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Road Kill ~ ~山間地に生息する野生動物と道路事業との影響検討
Road Kill ~山間地に生息する野生動物と道路事業との影響検討~ 長岡国道事務所 建設監督官 ○調査課 計画係 長部 格 入井 宏征 1.はじめに ロードキルとは、道路上で発生する野生動物と車両の衝突事故のことで、その多くは哺 乳 類 ( ウ サ ギ 、 タ ヌ キ 、 キ ツ ネ 等 )、 鳥 類 ( ト ビ 、 ハ ト 、 カ ラ ス 、 キ ジ な ど ) で あ る 。 山 間地で多発するロードキルは、野生動物生態系への影響は基より、道路利用者の重大事故 発生の可能性など様々な影響が考えられる。ロードキルは、全国の道路関係者及び環境関 係者から関心を集めており、これまでに様々な検討・対策が取り組まれてきている。 本論文は、八箇峠道路環境検討委員会での提言をふまえ、一般国道17号でのロードキ ルデータの蓄積及び分析による、同様な山間地での八箇峠道路事業におけるロードキル減 少、ロードキルに関連した道路利用者の重大事故減少、計画路線が野生動物の移動経路を 分断することによる生息域への対策を報告するものである。 2.一般国道17号でのロードキルデータ 長岡国道事務所管内の一般国道17号では、10年以上前から各出張所による道路パト ロールで発見したロードキルに対し、 10m単位で発生箇所を記録し一覧表 (表-1)にして取りまとめている。 取りまとめた一覧表を基に、ロードキ ルの発生日・キロポスト・対象種・個 体数・周辺環境・道路構造等を整理す るとともに、発生理由を解析した。 2.1 月 別 事 故 発 生 状 況 月別での事故発生状況を見ると、動 死骸 確認 年 月 日 距 離 標 H8.4.2 H8.4.2 H8.4.5 H8.4.5 H8.4.8 H8.4.10 H8.4.23 H8.4.26 H8.6.19 H8.6.25 211.20 215.82 198.60 219.00 213.40 205.20 188.90 191.40 188.60 200.16 H8.9.12 H8.11.18 H8.11.19 H8.11.20 H8.11.21 H8.11.22 H8.11.24 H8.11.29 H8.12.10 H8.12.25 H9.1.2 H9.1.29 H9.3.30 185.32 219.96 192.00 223.04 191.10 185.60 219.30 219.54 217.80 198.30 199.80 202.40 205.40 合 計 イヌ 哺 乳 類 鳥 類 両 性 ・ 爬 虫 類 その他の動 ネコ タヌキ ウサギ サル その他 カラス ハト トンビ その他 カエル ヘビ その他 物 名 備 考 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 イタチ1 1 1 1 1 1 3 6 1 1 1 1 30 0 表-1 0 5 1 0 0 0 0 0 0 動物死骸調査表 物が活発に活動する秋季に多く発生する傾向にある。しかし、タヌキでは交尾出産期に当 たる4月や成長した子供が親から離れる分散移動期である秋季に事故発生個体数が多く、 ヘビでは活発に活動する5月から10月、カエルでは5月から8月の繁殖期に多い結果と なっている。 2.2 土 地 利 用 別 事 故 発 生 状 況 ロードキル発生地点周辺の土地利用別で事故発生状況を見ると、大きく3分類される。 ①ペット系(イヌやネコ等)は、耕作地・市街地において事故個体数が多い。 ②ウサギは森林(樹林)付近での事故個体数が多い。 ③タヌキ・ヘビ・カエルは耕作地における事故個体数が多い。 もっとも事故個体数の多かったのは耕作地(6割弱)であり、次いで市街地(2割)森林 (2割弱)であった。この結果から、人と野生動物の接する機会が多いと思われる里山的 な環境で事故発生が多いと考えられる。 2.3 隣 接 植 生 別 事 故 発 生 状 況 事故発生地点に隣接する植生別に見ると、もっとも事故が多かったのは水田(4割強) であり、次いで草地(2割強)針葉樹林(1割強)であった。土地利用別では市街地にお ける事故発生が多い結果となったが、隣接植生別で見ると住宅地の事故発生は少ない。こ のことから、市街地における事故は「市街地に残存する水田や草地周辺」で発生している と考えられる。また、河川や池・水田等の水環境の有無別に事故発生状況を見ると、水環 境がある場合の事故個体数は全体の8割強にもおよんでいる。 2.4 道 路 構 造 別 事 故 発 生 状 況 道路構造をスノーシェッド、橋梁部、盛土部、切土部、平坦部の5分類に分けて事故発 生状況を見ると、もっとも事故個体数が多かったのは平坦部(5割強)であり、次いで盛 土部(2割強)切土部(2割弱)であった。また、少数ではあるが、橋梁部においても事 故が発生している。これは、野生動物が河川横断に際し、橋梁部を移動経路として利用し ていることを表しており、ヘビ等の爬虫類も橋長約200mの八色大橋を利用しているこ とが確認された。 