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サウジアラビア:アブドラ皇太子が新国王に即位、石油政策に変更なし

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サウジアラビア:アブドラ皇太子が新国王に即位、石油政策に変更なし
<更新日:2005/8/8>
<石油・天然ガス調査グループ:猪原 渉>
サウジアラビア:アブドラ皇太子が新国王に即位、石油政策に変更なし
(IOD、Platts、Gulf States Newsletter 他)
1. ファハド国王の死去に伴い、アブドラ皇太子が新国王に即位し、スルタン第2副首相が皇太子
に就いたが、これは90年代からの既定路線であり、今回はきわめてスムーズな権力継承が行
われた。当面、政権の安定性は確保される見込み。
2. 今後の注目点①(王位継承問題)
• 新国王は、ファハド国王が倒れた95年以降、政務全般を取り仕切り、事実上の最高権力
者の地位にあったことから、今回の王位継承によって、石油政策含め内政・外交に大きな
変化は生じない見通し。
• 王位継承に関する今後の注目点は、アブドラ、スルタンとも高齢であり、スルタンの次(ナ
ンバー3)に誰がなるのかという点。皇太子へのステップと考えられる第2副首相のポス
トがどうなるかに注目。
• ナンバー3候補としては、第二世代のナイフ内相、サルマン・リヤド州知事(どちらもス
デイリ系)が有力だが、一気に第三世代への世代交代が行われる可能性もある。
• 今後、王族内部で王位継承を巡る混乱が生じるかどうかについては、一部専門家は懸念。
①サウジでは、王位継承者が、王族、有力部族長、宗教界のコンセンサスで選ばれるシス
テムが確立しており、混乱が起きる可能性はない、との見方,が有力。②一部で、ナイフ内
相などのスデイリ系(「スデイリ・セブン」)とそれに属さないアブドラ新国王の対立は
根深く、何らかの政治的異変が起きる可能性は否定できない、との見方もある。
3. 今後の注目点②(石油政策)
• 新国王は、「ガス・イニシアティブ」プロジェクトで、消極姿勢の石油省、Saudi Aramco
の抵抗を抑え、ガス上流への外資導入に尽力。外資開放推進論者の顔を持つ。
• 原油の安定供給政策(生産能力拡大と増産余力の確保)を維持。ブッシュ米大統領との首脳会
談で表明した「国際公約」。
• 石油収入の極大化を図る観点から、油価の高値維持が本音か? 一旦、油価が下落傾向に転
じれば、他の OPEC 諸国とともに減産に踏み切り、価格下支えを図るとの見方が強い。
• 上流の外資開放は限定的(ガス探鉱のみ)だが、下流(製油所、石化設備等)については、積極
的に外資導入。
• 最大の同盟国米国以外の国・企業との石油分野での関係強化を図る。特に、中国とは、双方向
での投資参加を行うなど、戦略的パートナーシップの構築を進める構え。
• 悪化した一部の湾岸諸国(カタール、UAE)との関係改善が図れるか?カタールからの域内ガ
スネットワーク計画が停滞。UAE とは、シャイバ油田の権益問題が浮上の可能性。
1.アブドラ皇太子が王位継承、皇太子にはスルタン第 2 副首相
サウジアラビアのファハド国王が 8 月 1 日、リヤドで死去したことに伴い、同日、アブドラ皇太子(第1副
-1Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、
機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも
のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結
果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申
し上げます。
首相兼国家警備隊長官)が第 6 代国王に即位し、スルタン第 2 副首相(兼国防相)が皇太子に就いた。
一部で予想された王位継承をめぐる政治的混乱は発生しなかった。また、アブドラ新国王は、ファハド国
王が倒れた 1995 年以降、サウジの政務全般を取り仕切り、事実上の最高権力者の地位を固めてきたこと
から、今回の王位継承によって石油政策等の内外政策に大きな変化はないとの見方が大勢を占めてい
る。本稿では、新体制下でのサウジの王位継承問題の動向及び主な石油政策について、ポイントを整理
することとする。
2.王位継承問題
(1)スムーズな継承が実現
世界最大の産油国サウジで、王位継承を巡る混乱が生じれば、国際原油市場が大きな影響を受ける
ことは必至である。このため、同国の王位継承問題は、常に注目を集めてきたところであるが、今回のア
ブドラ皇太子の国王即位とスルタン第2 副首相の皇太子就任は 1990年代からの既定路線であり、スムー
ズな権力継承が実現した。新体制に当面、大きな混乱要因はない模様であり、政権の安定性は確保さ
れる見込みである。
(2)スルタンの「次」に関心、後継候補は?
