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憲法上の人権と私人間の法律関係

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憲法上の人権と私人間の法律関係
、
憲法 上 の入権 と 私人間 の法律 関係
、
森
憲法上 の人権と私人間 の法律関係 二三九
次
公権 ﹂ と 考 え ら れ た。 例 え ば佐 々木 博 士 は ﹁臣 民 は 、
、国 家 に よ って み だ り に自 由 を 制限 せら れ な い権 利、 国 家 の 行 動 を 要
ド イ ツ公 法 学 か ら多 大 の影 響 を う け た 明 治 憲 法 時 代 の わ が学 界 に お い ても 、 町 治 憲 法 上 の臣 民 の権 利 は ﹁国 家 に対 す る
わ け で あ る。
に区 別す る 理 論 が確 立 され た 。 こ の場 合 、 憲 法 上 の人 権 は ﹁私 人 間 の法 律 関 係 ﹂ と は、 な ん ら直 接 的 な 関 連 を も ち 得 な い
法学 に お いて、 こ とさ ら に強 調 せら れ 、 憲 法 の保 障 す る 人権 を、 国 家 に対 す る ﹁公 権 ﹂ と し て、 これ を ﹁私 権 ﹂ か ら 明 確
生 命 ・自 由 ・財産 を例 示 し た のも 、 これ ら を ﹁政治 権 力﹂ に対 し て、 侵 害 す べ か ら ざ るも の どし て保 障 す る こと を 主 張 し
た の で あ る。 この よう に憲 法 上 の人 権 の規 定 が、 専 ら 国 家権 力 に向 け ら れ た も の であ る こと は、 帝 政 時 代 以 来 のド イ ツ公
権 の侵 害 を防 止す る こと む 目 的 と し て い る こ と は、 明 ら か であ る 。 そ も そ も ジ ョン ・ロ ック が初 め て具 体 的 な 人 権 と し て .
い わ ゆ る 近代 憲 法 は 、 基 本 的 人 権 を 保 障 す る 規定 をも つ のを 通 例 と す る が、 これ ら の規 定 が、 国 家 権 力 の濫 用 に よ る 入
① 拙稿 ・憲法上の基本的人権の保障と私人間の法律関係、ジ ュリスト別冊、法学教室五号 (
昭和三七年 = 月)
私 は別の機会 に、憲 法上 の人権の規定が、私人間 の法律関係に対して如何なる意味 をも つか、 という問題を考察したが、頁数の制限
のために詳しく述 べることができなか った。そこで本稿では、少し詳細 にこの問題 を掘り下げ てみたいと思う。
順:
﹂、
患法上の人権 と私人間の法律関係 ,
二四〇
剛
球 す る権 利 、 国 家 の意 思 の成 立 に 参加 す る権 利、、
の 三種 の公 権 を 有 す る L と いう趣 旨 を の べら れ 、 美 濃 部 博 士 も ﹁国 民 は
国 家 に対 し 義 務 の主 体 た る と 共 に 又 権 利 主体 た る地 位 を 有 す 。 国 民 の国 家 に対 す る義 務 を 国 民 の公 義 務 と 謂 ひ、 其国 家 に
対 す る権 利 を国 民 の公 権 と 謂 ふ。 ⋮ ⋮ 国民 の公 権 は 之 を 三種 に分 つ こと を 得。 自 由 権 、 受 益 権 及 参 政 権 是 な り﹂ と論 ぜら
④
れ 虎。
こ の 考え 方 は、 現 行 日 本 国 憲 法 の解 釈 にも う け つがれ た 。 例 え ば ﹁註 解 日 本 国憲 法﹂ は ・
・
﹁本 章 に掲 げ られ た 国 民 の権 利 は 、 私人 相 互 の間 で いか な る意 味 を も つこと に な る か に つい て は、 一般 的 には 、憲 法 上 の権 利 は、 国
・言論 集 会 の自 由 ・職 業 選択 の自 由 等 を制 限 す る よ う な契 約 を締 結 す る こと は可 能 であ る 。
﹂
家 に対 す る人 民 の権 利 と し て の性 質 を も つ から 、私 人 間 に お い て は、 当 然 に は妥 当 し な い。 従 って、 例 え ぱ私 人 相 互 の間 で信 教 の自 由
と 断 定 し、 ただ 、 これ に つけ 加 え て
﹁し か し、 憲 法 が 諸 々 の権 利 を 基本 的 人 権 と し て承 認 し た こと は 、 そ れ ら の権 利 が不 当 に侵 さ れ な い こと を以 て国 家 の公 の秩 序 を構
成 する こと を意 味 す る と考 えら れ る か ら、 何 等 の合 理 的 な理 由 なし に 不当 に、権 利 や自 由 を 侵 害 す る こと は、 い わ ゆ る公 序良 俗 違反
(
民法九〇条) の問題 を生 ず る こと が あり う る と考 え な く て はな ら ぬ ﹂
⑤
と記 し て い る。 これ は 今 日 でも 、 憲 法学 界 の通 説 とも いえ る。 そ し て判 例も 右 と同 様 の見 解 を 示 し て い る。 判 例 の代 表
的 なも のを いく つか 示 そ う 。
⑥
(1 ) 昭 和 二 六 年 四 月 四 旧 最 高 裁 大 法 廷 決 定
原 審 の認定 し た事 案 の概 要 は以 下 の如 く であ る。 甲 会 社 の従 業 員 A等 三名 は、 昭 和 二 四年 の末 、 日本 共 産 党 某 細胞 機関 紙 に、 甲 会 社
が人 員 配 置転 換 を行 う に あ たり 不当 不 正 な施 策 を行 った 旨 の風 評 を と らえ 、 確 た る根 拠 が な い にも 拘 らす 、 こ れ を真 実 であ る か のよ う
に掲 載 し て、 甲 会 社 の 他 の従 業 員 に 配付 し た コ 甲会 社 は、会 社 の信 用 を害 し 、 そ の業 務 の運 営 を妨 げ た行 為 を行 ったも のと し て、 職 員
懲 戒 規 程 に該 当 す る と 認 徒心 、 懲 戴解 雇 の処 分 をも た。 ︽等 轍、 右解 雇 は言 論出 版 の富 岳 を保 値 し た憲 法 第 一= 条 に違 反 し て無 効 であ
る と 主張 し た 。
最 高 裁 の決 定 は次 の通 り であ る 。
﹁憲 法 二 一条 所定 の言 論 、 出 版 そ の他 一切 の表 現 の自 由 は 、公 共 の福 祉 に反 し 得 な いも の であ る こ
と 憲 法 一二条 、 =二条 の規定 上 明 白 で あ る ば かり でな く、 自 己 の自 由 意 思 に基 づく 特 別 な 公 法関 係 上 又 は私 法 関 係上 の職 務 (
筆 著註一義
務 の誤植か、要旨 には義務と書かれて いる)によ って制限 を受 け る こ と のあ る の は、
已 む を得 ない と ころ であ る。 され は 、 原 決 定 が ﹃本 件
会 社従 業 員 であ る抗 告 人 等 の本 件 行 為 が相 手 方 会 社 の職 員 懲 戒規 程 に該 当 す る とき は 、 右 規 程 に基 づ く 相手 方 の処 分 を受 け る の 已 むを
昭 和 二 七年 二月 二 二日 最 高 裁 第 二小 法 廷 判決 ⑦
得 な い場 合 も あ る こと 当 然 であ る ﹄ と し て、 憲 法 一= 条 は 右規 程 の効 力 に 影響 を及 ぼす も のと 解釈 す るこ と は でき な い、 と 判 断 し た の
.
