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第5章 将来像の実現に向けた新たな挑戦
第5章 将来像の実現に向けた新たな挑戦 (取組の基本方向) 新たな挑戦に向けて 将来像の実現に向けては、生産者のみならず、農業団体、他産業関係者、行政、 そして、消費者を含むすべての道民が、北海道の貴重な財産である農業・農村を 持続的に発展させるという共通認識のもと、地域や一人ひとりがその個性や想像 力を活かしつつ、主体性と自立の精神をもって、自らも取組に参加するという意 識を持つことが大切です。 こうした考え方に立ち、『食』、『環境』、『人』、『地域』という新しい視点から 本道農業・農村を見つめ、将来像の実現に向けた取組を進めます。 《4つの視点からのアプローチ》 食 をはぐくむ ☆ 消費者の信頼に支えられた安全・安心な「食」のシステムづくり ☆ 豊かな食生活をはぐくむ食料の生産・提供 ☆ 地産地消や食育などを通じた消費者と生産者との結び付きの強化 - 19 - 環境 をはぐくむ ☆ 「環境」と調和した生産活動の推進 ☆ 「環境」を保全し、心やすらぐ田園空間の創造 人 をはぐくむ ☆ 次代を担う多様で元気な「人」づくり ☆ 地域農業を支える経営体や組織の育成 地域 をはぐくむ ☆ 個性を活かしたオンリーワンの「地域」づくり ☆ 農とふれあい、楽しむ場の提供 ☆ 快適で住み良い生活の場づくり - 20 - 1 『食』をはぐくむ 1−① 消費者の信頼に支えられた安全・安心な「食」のシステムづくり 道産食品に対する消費者の信頼を確かなものにするため、人々の生命と健康を支 える「食」の原点に立ち返り、安全・安心を基本とした北海道らしい「食」に関す る条例を制定し、消費者をはじめ生産者や流通・加工関係者など道民を挙げて 「食」の安全・安心を確保していく気運の醸成や体制づくりに努めます。 また、安全で優れた品質を持つ道産食品を認証する道独自の制度の確立と普及、 品目ごとのトレーサビリティ・システム*の導入の拡大など、「道産食品安全・安心 フードシステム」の構築に向けた取組を積極的に進めます。 取組の内容 ア 「食」に関する条例の制定・推進 ○ 道産食品の安全・安心を確保するための北海道らしい条例の制定と着実な推進 イ 安全・安心の確保に向けた適切な情報提供等のシステムづくり ○ 安全・安心を基本とした優れた品質特性を評価する道産食品の独自認証制度の確立・拡充 ○ 北のクリーン農産物表示制度(YES! clean表示制度)*の普及・定着による消費者への 情報提供の推進 ○ 品目ごとの生産、製造加工から流通に至る生産履歴情報を的確に提供するためのトレ ーサビリティ・システムなどの整備・普及 ○ 食品の適正表示の徹底と監視・指導体制の強化 ○ 消費者の食品に関する正しい知識の習得や、店頭などにおける食品表示などの確認 ウ 安全な食品づくりに向けた取組の推進 ○ 遺伝子組換え作物の栽培に関する規制 ○ 食品の安全性や品質の向上、個性化につながる食品生産、製造加工技術等の研究開発の推進 * ○ 食品の生産、製造加工、流通段階におけるHACCP やHACCPの考え方を取り 入れた衛生管理システムの導入の推進 ○ 肥料や農薬、流通飼料などの生産資材や動物医薬品の適正な製造・販売及び使用の推進 * トレーサビリティ・システム 「トレース(なぞる、跡をたどる)」と「アビリティ(可能)」を組み合わせた言葉であり、「跡をたどり、さかのぼって調べること ができる」という意味で、スーパー等に並んでいる食品がいつ・どこで・どのように生産・流通されたかについて、消費者がいつでも 把握できる仕組みのこと。 * 北のクリーン農産物表示制度(YES! clean表示制度) 道内で生産された農産物を対象に、農作物ごとに定められた化学肥料や化学合成農薬の使用量の上限や他の農産物との分別収穫・保 管・出荷、生産集団の構成員が栽培履歴を記帳するなど、一定の基準をクリアし、生産・出荷される農産物について、 「YES!clean マー ク」を表示し、併せて、化学肥料や化学合成農薬の使用回数などの栽培情報をお知らせする制度。 * HACCP(ハサップ、Hazard Analysis and Critical Control Point) 米国の NASA(アメリカ航空宇宙局)で宇宙食の安全性確保のために開発された食品衛生管理システムで、最終製品を抜き取って検 査する従来の方法とは違い、原料の受入れから製造・出荷までの各工程において、健康に害を及ぼす可能性をチェックし、対策を立て、 特に重要な工程について、集中的な衛生管理を行うことにより、安全性を高める手法のこと。 - 21 - 《活き活き参考事例》 牛肉トレーサビリティ・システム「宗谷黒牛」 稚内市 社団法人宗谷畜産開発公社宗谷岬肉牛牧場 宗谷岬肉牛牧場の「宗谷黒牛」は、平成12年7月に生産履歴が確認できる全農安心システムの全国第 1号の認証を受け、以後、毎年認証更新を行いながら黒牛を生産しています。 全農安心システムは、全国農業協同組合連合会が国産の農産物を対象に、近年の消費者の食品に対する 安全性や環境への関心の高まりに対応し、「顔の見える安心・安全で良好な食材の生産・流通」のためにス タートした制度です。 生産者、消費者、流通業者の3者で設定した独自の生産・流通基準(エコロジービーフガイドライン) が守られているかを第三者であるオーガニック検査協会が検査し、その検査報告に基づき、全農安全システ ム認証総合委員会で認証の可否を決定する仕組みとなっており、生産から流通までの履歴を追跡できるシス テムとして運用されています。 当牧場は、「大地の健康、牛の健康、消費者の健康」を生産理念に掲げ、環境にやさしい有機的農法に努 めています。自家製無農薬牧草や非遺伝子組換えの穀物飼料に加え、上水道を飲料水として使用するととも に、年2回、すべての牛の定期健康検診と衛生管理を実施し、安全を第一に考えた生産を行っています。 また、消費者と生産者による情報の双方向性やコミュニケーションが大切であるととらえ、牧場内に設 置した宿泊体験施設を利用して積極的に消費者を受け入れ、産地交流を実施しています。 