アブドラ新国王(推定81 歳、王族の年齢には諸説あり)、スルタン新皇太子(推定75 歳)とも高齢であり、
短期間での国王交代も予想されることから、スルタンの「次」の王位継承者(「ナンバー3」)が誰になるか
に関心が移っている。
具体的には、現在、スルタン新皇太子が兼務している第 2 副首相のポストに誰がつくのかが注目され
る。これまで、ファハド国王、アブドラ新国王、スルタン新皇太子とも第 2 副首相から皇太子になっており、
このポストが次の皇太子を占う重要なポストであることは間違いない。
サウジの王位継承は、これまで、初代アブドルアジズ国王の息子たち(第 2 世代)の間で行われてきた。
今のところ、「ナンバー3」は第 2 世代の中から選ばれる可能性が高いとみられ、「スデイリ・セブン」と呼
ばれるハッサ妃を母とする同腹の7人兄弟のうち、ファハド、スルタンに次ぐ年長者であるナイフ内相と、
高潔な人柄から国民的人気が高いサルマン・リヤド州知事の二人が有力候補として名があがっている。
一方で、高齢の第2 世代を飛び越え、初代国王の孫たち(第3 世代)への思い切った世代交代の可能性
も指摘されている。トゥルキ新駐米大使、サウド外相(ともにファイサル三代国王の息子)や、ミタブ国家警
備隊副長官(新国王の息子)、ハリッド国防副大臣(新皇太子の息子)などが候補とされる。王族内でコン
センサスを得られる人物が見当たらない場合は、新皇太子が第 2 副首相の兼務を続け、後継者候補の
選定が先送りされることも考えられる。
-2Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、
機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも
のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結
果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申
し上げます。
(3)今後、王位継承を巡る混乱は生じるか?
サウジで今後、王位継承をめぐる混乱が生じるかどうかについては、大きな混乱はないとの見解が有
力だが、一部専門家の間では異論もある。
ファハド国王時代初期から、サウジ王室内で大きな発言力を有する「スデイリ・セブン」とこれに属さな
いアブドラ皇太子(当時)が対立し、今もこの対立関係が続いているとする見方は根強くあり、そのような
背景から、今後も政治的混乱、異変が発生する可能性は否定できないとする見方は、メディア等でも広く
指摘されている。
ただし、一般には、将来サウジで王位継承を巡る混乱が起きる可能性はなく、政治的安定性に疑問は
ないとする主張が有力である。サウジの王位継承は、「有資格者であるアブドルアジズ初代国王の直系
卑属の男子のなかから、年長順に、ただし、能力、人格を加味して、有力王族、有力部族長、宗教界のコ
ンセンサスをもって選ぶことで行われる」(榊原櫻、中東協力センターニュース 2004・6/7)という仕組
みが確立しており、過去の国王退位(サウド2代国王)、暗殺(ファイサル3代国王)などの際も、混乱なく
王位継承が行われてきた。合意と忠誠を重視する王族内で、対立が顕在化することはないとの見方であ
る。
仮に、今後、王族内で混乱が生じ得るという前提に立てば、考えられる波乱要因として、新国王とナイ
フ内相の軋轢の拡大および世代間対立の激化の可能性があげられる。
ナイフ内相は、警察部門を統括する立場から国内のテロリスト掃討作戦で大きな成果をあげるなど、サ
ウジ政府による「テロとの戦い」に貢献してきたが、アブドラ新国王が進めてきた漸進的改革路線には批
判的な立場を取ってきたといわれる。ナイフ内相が第 2 副首相就任等により今まで以上に立場を強めた
場合、宗教関係者や王族内の保守勢力の支持を背景にアブドラ新国王と対立を強める可能性もあり、同
氏の台頭は新国王にとって政権安定の障害となる可能性がある。また、第 3 世代への世代交代が実現
すれば、保守色の強いサウジの政治が改革に大きく舵を切ったことの象徴となり得るが、そのためには
ナイフ内相をはじめ30人近く存命しているといわれる第 2 世代の合意取り付けが必要であり、これに失
敗した場合、混乱が生じる可能性もある。
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し上げます。
図―1 サウジ王家(サウド家)の系図
出所:PBSホームページ (http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/saud/tree/)
3.新国王即位にともなう石油政策の変更なし、その注目点は?