は 正当 であ る 。
﹂
(2 ) が ら、 校 内 で は政 治 活 動 をし ない こと を条 件 と し て、 これ を裁 縫 教 師 と し て雇 入れ た が 、同 人 は、 そ の後 、 共 産 党 の宣伝 を含 む ﹁愛 情
原審 の認 定 し た事 案 の概 要 は以 下 の如 く であ る 。 昭 和 二三年 五 月 、 財 団法 人 甲 女 子 商業 学 校 は、 A女 が共 産 党 員 であ る こと を知 り な
の問 題 ﹂ と い う本 を 同校 の生 徒 一名 に販 売 し 、 そ の他 の二名 にも 購 入 方 を すす めた 。 こ の こと を捉 え て甲学 校 は、 同 年十 一月 口 頭 でA
女 に対 し 、 共産 党 員 と し て政 治 活 動 を し た こと を 指摘 通 告 し 、 同年 十 二月 こ れ を解 雇 し た。 A 女 は ﹁校 内 で は政 治 活 動 を し な いと いう
の み では な く、 民 法 上 公序 良 俗 違 反 の不 法 条件 で あ る、従 って右 の条 件 は患 法 上 な ら び に民 法 上 無効 であ る ﹂ と主 張 し た。
本 件 雇 傭 契約 の条 件 は、 思 想 .集 会 .結 社 .言 論 など の自 由 を 保 障 し、 従 って当 然 に政 治 活 動 の自 由 を も予 想し てい る患 法 に 違 反 す る
最 高 裁 の判 決 は 次 の通 り であ る 。 ﹁憲 法 で保 障 さ れ た、 い わ ゆ る基 本 的 人権 も 絶 対 のも の で はな く、 自 己 の自 由 意 思 に基 く 特 別 な公
法 関 係 上 ま た は私 法 関係 上 の義 務 に よ って制 限 を受 け る も の であ る こと は当 裁 判 所 の 判 例 (
昭和二六年四月四日大法廷判決参 照) の趣 旨 に
徴 し て 明 ら か であ る 。 そし て以 上 の理 は 一定 の範 囲 にお い て政 治 活 動 を し な い こと を条 件 と し て 他人 に雇 わ れ た場 合 にも 異 なる と ころ
は な い 。 し か らば 上 告人 が自 己 の自 由 なる 意 思 に より 、 校内 に おい ては 政治 活 動 を し な い こと を条 件 と し て被 上 告 人 校 に雇 傭 され たも
の であ る 以上 、 右特 約 は有 効 で あ って、 こ れ をも って 所論 憲 法 ま た は 民法 上 の公序 良 俗 に違 反 し た無 効 のも の であ る と いう こと は で き
ない。
﹂
( 3 ) 昭 和 二 九 年 二 月 二 〇 日 大 阪 高 裁 民 事 第 五 部 判 決
、
二四 ︻
事案 は某 紡 績 工 場 に おけ る 共産 党 員 の解 雇事 件 であ る 。 判 決 理 由 の中 に、 次 のよ う な説 示 が あ る。 ﹁日本 国 憲 法 第 一〇 条 乃 至 第 四〇
患 法上 の人 権 と 私人 間 の法 律関 係
`
憲法上 の人権 と私人間 の法狸関係
二四二
条 に規 定 す る国 民 の自由 及 び権 甜 は Y 国 家 又 は 公共 団 体 に対 す るも のであ って、国 家 又 は公 共団 体 は国 民 に対 し 、 そ の自 由 及 び 権 利 を ・
立 法 そ の 他 の国 務 に関 す る行 為 に よ っても 、 不当 に制 限 抑 圧 し得 な い とす る趣 旨 で あ る こと 、 そ の沿 革並 び に解 釈 上 野 の な いと こ ろ で
あ るか ら個 人 相 互 の私 法関 係 にお け る意 思 表 示 又 は法 律 行 為 に つい ては 、憲 法 が直 接 関与 す るの で は なく し て、 憲 法 の 右各 条 を承 け る
によ り 、 そ の適 否 を御 せ らる べき も のと 解 す る ⋮⋮ ﹂。﹁控訴 人 両 名 の印刷 物 発 行 配布 が憲 法 第 二 一条 に 規 定 する 思 想 表 現 の自 由 であ っ
民 法 第 九〇 条 に所 謂 ﹁公 の秩 序 又 は善 良 の風 俗﹂ によ り 、 或 は違 憲 立 法 と せら れ な い法 律 即 ち 、`
労 資 間 に お い ては 労 働 基準 法 第 三 条等
て、 こ の自 由 に由 来 す る政 治 活 動 とし て基 本的 人 権 に属 す る とし ても 、が か る自 由 の行 使 も 権利 の濫 用 に 亘 り公 共 の福 祉 に反 し 得 な い '
のみ ならす 、 元 来 公 法 上 の特 別 権 力関 係 にお け る と同 じ く 、 私 法上 に お い ても 、自 己 の意 思 決 定 に 基き 、 労働 契 約 を 締結 し て特 定 の労
資 関 係 に 立 入 った 以 上 、 右 の自 由 は同 契 約 よ り 生ず る義 務 の 相当 な 限度 に従 い自 ら制 限 を受 け る こ とあ る は、 これ を 否定 し得 な い 。
﹂
⑨
(4 ) 昭 和 二 五 年 九 月 九 日 福 岡 地 裁 小 倉 支 部 判 決 ・
事 を理 由 とす る解 雇 が、 信 条 に依 る無 差別 平 等 、 思 想 、良 心 、 言論 、 出 版 、結 社 の自 由 等 を 保障 す る 前 記懇 法 の諸 規定 に違 反 す る の故
事 案 は某 新 聞 社 に お け る共 産 党 員 の解 雇 事件 で あ る。 判決 理 由 の中 に、 次 のよ う な説 示 が あ る。
﹁日本 共産 党 員 又 は其 の同 調 者 た る
を 以 て無 効 とな る か と言 う に、 是 等 憲 法 の条 項 は、 国 家 公共 団 体 が立 法 的 、行 政的 処 置 に 於 て馬 信 条 に よ って差別 取 扱 をし た り 、思 想 、
言 論 、出 版 、 結 社 の自 由 を制限 し得 な い こと を定 め た に 止 まり 、 憲 法 一四 条 も 私人 によ る 不平 等 な取 扱 に迄 及 ぶ も の で は なく 、 又第 一
九 条 、第 一= 条 等 も 私人 によ る自 由 権 の侵 害 を直 接規 律 せ ん とす る も の では な い。 故 に私 人 の法 律 行 為 が是 等 の規 定 に反 す る の故 を以
﹁て直 接 に之 によ って 無 効 と せら れ る の では なく 、 唯 そ れ が右 憲 法 の条 項 の精 神 に違 反 す る 場合 に於 ては、 民 法 第 九〇 条 に所 謂 公 の秩 序
善 良 の風 俗 に反 す るも のと せら る る結 果、 私 法 上も 無 効 と せ ら るる の であ る 。
﹂
以 上 の如 き 判 例 は 、 いず れ も 、 結 論 と し て は先 に の べた 学説 と 同 一の立 場 に立 つと いえ よ う。 こと に (3)およ び (4)
にあ げ た 下 級 審 の判 例 は ( 憲 法 の 規 定 が私 法 上 の法 律 関 係 に直 接 的 に効 力を 及ぼ さ な い こと を 明 言 し た点 、 忠 実 に学 説 に
従 って いる 。 これ に反 し 最 高 裁 判 所 の (1) およ び (2) の決 定 お よ び 判決 は、 そ の点 に触 れ る こと を 避 け て いる よ う で
あ る が、 憲 法 の保 障 す る 自 由 を 制 限 す る 私 法 上 の 義務 が有 効 であ る こと を 認 め る点 で は、 右 の学説 と 同 様 で あ る。
の
た だ、 近頃 の下 級 審 の判 例 で ﹁患 法 は国 民 各 自 に対 し、 政 治 活動 な いし は政 党 支 持 の自 由 を保 障 し て いる か ら、 組合 の決 議 映確 を以
てし ても 、 組 合 員 の政 治活 動 を 一般 的 に 禁 止 し、 ま た は制 限 す る こ と が でき な い こ とは い う ま でも な い 。
﹂ と 判示 し た も の が あ る。 こ
の判 決 は、被 申請 人 が㌻憲法 一九 条 ・二 一条 の 保障 は国 家権 力 に対 す るも の に過 ぎ な い旨 を主張 し たの を明 確 に 斥 け て いる と こ ろ が ら み
④ 美濃部達吉 .憲 法撮要 四版 一六八頁。
ると 、労 働 組合 対 組 合 員 の法 的 関 係 に も、.
