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UNIQLO,マクド,iモード
−グローバリゼーションと地域経済−
◆グローバリゼーションてなに?
「グローバル化(グローバリゼーション)」という言葉を知っているかな。生産,流通,消費など
の経済活動が,それぞれの国の中だけに留まらずに,世界中の国々,地域と結びついて,行われるよ
うになった,ということだ。
家の中の日本製品を探してみよう
ちょっと,君たちの家の中にある家電製品や服などを調べてみよう。
テレビがあるよね。メーカーはどこ?SONY?それとも Panasonic?日本を代表する家電メーカーだ
ね。だけど,後ろに回って,生産地を見てみようか。日本製と書いてあるかな。おそらく,マレーシ
ア製だと思うよ。パソコンはある?僕のは Macintosh さ。アメリカのサンフランシスコの近くに本社
のある企業,Apple の製品だ。去年(2000 年)購入した iMac の裏を除いてみると,Assembled in Korea
だって。つまり,韓国で組み立てたってことだね。つないであるプリンターは EPSON。これは日本
企業だ。そこで裏を見ると,おや,日本製だね。でも,騙されちゃいけない。中の部品の多くは,韓
国,台湾,シンガポールなどのアジアの新興工業国で作られたものなんだ。
毎日,身につける服だって同じ。最近安売りで有名になった UNIQLO。これは山口県に本社のある
アパレル・メーカーの製品だ。絞り込んだシンプルなデザインだけど,色やサイズで消費者の多様な
ニーズに応えるというユニークなマーケット戦略で,地方の小企業から,あっという間に全国展開を
果たした今話題の企業だ。フリース・ジャケット 1900 円という信じられないような低価格の秘密は,
中国などのアジア途上国で生産していることなんだ。
それじゃ,食べ物はどうかな。たとえばインスタント・ラーメン。どこにも表示はないので正確に
はわからないけど,麺にして袋詰めしたのは大阪の工場だったとしても,原料の小麦はきっと輸入品
だよ。じゃ,肉はどうかな。有名な神戸牛。神戸牛というくらいだから,当然,神戸周辺で育った牛
だと思うでしょ。確かに,出荷直前はそうだけど,子牛の時は,実は岩手県や福島県など東北地方で
育てられたものも結構多い。それでも,日本国内だから日本産には違いないけど,牛が食べる餌のこ
とを考えたことはあるかな。高級な霜降り肉に育てるには欠かせない,餌の大豆はほとんど外国産な
んだよね。
こうやって,調べてみると,家の中で 100%日本製というものを見つけだすのは大変だよね。特に,
新しいものほど,メーカーの名前は日本企業だけど,実際の生産地は外国というものばかり。「アメ
リカやヨーロッパの高級品だぜ」と思って買った輸入品も,実は,本社所在地とは違う途上国の製品
だったり,部品のほとんどが外国製品ということが多いはずだ。つまり,私たちの生活を支えている
様々なもののほとんどは,工業製品ばかりか農業などの第一次産業の生産物まで含めて,ひとつの国
の中にある資源だけで作られたものはほとんどない。世界中の様々な国,地域の企業や労働者の協力
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と共同作業を通して作られているようになったんだ。これがグローバル化ということなんだね。
どうして急にグローバル化がすすんだの?
先進国と途上国の経済格差は 20 倍!
グローバル化が,これほど急激に進んだ要因の第一は,先進国と言われる国々と途上国と言われる
国々,地域とで,大きな所得格差があるためだ。とにかく,途上国の労働者の賃金は先進国と比べた
らとても安い。例えば,中国の平均的な賃金は,日本の 50 分の一なんだ。大都市どうしの比較なら,
もっと差は小さいけど,やっぱり 20 倍以上の開きがある。借地料や工場の建設費も,日本よりはは
るかに安いから,同じ製品を中国で作れば,日本で作るよりうんと安くできることになる。それを,
日本に逆輸入して売れば,生産費に輸送費を上乗せしても,まだまだ安い。そうすれば,ライバル企
業との競争にも勝てる,そうしなかったら負けてしまう,というので,世界中の大企業が,労働者の
賃金が低く様々な資源が安く手に入る,いわゆる途上国に先を争って工場を建設することになったん
だ。
このことは,統計でも裏付けられる。自分のお金を直接使って,工場や営業所など,経済活動に必
要な施設を外国に作ることを,「対外直接投資」と言うんだけど,それを調べてみるといい。特に先
進国と呼ばれている国々の対外直接投資が 1980 年代の終わり頃から急激に増加するようになったこ
とがよくわかる。その結果,世界中の大企業でひとつの国の中だけで生産活動をしている企業はひと
つもなくなってしまった。「多国籍企業」という言葉を聞いたことがあるだろう。たくさんの国に支
社や子会社を持っているので,そう呼ばれるようになったんだね。最近では,先進国と呼ばれる国々