このように、全農安心システムをバックボーンに安全・安心を確保した農産物を提供することで、消費 者との信頼関係の構築を進めています。 YES!clean産地としてのキャベツの生産・販売 鹿追町 しかりべつ高原野菜出荷組合 しかりべつ高原野菜出荷組合は、平成12年にYES!clean表示制度の登録を受け、環境にやさしいクリー ン農業を実践し、消費者に信頼されるキャベツの生産を行っています。 酪農家との間で麦稈と堆肥の交換による輪作年限の延長や効率的な有機物の投入、さらには、小麦跡地 への緑肥導入により地力維持に努めるなど高度な土地利用を実践するとともに、土壌分析による適正施肥や 除草剤を使用しないことなどによって、生産物の安全性の保持に努めています。 さらに、クリーン農業技術の一環として農作物生育監視システムを導入し、病害虫発生予察による適期 防除を行いながら、消費者に栽培履歴や生育経過等のデータを公開するとともに、生産者が直接消費地に赴 き、店舗で販促活動を行うなど、YES!clean表示制度を活かして、生産者の顔の見える安全で安心な生産・ 販売活動を展開しています。 - 22 - 1−② 豊かな食生活をはぐくむ食料の生産・提供 安全・安心で良質な食料を消費者の理解の得られる価格で安定的に生産・提供し ていけるよう、クリーン農業を一層推進するとともに、生産性や品質の向上などに 向けた新たな技術の開発・普及や、地域の実情に即した生産基盤の計画的な整備、 付加価値の高い食品づくりや販路拡大などの積極的な取組を進めます。 取組の内容 ア 消費者ニーズに応える農業生産の推進 ○ 消費者の安全・安心などのニーズに応えるクリーン農業や有機農業・有機畜産の積極 的な推進 ○ 消費者や実需者の多様なニーズを踏まえた農産物の計画的かつ安定的な生産・供給 ○ 安全・良質など農産物の評価を高める生産技術の高位平準化 ○ 消費者の信頼確保に向けたBSE検査の着実な推進 イ 農産物の安定生産に向けた基盤づくり ○ ○ ○ ○ 地域の実情に即した安全で品質の高い農産物の安定生産に向けた生産基盤の整備 直営施工の導入などによる柔軟で低コストな基盤整備の推進 高品質・良食味な農産物の効率的・安定的な生産に向けた IT の活用とその条件整備 農業用用排水路などの土地改良施設の適正管理や長寿命化に向けた予防保全対策の推進 ウ 安全・良質・低コストなど競争力を高める技術の開発と普及 ○ 安全・安心で収量や品質・耐冷性・耐病性の向上に向けた品種及び栽培管理技術な どの開発 ○ 農産物の品質や機能性に関する評価法の策定や品質保持のための貯蔵・輸送技術の開発 ○ 効率的な試験研究体制の検討・整備 ○ 効率的な農業改良普及体制の整備と地域課題に迅速に対応した普及指導活動の展開 ○ 病害虫の発生予察等に基づく適期防除による植物防疫対策の推進 ○ 家畜伝染病発生の未然防止に重点を置いた事前対応型の防疫体制の強化 エ 農産物の付加価値を高める加工や販売の推進 ○ 安定的・継続的な農産物の供給に向けた雪氷利用による貯蔵・出荷調整や広域的な 産地の形成、府県との連携を視野に入れたリレー出荷*等の推進 ○ YES! clean 表示制度や道産食品の独自認証制度の活用などによる農産物や加工品の販 路拡大 ○ 食卓を豊かにする新たな加工食品を提供するための商品開発力や技術力、販売力の向上 ○ 農産物の差別化・高付加価値化に向けた販売戦略の構築 * リレー出荷 国(道)内の複数産地が連携しながら、出荷時期などを調整し、国(道)産品を安定的かつ継続的に供給する出荷体制のこと。 - 23 - 《活き活き参考事例》 農家と製粉業者などが連携した春まき小麦の初冬まき栽培 江別市 江 別 麦 の 会 江別麦の会は、「道産小麦100%で麺・パンを作りたい」というラーメン店やパン屋の要望に応えるた め、平成10年に農協、大学、製粉業者、試験研究機関・行政機関により設立。道の農業クラスター支援施 策なども活用しながら、麺やパンに適した小麦の栽培方法や製粉技術について、農家や実需者の協力を得な がら試験・検討しています。 特に、パン向け小麦として人気の高い春まき小麦「ハルユタカ」は、収量が不安定なことから、作付け が減少していましたが、当会が収穫時期を早め、降雨の影響を軽減する「初冬まき栽培」に取り組んだこと により、収量、品質がともに安定し、現在では、江別市内での栽培面積は約400haと全道一になっています。 北国の自然エネルギーを利用した越冬キャベツの栽培 和寒町 和寒町葉菜部会 和寒町では秋に収穫したキャベツを雪の中に貯蔵し、11月から4月までの間、少しずつ掘り出しなが ら計画的に出荷する越冬キャベツの生産が進められています。 30数年前、買取価格が低下した収穫後のキャベツを畑に放置していましたが、春先に雪の下から青さ をたたえたキャベツが顔を出したので、それらを市場に出荷したところ、高値で売れたことから、以来、本 格的に貯蔵技術や栽培品種などの研究を重ね、現在の越冬キャベツが確立されました。 いつ根雪になる雪が降るかを見極めて貯蔵作業を進めることが肝心で、深さ約1.5メートルにもなる 雪の中に保存された越冬キャベツは、凍結を防ぐための生体内防御反応で甘味が増すなど、北国の自然エネ ルギーを有効利用した技術の確立により、和寒町の特産品として、高い評価を得ています。 独自の販売戦略による地域農業の活性化 群馬県富岡市 甘楽富岡農業協同組合 富岡市は、かつては養蚕とコンニャクの有名な産地でしたが、輸入の自由化や相場の急落等により労働 力が流出し農業の衰退が進んだことから、甘楽富岡農業協同組合では、地域特性を活かして多品種少量生産 での直接販売に方向転換することとしました。 ここでの販売は、農家の技術レベルに応じて、①生産技術が一定水準に満たない農家は、アマチュア農 家として、自らが包装や価格を設定し、消費者の反応や売れ行きをみながら技術向上させていく、農協直営 の直売所での販売、②一定水準までに技術が達した農家は、セミプロとして都内量販店に設置した農協の直 売コーナー(インショップ)での販売、③プロレベルに達した農家は、大手量販店や生協との直接取引での 販売、と販売方式を順次移行するステップアップ方式を取り入れています。 