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滋賀らしい特色のある商品開発の取り組みと課題
食品産業協議会だより 滋賀らしい特色のある商品開発の取り組みと課題 石 庭 孫 義 はじめに 大津市打出浜は琵琶湖岸に面し,昔は湖上 交通の要衝で安全祈願のため,船主仲間が建 立した花崗岩の「石場の大常夜灯」がこの地 に移築されている。冬の朝には,陸地から切 離された琵琶湖大橋が湖面に浮かんで見える 浮島現象(蜃気楼)や「近江八景」の一つ 「比良の暮雪」で知られる比良山の冠雪が朝 日に銀色に映える姿が見られる。旧東海道沿 8m余の大常夜灯 いに,俳人松尾芭蕉翁が朝日将軍木曽義仲公 と眠る「義仲寺」があり「行春をあふみの人 とおしみける」など19の句碑が建てられて 食料産業クラスター協議会は平成18年3月 いる。昔,旅人らは「お茶屋」で,行き交う に設立され,滋賀県らしい特色のある「新商 帆船を眺めつつ疲れを癒し「近江の郷土食」 品の開発」や「新たな需要を創出する指針の を堪能していたのであろう。 事務局はこの 策定」に事業の重点が置かれている。 地に置かれている。 1.食品産業・食料産業クラスター協議会の 設立 2.滋賀県らしい特色のある新商品の開発 (1)「三方良しうどん」の改善・「近江牛 うどん」の創作 (製麺工業協同組合) 食品産業協議会は昭和55年9月に関係機 滋賀県といえば名産品の「ふなずし」を挙 関・団体の支援により設立された。主要事業 げる人は多いが,小麦は集落営農により集団 は,消費者対策・人材養成・業種間連携・地 栽培が行われ,全国4番目の面積であること 域農産物加工促進であり,この他に全国規模 は余り知られていない。最近,製麺適性のよ の「ふるさと食品フェアー」やイベントへの い品種「ふくさやか」が栽培されるようにな 出展,優良企業表彰事業にも参加している。 り,平成18年度食料産業クラスター事業に 会員数は26会員であり,団体会員は(酒造 より県産小麦の消費拡大を狙って 「ツヤ良し」 業,漬物業,製麺工業,茶商業,水産加工業) 「コシ良し」 「粘り良し」の「三方良しうどん」 の5団体,17企業会員,4賛助会員である。 が開発された。商品名は近江商人に因んで付 いしば まごよし: 滋賀県食品産業協議会 事務局長 明日の食品産業 2009・7・8 43 けられている。平成19年度に(財)食品産 試行錯誤が繰り返された。また,二度の試食 業センターにより市場調査が行われ,味の面 会において生活協同組合員の皆様に貴重なご では「三方良し」の特徴である「コシの強化」 意見を頂いた。9回の検討協議により平成21 や「贈答品」としての評価もそれ程高くなく, 年2月に漸く「近江牛うどん」が完成品とな 商品力の低さが課題になった。 り,報道機関をお招きして滋賀ブランド「近 そこで,平成20年度は(財)食品産業セ 江牛」30グラム以上,県産の卵,ネギ等の具 ンターのご支援もあり,滋賀県農政水産部・ 材を入れた新商品の創作発表会が開催された。 JA全農しが等の協力の下,商品力の向上に 発表会に備えて「市販の牛うどん」と差別 より「三方良しうどん」の販路拡大を図るた 化する検討も行われ,お客様の前で「うどん め,(仮称)滋賀県ブランド化協議会(会 の上に置かれた近江牛」に熱いだし汁をかけ 長:中川理事長)を立ち上げられた。 るといった趣向を凝らすことにより,美味し 目標は,コシが強く食感もよいうどんに改 さを引き立たせた。 善すること,そして滋賀県に訪れる大勢の観 創作発表会の様子は中央紙や農業新聞,地 光客に当地でしか食べられない新商品の創作 元テレビに大きく取り上げられ知名度をぐん 活動が始められた。毎月1度,組合員は試食 と向上することができた。 品を持ち寄り課題の改善に取り組まれた。 (株)船井総合研究所の栃尾氏にアドバイス をいただき,新商品の創作にも販売対策にも 真剣に検討が重ねられ,数種類の試作品の中 4月から「えんじ」色の生地に「近江牛う どん」と白色で書かれた幟を掲げたお店で販 売を始めた。 美味しさの五箇条を書いた黄色地に木目入 から「近江牛うどん」が新商品に決定された。 りの五角形のメッセージカード「近江牛うど また,新商品の販売店獲得のために,主な観 ん手形」を用意した。