アブドラ新国王は、ファハド国王の体調がすぐれなかった過去10年にわたり、サウジの政務全般を取り
仕切ってきた。従って、国王即位によって、サウジの内政・外交が変わるという見方はほとんどない。対米
協調路線の堅持、対テロ対策の取り組み、漸進的改革の推進、雇用創出といった基本政策は今後も堅
持されるとみられる。改革については、今年、地方評議会でのサウジ初の選挙実施、司法制度改革(最
高裁の設置等)が行われたが、一方で、改革派政治犯 3 名へ禁固刑判決が出され、女性の権利(参政権、
運転等)拡大が先送りされるなど、慎重かつ抑制的に進められているとの感が強い。米国の「中東民主
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化」構想にある程度対応しつつ、サウド王家を支える国内保守派の意向にも十分配慮する必要があり、
双方のバランスをいかに取りながら政策を進めるかが、アブドラ新国王にとって引き続き大きな課題とな
る。
石油政策に関しても、新国王のもと、従来の政策が概ね継続されるものと考えられる。当面のサウジ石
油政策のポイント、留意点等について、あらためて以下に整理する。
(1)新国王はガス上流への外資導入推進で実績
石油政策に関しては、アブドラ新国王はこれまで、最高石油評議会(SPC)副議長(議長はファハド国
王)として、重要な政策決定に関わってきた。ただし、サウジの石油政策は実質的にナイミ石油相以下の
レベルで決定、運営されるのが常で、国王や皇太子が表面に立つケースはあまりないが、新国王は皇
太子時代に、外資導入事業「ガスイニシアティブ・プロジェクト」を自ら積極的に推進したという実績があ
る。
ガスイニシアティブ・プロジェクトは、油価が 1 バレル10ドル台に低迷していた1998年9月に、アブド
ラ皇太子(当時)がワシントンで米国石油企業首脳と面談し、事業への参加を呼びかけたことから始まっ
た。同プロジェクトは、ガス上流開発に加え、パイプラインや発電、造水、石油化学など中流、下流分野
までを含む総額250億ドルにも上る包括的統合プロジェクトであり、サウジの石油産業国営化後初の上
流(石油は含まず)への外資導入を含む事業として注目を集めた。アブドラ皇太子は、外資導入に消極
姿勢の石油省や Saudi Aramco の抵抗を抑え、自ら ExxonMobil 等の外国石油企業トップとの協議に臨み、
交渉委員会のトップにはあえて所管のナイミ石油相ではなくサウド外相(王子)を指名するなど、プロジェ
クト実現に向けて尽力した。同プロジェクトは、約5年間の外資との交渉後、結局、採算性等の面で折り合
いがつかず、対象範囲が大幅に縮小(ガス探鉱事業に限定、中下流等の範囲は除外)された。有力候補
であった ExxonMobil、BP との契約は見送られたが、6 社(Shell、Total、Lukoil、Sinopec、Eni、
Repsol-YPF)とのガス探鉱契約が締結された。アブドラ氏の強いリーダーシップがなければ契約締結に
は至らなかったものと考えられる。98 年と違い今は高油価が続いていることもあり、サウジ上流部門での
新たな外資導入計画は伝えられていないが、新国王に外資導入推進論者の顔があることは留意してお
く必要があろう。
(2)原油の安定供給政策(生産能力拡大と増産余力の確保)を維持
世界最大の産油国且つ OPEC 盟主の立場から、消費国の要請に応え、増産余力を確保し市場への
原油供給責任を果たしていくというのがサウジの基本姿勢であり、常に、OPEC 生産枠を上回る生産を続
けてきた(図-2参照)。
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サウジの最新の生産能力増強計画については、油価高騰が続く本年、ナイミ石油相や石油省幹部が
相次ぎ言及していたが、アブドラ皇太子(当時)が 4 月、テキサス州クロフォードでのブッシュ米大統領と
の首脳会談で正式に表明したことで、一気に世界に向けての公約となった。増強計画は、「市場の需要
があれば」という留保条件付きではあるが、今後、順次実行に移される見込みである。
サウジの能力増強計画の概要は以下のとおり。
•
市場への供給責任を果たすため、サウジは常に 150~200 万 b/d の増産余力を確保する。
•
上記を実現するため、4 件の油田開発プロジェクトを実施し、2009 年までに生産能力を現状の
1,100 万 b/d から 1,250 万 b/d に引き上げる。(4 油田合計で 230 万 b/d の増強。減退油田リ