憲 法 の規 定 す る 人権 が妥 当 す る と解 し てい る よう に見 受 け ら れ るが 、 も し そう だ と す れ ば、-
佐 々木惣 一・日本憲法要論 (
初版) 二 一三1二六〇頁。 先 に あ げ た諸 判 例 と異 る傾 向 を示 す も の と いえ る で あ ろう 。
② ロック、政治 二論第二論 文 一七 一章。 ③
最高裁民事 判例集 五巻五号 二 一四頁。 ⑦
⑤ 法 学協会 ・註解 日本国憲 法 。上巻 二九九頁。 ただし本文 に引用したところに続 いて ﹁また、本章所掲 の権利 の中 には、それ自体が私人間 のも のとし
ての性質 をも つも の (
例えば、使用者 に対す る関係 で成立する勤労者の権 利)があ ること に注意すべきである﹂とし て例外 の存することを認めて いる
長谷川正安 ・憲 法判例 の研究 二二二頁。 日本経営者団体連盟編 ・レッド ・パ!ジ の法理、 (
昭和二八年) 一四 一頁。 .
判 例時報 二八号 二六-七頁。
⑥
同上 六巻 二号 二五八頁。 ⑧
⑨
⑩ 山 口地裁、昭 和三七年 一月 一六日判決、 労働関係民事 裁判例集 =二巻 一号 = 頁。 なお組合員 の政治活動に ついては、石川吉右衛門 ﹁労働組合 の統
制力と組合員 の政治的自由﹂法学協会雑誌七六巻 一号参 照。
上 記 の よ う な学 説 ・判 例 の大 勢 と は 別 に、 学 者 の中 には 、 私 人 の行 為 によ る ﹁人 権 の侵 害﹂の現 象 に注 視 す る 人 が あ る 。
宮沢 教 授 が そ の代 表者 格 で あ る。 教 授 は 次 のよ う に主 張 さ れ る。
﹁人 権 宣 言 に 含 ま れる 規 定 は、・
⋮ ⋮ 国 家権 力 の人 権 への侵 害 を 禁止 す る こと を そ の狙 い と し てい る 。し たが って、 国 家 権 力 と関 係 の
な い 私 人 の行 動 は 、 原則 と し て、人 権 宣 言 の関 知 する と ころ で は ない。 たと え ば 、 あ る 熱 心 な キリ スト教 信 者 が 無神 論 者 を 無神 論 者 で
あ る こと を理 由 と し て、宮 分 の秘書 にや と う こ と を拒 否 す る こと は、.
も ち ろん 彼 の自 由 であ り、 そ れ は、 決 し て人 権 宣言 で禁 止 す る宗
教 に よ る 差別 待 遇 には当 ら な いだ ろ う。 ⋮⋮ ⋮ ⋮ し かし 国 家権 力 と関 係 の な い私 人 の行 為 によ って、 人 権 が 侵害 ざれ る と見 る べき 場合
も あ る 。 侵 害 さ れ る人権 の 主体 の立 場 か ら いえ は 、 国 家 権 力 に よ る侵 害 の場 合 だけ で なく 、 私 人 の行 為 に よ る侵 害 の場合 も、 め い わく
千 万 な こと が多 い。 そ の侵 害者 が 、国 家権 力 に準 ず る よ うな 大 き な勢 力 を現 実 の社 会 に お い ても って いる と き は、 と く に そ う であ る。
こ の こと は 、 いわ ゆ る ﹁
私 的政 府 ﹂ (
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葺) に つい て問 題 と な る。 た と え は、 個人 は無 神 論 者 を や とわ な い自 由 が あ る
二四三
とし ても 、 も し大 企 業 が こ ぞ って無 神論 者 を やと わ な い とき め た よ う な場合 を 仮定 す れ ば 、 無 神論 者 がそ れ によ ってそ の信 仰 の自 由 を
憲法上 の人権と私人間 の法律関係
、
憲法 上 の人 権 と私 人 間 の法 律関 係 ,
二四 四
拘 束 さ れ る程度 は、 国 家 権 力 に よる 場 合 と あ まり ち が わ な いだ ろ う。 金融 資 本 が 一致 し て、 あ る 人 種 に属 す る人 に対 す 惹信 用 の供与 を
拒 否 す る 乏 い う よ うな場 合 にも 、 同 じ こ とが い え よ う。 人 権 の保 障 を 実質 的 に完 全 にし ょ う と す れ ば、 ど うし ても 、人 権 を、 国 家権 力
によ る 侵 害 か ら だけ で な く、 こう い う私 人 の行 動 によ る侵 害 か らも 、 守 る 必 要が あ る。 これ は 疑 な い 。
L 、
宮 沢 教 授 は更 に、今 日 わが 国 で人権 擁護 局 な ど へも ち 込 ま れ る具 体 的事 件 には 、 私 人 の行 為 によ る人権 の侵 害 と 見 ら る べき も の が多
く 、 例 え ば部 落 的 差別 問 題 や 村 八 分 な ど はそ の例 であ って 、国 家 権 力 に よ る侵 害 と な らん で、 こ の種 の ﹁
隣 人 ﹂ に よ る侵 害 か らも 人 権
を 守 る べ き 必要 の あ る こと を強 調 さ れる が、 し か し ﹁た だ、 これ は技 術 的 に実 行 が む ず か し い﹂ ﹁キ リ スト 教信 者 が同 じ信 者 だ けを自
分 の使用 人 とし て 雇 う こと は 彼 の自 由 であ る と誰 でも 考 え る が、
一流 の大 会社 が 一致 し て キ リ スト 教徒 だけ を 雇 う こと は ど う か、 と い
同
う と 、 ど うも よ く な いと い う気 がす る 、 ど こ税 ち が い があ る か と な ると 問 題 はむ ず か し い・ ど 嘆 ぜ ら れ、 次 に述 べ る アメ リ カ の判 例 の
考 え方 が有 力 な参 考 にな ろ う、 と論 ぜ ら れ る。.
そ こ で、 先ず アメ リ カ の判 例 に つい て概 観 す る が、 そ の 先駆 とな った のは 、 ヘイ ル教 授 の 一九 三五 年 の論 文 ら し 恥
教 授 は そ の論 文 で、 州 裁 判 所 が 、 私 人 間 の 黒 人 排斥 の契 約 を 執 行 し た り 、 ま た は、 劇 場 所有 者 が黒 人 の入 場 を拒 否す る よ
う な、 私 人 によ る人 種 差 別 行 為 を 有 効 と 認 め る と き は、 州 は積 極 的 関 与 者 と な る の で あ って、 そ の故 に 懸 法 の禁 止規 定 の .