2.5 一 般 国 道 1 7 号 で の 事 故 発 生 要 因 これまでの事故発生状況を基に事故 発生要因を整理すると、図-1に示す とおり5タイプに分類された。日常行 動圏内に道路がある場合や移動経路内 に道路横断がある場合、繁殖期の活発 な行動により道路を利用している場合 の事故発生が大半を占めている。その 他、周辺に障害物が無く鳥類の低空飛 行を妨げるものが無い開けた箇所で、 ネズミ-イタチ-トビの捕食によるロ ードキルの連鎖が起こっている。水環 境のある箇所では、両生類と両生類を 補食する動物のロードキル連鎖も確認 されている。このロードキルは、共に 同日に発生している。この様な事例か ら、ロードキル対策は特定の移動経路 の確定と食物連鎖が起こりえる箇所の 確定が重要だと考えられる。 図-1 一般国道17号での事故発生要因 3.八箇峠道路環境検討委員会 3.1 一 般 国 道 2 5 3 号 八 箇 峠 道 路 事 業 の 概 要 八箇峠道路は、上越市~南魚沼 市の地域高規格道路「上越魚沼地 域振興快速道路」延長約60km の一部で、新潟県十日町市八箇を 起点とし一般国道253号の難所 である八箇峠を通過し南魚沼市余 川を終点とする延長9.7kmの 事業である。八箇峠道路の整備に より通行規制区間や「八箇峠」の 交通障害を解消すると共に、十日 図-2 上越魚沼地域振興快速道路図 町生活圏・南魚沼生活圏の地域活性化の促進・一体的な圏域形成が期待されている。 3.2 対 象 動 物 の 設 定 八箇峠道路環境検討委員会は平成11年から現在に至るまで合計18回開催されてい る。環境検討委員会では猛禽類やビオトープ等の検討も行っているが、今回はロードキル に限定して報告する。八箇峠道路計画ルートでは、哺乳類痕跡確認等の現地調査結果によ り、大型哺乳類のカモシカ、中型哺乳類のノウサギ、イタチ、タヌキ等を対象とした。 3.3 対 象 動 物 の 環 境 利 用 状 況 現地調査結果による哺乳類痕跡 確認地点を環境区分図(図-3) にプロットし、利用形態の解析を 行った。 ①カモシカは計画ルートのほぼ 全域を行動圏とし、針葉樹林地 での出現が5割以上を占めてい ることから、樹林地を中心にそ の周辺環境を幅広く利用してい ると推定される。 図-3 環境区分図 ②ノウサギは針葉樹林地や水環 境の周辺で確認され、食物が豊富で隠れ場の多い林や草原を好むことから、樹林や水環 境周辺を中心に生息し、その周辺を利用していると推定される。 ③タヌキは水環境周辺での確認が4割強で最も高いことから、水環境を中心に生息し、 樹林地や耕作地等を利用していると推定される。 4.ロードキル対策検討 八箇峠道路は自動車専用道であることから、生物保全の観点だけでなく、自動車走行の 安全確保の観点からも、道路への動物進入は好ましくない。そのため、本線道路への進入 を防ぐ対策を基本とした。これまでの検討委員会や一般国道17号での事故発生要因をふ まえると、日常行動圏や移動経路内での道路横断が大半を占めることになるため、進入防 止柵と移動経路確保を目的としたボックスカルバート等での対策を検討した。 4.1 進 入 防 止 柵 に よ る 対 策 当該地域に生息する大型哺乳類のカモシカ対 策は、既設の事例や国総研の文献を参考にする と2.5m以上の高さが望ましいとされる。ま 中型哺乳類 対策箇所 1.8m程度 た、柵を跳び越える可能性があるため、飛び越 えることが困難な高さの設定が必要であるとさ れている。しかし、学識経験者にカモシカの実 態を確認してみると、カモシカは柵を跳び越え る程のジャンプが出来ないとのことであった。 図-4 全国的なカモシカを対象とした進入防止策では、 進入防止柵図 2.5m以上の高さに設定してあるが、本事業では中型哺乳類対策の高さに設定した。 中型哺乳類のタヌキ等は、手足が掛けられる形状であればある程度高くてもよじ登って 乗り越えてしまい、頭が入るくらいの隙間であれば通り抜けられるため、縦格子型で5㎝ 以下の目合いが望ましいと判断される。柵の下部は、隙間ができないように少し地面に埋 め込むこととした。また、中型哺乳類に対する柵の高さは、事例等より1.8m程度に設 定した。 4.2 ボ ッ ク ス カ ル バ ー ト 国総研の文献では、大型哺乳類を対象とし た場合は3m×3m以上の規模、中型哺乳類 を対象とした場合は1.5m×1.5mが望 ましいとされている。大型哺乳類のカモシカ は、計画ルートのほぼ全域に生息しているた め、当事業では3m×3mのボックスカルバ ートのみ設置することとした。 整備において配慮すべき事項として、 ①出入り口付近に低木等の誘導植栽を行い、 利用しやすい環境とする。 路面はなるべく自然に 近い状態であることが 望ましい。 図-5 入り口周辺に植栽を設 けることで動物を誘導 する。 ボックスカルバートイメージ ②路面については、舗装せずに自然に近い状態とする。 5.まとめ 今回の検討は、過去から細かなピッチでロードキルデータを取りまとめていたことによ って事故発生状況の解析ができ、八箇峠道路事業での参考とすることが出来た。当事業で のロードキル対策の施工はまだ先になるため、整備後に再度検証を行い、他の同様な事業 の参考に役立てていきたい。