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蝶の帳(とばり) - タテ書き小説ネット

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蝶の帳(とばり) - タテ書き小説ネット
蝶の帳(とばり)
志賀
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
とばり
︻小説タイトル︼
蝶の帳
︻Nコード︼
N3140BP
︻作者名︼
志賀
︻あらすじ︼
幼い頃に死んだはずの母が、つい最近まで生きていた。
しかも、廃村寸前の父の実家で。
3人の叔父。種違いの5人の妹。魅力的な叔母。純真無垢な従姉。
今まで知らなかった親戚達に戸惑う邑岡匡文だったが、邑岡家唯
一の跡取りとして、蝶河村で暮すことになるが⋮⋮。
1
5人の妹たちとのハーレム小説。
下記の内容も含みます。苦手な方はご注意下さい。
兄と妹、叔母と甥、いとこ同士、叔父と姪など、近親相姦ネタ。
複数や、愛なしセックス。
今のところ、親子はない予定です。
2
人物紹介など︵前書き︶
随時追加していきます。ネタバレも含みますのでご注意下さい。
3
人物紹介など
ちょうがむら
蝶河村
廃村寸前の、山深い村。不可解なしきたりが色々と残っている。
匡文の父親である政志の生まれ故郷。
匡文
まさふみ
高校生以下の子供がいない。
むらおか
邑岡
24歳。主人公。
ライトノベルス作家を目指している、ほぼニート。小遣い稼ぎにエ
ロ小説を書く。
好奇心旺盛だが、最近は小説を書くために家から出られないでいる。
政志
まさし
母の訃報を知り、父と共に蝶河村へとやってくる。
邑岡
46歳。匡文の父。名の売れたミステリー作家。
作家を志していたが、両親に反対され、蝶河村を飛び出す。
本来明るくてよく喋る人だが、蝶河村に来たとたん、人が変わった
美咲
みさき
かのように話さなくなった。
邑岡
享年46歳。匡文の母。元雑誌の編集者。
匡文が2歳の時、亡くなったはずだが⋮⋮。
揚羽
あげは
︻5人の妹︼
邑岡
20歳。瀬々里の双子の姉。次男の将和と美咲の子。
ポニーテール。気が強くて口調も荒い。
4
邑岡
せせり
瀬々里
20歳。揚羽の双子の妹。次男の将和と美咲の子。
白露
しろ
ツインテール。優しい口調とは裏腹に少々嫌みなところがある。
邑岡
19歳。四男の雅人と美咲の子。
前髪パッツンのおかっぱ頭。
見た目はクールビューティーだが、おしとやかで可愛らしい女の子。
立羽
たては
小灰をとても可愛がっている。
邑岡
18歳。三男の正信と美咲の子。
黒髪のロングヘア。年齢の割に童顔で小柄。心配になるほど痩せて
いる。
ツルペタ。しゃべり方も幼い。
小灰
しじみ
義母の静恵に嫌われている。他の姉妹とも交流が少ない。
邑岡
16歳。四男の雅人と美咲の子。白露の妹。
ショートヘアの元気な女の子。知らない人に対して警戒心が強い。
白露が大好き。
藍
あい
︻従姉︼
邑岡
25歳。大きな眼鏡をかけ、黒髪をひっつめてお団子頭にしている。
とても地味。
普段は化粧をしていない。胸がとても大きい。
︻3人の叔父と、2人の叔母︼
5
邑岡
まさかず
将和
44歳。邑岡家次男。
みどり
揚羽と瀬々里の父。そして、藍の父。
邑岡
正信
まさのぶ
42歳。将和の妻。藍の母。
邑岡
静恵
しずえ
42歳。邑岡家三男。立羽の父。
邑岡
40歳。正信の妻。
雅人
まさと
立羽のことを憎んでいる。
邑岡
40歳。邑岡家四男。
白露としじみの父。独身。
ありま けんいちろう
︻有馬家︼
有馬健一郎
65歳。蝶河村唯一の小中学校の校長だった。
悠々自適の年金暮らし。男やもめ。
美代子
みよこ
なかなか子供に恵まれず苦労したため、二人の子供を溺愛している。
有馬
享年63歳。邑岡四兄弟の小中学校の先生。
恭子
きょうこ
政志と過去に何かあったらしいが⋮⋮。
有馬
25歳。藍の幼なじみ。
6
有馬
ゆきお
悠紀夫
21歳。蝶河村で唯一の二十代の男性。
女性陣から嫌われている。
7
1.死んだはずの母の訃報
幼い頃に亡くなったはずの母が、つい最近まで生きていた。
ちょうが
その報せは、身に覚えの無い一通の手紙によってもたらされた。
母が亡くなった場所は、蝶河村というところらしい。
父の実家がある村で、俺が幼い頃、祖父の葬儀で一度だけ行った
ことがあるらしいが、全く覚えていない。
そういえば、母が亡くなったのは祖父の葬儀の直後だった。
それは父に聞かされたことで、母の亡骸とは対面していない。
突然、心臓発作を起こして亡くなったとのことだったが、まだ二
歳にもなっていなかった俺には理解することができなかった。
覚えてはいないが、母とはもう会えないことを感じ取ったらしい
俺は、ずっと泣いていたとのことだった。
父が酔う度に聞かされていたので、すでに耳にたこができている。
その話の後は決まって、祖父が母を一緒に連れて行ってしまったと
号泣するのだ。
でも母は生きていた。
今思えば、父と母は離婚して俺の親権は父が持ったということだ
ったのだろう。離婚したことを表だって言いたくなかった父が、母
は死んだのだと嘘をついていたのかもしれない。
離婚の原因は祖父の死だろうか。そうであれば、酔った父が泣い
ていた理由も納得がいく。
でも、離婚した母が父の実家近くで生活をしていたというのは不
思議な話だ。
もう一つ、奇妙なことと言えば、母の訃報を知らせてきたのが父
の弟、俺の叔父だったということだ。しかもその手紙は、父ではな
く俺宛だった。
手紙には、俺の母である美咲が亡くなったので蝶河村まで来いと
8
いうことが書かれていた。
それまで叔父が居たことすら知らなかった俺は不審に思い、直ぐ
さまその手紙を父に見せた。
すると父は黙り込んでしまい、その日の夜は一言も口を利かなく
なってしまった。
眉間に皺を寄せて深刻そうな表情の父に、底知れぬ不安を覚えた。
その日の夜は一睡も出来なかった程だ。
ちょうが
次の朝、父が開口一番にこう言った。
まさふみ
﹁匡文。これから蝶河村に行く。出かける準備をしろ﹂
まさかその一言が、俺を非現実的な世界へと引きずり込むとは、
このときの俺に知るよしもなかった。
9
2.突然の真実
電車を五回も乗り継ぎ、バスで最寄りの町まで行き、今は寂れた
小さなバス停で迎えを待っていた。
時刻表を見れば、バスは朝七時から十時までは一時間おきに一本、
それ以外は夜五時と八時に一本あるのみだ。
一応、町と名前が付いているが、人っ子ひとり見かけない。
平日の夜ということもあるが、付近には誰も住んでいないのでは
ちょう が
ないかと思えるくらいに人の気配がしない。
この町が蝶河村の隣町らしいが、ここからさらに車で一時間かけ
ないと、蝶河村には着かないとのことだった。
ここまで来る間に、父は殆ど喋らなかった。
本来、父は男にしては結構おしゃべりな方だ。
父と子の二人で暮してきた俺たちだが、口数の多い父のおかげで
明るい家庭が築けていたと思う。
だから、父が黙り込んでしまったことで不安になり、そわそわと
落ち着きがない。
商売道具でもあるノートパソコンを広げて原稿でもしようと思っ
たが、結局何も思い浮かばず一行も書かずに閉じた。
俺の職業は小説家⋮⋮志望。ライトノベルスを主に書いているが、
小遣い稼ぎに電子書籍でポルノ小説を書いている。
実は、父の実家が廃村寸前の村だと聞いて、良いネタになりそう
だななんて思っている。
そういう寂れた村にはロマンがある。なにか、特別な出来事が起
こらないか、期待していないと言えば嘘になる。
まさか、期待以上の出来事が待ち受けているなんて、このときに
は知るよしもない。
﹁遅いな﹂
10
父が呟いて腕時計を見た。俺もスマホで時間を確認する。18時
30分。待ち合わせは18時のはずだった。
隣町から蝶河村への手段は自家用車しかないとのことで、叔父が
迎えに来てくれることになっていた。
それから10分後。1台の車がバス停の前で止まった。父が立ち
上がる。俺も習って立ち上がった。
車の中から、中年男性が出てくる。すらりと背の高い、若々しい
男性だ。40歳だと聞いていたけど、 30代と言ってもまだまだ
通じそうだ。
﹁政志兄さん久しぶり。遅れてごめん。近道が崖崩れて通れなかっ
たんだ﹂
男性は、申し訳なさそうに謝ってから、俺たちの荷物を車の中に
運んでくれた。
結構大きな荷物を二つ。軽々と持ってしまう。見た目に寄らず、
体力はあるようだ。
﹁匡文くんだね。初めまして﹂
男性はにこやかに言った。
﹁邑岡家の四男で、俺の弟の雅人だ﹂
父が紹介してくれて、俺は慌てて頭を下げた。
﹁はじめまして。邑岡匡文です﹂
﹁父さんの葬儀の時は、一目見ただけだったけど、大きくなったね﹂
雅人さんはしみじみと言った。
﹁政志兄さん。あの子達も大きくなったよ﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
父は興味なさそうに返事をすると、車の助手席に座った。雅人さ
んは肩を竦める。
﹁さあ、匡文くんも車に乗って。真っ暗になる前に、村に着くよう
にしないと﹂
雅人さんに促されて、俺も車に乗る。
﹁あ、そうそう。君にはいっぱい親戚がいるんだよ。これから全員
11
に会うことになると思うけど、今のうちに関係図と名前だけでも覚
えて貰おうと思って、書いてきたんだ﹂
一旦運転席に座った雅人さんが振り返って、一枚の紙を渡してく
れた。A4サイズの紙にびっしりと名前が書かれている。ざっとみ
ただけでも十五人はいるだろう。全員が邑岡の姓で、父や俺の名前
もある。複雑に線引きされていて、いまいち関係性がピンとこない。
﹁君にはね、血の繋がった妹が五人もいるんだよ﹂
雅人さんは、意味ありげな笑みを浮かべたのだった。
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3.複雑な人間関係
﹁二十年前の蝶河村は、老人、中年男性、青年ばっかりで、女性や
子供が殆どいなかったんだよ﹂
雅人さんが運転をしながら、これから向かう蝶河村について教え
てくれた。
﹁だから、二十二年前に政志兄さんが美咲さんと匡文くんを連れて
戻ってきたときに、村で暮してくれないかって散々説得したんだよ。
でも、政志兄さんは匡文くんを連れて早々に東京に戻ってしまって﹂
﹁こんな忌々しい村に匡文を残すわけにはいかなかっただけだ﹂
父は吐き捨てるように言った。雅人さんは苦笑する。
﹁忌々しい村って、酷いな。俺たちが生まれ育った村だよ。︱︱あ
あ、それで話は戻るけど、美咲さんが一人村に残ってくれたんだ﹂
﹁残ってくれたんじゃない。お前達が残らせたんだ﹂
﹁政志兄さんと美咲さんだって承諾してくれただろ?﹂
二人の会話が全く理解できず、重々しい空気だけが車内を充満し
ていく。
俺はなんと言って良いのか分からず、ただ黙って雅人さんと父の
話を聞いていた。
﹁村に残った美咲さんは、俺たち三兄弟との間に子供を儲けたんだ﹂
﹁え? 三兄弟って⋮⋮?﹂
﹁次男の将和。三男の正信。四男の俺、雅人。だから、美咲さんは
邑岡家の四人兄弟との間に、それぞれ子供を儲けたんだ。詳しいこ
とは、その紙に書いてあるから﹂
俺は紙に目を向ける。びっしり書かれた相関図。その末端には五
人の女の子の名前が書かれていた。
紙に書かれていることによるとこうだ。
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あげは
せ
せり
邑岡家長男の政志との間に生まれたのは、俺、邑岡
歳。
たては
しじみ
まさふみ
匡文。24
次男の将和との間には、揚羽と瀬々里という双子の姉妹。20歳。
しろ
三男の正信との間には、立羽、18歳。
四男の雅人との間には、白露、19歳と小灰、16歳。
みな、母親は美咲だ。
ということは、俺たち6人は種違いの兄妹ということになる。
24年生きてきて、こんなにも親戚がいたなんて始めて知った。
しかも、次男の将和さんは正妻のみどりさんという人がいて、そ
の人の間には藍という女性がいる。
すなわち、俺の従姉だ。
正信さんにも、静恵さんという正妻が居る。子供はいないようだ。