適 用 が あ る と主 張 し た 。 この学 説 は、 一九 四 八年 に いた って合 衆 国 最高 裁 判 所 の容 認 す る と ころ と なり 、 有 名 な シ ェリ対
、
ク レ マア事 件 の判 決 が 出 さ れ た。
(滑
①
ω
三 。牙 ①8 く
①冨 三) が締 結 され てい た と ころ 、 これ に 違反 し て シ エレ と いう 黒人 がそ の土 地 の 一部 を買 った の で、 制 限 協定 の当 事
そ の事 案 は、 相 隣 接す る 一定 の地 域 の所有 者 たち の間 で、 そ れ ら の土 地 を 黒 人 に対 し て売 却 も し く は賃 貸 し な い と いう 、 制限 協 定
者 の 一人 た るク レ マア が、 協 定 違反 を理 由 と し て、 シ エリ の所 有 権 を 否定 す る 判決 を求 め た の で あ る。 州 の第 一審 裁 判 所 は こ の請 求 を
棄 却 し た が、 州 最 高 裁判 所 は ク レ マア の主 張 を認 めた 。合 衆 国 最 高 裁判 所 は これ を破 棄 し 、 右 判 決 は私 的 協 定 の司 法 的 執 行 に よ って、
私 人 に対 し 、 人 種 的 差別 待 遇 を 強 制す る力 を与 え るも ので あり 、 憲法 修 正 第 一四条 の ﹁均等 な法 の保 護﹂ を否 定 す る違 憲 のも の だ と判
旨した。
右 の判 決 は ﹁憲 法 修 正第 一四 条 で禁 止 さ れ て いる のは、 国 家 ま た は公 共 団 体 の差 別 的 措 置 で あり 、 従 って単 な る私 的 行
、
、
為 は 、 そ れ が 差 別 的 で あ って も 、 第 一四 条 の 関 す る と こ ろ で は な い L と いう 、従 来 の 最 高 裁 の 伝 統 的 見 解 を 維 持 し な が ら 、
し か し 、 州 裁判 所 が こ の種 の制 限協 定 を 有 効 と し、 私 的 行 為 によ る 差 別 的 取 扱 を容 認 す る な ら ば、 それ によ って州 が第 一
四 条 を 侵 害 し た こ と にな る、 と す る の で あ る。 従 って こ の判 決 の見 地 によ れ ば、 制 限協 定 が私 入 間 で任 意 に実 現 せ ら れ て
い る 限 り で は 、 少 し も 修 正 第 一四 条 違 反 の 問 題 は 生 じ な い が 、 制 限 協 定 に つ い て 争 訟 が 生 じ て 州 裁 判 所 が こ れ を 有 効 と 判
決 す る と 、 そ の判 決 は違 憲 と な る 。 これ は ア メリ カ で は劃 期的 な判 例 と され る。
この 判例 のほ か に、
一九 四〇 年 代 に お い て私 的行 為 によ る 患法 上 の人権 の侵 害 を除 去 し よ うと 試 み て いる も の が いく つ かあ る。 そ の
の であ る 。 シ エリ対 ク レ マア事 件 の ﹁制 限協 定 ﹂ に し て も、 南 部 諸 州 で は、 始 め郡 や市 町 村 の条 例 によ って黒 人 の隔 離 を 実施 し て い た
殆 ん ど す べ ては 、 南 部 に お け る私 的行 為 によ る 黒人 の 差別 を 、合 衆 国 最 高 裁 判所 が必 死 に な って ﹁違 憲﹂ と し て阻 止 し よ う と し て いる
き州 の監 督権 を こと さ ら に行 使 し な い こ とに よ って、 憲法 の禁 止 す る 差別 待 遇 が 私 的行 為 によ って生 起 し て いる 場 合 や州 法 に よ って 一
よ U修 正 第 }四 条 の否 定 に ﹁積 極 的関 与 ﹂ を し た から 違 憲 で あ る、 と し た が、 こ のよ う な ﹁積 極的 関 与 ﹂ が なく ても 、当 然 行 使 し う べ
の であ る が 、 一九 一七年 に こ の種 の条 例 が違 憲 と せら れ る に い た った の で、 これ に代 わる も のとし て、.
私 人 間 の ﹁制限 協 定 ﹂ に よ って
黒人 隔 離 の 目的 を は たし てい た の であ った 。 そし て シ エリ対 ク レ マ ア事 件 の判 決 は 、 州 裁 判 所 が差 別 的 な制 限 協 定 を有 効 と し た こと に
判例 が あ る 。
定 の権 限 を 認 めら れ て い る私 的 団 体 が、 そ の権 限 の行 使 に あ た って黒 人 を差 別 す る 如 き場 合 も 、 同様 に修 正 第 一四 条 違反 と さ れ る等 の
こ の よ う な ア メ リ カ の 一群 の 判 例 が 、 か な り 大 胆 に ﹁私 的 行 為 ﹂ を 違 憲 と す る 傾 向 に あ る こ と に つ い て は 、 二 つ の 点 に
留 意す る 必要 があ る 。 第 一
.
は 、 そ れ ら の大 部 分 が、 アメ リ カ の人 権 思 想 の最 大 の弱 点 と 考 え ら れ る 黒 人 差別 問 題 に関 連 し
て い る こ と 、.
第 二 は 、 純 粋 な 私 人 の 行 為 が 問 題 と せ ら れ る の で は な く 、 州 の ﹁積 極 的 関 与 ﹂ と か 、 州 の ﹁監 督 権 不 行 使 ﹂
と か 、 州 の ﹁委 任 ﹂ と か い う よ う に 、 何 ら か の 意 味 で ﹁州 の 行 為 ﹂ に 関 連 づ け ら れ る こ と に よ っ て 、 遠 慮 と せ ら れ て い る
こ と で あ る 。 だ か ら 、 黒 人 差 別 問 題 以 外 で 、.し か も ﹁州 の 行 為 ﹂ に 何 ら の 関 連 も な い ﹁私 的 行 為 ﹂ に つ い て は 、 依 然 と し
憲法 上 のべハ権 と私 人 間 の法 律関 係 ,
二 四五
て 憲 法 違 反 の 問 題 は 生 じ な い と 見 て よ い。 例 え ば 、 ア メ リ カ で は 多 く の 私 的 団 体 が 、 風 俗 と 道 徳 を 維 持 し よ う と す る 目 的
懲法上の人権と私人間 の法律関係 二四六
で、 映 画 や 書 籍 に 対 し て 事 実 上 の検 閲 を行 う こ と が屡 々あ る 。 一九 五 六 年 に は、 全 国矯 風 会 と でも 訳 さ る べき カ ソリ ック
の映 画 検 閲 団 体 が ﹁ベ イ ビ ー ・ド ル﹂ と いう 映 画を 審 査 し て、 これ を 不 可 と宣 言 し たた め、 こ の映 画 の上 映計 画 が 多 く の
場 所 で 取消 さ れ 、 いく つか の新 聞 は こ の映 画 の広 告 を 拒 否 す る な ど の事 態 が生 じ、 映 画 製 作 者 や 上 映 業者 が多 大 の損 失 を
蒙 った 例 も あ る 。 この よ う な 場合 、 私 的 団 体 の検 閲 を 禁 止 す る こと は、 か え って人 々の良 心 と 言 論 の自 由 を侵 害す る。 あ
る 映 画 を 不 道 徳 的 で あ る と信 じ、 そ の信 念 を 述 べる こと は 、 ゲ ル ホ ン教 授 に よ れば ﹁保 障 さ れ る べき 憲 法 上 の 利益 の 目 盛
例 え ぱ 労 働 組 合 、 事 業者 団体 、 専 門 家協 会 な ど 一
に 対 し て、 個 人 の人 権 を守
り の上 で ほ と ん ど 最 高 位 に 位す る﹂ 自 由 、 であ る。 ヘイ ル教 授 が 言 った よう に、 私 的 統 制 か ら の自 由 は、 私 的 統制 を行 う
自 由 よ り も 、 必 ず し も重 要 な 自由 と は 言 え な い。
更 に ア メ リ カで は 、 会 員 組 織 の 団体 一
る こと が 重 大 な 問 題 と な り つ つあ る。 ゲ ルホ ンは、 ア メ リカ 医 師 協 会 を 例 に と り、 若 干 の南 部 の州 で は 郡 の医 師協 会 が黒
人 医 師 の入 会 を 認 め な いこ と を 明 ら か に し、 そ れ は 実 際 上 、 個 人 に対す る影 響 と いゲ 点 か ら み る と、 医 師 の免 許 の 取消 ま
た は 制 限 を 行 った も 同様 で あ る が、 ま だ上 訴手 続 によ って是 正さ れ る に 至 って いな いと し て いる ゆ
こ のよ う に ア メリ カ に お いても まだ 多 く の問 題 が の こ って いる。 ゲ ルホ ン教 授 も 、 こ の分 野 に は新 し い 事情 や必 要 が次
々と あ ら わ れ る か ら 、将 来、 経 験 を積 む こ と によ って完 成 し た型 が で き上 るま では 、 当 分 、 事 件 ご と に解 決 し てゆ く ほう
が賢 明 であ る 、 と 述 べ、 一般 的 理 論 の確 立 を 遠 い将 来 の課 題 とし てい る。 、
次 にド イ ツ に目を 転ず る と、 既 に 一言し たよ う に帝 政 時 代 以 来、 憲 法上 の国 民 の権 利 は 国 家 に 対す る 公権 で あ る と いう
定 説 があ った が 、 この定 説 が多 少 動揺 し始 めた のは 、 一九 一九 年 の ワ イ マ ール憲 法 の第 = 八 条 第 一項 や第 一五九 条 の解
釈 を めぐ って であ る 。
即ち第 一一八条第 一項 は、言論 ・出版 の自由を規定した後 に ﹁いかなる労働関係もしくは雇傭関係も この権利を紡ぐることを得す、
の全 体 的 な構 造 上、 一般 的 に は個 人 的 な自 由 範 囲 を、 単 に 公 的権 力 の侵 害 に対 し て のみ 、保 護 し よ う とす る も の で、 第 三者 (
私人達)
また こ の権 利 の行使 に対 し て何 人 も これ を阻 害 す る こと を 得 ずL と 附 言 し て いる が、 指 導 的学 者 の 一人 ア ンシ﹁
ユッツ は ﹁諸基 本 権 は そ
これ を 保障 す る 。・こ の自 由 を制 限 ま た は妨 害 し よ う とす る 約定 およ び 処 置 はす べ て違法 であ る 。
﹂ と 規 定 す る が、 ア ンシ ュ ッツは 、 こ .
