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原子の粒子モデルの有用性を実感する授業

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原子の粒子モデルの有用性を実感する授業
丹羽 徹
新潟大学教育学部附属新潟中学校 原子の粒子モデルの有用性を実感する授業
〜マグネシウムと炭素を使った酸化銅の還元〜
1.はじめに
体積が一時的に増すが,鉄を燃焼させる
2 年生「化学変化と原子・分子」の単元で
と集気ビン内の気体の体積が減少するこ
は,「原子の粒子性」について本格的に学習
とを酸素原子の化合によって説明する。
する単元である。化学変化の予想や結果の解
2 次 還元反応はどうして起きるのか
釈を行う場面で,原子の粒子モデルが有用で
【習得】酸化銅が炭素によって還元される
あることを実感させることのできる大切な単
ことから,酸素原子の結び付きやすさは
元である。
相手の原子の種類によって異なることを
これまでの実践では,原子の粒子モデルの
知る。
利用は限定的で,化学変化の実験を行った後
【活用】酸化銅に炭素とマグネシウムを混
に,そこで起こった現象に合わせて原子の粒
ぜて加熱すると,酸化銅の酸素は優先的
子モデルを当てはめていくことが多かった。
にマグネシウムと結び付くことから,酸
本実践では,「酸化と還元」について,原
素原子の結び付きやすさは(Cu < C <
子の粒子モデルを使った習得と活用を含む複
数の実験を行い,物質の反応性の違いについ
てわかったことを活用して,予想を立てたり,
Mg)であることを説明する。
3 次 マグネシウムは二酸化炭素中でも燃
えるか
結果を解釈したりする場面を設定した。さら
【活用】二酸化炭素中でマグネシウムが燃
に,生徒が予想や解釈をする際に,実際に操
焼する仕組みを,酸素原子の結び付きや
作できる原子の粒子モデル(原子カード)を
すさ(Cu < C < Mg)を使って説明する。
提示した。こうすることで,生徒は原子の粒
子モデルの有用性を実感することになると考
えた。
(2)教材の工夫
マグネシウムは炭素よりも酸素と結び付き
やすいことを見いだす生徒実験を工夫した。
酸化銅粉末 0.4g,炭素粉末 0.1g,マグネ
2.具体的な工夫
(1)単元構成の工夫
新しく身に付けた原子や分子に対する見方
や考え方を活用させるため,単元の中に「習
シウム粉末 0.1g を準備し,それぞれを試験
管に入れる。試験管を転がすように回転して,
中の物質を軽く混ぜ合わせる。酸化銅は粉末
の塊がある方が,銅が粒として得られるので,
得→活用」の場面を繰り返し設定する流れと
した。
<単元の流れ>
1 次 燃焼では何が起きているか
【習得】燃焼とは酸素原子が化合すること
を知る。
【活用】酸素を満たした集気ビンの中で,
炭素を燃焼させると集気ビン内の気体の
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実験装置
乳鉢等ですりつぶさない方がよい。
上図のように,試験管にゴム管をつなぎ,
ないので,紙に粒子モデルを描くよりも正確
に化学反応を予想したり,考察したりできる。
石灰水の入ったビーカーまで延ばす。ガス
また,ホワイトボードには磁石が付いている
バーナーで 5 分間程度強く加熱すると,試験
ので,教師が各自のホワイトボードを分類し
管内の物質が反
ながら黒板に掲示した。黒板の前に生徒を集
応して赤色にな
め,ホワイトボードの内容について交流させ
る。同時に,多
た。
量の気体が発生
する。反応後は
3.実践(生徒のようす)
ゴム管を石灰水
1 次 燃焼では何が起きているのか
から取り出して
反応の様子
生徒に対する事前調査では,「燃焼には酸
加熱を止め,石
素が必要である」ことを全ての生徒が知って
灰水が試験管に
いた。しかし,「燃焼では酸素が物質と化合
流入するのを防
している」ことを知っている生徒は 20%で
ぐためにゴム管
あった。そこで,燃焼の仕組みを酸素原子の
をピンチコック
はたらきで説明できるようになることをね
で閉じる。石灰
らった。
水が濁っていな
始めに,スチールウールを載せて天秤を釣
いことを確認し, 銅の粒と残った炭素粉末
り合わせた。スチールウールを燃やすと重く
試験管が冷えてから薬包紙に生成物を取り出
なる実験をし,鉄の燃焼では酸素原子が化合
すと銅の粒と炭素粉末が得られる。
することを原子の粒子モデルで確認した。次
※マグネシウムの量が多いと温度が上がり
過ぎて試験管が融けるので要注意。
(3)教具の工夫
に,同じように天秤で釣り合わせた木炭を燃
やすと,木炭は軽くなった。さらに,水を
張ったトレイに酸素で満たした集気ビンを立
各自が操作できる「原子カード」を提示し
て,ビンの中で鉄を燃やすとビンに水が浸入
た。100 円ショップで,インクジェット印刷
した。しかし,木炭を燃やした場合は集気ビ
可能なマグネットシートと B5 サイズのミニ
ンから気体が発生した(一時的な気体の熱膨
ホワイトボードを購入し全員に配付した。マ
張によるものなので,木炭が燃えつきて冷え
グネットシートには原子の粒子モデルを印刷
ると少し水面が上
し,「原子カード」として切り取って各自が
が る )。 一 方, 炭
ミニホワイトボード上で操作できるようにし
素が燃焼して発生
た。原子カードは途中で消去することができ
した気体は石灰水
を白濁させた。
続いて,前提と
鉄を燃焼した時の天秤
して「燃焼とは酸
素原子が結合する
こと」を確認した
後,次の発問をし
ミニホワイトボードの分類
た。
