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平成21年度府中町教職員研究活動事業
教育研究レポート D 教科外研究(総合的な学習の時間・道徳)
体で覚えたものは はなれない
―自分を育てる「食」を見つめて―
府中町立府中東小学校
安野恵津子 川本美紀子 溝下一郎
1 研究主題 体で覚えたものは はなれない ―自分を育てる「食」を見つめて―
2 主題設定の理由
第5学年児童の実態(素直で課題に対してまじめに取り組むが,体験が少なく,自主性・社会性・
創造性の伸張が課題である)から,3泊4日の宿泊学習と米作り体験を核にした学びに取り組みた
いと考えた。
3 研究仮説
米作りと野外活動を核に「食」を見つめる体験を積み重ねていけば,次の2つのねらいが達成で
きるであろう。
○ 人やものとの関わりを通して,自主性・社会性・創造性を育む。
○ 体験したことを表現することを通して「ことばの力」を育む。
4 研究内容
田んぼでの米作りと三泊四日の宿泊学習の体験(竹食器作り・野外炊飯・魚市場見学・鞆の浦ウ
ォーク・ちくわ作り)を元に,自分たちを育てる「食」に焦点を当てて,調べたり,伝えたりする
言語活動に取り組んだ。その中で自分の変容を見つめ,これからの生き方を考える手立てとした。
5 検証の指標
県からのアンケートを実施するとともに,児童の発言・行動観察,ワークシートを検証の指標と
する。
6 達成目標
○ 人やものとの関わりを通して,自主性・社会性・創造性を育む。
自主性…自分の力で問題を解決しようとする
分からないことは自分で調べる
社会性…自分とちがう意見や考えを受け入れることができる
人の話をきちんと聞くことができる
創造性…自分で問題点や課題を見つけることができる
自分がくらす地域のことをもっと知りたい
上記の項目への肯定的評価を5月に比べて10%以上向上させる。
○ 体験したことを表現することを通して「ことばの力」を育む。
多様な表現の場を設定し(5回以上),「ことばの力」について自己評価・他者評価を重ね
る。(5回以上)
7 実践
【指導計画】
実施 教育課程上の
指導者
実施時期
活動内容
実施場所
時間数 位置づけ
担任
5~10 月 田んぼの観察・田植え・稲刈り 6 総合的な学習 校外の田んぼ
社会科
地域人材
担任
5~7月 野外活動にむけて
4 総合的な学習 校内
道徳 2-(2)思いやり・親切
1 道徳
4-(1)公徳心
1 道徳
8~9月 野外活動
24 総合的な学習 福山少年自然の家 担任
学校行事
外部講師
担任
9~10 月 体験を伝えよう
6 総合的な学習 校内
国語科
担任
~11 月 体験から課題を作ろう
4 総合的な学習 校内
道徳 4-(7)郷土愛・愛国心
1 道徳
担任
11~12 月
もち米料理・お好み焼き作り
4 総合的な学習 校内
家庭科
地域人材
担任
11~12 月
はしの文化を調べよう
4 総合的な学習 校内
地域人材
担任
12~1月
発表会を計画しよう
4 総合的な学習 校内
担任
1月 発表会
4 総合的な学習 校内
担任
2月 学習のまとめ
4 総合的な学習 校内
【米作りに挑戦 5月~12月】
6月 田植え ○児童感想 ◎評価
○ 初めて田んぼに入りました。ヌルヌルして歩きにくかったけど,
田植えは楽しくて,もっとやりたかったです。
○ 田植機を見て,機械のすごさを知りました。ぼくたちは少ししか
植えていないけど,たくさん植えるには人の力だけでは大変だと思
いました。
◎ 田植えの大変さを感じ,「食」を支える人の存在に気づくことが
できた。
10
10月 稲刈り ◎児童感想 ◎評価
○ 初めてかまで稲を刈りました。ザクッとうまくかれて,うれしか
ったです。その後,束ねて干しました。おいしいお米になってね。
○ 機械は全部自動で刈って束ねていきます。便利なものだなあ。
◎ 稲を収穫するまでに多くの苦労があることや田んぼを受け継ぐ
長尾さんや農家の方々の思いを知り,「食」への関心を高めること
ができた。
11月 もち料理作り ○児童感想 ◎評価
○ 私はみたらしを作る係でした。1回目は失敗したけど,2回目は
ちゃんとできたからうれしかったです。
○ 家の人やお世話になった長尾さんにごちそうするために,前日に
作っておける方法を調べたいです。