ま た 第 一五 九条 は ﹁労 働条 件 およ び経 済 条 件 の維持 およ び 改 善 の た め の団結 の自 由 は、 何 人 に対 し ても 、 ま た いか な る職 業 に 対 し ても
承 認 し な がら 、 し かし 右 の附 言 の部 分 は、 私 法 上 の労 働 関 係 や雇 傭 関 係 に 関連 す る 限 り、 こ の原則 に対 す る注 目 す べ き例 外 だ とし た 。
(
︼
)﹃旦臼 (勺牙 馨需 ﹁
8ロ①コ)) の権 限 なき 行 為 に対 し て保 護 し よ う と す るも ので は な い﹂ と し て、
いわ ゆ る第 三 者 効力 を否 定 す る 原則 を
れも ﹁公的 権 力 に対 し ての み なら す 、 社会 的 諸 権 力 、従 って私 人 に対 し ても有 効 であ り 、 それ 故 に私 人 が こ れ を、 否 定 し ても 違 法 と な
る﹂ と説 いた 。 し かし 、.
ア ンシ ュ ッツに お い ては 、 これ ら は いす れも 例 外 的 なも のと し て認 め ら れ た にす ぎ な い。
し か る に 第 二 次 大 戦 後 の 西 独 で は 、 若 干 の 学 者 は 、 憲 法 上 の 基 本 権 の ﹁第 三 老 効 力 ﹂を 強 く 主 張 し て い る 。 例 え ば ナ ヴ
イ ア ス キ ー は ﹁個 々 の 個 人 は 、 国 家 と い う 形 態 を と る 共 同 体 の 権 力 に 対 し て の み で は な く 、 利 益 社 会 的 形 態 を と る 各 種 の
経済 的 な 権 力 に対 し ても 対 立 し て いる か ら、 こ の種 の経 済 的 な 権 力 の側 か ら の権 力 濫用 に対 し ても 個 人 を 保護 す る こと は
国 家 の 憲 法 に 対 す る 厳 粛 な 要 請 で あ る ﹂ と 述 べ 、 フ ー バ ー も ﹁保 障 せ ら れ た 自 由 範 囲 お よ び 活 動 範 囲 が 、 国 家 権 力 に 対 し
就 中 組 織 化 さ れ た 利益 社 会的 団 体 に対 し ても
侵 す べか ら ざ るも の であ る と いう こ とは 、 現 代 の 社 会 的 ・経 済 的 憲 法 体 系 の定 め る 制 度 的保 障 の特 徴 であ る 。﹂ と 述
て の み で はな く 、 社 会 的 お よ び 経 済 的 な 権 力 的 地 位 の保 持 者 に対 し ても 1
一
べ て い る。 いず れ も 憲 法 上 の人 権 の保 障 が、 国 家 以 外 の私 人 、.ご と に社 会 的 ・経 済 的 な 権 力 を も つ私 的 団 体 に対 し ても 、
いわ ゆ る ﹁第 三 者 効 力 ﹂ を 認 め ら る べ き も の と 主 張す る も の で、 ア メ リ カ にお け る ﹁私 的 政 府 ﹂ に対 す る人 権 の保 障 と 類
似 す る 考 え 方 であ る と い え る が、 そ の 理論 構 成 に つ い ては 、 な お 西 独 の学 界 で疑 問 視す るも の が少 く な いよ う であ り 、 マ
芝ゴ ル トH ク ライ ンの如 き は ﹁基 本 権 の第 三者 効力 を 是 認 す る主 張 の基 礎 と な る べ ぎ概 念 的 な前 提 の理 論 的 解 明 の試 み は
いか な る 論 文 の中 に も 示 さ れ て い な い﹂ と き め つけ て い る。 そ れ は 、 憲 法 上 の人 権 を 公 権 と す る 伝 統 的立 場 に立 つ限 り 、
容 易 に 私 人 に 対 す る 効 力 を 認 め 得 な い こ と を示 す も の であ る 。 そ し て マ ンゴ ル ト ーー ク ラ イ ン自 身 は ﹁私 法 的 法律 関 係 の内
憲法上 の人権と私人間 の法律 関係 ・
二四七
患法上の人権 と私人間の法律関簾 ﹂
.二四八
部 にお い て は、 いか な る 公権 も 存 立 し 得 な いL か ら ﹁公権 と し ℃ の基 本 権 の第 三 者 効 力 は 結局 否定 され ざ るを 得 な い﹂ と
し 、 し か し ﹁基 本 権 の規 定 の中 の 制 度 的保 障 お よび 原則 規 範 (匡邑 9εコσ
q
ω
σ
q
器 コユ窪 目民 O老鼠留§ 。§ 2) は 、 あ る 種 の第 三
老 効 力 をも つ、 即 ち そ れ ら に 違 反 す るす べ て の 下位 の法 規 範 を 無 効 な ら し め る こと に よ り、 憲 法 上 の権 利 保 障 を 、 憲 法 外
に ま で 拡 張 す る ﹂ と 考 え て い る。
⑱
同 上 二六 二頁。
力雲
一 (一り零 ) ψ 2 い に拠 った。
基
(壽 頓)
諸 社 会 的 結 合体 に お い.
て の人 間 の不 可 侵 の権 利 を 認 め 、 か つ保 障す る 云 々﹂ と規 定 し て いる が 、 黒 田覚 教 授 は こ の 規 定 を
な お 立 法 例 と し て は 一九 四 七年 の イ タ リ ア憲 法 第 二条 が ﹁共 和 国 は 個 人 と し て の、 また 彼 の人 格 が 発 展 す る 場 と し ての
ω頓 o。冨 ∋露9 ピ筆
も って ﹁国 家権 ヵ の み で なく 、 一切 の社 会 関 係 にお け る侵 害 か ら 個 人 の自 由 を保 障す るも の﹂ と さ れ て い 紮
即 じ 匿巴①・閃。﹁8 雪 隻 冨 。。け
如8 "> o§ 冨 昔 8 。ハ .、
勺。浸 旦 .
.碧 α .
、
国8 8 轟 。..9 暑 ¢巨 ε
宮 沢 俊義 ・憲 法 皿.
