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人生の岐路に立つ
人 生 の 岐 路 に 立 つ 学校長 安 藤 敏 彦 「岐路」という言葉がある。辞書で調べると「1 道が分かれる所。分かれ道。2 将来が決まるよう な重大な場面。「人生の岐路に立つ」3 本筋ではなく、わきにそれた道」とでてきた。ここでは2の意 味でこの言葉を取り上げるのだが、岐路に立った時には「右へ行くべきか、左に行くべきか、今この地 点でどう考えるべきか」ということが、常に問題となる。これは生涯にわたって向こうから追いかけて くる課題でもあるし、そもそも人生とは「岐路に立って判断することの連続」であるような気もする。 この「人生の岐路」という言葉に関わっては、あの有名な岡本太郎氏が次のような名言を残している。 私は、人生の岐路に立った時、いつも困難な方の道を選んできた。 それが私の人生観だ。 (岡本太郎) ゆえん この言葉が名言とされる所以は、岡本氏のたゆまぬ向上心と強い信念が「それ が私の人生観だ」という決然とした言葉に表出されているからである。私が思う に、氏の作品は、まさに氏の生き方そのものを造形の形で表現したものに違いな い。大胆で意表をつく作品の表情に氏の強い生き方が示されている。 だが、しかし、常人はなかなか岡本氏の境地に達することができない。楽な道 を探したり、人のせいにしたりして、それぞれの「岐路」と程々に向き合い、や り過ごし、人生の半ばを過ぎた頃に「あの時・・・・していれば」と後悔するの である。これは、たいそう「つまらないこと」である。 このような対処法の「つまらなさ」は、東日本大震災の被災者の心情と対比するとよく分かる。なぜ なら被災者にとって、3 月 11 日に発生したあの地震と津波がまさに「生死をかけた人生の岐路」だった からである。 「右に逃げたか、左に逃げたか」 、 「家にとどまったか、高台に逃げたか」等々、生き延びた 人たちの後日談を聞くと、一瞬の判断と幸運が命を救ってくれたことに気づく。さらに胸を打つのは、 生きて残った人たちが異口同音に「残された命、しっかり生きねば」と口にすることである。老いも若 きも口を真一文字に結び決意を語る姿を見ると、私の胸は震えるのである。 さて、私も教職について長い年月を重ねたが、これほど厳しい就職状況は過去に例がない。今の大学 しゅうかつ 生は 3 年生になると就職活動(通称 就 活)に奔走、なのになかなか内定がとれない。空前の円高に伴う 産業の空洞化やリーマンショック以来の冷え切った就職戦線がなかなか熱くならず、正社員は言うに及 ばず、派遣社員・パート・アルバイトでの求職もままならない状態である。民間の平均給与額も年々下 あんたん 降、これにつられる形で公務員の給与も引き下げられている。まことに厳しい状況で、誰しもが暗澹た る思いに駆られてしまうほどである。 ひる しかし、いつまでも怯んでばかりはいられない。また時代をはかなむばかりでもしょうがない。そう ではなくて、逆にこんな時代だからこそ一人一人の努力とがんばり、チャレンジ精神が是非とも必要に なる。君たちの中で NHK の番組『平成仕事塾』を観たりして興味をもち、 「その仕事に就きたい」と考え た人がいるならば、 「無理だ、駄目だ」と考えずに果敢に挑戦すればよい。大学へ進学したいと考える人 は、 「受験勉強が大変」と萎縮するのではなく、少しずつ分からないとこ ろを克服し、最後に目標を達成すればいい。要は「人生の岐路」にたっ て躊躇し曖昧にし、後に後悔するような判断をしないことが、とても大 切なのである。 最後に、皆も知っている「ムーミン」シリーズの中で、一番かっこい いキャラクター、スナフキンが残した名言を一つ紹介しよう。 「そのうち」なんてあてにならないな。今がその時さ。 (スナフキン) (Are you ready? OK?)