◎ もち料理作りの体験を通して,学習したことを伝える意欲を増す
ことができた。
7月 田んぼの観察 ○児童感想 ◎評価
○ 今日,田んぼに行ってみると,水がぬいてありました。社会で
習った中干しだなあと思いました。
○ 田植えの時から比べて,ずいぶん大きくなっていました。株も
太ってきました。長尾さんが世話をしてくださっているんだなあ
と思いました。
◎ 稲の成長を実感し,「食」を支える人の苦労について,考えるこ
とができた。
11月 府中町の食文化 ○児童感想 ◎評価
○ もちがごちそうだったこと,「はれ」と「け」の食事があったこ
と,はしの歴史など知らないことばかりでした。
◎ 「食」の文化に触れ,大切に作って,食べていこうという気持ち
を深めることができた。
府中町食文化探訪サークル
『フラワー』より
秋山さん 片岡さん 大年さん
1月 あられ作り ○児童感想 ◎評価 ★講師の先生から
○ 12月に自分たちでやったときは油っぽくて,失敗だった。でも,今日教えていただくと,さく
さくでおいしいあられができた。家でも好評だった。
○ 油の温度やなべに入れるときのタイミングなど,細かくコツを教えてくださった。おいしくでき
てとてもうれしかった。
◎ 保存食としておいしく食べるためにいろいろなコツがあることや府中町の食文化を伝えようと
いう気持ちに触れ,考えることができた。
★ 皆さんの紙いっぱいのお手紙,楽しく読ませていただきました。とても楽しい時間でした。皆
さんの生き生きとした真剣に取り組む姿がとてもほほえましく,あっという間に時間が過ぎま
した。家のキッチンで家族と一緒に取り組む皆さんの笑顔が浮かんできます。がんばってね。
【野外活動(オリエンテーション・竹食器作り・ピザ作り・魚市場見学・鞆の浦ウォーク・ちくわ作り)】
オリエンテーション(テーマの詩の群読・コント・活動説明・質疑応答)
ねらい: 野外活動のねらいを話したり聞いたりすることを通して,自覚するこ
とができる。○児童感想 ●保護者感想 ◎評価
○ 今日の群読では,野外活動のテーマが伝わるよう,がんばった。コントもおも
しろく,家の人たちにも伝わったと思う。
○ 「体で覚えたものははなれない」と自分に言い聞かせるように,大きな声で言
いました。どんな体験ができるのかとても楽しみです。
● 目で手で足で胸で,しっかり体験しようという気持ちが伝わってきました。家
でも五感を大切にして自分の体験から学んでいけるよう応援したいです。
◎ 野外活動を自分たちの学習ととらえ,保護者に伝える場を設けることで自覚
を促すことができた。
竹食器作り ○児童感想 ◎評価
○ コップを作るが難しかったです。4日間使ってみて,ふつうのコップが飲み
やすくできていることに気づきました。
○ 自分で作ったはしは使いにくかったけれど,自分だけのはしなので,家に帰
っても使いたいです。
◎ 「食」に関わる道具に目を向け,それらの必要性に気づくことができた。
魚市場見学 ○児童感想 ◎評価
○ 瀬戸内海でとれた小イワシの天ぷらがとてもおいしかった。
○ たくさんの魚がいろいろなところから運ばれ,私たちの食を支えていること
が分かった。
◎ 「食」は多くの人に支えられていることを知り,広島ならではの味に目を向け
るきっかけを作ることができた。
鞆の浦ウォーク ○児童感想 ◎評価
○ 鞆の浦は歴史を守る努力していることが分かった。
○ 保命酒は鞆の浦の特産品として,大事に受け継がれている。私たちの身の回
りにもそういう「食」がないか調べてみたい。
◎ 「食」には歴史があることを知り,身近な「食」に目を向けるきっかけを作る
ことができた。
ちくわ作り ○児童感想 ◎評価
○ ちくわが魚のすり身でできていること,安全でおいしいものを作るためにたく
さんの人が協力していることを知りました。
○ 焼きたてのちくわは香ばしくておいしかったです。自分で作ったから,特にお
いしく感じました。家族に持って帰りたかったです。
◎ 「食」を支える人々の努力に触れ,関心を高めることができた。
【発表会(1月22日:保護者・地域の方に)「体で覚えたものは…」】
・ テーマの群読 (サトウハチロー作)
・ ポスターセッション(もち米料理・はしのマナー・広島風お好み焼きについて調べた
ことをポスターにして発表する。)
テーマ・学習のふり返り