また、この直売システムを構築するため、営農指導員として委嘱した地域専業農家による営農指導や住 宅の斡旋などの体制づくりに努め、定年帰農者などの地域農業を担う新規参入者の受入れにも積極的に取り 組んでいます。 こうした取組により、農業者の所得と生産技術の向上が図られるとともに、消費者からも強く支持され るなど、農業者に「やりがい」や「生きがい」が生まれ、地域農業全体の活性化が図られています。 - 24 - 1−③ 地産地消や食育などを通じた消費者と生産者との結び付きの強化 農業と観光など関連産業との結び付きを一層強めながら、地元でとれたものを地 元 で 消 費 す る 「地産地消」、「食」の安全や大切さなどを教え学ぶ「食育」、さらには、 北海道に合った「スローフード運動」などを積極的に展開することにより、食卓と 生産現場、都市と農村との距離を縮め、消費者と生産者とが農業を守っていくとい う共通認識を醸成しながら、健康で豊かな食生活を築くとともに、フード・マイレ ージ* の縮小による環境に対する負荷の軽減や、我が国の食料自給率の向上にも貢 献していきます。 取組の内容 ア スローフードの推進など「愛食運動」の総合的な展開 ○ 地産地消や食育、地域に根ざした食文化の形成など北海道に合ったスローフードを 進める「愛食運動」の推進 ○ 北海道ならではの食文化や食材についての情報収集と発信 ○ おいしく食べる知恵と工夫を活かした新しい食文化の創造 イ 健全な食生活をつくる「地産地消」の推進 ○ ホテル・旅館等の観光・外食産業や食品加工業など関連産業における道産農産物の 積極的な活用 ○ 北海道米の道内消費率*の向上に向けた取組の推進 ウ 消費者に対する「食育」の推進 ○ 学校給食や農業体験学習の活用などによる食料・農業・農村の理解を深めるための 子供たちに対する積極的な食育の推進 ○ 医食同源*、予防医学的見地からの食生活の見直しなどに関する啓発活動の推進 ○ 食生活における無駄・廃棄の減少などに向けた取組の推進 エ 消費者と生産者との結び付きの強化 ○ 農業者の生産活動を支援するCSAやトラスト活動の展開 ○ 生産者等による量販店や消費者への直接販売など「顔の見える関係」づくり * フード・マイレージ 食料の生産地から食卓までの距離に着目し、なるべく近くでとれた食料を食べた方が、輸送に伴う環境汚染が少なくなるという考 え方で、輸入相手国からの輸入量と距離を乗じて求められる。国が行った国民1人当たりのフード・マイレージの試算では、日本が 4,000t・km (H12)であるのに対し、韓国が3,200t・km、米国が500t・km と大きな開きがある。 * 北海道米の道内消費率 道内の米卸売業者の取り扱う米のうち、北海道米の割合で、将来、東北・北陸の米主産県並みの8割を目指している。 * 医食同源 病気を治すのも日常の食事をするのも、ともに生命を養い健康を保つために欠くことのできないもので、その本質は同じだという こと。 - 25 - 《活き活き参考事例》 地元食材にこだわった学校給食による食育 置戸町 置戸町立学校給食センター 置戸町立学校給食センターでは、20年ほど前から地元産の食材を使った給食づくりを行っています。 この取組は管理栄養士である佐々木氏の「成長期の大事な時期に心身とともに味覚も育つように、素材 の持つ本来の味やいろいろな調理方法を知ってもらいたい」という考えが、町や学校などに理解され、関係 者の協力により教育の一環として実現したものです。 1年間に同じメニューを出さず、同じ素材を使っても味や調理法を変えるなどの工夫をしているほか、 地元食材を使い3年熟成の手作り味噌、完熟トマトのパスタソース、フキの塩漬けなど、徹底的なこだわり を持って調理を行っています。また、年に一度、子供たちが工夫を凝らして盛りつけをするオードブル給食 を取り入れ、単に食べるだけでなく、食材や調理に興味を持ち、食べることの楽しみを見い出す取組も積極 的に行っています。 こうした取組により、子供たちは、一日三食食べることの必要性や昔ながらの知恵と工夫がなされた食 文化の素晴らしさを学んでいます。 消費者が生産者を支える新たな農業の展開 恵庭市 えにわ田舎倶楽部 えにわ田舎倶楽部は、地元でできた新鮮でこだわりの野菜を食べたいという願いから、平成8年に恵庭 市民を中心に設立されたもので、消費者が集まって基金を積み、農家に代金を前払いして、野菜を生産し てもらうCSAの取組を進めています。 ここでは、10アール当たり、じゃがいもは50口に、かぼちゃは40口に分けて、いずれも1口5千円で 募集し、その際、①冷害、水害などで収穫できない場合でもお金が戻らない、②野菜は取りに行く、③収 穫などの農作業に参加できる人は協力する、という3つの約束のもとで、消費者が生産者の負担を軽減す るという仕組みをとっています。 これにより、消費者にとっては、作る過程などを共有し、農業についての理解を深めながら、市場で流 通する農産物とは一味違う本物のこだわりの野菜を手に入れることができるとともに、生産者にとっても、 収入が保証され、おいしい野菜の生産に専念することが可能となっています。 消費者と地元の生産者を結ぶ野菜直売所 愛媛県西条市 西条市農業協同組合 平成3年に農協婦人部による「青空100円市」を開設したのが始まりで、平成7年には「水の都西条 市」にちなみ「ときめき水都市(すいといち)」の名で常設の農協直売所として再スタート。これを契機に 新鮮な野菜が買えるという評判が広まり、現在では県内4市に9店舗の直売所を開設し、会員も785名とな っています。 当農協の野菜販売の手法は、個々の農家が「直売所」、「インショップ」、「共販」の3通りから自分に最 もふさわしい販売方法を選択できるようにしていますが、直売所での販売額は共販を上回るまでになり、今 後なお直売所の位置付けは大きくなると見込まれています。 この直売所は「新鮮、安価、安心・安全」をモットーに、農家がその日の朝に収穫したものを直接持ち 込むため、新鮮で、スーパーよりも2、3割安く、さらに、生産者名も表示されていることから消費者に対 する安心感、信頼度も高まっています。 