なった [
41
]
.これ に
i
c
kiはその コメン トの中で,論点の本質,課せ られ る仮定を明確 に し,初期相関がある場合 に
対 し,Al
おいて も完全正値性 が課せ られ る可能性 を与 えた [
42
]
.ここでは,Al
i
c
kiによ り整理 された議論 を紹
介す る.まず,演算子 ◎ に対 して課す条件 として以下の三つの条件 を挙げる:
(
a)t
r
E◎(
P)- ,
∀P∈7
T
l
,
+(
7
t
s)
P
(
b)任意の正値演算子 βに対 し,◎(
〟)は正値演算子である.
(
a)は初期時刻 において成立す る (
1
06)と,縮約 された密度行列
(
1
0
)が矛盾な く成立す るよ う課す条
件である.(
b)に関 して も,βが対象系の状態であれば ◎(
〟)は全体系の状態であることを要請 してい
C
)に関 しては,混合性 の保持であるが,欠かせ ない条件 とはい えないであろ う.Pe
c
l
l
uk
a
Sは
る*32. (
次の定理 を得た.
定理 1
3【
P.Pe
c
l
l
uk
a
s【
叫]
(
a)
(
C)全てを満たす写像 ◎ :7
T
l
,
+(
7
t
s㊤7
iE)- T1
,
+(
7
is)は,
◎(
p)-p㊤pE,P
E∈7
T
1
,
十(
7
i
E)
(
1
0
9
)
そ こで,初期相関がある場合 に写像 ◎ を構成 しよ うとす る と,(
a)
(
C
)の仮定のいずれか を犠牲 にす
b)が崩れ る場合 には,完全正値性 どころか正値性 の条件が崩れ ることにな
ることにな り,特 に条件 (
*32 (
b)は正値性のみの条件であるが,規格化条件は
(
a)によって補われている.trsE d
,
(
p)ニ ー
r
sp(
・
/(
a)
)
.
ー
1 13
-
木村
元
る.これが Pe
c
huka
sの行 なった議論である*33.-方で,Al
i
c
kiは,条件 (
b)ではな く,(
a)または
(
C
)を犠牲 にす ることによって完全正値性 を保持す る写像が構成可能であることを示 した t
4
2
]
.特に
C)線形性が物理的に要請 され るものではない ことを強調 している・いずれ に して も,彼
彼 は,条件 (
D(
時間発展演算子の構成)に関す る統一的見解はまだ
が認 めているよ うに,初期相関のある場合に R
ないようである.
本研究では R
Dと完全正値性の関係 が Hei
s
el
l
ber
g描像 に基づ くために,Hei
s
e
l
l
ber
g描像の時間
(
3
8
)
式.)
.
発展演算子 を構成 し,その完全正値性 に関す る議論を行なった (
初期相関の無い場合には,
Eの期待値 (
A)
tは,
対象系の観測量 A㊥I
(
A)
i-t
r
sEPT。T(
0)
Ut
l
A㊨I
EUt
(1
10 )
であるので,任意の A に対 して この期待値 を再現す るよ うに He
i
s
e
l
l
ber
g描像における時間発展演算
*を構成す る:
子 Al
t
r
sps(
o)
At
*
A-t
r
sEP
T。T(
0)
UIA㊤I
EUt,∀A ∈B(
7
1)
,
11 1)
(
ただ し p
s(
0)- t
r
EPTOT(
0)
・ここで,p
s(
0)の逆元がある場合 (
Fai
t
hf
ulSt
at
e)
,Atの具体形の候
補が求まる:
t
r
sEP
T。T(
0)
Ut
t
A㊨I
EUt-t
r
sEPs(
0)
ps(
0) 主pT。T(
0)
圭Ut
l
A㊨I
EUt
pT。T(
0)
量ps(
o) 圭 (
1
1
2
)
よ り,
At
A -ps(
0)
一書pT。T(
0)
圭
Ut
l
A㊤I
EUt
pT。T(
0)
古
ps(
o)
一書,∀A∈B(
7
1)
.
(
1
1
3
)
この写像が完全正値性 を備 えることは付録第 A.
2節の証明 とほぼ平行 して示 され る・よって,ps(
0)
の逆元がある場合には初期相関があっても完全正値性が成立す ることがわかる.すなわち,
定理 1
4[
G.
K.
