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星の誕生のプロセスを物理学で解き明かしたい
【研究者インタビュー No.044】 星の誕生のプロセスを物理学で解き明かしたい 大分大学 教育福祉科学部 理数教育 教授 仲野 誠 (なかの・まこと) 専門: 天文学(天体物理学)。 の研究は,星の誕生のプロセスを自ら観測したデータ を分析して探るというものです。宇宙空間では輪廻の ように星の死と誕生が繰り返されています。その中から まだ誰も見たことがない生まれたばかりの星を探索す るのはとてもエキサイティングです。 ▲一般教養の授業の後,毎回,学生の質問票に半日かけてコ メントを記入しフィードバックしている。 ●天文学とはどういう内容の学問でしょう? 天文学は,地球の外に広がる宇宙空間に点在する惑 星・太陽・恒星・銀河など天体や星間空間に存在する 塵・ガスなどを対象とする学問です。歴史や文化も含め るととても幅の広い分野ですので,ここでは私の専門で ある天体物理学でご説明しましょう。 天体物理学とは何かを一言でいえば,天体や星間物 質の性質を物理学を使って調べようという学問です。 物理学はモノの性質を調べる学問ですから,調べる対 象を天体にした,ということですね。 天体は時間・距離・サイズなどのスケールが途方もな く大きいので,人間の感覚では把握できません。そこで 天体の現象をデータ化して数学的な処理をして把握す るのです。そのため天体物理学では,物理とともにコン ピュータも大いに利用しています。 天体物理学の柱は理論と観測です。前者は物理学を 駆使して理論的なモデルを組み立て,天体現象を予言 したり,観測を再現するためのシミュレーションなどで 研究を行っています。ビッグバンやブラックホールの存 在を提唱したのはこの分野の成果ですね。 二つ目の柱はデータの解析も含めた観測です。観測 の道具は 17 世紀のガリレオの時代から 20 世紀前半ま ではレンズや鏡を使った天体望遠鏡が常識でした。こ れは電磁波のうち人の目に見える可視光線を使った観 測ということです。しかし,技術の発達で人の目には見 えない波長の電磁波で輝く天体の存在が分かり,新し い望遠鏡や観測装置が開発されました。それが電波望 遠鏡,赤外線望遠鏡,X 線望遠鏡などです。これらの 望遠鏡から得られたデータはコンピュータで人の目に 見えるように画像処理します。星雲や銀河のきれいな 写真がありますが,これらの色はデータを見やすくする ために人工的に合成したものである場合が多いです。 20 世紀の後半から,宇宙開発とコンピュータ技術が発 達したことで天体物理学は劇的に進歩しています。私 ●教育の方針は? ここ 10 数年ほど「現代天文学と SETI(セチ)」というタ イトルの講義を行っています。SETI とは Search for Extra-Terrestrial Intelligence(地球外知的生命体探査) の意味。生命と天文学をつなぐ試みの授業で,150 人 ほどの受講生がいます。毎回,授業の後に質問票を出 してもらっています。全員に返事を書くので半日かかる ので大変ですが(笑い) ,学生が不思議に思うことや理 解の仕方についての発見があるので続けています。 科学の目で見ると 20 世紀が物質中心の時代だった のに対して 21 世紀は人間や生命を重んじる時代へと 変化しています。学生は 21 世紀に活躍する人たちです から,いろんなことに興味を持てる視野の広い社会人 になって欲しいという思いがあります。 学生には,ある数学者による次の詩を学生に紹介して います。「知に達する方法は簡単だ,何度でも何度でも 間違いなさい。でもその度ごとに間違いを少なく少なく しなさい」という内容です。何もしなければ始まりません。 やってみなければ分からない。間違いをしても修正して 少しずつ賢くなれば良いと学生が考えて行動すると嬉 しいです。(写真と文/安部博文) 【仲野 誠(NAKANO Makoto)プロフィール】 ▼1956 年,大阪府寝屋川市生まれ。家族 で郊外に出かけ,山歩きや昆虫採集を楽し んだ。小学校時代は『科学』の愛読者。小 学校 6 年生のとき,友人の天体望遠鏡で初 めて月を見る。月の明るさときれいさに心を 惹かれる。夏休みの自由研究で星の写真 撮影に成功したことから天文への興味がい っそう深まる。▼中学生の時,親に天体望 遠鏡を買ってもらう。中学時代の得意科目 は理科と数学。地元の普通科高校に進学。山岳部に所属し,毎 月山歩きに出かける。天体と自然が好きだったことから天文学 か農学への進学を考える。▼1975 年,京都大学理学部に入学。 自由を大切にする大学の空気が肌にあった。実験科目だけは 漏らさず履修。4 年で天体物理の専門が始まったとき,同級生の 優秀さに改めて驚く。▼1979 年,学部を卒業。同年 4 月,京都大 学大学院理学研究科に進学。銀河系の回転や暗黒星雲につい て研究する。それまで星雲の観測では光学望遠鏡が中心だった のが,新たに電波を使った観測が可能となる。▼1980 年,修士 課程修了。同年 4 月,博士課程に進学。長野県野辺山に電波望 遠鏡を備える研究施設が設立され,京都から観測に通う。電波 望遠鏡を活用した星間雲の観測をテーマに研究を進める。▼ 1985 年,単位取得退学。1986 年 5 月,京都大学から学位を取得。 理学博士。▼1987 年,大分大学教育学部に着任。「大分に青少 年科学館を作る会」顧問。 平成 22 年度大学等産学官連携自立化促進プログラム / 地域連携研究コンソーシアム大分 / 取材時期 平成 22 年 6 月