また、商品単価、出荷数量、出荷店舗は、毎日掲示される水都市9店舗の売上状況を判断し、農家個人 が決めるシステムとなっていることから、消費者ニーズに応えた野菜生産に向けて、農家自身が互いに切磋 琢磨し、技術交換や販売研究などに努める動きが活発になっています。 - 26 - 2 『環境』をはぐくむ 2−① 「環境」と調和した生産活動の推進 環境にやさしいクリーン農業について、新たな技術の開発や普及による産地の拡 大など、北海道農業のスタンダードにするための取組を強化するとともに、地域や 生産者の実情に応じて、環境への負荷を最大限に軽減し、安全な食品を求める消費 者の期待に応える有機農業や有機畜産の取組を進めます。 また、家畜ふん尿や農業用廃プラスチックなど、農業生産活動などから生じる副 産物や廃棄物の適正な処理やリサイクル等による有効利用を進めます。 取組の内容 ア 環境にやさしいクリーン農業などの積極的な推進 ○ ○ ○ ○ ○ 環境にやさしいクリーン農業技術の開発と普及 地域の有機性資源等の活用や土層改良などによる土づくりの推進 クリーン農業に取り組む産地の拡大 自給飼料の増産等による土地基盤に立脚した酪農・畜産の推進 環境にやさしい農業を支援する直接支払制度の早期実現に向けた取組の推進 イ 環境への負荷を最小限にした持続性の高い有機農業・有機畜産の推進 ○ ○ ○ 安定的な生産を確保できる有機農業技術の開発と普及 有機畜産を可能とする技術の開発 有機農業の拡大に向けた産地の取組の推進 ウ 農業系廃棄物や副産物の適正な処理・有効利用などによる農村環境の保全 ○ ○ ○ ○ ○ 家畜ふん尿の適正な管理・利用と必要な施設の整備 農業生産活動に伴う農薬や肥料などの環境負荷軽減対策の強化 バイオマス*の効率的な利活用を図るためのシステムの構築 間伐材の家畜敷料への活用など地域における他産業と連携した資源の有効活用の推進 農業用廃プラスチックのリサイクルの推進 * バイオマス 生物資源(量)を表す概念で 、「再生可能な生物由来の有機性資源で、石油や石炭などの化石資源を除いたもの」を指し、具体的に は、農林水産物や稲わら、もみ殻、食品廃棄物、家畜排せつ物、木くずなどで、エネルギ−や新素材として利用できるもの。 バイオマスをエネルギーや製品として利用することは、地球温暖化防止や資源循環型社会の形成、農林漁業の活性化など早急に取り 組むべき課題解決に貢献できることから注目されている。 - 27 - 《活き活き参考事例》 有機栽培による農産物の生産 新篠津村 農事組合法人オーガニック新篠津 農事組合法人オーガニック新篠津は、平成9年に設立され、現在、構成員である8戸の農家は、有機肥 料や土壌微生物を利用した土づくりに取り組み、有機JAS認証を受けて米、野菜などの有機農産物を生産 しています。 安全で新鮮な美味しい農産物の生産に努めながら、関東の大手外食チェーンや札幌市内の量販店などと の契約取引に加え、消費者への直接販売なども行っているほか、「ふれあいファーム」に登録するなど、消 費者との交流活動にも努めています。 また、栽培技術の特徴としては、「毎日が雑草と虫との戦い、毎年が新たな課題への挑戦」と言われるよ うに、病害虫対策では、作物の混植、天敵の利用、虫を寄せ付けない忌避剤の調合、ハーブエキスの散布な どを行い、雑草対策では、手取り除草のほか、アイガモ農法、日光を遮るマルチシートの利用、田畑輪換な どの技術を取り入れ、環境に負荷の少ない、安定的に生産できる技術の研究と確立に取り組んでいます。 畜産と耕種の連携による地域環境保全と堆肥の有効利用 士別市 士別市農業協同組合 士別市農業協同組合では、昭和57年からライスセンターから排出される籾殻と肉用牛農家から排出さ れるふん尿を利用した堆肥づくりを行ってきましたが、ショベルによる混合・切り返しであったことから、 その熟成度合いにバラツキが生じること、屋根のない堆肥盤であったため汚汁の適正管理が困難であった こと、さらに、肉用牛飼養頭数が増加したことなどから、平成12年に堆肥製造施設を設置しました。 この施設は、堆肥原料から完成堆肥まで一貫して施設内に納めることにより、雨水の影響・悪臭等を防 ぐなど、地域環境に配慮したものとなっており、また、約70日間の発酵・熟成を経て製品となった堆肥 は、良質な野菜生産などに取り組む耕種農家の土づくりに欠かせないものとして、全量が管内で利用され るなど、有機質資源の有効活用が図られています。 このように耕畜連携により、家畜ふん尿の適正な処理と良質な完熟堆肥の利用による高付加価値農産物 の生産に向けた取組が進められています。 - 28 - 2−② 「環境」を保全し、心やすらぐ田園空間の創造 洪水の防止など国土の保全や水資源のかん養、大気の浄化など環境の保全、さら には、人々にうるおいとやすらぎを与える美しい景観の形成など、持続的な生産活 動を通じて発揮されている農業・農村の持つ多面的機能の維持・増進を図るため、 道民の理解を深めながら、農林漁業者の連携などによる環境保全の取組を進めると ともに、農業生産の条件が他地域に比べ不利な地域における生産活動に対する支援 や環境に配慮した生産基盤の整備などを進めます。 取組の内容 ア 道民の環境保全の取組への参加の推進 ○ 農業・農村の持つ多面的機能に対する理解の促進 ○ 花や樹木の植栽によるみどりの環境づくりなど地域の身近な環境保全に向けた住民 参加型運動の展開 イ 農業・農村の多面的機能を発揮する環境づくり ○ 生産条件が不利な地域の農業生産活動に対する支援 ○ 農村集落の快適性や安全を確保するための農村生活環境整備や防災対策の推進 ○ 河畔林や防風林の維持・造成など環境保全や農村景観などに配慮した生産基盤と農 村環境の整備 ○ 多様な担い手の確保や農地の利用調整などによる耕作放棄地の発生の抑制と解消の 推進 ○ 農村集落における農地や農業用水などの資源の保全 - 29 - 《活き活き参考事例》 農業施設を活用した環境保全教育 栗山町 南 角 田 地 区 南角田地区では、生活雑排水が水質を悪化させ、これが下流部の用排水兼用水路へ流入し、稲作営農に 支障を来していたため、下流部の水路を用水路と排水路に分離して、排水路には自然の浄化能力を活用した 水質浄化施設の整備を行っています。 