もうこの時点で、関係図を放りたくなる。現実逃避をして、小説
のことを考えてしまう。
小説だってこんなに複雑な人間関係はあり得ない。読む側も名前
が覚えきれずに嫌になってしまうだろう。
俺ならこんな複雑な人間関係を設定しない。書いている俺でも分
からなくなるからだ。
だがこれが皆、俺の親戚だと言われてしまえば、覚えないわけに
はいかなかった。
必死になって人間関係をたたき込む。顔は紹介されたときの覚え
れば良いし、名前さえ覚えていれば、すぐに関係が把握できるだろ
うから。
一生懸命に紙と睨めっこをしていたら車に酔ってしまった。そう
なると、名前を覚えるどころではない。
﹁そういえば、去年、有馬美代子先生が亡くなったんだよ﹂
雅人さんが父に言うのが聞こえる。
﹁美代子先生が⋮⋮?﹂
父の声が強ばるのを感じた。
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﹁そう。小中学校の時の先生。まだ63だったのに、脳卒中で倒れ
てね。村には大きな病院がないだろ? 間に合わなかったんだよ﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
父は、愁いを帯びた表情で、車の外に目を向けた。なんとなく、
有馬美代子という人と、父との間に何かがあったような雰囲気を感
じて、気になった。
しかし、俺にはそれを深く気にしている余裕などない。
結局、紙を放り投げて、車の中で眠ってしまったのだった。
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4.白露︵しろ︶と小灰︵しじみ︶
蝶河村に着いた時には、二十時を回っていた。町を出てすぐに眠
ってしまったので気がつかなかったが、相当の山奥にあるらしい。
辺りは街灯がなく真っ暗だ。雅人さんが車の中にある懐中電灯を渡
してくれた。
﹁足下に気をつけて。うちはこの坂道を登ったところにある。ここ
から先は車が入れないんだ。政志兄さん、道は覚えているだろう?﹂
﹁ああ﹂
﹁俺は車を車庫に入れてくるから、先に行っていて﹂
そう言うと、雅人さんは車を走らせて行ってしまった。車のヘッ
ドライトがなくなって、辺りは真っ暗闇に包まれる。父が懐中電灯
を付けた。なんだかとても不気味だ。
俺は父から離れないように、背後にぴったりくっついて、懐中電
灯で足下を照らしながら坂道を登った。
三分ほど歩くと、家の明りが見えてきた。家の明りがこんなにも
ほっとするもなんだと、このとき始めて知った。
暗くてあまり分からないが、平屋建ての一軒家だった。少々古い
が、大きな一軒家だ。
玄関の扉は、東京ではあまり見ない引き戸だ。父は無遠慮に、そ
の引き戸を開けた。俺はぎょっとする。鍵がかかっていないことに
も驚いたが、父がこんな勝手な行動をするのを初めて見た。
﹁パパ! お帰り!﹂
ドタドタという足音と共に、明るくて可愛らしい声が聞こえる。
ショートヘアの小柄で可愛らしい女の子がひょっこりと顔を出す。
だが俺たちのことを見て、突然顔が引きつった。
﹁きゃあ! お姉ちゃん! 家の中に知らない人が入ってきたっ!﹂
さっきよりも激しい足音を立てながら、彼女は部屋の奥へと走っ
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て行った。
﹁と、父さん。勝手に入るのはまずいんじゃないの?﹂
﹁ここは俺の実家だ。勝手に入って何が悪い﹂
﹁いや⋮⋮。もう住んでるわけじゃないんだから、実家でも勝手に
はいるのはちょっと⋮⋮﹂
しかも、女の子が住んでいるのだ。さっき彼女が言っていたパパ
とは、雅人さんのことだろう。
ということは、あの子は俺の妹ということになる。あんなに可愛
い妹がいたなんて、なんで今まで教えてくれなかったんだろう。
少しして、今度はすらりと背の高い、前髪パッツンのおかっぱ少
女が出てきた。クールビューティな美少女に、俺は見とれてしまう。
﹁政志伯父さんと、匡文⋮⋮お兄さんですね?﹂
美少女は少々戸惑いながら、俺たちのことを呼んだ。
白露です。そして、こちらは妹の
しろ
﹁ああ。私が邑岡政志、そして、これは息子の匡文だ﹂
﹁はじめまして。私は、邑岡
しじみ
小灰です。宜しくお願い致します﹂
俺たちの自己紹介に、美少女は深々とお辞儀をする。隣りにい
たショートカットの少女も慌ててお辞儀をした。
そして、白露ちゃんは俺たちにスリッパを出してくれる。
﹁お荷物は?﹂
﹁雅人が持ってきてくれるだろう﹂
﹁そうですか。では、中にお入り下さい﹂
案内されて、俺たちは部屋の中へと入った。
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5.邑岡家の秘密
リビングに入ると、白露ちゃんがお茶を出してくれた。かなりし
っかりとした少女だ。そういえば、あの相関図によれば、十九歳っ
て書いてあったな。
小灰ちゃんは俺たちのことを覗うようにしてじっと見つめている。
ふと目が合ったが、あからさまに反らされてしまう。十六歳という
ことは、高校生か。男に対して警戒心の強い年頃だ。
二人は、俺たちのことをどう説明されているんだろう。母のこと
は知っているのかも気になった。
最近までこの村に住んでいたのだから、会ってはいるのだろうけ
ど。
﹁美咲は、どこで暮していたんだ?﹂
俺が聞きたいと思っていたことを、父が聞いた。やはり、父も同
じことを思っていたようだった。
母の名前を聞いた二人は、びくりと体を震わせた。小灰ちゃんは
唇を噛みしめて俯いてしまった。
白露ちゃんは、引きつった笑顔で俺たちのことを見た。
﹁母は⋮⋮、この村にはいないことになっていました﹂
﹁いないことになっていた?﹂
﹁はい。叔父さんたちと、私たち子供しか母の存在は知りません。
ですから、村の人たちや、みどり伯母さん、静恵伯母さんは知りま
せん。ですので、母のことは、他言無用でお願い致します﹂
﹁分かった。それで、美咲はどこで暮していたんだ?﹂
父は繰り返す。白露ちゃんは小さく首を振った。
﹁それは、父に聞いて下さい﹂
﹁分かった。そうしよう﹂
父もそれ以上は問うことはせず、黙り込んでしまった。気まずい
18
沈黙が流れる。
しばらくして、雅人さんが戻ってきた。白露ちゃんと小灰ちゃん
は、あからさまにホッとした顔をする。
﹁ああ、白露。二人を案内してくれたんだね。ありがとう。もう、
自己紹介は済んだ?﹂
﹁はい﹂
﹁そうか。匡文くん。二人は君の妹だ。仲良くしてやってくれ。他
にも明日、親戚が集まることになっている。そのときに、また紹介
するよ。お腹空いただろう? すぐに夕飯にするよ。二人とも、手
伝って﹂
三人はリビングを出て行ってしまった。俺と父、二人が残された
が、やはり会話がなく気まずい空気だけが纏わり付いていた。
夕飯を食べてから案内された部屋は、元々正信さんが使っていた部
屋らしい。父は、自分が使っていた部屋を使うとのことで、一部屋
を与えられたことにほっとする。
ネット回線が繋がっていないので、特にやることもなく、俺は布団
に寝転がったまま、じっと天井のシミを数えていた。外は真っ暗で
シンと静まりかえっている。もうみな眠ってしまったのだろうか。
スマホの時計を見ると、十二時を回っていた。暇なので眠った方が
いいのだろうが、すっかり目は冴えてしまっている。
部屋を案内されたときに、雅人さんから何度か念を押されたことが
ある。
﹁夜になると、皆寝ちゃってこの家は真っ暗になるから危ない。十
二時過ぎはあまり部屋から出ない方がいいよ﹂
トイレに行っても、すぐに部屋に戻ること。とにかく、部屋から
でないことを何度も言われた。
だが、そう言われると出て行きたくなるのが男ってものだ。
俺は立ち上がると、スマホを片手に、こっそりと部屋を抜け出した。
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廊下は小さな豆電球が付いているが真っ暗だ。
何かが出てきそうな雰囲気に、身震いをする。しかし、なにか良い
ネタが転がっていそうな予感もする。
俺は、足音を立てないように気をつけながら、家の中を散策するこ
とにした。
やはりみな眠ってしまったようで、物音一つしない。
と、思っていたら。
ガタリと音がして、俺は思わず飛び上がった。驚きすぎて悲鳴す
ら出ない。
はやる心臓を抑えながら、辺りを見渡した。
ガタン。
再び音がする。何かが閉まるような音。しかも、重たい扉のよう
なものが閉まった音だ。
好奇心旺盛な俺は、音の原因を突き止めなければ気が済まない。
俺は音のした方へと進んでいった。
音のした辺りに着くと、そこは勝手口だった。このドアが閉まっ
た音にしては、重たい音だったような気がするんだけど。
勝手口の下駄箱の位置が斜めになっているのが気になった。覗い
てスマホの明かりで照らすと、奥に扉が見えた。
俺は下駄箱をずらして、その扉を開けてみる。中は真っ暗だ。外
に続いているわけではないらしい。さらにスマホで照らすと、下り
階段が見えた。地下室だろうか。
こんな秘密の扉に地下室なんて、何かあるに違いない。俺は足下
に気をつけながら、階段を降りていった。
20
6.地下室での真実
階段を降りると、奥からかすかに声が聞こえてきた。
誰かいる。
俺は足音を立てないように気をつけながら、声のする方へと進ん
でいく。
﹁あん⋮⋮っ、ああんっ﹂
聞こえてきたのは、鼻にかかった、甘い喘ぎ声だった。予想もし
ていなかった展開に、俺は固まってしまった。
音が反射してどこから聞こえてくるのかははっきりしないが、し
っかりと聞こえる。
﹁ああっ、あはぁん、あんっ、あんっ﹂
ギシギシというベッドが軋むような音も聞こえ、何をしているか
なんて明白だ。こんな地下室でAVを見ているわけではないだろう。
辺り一面に甘い香りが漂っている。引き返した方が良いと頭の中で
警笛を鳴らしているにも関わらず、甘い香りと、女性の喘ぎ声に誘
われるように、体は勝手に奥へと向かっていた。
扉が見える。声と香りはここからするようだ。ドアノブを回すと、
簡単に開いてしまった。
俺は慌てて閉めようとしたがもう遅い。内側に開くようになって
いる扉は、ギィっと音を立てて大きく開いてしまった。
目の前にあったのは、大きな天蓋付きベッド。そこには、裸の男
女が抱き合っていた。
仰向けになって大きく足を開いた女性の間で、大きく腰を打つ男
性。
女性の上に覆い被さっていた男性が、こちらを見た。雅人さんだ。
﹁困るなぁ。匡文君。部屋を出てはいけないって、何度も言ったん
だけどね﹂
21
そう言いつつも、雅人さんは全然困った感じではない。しかも、
腰を振るのは止めない。
大きく両足を開いた女の子の膣に、雅人さんの勃起したペニスが
何度も抜き差しされている。
しかも、生で!
﹁あっ、あっ、あうぅ⋮⋮、あん⋮⋮、はぁん、いい⋮⋮、あぁん
⋮⋮っ﹂
雅人さんが突く度に、女の子は声を漏らしている。
﹁俺も本当はこんなことをしたくないんだけどね。この子には重大
な罰を与えてあげなきゃいけないんだ。そうだ、君も彼女に罰を与
えてくれないかい?﹂
雅人さんは女の子からペニスを引き抜くと、動けないでいる俺の元
へやってきた。
腕を大きく掴まれて、半ば放られるようにしてベッドに乗り上げ
た。
仰向けの女の子は、まだあどけない。ロングヘアの可愛い女の子
だ。目はうつろで、殆ど失神している状態だった。
俺は飛び退こうとしたが、雅人さんに体を押さえつけられてしま
った。しかも、体が痺れて思うように動かない。
﹁この部屋で焚いているお香は、興奮剤作用があるお香で、村では
昔から使用されている。馴れれば気持ち良くなるんだけど、馴れな
いと体が思うように動かない。ああ、麻薬などと違って、依存性は
ないから大丈夫だよ﹂
﹁や、やめて下さい⋮⋮っ﹂
俺は喉の奥から絞るように声を出す。それが、今の精一杯の抵抗
だった。
﹁二十年前、俺はここで君のお母さん、美咲さんを犯したんだ。美
咲さんのおかげで、童貞を捨てることができたんだよ。邑岡家の男
は、みなこの地下室で童貞を捨てた、君のお父さんもね。相手は美
咲さんじゃないけれど﹂
22
雅人さんは楽しそうに笑った。
母さんが、ここで犯された⋮⋮?
