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意外性のある燃焼実験
中学第一分野 意外性のある燃焼実験 広島県甲山町立甲山中学校 目 的 「水や二酸化炭素は火を消すものであり、それらの 中ではものは燃えない。」そんな生徒の常識や既成概 念を打ち砕くような燃焼実験に取り組ませることで、 化学変化に対する興味・関心を喚起させるとともに、 化学変化の不思議さや面白さを味わわせる。そして、 化学変化を、モデルや化学反応式を使って思考させ、 反応生成物を予測し検証することで、化学変化に対す る理解と認識を深めさせる。 中 和 洋 之* そこで、マグネシウムを内壁に接触させず、試験管 の中心に垂直に差し込めるように、写真 1 のような、 2 段式のガイド試験管付きゴム栓を製作した。 概 要 生徒は、マグネシウムが水蒸気中や沸騰水中、二酸 化炭素中で激しく燃焼する実験をすることによって、 常識を覆す結果を目の当たりにする。しかし、この驚 きはすぐに疑問へと変わり、生徒たちは課題追求に向 かって思考し始める。そこで、実験観察結果をもとに、 化学反応を原子や分子のモデルを使って考えさせなが ら、化学反応式をつくらせ、反応生成物を推測させる。 そして、水や二酸化炭素がマグネシウムによって還元 されて生成する水素や炭素の検証実験を行うことで、 自分たちが予測した化学反応を明確なものにする。 これらの反応は、後に行う「還元」の学習にもつな がり、大変学習効果の高い化学教材である。 教材・教具の製作方法 ø. ガイド試験管付きゴム栓 生徒実験は大型試験管を使って行う。それは、集気 びんに比べて安価で、使用する気体も少なくてすむの で、少人数の実験や繰り返し実験が容易になるからで ある。また、燃焼生成物として内壁に付着する酸化マ グネシウムや炭素などの洗浄が、集気びんに比べて簡 単にできることも利点である。 しかし、大型試験管で生徒が実験すると、燃焼中の マグネシウムが内壁に接触して、ガラス(SiO2)が還 元され、Mg2Si(ケイ化マグネシウム)が生成して黒 くなることが多い(写真 1)。これが原因で酸素中の燃 焼で黒色物質ができると、二酸化炭素中の燃焼との違 いが明確にならないので、混乱する生徒が出てくる。 * 写真 1 ガイド試験管付きゴム栓とその使用効果 ¿. 水蒸気で満たした密閉容器内でマグネシウム を燃焼させ、生成する水素を簡単に取り出し て同定することができる装置 生徒は、原子のモデルや化学反応式から、マグネシ ウムと水が反応すると、水素が発生すると推測する。 では、どうすればそれが確かめられるのか。大型試験 管では、燃焼することは簡単に確認できるが、発生し た水素はすぐに逃げてしまい、その発生を確認するこ とはできない。 そこで、 写真 2 のような装置を考案した。 ア スライダック イ 真鍮パイプの先に、マグネシウムリボンの取り付 けが簡単にできるように、ステンレス製のクリップ をステンレスねじで付ける。真鍮パイプの反対側は ハンダで密封し、2 本をゴム栓に刺す。 なかわ ひろゆき 広島県甲山町立甲山中学校 教諭 〒 722-1121 広島県世羅郡甲山町西上原 1469-1 @(0847) 22-0037 E-mail [email protected] 1 ウ クリップのはさむ部分は、サンドペーパーで磨い ておく。マグネシウムは、リボン状のものをはさみ で半分に切り、2 本をよじってからクリップではさ む。これで 1 本が接触不良や断線しても、もう 1 本 が燃焼すれば中央で燃え移り 2 本とも燃焼する。さ らに、もう 1 本のマグネシウムリボンをコイル状に して中央に引っかけておくことで、マグネシウム 3 本を燃焼させることができる。 エ 反応容器はフラスコを使う。この実験は演示実験 であり、容器が大きい方が、風船のふくらみなどの 変化も大きくなる。 