この浄化施設は、湿地植物の茎や根の表面に生息する微生物の分解能力を活用し浄化する植物法と流水 と礫を接触させ礫に付着している微生物を活用して分解除去する礫間接触酸化法を取り入れています。 本施設整備後、水環境を保全し改善することを目的に、地域の農業者や会社員など地域住民で構成する 環境保全ボランティアが、当地区小学校児童とともに、浄化施設を活用して水質調査、動植物の生息調査等 を実施し、環境保全に関する教育活動を行うとともに、浄化施設周辺の草刈りなどのボランティア活動にも 取り組んでいます。 自然及び地域環境と調和した農業水利施設 ニセコ町 有 島 地 区 有島地区の排水路は、地域住民の身近な水辺として親しまれ、また、希少種であるオショロコマ等の魚 類やミズバショウの群落が確認されていましたが、護岸の一部が崩壊するなど、機能が喪失されつつありま した。 このため、排水路整備には、これらの機能の保全が図られるよう、景観に配慮した親水施設の整備をは じめ、自然石護岸及び魚道の設置による水生動物等の繁殖環境の確保など、生態系に配慮した工法で農業水 利施設の整備を行っています。 これにより、豊かでうるおいのある快適な環境空間が創出され、農業者と都市住民との交流や子供たち の環境教育、交流の場として活用されています。 - 30 - 3 『人』をはぐくむ 3−① 次代を担う多様で元気な「人」づくり 農業・農村に対する理解の促進をはじめ、多様な新規就農者に対する地域の意識 改革や高度な研修・教育体制の整備、農地の確保など円滑な新規就農を可能とする システムの充実などにより、後継者はもとより、定年帰農を含む新規参入者など、 農業・農村を支える担い手として、意欲と能力のある多様な人材の育成・確保を図 ります。 また、女性が経営や地域活動に参画しやすい環境づくりを進め、女性の能力の発 揮に努めるとともに、高齢者の知恵や匠を活かせるよう、活躍の場づくりを進めます。 取組の内容 ア 多様な担い手を確保する環境づくり ○ 学校教育や農業体験学習などを通じた農業・農村に対する理解の促進 ○ 定年帰農者や自給的農業者を含めた多様な新規参入者を受け入れるための地域にお ける意識改革や情報発信の推進 ○ 後継者やUターン希望者の就農を促進するための地域や学校、家庭内における就農 の動機付けなどの推進 ○ 農業大学校の活用などによる青年農業者や新規就農希望者等に対する研修・教育体 制の充実 ○ 農地や農業機械・施設の確保など、円滑な新規就農の促進に向けたシステムづくり ○ 離農農家の経営資産の円滑な継承 イ 女性や高齢者の能力の発揮 ○ 地域農業や農村の活性化に向けた女性グループなどの地域活動の展開 ○ 子育て支援など女性農業者の経営や社会活動に参画しやすい環境づくり ○ 高齢者の技能や豊富な知識、経験などを活かした農業生産や地域活動の展開 - 31 - 《活き活き参考事例》 多様な担い手が参入できる仕組みづくり 乙 部 町 乙部町では、農家戸数の減少や担い手の高齢化が進行する中、担い手対策として新規参入者を呼び込む こととし、町有地5haにビニールハウスを建設し、新しい基幹作物として推奨している立茎アスパラガスと 高設イチゴの栽培技術を習得させる取組を行っています。 この取組は、普及センターが仕掛け人となって、町、農協が連携して新規就農を促進するための支援策 を確立したもので、新規参入者向けに作付面積に応じた収量、所得、労働時間などを試算できるように3つ の営農モデルを示し、本人が納得した上で就農するスタイルをとっています。さらに、町は堆肥や種苗の購 入などに助成を行うほか、普及センターは徹底した営農技術指導を行い、担い手が安心して営農できる支援 体制がとられています。 こうした関係機関の働きかけによって、現在では28棟のハウスに8人が新規参入しており、また、近 隣町でも新規参入や当該作物の取組が見られ始めています。 さらに、就農相談や研修体制の充実など円滑な就農促進を図るため、新規就農者や研修生が「新たな農 業担い手の会」を組織するなど、農業者自らによる就農環境づくりへの取組も活発化してきています。 女性グループによる伝統の「とりめし」の味の継承 美唄市 郷里の味なかむらえぷろん倶楽部 美唄市中村地区の農家女性グループ「郷里の味なかむらえぷろん倶楽部」では、伝統の「とりめし」の 味の継承と地元産米の消費拡大に取り組んでいます。 このグループは、「地場農産物を利用して付加価値の高い特産品を作ることで地域を活性化し、農家同士 の連帯感を強めるためのコミュニケーションの場を持ちたい」との思いから、米に付加価値を付けることの できる「とりめし」に着目し、その商品化を図ることを目的に、平成10年に設立されました。会員は、家 事や農作業をしながら「とりめし」の製造を行い、市内のAコープや各種イベントなどで販売し、好評を得 ています。 「とりめし」は、明治27年に中村地区に入植した開拓者が、大正期に入ってから遠来の客や集落の祝 い事がある時に唯一のもてなし料理として供していたもので、約100年の歳月を経て、この地に伝わる「と りめし」の味がしっかりと当倶楽部により再現され、今では地域に定着した取組となっています。 - 32 - 3−② 地域農業を支える経営体や組織の育成 認定農業者や農業生産法人の育成とこれら担い手への農地の利用集積を図るとと もに、地域や経営の実情に応じた新たな作物や家畜の導入、農産物の加工や直接販 売といったアグリビジネスの取組など、農業者の創意工夫を活かした経営の複合化 や多角化、本道の実態に即した経営安定のための直接支払制度の早期実現に向けた 取組などを進め、地域農業を支える経営体の体質の強化と安定を図ります。 また、地域農業の持続的な発展に向け、コントラクターや 酪農ヘルパー*など、 農業経営を支援する組織の積極的な育成などにより、地域全体としての農業のシス テムづくりを進めます。 