]
初期相関があ り,縮約 された状態 psに逆元が存在す る場合 には,Hei
s
e
l
l
be
r
g描像にお ける時間
0)の逆元が無い場合 には定義できないが,2準位系の対象系の場合には初期相関が
この写像は ps(
無い場合の式
(
3
8
)と組み合わせ ることで,全てを言い尽 くす ことができる:ps
(
0
)の固有値を pl,
P2
とす る・ps(
0)の逆元が存在 しない ときは,ps(
0)の固有値 に p1- 0が存在す る場合である.一方
1- t
rps(
0)- pl+p
2であるために p2- 1が成 立す る.よって,ps(
0)
'
2-p
s(
o
)
(
純粋状態)とな
る.この対偶 をとると,状態が混合である場合 には,逆元が存在す ることになる.一方,定理 2よ り,
s(
0)
2≠ ps(
o)となるために,相関がある場合の縮約
相関がある状態の縮約 された状態は混合状態 p
された状態の逆元が存在す ることになる.そ こで,対象系が 2準位系であるな らば初期相関が無い場
(
3
8
)
,初期相関がある場合には式 (
1
1
3
)を用いることによって初期相関がある無 しにかかわ
AI
Tに完全正値性が課せ られ ることが示 され る.すなわち,次の定理 を得 ることができる:
らず ,
合 は式
833文献 [
41
1で Pe
chuk
asはこの よ うな仮定を暗に用いているのみで,明確な論点を付いているわけではない.これ らは
Al
i
c
kiによる整理 された議論である.
-1
1
4-
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
定理 1
5[
G.
K.
]
2準位系の場合 ,He
i
s
e
nber
g描像 における時間発展演算子 A
芸は任意の時刻 tにおいて完全正写
像である.ただ し,初期相関が無い場合 には
,
A
言として (
38)
,初期相関がある場合 には (
11
3)を
11
3)は,確 かに初期状態が pTOT(
0)である場合 には任意のオブザーバブル A
しか しなが ら,式 (
に対す る期待値 を再現す るが,初期状態依存性 があることに注意 しな くてはな らない:式 (
11
3)は,
TOT(
0)である場合のみに正当化 され る.この ことは,対応す る Shr
6di
nge
r描像 の時間
初期状態が p
t
*が共役で結ばれてお り,その一
発展演算子 Atの構成 をあき らめることになる・なぜな らば Atと A
力 )に対す る関係 (
3
6)が成立 しな くてはならないか らである.
意性 を保証す るためには任意の p∈I(
結局初期相関がある場合の完全正値性 に関す る議論は完結 していないよ うに思われ る.
4.
4 定理 1
2に関す る議論
第 4・
2節 において Gor
i
nietal
・の緩和定数 に関す る定理は一般化 され,制約 (
97
)は,2準位系完
全正値力学的半群 において必ず成立す ることが明 らかになった.緩和定数 は測定可能 な物理量であ
る・よって,制約 (
97
)は,完全正値力学的半群 に対す る実験的な検証を与 える.
i
)強 い確 率解釈 ,(
i
i
)線 形性 ,(
i
i
i
)
ここまで に我 々が用いた仮 定 を整理 しよ う:力学的半群 が (
i
v)完全正値性 の仮定を加 えることによって得 られ
Mar
k
ov性 を課す ものであるのに対 し,さらに (
るのが完全正値力学的半群であった.この ことか ら力学的半群にな く,完全正値力学的半群 に成立す
9
7
)は (
i
v)完全正値性 に対す る実験検証を与えるもの と考えることができる.完全正値性 は
る制約 (
RD)か ら要請 され る性質であった.このことは,次の二つ
(
初期相関の無い場合の)縮約 された力学 (
a)初期相関が存在す る場合の RD には果た して完全正値性 が課 され る
の意味で意義がある:まず ,(
b)非ユニタ リー発展 (
または不可逆過程)を記述す るのに RD が万能で
のか とい う問題,さらには (
97
)は実験 により回答を与 える可能性 を持 っている・(
a)に関 しては
あるか とい う問題 に対 し,制約 (
3において考察 されたよ うに,初期相関が存在す る場合の完全正値性 に関す る議論は必ず しも
前節 4.
41
,
42
1
.制約 (
97
)は初期相関がある場合の完全正値性 に対す る実験検証 を与える
完結 していない [
完全正値)力学的半群 を構成す る他の
可能性がある・しか しなが ら,初期相関がある場合の RD は,(
i
)
,
'
(
i
i
)
,
(
i
i
i
)に対す る再検討 も必要 とされ る.特に (
i
i
i
)Mar
k
o
v性 は初期相関がある場合に正当
仮定 (
r
k
ov性が得 られ る代表的な例 としては,時間の粗視化
化 され るかは自明でない.例 えば RD か ら Ma
(
v
al
lHo
、
′
e極限 【
24
]
)があるが,この極限は初期相関がある場合 には上手 く働 かない.さらに (
i
)強
e
l
mac
ho
vi
eと Buz
e
kによって
い確率解釈 は,初期相関がある場合の RD では成立 しない ことが St
43
]
・変わ りに成立す るのは,(
i
)
′弱い確率解釈である (
第 3.