父さんもここで、童貞を捨てた⋮⋮?
﹁匡文君は童貞?﹂
聞かれて頷いてしまった。何も考えられない。
﹁そうか。じゃあ、やっぱり邑岡家の人間として、この部屋で童貞
を捨てなきゃ。どうせ、これから沢山の人を抱かなきゃいけないん
だから、セックスの方法を覚えなきゃね﹂
﹁え?﹂
﹁前戯の方法は又今度教えてあげるよ。この子ももう準備万端だし、
今日はハメてイクだけでいいかな﹂
雅人さんは勝手に俺のズボンとパンツを脱がしてしまった。
﹁ちょ、ちょっと、困ります⋮⋮っ﹂
抵抗したが、痺れた体では何の抵抗にもなっていない。
﹁うん。立派なものを持っているね。邑岡家の人間として誇らしい
よ﹂
雅人さんにペニスを扱かれて、すっかり勃起してしまっている。
亀頭からはとろりと先走りの汁が零れ落ちた。
裸の女の子を目の前にして、勃起しない方がおかしいだろう。
しかも、ピンク色の綺麗な膣を挿入してくれと言わんばかりに晒
しているのだ。蜜を垂らしたかのように濡れており、何とも言いが
たい香りを放っていた。お香の香りなんかよりも興奮する。
﹁ほら、ここが女性のおまんこだよ。生で見るのは始めてだろう?﹂
雅人さんの言うとおり、女の子の膣は初めて見る。
ビラビラが左右に大きく開いて、少し大きめのクリトリスが充
血して勃起している。雅人さんに沢山舐られたに違いない。
先ほど雅人さんのペニスを収めていた膣口は、ぽっかりと穴が空
いて、切なげに収縮を繰り返していた。
﹁今日はまだ中に出していないから、君が出してもいいよ。安全日
には中出しすることになってるから﹂
23
掴まれたペニスを、彼女の膣にあてがわれる。
﹁ここで、ぐいっと腰をね﹂
腰を押されて、ぐいぐいと俺のペニスは彼女の膣の中に収められ
ていった。
﹁う、うそ⋮⋮っ﹂
﹁どうだい? この子のおまんこは、今まで色々と挿入してちょっ
とユルユルだから、すんなり入ったけど、処女はこんなに簡単じゃ
ないからね。ゆっくり、優しくしてあげるんだよ﹂
ユルユル? これのどこが?
熱くて柔らかくて、ぬるぬるしている膣の中はとても気持ちが良
かった。
キュンキュン締め付けられて、俺は腰が動くのが止められない。
﹁ああ⋮⋮、あん⋮⋮﹂
彼女は熱に浮かされたように喘いでいる。俺は少し擦っただけで、
射精したくてたまらなくなった。
﹁イクっ、イク⋮⋮っ﹂
い
﹁早いね。でもいいよ。いっぱいおまんこに種付けしてあげて﹂
﹁女の子のおまんこで射精くっ﹂
ドクリと大きく脈打って、俺は彼女の膣の中で射精した。初めて
で、知らない女の子に中出しをしてしまった。
急に罪悪感が込み上げてくる。
﹁しばらくは、この地下室でこの子とセックスのレッスンをしない
かい?﹂
雅人さんが楽しそうに行った。
﹁あ、そうそう。紹介が遅れたね﹂
たては
雅人さんが俺の耳元で囁いた。
﹁彼女の名前は邑岡立羽。君の妹だよ﹂
24
7.愛されない子
俺は、彼女から飛び退いた。足下がおぼつかなくて、その場に尻
餅をついた。
﹁い、妹って⋮⋮っ﹂
まさか、知らなかったとはいえ、血の繋がった妹とセックスをし
て、あまつさえ中に出してしまったなんて!
顔から血の気が引くのが分かった。
﹁ほら、立羽。君が会いたがっていた、匡文お兄さんだよ﹂
雅人さんが立羽ちゃんの頬を軽くたたいた。すると、うつろげな
瞳がこちらを見て、ゆっくりと微笑む。俺は思わず﹁ひっ﹂っと喉
を鳴らしてしまった。
﹁この子は、継母の静恵さんに嫌われていてね。酷い虐待を受けて
いたんだよ。だから、自分をいらない子だと思って責め続けてきた。
ある日、自殺をしようとしていたところを助けたのが縁でね。こう
いう関係になった。ある日、俺との関係を知った静恵さんは、立羽
への虐待を止めた。その代わり、俺と彼女のセックスの内容を報告
するように言われている﹂
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
﹁立羽は、俺とセックスをすれば、静恵さんに虐待を受けないと言
うことを承知して、自ら俺に抱かれに来ている。安全日には中出し
をせがんでくるのも彼女からだ。俺に酷く抱かれれば、静恵さんが
喜ぶって思ってるんだろうね。立羽の父親である正信兄さんは、静
恵さんに逆らえないから何も言わない。うちは二人姉妹だし、将和
兄さんの所も双子の姉妹だけど、立羽だけ助けてくれる人がいない
んだよ。互いの姉妹は仲が良いけど、他の姉妹とはあまり上手くい
ってないから﹂
﹁だからって、こんなことが許されるんですか?﹂
25
﹁許されてしまうのが、この村なんだよ。近親相姦なんて当たり前。
この地下室が何のためにあるか知ってる? 元々、男が、他者の目
を気にせずに、自分の気に入った女を自由に犯すためなんだよ。村
の家々には必ず地下室がある。地下室に連れ込まれた女は、男に逆
らってはいけないんだ。地下室は、男たちの聖域だからね﹂
﹁じゃ、じゃあ、白露ちゃんや小灰ちゃんは⋮⋮﹂
﹁あの子達はまっさらだ。正真正銘の処女だよ﹂
その言葉を聞いて、俺は何故だか心から安堵の溜息が出た。
﹁でも、君になら、彼女たちの処女をあげてもいいよ﹂
﹁ち、父親がなんてことをいうんですか! そ、それに、俺は彼女
たちの兄です﹂
﹁言っただろう? この村では近親相姦は当たり前。しかも、この
村で生まれた女は、処女を村の人間に捧げなきゃいけない。だが、
この村に残っている男なんて、ろくな男がいない﹂
﹁そんなしきたり、無視してしまえばいいじゃないですか﹂
﹁駄目だ。無視をしたら呪われる。交通の便が進んだ現代、この村
が廃村寸前なのはそのせいだ﹂
呪われる⋮⋮。今時そんな迷信を信じている人たちがいるなんて。
﹁立羽のことは可哀想だと思う。哀れだと思っているから抱いてあ
げている。でも、もし立羽とうちの子に何かがあれば、迷わずにう
ちの子達を選ぶよ﹂
雅人さんは、立羽ちゃんの頭を優しく撫でながら、残酷なことを
言った。
﹁この子の母である静恵さんは、俺と立羽がセックスしているビデ
オを、夫である正信兄さんと一緒に見るんだ。正信兄さんは普段は
とても内気で静かな人だけど、性欲が溜ると凄くサドスティックに
なる。だから、俺が立羽を虐めてあげると、ビデオと同じことをし
て静恵さんを沢山虐めるらしい。静恵さんは普段は気が強そうなく
せに、根っからのマゾヒストだからね。立羽は、二人に利用されて
いる﹂
26
﹁そんなの酷すぎます! 立羽ちゃんが可哀想すぎるっ﹂
静恵さんは継母かもしれないが、正信さんは実の父親なのに。
﹁うん。だからね。誰からも愛されない立羽を、君が愛してくれな
いかい?﹂
27
8.憂鬱な夜と、明るい朝
お香の効果が切れて体が動くようになり、俺は地下室から逃げる
ようにして部屋に戻った。
頭が混乱して、一体どうすれば良いのか分からなかった。頭から
布団を被って丸くなる。
先ほど見た立羽ちゃんの裸が脳裏に焼き付いて離れない。目をつ
ぶると、思い出してしまう。
肌がとても白いので少し濃いように見える陰毛。だが決して剛毛
というわけではない。ピンク色の、朝露に濡れた花びらのような膣。
大きく熟れたクリトリス。忘れたくても忘れられない。
俺は、自分のペニスに手を伸ばした。
駄目だ。さっきの立羽ちゃんを思い出して、勃起してしまってい
る。立羽ちゃんの膣の中は、本当に気持ち良かった。
今まで、雅人さんに散々いたぶられてきたに違いないのに、とて
も綺麗な体だった。彼が言っているほど、手荒なまねはしていない
のだろう。
雅人さんも立羽ちゃんを愛しているんだと思う。だって、雅人さ
んにとって、立羽ちゃんは姪っ子なのだ。しかし、立羽ちゃんより
も、実の娘である白露ちゃんや、小灰ちゃんの方を愛している。そ
れは仕方がないことだ。
雅人さんは、俺に立羽ちゃんを愛してくれと言った。
でもだからって、俺に立羽ちゃんと体を繋げさせるのはどうかと
思う。まだ妹という認識はないが、一応血は繋がっているのだ。そ
れなのに、中出しまでしてしまった。
愛するってそういう意味なのか?