取組の内容 ア 認定農業者や農業生産法人などの積極的な育成 ○ ○ ○ 認定農業者制度の適切な運用などによる地域農業の担い手の育成 新しい農業や地域づくりを先導するリーダーの育成 農業生産法人の設立に向けた意識の啓発や相談・指導体制の充実など法人化の積極 的な推進 ○ 経営管理能力の向上や人材の育成確保、多角化の推進など法人経営の発展・強化 ○ 地域農業の核となる農業生産法人の機械施設整備や自己資本の充実 イ 適切な農地利用の推進と優良農地の確保 ○ 農地の権利移動の調整などによる中核的な担い手への農地の利用集積 ○ 交換分合や換地による農地の集団化など効率的な農地利用の推進 ○ 多様な担い手の農業参入や市民農園の開設など農地の有効利用の推進 ウ 農業経営の体質強化と安定 ○ 新たな作目の導入による経営の複合化やアグリビジネスの取組などによる経営の 多角化 ○ 経営の安定化に資する農業資材の調達コストの低減に向けた取組の推進 ○ 北海道の実態に即した経営安定のための直接支払制度の早期実現に向けた取組の推進 ○ 経営の発展や安定に向けた農業金融対策等の推進 エ 農業経営を支援する組織の育成と多様な経営体による地域農業のシステム化 ○ 労働負担の軽減や機械経費の削減等に向けたコントラクターや酪農ヘルパーなど経 営支援組織の育成 ○ 農業団体の運営基盤の強化と機能の充実 * ○ 中核的な農業者や農業法人、新規参入者や高齢者など多様な経営体の協働 による 地域農業全体としてのシステムづくり * 酪農ヘルパー 酪農家は、朝夕2回の搾乳作業などにより、1年を通じて休みが取りづらい実態にあるが、定期的な休日の確保などにより、ゆとり ある経営を実現できるよう、酪農家に代わって、搾乳や飼料給与などの作業に従事する人のこと。 * 協働 住民・行政・企業など複数の主体が、対等な立場でそれぞれの特性を認め合い、活かしながら、特定の課題の解決など、共通する一 つの目的に向かって、協力して働くこと。 - 33 - 《活き活き参考事例》 南幌町農協の農業生産法人設立への支援 南幌町 南幌町農業協同組合 南幌町農協では、農業者の高齢化や農家戸数の減少等により発生した離農跡地の遊休化が懸念されてい たことから、この離農跡地の受け皿として農業生産法人の育成を図り地域農業を維持していくことを目的に、 平成12年に農業生産法人の設立と運営の支援を行う相談窓口を設置しました。 この窓口は、現状の個人経営診断と数年後の経営シミュレーションを行うとともに、生活面までの相談 と法人設立希望者への具体的な対処と指導を行う専門部署として、組合員自らの意向に基づいて営農相談等 を受け付ける方式をとっています。 また、法人設立に関しては、農協が主体となって関係機関と連携し、法人の基礎的な説明と法人の設立 から運営までの相談等の支援を行っています。 窓口設置当初は農業会議からの指導、支援を受けながらの運営でしたが、担当職員がノウハウを習得す ることにより、現在は円滑な相談、指導が展開されています。 地場企業から農業コントラクター部門への進出 美幌町 芙蓉建設株式会社 芙蓉建設㈱は、総合土木工事業を営む従業員約50名の会社で、従業員の雇用の確保を図るため、平成 5年にグループ企業である2社と3分の1ずつを出資して、三星アグリサポート㈱を設立し、農業のコント ラクター部門に進出しました。 業務は、近隣の3農協と契約し、牧草の収穫、馬鈴しょ・たまねぎの選別、稲わらの梱包、作物輸送等 を行っています。 平成13年には設立時の約10倍の売上げに達するまでに成長し、今では正社員を3名出向させている ほか、最盛期にはパート従業員75名を雇用するなど、地域の雇用対策にも貢献しています。将来的には農 業生産法人を設立し、本格的な農業参入を図る計画となっています。 分業化による酪農作業の効率化の実現 別海町 有限会社ギガファームグループ 別海町中春別地域の酪農家6戸で設立した㈲ギガファームグループは、1戸に育成牛の飼養を全面委託 し、残る5戸が搾乳牛に専念する分業化を行い、ほ育・育成牛一元管理の地域分業組織として、経営の効率 化と生乳の増産を図る酪農経営を展開しています。 平成13年度には、道の補助事業を活用して、ほ育舎やフリーバーンの育成舎を整備し、ほ育・育成部 門では、管理技術に長けていた酪農家が高い技術をもって高品質の育成牛に仕上げています。また、搾乳部 門では、分業化してから9ヶ月後には乳量を約15%増加させるなど、繁殖成績の向上や初産牛の乳量増加 が図られています。 当グループは、経営転換による資本投資や労力の集中化で生産性の向上が可能となること、労働時間の 縮減が図られ、精神的なゆとりができるなどのメリットを活かし、更なる経営発展に向け意欲を燃やしてい ます。 - 34 - 4 『地域』をはぐくむ 4−① 個性を活かしたオンリーワンの「地域」づくり 地域自らが創意と工夫を凝らし、人や自然、文化、風土、歴史、技術、生産物な ど、地域の特色ある資源を活かして、農産加工や直接販売、ファームイン、ファー ムレストランなど、アグリビジネスの振興によるު͈˒ষॲުاɖ や、関連産業 との連携強化による地域のブランドづくりを進めるとともに、地域情報の積極的な 発信などにより、農業を核とした個性豊かな産業おこし・地域おこしを進めます。 取組の内容 ア 地域資源を活かしたアグリビジネスの振興 ○ 地域の個性と資源を活かした農産物の加工や販売、ファームインの取組などアグリ ビジネスの振興に向けた普及・啓発や規制緩和等の環境づくり ○ アグリビジネス実践者のレベルアップや相互の連携強化 ○ 地域農業・農村や特産品などのITを活用した消費者への積極的な情報発信 イ 個性豊かなブランドづくりと地域おこしの推進 ○ ○ ○ ○ ○ 地域の気候・風土に適した新たな特産農産物や加工品の生産振興 農産物の差別化、高付加価値化に向けた地域独自の販売戦略の構築 農業と関連産業との連携などによる個性豊かなブランドづくり 農業を核とした産業クラスター*の形成と多様な産業の振興 地域の住民や異業種との交流を通じた特色ある地域おこし活動の展開 * 農業の6次産業化 生食用や加工品などの原料を単に供給するという農業から、積極的に食品工業(第2次産業)や流通・外食産業・飲食サービス業(第 3次産業)などを取り込み、総合産業化(第6次産業)を実現しようとするもの。第1次産業+第2次産業+第3次産業=第6次産業、 又は、第1次産業×第2次産業×第3次産業=第6次産業という2つの考え方があり、特に後者には、1次産業が0になれば、かけ算 ではすべてが0になってしまうという意味がある。 * 産業クラスター 「クラスター」とは、ぶどうなどの房や魚の群れの意味で、「産業クラスター」とは、地域で優位性のある産業を核とし、その核か ら派生する関連産業間の取引・技術・情報・資金・人材などとの結び付きを強め、そこから新しい産業を創出し、力強い産業群を育成 していこうとするもの。 - 35 - 《活き活き参考事例》 酪農家とチーズ職人が作ったチーズ工房 白糠町 株式会社白糠酪恵舎 ㈱白糠酪恵舎は、白糠町で唯一のチーズ工房で、モッツァレラなどをベースとしたイタリアタイプのチ ーズの製造・販売を行っています。 この工房は、町内の若手酪農家と元農業改良普及員が中心となり、地域の人たちに地元の牛乳を使った 乳製品を提供し、地域の乳食文化を醸成したいという思いから平成13年に設立されたものです。 代表の井ノ口氏は、白糠町と地理的環境も類似しているイタリアのピエモンテで技術を習得したことか ら、現在製造しているチーズもすべてイタリアタイプの10種類となっており、小売店での販売やレスト ラン、パン屋等で食材として取り扱われています。 また、このチーズを応援しようと地元町民や釧路市民を中心に「グッチーズ」という支援団体が組織さ れ、チーズ料理講習会やシンポジュウムの開催などにより酪恵舎チーズの普及・定着活動が行われていま す。現在では会員が400人を超え、会員の口コミで販路や消費の拡大が図られています。 このように、販路を量販店に求めず、地域に根ざした販路開拓と乳食文化の定着にかける熱意が地元住 民の強い支持を得ています。 ゆずの加工品事業による地域おこし 高知県馬路村 馬路村農業協同組合 馬路村はかつて林業中心の村でしたが、国有林事業の経営合理化により過疎化が進んだことから、昭和 38年、生活の糧を得るための施策として、村が苗木代金を補助し、森林組合が苗木を育て、農協が販売 するという村全体でのゆず栽培への取組が始まりました。 しかし、生産者の高齢化により手入れが行き届かなくなったため、次第に野生化し、青果で出荷しても 見栄えが悪く、評価が低かったことから、加工品開発に着目し、当農協の東谷氏の指揮のもと、昭和58 年から本格的に生産、商品開発、製造・販売の取組が始まりました。 特に、平成3年に村の公認ドリンクとして誕生した「ごっくん馬路村」は、村の子供たちに試作品を何 度も試飲させて出来上がった大ヒット商品であり、村のイメージを一変させた商品ともなっています。商 品のPRには、村民をモデルにしたポスターなどを使い、田舎の不利、不便を逆に利用し、日本一の田舎 宣言とともに、村をまるごと売り出したことで、年間2千人もの人が村を訪れるなど、1千2百人余りの 小さな村を明るく元気のある村へと導いています。 地産地消に貢献する直売活動 岩見沢市 上志文ふれあいの郷 農協への一元出荷、市場出荷が一般的であった昭和57年に、岩見沢市上志文地域の女性6名が、これ からは消費者に農業を理解してもらわなければ生き残れないと、農産物を直接販売する活動を始めました。 現在は18名の会員が道道沿いのログハウスで、4月から11月までの220日間無休で自分たちが生 産した新鮮・安全な旬の野菜や花壇用苗物、漬物、もちなどを販売しています。 また、岩見沢消費者協会へ月1回の出張販売を行ったり、市内のイベントに参加するほか、学校給食へ 野菜を提供する活動を行うなど事業を拡大し、地産地消の推進に貢献しています。 直売所の開設により、生産者と消費者がふれあう拠点ができたことで、岩見沢市内はもとより、周辺の 市町村からも多くの人が訪れ、上志文地域は活気あふれる地域となっています。 - 36 - 4−② 農とふれあい、楽しむ場の提供 美しい景観や新鮮でおいしい農産物など、農村の魅力を最大限に活かしたグリー ン・ツーリズムの推進や都市住民が自ら農産物の生産に取り組める環境づくりなど、 都市と農村との交流を一層進めるとともに、学校や家庭との連携による子供たちの 農業体験学習の推進など、農業や「食」、自然環境などに関する教育の場を積極的に 提供します。 取組の内容 ア 「農」とふれあうグリーン・ツーリズムの推進 ○ 地域におけるコンセンサスづくりや活動の核となる人材の育成、ネットワークづくり ○ シンポジュウムの開催など積極的な情報の発信や普及啓発活動の推進 ○ 観光・旅行業者などとの連携による農村体験ツアーの提供など北海道らしい魅力あ るグリーン・ツーリズムの展開 ○ 都市と農村の交流に向けたファームインなどの受入体制や交流基盤の整備 イ 都市住民などの農的暮らしの推進 ○ 農業・農村情報の提供など趣味的農業や生きがい農業を希望する人の移住等を積極 的に受け入れる環境づくり ○ 市民農園の開設など都市住民が農産物を自らの手で生産できる条件の整備 ウ 農村の教育の場などとしての役割の発揮 ○ 生産者のみならず都市住民も参加した地域の農業ビジョンづくりなどを通じた農業 に対する理解の促進 ○ 自然や農業などとのふれあいや教育の場としてのファームステイや山村留学等の受 入体制づくり ○ 学校教育における農業体験学習の拡大 - 37 - 《活き活き参考事例》 農村風景と自然体でもてなすファームイン 新得町 つっちゃんと優子の牧場のへや ファームイン「つっちゃんと優子の牧場のへや」は、日本初の酪農家のファームインとして平成8年に オープンしました。オーナーである湯浅氏は、「無理をしないこと、自然体でいること」をモットーに、 受入客は1日1組(5人)に限定し、その分、自家製の野菜や牛乳など道産食材にこだわった食事で温か く出迎えています。 ここでは、牛の乳搾りなどの農業体験もできますが、何もせず自由に過ごす時間を楽しむなど、過ごし 方は宿泊客が決めるスタイルをとっており、その6割はのびやかな風景と自然体のもてなしに惹かれたリ ピーターで、さらに、その中から3組の人が十勝に移住しています。 また、湯浅氏は、「消費者に現場を知ってもらうのは生産者の責任であり、都市と農村が互いを知り、 支え合うのがファームインの原点である」との考え方に立って、農業・農村がもつ素晴らしさや可能性を 都市住民に広く伝えています。 