プレース分(80 万 b/d)を除き合計 150 万 b/d 増。→表1参照)
市場の需要があれば 1,500 万 b/d まで生産能力を増強し、長期間維持する。
図-2 サウジアラビア月別原油生産量(千 b/d)
9,800
9,600
9,400
9,200
9,000
8,800
8,600
8,400
8,200
8,000
7,800
7,600
7,400
Ja
Fen-0
3
M b-0
ar 3
Ap -0
M r-03
a 3
Juy-0
n 3
Ju -03
Au l-0
3
Se g-0
3
Ocp-0
3
t
No -0
Dev-03
3
Jac-0
3
Fen-0
4
b
M -0
ar 4
Ap -0
M r-04
a 4
Juy-0
n 4
Ju -04
Au l-0
4
Se g-0
4
Ocp-0
No t-04
Dev-04
4
Jac-0
4
Fen-0
5
M b-0
ar 5
Ap -0
M r-05
a 5
Juy-0
n- 5
05
9,800
9,600
9,400
9,200
9,000
8,800
8,600
8,400
8,200
8,000
7,800
7,600
7,400
生産実績
OPEC生産枠
出所:MEES 他
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表-1 当面のサウジアラビア原油生産能力増強計画
油田・プロジェクト名
(場所)
①Haradh-3
(Ghawar 油田南部)
②Shaybah
(UAE 国境近く)
③AFK プロジェクト
・Abu Hadriyah、Fadhil
Khursanihah(東部州ジュ
ベイル近郊)
能力増強分
(b/d)
+30 万
完成時期
油種
2006 年
Arab Light
+30 万
2008 年
Arab Extra Light
+50 万
2007 年
Arab Light
④Khurais
(リヤドと Ghawar 油田の
中間)
+120 万
2009 年
Arab Light
備考
現状能力 60 万 b/d→90
万 b/d に増強工事中。
現状能力50 万 b/d→80
万 b/d に増強を計画。
93 年から生産休止中。
Snamprogetti
及 び
Bechtel/Technip 連合と
FEED 及び EPC 契約締
結。投資額約 30 億ド
ル?
現在10-15 万b/d 生産。
2005年4月、エンジ会社
に入札意思確認実施。
投資額約 50 億ドル?
出所:各種資料
(3)油価の高値維持
サウジは近年、高油価を背景とした歳入増加に伴う大幅な財政黒字を記録しており(図-3参照)、20
04年には政府債務の返済拡大や福祉・教育関連費の追加支出が行われなど、高値の恩恵を享受して
きた。人口急増に直面するサウジにとって、原油収入に支えられた高福祉社会を維持するためには、油
価の高値維持が生命線となりつつある。原油供給拡大を求める消費国に対しては、「最大産油国として
供給責任を果たし、油価安定に寄与する」との立場を再三表明し、具体的な増産計画(表-1参照)も示
しているが、本音の部分では、生産調整により油価のある程度の高値誘導を図りたいとの思惑があるも
のとみられる。2003 年頃までは、サウジは OPEC プライスバンド(22ドル~28ドル/bbl)内への油価抑制
を目指す姿勢を示していたが、今年に入って、ナイミ石油相が「40~50ドル/bbl 程度の油価であれば、
世界経済が崩壊することはない」と現状の高油価を是認するかのような発言を行っている。一度油価が
下落局面に転ずれば、サウジは、石油収入確保で思惑が一致する他の OPEC 加盟国と手を組み、減産
を行い価格の下支えを図るとの見方が強い。
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図-3 サウジアラビア財政収支実績
1200
億ドル
1000
800
歳入
歳出
600
400
200
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
2
20 004
05
予
算
0
出所:SAMA
(4)下流の外資開放を推進
サウジは、下流分野については、以前から外資導入を積極的に進めてきている。特に、石油化学分野
では、本年8月に住友化学と Saudi Aramco がラービグでの統合プラント建設に向けて合弁契約を締結