1節参照)
.つま り時間発
示 されている 【
7
T
l
,
+- T'
,
+(
7
1)の定義域 Dom(
AL
)が状態空間全体ではない*34・この理 由は,環境
展演算子 AL:
系の状態 と相関の情報 を固定す ると,必ず しも対象系の状態全てが全体系 を状態 とす ることはない
ことにある・相関が無い場合 には,環境 系の状態 pE を固定 して,任意の対象系の状態 psに対 して
+34 この空間が凸集合 を形成す ることは分かってい るが,具体的に環境系の状態の情報,相 関の情報が与 え られ た ときにこ
の集合が どのよ うな ものであるかはあま り議論 されていない.
ー 11
5-
木村
元
全体系の ps㊤pEが状態であったのである.この よ うな理 由か ら初期相関がある場合 に対 して制約
(
97
)の果たす役割- つ ま り何 の仮定に対す る制約 になるか- はい ささか唆味な もの となる・(
b)に
RDは非ユニタ リー性 (または不可逆性)を説明す るのに確かに有力な方法論を提供す る
関 しては,
のであるが,全 ての非ユニタ リー現象が RDによって説明 され るかは定かではない とい う問題があ
る.例 えば量子論の観測問題 は,現在 にいたっても統一的見解がな されてお らず,多 くの理論が提唱
【
1
5
,
4
4
ト観測装置 を環境 と見立て ること (つ ま り RDを用いること)で,非干渉化 を説
11,
23
]こともできるが,それ も多 くの理論の うちの一つに過 ぎない.もし RDに共通の現象
明す る [
RDを用いた方法でハ ミル トニアンな どのモデル に依存 しない共通現象)があった として,
(
つま り,
さらにこれ を満た さない実験が発見 された とす ると,この実験結果 を RDで説明す ることは不可能で
されている
97
)はその候補 になる可能性がある.とい うのもこの制約 は (
i
v)完全正
あることを意味す る・制約 (
値性の仮定に対す る実験検証を与えるもの と考えられ るが,完全正値性 は RDに共通の性質であるか
a)初期相関の問題,さらに他の (
i
)
-(
i
i
i
)の仮定の問題 もあるため制約 (
9
7
)をそ
らである.しか し,(
のまま RDに対す る検証 として用いることは,他の仮定を確認す る実験が必要 となるな どの工夫が必
97
)は,
RDに対す る新たな知見を与 えることになるであろ う.特
要 となる・いずれ に して も,制約 (
3)は現在知 られている実験では常に成立 している有名 な
に,縦 ・嘩 緩和が存在す る場合 には,制約 (
1
0
,
4
0
]
,このことは完全正値性 ,または RDに対す る正 当性 を高める結果 となっている.
式であ り [
97
)が 2準位系完全正値力学的半群に対す る実験検証 を与えることには相
いずれ に して も,制約 (
l
l
dbl
a
dマスター方程式)が多 くの分野において
違 ない・完全正値力学的半群 (
またそれ と等価 な Li
9
7
)が存在 し,実験による検証が可能であることには
用い られている昨今,これ ら全てに共通の制約 (
意義があると考 えている.
謝辞
本研究に対 して,常に有益な ご意見,ご議論 を して頂 きま した大場教授,中里教授 に感謝いた しま
s
s
ak
o
ws
ki教授 に深 く感謝を
す.本研究は,先生方の ご指導,ご教授 の賜物です.また,田崎教授 ,Ko
いた します.田崎教授 にはゼ ミを通 じ,C*代数,完全正値性,完全正値力学的半群多 くを学ばさせて
頂 きま した.また,定理
1
4の証明には,先生のお力 をお借 りいた しま した.Kossakowski教授 には,
2に関す る証明の詳細 を追って頂 き,また有益なご助言 をいただけ
本研究の主なる結果である定理 1
ま した・本研究をす るきっかけを与 えて下 さり,鋭 い物理的視点によるご指摘 を していただき,また
いつ も真剣 に議論 に付 き合 って頂いた今福氏には,大変感謝 してお ります.また,湯浅氏には有益な
議論を していただいたばか りでな く,概要や論文に対す る細かいチェックを していただきま した.あ
りが と うございま した.本研究は,密度行列空間上の時間発展 を,モデル に依存 しない統一的研究に
よ り行なった結果,数学的で集合論的処方 を取 らざるを得ませんで した.この際,数学的厳密性 を保
持す るために,宮本氏は常にご指導を していただき,またいっで も質問に丁寧に答 えて くだ さいま し
た.太 田氏には,常に真剣 に物理学 と向き合 って,本研究で得 られた結果 に対 し有益な ご意見を多 く
頂 き,また議論 をさせていただきま した.両氏にも大変感謝 してお ります.大場 ・中里研究室の皆様
には,日ごろか ら多 くの面で支 えていただき,本研究が ここに完成 したのも皆様のおかげであ ります.