の大企業ばかりか,新興工業地域(NIEs)と呼ばれる国の企業も多国籍化しているし,大企業だけじ
ゃなくて,中小企業もどんどん海外に進出するようになった。
コンピュータが地球を小さくした
さらに最近の特徴は,今まで話したような生産活動のグローバル化だけでなく,金融・証券をはじ
めとして,最先端のサービス部門まで世界的なネットワークで結ばれて,取引が行われるようになっ
てきたことだ。生産活動が世界的に分散すれば,それらに関連するサービスもそれを追いかけて分散
化するのは当然だけど,何と言っても,それが現実になるにはいわゆる IT(情報技術)革命の役割が
大きかった。それがグローバル化の第二の要因だ。朝,テレビのニュースで,東京ばかりかニューヨ
ークやロンドンの株式市場の株価やドル,ユーロの交換レートが伝えられるのを毎日見ているはずだ。
インターネットが世界中に張りめぐらされたおかげで,日本にいたまま,ニューヨークやロンドンの
株式市場や為替市場で取り引きすることができるようになったからなんだね。
他のサービス部門では,コンピュータソフトの開発や保険業務がよい例だ。アメリカに比べて賃金
がずうっと安いインドで,英語と数学に強い優秀なインドのソフトウェア技術者が,アメリカ本国に
いる技術者とインターネットを使って共同でコンピュータソフトを開発しているし,アメリカの大手
保険会社は,ヨーロッパのアイルランドの農村にデータ入力センターを作っている。アイルランドは
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アメリカの半分程度の賃金で,しかも日常言語は英語だから,大量の保険請求書類をコンピュータに
入力してもらうには最適だ。後は,インターネットでアメリカのコンピュータ・センターに送って処
理すれば,時間も通信費もほとんどかからない。手間のかかる膨大なデータ入力作業が,かつてアメ
リカ人のキーパンチャーがやっていたのと全く同じ効率の良さで,ずうっと低いコストでやれるよう
になったのだから,保険会社にとっては IT 様々って感じだよね。
◆グローバル化っていいとこづくめ?
価格破壊なら大歓迎
グローバル化の進展は,僕らのくらしに大きな影響を与えている。まず,「価格破壊」。途上国と
いわれる国々,地域の低賃金労働力や格安の生産条件で作るようになったおかげで,ものの値段がど
んどん安くなっている。前に述べた UNIQLO の例は,その代表的なものだ。パソコンやテレビなどの
家電製品も本当に安くなった。ディスプレイ込みで 10 万円以下のデスクトップ・パソコンもあるし,
普通のカラーテレビなら1万円台で買える。世界中の資源を効果的に組み合わせることができるわけ
だから,値段が安くなって性能や品質はさらによくなった。消費者としては,グローバル化から大き
な恩恵を受けているわけだね。
君も明日からベンチャー企業の社長に!
もちろん,ビジネスチャンスも広がった。アイデアがあれば,自分には大きな資本がなくても新し
い企業を興すチャンスがある。自分で工場を建てる必要はない。例えば,優れた特許を持っていれば,
それを活用した商品イメージと購買層のターゲットを決めて企画書をつくり,それに投資する投資家
を募る。アメリカには,優れたアイデアに投資する「ベンチャー資本」という投資仲介者が大勢いる
から相談してみればいい。ベンチャー資本家が興味を示せば,必要な資金や設計技術者,企業経営の
専門家まで集めてくれる。それで会社を作り,新しい製品の設計がすめば,適当な製造メーカーに下
請けに出すわけだ。マレーシアあたりの工場で生産させて,ハリウッドの広告代理店にプロモートさ
せる。学生時代に仲間と始めたソフトウェア会社が急成長して世界一の大金持ちになった,マイクロ
ソフト会長のビル・ゲーツのような成功物語が,これからもどんどん生まれてくるはずだ。
もう「発展途上国」と呼ばないで
もうひとつ重要なのは,グローバル化のおかげで,発展途上国と言われる国々の一部に経済成長の
チャンスが生まれたことだ。日本,アメリカ,ヨーロッパなど,先進国と呼ばれる国々からの工場進
出で工業化が進み,過去 20 年ほどの間に,韓国,台湾,香港,シンガポールなどの新興工業地域や,
タイ,マレーシア,インドネシアなどの ASEAN 諸国,そして最近では中国,インド,ベトナムなど
が急成長を遂げた。ちょうど日本の高度経済成長時代のように毎年 10%近く,あるいはそれ以上のス
ピードで経済成長を続けたのだ。10 年で2倍以上になるという猛烈なスピードだ。その結果,それら
の国々で貧しい暮らしを強いられてきた貧困層の生活水準もずいぶん引き上げられた。貧困の解消に
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も重要な役割を果たしたんだ。
◆グローバル化には影の部分だってある
こうして述べてくるとグローバル化は,よいことずくめのような気がするね。ところが,よいこと
ずくめとは言えないんだ。
日本の不況はグローバル化のせい?