.(法律 学全 集 ) 一 一四一 八 頁 。
同 上 二 五 一頁 。 . ⑰
同 上 二 五四 頁 それ ら の 判 例 に つ い て は ウ ォ ル タ ー ・ゲ ル ホ ン著 早 川 武 夫 ・山 田 幸男 訳 ・基 本 的 人 権 、 二三 四 頁 以 下参 購。
⑯
P >⊆hド 切9
@ 黒 田 覚 .基 本 的 人権 保 障規 定 、 ジ ュリ スト 一五 四号 。・
さ れ る 場 合 に の み、 違 憲 の国 家 行 為 と さ る べ き で、 裁 判 所 の関 与 が単 に消 極 的 な 支 持 に す ぎ な いと き に は 憲 法 違 反 の 問 題
の関 心 を 示 ざ れ た が、 鵜飼 信 成 、 佐 藤 功 両 教 授 は 、 一歩 進 ん で、 こ の判 例 の趣 旨 を 、 わ が 憲 法 第 一四 条 の解 釈 の中 に と り
ゆ
入 れ る こ とを 、
王張 され る。 し かし 伊 藤 正 己教 授 は 、 これ に 反対 し、 不合 理 な 私 的 差 別 が積 極 的 に裁 判 所 の力 を か り て実 現
先 にも 記 し た よ う に、 宮 沢教 授 は、 シ エリ対 ク レ マア事 件 の判 例 に 対 し で ﹁わ が国 にも 参 考 にな る だ ろ う ﹂ と いう 程 度
さ て以 上 のよ う な 外 国 の 状 況 に 対 し て わ が 国 の学 界 はど う であ ろ う か 。
僧 P ρ ω・①切h・
以 上 の如 き 西独 の学 界 の概 要 は 属 μコ駆qo国侍巨 峯 皿ジ ∪器 切o弓 ①﹃ O﹁ニロ島
σq①器 質
わ が憲 法 の解 釈 上 も 同 様 の問 題 が あ る こと は本 稿 註 ⑤ 参 照 。
ゲ ル ホ ン .上 掲 二 四 八頁 。 檜 山 武 夫 ・ア メ リ カ憲 法 と 基 本 的 人 権 、 七 四 二頁 。
⑳ ⑳ ⑲⑮ ⑭ ⑬ ⑫ ⑪
9
は起 ら な い と主 張 さ れ る。 伊 藤 教 授 に よ れ ば 、 こ のよ う な 限 界 を 付 さ な いで 、 広 く シ エリ対 ク レ マア事 件判 決 の法 理 が成
'立 す る とす れ ば 、す べ て の私 人 間 の法 律 関 係 は ひ と たび 裁 判 所 の判 断 を 通 過 す る こと に よ って公 法 関 係 に転 化し 、 憲 法 規
の
範 の審 査 に服 す る こ と にな って、 私 法 に 革 命 を も た らす で あ ろ う と いう 。
橋 本 公 亘 教 授 は シ エリ対 ク レ マア事 件 の判 決 に はω 基 本 権 の規 定 は 国 家 のみ を 拘 束 し、 私 入 間 には 及 ば な いこ と を 承 認
しな が ら 、 一度 裁判 所 の判 決 が あ る と、. 一転 し て そ の判 決 が憲 法 違 反 にな る と いう 矛 盾 が あり 、 ② も し これ を認 め れ ば 、
憲 法 上 の自由 を 制限 す る 私 人 間 の 契 約 は 、 裁 判 所 が こ れを 判 決 で是 認 す ると 、 た ち ま ち憲 法 違 反 にな る と い う 不 合 理 が あ
る 、 と し てこ れ をわ が憲 法 の解 釈 にと り 入 れ る こ とを 拒 否 し、 更 に、 伊 藤 教 授 の ﹁積 極 的 な関 与 ﹂ と ﹁消 極 的 な 支 持 ﹂ の
区 別 も曖 昧 さを ま ぬ がれ な い と 批 判 さ れ る。 そ し て橋 本 教 授 は前 述 の マ ンゴ ル ト ーー ク ライ ンの影 響 の下 に、 基 本 権 が 直 接
私 人 間 に 妥 当す る こ とを 否 定 し 、 た だ 基 本 権 の規 定 のう ち の制 度 的 保 障 お よ び 原 則 規 範 の 効力 が私 人臨 にも 及 ぶ こと を 認
き
め て 以 下 のよ う に 主 張さ れ る 。
る と とも に 、 他方 にお い て、 憲 法 以外 の法 分 野 に お い ても奴 隷的 拘 束 や 苦役 を許 さな い と い う原則 規 範 を 定 め たも ので あ る。 私 人 間 に
﹁例 えば 、 憲法 第 一
八 条 は、 一方 に お い て、 奴 隷 的 拘 束 や苦 役 に 服 し な い自 由 を 国 民 の基 本権 (
消極的 公権)とし て保障 する も ので あ
お け る奴 隷 的拘 束 を内容 と する 契 約 は、 民 法 第 九〇 条 によ り 無 効 であ る が、 仮 に民 法 第九 〇 条 の よ うな 規 定 が存 在 し な い場 合 にお い て
も、 憲 法 第 一八 条 の原則 規 範 によ り、 直 接 無 効 と な ると 考 え る 。す な わ ち、 かよ う な 場合 に基本 権 規 定 が 、 直接 私 人 間 の関 係 に効 力 を
及 ぼす ので あ る 。
﹂
更 に こ の問 題 に つ いて 広 く学 説 ・判 例 を 検 討 さ れ た 円 藤 真 一教 授 は 、 結 局 、 憲 法 の 保障 す る基 本 権 は 国 家 権 力 に対す る
自 由 の保 障 であ って、 私 人 相 互 間 に 直接 適用 の あ るも のと は解 し 得 な い、 と いう 結 論 を出 され て い る。 従 って同教 授 に よ
れ ば 、 例 え ば 人 身 売 買 、監 獄部 屋、 娼 妓 など を、 憲 法 第 一八条 の ﹁奴 隷 的 拘 束 ﹂ や ﹁そ の 意 に 反す る苦 役 ﹂ の例 と し て示
﹂
二四九 ,
す こと は 不 当 で あ って、 そ れ ら は民 法 九 〇 条 、 刑 法 、 汰 身 保 護 法 な ど の澗 題 な の で あ り、 憲 法 第 一八条 を 私 人 相 互 澗 に 適
癒鞍上の人権と私人澗 の法律閥係 〆
慰法上の人瓶と私人間の法徹開帳 ・
.
二五〇
用 す る が た め には ・ か く の 如 き 特別 の立 法 を 必 要 と す る ので あ る⑭﹁・れ は・ 従 来 の伝 統 的 立 場 に ほ か な ら な い。 呈
のよ
う に、 こ の問 題 に つ いて は 、 わ が学 界 でも 学 説 が 岐 れ て いる 状 態 で あ る が. お お よ そ 、次 の よう に 言え る の で はな いか と
思う 。
(1) 先 ず 、 シ エリ対 ク レ マア事 件 の判 決 に つい て の前 述 橋 本 教 授 の指 摘 は 、 お そ ら く 正 し い であ ろう 。 こ の判 決 の
法 理 を 広 く認 め る と、 あら ゆ る私 法 事 件 に つ い て の裁 判 判 決 が、 あ た かも 触 れ る物 す ぺ てを 黄 金 に か え た ミダ ス王 の如 き
働 き を し て、 私 法 関 係 を 公 法関 係 化す る こ と にな ろう 。
(2 ) 橋 本 教 授 の制 度 的 保 障 お よび 原則 規 範 に関 す る 主 張 は 、 そ の概 念 規 定 が発 祥 地 たる ド イ ツに お い てさ え 未 だ 不
充 分 であ り 、 ま た 憲 法 の基 本 権 規 定 の ゲ ち の どれ がそ れ に当 るか に つ い ても 問 題 が あ る が、 今 後 、 お そ ら く 最 も 注 目 せら
れ る理 論 とな る であ ろ う 。
至 ・た 歴 史 的 由 溶
も 合 致 す る が・ わ が憲 法 でも 現 に第 二八 条 の如 き 例 外も あ 鴇
更 に前 述 の イ ・ ・ ア
(3 ) 憲 法 の保 障 す る 人 権 は 国 家 権 力 の み に対 す るも のだ と いう 円 藤 教 授 の主 張 は、 論理 的 に 一番 明 快 であ り 、 人 権
保 障 の成 立 す 乏
憲 法第 二条 の如 き規 定 も あら わ れ て いる 今 日 、 多 少 考 え 直 す 必 要 が あ る の では な か ろ う か 。 特 に重 視す べ き は 世 界 人 権宣
言 の存 在 で あ る。 世 界 人 権 宣 言 にお ゼ て普 遍 的 に認 め ら れ た 人 権 は、 も とよ り 単 に国 家 権 力 だ け に 対す る も ので は な く、
私 人 そ の他 あ ら ゆ る社 会 釣 力 に対 し て主 張 せら る べ き も ので あ る。 そ し て、 か か る人 権 は 、.