山村留学で新たな地域づくり 浜頓別町 北海道北オホーツクの大自然で学ぶ会 浜頓別町豊寒別地区は、酪農家を中心とする40世帯弱の集落ですが、平成7年、住民の交流拠点であ る豊寒別小学校が廃校の危機を迎えたことをきっかけに、学校存続を願って、地区住民の大半が参加する 山村留学受入グループ「北海道北オホーツクの大自然で学ぶ会」が発足しました。 この山村留学は、家族で移住する「定住留学」、児童だけが留学する「里親留学」、子供と保護者が一緒 に留学する「親子留学」の3つの制度が設けられており、なかでも4年後に家を建てることを条件に200 坪の宅地を無償譲渡する「定住留学」は本制度の柱となっています。 これまでに延べ100名の留学生を受け入れていますが、留学生とその家族が移り住んできたことによ り、交流の場の広がり、新たな価値観が生まれるなど地域に活気が生まれています。また、豊かな自然環 境の中での生活によって、子供たちの健全な育成などの効果が上がっており、山村留学による新たな農村 コミュニティづくりに全国から注目が集まっています。 農業の6次産業化とふれあいの場づくり 三重県阿山町 農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム 伊賀の里モクモク手づくりファームは、豚肉の輸入自由化や九州との産地間競争の激化などから、養豚 業の生き残りをかけて伊賀地域の豚肉のブランド化を図るため、昭和62年に地域の養豚農家を中心に「ハ ム工房モクモク」として設立しました。 おいしさと安全性にこだわり「伊賀豚」ブランドを誕生させるとともに、手づくりハムやウインナーソ ーセージなどの加工品開発を手がけながら、平成7年には、「自然・農業・手づくり」をテーマとした環 境にやさしく、人にやさしい交流施設として、ファクトリーファーム(農業公園)を設置し、生産部門(米、 麦、野菜、果樹)、加工部門(ハム、ソーセージ、地ビール、パン等)、販売・サービス部門(農産物の直 売、手づくり体験教室、レストラン等)を一体化させた6次産業化を実現しています。 なかでも、新鮮で安心な農産物の直売と誰でも気軽に楽しめる手づくり加工体験は、消費者に人気が高 く、これらを目当てに年間35万人もの人が訪れ、今では三重県の代表的な観光地の一つに成長しています。 また、伊賀地域にある県立高校では一番人気の就職先となるなど、発足当時18人の従業員数も現在で はパートを含め200人を超え、地域の雇用の場として地場産業の畜産を活かしたアイディアにより、ま ちの活性化が図られています。 - 38 - 4−③ 快適で住み良い生活の場づくり 農村の生活の場としての魅力を一層高めていくため、農村ならではのゆとりある 空間の整備・保全や安全で快適な生活環境の整備、農業を中心とした雇用の場の創 出、さらには、高齢化にも対応した保健・医療・福祉等のサービスの充実など、 誰もが安心して暮らせる環境づくりを進めるとともに、農村特有のそれぞれの地域 文化の保全・継承を進めます。 取組の内容 ア 快適でゆとりある生活環境の整備 ○ ○ ○ ○ 豊かな田園空間にふさわしい農村に存在する伝統的農業施設や農村景観の保全・復元 田園住宅などゆとりある居住空間の整備 高齢者などが活き活きと暮らせる地域づくり 快適で住み良い農村の構築に向けた生活基盤の整備 イ 雇用の場の創出 ○ 農村において職を求める者の円滑な就業を促進するための雇用調整システムづくり ○ 新たなビジネスおこしや農業生産法人など組織経営体の育成を通じた就業機会の確保 ウ 農村らしい文化の創造とコミュニティづくり ○ ○ ○ 自然・歴史・伝統・文化等の継承・保全 新たな食文化づくり、個性豊かな地域文化の創造 農村人口の減少や高齢化に対応した新たな農村コミュニティ*の形成 エ 誰もが安心して暮らせる社会サービスの充実 ○ 地域と農業団体との連携等による介護保険サービスなど高齢者や障害者に対する保 健福祉サービスの提供体制の充実 ○ 地域における医療提供体制の充実と健康づくりの推進 * 農村コミュニティ 農村地域の一定の範囲において形成されている共同社会のことで、一般に地域性と共同性という点から、集落が最も基礎的な単位と なっている。特に農村部では、多くの地域において、高齢化・過疎化が早いテンポで進んでいることから、コミュニティ機能の低下が 懸念されている。 - 39 - 《活き活き参考事例》 ミュージカル映画で地域活性化 穂別町 田んぼ deミュージカル実行委員会 穂別町では開町90年・町制施行40年を記念し、平成14年から15年にかけ、町民と町が協働で町 内の高齢者が中心に出演するミュージカル映画「田んぼdeミュージカル」を制作しました。 この映画は、映画監督崔洋一氏の指導を受けながら、撮影、作曲、編集等すべてを平均年齢74歳の高 齢者たちの発想と企画で制作したもので、出演者125人、スタッフ42人、町内の各種団体もボランテ ィアでスタッフ参加しています。 町のお年寄りの元気に生きる姿、戦後から現代までの暮らしの移り変わり、減反やメロン生産への農業 者の思いなど、幅広いテーマを描いており、この映画を機に、新しい地域文化とまちづくりへの関心が高 まってきています。 新たな農村コミュニティと地域づくりをめざして 愛別町 愛 山 地 域 高齢者(65歳以上)割合が全道一高い愛別町の中でも、特に高齢化が進んでいる愛山地域は、人口の減少 や高齢化の進行などにより、コミュニティの崩壊や集落機能の低下が危惧されていました。 町では、住民の意志を確認し産業に活気が戻れば地域も住民も元気になり再生されるとして、新しい地 域づくりをめざしたワークショップを開催しています。 住民と他転出者へのアンケート結果をもとに、多くの人たちの意見を取りまとめ、愛山の特徴を活かし た地域づくり、高齢者の定住対策などの実践に向けた住民主体の取組が進められています。できることか ら始めようと、当地出身者の芸術・文化作品を集めた文化芸術公園を小学校跡地に造り、そばの加工・販 売に向けたそば道場の建設が計画されるなどの取組もみられます。 このワークショップを足がかりに互いの知恵や想い、そして夢がうまく融合し、将来に引き継ぐ活き活 きとしたむらづくりをめざした地域プランづくりが進められています。 - 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