︱︱この村では、親近相姦は当たり前。
雅人さんの言葉が蘇った。
28
︱︱こんな忌々しい村に匡文を残すわけにはいかなかっただけだ。
ここへ来る車の中で、嫌悪感を隠さずにそう言い捨てた父。あの
時父は、この村の風習のことを言っていたのだ。
父が嫌悪する蝶河村。俺をこの村に留めておきたくなかったはず
なのに、俺を連れて再びこの村に戻ってきた。
一体なんのために? 母が死んだから? ああ、駄目だ。考えがまとまらない。立羽ちゃんの裸がちらつく。
俺の初めての相手だ。仕方がない。しかも、今までの俺には縁遠い
ほど、可愛い子なのだ。
俺はペニスを扱いた。今までお世話になった右手だが、今日はな
んだか物足りない。立羽ちゃんの膣内はもっと気持ち良かった。
ぬるぬるして、温かくて、キュンって締め付けてくれて。胸はぺ
ったんこだったけど、またそれが背徳心を煽る。乳首はつんと尖っ
なか
だ
ていたから、きっと気持ちが良かったんだろう。
﹁立羽ちゃん、立羽ちゃん⋮⋮っ、君の膣に射精すよ⋮⋮っ﹂
俺は、立羽ちゃんとの行為を思い出しながら、射精した。
眠れないまま朝を迎えてしまった。ぼんやりとする頭を何とか動
かして、部屋を出る。
リビングがなにやら賑やかだ。
﹁お姉ちゃん! お箸が足りないよ!﹂
﹁棚の引き出しの中に割り箸があるでしょう?﹂
﹁お椀も一つ足りないよ!﹂
﹁棚の奥に、お客様用があるはずよ。最近使っていないから、ちゃ
んと綺麗に洗ってね﹂
味噌汁の良い香りと共に、楽しそうな明るい声。女の子がいる生
活っていいなぁとしみじみと思う。
父と二人暮らしだったから、とても地味だった。
﹁匡文お兄さん、おはようございます﹂
29
俺に気がついた白露ちゃんが、にこりと微笑んで挨拶をしてくれ
る。
﹁お、おはよう﹂
﹁⋮⋮﹂
小灰ちゃんは、俺から視線を逸らした。
﹁こら、小灰。挨拶しなさい﹂
﹁⋮⋮おはようございます﹂
小灰ちゃんは、嫌々と言った感じで、もそもそと小さな声で挨拶
をしてくれた。さっきまでの元気な声はどこへ行ってしまったのや
ら。やっぱり、俺は警戒されているらしい。
﹁すみません。すぐに朝ご飯にしますので、座って待っていて下さ
い﹂
﹁あ、俺も手伝うよ﹂
﹁でしたら、食べる分のご飯をよそって下さい﹂
茶碗を手渡されて、俺は炊飯器からご飯をよそう。すると、父と
雅人さんが入ってきた。
﹁おはよう。おや、匡文君。早いね﹂
﹁⋮⋮おはようございます﹂
雅人さんが意味ありげに笑う。俺は彼のことが直視できなくて、
さっきの小灰ちゃんみたいに、小さな声で挨拶してしまった。
だが、雅人さんは気にする風でもなく、笑顔で白露ちゃん達と会
話をしている。
﹁今日はやけに張り切ったね。いつもはこんなに豪勢じゃないのに﹂
﹁お、お客様がいらしてるから、頑張っただけよ﹂
白露ちゃんは、顔を赤くしながら言った。朝ご飯は全て白露ちゃ
んが作ったらしい。
﹁父さん、ご飯は?﹂
﹁ああ。食べる﹂
俺は父にしゃもじを渡す。父は相変わらず、無愛想で元気がない。
本来の父は、朝からでもウザイくらいに元気なのに。まるで別人に
30
なってしまったかのようで心配になってくる。
﹁みんな揃ったね。じゃあ、いただきます﹂
﹁いただきます﹂
5人でテーブルを囲むようにして朝食を食べる。そういえば、立
羽ちゃんは、あれからどうしたんだろう。気になるが、ここで聞く
わけにもいかない。
﹁政志兄さんはこれからどうするんだい?﹂
﹁俺は、部屋で溜った仕事を片づける﹂
﹁政志兄さんは小説家だっけ?﹂
﹁ああ﹂
父は頷いた。
小説家もどきの俺とは違って、父は正真正銘の小説家だ。しかも、
ミステリー小説の雑誌に連載もしている。父は小説家になることを
親に反対されて、村を飛び出したとのことだった。東京で執筆活動
をしている時に、雑誌の編集をしていた母と出会った。母は好奇心
旺盛な人だったようだ。
﹁将和兄さん達に挨拶しにいかないの?﹂
﹁仕事が落ち着いたらな﹂
﹁そっか。匡文君は? 君さえ良ければ、案内したいところがある
んだけど﹂
﹁案内したいところ?﹂
﹁まさか、蝶の館に連れて行くんじゃないだろうな?﹂
父が不機嫌そうに唸った。
﹁そのまさかだよ。良ければ、匡文君にはあの館に住んで貰いたい
って思ってるんだ﹂
﹁馬鹿な! お前達は、一体何を企んでいるんだ?!﹂
父は拳でテーブルを叩いた。テーブルの上のものが大きく揺れる。
白露ちゃんと小灰ちゃんが、びくりと体を震わせて、そのまま固
まってしまった。俺も二人と同じく、固まったまま父を見つめた。
﹁企むも何も、あの館は邑岡家の長男である政志兄さんが住むはず
31
だったんだよ。でも貴方はそれを放棄した。だから、匡文君に私有
権が移った。匡文君も放棄したら、将和兄さんのものになってしま
う。そうしたらどうなるか、想像が付くだろう? 俺は、それだけ
は防ぎたい。⋮⋮政志兄さんだって、それを危惧したから、村に戻
ってきてくれたんじゃないの?﹂
﹁⋮⋮﹂
父は眉を顰めて黙り込んでしまった。
その蝶の館には一体何があるっていうんだろう。気になって仕方
がない。
俺が好奇心旺盛なのは、母譲りらしい。昨夜はそれで散々な目に
遭ったのに、懲りずに好奇心が勝ってしまう。
﹁蝶の館でしたっけ? 俺、行ってみたいです﹂
﹁匡文っ﹂
﹁匡文君もそう言っていることだし、政志兄さん、いいよね﹂
雅人さんの問いに、父は何も答えなかった。
﹁蝶の館に小灰も行ってみたいなぁ。一度も行ったことないんだも
ん﹂
俺たち男三人の話を黙って聞いていた小灰ちゃんが、暢気な声で
言った。
﹁小灰にはまだ早いよ。大人になったらね﹂
﹁えー。つまらない﹂
小灰ちゃんが唇を尖らせる。
﹁それより、小灰。学校に行かなくていいのかい?﹂
﹁え?!﹂
雅人さんに言われて、小灰ちゃんは慌てて時計を見た。
﹁あ! もうこんな時間?! 遅刻しちゃう!﹂
小灰ちゃんは立ち上がると、そのままリビングを出て行ってしま
った。
﹁お姉ちゃん、片付けお願い!﹂
声だけが聞こえてきた。しばらくバタバタという騒がしい音が響
32
いて、﹁行ってきます!﹂という声と共に、ドアが閉まる音がした。
﹁まったく、あの子は。もう少し落ち着けないのかな﹂
雅人さんは苦笑する。白露ちゃんも困ったように笑って、小灰ち
ゃんの食器を片付け始めた。
﹁白露も、そろそろ、あの館へ行っても言い年頃だ。今日は一緒に
着いてきなさい﹂
﹁⋮⋮はい﹂
白露ちゃんは、何故だか顔を強ばらせて頷いた。
蝶の館とは、あまり良い場所ではないらしいということだけは分
かった。
33
9.従姉の藍
﹁うわぁ⋮⋮、すげぇ⋮⋮﹂
俺は思わず感嘆の声をあげた。
雅人さんの家の裏山を三十分ほど登ったところに、蝶の館はあっ
た。長い階段を一体何段登ったのかも分からない。
頂上の段を上って振り向くと、蝶河村が全て一望できる。ここは、
村で一番高いところなのだ。
こうやって見ると、民家が殆ど見当たらない。辺りは一面、森と
川ばかりだ。
村を見下ろす風景も絶景だったが、何より驚いたのは、館の大き
さだった。
一体いくつ部屋があるのか分からないほど、大きな洋館だった。
洋館というよりも、ちょっとした宮殿だ。
入り口の前で二人の女性が立っていた。一人は立羽ちゃんだった。
あの時は殆どパニックに陥っていたし、裸⋮⋮主に膣にしか目が行
っていなかったけれど、立羽ちゃんは十八歳という年齢の割にとて
も童顔で小柄だ。少々痩せすぎではないかというくらい痩せている。
あのぺったんこな胸も納得いくくらい細い。それもこれも、義母の
虐待によるものなのだろうか。
あい
ふと目が合って、俺は気まずくて俯いてしまった。
﹁やあ、藍ちゃん。お久しぶり﹂
雅人さんが、立羽ちゃんの隣に立っている女性に声をかけた。
﹁お久しぶりです。雅人叔父さん﹂
今時珍しい、大きな眼鏡をした地味な女性が大きく腰を折った。
俺よりも少し年上といった感じだが、化粧っ気がなく、なんといっ
て良いのか⋮⋮、地味という言葉しか思いつかない。真っ黒な黒髪
を、後ろにひっつめてお団子にしている。出で立ちが少々古くさい。
34
洋画で見た本格的なメイドはこんな感じだったような気がする。本
来は可愛い部類に入るのだろうが、立羽ちゃんや、白露ちゃんが特
別に可愛すぎるせいでとても普通に見える。しかも、少々ぽっちゃ
りしている。ぽっちゃりといったら語弊があるかもしれない。とに
かく胸が大きいのだ。俺が今まで出会った女性の中で、断トツの巨
乳だ。この女性が隣にいるから、立羽ちゃんがとても細く見えるの
かも知れない。
﹁匡文君。こちらは、邑岡藍ちゃん。将和兄さんと、正妻のみどり
さんの子。君の従姉ってことだね。たしか、二十五歳だっけ? 匡
文君よりお姉ちゃんだよね﹂
﹁はじめまして。藍です。よろしくおねがいします﹂
﹁よ、よろしくお願いします﹂
新たな親戚の出現に、俺は若干戸惑った。貰った相関図には彼女
の名前が載っていなかった⋮⋮気がする。多分、妹たちの存在に気
を取られて、見えていなかったのかも知れないが。
﹁この館の管理は、藍ちゃんに任せているんだ。あと、揚羽と瀬々
里にもお願いしてるけど、あの二人は殆ど仕事をしてないみたいだ
ね﹂
﹁たまにいらっしゃいますが⋮⋮。揚羽さんと瀬々里さんは、匡文
さんのことを知っているのですか?﹂
﹁知らないと思うけど、まあ、いずれ知ることになるだろう。そう
なる前に、既成事実を作っておかないといけないな。俺はもう帰る
けど、三人に館の案内をよろしく。あと、もしよければ、あっちの
ほうも﹂
﹁⋮⋮はい⋮⋮﹂
藍さんは、何故か顔を赤らめて小さく頷いた。
﹁立羽。今日から君はここに住むことになったからね﹂
﹁え⋮⋮?﹂
立羽ちゃんは、大きな瞳をさらに大きく見開いた。そしてとたん
にその瞳を潤ませると、大粒の涙をこぼした。
35
﹁あ、あたし⋮⋮、義母さんに捨てられたの⋮⋮? あたし、もう、
いらないの⋮⋮?﹂
いきなり泣き出した立羽ちゃんに驚いた藍さんが、立羽ちゃんの
ことを抱きしめた。
﹁大丈夫よ。立羽さんは、いらなくなんてないわ﹂
立羽ちゃんの背中を優しくさすってあげている。地味な人だけど、
とても優しい人のようだった。立羽ちゃんの顔が藍さんの胸の谷間
に埋まっている。正直羨ましい。
﹁君は今日から、この館で匡文くんと、藍ちゃんと三人で暮すんだ。
俺もたまに訪ねていくし、捨てられたわけじゃないよ﹂
﹁え?!﹂
今度は俺が驚く番だ。
﹁住んでくれるだろう?﹂
雅人さんは、笑顔で言った。
﹁い、いや⋮⋮、でも、父さんが⋮⋮﹂
﹁政志兄さんは、俺が説得する。ずっとじゃなくて良いんだ。住ん
でいる間は全て藍ちゃんが世話をしてくれるから、安心して。白露
も時間があるときは、お手伝いをしてあげなさい﹂
﹁はい﹂
白露ちゃんは頷いた。
﹁まあ、今日案内して貰っている間に、考えておいて欲しい。また
明日に迎えに来るから。藍ちゃん、たのんだよ﹂
そう言って、雅人さんはそそくさと去って行ってしまった。俺は、
雅人さんの後ろ姿を呆然と見送った。
﹁ここではなんですから、中に入りましょうか﹂
藍さんに促されて、俺たちは蝶の館の中へ入った。
36
10.蝶の館
エントラスホールはまるで高級ホテルのようだった。大きな柱が
いくつも立っている。
中央には大きな階段があり、二階へと繋がっている。二階も大き
なフロアのようだ。
こんな所に住めだなんて、信じられない。しかも、この館は俺の
ものだと、今朝雅人さんが言っていたような気がする。
﹁凄い、大きい⋮⋮﹂
立羽ちゃんは、ぽかんと口をあけて、天井のシャンデリアを見つ
めている。さっき大泣きしたことをケロリと忘れているかのように、
瞳を輝かせていた。白露ちゃんも、居心地悪そうに体を縮ませなが
らそわそわと辺りを見回している。
﹁二階はラウンジと客室になっています。匡文さんのお部屋は三階
です。お好きなお部屋をお使い下さい。ただし、夜は立羽さんと同
じ部屋でお願い致します。もし、ビデオを撮る必要があれば、わた
くしがお手伝い致します﹂
藍さんがさらりとそう言ったので、危うく聞き逃してしまいそう
になったが、少しの間を置いて彼女を二度見してしまった。
﹁ビ、ビデオって⋮⋮﹂
﹁雅人叔父さんから全て聞いています。立羽さんとのセッ︱︱﹂
﹁わー! わー!﹂
俺は彼女の目の前で両手を振った。後ろにいる白露ちゃんを振り
返った。彼女は不思議そうな顔で小首を傾げる。
良かった。意味は理解していないようだ。俺はほっと胸を撫で下
ろした。
﹁駄目ですよ。白露ちゃんは何も知らないんです﹂
小声で言うと、藍さんはちらりと白露ちゃんを見てから頷いた。
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﹁各部屋の案内は追々致します。今日は、白露さんにも見て頂きた
い部屋がありますので、先にそちらを案内致します﹂
藍さんが歩き始める。中央の階段を登っていくのかと思いきや、
階段横の大きな柱の間を歩いて行ってしまった。
俺たちも藍さんの後に続く。階段横は薄暗かった。
藍さんは一番奥の壁の前で立ち止まった。小さな扉がある。配電盤
の扉かと思ったが、そうでは無いようだ。
﹁この扉を開けるには、この鍵が必要です﹂
胸ポケットから取り出したのは、アンティークなデザインの鉄の
鍵だった。藍さんはその鍵を、扉の鍵穴にはめ込んだ。かちりとい
う音がして、扉が開く。中にスイッチがあった。やはり、配電盤な
のだろうか? それにしては、スイッチが一つしか無い。
﹁この鍵の存在は、有馬家の叔父様方と、わたくししか知りません。
そして今日は、匡文さん、立羽さん、白露さんにお見せしました。
貴方たちは選ばれたのです。他の方々には、ご内密にお願い致しま
す﹂
﹁選ばれたって⋮⋮﹂
﹁詳しくは、あの部屋でお教えします﹂
﹁あの部屋?﹂
﹁はい。まずは、このスイッチをオンにします﹂
扉の中にあるスイッチを押した。すると、地鳴りが響いて、バタ
ンという、何かが開く音がした。
﹁スイッチを押したら、必ずこの扉は閉めて、鍵をかけて下さい。
では、こちらです﹂
藍さんは振り返ると、扉のある壁の真後ろにある柱に手をかける。
両手で押し始めた。一体何が始まるんだ?