オ 風船をフラスコに L 字管で接続する。これは、 ①水蒸気の発生と凝縮や水素の発生による体積変化 に対応させる。 ②発生した水素を最終的に風船に集める。 という 2 つの役目を果たす。反応時には大きく膨れ るので、水素が生成したことを感じさせる。しかし、 膨れるのは、燃焼熱によって水蒸気や水素が膨張す ることが原因である。風船とガラス管を接続するの にゴム栓を使うと、取り付けが容易である。 カ フェノールフタレイン液を加えた水で満たしたマ ヨネーズ容器を、 ゴム管で T 字管に接続する。これは、 ①反応後に、容器中に残った水蒸気が凝縮して内部 圧が低下すると、フェノールフタレイン液を加え た水が容器内に入っていき赤色になる。 ②マヨネーズ容器をしぼって中の水をフラスコ内に 入れることで、フラスコ内に残った気体(水素) を風船に送り込む。 という 2 つの役目を果たす。 キ T 字管の上方にはガラス管をつなぐ。風船に集め た水素をここから取り出して確認する。 写真 3 マグネシウムの取り付け部分 学習指導方法 ø.燃焼しているマグネシウムを、水、水蒸気、 沸騰水の中に入れたときの変化 ∼簡単に生徒実験ができ、大変意外性のある実験∼ 1. 水との反応 ビーカーに水を入れておき、その水の中に燃焼して いるマグネシウムを入れる。水面で一瞬燃えるが、水 中では燃えない。しかしゆっくり反応して水素の泡が 出て、フェノールフタレイン液がしだいに赤くなる。 2. 水蒸気や沸騰水との反応(写真 4) ①大型試験管で少量の水を沸騰させ、試験管内を水蒸 気で満たす。 (写真 5 の方法で確認) ②火をつけたマグネシウムを試験管の中程に入れ、水 蒸気中での燃焼を観察する。 ③燃焼しているマグネシウムを沸騰水の中に落とし、 沸騰水中での燃焼を観察する。 ④∼⑤反応で白色物質(水酸化マグネシウム)ができ、 水にとけて弱アルカリ性を示すので、フェノールフ タレイン液を加えると赤くなる。 【マグネシウムと水の反応】 Mg + 2H2O → Mg (OH)2 + H2 写真 4 マグネシウムの水蒸気や沸騰水との反応 ¿. マグネシウムが水蒸気中で燃焼したときに生 じる水素を確認する実験 写真 2 水蒸気との反応装置 2 1. 燃焼実験の前にフラスコ内が水蒸気で満たされた ことを確認する 実験前にこの確認をしないと、空気(酸素)が残っ ていたので燃えたと考える生徒が出てくる。そこで、 写真 5 のようにして、フラスコ内の空気が水蒸気で置 換され、気泡が発生しなくなるまで加熱を続ける。 れ、フラスコ内の水素を風船に送り込む。 ⑥∼⑦気体(水素)を試験管に集め、火をつけると、 ポッと音を立てて燃える。 ⑧∼⑩ガラス管にシャボン液をつけて水素のシャボン 玉をつくると、浮き上がる。これに火をつけるとポ ッと燃え、水素の確認ができる。 ※この装置は、フラスコ内で、特定の気体中における、 様々な物質の燃焼実験等に応用が可能である。 ¡.実験レポートで反応のまとめをし、化学反応 についての理解を深めさせる。 起こった化学変化を、原子や分子のモデルや化学反 応式を利用して考えさせるとともに、化学反応を自分 の言葉で表現させることで、理解を深めさせる。 写真 5 容器内が水蒸気で満たされたかの確認 2. マグネシウムが水蒸気中で燃焼したときに生じる 水素を確認する実験(写真 6) ①マグネシウム燃焼装置をセットし、加熱をやめ、ス ライダックで 5V をかけ、ジュール熱によって点火 に至らせる。 ②マグネシウムが水蒸気中で燃焼し、水素が発生する。 気体の熱膨張により、風船が一気に膨れる。 ③燃焼終了後、水蒸気の凝縮によって容器内の気体の 体積が減り、風船が縮み始める。 ④風船がしぼんだ後も凝縮が進み、マヨネーズ容器か らフェノールフタレイン液が入って赤くなる。 ⑤マヨネーズ容器をしぼってフラスコ内に水を押し入 ¬.