皆様 に深 く御礼 申し挙げます.
-1
1
6-
量子開放系の ダイナ ミクスにおける完全正悟性の役割
付録 A 種々の証明
ここでは本文 において省 いた定理や補題 に関す る証明 を与 える.
A.
1 第 2.
2節:定理 2の証明
証 明のため次の補題 を用意す る:
補題 8【
G.
K.
1
ps-∑iPi
I
4
,
i
)
(
裾,
∑i
Pi-1
,
I
(
4
,
i
I
4
,
i
)
l
-1
∀iとす る.この とき,
p2
S-ps⇔ ∀i
,
i
,
帆 )- I
,
4
,
i
)
.i
.
C.
,
ps-1
4
,
i
)
(
4
,
i
I
.
(
1
1
4)
補題 8の証明.
O-p2
S-ps-∑ p
i
P
,(
l
ゅi
)
(
軸4
,
i
)
(
4
,
jl
-1
4
,
i
)
価 )・
(
1
1
5)
z
l
.
i
よって,
0--t
r
(
p
2
S-p
s
)- ∑ pi
Pj
(
ト l
(
4
,
掴,
i
)
l
2
)
・
(
1
1
6)
7
1
,
i
Sc
hwar
zの不等式 よ り l
(
4
,
i
1
4
,
,
)
t
2≦1であ るので ,∀i ,
P
i
Pj
(
1II
(
4
,
i
勅)
I
2≧o
・よって,
,i
∀i
,
i,1- I
(
4
,
i
L
4
,
i
)
I
(
∵ Pi≠0)⇔ ∀i
,
i
,
帆)-鶴 )
・
(
1
1
7)
QED
定理 2の証明
十分条件 は 自明であるので,必要条件 のみ を示す .
(
Ⅰ
)p
TOTが純粋状態:
]回,
)-∑i
,
・
Ci
j
l
i
)
I
j)
,
S
・
t
・
,
P
TOT-1
4
,
)
(
4
,
1
・よって ,
ps-t
r
EP
TOT- ∑mP,
n1
4
,
m)
(
4
,
ml
,1
4
,
m)∑i
Ci
ml
i
)
/
6m,em -J∑il
Ci
ml
2
,pm- 6.
岩
t
.補題 8よ り,
∑i
Ci
ml
i
)
(.
l
l
.
-写 C誹
∀m,
7
日,
¢m)- 帆 )⇔
e
n
・ Vi
,
-,
n署
讐
- ail
(
1
1
8)
よって,
∑
j
l
i
)
I
j)-写
i
,
3ci
(
∑
C
i
j
ai
)(
写 a
i
l
i
m舶
3cijL,:H-写 EI)(
I
i
)
)≡l
Os)I
OE)
・ (
11
9'
(
Ⅰ
Ⅰ
)p
TOTが混合状態 :
略.
QED
-1
1
7-
木村
元
A.
2 第 3.
3.
3節:定理 4の証明
初期相 関の無い場合 ,RD の ,He
i
s
enber
g描像 にお ける時間発展演算子 A;は,式
え られた:A
t
・
A-
(
3
8
)によって与
t
r
E
(
p
EUIAUt)・以後表記の簡 明性 か ら,A;≡ At
・@I
nと表 し,パ ラメー タ tの
∑Z
j
=1
Ai
j
Ei
jに よって
添 え字 を落 とす・ところで,任 意 の β(
7
1)㊦M (
n)上の演算子 X は,
X-
分解 され る・ここで,
Ai
l∈β(
カ)
,Ei
j∈M(
n)
,
S
.
t
・
,
l
Ei
j
]
L
I-6
i
L
・
6
j
l
・さらに,任 意 の正演算子
は極分解 され て ,
X.-XI
x と表 され る・ よって ,∀X.-
X十
∑買
j
・
,
k
,
l
=1
AI
T
J
Aた
I
EI
j
Ek
lと表 され る・
よって,
現ズ+- 皇 t
r
E(pEU
t
・
AI
T
jAL
I
Pt
)EI
,
Ek
l
i
,
j
.
,
k
,
l
-1
-i
.
皇
t
r
E(
p
EUt
T
Af
j
U"l
Ak
l
Ut
)
Et
T
jEL
l
,
i
;
A
,
I
-1
-t
.