例えば,1990 年代以降,もう 10 年にもわたって続いている深刻な日本の不況。なかなか脱出の糸
口が見えないのは,グローバル化のせいだと言ってもいい。「低賃金など,安い生産条件を求めて,
先進国といわれる国々の企業がこぞって途上国といわれる国,地域に進出したことがグローバル化の
始まりだった」とさっき言ったけど,先進国といわれる国の立場から見れば,企業の流出だ。雇用,
つまり僕らの働き口がどんどん外国に逃げていっていることになる。下請け中小企業の仕事も減り,
しかも,国内に残った企業にとっては,強力なライバルができたということだ。生き残ろうとすれば,
自国労働者は解雇して,代わりに低賃金でもがまんする外国人労働者を雇うとか,下請け企業への支
払いを値切るとか,安い外国部品に代えるとか,生産コストを下げなければならない。いわゆる「リ
ストラ」だね。すると,ますます雇用が減り,下請け中小企業の仕事も減り,失業だけは増えていく。
賃金も上がらないから消費も増やせない。それで,不況脱出の展望がなかなか見えてこないというわ
けだ。
工場移転で地域はからっぽ
しかも,グローバル化が引き起こした不況は,これまでの不況とはちょっと違う。これまでの経済
学では,景気のよい状態と悪い状態を繰り返すと言われてきた。不況は確かに大変だけと,効率の悪
くなった生産設備などを更新し,技術革新を起こして生産性が向上すれば,やがて景気も回復してく
る,と言われていた。ところが,グローバル化は,日本の経済発展を支えてきた,産業集積を掘り崩
してしまった。地域の「空洞化」と呼ばれる現象だ。そのため,もう二度と昔の繁栄は取り戻せない,
と主張する学者もでてきた。それは,次のような理由からだ。
日本経済は,何もトヨタや松下,東芝,日立などの大企業だけが支えてきたわけじゃない。下請企
業や,独立した中小企業,さらには,金融や情報などのサービス産業が連携して担ってきたんだ。僕
はこの連携を「社会的生産基盤」と呼んでいる。そして,その連携がうまくいっていたのは,大企業
と多数の中小企業が,狭い地域に集中して立地していたからなんだ。要するに「産業地域」を作って
いたんだね。例えば代表的なのが東京の大田区。関西で言えば,東大阪だ。金型といって,大きな力
で金属の板を打ち抜いて立体的な形にするための最も大事な機械部品だけど,それをつくる専門企業
をはじめ,それぞれ専門技術の違う何千,何万という機械・金属工業の中小企業がほぼ 30 分以内の
ところに集まっていた。「設計図を紙飛行機にして飛ばすと翌日には試作品ができて戻ってきた」と
言われたぐらいだった。どんなハイテク製品の試作品でも,それを作るのに必要な何十何百という違
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った技術の組み合わせが,ひとつの地域内で実現できた。そんな産業地域は日本以外にはひとつもな
い。それが世界一と言われた技術開発力の秘密だったんだ。それらの技術のたったひとつでも無くな
ると試作品は作れなくなるのに,今度の不況で,いくつかの技術が絶滅しそうになったんだ。すると,
他の技術も生き残れなくなる。ちょうど,ある生物種が絶滅すると,食物連鎖を通じて生態系全体が
危機に陥るのによく似ている。失われた生態系を取り戻すのが大変なように,一度,崩壊した産業地
域を回復するのは至難の技だ。ひょっとしたら二度と戻らないかもしれない。このような産業地区の
崩壊は,日本の技術基盤の崩壊を意味するので,日本経済全体がずぶずぶ沈没してしまう懸念もでて
きた,というわけだ。
つまみ食いされる途上国だってつらい
途上国といわれる国にとっても,グローバル化はよいことだけじゃない。アジアの急成長が,先進
国企業の投資の増加で達成されたのは事実だけど,それをつなぎ止めておくのは大変だ。先進国企業
の進出目的は,やすい労働力の利用が主眼だから,賃金水準が上がり始めると,そこを見捨てて平気
でもっと賃金の安い国々,地域に逃げていってしまうからね。公害企業がやってきて汚染物質を垂れ
流しても,逃げられることをおそれて規制できないことも多いんだよ。
マネーゲームのせいで一夜で国家破産!