わ が 憲 法 の 場 合、 ま さ に、㌔憲 .
法 の保 降す る 人 権 と殆 んど 同 一であ る 。 そ こ で、 我 々が ﹁人 権 ﹂ と い う 場 合 に、 憲 法 上保 障 さ れ て いる 人 権 を 意 味 す る 場
合 と、 一般 的 な 人 権 を 意 味 す る 場 合 と が あ るわ け であ る が 、 そ の炭 体 は 一つだ と いゲ こ と にな る。 伝 統 的 立 場 で は、 こ の
.う ち の 一般 的 な 人 権 は、 憲 法 と 直 接的 な か か わ り を も た ず 、 従 って、 そ れ が 侵 害 さ れ ても 憲 法 違 反 の問 題 は起 ら ず 、.
単に
刑 法 ・民 法 な ど の問 題 が 起 る だ け で あ る とす る。 これ は 理 論 的 に筋 が 通 ってい る が、 し か し そ の反 面 、 若 し実 体 が同 一だ
と すれ ば 、 憲法 の強 い保 障 を 私 人 間 の法 律 関 係 にも 及 ぼ す ほう がよ いで は な いか とも 言 え る。 こ の考 え方 は ﹁宴 の あ と﹂
の サ
事 件 に つ いて の有 田 八 郎 氏 の 訴 訟 代 理 人森 長 ・宮 崎 両 氏 の訴 状 に次 のよ う に 現 わ れ て いる。
﹃憲法第十三条 は ﹁すべて国民は、 個人として尊重され﹂ ﹁自由及び幸福追求に対 する国民の権利﹂を保障している。 この保障 は、
直接には、国家の国民に対する保障であるけれども、 同時に私人澗 においても、他人の自由 および幸福追求の権利は侵す こと を許さな
いとするも のである。
.この自由および幸福追求の権利 の 一つとして、すべて国民は ﹁一人 でいる権利﹂すなわちそ の私的生活 が、その
意に反して不当に公表 されたり、 のぞき見 されたりす ることから保護 される権利 (
プライバシーの権利)をも っている。 この他人 の権利
を侵害する者は民法第七〇九条、 第七 一〇条 の責任を負わねばならない。﹄
ま た 中 川 善 之 助教 授 も 、 ア メ リ カ の例 を説 明 し た あ と で、 憲 法 の文 字 の中 か ら 、 プ ライ バ シ ーの権 利 の根 拠 を 探 し 出 そ
う とす れ ば 、 日 本 でも ﹁幸 福 追 求 の権 利 ﹂ にな る のか も 知 れ な い、 と いう よう に述 べら れ て いる。
(4) し か し わ が憲 法 上 の 個 々 の人 権 は 、 第 二 八 条 の如 き 例 外 を 除 ぎ、 やは り国 家 に対 す る 公 権 と 考え られ る べ ぎ で
あ るか ら 、 そ れ が 直 接 に私 入 間 の関 係 にも 適 用 さ れ る と す る の は 不当 で あ ろう 。 そ こ で憲 法 の規 定 中 で、 個 々の 人権 を 定
め た規 定 以 外 のも のが 注 目 さ れ る。 そ れ が原 則 規 範 と 制 度 的 保 障 で あ る 。具 体的 に憲 法 のど の規 定 が これ に当 る か は、 更
に検 討 を 要 す る が、 例 え ば、 個 々 の人 権 の成 立 す る 根 拠 と認 め ら れ る第 二 二条 の ﹁個 人 の尊 厳 ﹂ と 第 一四 条 の ﹁法 の下 の
平 等﹂ を 原 則 規 範 と し て 例示 す る こ と が でき るだ ろ う 。 これ ら の規 定 が 直 接 に 私 人 にも 効 力を 及ぼ す と す れ ば 、 例 え ば、
これら に反 す る 私 人 間 の 契約 は、 憲 法 に違 反す る と し て無 効 とさ れ よ う 。.
ま た 、 私 人 の 一定 の事 実 上 の行 為 、 例 え ば 特 定
の 人 の私 生 活 に つ いて の噂 を ま き ち ら す行 為 の如 き は憲 法第 一三 条 違 反 と し て 、 これ を 制 止す る こ とも でき よう 。 こ の場
合 、憲 法 違 反が 直 ち に ﹁処 罰 ﹂ の対 象 と は な ら な い こ と は、 罪 刑 法 定 主 義 の結 果 当 然 で あ る が、 人 権 擁 護 局 の如 き 行 政 機
関 が勧 告 な ど の行 政 的 措 置 で これ を 制 止す る こ と は、 入 権を 尊 重 す べき 国 家 の責 務 であ る と も 言 え よ う 。
(5) 七か し右 のよ う な 考 え 方 は 人 権 擁護 の た め に 有用 で あ ろう けれ ど も 、 別 の面 で 根 本 的 な 問 題 を は ら む か ら、 無
惣法上 の人権 と私人間の法難関係 二五 ⋮
憲法上 の人権と私人間 の法律関係 `
二五 二
条 件 に は是 認 で きな い。 そ れ は 、 実 質 的 な 立 法 権 を 国 会 に専 属 せし め で いる 現 代 国 家 に お い て、 裁 判 所 や行 政 機 関 が ﹁法
律 ﹂ に よ ら ず し て 直 接 に ﹁憲 法 ﹂ を 個 々 の具 体 的 な 事案 に 適用 す る こ と が許 さ れ る か ど う か、 と いう 問 題 であ る 。 そ こで
は ﹁法律 に よ る 司法 と行 政 ﹂ の原 則 は 、 あ る 程 度 侵 さ れ、 別 の 意味 で ﹁自 由 の侵 害 ﹂ が起 る お それ が充 分 あ る 。 例 え ば 上
述 の如 き プ ラ イ バ シ ーの権 利 と いう 、 あ ま り 概 念 的 にも 明 確 で な い権利 を憲 法上 の ﹁幸 福 追 求 の権 利﹂ の 一種 と し て裁 判
所 や 行 政 機 関 が か な り広 い裁 量権 を 以 て保 護 す る こと に よ り、 逆 に憲 法 上 の言 論 や 出 版 の自由 が ほ し いま ま に制 限 さ れ る
危 険 が あ る 。 こ の点 は よ ほ ど慎 重 に考 えね ば な ら な い。
(6) 要 す る に 私 は、 私 人相 互間 で人 権 が 守 ら れ る 必 要 を認 め、、こ の目 的 のた め に は憲 法 の人 権 保 障 の規 定 のあ る 種
のも のが 直 接 に 私 人 間 にも 効 力 を 及ぼ す と 考 え る の が 適当 で あ る と思 う が、 そ れ には重 大 な弊 害 も 予 測 さ れ る の で、 裁 判
制 度 や 行 政 機 構 な ど の具 体 的 な状 況を も 考 慮 に入 れ て慎重 に 考 え ねば な ら ぬ と思 う 。 そ れ は、 私 人相 互 間 にお け る 人 権 の
侵 害 の問 題 は 一私 人 の自 由 と他 の私 人 の自 由 と の衝突 と い う最 も 困 難 な 問 題 を 内 包 し て いる か ら で あ る。 そ し て こ の点 か
ら 言 え ば 、 た と え 憲 法 の規 定 の あ る種 のも のが 直 接 に 私 人 間 の法 律 関 係 に及 ぶ と いう 理 論 を 確 立 し た と し ても 、 そ れ は 常