皇
t
r
E
(
p
ECI
j
CL
・
l
)EI
j
Ek
l
,Ci
j≡U
t
t
Ai
,
Ut
、
j
;
k
,
I
1
γ
も
-t
r
EP
EDI
D,D≡ ∑ ci
j
Ei
j
・
1
,
J
-1
(
1
20)
これ は正演算子である.事実,任意 のベ ク トル l
d
,
)∈71㊤Cnに対 して,
刷t
r
EPEDf
鞘 )-∑ p
,
(
4
,
I
DI
Dr
4
,
)≧ 0
j
(
1
21
)
-∑ jPjl
j) l
,
pj≧0,l
j)‥CONSと表
が成立す る・ここで ,pEが環境 の密度行列 であるので ,
p
E
(j
され る事実 を用 いた.よって,任意 の 自然数 n に対 して ,A;が正値保存 であることが示 された・つま
り,He
i
s
el
l
ber
g描像 にお ける時間発展演算子 A;の完全正値性 が示 された.
QED
A.
3 第 4.
1.
2節:補題 3の証明
補題 3の証明
繰 り返 し現れ る和の記号 を省 略す る.
-1
1
8-
量子 開放系の ダイナ ミクスにおける完全正値性 の役割
去
去 7i)eix(nxFi)+去柚 -Tx Fl)I khiaFk
〈
主
項(
7
T
i
)
e
k 十(
7 ,ekxiFi)〉n ・eijk Fk
(
去
hkix(
Iei
j
k
hi
a
j
Fk
直,
D]
p- hk(
7-7i
)
e
k
i
l
(
nl
Fi十ni
Fl
)
十e
i
j
k
hi
a,
・
Fk
hk(7 -
)
e
k
xl
(
nx
k
i
xFi
L
・
e
Tx l
-
I
x
ei
j
j
hi
aj
i
,
Fi
)nx
・去(
h2(
7.-73
)
F3・ h3(
7
2-7
1
)
F2
)nl
十
三(
h3
(
7
2-71
)
Fl
・柚
3-
72
)
F3
)
n2
・ 去(
hl
(
73-72
)
F2・h2(
71173
)
Fl
)n
3
十(
h2
a3- h3
a2
)
Fl十 (
h3
a1-hl
a3
)
F2+ (
hl
a2-h2
al
)
F3・
[
7
1,
D]-xi
ni+xO-Oon(
p∈M (
2)Lp- i(
1十n・
J,n∈ R(
3
)
)
)⇔
(
1
22)
31
・
i-X
0-0であ り
yi
Fi-0- ( yl㌘i
y2 yl
霊 ノ
2)- (3 0
.) - yi-0・
(
1
23)
に注意す る と,式 (
1
22)よ り
[
7
1,
D]- xini+x0-0⇔ hl(
73-72
)-0,h2(
71-73)-0,h3(
72-71
)-0∧a xh-0・
(
1
24)
QED
A.
4 第 4.
1
.
2節 :補 題 4の証明
補題 4の証明
一般化 された Bl
oc
h方程式 (
48)の行列 A に関 して [
A,
AI
]を計算す る と:
0
[
A,
A†
】-
2h
3(
72-71
)
-2h
2(
73-71
)
-2h3(72-71
)
0
2hl(73-72)
) -2hl
(
73 -7
_
2)
( 2h2(73-71
)・
(
1
25)
よって 【
A,
AT
]- Oで あるためには,
(
i
)h1- Oorr
′
2- 73;
(
i
i
)h2-00r73-71
;
(
i
i
i
)
h3 - Oor71-72.
QED
が成 立す ることが必要十分 である.
A.
5 第 4.
1.
2節 :補 題 5の証明
pO- を(
Ⅰ+∑iniFi),ni(
i- 1,
2,
3)∈R とす る (
以後繰 り返 し現れ る添 え字 に関 しては ,1- 3
の和 を省略す る)
・
-1
1
9-
木村
元
(
i
)71p
0-0に対す る必 要十分条件 :
u p。-
i
;l
hi
Fi
,
Ⅱ十ni
(
1
26)
Fi
]- 去e
k
i
jhi
nj・
1p0- 0⇔ nxh- 0.
よって,7
(
i
i
)D(
Ap)-D*(
A)
p,∀A ∈M (
2)に対す る必要十分条件 ・
A -XO
I+ xi
Fi
,Xi (
i-0,
1,
2,
3)∈C とす る・
D(
Ap)-D*(
A)
p
- 去xol
2aiW
iIl
e
i
,
k
a
j
nL
]
FL
+去xt
l
(
-2
ai- Ti
ni- l
ei
,kajnL
l
)
Ⅱ+2i
(
E
,
i
i
(
Tj-,i
)
nk
)
Fj
]
・
(
1
27)
よ っ て ,(
2
1
)n xa - 0,(
22)∀i- 1,
2,
3,2ai- Ti
ni
,(
23)7i- TjOrnk
-0【
(
i
,
i,
k):
(
1,2,
3)の置換]が必要十分条件 とな る・
A.
6 第 4.
2節:定理 1
2の証明の補足
第 4.