集気ビンに浸入する水
教科研究理科 No.194
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原子の粒子モデルの有用性を実感する授業
(問)鉄(スチールウール)と木炭の燃焼
実験を対比し,集気ビン内での燃焼の仕組
みを原子の粒子モデルで説明しなさい。
対比してわかったことを学級で交流した結
果,共通点として
「酸素原子が結合すること」,
相違点として「鉄は燃焼すると,酸素と結合
するが,炭素は燃焼すると,二酸化炭素とし
なることを説明することができた。
次に,原子の種類によって酸素原子との結
び付きやすさが異なるという考え方を深めさ
せるために次の発問を行った。
(問)酸化銅と炭素とマグネシウムの粉末
を混ぜ合わせ,強熱するとどのような反応
が起きるか。
て分散する」ことをあげた。そして,下図のよ
始めに,酸化銅を炭素で還元する実験から
うに,集気ビン内での燃焼の様子を原子の粒
明らかになった「酸素は銅よりも炭素と結び
子モデルを使ってワークシートに記述した。
付きやすい。(Cu < C)」という規則性を前
提として確認させた。その上で,「もし,~
なら」という仮定表現を使って起こりうる反
応の可能性を考えさせた。
生徒の記述(酸素分子については後日修正)
2 次 還元反応はどうして起きるのか
生徒は化学変化を原子の組み替えによって
説明することができるようになっている。そ
こで,この場面では,「原子は,種類によっ
て酸素原子との結び付きやすさが変わるこ
と」を説明させるねらいで次の発問をした。
(問)酸化銅と炭素の粉末を混ぜ合わせ,
強熱するとどのような反応が起きるか。
酸素原子との結び付きの強さを仮定した記述
次に,実験への見通しを持たせるため,ミ
ニホワイトボードと原子カードを使って各自
「もし,~なら」という仮定表現を使って
の考えを班内で交流させた。生徒の多くが,
起こりうる反応の可能性を考えさせ,ミニホ
マグネシウムが閃光を放って激しい燃焼をす
ワイトボードと原子カードを使って班内で交
ることを理由に,酸化銅は炭素よりもマグネ
流させた。その結果,銅と二酸化炭素ができ
シウムによって還元されると予想した。班単
ることを予想し,生徒は実験に見通しを持つ
位で実験した結果,石灰水は白く濁らなかっ
ことができた。さらに,銅は薬さじでこすっ
たこと,反応後には赤茶色の粒(Cu)と白
て光沢を確認し,二酸化炭素は石灰水を通し
い粒(MgO),黒い
て確認するという検証方法も事前に出すこと
粉(C)が残ったこ
ができた。その後,実験によって銅と二酸化
とが確認できた。生
炭素が生成したことを確認し,酸化と還元の
成した物質を薬さじ
仕組みを粒子モデルで考えさせた。生徒の考
でこすったり,物質
えを学級内で交流する中で,酸素原子は結び
に電流を通したりし
付く原子の種類によって化合のしやすさが異
て銅ができたことを
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実験風景
確認し,黒い粉は加熱すると炭のように燃え
る」と予想した生徒は,その理由として「気
たことから炭素であることを確認した。
体はバラバラなので固体のようには還元しな
酸化銅がマグネシウムで還元されたという
いから」と説明した。
結果から,再度,反応の仕組みを原子カード
実際に実験をすると,二酸化炭素中でマグ
で考えさせ,学級内で交流させた。生徒は
ネシウムは白煙と閃光を出して激しく燃焼し
「 酸 素 原 子 の 化 合 の し や す さ は Mg > C >
た。集気ビンの中に残ったマグネシウムの燃
Cu の順番であるから,マグネシウムが炭素
えかすを取り出して白い紙の上で伸ばすと,
より優先的に銅を還元した。」と解釈し,記
酸化マグネシウム
述した。
の表面に黒い炭素
粉末ができている
ことが確認できた。
生徒は,この結
果から,マグネシ
ウムが二酸化炭素
マグネシウムの燃焼
中で燃焼する仕組みを原子カードで考え,原
子の種類によって酸素との結び付きやすさに
ミニホワイトボードを使って交流する生徒
違いがあることを,下図のようにワークシー
トに記述することができた。
3 次 マグネシウムは二酸化炭素中でも燃え
るか
この場面では,前時までにわかった酸素原
子の化合のしやすさの違いを活用して,新し
い現象を予想し,説明できることをねらった。
これまでの学習から,二酸化炭素中では線香
やろうそくの火が消えたことを想起させ,次
の発問をした。
4.成果と課題
〈成果〉
・原子や分子にはそれぞれ特徴があって,異
(問)燃えているマグネシウムを二酸化炭
素の中に入れるとどうなるか。
各自の考えをミニホワイトボードと原子
カードで表示させ,学級全体で交流した。多
くの生徒は「燃え続ける」と予想し,その理
由として「これまでの実験から,酸素は炭素
よりもマグネシウムと結び付きやすいから」,
なる反応性を持つ粒子であると,捉えられ
るようになった。
・実験結果の予想や解釈をする際に,原子の
粒子モデルを使って説明する姿が見られ
た。
・原子の粒子モデルの有用性を生徒が実感し
た。
〈課題〉
「マグネシウムがド
・習得から活用の流れを意識しすぎた単元構
ライアイス中で燃え
成にしたため,学習の流れが系統的になり
る実験を見たことが
すぎた。今後は,生徒の疑問から追究が深
あるから」と説明し
まるような課題発見の場面を単元に組み込
た。一方,「マグネ
んでいきたい。
シウムの火は消え
学級での交流
教科研究理科 No.194
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