不思議に思いながら見ていると、俺の体の二倍くらいはありそう
な太い柱が動き始めた。
﹁う、嘘?! 藍さんって力持ち?!﹂
﹁違います。この柱は特別で、先ほどのスイッチで柱の仕掛けが動
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いたんです﹂
冷たい口調で言いながら、藍さんは柱をどんどん動かしていく。
すると、元々柱のあった場所の床に扉が出現した。
﹁この扉も、この鍵で開きます﹂
先ほどの鍵で扉を開けると、地下へと続く階段が現れた。
﹁この階段を降りて下さい﹂
藍さんはどこから取り出したのか、懐中電灯を俺に手渡してきた。
先に行けと言うことらしい。
俺は懐中電灯を受け取ると、明りを付けて、階段を降りていった。
後ろから立羽ちゃんと、白露ちゃんが続いてくる。
﹁この扉も、すぐに閉めて下さい﹂
扉の閉まる音がして、さらに、さっきと同じ地響きがした。
俺は慌てて振り返る。閉じ込められたのかと思ったのだ。藍さんも
一緒に着いてきていると分かって、ほっとする。
今、一瞬だけ何かを思い出したような気がする。だが思い出せなく
て首を捻った。
そんな俺をよそに、藍さんは、
﹁そのまま階段を降りて下さい﹂
と、相変わらずの説明口調で言った。
俺は足下に気をつけながら、階段を降りていく。怖いのか、後ろ
に続いている立羽ちゃんが、俺の服の裾をぎゅっと握っている。ち
ょっと歩きづらいと思ったが、なんだか可愛らしくて離してくれと
は言えなかった。
どのくらい降りただろうか。しばらくして開けた場所に出た。
突然明りが付いて、その明るさに堪えきれずに、目をつぶった。藍
さんが電気を付けたらしい。
ようやく光に馴れてきて恐る恐る目を開けると、そこは円になった
小さな広間だった。壁には扉が五つ。しかも、頑丈な鉄の扉だ。
﹁調教部屋です﹂
﹁ちょ、調教部屋?!﹂
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声が裏返る。
﹁階段の正面にあるお部屋は、美咲様が使用されていました﹂
﹁か、母さんが?﹂
さらに声が裏返る。
白露ちゃんが息をのむのが分かった。立羽ちゃんは、ぽかんとして
いる。
﹁はい。一ヶ月前まで、このお部屋で暮されていたのです。私は、
美咲様のお世話をしていました﹂
藍さんは、胸ポケットから再び鍵を取り出して、階段の正面にあ
る部屋を開けた。
﹁こちらは、他の四部屋とは違い、生活できる空間に作り替えた部
屋です。美咲様のプライベートが唯一守られていた部屋です﹂
部屋の中にはベッドや机、本棚が置かれている。ここが地下室だ
ということを忘れるくらい、きちんとして綺麗な部屋だ。
﹁美咲様はここに幽閉され、たまに訪れる将和様や正信様のお相手
をされていました。邑岡家の歴代の男達は、この地下に何人もの女
性を幽閉して、自分好みに調教してきたと聞きます。調教部屋もご
覧になりますか?﹂
藍さんの問いに頷いた。調教部屋なんて、滅多にお目にかかれな
い。
調教部屋には、三角木馬や貼り付け台等が置いてあり、所々にロ
ープや鎖が垂れ下がっている。どうやって使うのか分からないよう
な道具が色々と転がっている。
この部屋で母が⋮⋮。写真でしか見たことのない母が、男達に蹂
躙されている姿を想像して、鳥肌が立った。
嫌悪感と、それに勝る興奮が押し寄せる。俺は、大きく頭を振っ
た。
﹁他の部屋もだいたい同じようなものです﹂
﹁父は⋮⋮、ここには来なかったのですか?﹂
白露ちゃんは、血の気の引いた顔で藍さんに訊ねる。
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﹁私が鍵番をすることになってから、五年になりますが、少なくと
も、その五年間には、一度も来ていません﹂
﹁そうですか⋮⋮﹂
白露ちゃんは、複雑そうな顔をしている。
﹁そして、白露さん。今日から貴方が鍵番です﹂
﹁え?!﹂
驚く白露ちゃんの手を掴むと、藍さんは先ほどのアンティークの鍵
と、五つの扉の鍵を握らせた。
﹁合い鍵はありませんので、絶対に無くさないで下さい。また、こ
の部屋に入って良いのは、匡文さんのみです。邑岡家の叔父様達は、
今後入ることはできません﹂
﹁そ、そんな。何故私が⋮⋮﹂
﹁この鍵を守るのは、邑岡家の女の勤め。しかも処女でなければい
けません。私はもう二十五歳です。ですから、雅人叔父様に世代交
代をお願いしたのです。小灰さんにという話も出ましたが、彼女は
少々そそっかしいので⋮⋮﹂
﹁揚羽さんや、瀬々里さんは?﹂
﹁鍵番は一人です。あの方達は、二人で一人のようなものですから
⋮⋮﹂
﹁じゃ、じゃあ、立羽さんは?﹂
その質問に、白露ちゃんは立羽ちゃんのことを知らないのだと分
かり、ちょっとほっとした。父親である雅人さんが立羽ちゃんを犯
してきたと知ったら、ショックだろうから。
﹁あたし、処女じゃないよ﹂
立羽ちゃんの言葉に、俺はギョッとする。白露ちゃんも驚いた顔
で立羽ちゃんのことを見ている。
﹁あたしは⋮⋮、んぐ⋮⋮っ﹂
俺は、慌てて立羽ちゃんの口を塞いだ。立羽ちゃんはじたばたと暴
れたが、構っていられない。雅人さんの行ったことで、白露ちゃん
が傷つくのは可哀想だ。
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﹁そうですか⋮⋮。私しかいないと言うことですね⋮⋮﹂
﹁今夜、鍵番交代の義を行いたいと思いますが、大丈夫ですか?﹂
﹁⋮⋮はい﹂
﹁今後、邑岡家に女性が生まれるか分かりません。もしかしたら、
白露さんが最後の鍵番になってしまうかもしれません。そうならな
いように、わたくしが子供を⋮⋮女の子を産まなければ﹂
そう言って、何故か藍さんは、俺のことを見る。
﹁蝶河村の女性は、蝶河村の男性に処女膜を破って頂かなければい
けません。ですから⋮⋮﹂
﹁で、ですから?﹂
俺はゴクリと喉を鳴らした。
﹁匡文さんが、わたくしの処女を貰って下さいませんか?﹂
﹁な、なんだって?!﹂
俺の叫び声が地下室に響き渡る。だが、藍さんは至って真面目な
顔だ。
﹁蝶河村には、若い男性が一人しかいません。ですが、その男性は
親友の兄で、あの⋮⋮、なんと申しますか、あまりよい男性ではな
いのです。昔は女性に選ぶ権利がなかったようですが、わたくしは
嫌です﹂
﹁だ、だって、俺は蝶河村の人間じゃ⋮⋮﹂
﹁邑岡家の血を引く貴方は、十分に蝶河村の人間です。それに、今
日からここに住んで下さるのでしょう?﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
﹁わたくしたちは、従兄弟同士。結婚も許されています。わたくし
が孕むまで、中出しして下さっても結構ですわ。美咲様のように、
調教して下さっても大丈夫です﹂
段々興奮してきたのか、藍さんは顔を赤くしながら俺に迫ってく
る。俺は、その迫力に負けて後退りしてしまう。
﹁あの⋮⋮、私からもお願いします﹂
白露ちゃんが口を挟んでくる。
42
﹁白露ちゃん?!﹂
﹁蝶河村の女性は、蝶河村の男性に処女を捧げなければいけないと
いうことは、幼い頃から聞かされていました。ですが、もう蝶河村
には年頃の男性がいません。私も、悠紀夫さんは⋮⋮。そんなとき
に、匡文お兄さんの話を聞いて、私も、匡文お兄さんに処女を貰っ
て頂ければと思いました。ですから、藍さんの気持ちも理解できる
んです﹂
﹁な、なんだって?!﹂
今、なんかとてつもなく凄いことを言ったような?
﹁お、俺たち兄妹だよな?﹂
﹁はい。ですが、匡文お兄さんなら、大丈夫です﹂
頬を染めて、恥ずかしそうに言う。いやいや。そんな馬鹿な。
﹁ですが、鍵番に選ばれてしまったので、しばらくはそのような心
配はしなくてよいみたいですね﹂
なんだかとても残念そうなのは気のせいだよな。気のせいと言う
ことにしておこう。
﹁ですから、今晩、わたくしを抱いて下さいませ﹂
藍さんは、深々と腰を折ったのだった。
43
11.二十五歳。悲願の脱処女
俺たちは地下室から出て、三階の一部屋に集まっていた。
白露ちゃんと藍さんは二人で何か打ち合わせをしている。これか
ら、鍵番交代の義というのを行うらしいが、俺にはさっぱり分から
なかった。
﹁あのさ。蝶河村の女性は、蝶河村の男に処女を捧げなければいけ
ないっていう仕来りのことなんだけど、それを破ったらどうなるん
だ?﹂
ベッドがある部屋で、女性三人に囲まれているという状況に落ち
着かなくて、俺は気を紛らわせようと立羽ちゃんに質問をした。
﹁あたしもよく分かんない。でも、蝶河村で生まれた女の人は、蝶
河村を出ちゃいけないんだ。ずっと、死ぬまで蝶河村にいなきゃい
けない。だから、蝶河村で赤ちゃんを産むためにそう言ってるんじ
ゃないかな﹂
立羽ちゃんも、よく分からないといった顔で説明をしてくれた。
村を出てはいけないって、そんな理不尽なことがまかり通ってい
るなんて驚きだ。
この村はとても山深い。昔なら、簡単に村を出ることはできなか
っただろう。
だが今は車で一時間走れば隣町に着く。ここに来るときに眠って
しまったのでよく分からないが、車が通れる道なら歩いても行ける
だろう。村から出ないなんて、今時の女の子にできるのだろうか。
﹁でも、蝶河村以外の男の人とエッチして処女を失った女の人は、
これまでに何人も死んでるんだよ。だから、蝶河村以外の男の人と
エッチしたら呪われて死ぬから、絶対に駄目だって教わった﹂
﹁なにそれ。迷信だろ?﹂
﹁でも、あたしの友達で、村が嫌だって言って出ていった子がいる
44
んだけど、東京で彼氏ができたって連絡があったと思ったら、すぐ
に死んじゃった。男の人の部屋でエッチをした直後だったって。そ
れに大宮のお姉ちゃんも、三年前に村を飛び出して、その半年後に
男性の家で死んじゃった。このときも、ベッドの上で裸だったって﹂
立羽ちゃんの説明に鳥肌が立つ。そんな偶然が立て続けに起こる
ものなのだろうか。
﹁じゃ、じゃあ、男は? 男は蝶河村の女性以外で童貞を捨てても
平気なのか?﹂
﹁うーん。それは、聞いたことがない﹂
女性限定と言うことか。一体どういうことなんだろう。
考え込んでいると、話が終わった白露ちゃんと藍さんがこちらに
やってきた。
﹁これから鍵番交代の義を行います。匡文さんにはわたくしとセッ
クスをして頂き、処女を失ったわたくしの膣に六つの鍵を入れます。
あ、一度に全てではありませんよ? じっくり、時間をかけて儀式
を行うのです。そして、その鍵を、白露さんに取り出して頂きます。
最後に、お清めの布で鍵を綺麗に拭いて儀式は終了です﹂
﹁⋮⋮はい?﹂
藍さんの説明に、俺はめまいを覚えた。そんな儀式、一体何の意
味があるのだろうか。
顔に思っていたことが出てしまったようで、藍さんは、
﹁この義をしなかった鍵番は、処女を失った瞬間に命を落とします。
⋮⋮過去に何例かあるそうです﹂
と、説明してくれる。その話を、心から信じている顔だ。
また、命を落とす⋮⋮か。この村の女性は、なぜそんなにも命の
危機にさらされているのだろう。
﹁わたくしの前の代は静恵さんでした。さらに、静恵さんの前の方
は、鍵番交代の義を拒否しました。⋮⋮そして、惨劇が起きたので
す。ですから、わたくしが鍵番になるときも、きちんと儀式は行い
ました﹂
45
またまた、事例を説明されて、引いたばかりの鳥肌がぶり返した。
﹁静恵さんは、鍵番をするために、従姉妹の正信さんと結婚されま
した。そして、三十五歳まで処女を守っていたのです。正信さんが
美咲様を抱くためにこの地下室に行きたいと言えば、鍵番として案
内しなければいけなかった。心中お察しします﹂
藍さんの説明で、静恵叔母さんが立羽ちゃんを憎んでいた理由が
理解できた。
こんな時代錯誤なことのせいで、色々な人が犠牲になっている。
なぜ、こんなことが、当たり前のように受け継がれてきているのだ
ろう。実際に命を落としている人たちがいるからか?