販売店舗には協議会と 光地域の飲食店を訪問して営業活動が続けら 「近江牛30グラム以上,県産卵の使用等の条 れてきた。 件を遵守する同意書」が交わされている。 新商品の創作では「味に厳しく,待つのが なお,お客様に安全で美味しい「近江牛う 苦手」の関西の食通を想定し,調理時間の短 どん」を食べていただくため,衛生面を考慮 縮,麺の太さや食感,県産の具材の選択にも したレシピが必要と考えられている。 検討会の様子 44 明日の食品産業 2009・7・8 (2)甲賀地域の特産米を使用,全国に先駆 けて「近江米粉めん」の開発 (農業法人(有)甲賀もち工房) 麺がプツプツ切れて商品化には程遠く,「米 粉」と「もち粉」の配合割合を変える等の試 行錯誤の結果,地元産のキヌヒカリ,滋賀羽 「甲賀・小佐治の長寿もち」を製造販売を 二重糯95%と米粉の割合を高め,5%は国産 されていたが,平成19年度食料産業クラス いもデンプンを使用した「近江米めん」が開 ター事業により「近江米めん」を商品開発さ 発された。 れた。 「近江米めん」は小麦粉を原料にしていな 甲賀地域は「3百万年前の昔は琵琶湖の湖 いため,小麦アレルギーの人でも安心して食 底だった」といわれている。湖底に堆積した べられる。また,もち粉をレシピに加えた新 粘土層は地元では「ズニン」と呼ばれ,青み 商品は全国で初めてであり,もちもちしたコ のある特殊な重粘土の水田は農作業に苦労を シがあり,お米風味がする新食感が特徴であ 強いられたが,「滋賀羽二重糯」の栽培には る。「近江米めん」は同法人の直売所や地元 相性がよく,甘みと粘りのあるこの地域特有 JAの施設で販売されているが,平成20年度 のもちが生産され「小佐治のもち」は有名で に開通した新名神高速道路サービスエリアで ある。 平成15年度から「滋賀県環境こだわ 販売している。 り認証制度」を受けて栽培が行われている。 今後は,「つなぎ」は「いもでんぷん」か 収穫された米はJAの「もち専用乾燥調製施 ら甲賀産自然薯に切り替え,全ての原料は甲 設」で火力を使わない脱水分離装置で自然乾 賀地域産にして,米パスタや米めんカレーな 燥され大切に冷蔵保管されている。 ど食べ方の提案や商品PRによりブランド商 小佐治地区は平成6年にもち加工の拠点施 設「甲賀もちふる里館」が建設され「もち工 品の定着を目指している。 (※:甲賀県事務所の資料を参考) 房運営委員会」により運営されてきたが,生 産体制の強化を図り企業センスを持った運営 に転換が必要と判断され,特例有限会社とし て平成18年4月に法人登記された。そして, 法人設立を契機に12月には新加工場を完成 され,新商品開発に着手された。 「米粉めん」は近年食の安全安心への関心 の高まりや地産地消による差別化を図るた め,原料は全て地元産に,特に品質で評価の 高い「滋賀羽二重糯」を使用する方法が検討 された。製造段階では自家製麺による商品化 を図るため,米粉製粉機と米麺対応型手打麺 機が導入された。 「近江米めん」の宣伝用チラシ 試作段階では「米めん」を商品化された岐 阜県米粉食品開発研究会や製麺機の製作者, 甲賀市,JA,県等の関係機関の支援により 試作品つくりが繰り返された。開発当初は, 明日の食品産業 2009・7・8 (3)「近江つけもの」の新たな需要を創出す る指針の策定 (漬物協同組合) 平成20年度は漬物協同組合において,新 45 たな需要を創出する指針の策定に取組み,昔 物が豊かで,大消費地に隣接し観光地には年 から栽培されてきた「近江伝統やさい」に注 間4千万人の観光客が訪れており,ご当地商 目し,各社の独自製法による商品のPR活動 品が提供できる立地条件に恵まれている。 を活発に行い,「近江つけもの」の認知度を 高めて販売促進を図ることにしている。 3.滋賀県らしい特色ある取り組みの課題 滋賀県は,日本海型気候と太平洋型気候に 別れ古くから琵琶湖,平坦地山間地には特産 滋賀県では平成20年度に「しがの農水産 物マーケティング戦略」が策定されている。 県産農水産物を用いた商品を,滋賀らしい新 商品開発の喚起や新たな需要を創出するた め,食品産業者と農水産業者等,異業種との 連携が益々重要になっている。 「しがの農水産物マーケティング戦略の策定」より引用 46 明日の食品産業 2009・7・8