に及 ぶ と いう わ け で は なく 、 具 体 的 場 合 に応 じ ケ ー ス ・バ イ ・ケ ー ス で解 決 せ ざ る を 得な い であ ろ う 。 そ れ を 示 す た め に
ゆ こ の問 題 に 学 識 の深 い ゲ ルホ ン教 授 が わ が 国 の憲 法 を 素 材 に し て 設 定 し て い る 一、 二 の例 を 紹 介 し よう 。
の長 の熱 心 な支 持 者 であ って、 も し 解 職 賛 成署 名 を す る なら ば 解 雇 す ると 、 店員 に告 げ た とし よ う 。 そし てそ れ に も拘 ら す店 員 の 一人
(A) 或 る自 治体 の長 に つ い て解 職 請求 の署 名 運 動 が行 わ れ て い る場 合 に 、 三 名 の店 員 を雇 用 し て いる 或 る自 転 車 店 の 主人 が、 そ
が 署 名 をし 、 そ のた め に直 ち に解 雇 さ れた と し よう 。 そ の店 員 は復 職 を求 め て出 訴 し 、 こ の解 雇 は 憲法 一六 条 の ﹁何 人 も ⋮ ⋮公 務 員 の
罷 免 に関 し 、平 穏 に請 願 す る 権 利 を有 心 ⋮⋮ 何人 も か か る請 願 を し た ため にい か な る差 別 待 遇も う け な い﹂ お よ び 同 一九 条 ﹁思 想 およ
び良 心 の自 由 は 侵 し て は なら な い﹂ に 違 反 し、 無 効 で あ る、 と 主張 し た場合 、裁 判 所 は ど う判 断 す べき か。 こ の設 例 に 対 す るゲ ルホ ン
教 授 の 回答 は、 事 柄 の重 大 性 が裁 判 所 の介 入 を正 当 化す るか 否 か で結 論 が 異 る と い うの で あ る。 即 ち ﹁こ の場合 唯 一人 の店員 が解 雇 さ
れた と い う の であ れば 、 そ の店員 は 他に 職 を 求 め うる こ と でも あ る か ら、 裁 判 所 は、 介 入 す べ きほ ど重 大 な こと と はみ な さ な い であ ろ
う、 右 の店 主 が 異 なる 政治 的 信 念 を も つ店 員 と 一緒 に幸 福 に働 けな いと 思 った にす ぎ な いな ら ば、店 主 に 一緒 に 働く こと を強 制す る こ
とに よ って、 なん の 公益 も 守 られ は し な いし 、 そし て実 際店 主 に対 す る か かる 強 制 は、 か れ の思 想 お よ び表 現 の自 由 の侵 害 と な るか も
知 れ な い だ ろう 、し かし 、 店 主 た ち が 一致 し て か れら の店 員 た ち の政治 的 独 立 を 侵害 し よ う と組 織 を作 って こ の種 の こと を 為 し たと い
う事 実 が 認 定 ざれ る な らば 、 た だ ︼人 の店 員 が解 雇 無効 の訴 を 提起 し た 場合 でも 、 裁判 所 は 解 雇 無効 を 宣言 す る で あ ろ う 。
L と い う の
であ る 。
.
望者 に 、 そ の家 系図 とで も い う べき も の の提 出 を 要求 し た と し よ う。 私 的 に定 めら れ た こ の方針 は、 憲法 一四 条 に 示 さ れる 願 望 を蹂 躪
(B) 財 界 の す べ て の大金 融 会 社 が 一定 の素 性 の者 が財 界 に地 位 を占 め な い よう にす る こと を目 的 と し た らし く 、 す べて の就職 希
す る も の であ ろう が、 も し、 そ れ が適 当 な訴 訟 に お い て争 わ れ る なら ば 、裁 判 所 は ど う判 断 す る か。 この設 例 に対 す る ゲ ルホ ン教 授 の
は この 私的 方 針 の 排除 を要 求す る こと な ど を自 信 を も って述 べう る だ ろう ﹂ と いう の で ある 。
回答は、
﹁裁 判 所 は この 私的 方 針 と 懇法 と の衝 突 が 明白 に存 す る こと 、 この私 的 方 針 が特 別 の理由 によ って 正当 化 され な い限 り、 公 益
右 の 二 つ の設 例 に つい て のゲ ル ホ ン教 授 の 回 答 は、 憲 法 の規 定 が私 人 間 の法 律 関 係 にも 及 ぶと いう 前 提 の下 に、 強 力 な
私的 組 織 を 通 じ て の ﹁自 由 ﹂ の圧 迫 は 断 呼 と し て 排 除 せ ら れ ねば なら な い と いヶ 考 え 方 で貫 かれ て い る。 いわ ゆ る ﹁私 的 .
政 府 ﹂ に よ る 入 権 の侵 害 の排 除 であ る。 従 ってか か る組 織 を 背景 とし な い限 り 、
(A) の例 に見 ら れ るよ う に、 店 主 の行
為 が 憲 法 第 一六 条 や 、第 一九 条 に違 反す るよ ヶ に 見 え て虹 、 そ れ は放 任 せ られ るσ.
そ こ では寧 ろ 店 主 の自 由 が 強 調 せら れ
る。 この よ う な ゲ ルホ ン教 授 の回 答 か ら み れ ば 、 例 え ば 憲 法策 一三条 や第 一四 条 が 私 人 間 の法 律 関 係 にも 妥 当 す る 、と い
う よ う な 見 地 に立 つと し ても 、 そ れ は場 合 によ る わ け で、 必 らず しも 常 に妥 当 す る と 解 せ ら れ るわ け で はな い。 ゲ ル ホ ン
教授 も こ のよ う な 解 答 に対 し て ﹁裁 判 判 決 を 指 導 す る た め の 明快 な 理 論 を 提 供 し な い﹂ と いう 批 判 が あ る こと を 予 想 し な
.
が ら、 当 分 は ケ ー ス ・バ イ ・ケ ー ス で解 決 し て行 く ほ か は な い と 主張 す る。 我 々は 、 一応 ゲ ル ホ ン教 授 の こ の結論 を 承 認
せざ る を 得 な いの で あ る。,
.
..
憲法上 の人権と私人間 の法律関係 、
二王三
憲法上 の人権と私人間 の法律関係
'
⑳ 鵜 飼信成 ・憲 法 (
弘 文堂) 六九頁。佐藤功 ・憲法 ・一一九 頁。
⑳ 伊藤 正己 ・法 の下の平等、公法研究 一八号 二八頁。
⑭ 橋本公亘 ・憲 法原論 一六七頁。
⑳ 同上 ・一七五頁。
⑳ 円藤真 一・私人間 における基本権 の保障、民事研修 一〇号。
法律時報三三巻五号 ﹁宴 のあと﹂事件訴状による。
⑱ 註⑤参 照。
⑲
二五四
P
9
⑳ 中川善之助 ﹁
私生活 の裏側﹂法律時報 三三巻 五号。
⑳ 橋本教授 は原則規範として 一二 ・コ二条 のほか 一七 ・二四 ・二九各条を、また制度的保 障として二 一条 二項、二四 .二九各条を挙げられる (橋本 。
上掲 一六四頁以下)
。 なお制度的保障 については、宮沢 俊義 ・上掲 一〇 四頁がわが憲法 についてもこ の概念 を導 入することを提唱される。
⑭ ゲルホン ・上掲 二六〇頁以下。
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