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地域での共通体験から遊びを広げる実践 〜子どもたちをときめかせたい〜
地域での共通体験から遊びを広げる実践 〜子どもたちをときめかせたい〜 港区立高輪幼稚園 1 廣松 麻実子 地域に飛び出せ、高輪探検隊! 本園の子どもたちは『高輪探検隊』である。特に5歳児になると、年間通して高輪の街を探検し、 様々な発見をしながら自分たちの住む街に親しみをもったり、地域の人や自然と出会い、触れ合った りしている。 「探検隊」というワードは子どもたちの好奇心、冒険心をくすぐり、 「高輪探検隊に行こ う」と言うと、目をキラキラと輝かせる。高輪の街で友達と一緒に経験したドキドキ、ワクワクした気持ちは 子どもたちの遊びへの意欲、主体的な姿、仲間と一つになることにつながると考え、そこから遊びを広げる導入 の工夫を考えた。 2 高輪探検隊、タ・カナワ島に行く!―運動会の取り組みから― 運動会のリズムのテーマを高輪探検隊とした。これまでの探検隊の経験をベースに子どもたちと一緒にイメー ジを膨らませながら「高輪探検隊、タ・カナワ島に行く」という話を考えた。 【ストーリー】 高輪探検隊が桂坂を登っていると、どこからともなく「ワナタカワナタカ…」と呪文が聞こえてきた。 その呪文を聞いた子どもたちは、タ・カナワ島という島にワープしてしまう。探検隊はその島を探検する ことにした。歩いて行くと、目の前にファイヤーゾーンが現れた。炎を消さなければ前に進めない。探検 隊は、得意のくるりんスキップの早回しで風を起こし、炎を消すことに成功!先に進むとお腹をすかせた ワニの住む川に辿り着いた。探検隊は得意の竹馬にのり、無事に川を渡りきる。そこで島の人に出会い、 バンブーダンスを見せることに。お礼に「ルドモ、タカナ〜ワ!」という呪文を教えてもらう。呪文を唱 えると、あら不思議、大好きな高輪の街に帰ってくることができた! 視覚でイメージが共有できるように手作りの紙芝居を用意した。そこに子どもたちの考えたことや言葉を入れ ながら少しずつお話を紡ぎ、紙芝居を作り足していった。自分たちが登場人物であること、また普段自分たちが 取り組んでいる運動遊びで、ピンチの場面を乗り切るというストーリー展開に、子どもたちはときめき、目を輝 かせていた。現実とお話の世界を行ったり来たりする楽しさを味わいながら、リズムのプログラムに意欲的に取 り組む姿が見られた。また仲間と気持ちを一つにするという点においても、共通の実体験をベースに、みんなで 一緒につくったストーリーは大変有効であった。 3 自分たちが探検した高輪の街を作ろう!―作品展の取り組みから― 10月、高輪探検隊は高輪森の公園に出掛けた。「探検」という言葉に相応しく、ちょっとした崖 があり、子どもたちはそこを登ったり滑り降りたりすることを繰り返し楽しんだ。「生まれてから一 番楽しかった」そんな言葉が出るほど子どもたちにとって感動体験となった。 作品展において、「同じ目的に向かってアイディアを出し合い、仲間と一緒に創り上げる充実感を 味わう」というねらいを達成するために、友達と一緒にワクワクした共通体験はとても有効だと考え た。「幼稚園にも高輪森の公園を作ろうよ」そんな子どもの言葉から、作品展では、これまでに探検 してきた高輪の街を作り、お客さんもそこで探検して遊べるようにしようと導入した。特に印象に残 った探検の場所を次の6つに絞り、子どもたちは自分で作りたい所を選んでグループ製作をした。 ○高輪幼稚園 〜本物みたいな幼稚園を作りたい〜 高輪探検隊の出発地点。自分たちの幼稚園を再現しようとグループの仲間と何度も園庭に行き、 園舎や園庭の遊具を観察し設計図を描いてから製作し始めていた。立体の遊具の製作は難しかっ たが、仕組みに気付けるよう投げかけると、アイディアがどんどん出てきた。「幼稚園は子ども たちがたくさんいるから楽しい」という意見から子ども人形をたくさん作り、人形を動かして鬼 ごっこをしたり遊具で遊んだりできるようにした。 ○桂坂 〜花いっぱい活動をしよう〜 高輪探検隊は「桂坂を花でいっぱいにする活動」に参加しており、年3回、地域の方と花の苗 を植えている。「ただ花が咲いているだけじゃつまらないから、遊びに来た人も花を植えられる ようにしよう」共通体験からイメージの共有がすぐにでき、「苗は本物みたいにポットに入れよ う」「あとスコップと、じょうろも必要!」