2節 にお け る補題 7の証 明 を与 える.さらに,緩 和定数 の正値性 を具体 的に判 定す る補題 9を
与 える.
A.
6.
1 補 題 7の証 明
補 題 7の証 明
A を 3×3実 行 列 で Ai(
i- 1,2,
3)を そ の 固 有 値 とす る・ さ らに,固有 値 の 実 部 の 正 値 性
ReAi≧0(
i- 1,2,
3)が成 立す るもの とす る.
i
)一 つ の 実 固 有 値 入R ≧ 0 と互 い に複 素 共 役 な複 素 固有 値 入cj
=次 の場 合 分 け を行 な う: (
入C 土 0,人C
≧0,iO ∈R\
†
0
)が存在す る場合 ,(
i
i
)三つ の実 固有値 0≦ 入3 ≦ 入2 ≦ 入1が存在す る場
合 であ る (
行列 A は実成分 のみ を持 つ ために,場合 わ けは (
i
)
,
(
i
i
)で十分 で あ る)・
i
)
場合 (
式 (
97)は ,r1- 人R,
r1
2 - r3 - 人C とお くと,
入R 十 人C ≧ 人C , 入C 十 人C ≧ 入R, 入C 十 人R ≧ 入C
⇔
2人
C ≧ 入R
(
1
28)
と変形 され る (/̀,入R ≧0)
.t
rA - 入R 十 (
入C十i
O)+(
入C-i
O)- 2人
C+人よ り,式 (128)は さ ら
に次 の よ うに変形 され る:
t
rA-
入R ≧ 入R ⇔
誓
≧
入R・
(
1
29)
他 方 ,固有値 多項 式 f(
x)- det(
xI- A)は ,I - 入R に唯 一 の実数 の O点 を持 ち,i
・
e.
,I(
I)-
0, x∈R ⇔ x- 入R,右 上 が りの関数 I
i
m3
:
ー±∞ f(
a
・
)- j=∞ であ るた めに,
I(
I)≧0
⇔
-1
2
0-
L
7
:≧ 入R
(
1
30)
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
が成立す る.式 (
1
30)に x-t
rA/
2を採用す ると,式 (
1
28)
,(
1
29)よ り
入R+ 入C ≧ 入C, 入C+ 入C≧ 入R, 入C+ 入R ≧ 入C
⇔
f(
t
rA/
2)≧ 0
(
1
31
)
が成立す る.
i
i
)
場合 (
仮定 入3 ≦ 入2 ≦ Alよ り式 (
97)において 自明でない式は
(
1
32)
入2+ 入3 ≧ 右
のみである.場合 (
i
)と同様 に,t
rA - Al十 人2十 人3よ り与式は t
rA/
2>
_ 入1と等価である・この場
I)は,三つの 0点 (
I- 入1,
人2,
人3)を持つために,
合 は固有値多項式 f(
f(
I)≧
0,
x∈R ⇔ x>
_ ^1 0r入2 ≧ x≧ 入3
(
1
33)
が成立す る.しか し,I - t
rA/
2の特別 な点 に関 して 入2≧t
rA/
2≧ 入3が無矛盾 に成 立す るのは,
入1- 人2 で t
rA/2- 人2が成立す る とき,または,入1- 人2 - 人3 で,t
rA/
2- 人2- 人3が成 立す ると
rA/
2≧ 入1に吸収可能 な場合 である・よって,場合
きのみであることがわかる.これ らはいずれ も t
(
i
i
)において も
_ 入1
, 人3+ 入1≧ 入2,
入1十 人2≧ 入3, 人2十 人3>
⇔ f(
t
rA/2)≧ 0
(
1
34)
QED
が成立す る.つま り,次の補題 7を得 ることができる:
A.
6.
2 緩和定数の非負性に関す る証明
続 いて緩 和定数 の正値性 に関 して具体的 な証 明 を与 えるた めに,以 下の補題 9を示す こ とがで
きる:
G.
K・
]
補遺 9 t
M R,
3≡ t
A :3行
3列の行列 恒 A,de
tA t
ra
djA ∈R)(
ただ し,a
djA は行列 A の余因子行
列,酎 ま実数 の集合)とす る と,A ∈ M R,
3 の固有値 の実部がゼ ロ以上で あることの必要十分条
件 は,
t
rA ≧ 0, de
tA≧0, t
rad
jA ≧0, a
nd ∫(
t
rA)≧0
(
1
35)
である.
oc
h方程式 (
48)の行列 A に関 しては,Ti≧0,h之∈R よ り,
実際一般化 された Bl
3
3
_0, detA- 71
72
73+ ∑ Ti
hi≧ O,
t
rA - ∑ Ti>
=l
i
=l
i
3
t
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71
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3
71
)
+∑ hZ>
_ 0,
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h三十 h呂)+72(
h三+ hf)+73(
h冒+ h2)+271
72
73>
_0
-1
21-
(
1
36)
木村
元
が成 立す るた め,補題 9よ り緩 和定数 の正値性 が成 立す る.