水素による酸化銅の還元実験装置の工夫 ∼水素の消費と水の生成がよくわかる∼ 1. 水素を上方置換法で集気びんの体積分集める器具 この実験では、反応容器内での水の生成を確認する 必要があるので、水上置換法は使えない。しかし、上 方置換法では無色透明な水素(ボンベの水素は高価) がどこまで入ったかがわからないし、水素が不足する と反応が十分に進まない。そこで、写真 7 のような器 具を考案した。上下の集気びんはガラス管でつながっ ており、上に水素が入っただけ下に空気が移り、下か ら同量の水が出ていく(①→②→③)ので、水素が入 った量が視覚的にとらえられ、水素の無駄も不足も起 こらない。 写真 6 マグネシウムが水蒸気中で燃焼したときに生じる水素を確認する実験 3 実践効果 ø. 意外性のある燃焼実験により、興味・関心が 高まった。 写真 7 水素の上方置換装置 2. 反応皿と反応容器 反応皿は、ステンレス製のさじを写真 8 のように曲 げて作る。途中を曲げているのは、熱が伝わることを 考えて、ゴム栓までの距離を長くするためである。 ①加熱して酸化銅を高温にする。 ②、⑥水素で満たした集気びんをかぶせると酸化銅が 赤熱して反応が起こり、赤褐色の銅が生成する。同 時に、生じた水によって内壁がくもる。 ③反応で消費された水素の体積分だけ水が下から入っ てくるので、水素の消費が視覚的にも理解できる。 ④∼⑤ピンチコックを開くと、上の集気びんに空気が 入り、水が下の集気びんに移る。 ⑦内壁のくもりの原因が水であることを塩化コバルト 紙で確認する。 ⑧赤褐色の生成物を薬さじの裏でこすると、銅独特の 金属光沢が見られる。 ⑨電流を通し、金属の特徴を有する。 写真 8 水素による酸化銅の還元 √.花火の水中での燃焼実験 ∼絶対消えると思ったのに∼ 酸化剤を含むから ƒ.粉塵爆発実験 ∼砂糖が爆発するなんて∼ 化学反応と表面積 4 ・生徒たちは、今日はどんな実験が…と期待感をもっ て早くから理科室に集まり、授業にも集中して取り 組んだ。 ・授業後には、「先生すごかった!まさか水の中で燃 えるとは思わなかったよ。マグネシウムはすごく酸素原 子 が好きなんだね。次の時間はどんなことをする の?」と満足感と期待を込めた言葉を掛けてくれた。 ・生徒たちは、常識や予想をくつがえす実験の数々に、 驚き、歓声を上げ、これはいったいどうなるのかと 期待に胸をふくらませながら、嬉々として実験に取 り組んでいた。 ・本実験教材とその授業によって、生徒の酸化還元に 対しての興味・関心が、確かに高まっていることが 実感できた。 b b ¿. 化学変化に対しての理解が深まった。 ・化学反応を原子や分子のモデルで表したり、化学反 応式をつくっていくことで、未知の生成物を予測す ることができるようになってきた。 ・化学反応は原子の結びつきの変化であり、原子と原 子の結合力の違いによって反応が起こっていくこと が理解できたようである。 ・化学反応や物質を、分子や原子のレベルでとらえ、 考えていくことができるようになってきた手応えを 感じる。 ◇生徒の実験レポートより ・水中で瞬間的にマグネシウムが燃えたのが感動的だ った。火は水の中に入れると消えると、今まで当た り前と思っていたのに、意外性のあることや予想外 のことが起こって驚いた。 ・3 つとも同じ水なのに、状態や温度の違いでこんな に激しく反応が起きるとは思わなかった。おもしろ くて不思議だと思いました。 ・二酸化炭素の中ではものが燃えないというのが常識 だったけど、意外でした。炭が残るのも予想に全然 なかったので驚きました。 ・マグネシウムは酸素がない水中や二酸化炭素中で も、相手を還元し、酸素原子を奪って燃えることが わかった。還元が起こると同時に酸化が起きること もよく分かった。化学変化が原子の結びつきの変化 であることや、化学反応式がよく分かりました。