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4)衛星搭載型降雨レーダーを用いた地上設置型

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4)衛星搭載型降雨レーダーを用いた地上設置型
Ⅰ. 自然災害軽減・保全技術
4)衛星搭載型降雨レーダーを用いた地上設置型レーダーの補正
背
景
数値気象予測モデルを用いた短時間降雨予測の精度向上において,複数台の地上設置型気象レーダーで把握
できる広範囲の降雨量をデータ同化することは有力な手段である。そのためには,それぞれのレーダー観測値が高
品質でかつ,レーダー間でデータの質に大きな差がないことが求められるが,これらの品質を数少ない地上雨量計デ
ータのみから評価するのは難しい。近年,衛星に搭載された降雨レーダー観測が実現し,広範囲に一様な質を有す
るレーダー観測値を取得できるようになった(図-1)。地上気象レーダーそれぞれの観測誤差を評価し,それらのデー
タの質を合わせる補正を行う上で,この衛星データの有効活用が期待される。
目
的
衛星搭載型降雨レーダーTRMM PR による観測データをもとに,地上気象レーダーの観測誤差を評価し,その観測
誤差が降雨量推定に及ぼす影響について明らかにする。
主な成果
1.
推定された地上気象レーダーの観測誤差とその時間推移
1台の地上気象レーダーを対象に,約 1 年間に生じた 13 の降雨事例を解析し,系統的な観測誤差(バイアス)量を
推定した。その結果,本レーダーは高品質な TRMM PR データに対して一貫して小さい観測値を示す(負のバイアス
をもつ)傾向にあることがわかった(図-2)。このバイアス量は事例ごとに変動するものの,数ヶ月間という短期間ではそ
の変動は 1 dB 以内と小さく,レーダーシステムの安定性を示唆していた。しかし,長期的には 2 dB 程度のバイアス
量の変化が見られた (図-3)。このように,衛星搭載型降雨レーダーによる観測値は,地上気象レーダーの長期的な
観測誤差の変動を監視し,誤差を補正するのに有効である。
2.
地上気象レーダーの観測誤差が降雨量推定に及ぼす影響
地上における降雨量の推定は,レーダーの運用前に決定した関係式を用いてレーダー観測値を変換することによ
って行われることが多い。この場合,あるレーダー観測値 Z-地上降雨量 R の関係式(Z-R 関係)を例に用いれば,
レーダー観測における 2 dB のバイアスは 30 % 強の降雨量の推定誤差を生ずる場合がある(図-4)。その意味で,
図-2 の推定バイアス量の絶対値は大きな誤差といえる。ただし,実運用ではレーダーのバイアス量をある程度反映し
た Z-R 関係をあらかじめ同定するため,推定バイアス量が降雨量の推定誤差に及ぼす影響はより小さいと考えられる。
一方,バイアス量の長期的な変化(本検討例では約 2 dB)は,確実に地上降雨量の推定誤差要因となる。
今後の展開
実用目的でネットワーク化されている地上気象レーダーに対して本手法を適用し,それぞれのレーダーにおけるバ
イアス量を推定する。さらに,バイアス量を加味した地上気象レーダー情報を気象モデルのデータ同化に利用するこ
とによって降水予測の精度向上を図る。
主担当者 地球工学研究所 流体科学領域 主任研究員 杉本 聡一郎
関連報告書
杉本: 衛星搭載型降雨レーダーを利用した地上設置型レーダーの補正. 電力中央研究所報告: U03045 (2004
年 3 月)
杉本、下垣: 気象レーダーを用いた降水観測および短時間降雨予測の研究現状に関する調査. 電力中央研究所
調査報告: U99041 (2000 年 3 月)
◇降雨・降雪災害軽減技術◇
215 km
図-1 衛星搭載型レーダーTRMM PR による観測例 (左:観測イメージ,右:高度 3 km における降雨分布)
降雨レーダーを搭載した衛星はこの TRMM だけである。観測幅 215 km を水平方向約 5 km,鉛直
方向 250 m 間隔で観測している。日本上空には 1 日 2 回通過する。
-4
Bias [dB]
60
TRMM [dBZ]
50
40
30
-7
-8
-10
20
0
20 2/06
02 /30
/0
20 7/10
02
/08
/23
20
02
/10
/01
20
02
/
20 11/2
02
5
/
20 12/21
03
/01
/
20
03 19
/
20 03/
0
20 3/03 01
03 /25
/04
/05
20
0
3
20 /05
2003/0 /19
03 6/0
/06 4
/18
B : -5.96 dB
10
0
10
20
30
40
50
60
図-3 推定されたバイアス量の時系列 (縦棒は信頼度区間
に基づいた推定値が信頼できる範囲)
Ground-Based Radar [dBZ]
図-2 雷レーダー(横軸)と TRMM PR との
比較例 (B はバイアス量)
各短期間(円で囲まれた期間)では,バイアス量の変動は
小さく,レーダーシステムの安定性を示唆している。ただ
し,長期的には比較的大きなバイアス量の変化が見られ
る。なお,矢印の事例は,台風の中心が比較領域周辺に
存在し,もたらされた強風のためバイアス量の推定に誤差
が生じたと考えられる事例を示す。
雷レーダーは TRMM PR よりも約 6 dB
小さい値を観測する傾向にあるのが明確
に把握できる。
70
補正前
補正後
60
地上降雨量 [mm/hr]
-6
-9
20
0
-5
50
40
図-4 レーダー観測値のバイアスが地上降雨量推定
に及ぼす影響 (実線:補正前(観測値),点線:補正
後,横軸:レーダー観測値,縦軸:地上降雨量,-2
dB の観測バイアスを想定)
バイアス補正により 36 %
の推定降雨量が増加
30
20
15
10
5
2
0.1
15
20
25
30
35
40
レーダー観測値 (dBZ)
45
50
-2 dB の 観 測 バ イ ア ス は 降 雨 量 と し て は 約
30 % 強の過小評価につながる。降雨量が多い
場合,もしくは評価領域が広い場合には,この
誤差は顕著になる。
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