「あのピンクの花作ろう!」「あぁこの前植えた花? いいね!」と話し合いはスムーズでテンポよく進んだ。 ○高輪消防署二本榎出張所 〜クラシックカー(国産第1号消防車ニッサン180)に乗りたい〜 子どもたちが大好きな高輪の街のシンボル、高輪消防署二本榎出張所。5月の親子活動の製作 で二本榎出張所や消防車を作ったグループがいくつもあり、それを見ていただいたことから二本 榎出張所とのご縁が深まった。探検に行き、普段は開放していない展望室を見せていただいたり、 開署80周年の際には子どもたちもお祝いをしたりした。国産第1号消防車ニッサン180も見 せていただき子どもたちは憧れの気持ちをもった。「本当に乗れるクラシックカーを作りたい」 と、シート、ハンドル、警鐘、ホースなど本物らしさにこだわって作り上げた。 ○高輪森の公園 〜崖登りして遊べるようにしたい〜 「高輪森の公園で一番楽しかったことは何?」と尋ねると「崖を登ったり降りたりしたこと!」 と返ってきた。凧糸を使い、人形が崖を登り降りできるようにし、楽しかった経験がミニチュア の世界で再現できるようにした。 「木とか岩がいっぱいあった」 「もっと崖は斜めだった」など見 てきたこと、経験したことから意見を出し合い作り上げた。 ○泉岳寺駅 〜泉岳寺の電車に乗りたい!運転したい!〜 電車が大好きな子どもたちが集まった。浅草線にするのか、京急線にするのか、行き先の表示 は泉岳寺にするのか三崎口にするのか、電車の色の調合など一つ一つこだわり、話し合って決め ていった。記憶や写真を頼りに、本当にお客さんが乗ったり、運転手になったりして遊べるよう 座席、運転席、レバー、帽子など必要なものを考え意見を出し合っていた。 ○光福寺の幽霊地蔵 〜幽霊地蔵の民話から〜 高輪森の公園に行く途中、寄り道した光福寺で幽霊地蔵に出会った。消え入りそうな足元のお 地蔵様に、いつもは賑やかな子どもたちも、いつになく真剣な表情でドキドキしながら見せてい ただいた。幽霊地蔵にまつわる、夜な夜な飴屋に飴を買いに来てお供えしていた女の人の民話を 話すと、 「先生、お地蔵さんの所、暗くしてね!」 「お客さんも自分で飴を作って、暗〜いお地蔵 さんの所にお供えに行くの」「面白いでしょ!」と遊びに来た人が飴を作れるようにセロハンと ドングリを用意したり、「お地蔵さんの上に提灯が二つあったよね?あれ、お化け提灯にしよう よ!」と提灯を作ったりするなど、遊び心も満載の場になった。 ◇高輪探検隊の経験から遊びを展開したことで子どもたちが経験できたこと 高輪探検隊でドキドキワクワクしながら体験したことを自分たちの手で再現することに、子ど もたちはとてもときめいていた。またその体験が仲間と共通であることで、イメージや目的を共 有しやすく、話し合いは具体的に、円滑になるとともに、仲間と分かり合いながら一緒に遊びを 進める喜びにつながった。 作品展当日は、保護者や年少・年中児だけでなく、いつも一緒に桂坂に花を植えている地域の 方、二本榎出張所の署長さんや、京急の方も見に来てくださり、子どもたちは大きな達成感と充 実感を味わうことができた。 4 子どもも教師自身もときめく保育を目指して 活動の内容や方法を考えるとき、実態や課題、幼児に経験させたいことなど、大切なことはたくさ んあるが、私は「子どもたちがときめくかどうか」ということも基準の一つにしている。子どもたち が目を輝かせ、意欲的に、主体的に遊びに取り組む姿を引き出すきっかけになるのは、まぎれもなく 「ときめき」だと思うからである。 ときめきの源泉は、色、形、音、香り、手触り、素材、技法、変化、イメージ、憧れ等、いろいろ なところにあり、環境設定や導入の工夫で多くの子どもの心に届く。 今回のように、行事への取り組み等、学年という大きな集団で一つの活動に取り組む中でも、全体 をときめかせることができれば、子どもたちは仲間と一緒に遊びを創造する一体感、楽しさ、充実感 を味わうことができる。そこに共通の感動体験が有効であることを改めて実感することができた。自 分たちの住む街の魅力を生かし、その街を舞台に遊びを展開できたことも、子どもたちが主人公にな り、心を動かして遊びに取り組むことができた要因であったと思う。 自分自身がときめいていなければ、子どもたちをときめかせる保育はできない。これからも子ども たちをときめかせる保育を創り出していくために、自分の感性を磨き、援助の工夫を考えていきたい。