改めて思う。この村はおかしい⋮⋮。
﹁五年前、結婚十五年目にして、始めて正信さんに抱いて頂いたと
きの静恵さんは、本当に嬉しそうでした。わたくしも、こうやって
抱いて頂きたいと、ずっと思っていたのです。ですから、わたくし
を沢山抱いて下さい。お願い致します﹂
藍さんは頬を赤くして瞳を潤ませながら、俺の手を掴んだ。そし
て、その手を、藍さんの豊満な胸へと引き寄せる。
布越しから伝わる、柔らかな膨らみ。女性の胸を触るのは初めて
だ。
﹁匡文さん⋮⋮、いえ、ご主人様⋮⋮﹂
﹁ご、ご主人様⋮⋮?!﹂
﹁はい。わたくしを好きにして下さいませ﹂
女性にそこまで言われて、何もしないのは男の沽券に関わる。で
も、本当に良いのだろうか。
村の仕来りに縛られて、好きでも無い俺に抱かれようとしている
藍さん。しかも、俺たちはいとこ同士。
本当に、大丈夫なのか。
︱︱ええい。悩んでいても仕方が無い。
藍さんが抱いてくれといっているんだから、ここで抱いてやるの
が男ってものだ。
46
が、しかし、一つ問題がある。
﹁抱くのは良いんだけど、あの⋮⋮白露ちゃんや、立羽ちゃんは⋮
⋮﹂
﹁白露さんにはいて頂かないと。立羽さんは、この館でお一人にす
るのは可哀想でしょう?﹂
﹁あたし、ちゃんと見ててあげる﹂
立羽ちゃんが、ベッドの横の椅子に座って、食い入るようにこち
らを見てくる。白露ちゃんも、立羽ちゃんの横に椅子を持ってきて
座った。
﹁うーん⋮⋮。見られながらって⋮⋮。仕方が無い⋮⋮﹂
俺は覚悟を決めて、藍さんの顔を見つめた。
﹁じゃあ、ベッドに行きましょうか﹂
腹を括ってそう言ってみたものの、殆ど童貞と言って良い俺には、
セックスの仕方はよく分からない。キスをしながら服を脱がせて、
ブラジャーのホックを外して、だなんて芸当もできない。仕方なく、
最初から藍さんには服を脱いで貰うことにした。
不満を漏らすことなく、素直に従ってくれた藍さんが、次々に服
を脱いでいく。ブラジャーとショーツは茶色の地味なものだった。
しかし、彼女の絹のような白い肌と、豊満な胸が素晴らしすぎて、
下着などどうでも良いものに思える。あの胸に顔を埋めたい。でき
ることなら、パイズリもして欲しい。
﹁さ、触ってもいいですか?﹂
ブラジャーのホックを外した藍さんに、すかさず訊ねた。
﹁はい。触って下さい﹂
顔を赤らめて、藍さんが頷いた。
俺は、彼女の背後に回って後ろから胸を鷲掴みにする。手のひら
で掴んでもまだ余る。指の隙間から零れ落ちる柔肉。
﹁あん⋮⋮、もう少し、優しくして下さい⋮⋮﹂
﹁ご、ごめん﹂
俺は謝りつつも、揉む手を止めない。段々と乳首が硬くなってき
47
て、手のひらにもその感触が伝わる。
﹁乳首が勃起してきたよ。気持ち良い?﹂
勃起した乳首を摘まむ。
﹁ひぃっ﹂
藍さんは小さく悲鳴を上げた。
ピンク色のとても綺麗な乳首だ。巨乳のせいか、乳輪が若干大きい。
そして、乳首も長めだ。
﹁処女なのに、今にも母乳が出そうなおっぱいだ﹂
﹁言わないで下さい⋮⋮﹂
藍さんは恥ずかしそうに俯いた。
俺は、藍さんの体を横たわせてから上に覆い被さり、ビンビンに勃
起した乳首を口に含んだ。
﹁ああんっ、ふああっ、乳首吸わないで⋮⋮ください⋮⋮っ﹂
藍さんは身を捩ったが、本気で嫌がっていない。現に、乳首をち
ゅうちゅう吸っている俺の頭を掴んで、ぐいぐい押してくるのだ。
地味な外見に似合わず、積極的な人だ。
俺も、藍さんの乳首を吸っているだけなのに、段々と股間が硬く
なってきた。
まだ脱いでいないショーツの上から指を這わせる。
﹁ああ⋮⋮っ﹂
藍さんは大きく喘ぐ。ショーツの上からでも分かるほど、そこは濡
れていた。
﹁足を開いて﹂
耳元で囁くと、彼女はゆっくりと両足を開いた。茶色のショーツ
が焦げ茶色に変色するほどぐっしょりと濡れている。濡れている部
分を指でなぞると、そこはとても熱くてぬるぬるしていた。
﹁ああん、んあぁっ⋮⋮、あはぁ⋮⋮ん﹂
クリトリスの辺りを指先で何度も引っ掻くと、段々とコリコリとし
た感触が出てきた。
﹁あ、だめ⋮⋮、そこ、だめです⋮⋮﹂
48
藍さんはビクビクと体を震わせる。
﹁パンツを脱がせて、クリトリスを舐めてあげたら、きっと気持ち
良いよ﹂
立羽ちゃんが口を挟んでくる。すっかり存在を忘れていたが立羽
ちゃんたちも見ているのだ。
俺は、立羽ちゃんが言ったとおり、藍さんのショーツを脱がせる。
﹁ち、小さい⋮⋮﹂
思わず呟いてしまった。今まで見てきたどのAV女優よりも、藍
さんの膣は小ぶりだった。小陰茎も小さくて、肌の色を少し濃くし
たくらいの綺麗な桜色。未だかつて、こんな綺麗なおまんこは見た
ことがない。
彼女の膣を両手で開く。膣口の辺りが巾着のようにすぼまってい
る。周りに付いているヒダが処女膜ってやつだろうか。なんだかと
ても感慨深い。俺なんかが処女を頂けるなんて。柏手を打ちたい気
分だ。
俺は、藍さんの股間に顔を埋めた。汗と愛液と、少々アンモニア
の香り。しかし、ちっとも不快ではなかった。むしろ興奮する。
ぺろりと舐めた。しょっぱい。
﹁ああっ、そ、そんな、き、汚いですっ﹂
﹁汚くないですよ﹂
そう言って、俺は舌先で硬く皮を被っているクリトリスを突っつ
いた。
﹁あ、あぁっ、ああんっ﹂
舐めれば舐めるほど、ぬるぬるとした愛液があふれ出してくる。
わざとジュルジュルと音を立てながら吸ったりしながら、藍さんの
膣を舐めまくった。
時折ヒクヒクと蠢く膣口に指を挿入しようと試みる。しかし、拒
むように押し返されてしまう。
指一本すら挿入することが難しい。これで俺のペニスは挿入でき
るのだろうか。
49
い
﹁無理しちゃ駄目だよ。最初は、ゆっくりゆっくり挿入れてあげる
んだよ﹂
再び立羽ちゃんが口を挟む。言われなくても分かっている。立羽
ちゃんのがユルユルだと言った雅人さんの言葉が何となく分かった
気がした。だって、この狭さは、立羽ちゃんの比ではないのだ。
ゆっくりと指を押し進めていく。
﹁⋮⋮っ﹂
藍さんは少し痛そうに眉間に皺を寄せている。
﹁痛いですか? 大丈夫ですか?﹂
﹁だ、大丈夫です。違和感はありますが、痛くはないです﹂
愛液の量の多さも手伝って、何とか指一本の挿入に成功した。と
てもきつい。そして、膣内はとても熱くて気持ちが良い。早くペニ
スを挿入したいが、焦ってはいけない。
ゆっくりと指を動かして、様子を見ながら二本目の挿入を試みる。
﹁ん⋮⋮っ、ふぅ⋮⋮﹂
辛そうだ。額に汗が溢れている。藍さんの体は緊張しているのか
強ばっている。そのせいで上手く挿入もできないのかも知れない。
こんな時はどうしたらいいんだろう。
﹁もう! 見ていられないよ!﹂
立羽ちゃんがすくりと立ち上がり、藍さんの顔を覗き込んだ。そ
して、キスをしたのだ。
﹁ん⋮⋮っ、むんぅ⋮⋮﹂
ぴちゃぴちゃという音と共に、藍さんと立羽ちゃんの甘い鼻息が
響き渡る。
しばらくすると、藍さんの体の力が抜けてきて、膣口も少し緩ま
ってきた。
そうか、こういうときはキスや前戯で体の緊張を取ってあげるの
がいいのか。勉強になった。そういえば、俺キスしてなかったな。
そう思いながら、少し開口した膣にもう一本指を入れる。
﹁ん⋮⋮、んんっ、ふぅ⋮⋮、あ、あぁん﹂
50
先ほど痛がっていたのとは違い、声に甘さが含むようになった。
膣内を慣らせることに必死で、俺の指はすっかりとふやけてしま
っている。ゆるゆると広げるように動かしながら、それでもなんと
か指が二本動かせるほどにまでなった。
﹁も、もう大丈夫かな?﹂
俺は萎えかけてきていた自分のペニスを扱き、再び奮い立たせる。
そして、藍さんの両足をさらに開かせて、亀頭を膣口に押し当てた。
先端をワレメに滑らせながら、膣口に押しつけるということを繰り
返す。しかしなかなか入らない。
﹁あ、あう⋮⋮、ああっ﹂
膣口を突く度に、藍さんは眉間に皺を寄せる。痛いのだろうか。
ゆっくり挿入して、何とか頭だけは入った。しかし、その時点で
ぎゅうぎゅうに締め付けられて、奥に進めそうにない。どうしたも
のかと迷っていると、
﹁大丈夫ですから。一気に⋮⋮、一気に入れて下さい⋮⋮﹂
藍さんが両手を伸ばして、俺に抱きついた。豊満な胸が、俺の胸
に当たる。ぽよんぽよんして気持ちが良い。
俺は、藍さんの唇に吸い付いた。自然と舌が絡みつき、深いもの
となる。
﹁ん、んふぅ⋮⋮、ん、んっ﹂
徐々にだが、俺のペニスは藍さんの中に収められていく。
﹁ぜ、全部入った⋮⋮っ﹂
時間はかかったが、俺のペニスは藍さんの膣に根元まで挿入する
ことができた。
少しだけ出血はあるようだが、想像していたよりは大丈夫そうだ。
﹁痛いですか?﹂
﹁だ、大丈夫です。動いて下さい﹂
言われて、俺はゆっくりと腰を打つ。
﹁あ、あん⋮⋮っ﹂
最初は遠慮してゆっくり動いていたが、段々と俺も切羽詰まって
51
きて、藍さんに対する配慮も薄れてきてしまう。俺が動く度に、藍
さんの胸が上下に弾む。
い
なか
だ
﹁あ、ああ、あんっ、あふっ⋮⋮、あ、あ、あぁっ﹂
だ
﹁あ、イイっ、もう、射精く!﹂
なか
だ
﹁射精して! わたくしの膣内に、射精してください!﹂
﹁膣内に射精すよ!﹂
俺は、藍さんの最奥を突いた状態で腰を止めた。ビクリビクリとペ
ニスが戦慄き、彼女の膣内に吐精した。
﹁ああっ、出てる⋮⋮っ﹂
藍さんも体を戦慄かせながら、うっとりと呟いた。
﹁わたくし、やっと大人になれました﹂
﹁脱処女おめでとう﹂
藍さんの嬉しそうな声と、立羽ちゃんの声が、どこか遠くで聞こ
えた気がした。
52
12.鍵番交代の儀式
それからも、藍さんにせがまれてもう一度した。
俺は疲れ切って、動く気がしない。もう少し体力を付けた方が良
いかもしれない。
最近、ずっと引きこもってパソコンと睨めっこをしていたからな。
﹁んふ⋮⋮、いっぱい出ましたね。赤ちゃんできちゃうかも﹂
その一言に、自分が父親になったところを想像してみたが、あま
り想像出来なかった。ただ、藍さんに子供ができたら、俺が責任を
取って結婚しなきゃと思った。そうしたら生活費が必要になる。こ
の村にバイトできるところってあるのだろうか。結婚したら、藍さ
んは村を出て良いのか?