補 遺 9の証 明
補題 9の証 明 と同 じく,以 下の場合 分 けを行 な う.
(
i
)-つ の実 固有値 入R ≧0と互 い に複 素共役 な複 素 固有値 入C士 - 入C 土 0,人C ≧0,
0 ∈ R\0が
i
i
)三つ の実 固有値 0≦ 入3 ≦ 入2 ≦ 入1 が存在す る場合 で ある (
行列 A は実成分 のみ
存在す る場合 ,(
i
)
,
(
i
i
)で十分 で あ る)・
を持 つた めに,場合 わ けは (
(
a)必 要条件
場合 (
i
)
直接 の計算 に よ り,
t
rA- 入R 十 人C十十 人C_ - 入R +2人C ≧0,
de
tA - 入R入C+入C _- 入R(
人2
C+o)≧O,
t
radjA - 入R入C
+十 人C+入C_十 人C_入R-2人R入C 十 (人を十02)≧O
.
(
1
39)
t
rA- 入R+2人C ≧ 入R と x≧ 入R ⇔ f(
I)≧0に よ り,f(
t
rA)≧0も成 立す る.
場合 (
i
i
)
同 じく直接計 算 は,
t
rA- 入1+ 入2+ 入3 ≧0,
de
tA - 右 入2人3 ≧ 0,
t
radjA - ^1人2+ 入2人3十 人3Al≧ 0,
rA≧ 入1と x≧ 入1 ⇒ f(
x)≧0よ り,I(
t
rA)≧0も成 立・
を示す・さらに,t
(
i
i
)十分条件
de
tA ≧ 0⇔ f(
0)≦0(●
/detA --I(
0))であ るた め ,I(
I)は少 な くとも一つ は非負 の 0点 を
I(
I)が右 上 が りの三次
持 っ;つ ま り,行 列 A は少 な くとも一つ の非負 の実 固有値 を持 っ (こ こでは ,
関数 であ るこ とを用 いてい る)
・
場合
(
i
)
上述 の結果 よ り,人R ≧0と置 くこ とがで きる.残 りの複 素共役 な固有値 を 入C士 ニ スC 土i
O,
入C∈
A,
0∈R\
0とす る と,I(
t
rA)≧ 0⇔ t
rA(
- 入R 十 2
人C)≧ 入R ⇔ 入C ≧0.
場合 (
i
i
)
場合
(
i
)と同様 に detA ≧ 0が成 立す るた めに,
入1≧ 入2 ≧ 入3,右 ≧0
.
(
1
43)
と置 くこ とが で き る・しか し二つ の場合 ,(
i
2a)0≧ 入2> 入3と (
i
2b)0> 入2 - 人3は,以 下 の よ
うに矛盾 す る:
(
i
2
a)0≧ 入2 > 入3
I(
t
rA)>
_0⇔ 入2≧t
rA>
_A
:
30rt
rA>
_ 入1.人2≧ t
rA >
_ 入3と仮 定す る と,t
rA≧0よ り 入2-0.
よって ,0≧t
radjA - ^1人3≧0⇔
^1 0
r入3-0が成 立す
るが ,0> 入3であ るので 入1
-0
.しか
しこれ は t
rA - 入3>
_ 0と矛盾 す る.t
rA >
_ Alと仮 定す る と,
t
rA ≧ Al⇔ 入2十人3≧ 0である.他
方 入3≧ 入2十 人3 も成 立す るので,入3≧0
.これ も 0> 入3と矛盾す る.
-
122 -
量子開放系のダイナ ミクスにおける完全正値性の役割
(
i
2
b)0> ^2- ^3
f(
t
rA)≧0 ⇔ t
rA - 入2(
- 入3
)ort
rA ≧ 入1
・t
rA - 入2(
- 入3
)と仮定す ると,0> 入2-t
rA は
t
rA≧0と矛盾す る.t
r
A ≧ 入1 と仮定す ると,t
rA ≧ 入1⇔ 入2 十人3≧0⇔ 入2≧0は 0> 入2 と矛
A)-0は Al≧ 入2≧ 入3 に制限 され る;つま り条件 (
1
35)を満たす行列 A ∈Mft,3
盾す る・よって f(
QED
の固有値は非負である.