するなど、欧米日の有力企業との共同事業が推進されてきた。また、石油上流の生産能力増強計画とそ
れに伴う輸出能力増強をにらみ、サウジは、紅海沿岸の工業都市ヤンブーに新たに能力40万 b/d の製
油所の建設を計画しており、メジャーズ等石油会社数社と非公式な協議を開始している。
(5)中国などと石油分野での関係強化を目指す
サウジはこれまで、最大の同盟国米国との外交関係強化に結びつける意図もあり、石油分野において
も米国との関係を重視してきた。米国向石油輸出国トップ5に、サウジはカナダ、メキシコ、ベネズエラの
北・南米主要産油国とともに中東産油国では唯一含まれている。サウジ国内においても、ExxonMobil と
の製油所合弁事業、陸上分割地帯での Chevron への油田権益の付与等、米国石油企業のプレゼンス
は高い。
ところが、9月11日の同時テロ以降、議会を中心に米国のサウジ批判が高まり、米サ関係が一時冷却
化したこともひとつの背景となって、サウジは、最近、米国以外の国・企業との関係拡大に注力している。
ガス探鉱プロジェクト(前述)の契約先が欧州4社、ロシア1社、中国1社となったのが象徴的であるが、特
に中国とは、Sinopec の中国国内(福建、青島)での製油所建設事業に Saudi Aramco が参加を表明し、逆
にサウジ・ヤンブーでの製油所建設事業(前述)に中国企業の参加が噂されるなど、双方向での関係強
化が進んでいる。サウジにとって、中国との関係は、サウジ原油の巨大な新規マーケットという位置づけ
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であると同時に、互いの経済的、外交的メリットを追求しあう戦略的パートナー関係に発展する可能性を
秘めている。
(6)一部湾岸諸国(カタール、UAE)との関係が悪化
あまり注目されていないが、最近、サウジとカタール、UAEの外交関係が悪化しており、石油ガス開発
への影響も懸念されている。サウジは、カタールに対して、親イスラエルの外交姿勢を批判しているほか、
カタール North Field の天然ガスをバーレーン経由クウェートまでパイプラインで輸出する計画(Al
Khaleej プロジェクト)に対して、サウジ水域の通過権を付与しないという姿勢を示している。湾岸の盟主
を自任するサウジによる、ガス資源を武器に台頭する小国カタールに対する不快感の表れともいえよう
が、このままプロジェクトが進展しなければ、ガスの供給不足に悩む親サウジ2国(クウェート、バーレー
ン)の反発を招くことになりかねない。
また、サウジは2005年6月、カタールと UAE に対し、両国を結ぶコーズウェイの建設計画がサウジの
領海を通過するとして抗議した。これに対し、UAE は、サウジと UAE の境界線を規定した1974年の秘密
協定(ジェッダ協定)が不平等条約であるとして、内容の見直しをサウジに要求することを決めた。見直し
要求はハリーファ大統領が決断した。
ジェッダ協定には、サウジ、UAE 国境付近のシャイバ陸上油田について、本来5分の1が UAE 領域内
に位置するにも関わらず、UAE 側が同油田の領有権を放棄したと規定されている。その後、UAE 側は、
両国の共同開発を模索したが、サウジが同意しなかったという経緯がある。シャイバ油田は1998年に生
産開始という新しい油田であるが、現状生産量が50万 b/d とサウジの主力油田の一つと位置付けられ、
現在進められている生産能力増強計画の対象油田のひとつにもあげられている(表-1参照)。この問題
がこじれた場合、最悪の場合油田及び生産物の所有権の一部が UAE に移るような事態も想定され、サ
ウジにとって大きな痛手となる。
アブドラ新国王は、2000年から2001年にかけて、クウェート(沖合分割地帯)、イエメン(陸上)との国
境線画定交渉をまとめ、長く続いた両国との国境紛争を終結させた実績を有する。今後、新国王がカタ
ール、UAE との関係修復にどのような手を打つか注目されるところである。
以上のとおり、アブドラ新国王体制下での石油政策は、新国王の皇太子時代の政策を踏襲する内容
になると考えられ、大きな変化はないとの見方が有力である。問題は、アブドラ後の政権がどのような石
油政策を打ち出すかであるが、現時点では不透明といわざるを得ない。
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