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10) 臨海コンクリート構造物の塩害に対する耐久性

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10) 臨海コンクリート構造物の塩害に対する耐久性
Ⅰ. 自然災害軽減・保生技術
10)
背
臨海コンクリート構造物の塩害に対する耐久性照査法の合理化
景
臨海コンクリート構造物の設計では,塩害に対する耐久性照査が重要な課題のひとつとなる。ここで,鉄筋腐食の
発生を照査の限界状態とする場合には,腐食発生の判定値となる塩化物イオン濃度が必要であり,鉄筋腐食による
ひび割れの発生を照査の限界状態とする場合には,鉄筋の腐食速度評価が必要である。しかし,これらの評価に関
する現行の基準値,評価式の多くは陸上の構造物のデータに基づいており,比較的含水量の多い干満帯のコンクリ
ート構造物では酸素の透過量が少ないため,必ずしも合理的な照査とならない可能性がある。
目
的
干満帯のコンクリート構造物の鉄筋腐食について,その発生限界塩化物イオン濃度,ならびに腐食速度に与える塩
化物イオン濃度,かぶり,水位変動の影響を評価し,塩害に対する耐久性照査法の合理化に資する。
主な成果
干満帯を模擬した 3 種類の環境(干満帯上部:1 日 2 回各 30 分間の塩水への浸漬,干満帯中央部:1 日 2 回
各 6 時間の塩水への浸漬,海水中:常に塩水中)における鉄筋腐食評価実験(図-1),ならびに水中・気中の繰返
し環境における鉄筋腐食評価実験を約 2 年間行い,以下の成果を得た。
1. 鉄筋腐食発生限界の塩化物イオン濃度
干満帯を模擬した環境中における腐食発生限界の塩化物イオン濃度は 4.0~6.0kg/m3 の範囲にあり,この値は
土木学会の基準値 1.2kg/m3 よりも高い。したがって,鉄筋位置の塩化物イオン濃度の限界値をより大きな値に設
定することにより,干満帯の鉄筋コンクリート構造物の耐久性照査を合理化できる可能性がある。(図-2)
2.
鉄筋の腐食速度
干満帯上部の腐食速度は,塩化物イオン濃度が高い方が大きく,時間経過に従い増大し収束する傾向を示す。
(図-2)干満帯中央部以下の部分の腐食速度は,コンクリート中の塩化物イオン濃度が高い場合でも比較的小さ
い。このようにコンクリートが飽水状態に近い部位では,鉄筋の腐食速度が小さいため,腐食によるひび割れ発生
を限界状態とすれば,実態に則して,耐久性照査における耐用期間をより長く設定することが可能である。
3.
鉄筋の腐食反応の律則要因
腐食の促進要因である酸素の供給と,抑制要因であるコンクリートの電気抵抗の増減は,ともにコンクリート中の
水分量に依存するため,鉄筋の腐食速度は,特定の水分量で極大値を示す。すなわち,干満帯においては,酸
素の供給量が腐食の律則要因となり,水分量の増加とともに腐食速度は低下し,気中環境では,コンクリート抵抗
が腐食の律則要因となり,水分量の低下とともに腐食速度は低下する。(図-3,図-4)
今後の展開
今後は,水分量と腐食速度の関係をより定量的に評価するとともに,部材および構造物レベルでのマクロ的な
腐食進行性状を把握することにより,火力・原子力発電所の取放水コンクリート構造物など,臨海コンクリート構造
物の鉄筋腐食進行に関する評価手法の高度化を図る。
主担当者 地球工学研究所 構造工学領域 主任研究員 松村 卓郎
関連報告書
松村,他:臨海コンクリート構造物の干満帯部分の鉄筋腐食評価.電力中央研究所報告:U03039 (2004.3)
松村,他:海岸近くの大気中に位置するコンクリート構造物の鉄筋腐食進行評価手法.電力中央研究所報告:
U98034 (1999.3)
◇電力構造物維持管理技術◇
コンクリート部材
海水
腐食速度の対数値
2
(log(mg/cm /sec))
干満帯上部
毎日 2 回 30 分間水没する
最高水位
干満帯中央部
毎日 2 回 6 時間水没する
最低水位
海水中
-4
-5
-6
-7
-8
-9
-10
-11
-12
-13
-14
0
常時海水中に水没してい
20
40
る
図-1 干満を模擬した3種類の実験条件
腐食速度の対数値
(log(mg/cm2/sec))
気中
1
水中
1
気中
2
水中
2
気中
3
60 80 100 120 140 160
経過時間(日)
図-2 腐食速度の経時変化(干満帯上部)
Cl-濃度 2kg/m3,4kg/m3 の場合では,腐食速度がかなり小
さく,ほとんど腐食が進行しないと判断できる。また,腐食速度
は,塩化物イオン濃度が高い方が大きく,時間経過に従い増
大し,収束する傾向を示す。
干満帯を模擬した 3 種類の条件の鉄筋腐
食評価実験をそれぞれ 95、151、763 日間行
った。
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
-10
-11
-12
●Cl-濃度
2kg/m33
●Cl
濃度2kg/m
▲Cl-濃度
4kg/m33
▲Cl
濃度4kg/m
■Cl
濃度6kg/m
■Cl-濃度
6kg/m33
3
●Cl-濃度8kg/m
●Cl-濃度 8kg/m3
3
▲Cl-濃度10kg/m
▲Cl-濃度 10kg/m3
かぶり5cm
水中
3
気中5
(40℃)
気中4
かぶり5cm、Cl-濃度10kg/m3
0
100
200
300
400
経過時間(日)
500
600
700
この2本の線が
太いのは,ここ
で条件が大きく
変わっているた
800
めです。
(松村)
図-3 水中・気中繰返し実験の腐食速度の経時変化
一定期間水中・気中の繰返し環境における鉄筋腐食評価実験を約 2 年間行った。鉄筋の腐食速度は水位の
変動の影響を受け,気中で増大し,水中で低下する。しかし,気中の期間が続くと,腐食速度の増大傾向が鈍
り、次第に減少する傾向に転じる。
大
← コンクリート抵抗
→
小
大
←
→
小
酸素の供給量
コンクリート抵抗が
支配的
大
酸素の供給量が
支配的
高
塩化物イオン濃度
腐食速度
低
常時
海水中
干 満 帯
気 中 環 境
小
飽水状態
小
コンクリート中の水分量
大
図-4 腐食速度に影響を与える要因の関係図
干満帯では,コンクリート中の水分量が
大きくなると,酸素の供給量が少なくなる
ので,鉄筋の腐食速度は小さくなり,常時
海水中では非常に小さい腐食速度を示す。
一方,コンクリート中の水分量が小さくな
ると,酸素の供給量が多くなるので,腐食
速度は大きくなるが,コンクリート抵抗が
大きくなるので,腐食速度はあまり増大し
なくなり,極大値を示す。コンクリートが
乾燥する気中環境では,コンクリート抵抗
がさらに大きくなるので,腐食速度は小さ
くなる傾向がある。また,腐食速度はコン
クリート中の塩化物イオン濃度が高い程,
大きい。
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