父は、テレビで芸能人の﹁できちゃった婚﹂や﹁おめでた婚﹂の
話を聞く度に、﹁お前は絶対にそういうことはするな﹂と俺に説教
をしてくる人だから、もし藍さんを妊娠させたと知ったら凄く怒り
そうだな。勘当されるかも⋮⋮。そうしたら、どうしよう。
悩みまくっている俺を余所に、藍さんは白露ちゃんをベッドの上
に呼び寄せた。
﹁白露さん、お願い致します﹂
藍さんは、白露さんに向かって両足を開く。膣口から、俺の出し
た精液があふれ出る。
白露ちゃんは、耳まで真っ赤な顔をしながら、六本の鍵を取り出
し、消毒液を湿らせた布で丁寧に拭いている。その手が細かく震え
ていて、少し可哀想になってくる。拭き終わった鍵を、藍さんの膣
口に近づける。
﹁あ、あの、痛かったら、教えて下さいね﹂
﹁はい。ゆっくりお願い致します﹂
﹁が、頑張りますっ﹂
53
そう言って、まるで鍵穴に差し込むようにして、鍵を膣の中へ差
し込んでいった。
﹁ん⋮⋮、あぁ⋮⋮、冷たい⋮⋮っ﹂
処女を失ったばかりの膣口は少々赤くなっていたが、あんなにき
つそうだったそこは、くぷぷっという空気の入った音と共に、鍵を
すんなりと飲み込んでしまった。俺の精液がローション代わりにな
っているのだろう。鍵を飲み込む度に、精液があふれ出てくる。
﹁だ、大丈夫でしょうか?﹂
﹁大丈夫です。全て入ったら、鍵を開けるように回して下さい﹂
﹁は、はい﹂
くちゅりという音がして、鍵がゆっくりと回される。
﹁あん⋮⋮っ、凹凸が⋮⋮、ゴリゴリって⋮⋮っ﹂
﹁ま、回しましたっ﹂
﹁そうしたら、今度は逆方向に、回して下さい﹂
﹁はい﹂
﹁あん⋮⋮、んふ⋮⋮っ、いいですわ⋮⋮、回し終わったら、ゆっ
くり、引き抜いて下さい﹂
﹁ゆ、ゆっくりですね⋮⋮﹂
﹁ああぁ⋮⋮っ﹂
引き抜かれる感覚が気持ち良いのか、藍さんは恍惚な顔をして体
を震わせた。さっきまで処女だったとは思えないほど、艶めかしい
色香を放っている。
﹁抜きました﹂
引き抜かれた鍵は、俺の精液がべったりと付いており、なんだか
恥ずかしい。
藍さんの膣口はヒクヒクと蠢いている。藍さんは、ちらりと俺の
ことを見て、誘うように微笑んだ。 その姿を見て、また股間が熱
くなるのを感じる。
俺は慌てて藍さんの視線から逃れるように、顔を背けた。
﹁聖布で丁寧に拭いて下さいね。そうしたら、次の鍵もお願いしま
54
す﹂
藍さんは、白露さんに説明をする。
先ほどと同じことを五回繰り返し、儀式は終了した。この儀式に
一体何の意味があるのか分からなかったが、藍さんはとても満足そ
うだった。
﹁これで白露さんは立派な鍵番です。本来は館の管理人も兼用する
のですが、館の管理はわたくしがこのまま続けます。時間があると
きに手伝って頂ければと思っています。その変わり、鍵は無くさな
いこと。そして、純潔は守りきって下さいね。後で貞操帯をお渡し
しますわ﹂
﹁貞操帯⋮⋮ですか?﹂
白露ちゃんが首を傾げる。
﹁はい。わたくしも最近まで使っていたのですが、男性から身を守
る下着です。何かあったら困りますし、なるべく付けるようにして
下さい﹂
﹁わ、分かりました﹂
白露ちゃんは大きく頷いた。
﹁ねー。匡兄﹂
立羽ちゃんが、俺の肩を揺すった。
﹁儀式終わったんでしょう。あたしもエッチしたいなぁ﹂
﹁え?﹂
思わず嫌そうな顔をしてしまった。
﹁だって、今日のビデオ撮らないと、義母さんに怒られちゃう﹂
立羽ちゃんは、不安そうな顔で俺を見た。
﹁あ、あの、私は、もう帰りますっ﹂
白露ちゃんは、鍵を握りしめて、あたふたと帰る準備を始める。
﹁うん。ばいばい﹂
立羽ちゃんが白露ちゃんに向かって手を振る。
﹁今日はありがとうございました﹂
藍さんも、にこりと微笑んで白露ちゃんにお辞儀をした。
55
俺は、帰らないでくれ! と心の中で叫んだが、白露ちゃんは俯
いたまま﹁お先に失礼致します﹂と言って、そそくさと部屋を出て
行ってしまった。
﹁では、わたくしは、ビデオを取ってきますね﹂
藍さんは、脱いだシャツを羽織ると、白露ちゃんの後を追うよう
に部屋を出て行ってしまった。
﹁あ、あの、お、俺、もう出ない⋮⋮﹂
﹁でも、こんなに硬くなってるよ?﹂
うるりと潤ませた瞳で見つめられ、しかもペニスを握られて、俺
は逃げることができなかった。
﹁あ、あのさ、立羽ちゃん﹂
﹁なに?﹂
立羽ちゃんは、俺の勃起したペニスを扱きながら、小首を傾げた。
その愛くるしい顔からは想像も付かない程のテクニックだ。立羽ち
ゃんがかがみ込んで口を開けた。
﹁ま、待った!﹂
慌てて、立羽ちゃんの肩を掴んだ。ここで咥えられたら、絶対に
昇天してしまう。
﹁さっきからどうしたの?﹂
﹁手を離してくれないかな﹂
なるべく優しく言ったつもりなのだが、立羽ちゃんの表情がみる
みる曇っていく。
﹁⋮⋮なんで?﹂
まずい。今にも泣き出しそうだ。
﹁立羽ちゃんは、今日からこの館で暮すんだよ﹂
﹁うん﹂
﹁だから、俺とこんなことをしなくても、お母さんに怒られないよ﹂
﹁なんで?﹂
﹁だって、お母さんはここにはいないでしょ。だから、怒られない
よ﹂
56
﹁もう、お義母さんと会えないってこと?﹂
立羽ちゃんの瞳が潤み、眉がへの字になる。虐待されているはず
なのに、静恵さんと会えないかも知れないと思って泣き出しそうな
立羽ちゃんの真意が分からず、俺は戸惑った。
﹁いつでも会えるよ﹂
俺の言葉に立羽ちゃんはほっとした顔したが、すぐに不安そうな
表情になる。
﹁じゃあ、ビデオ撮らないと、会ったときに怒られるよ﹂
﹁えっと⋮⋮、大丈夫だよ。お母さんが怒ったときは、俺がちゃん
と守ってあげるから﹂
﹁匡兄が、あたしを守ってくれる⋮⋮?﹂
立羽ちゃんは、大きな瞳をさらに見開いて、俺のことをまじまじ
と見つめた。
﹁うん。だから、もうこういうことはしなくていいんだ﹂
﹁そっか。匡兄がしなくていいって言うなら、やめる﹂
握られていたペニスから手を離してもらえて、安堵した。
﹁でも、お義母さん、ちゃんとお父さんとエッチできるかな⋮⋮﹂
ぽつりと呟いた立羽ちゃんに、今度は俺が彼女を見つめてしまっ
た。
彼女は自分が犯されているビデオを両親が見ていることを知って
いるのだ。そういえば、邑岡家の実家の地下室で、雅人さんが立羽
ちゃんがいるにも関わらず、そのことを俺に説明してくれていたっ
け。もう大分前から知っている事実だったに違いない。
知っていて、自ら体を差し出すなんて⋮⋮。
心臓の辺りがぎゅっと締め付けられる。勃起していたペニスはす
っかりしぼんでしまった。
﹁匡兄⋮⋮?﹂
俺は、立羽ちゃんのことを抱きしめていた。
﹁ど、どうしたの?﹂
彼女もおずおずと俺の背中に手を回してくれる。
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﹁ここでは、君のやりたいように過ごして良いよ﹂
﹁やりたいこと? ⋮⋮得にないかも﹂
﹁じゃあ、少しずつ見つけると良いよ﹂
﹁⋮⋮うん﹂
立羽ちゃんがこくりと頷いて、俺の肩に顔を埋めた。
﹁どうしましたか? 具合でも悪いのですか?﹂
いきなり声をかけられて驚いた俺たちは、飛び跳ねるようにして
離れた。藍さんがビデオカメラを片手に立っていた。
﹁い、いや。大丈夫だよ﹂
﹁そうですか。では始めましょう。ビデオを撮るのは初めてなので、
上手く撮れるか分かりませんが⋮⋮﹂
﹁あ、それもう必要なくなったから﹂
﹁必要ない?﹂
藍さんは訝しげに眉を顰めた。
﹁うん。もう、立羽ちゃんとはセックスしないし、録画もしないこ
とになったから﹂
﹁勝手に決めてよろしいんですか?﹂
﹁いいんだよ﹂
﹁そうですか。ご主人様がそう仰るのでしたら、これは必要ありま
せんね﹂
藍さんはビデオの電源を落として、机の上に置いた。
﹁ですが、覚悟はされておいた方が良いかも知れませんね﹂
振り向いた藍さんの哀れむような表情に、背筋に薄ら寒さを感じ
て身震いをした。
58
13.突然の怒鳴り込み
俺たち三人は、ダブルベッドの上で川の字になって眠った。女の
子二人に挟まれている状態は、夢にまでシチュエーションではあっ
たが、俺は少々げんなりしていた。疲れていたし、一人でゆっくり、
ゆったりと眠りたい。
こんな夢のような状況で文句を言ったら罰が当たりそうだが、ダ
ブルベッドとはいえ、三人で眠るには少々狭い。
右腕は立羽ちゃんに抱きつかれ、左腕には藍さんの巨乳がぐいぐ
い押しつけられた状態では眠れるはずもなく、俺は天井の模様を見
つめながら一晩を過ごした。
眠いのに眠れない。
俺は普段は怒る性格じゃないんだけど、寝不足になると短気にな
る。だから、しっかりと睡眠は取らなければいけないのだが⋮⋮。
空が白み始める頃に藍さんが起床した。
俺は寝たふりをする。彼女は、ゆっくりと立ち上がると、乱れ髪
をきっちりと結い直し、部屋を出て行った。
左腕が楽になり、逃げるスペースもできたので、立羽ちゃんを起
こさないように右腕を引き抜き、ベッドの端に移動する。
さて、一眠りするか、と思っていたら⋮⋮。
﹁いるんでしょう?! 早く会わせなさい!﹂
女性の金切り声が響いて飛び起きた。
俺は瞬時に、静恵さんが怒鳴り込みに来たのだと思った。
立羽ちゃんを守らなければ!