参考文献
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用素ではない.しか し,時間発展演算子の定義域,値域が Hi
偏極恒等式を用いるとよい)
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す ると,Utはユニタ リー演算子 となる (
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975)
・
9世紀後半に Bol
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mannによ り始め られた 「
古典力学によって不可逆現象 を説明
【
8】このことは,1
す る」 とい う目論見 と極度に類似 している:古典力学は可逆な理論であるか ら,この場合 「
可逆
な理論によって不可逆な現象 を説明する」 とい う命題 となる.実はこれは,基礎理論が古典力学
か ら量子力学に置き換わった ことを除けば,現在で もそのまま成立 している:量子力学は可逆な
理論である.このユニ タ リー性 と可逆性の類似は単なる論理的な構造に止まることはな く,さら
に現象の レベルにおいて密接 に関連 している.熱平衡化や非干渉化な ど多 くの現象は,非ユニタ
リーである と同時に,不可逆な現象である.つま り,熱平衡化や非干渉化等の現象 を量子論に基
づいて説明す るためには,上記の二つの命題- 「
ユニタ リーで可逆な量子論に基づいて,非ユニ
タ リーで不可逆な現象 を説明する」- を同時に解決す る必要がある.しか しなが ら,これ らを結
びつける論理的な証拠 はない.む しろ全 く別の問題 であることを認識す るほ うがよい と思われ
る.なぜ な らば,非ユニタ リー発展 をす るが可逆な現象,ユニタ リー発展 をす るが不可逆な現象
は両者共に存在す る.
さて,量子論が可逆な理論であることは,時間反転対称性 を備 えることと,回帰的であることの
二つの意味を持っ・後者は,連続スペ ク トルが存在 しない場合に起 こ り得 る性質で,ある時間 (
回
帰時間)待つ と,任意の精度で初期時刻 に近い状態に戻る性質である.つま り,可逆な理論によっ
て不可逆な現象 を説明す ることは, 「
時間反転対称性 を持っ理論が時間反転対称性 を持たない現
象 を説明す る」ことと, 「
回帰性がある理論か ら回帰性が無い現象 を説明す る」 とい う二つの令
題 の どち らを指すのか,または両方指 しているのかに気 をつ けな くてはな らない.このことを有
-
123 -
木村
元
名な二つのパ ラ ドックスー Lo
s
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dtと Ze
r
me
l
oのパ ラ ドックス ー で説明 しよ う:Los
hmi
dt
,
Ze
r
moe
oは両者 とも,エ ン トロピー増大則 を古典力学により説明す る Bol
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manl
lの確率的 (
統
s
hl
T
l
i
dtのパ ラ ドックス:エ
計的)方法を批判す るために,次のよ うなパ ラ ドックスを考えた・Lo
ン トロピーが増大す る古典力学的過程があった とす ると,ある時刻 に全ての粒子の速度 を反転
する (
量子力学の場合は,例 えば位置表示 にお ける波動関数の複素共役 を取 る)ことが可能であ
るとす ると,古典力学は時間反転対称性 を備 える可逆性 を備 えるため,粒子は元の位置に戻 り始
r
l
T
l
e
l
oのパ ラ ドックス:Poi
nc
ar
eの回帰定理によると,ある時
めてエ ン トロピーは減少す る.Ze
間だけ待つ と,初期時刻 に任意の精度 で近い ところに戻 るため,エ ン トロピーが増大 し続 ける
s
hmi
dtが時間反転対称性 を備 える意味での可逆性 を利用 したのに対 し
ことは不可能である.Lo
r
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oは回帰性 を備 える意味での可逆性 を利用 している.
て,Ze
[
9]E・B・Da
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可逆な量子論による不可逆現象の説明」も同時に解決す る:対象系 Sの RD は一般 に
[
21
]RD は, 「
時間反転対称性 も失 う:もともと量子論が備 える時間反転対称性 は,全体系に対 しては当てはま
る.しか しその部分 としての対象系 Sのダイナ ミクスは,可逆なユニタ リー発展 を引き起 こすハ
ミル トニアンの情報だけでなく,初期時刻 の環境系の状態,また相関度 な どの情報 を含んだダイ
r
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ov的 (
時間的な局所性)を失 う (
例 えば時間発展は一般 に
ナ ミクス となるために,一般 に Ma
)また,た とえ Ma
r
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o
v性 が近似 とし
時刻 tを陽に含んだ形 とな り,時間反転対称性 も失われ る.
て正 当化 され る領域 においても,それは半群 (
正の時間 t≧0のみで定義 され る時間発展で,群
特性 を持つ もの)で記述 され,一般 に時間反転が定義不可能である.回帰的でない意味での不可
逆性 は,例 えば環境系 E が無限大の 自由度 を備 える場合 に説明 され る.対象系 Sのハ ミル トニ
アンの固有値が離散的である場合 にも,環境系 E の連続 スペ ク トルが引き起 こす,全体系の回
帰的でないダイナ ミクスが生 じ,部分 としての対象系 Sのダイナ ミクスの回帰性 も失われ る.
[
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