さらに問題なのが,金融のグローバル化の悪影響だ。企業や経済の発展をまじめに応援して,その
成果を期待して投資するのじゃなく,株や外国のお金の単なる売買差額でもうけようとする「投機」
がはびこるようになったんだ。世界中の大企業や証券会社,大金持ちから資金を集めて投機を行うヘ
ッジファンドという組織が話題になっているが,小さな国ならつぶせるぐらい強大化してしまってい
る。実際,1997 年からのアジア危機は,意図的な暴落をねらって,ヘッジファンドがタイの通貨(バ
ーツ)を投げ売りしたことから始まったんだ。
多国籍企業様々で国はかたなし
しかも,グローバル化のせいで,それを克服する政府の力が失われてしまった。政府が国内企業を
支援したいなら,大雑把に言うと,国内企業に便宜を図り,外国のライバル企業の邪魔をすればよい。
国内企業には,税金や公共料金を安くし,補助金を出す,政府が購入するとき優先する,などの優遇
措置をとり,外国企業には,関税(輸入品にかける税金)を高くして輸入を制限したり,日本企業と
の協力を義務付けるなどの条件を付ける。ところが,途上国といわれる国と日本との所得格差は区に
よって 10 倍以上にもなるから,税金・公共料金の減免や補助金ではとても埋め合わせることができ
ないし,政府による国内企業支援や外国企業締め出しは,当然,外国政府や外国企業の反発を招き,
報復を受ける恐れがある。原料やエネルギー,食料品を外国に頼っているので,外国の報復は,国民
の暮らしや企業の生産活動に深刻な打撃を与えるはずだ。輸出企業にとっては輸出ができなくなるか
ら大変だ。しかも,日本の国内企業を圧迫している安い輸入品の多くは,そもそも日本の多国籍企業
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の海外子会社の製品だ。外国企業の邪魔をしようとすると,日本の大企業,多国籍企業の邪魔をする
ことにもなってしまう。つまり,政府の国内企業支援は,先進国と途上国の経済格差がある限りあま
り効果はないし,外国の反発を招くどころか,そもそも日本の大企業の賛成も得られない。だから,
政府には打つ手がない。これがグローバル化の怖いところだ。
◆グローバル化で試される地域の底力
それなら,グローバル化の悪影響を避けるにはどうしたら良いだろう。鎖国でもする以外にないの
だろうか。
僕らがすすめる草の根レベルの国際交流
僕は,そうは思わない。グローバル化が悪影響を及ぼすのは,先進国と言われる国々と途上国と言
われる国々,地域との間に極端な経済格差があるせいだ。それを解決しない限り根本的に克服できな
い。だから,鎖国じゃなくて,また,安い労働力でもうけようなんて考えるんじゃなくて,お互い,
対等なパートナーとして支え合い,発展のために手をつなぐ,協力関係を築くことが大切だ。それが
真の国際化だよね。しかも,国の力が弱まっているなら,今こそ僕たち市民の出番だ。地域レベル,
草の根レベルで積極的に国際交流を担っていかなくちゃね。
みんなで築こう地域の自立
一方,自分の足元で大切なのは,地域の自立と言うことさ。大企業や多国籍企業に頼り切って,何
とか地元にとどまってください,とこびへつらうよりも,コミュニティレベル,自治体レベルの地域
資源を活かして,みんなで知恵を絞り,将来ビジョンを確立し,一致して実現に努力すること,つま
り住民主導の地域おこし,まちづくりが重要だ。国ができないのに,自治体レベルでグローバル化に
対抗できるとは信じられないかもしれないけど,大丈夫さ。国の政策が有効性を失いつつあるという
ことは,企業が生産活動の場を選択するときに,税金減免などの優遇策より,立派な下請け企業がど
れだけあるのか,優秀な人材は確保できるのか,従業員が安心して暮らすために必要な,医療・福祉・
教育など生活環境がどれほど充実しているのかなど,地域の具体的条件の方を重要視することになっ
た,と言うことでもある。さっき述べた「社会的生産基盤」の重要性が増しているってことだね。だ
から,大企業よりも,地元の中小企業や商店街など,自前の資源を活かすためにみんなで知恵を絞り,
中小企業や商店街もそれに答える努力をする方が,ずっと有益なんだ。なぜなら,それが成功すれば,
自然に「社会的生産基盤」は充実するし,そうしたら,企業の方がほっとかない。「社会的生産基盤」
を活用したくて,向こうの方からやってくるはずだよ。
まだ,信じられないかい。その疑問もよくわかる。地域の人々みんなを一致協力させるのは大変な
大仕事だ。ホームルームでクラスがまとまるのも大変だものね。だからこそ,地域おこし,まちづく
りの担い手や専門家を育てる「地域政策学」が重要なのさ。君たちのように,元気で活きのよい若者
が,僕たちと一緒に学んでほしいと思ってるんだよ。 (遠州尋美 えんしゅう ひろみ)
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