彼女は騒がしい外には気がつかず、すやすやと眠っている。彼女
を隠すように、布団をかぶせた。
﹁お、お待ち下さい。まだご主人⋮⋮、いえ、匡文さんは眠ってい
らっしゃいます﹂
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戸惑うような藍さんの声が聞こえる。
﹁そんなこと知らないわよ!﹂
金切り声が部屋のドアの前で止まり、バン! という大きな音を
立てて、ドアが開いた。
ドアの前に立つ女性を見て呆気にとられる。
静恵さんは立羽ちゃんの義母ということだったので、中年女性を
想像していたのだが、部屋に入ってきたのは藍さんより年下くらい
の若い女性だった。
しかも、とびっきりの美人だ。大きな瞳と白い肌は、立羽ちゃん
に似ている。でも、お母さんと言うには若すぎるし、なにより静恵
さんは立羽ちゃんとは血が繋がっていない。
静恵さんではないのか?
だったら、この人は誰だろう。
女性は俺の存在に気がつくと、眉間に皺を寄せて睨み付けてきた。
﹁あの⋮⋮﹂
俺が立ち上がったとたん、女性は大きく目を見開き、それから、
﹁きゃぁぁあああ! 変態!﹂
顔を真っ赤にして部屋を飛び出していった。
そう、俺は真っ裸だったのだ。
﹁あ、やばい﹂
俺は慌てて布団を引き寄せて下半身を隠す。
﹁こちらをどうぞ﹂
藍さんが、俺が昨夜脱いだパンツを持ってきてくれたが、恥ずか
しくて奪い取るようにしてパンツを受け取った。
汚れたパンツを穿くのはちょっと抵抗があったが、今はこれしか
ないので仕方がない。
パンツを穿いて、脱ぎ散らかした服を着る。
﹁あ、あの、今のはどちら様で?﹂
﹁邑岡揚羽さんです﹂
﹁えっと、俺の妹の? でもなんでこんな朝早くに怒鳴り込みに来
60
たんだ?﹂
﹁彼女はこの館を気に入っていました。ですが、今日からご主人様
のものとなりますので、勝手に立ち入りはできなくなります。それ
を知って抗議にいらっしゃったのでしょう﹂
﹁そっか。今まで管理をしてたんだよな。⋮⋮って、藍さん﹂
﹁はい?﹂
藍さんは大きな眼鏡を押し上げて、俺のことを見た。
﹁その、ご主人様っていうの、抵抗があるんだけど⋮⋮﹂
年上の女性からそういわれるのは、なんだか体の奥がムズムズす
る。
﹁蝶の館の主人は匡文さんです。そして、わたくしはこの館に仕え
る者です。ご主人様には違いありません。それに⋮⋮﹂
藍さんはほんのり頬を染めて、俺から視線を逸らす。
﹁わ、わたくしの、は、初めての男性ですし﹂
昨夜はあんなに大胆だったのに、こんなに恥じらうなんて。しか
も、ちょっと可愛いとか思ってしまった。俺もつい、顔が熱くなる。
﹁でも、やっぱり馴れないから、名前で呼んで欲しいです﹂
﹁では、匡文様とお呼びします﹂
﹁様か⋮⋮。うーん⋮⋮、まあいいや﹂
﹁はい。では、匡文様。揚羽さんを客間にお通ししておきますので、
着替えたらいらして下さい。瀬々里さんもいらしていると思います
ので、この館について、お話されたほうがよいと思います﹂
﹁分かった。ありがとう。着替えてすぐに行くよ﹂
﹁はい。では、失礼致します﹂
藍さんは一礼すると、部屋を出て行った。
なんだかめんどくさいことになってきた。雅人さんが気軽に住め
ば良いって言ってくれたから、対して気にも留めてなかったけど、
一応所有権とかめんどくさい手続きが必要なんだよな。
面倒なことになったら館の所有権は放棄しよう。
そう思いながら、俺は大きくあくびをして部屋を出た。
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14.最強な双子
客間の扉を開けて真っ正面に同じ顔が二つ並んでいてギョッとし
た。
髪型もポニーテールとツインテール。好みも似ているのか、似た
ような服を着ている。
部屋に入った俺を、ポニーテールが睨み付けるように見つめてい
る。
さっき会った揚羽ちゃんは、ポニーテールだった。ということは、
ツインテールが瀬々里ちゃんだろう。二十歳のツインテールは珍し
い。でもとてもよく似合っていた。
バン! と机を叩くと、揚羽ちゃんが立ち上がった。若干顔が赤
い。
﹁どういうことか説明しなさい!﹂
一体何の説明を求められているのか分からず、俺は藍さんのこと
を見た。
藍さんはにこりと笑っただけで、何も言ってくれない。
さっき、俺が裸だったことを説明しろって意味じゃないよな⋮⋮?
﹁えっと、なんの説明でしょう⋮⋮﹂
﹁とぼけないで! 貴方が財産目当てで戻ってきたことは分かって
るんだから!﹂
﹁財産目当て?﹂
何がどうなったら、そんな話しになるんだ?
﹁この蝶の館は、ゆくゆく、お父様のものになるはずだったのよ!
それは、私たちのものと同然。それなのに、貴方のせいで⋮⋮っ﹂
﹁いや、別に、俺はこの館をもらうつもりは⋮⋮﹂
﹁だったら、即刻出て行きなさい! 私たちが、毎日綺麗に手入れ
をしている館に、無断で入らないで! 貴女も貴女よ! 何故私に
62
無断でこんな男を入れたのよ!﹂
怒りの矛先が藍さんに向かう。
﹁申し訳ありません。ですが、この館は政志さん一家のものと、富
一郎さんの遺言にありました。彼らが相続を拒否した場合は、この
館は取り壊して、土地をよそ者に売り払う。そういう決まりだった
はずです﹂
﹁そんなこと聞いてないわ! だったら、何のために今まで私たち
が管理していたというのよ!﹂
揚羽ちゃんの口ぶりからすると、ゆくゆくは自分のものになると
思って勝手に管理人を気取っていたように思える。
﹁揚羽ちゃん。落ち着いたら?﹂
遠慮がちな、しかし凜とした声が部屋に響く。今まで黙っていた
瀬々里ちゃんが、ゆっくりと立ち上がる。
﹁でも、瀬々里⋮っ﹂
﹁この方も、現状を把握していないようだし、何を言ってもぬかに
釘状態よ﹂
この方って、俺のことか? 可愛い顔して、結構言うなぁ。こう
やって乗り込んでくるってことは、俺の名前を知っているはずなん
だけど。
瀬々里ちゃんの説得に、揚羽ちゃんは小さく咳払いをした。
﹁そ、そうね。私としたことが。まあ、なんだかこの人馬鹿っぽい
し、私が何を言っても無駄そうね﹂
﹁ええ。だから、誰がこの館の主にふさわしいか、私たちで見極め
ればいいのよ﹂
﹁どうやって?﹂
﹁しばらく、私たちもこの館に住むの。だって今まで頑張って管理
してきたんですもの。私たちに住む権利くらいあると思わない?﹂
な、なんだって?!
俺の驚きを余所に、
﹁良いアイデアだわ! 流石瀬々里ね!﹂
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揚羽ちゃんは嬉しそうに瀬々里ちゃんの両手を掴んだ。
﹁というわけだから、しばらく滞在させて頂きますね。部屋は沢山
空いているでしょう?﹂
瀬々里さんに問われて、藍さんは困った顔で俺を見た。
俺を見られても困るんだけど。
﹁でも、女の子と住むのは⋮⋮﹂
﹁あら。大丈夫でしょう。だって、私たち兄弟なのだから﹂
にこりと笑った瀬々里ちゃんは、否とは言わせない雰囲気が漂っ
ている。
﹁誰がこの館の持ち主にふさわしいか、思い知らせてあげるわ!﹂
揚羽ちゃんは不敵に笑ったのだった。
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15.うんざりする日々
揚羽ちゃんと瀬々里ちゃんが乗り込んできて二日。うんざりする
日々を過ごしていた。
二人は俺の部屋の右隣の部屋を陣取った。部屋はいくつもあるの
に、二人で同じ部屋を使うとは、よほど仲が良いらしい。
﹁困りましたね。匡文さんとわたくしの関係が知れたら、それをネ
タにして攻撃してくるに違いありませんわ。残念ですが、わたくし
のことはただの召使いとして接して下さいませ﹂
藍さんは心の底から残念そうだったが、まだ気持ちの整理がつい
ていなかったので、正直ほっとした。
立羽ちゃんは藍さんと同じ部屋で過ごすらしい。静恵さんが来た
ら守ると約束しているので、左隣の部屋で過ごして貰うことにした。
やっと一人で過ごせるようになったことに安堵したものの、両隣
に問題のある妹たちがいると思うともの凄くプレッシャーを感じる。
彼女たちと会うのは、朝、昼、夜、食堂で食事をするときだけだ。
監視するような鋭い視線で睨まれながらの食事は、正直食べた気が
しない。部屋に戻ってからも、俺がトイレに行こうとしただけでも、
音を嗅ぎつけて監視してくる。
これじゃあおちおち部屋から出られない。
とはいえ、部屋にはインターネット回線は繋がっていないし、ス
マホからできることは限られている。正直、やることがない。この
二日、館に引き籠もったまま、食事をして、ベッドでごろごろして
るだけだ。このままでは廃人になってしまう。しかも、セックスを
覚えてしまった俺は、欲求不満も溜まってきていた。藍さんや立羽
ちゃんを誘えば、喜んで相手をしてくれるだろう。でも、そんなこ
とをするわけにはいかない。
しかも、建物が古いので隣の声が聞こえてくるのだ。
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俺はベッドの上に寝転がりながら、両隣から聞こえてくる声に耳
を澄ましていた。
立羽ちゃんは藍さんのことをお姉さんのように慕っているようで、
藍さんも立羽ちゃんの面倒をよく見てくれている。
﹁藍さんと楽しそうにおしゃべりしてる立羽ちゃんは、年相応で可
愛いんだけどなぁ﹂
俺と藍さんが結婚して、立羽ちゃんを養子にしてもいいかなとか、
一瞬でも思ってしまい、そんな自分に驚愕する。
﹁いかん、いかん。こんな特殊な環境に毒されてどうするんだ﹂
俺は大きくかぶりを振って右隣の声に集中した。
揚羽ちゃんはおしゃべりのようで、右隣からは殆ど彼女の声しか
聞こえない。揚羽ちゃんの﹁さすがは瀬々里ね﹂という言葉がよく
聞こえてくるので、一応、瀬々里ちゃんも話しているのだろう。
一見して、揚羽ちゃんがわがままを言って瀬々里ちゃんを振り回
しているように見えるけど、実のところ、揚羽ちゃんは瀬々里ちゃ
んの言うことを何でも聞くという感じだ。
揚羽ちゃんは感情を表に出すタイプのようだが、瀬々里ちゃんは
にこやかに毒を吐くタイプのようだ。
あの二人を攻略するのは難儀しそうだ。
こんな、俺を確かめるようなことをしなくても今すぐにでも出て
行ってあげるのに、面倒なことになった。
早く帰りたい。父さんどうしてるかな。俺を置いて一人で帰って
るってことはないよな? 明日、雅人さんの家に戻ってみるかな。
そんなことを考えていると、右隣から聞こえていた話し声が途絶
えた。
バタンというドアが閉まる音が聞こえた。トイレだろうか? そ
れにしては、足音が二人分聞こえる。
俺を監視すると言いながら、二人してお出かけか?
俺はちらりと時計を見た。夜の十時過ぎ。出かけるにしては遅い。
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風呂は食事が終わって真っ先に入る二人なので、バスルームとい
うわけではないだろうし。
こういうとき、一度気になると確かめなければ気が済まない性分
である自分が嫌になってくる。この好奇心のせいで、立羽ちゃんの
秘密を知ってしまったというのに。
でも、悪巧みをしていたら困るし。
俺はベッドから飛び起き、音を立てないようにして部屋の外に出
た。隣の部屋から声が聞こえて、俺は思わず両手で口を塞いだ。
﹁立羽さん、そろそろ寝ないと明日の朝起きられませんよ﹂
﹁うーん。コレがクリアできてから!﹂
どうやら、立羽ちゃんは何かのゲームに夢中になっているようだ。
彼女たちが部屋から出てくることはないだろう。
俺は、足音を立てないようにしながら、双子たちが出て行った方
角を目指した。
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15.うんざりする日々︵後書き︶
前回からかなり時間が空きました。すみません。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://novel18.syosetu.com/n3140bp/
蝶の帳(とばり)
2016年7月16日19時39分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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