ポスター発表
講師の方から講評
講師の方へお礼
試食用もち米料理
保護者へインタビュー
1月 発表会 ○児童感想 ●保護者感想 ★講師の方から ◎評価
○ぼくの緊張はおさまらなかった。でも,話し始めると,はしの歴史をみんなに伝えたいという気
持ちで大きな声が出た。テーマの群読も成功だ。家に帰ると母が「よく調べていたね。」とほめ
てくれた。やってよかったと思う。
○総合の発表会では自分の役割が果たせてよかったと思う。最後に5年生全体の力の伸びのグラフ
を見て,自分で調べる力が伸びていてびっくりした。これまでの学習を生かしていきたい。
●地域の方に支えられて学習していることがよく分かった。
●とても楽しそうに学習に取り組んでいる。身につけたことを役立ててほしい。
★たいへんよく調べ,堂々と発表する姿がすばらしかった。新しく知ったこともたくさんあった。
★親から子へという文化の伝承ではなく,子どもたちから保護者の方へという継承の仕方もあるこ
とが分かり,とてもうれしかった。
◎体験したことからテーマを見つけ,調べたり,発表したりすることを通して「ことばの力」を育
【道徳との関連】
○ 道徳4-(1)公徳心 「駅前広場はだれのもの」(東京書籍)
公共のルールやマナーを守ることの大切さとそれに関わって自ら行動することの大切さを考える
ことができた。野外活動に向けて,集団でのルールを確かめたり,自分たちで行動したりする心情
や態度を養うことができた。
○ 道徳4-(7)郷土愛 「親から子へ そして孫へと」(東京書籍)
郷土の文化と伝統を大切にし,先人の努力を知り,郷土を愛する心について考えることができた。
野外活動での体験(鞆の浦ウォークや魚市場見学,ちくわ作り)を思い出し,共感しながら話し合
うことを通して,郷土を誇りに思う心情を養うことができた。
8 研究結果
○ 人やものとの関わりを通して,自主性・社会性・創造性を育む。
自主性…①自分の力で問題を解決しようとする
②分からないことは自分で調べる
社会性…③自分とちがう意見や考えを受け入れることができる
④人の話をきちんと聞くことができる
創造性…⑤自分で問題点や課題を見つけることができる
⑥自分がくらす地域のことをもっと知りたい
②③④⑤の項目について肯定的評価を5月に比べて10%以上向上させることができた。
100
80
5月
11月
60
40
20
0
1月
①
解 自 自主
決分性
すで
る
②
調 自 自主
べ分性
るで
受
け
入
れ
る
③社
違会
う性
意
見
を
④
聞人社
くの会
話性
を
⑤
見課創
つ題造
けを性
る
⑥
知も創
りっ造
たと性
い
○ 体験したことを表現することを通して「ことばの力」を育む。
多様な表現の場を設定し(学級で・学年で・他学年へ・保護者や地域の方へ),「ことばの
力」について自己評価・他者評価を5回以上重ねることができた。
9 研究結果の分析・考察
○ 上記アンケートで大きく向上した②については課題を明確にし、時間を十分確保したこと、
④については、多くの方の指導を受けることができたことが良い結果に結びついていると考え
られる。
○ 反対に①については課題がグループや学級での課題設定だったので、個人での追求というイ
メージが薄かったこと、⑥については学習の発展を促す助言が足りなかったことが起因してい
ると考えられる。
10 成果と課題
○ 体験したことを表現する活動を通して「ことばの力」を育むことについては,野外活動オリ
エンテーションやニュース番組作り,ビデオレター,4年生への発表会と多様な場を設定する
ことで,力を高めることができたと考えられる。目的や相手を考えて言葉を選び,分かりやす
くするために,図や写真,表,グラフを用いたり,効果音をつけたり,動きをつけたりといっ
た工夫も増えていった。相互評価や他者評価で自分の役割を再認識し,自己肯定感が増し,自
己の変容を認めることができた。伝えるためにことばを選ぶことで,道徳的な心情の高まりも
感じることができた。
○ 自主性・社会性・創造性を高めることをねらいに取り組んだが,創造性においてはまだ十分
とは言えない。自ら調べたり,創り出したりするための課題の精選,支援のあり方が今後の課
題である。
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