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アーティスト・インタビュー

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アーティスト・インタビュー
J apanese tex t
2012年 秋/冬号 日本語編
インタビュー
代アートへの情熱との間に大きな隔たりがあることを痛感し
た。パリに滞在した 1 年半の間に、彼女はかつて崇拝して
アーティスト・インタビュー
やまなかったヨーロッパの古典美術に対して憎悪に近い感
情を抱くようになった。
撮影 = 藤本賢一 取材・文 = ルーシー・バーミンガム
彼女の中で反逆が始まり、日本人としての自分のルーツも
和訳 = 竹林正子
再考した。「私は日本人であって、西洋人ではない。でも西
洋の道具を使って、西洋の様式で絵を描いている」と彼女
橋爪 彩
は言う。「パリ滞在中に、アジア人のアーティストとして、ど
―Love ‐ Hate ‐ Love(愛憎愛)を描き続ける旅
う描いていけばいいか、考えさせられたんです」
。日本に帰
p.115
国後、彼女は再び西洋古典美術に敬意を感じている。「私
「私にとって、アーティストであることは、女であることと同
は今もヨーロッパの造形様式で描きながら、さらに日本人と
じくらい自然なことなんです」。橋爪彩は、自分と絵を描くこ
しての視点も取り入れるようにしています」
。
ととの密接な深い関係をこう説明する。「目に見えない力が、
日本人としてのルーツは、彼女が描く若い女性の官能的
アートを私の運命にしてしまったみたい」。いくつかの偶然
で白くなめらかな肌の色合いや、光沢のある髪の毛にあら
が相乗的に、橋爪の人生とキャリアに影響を及ぼした。だが、
わになっている。橋爪の作品は、西洋古典美術、神話、そ
それだけではない。アートに対する激しいまでの情熱、好
しておとぎ話をテーマとしながら、日本的なエロチシズムや
奇心、そして自信が、31 歳の彼女を海外との往復生活に駆
驚きや現代女性のパワーで縁取られているのだ。
り立て、すばらしく官能的で写実的な作品を創らせたのだ。
2004 年頃からの彼女の作品には、足へのこだわり、そし
少女時代に毎月のように両親に連れられて西洋絵画の美術
て靴へのフェティシズムが見てとれる。ベルリン滞在中に、
展に足を運んだことが、彼女がアートに興味を持つきっかけ
彼女の描く靴は赤色になり、「Red Shoes Diary」シリーズの
となった。その興味は、誉れ高い東京芸術大学でさらに磨
作品が出来上がった。これはハンス・クリスチャン・アンデ
きをかけられた。ヨーロッパの巨匠たちにインスピレーショ
ルセンの童話『赤い靴』に登場するカレンとの類似点を反
ンを受けた彼女は、写実主義やその技法に才能を振り向け
映したものだと彼女は言う。
た。2005 年から 2010 年にかけて、文化庁やポーラ美術振
2010 年からは、彼女が日本語で「虚像」または「バーチャ
興財団、吉野石膏美術振興財団の後援を受け、ドイツとパ
ル・イメージ」と表現する「After Image」シリーズが制作
リで過ごした 4 年半は、彼女の人生を変える、創造的な旅
されている。この一連の作品では、基本的に現代と古典の
路となった。
テーマにヨーロッパとアジアのイメージを加え、彼女なりに
2010 年に帰国した彼女は、西洋美術との関係が愛 ‐ 憎
融合させている。
‐ 愛と一巡して進化したと感じている。「ベルリンに行って、
「Girls Start the Riot」(2010 ‐ 2011)は、このシリーズの
大きなカルチャーショックを受け、考え方が広がったように
エッセンスを凝縮した作品だ。他のすべての作品と同様に、
思います」
と彼女は言う。現在のベルリンに浸透する現代アー
彼女が描くのは顔が見えない若い女性たちだ。「そうするこ
トシーンに触れて、彼女も新しいことに挑戦しようと触発さ
とで、誰もが自分と重ね合わせることができるでしょう」と
れた。
彼女は言う。この作品は、ポール・セザンヌの果物の静物
しかし、その後、パリに移った彼女は、フランスの都にお
画に着想を得たという。ただし、女性たちにこの静物を台
ける芸術の保守性を目の当たりにして、ベルリンにおける現
無しにさせることで、橋爪は巨匠の尊い印象主義的表現の
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枠を打ち破っている。
スコ、ジョット、ミケランジェロなど、巨匠たちの作品は、
模写どころか、橋爪は彼女独自のスタイルを明確に表現
見る人を次のレベルに引き上げてくれるんです。僕もそれを
し、見る者に決して忘れられない印象を残すのだ。
目指してます。見る人を次の学びのレベルに連れて行きた
いと。アーティストの作品を通して、鑑賞者は自分自身の中
に新たな発見ができるんです。僕らは一種の精神分析医み
たいなものですよ」と、シニカルな笑みを浮かべた。
宮島達男
宮島のユーモアのセンスにはパフォーマンスに根ざした、
カオス、時間、そして生命であっと言わせる
まじめなオリジナル・アートの実践という味つけがされてい
p.116
る。彼は東京芸術大学に在籍していた 30 年前に、初めて
「Cool!」初めて宮島達男の LED(発光ダイオード)と IC(集
実験的なライヴパフォーマンスを始めている。その後、彼
積回路)による作品を見たとき、私はそう思った。数年前
のアートは明かりと動きを使って「パフォーマンス」をする
の 8 月、焼けつくような暑い日、瀬戸内海の直島で「アート・
オブジェに変化した。そこから彼の作品は、コンピュータ技
ハウス・プロジェクト」に参加する古い木造家屋の薄暗いイ
術者の助けを借りたパフォーマンス・インスタレーションと
ンスタレーションルームに、私は足を踏み入れた。そこには
なった。その目指すところは、アート作品と観客との相互接
浅いプールがあり、水の中でランダムと思われる 1 から 9 ま
続性。彼がこれを通して伝えていることは、変化(
「それは
での赤と白の小さなデジタル数字が点滅していて、はるか
変化し続ける」
)
、結びつき(
「それはあらゆるものと関係を
彼方の銀河系から送られてくる神秘的な反復メッセージのよ
結ぶ」
)
、そして永遠(
「それは永遠に続く」
)
。彼が使うメディ
うに見えた。「Sea of Time(時の海)」というタイトルが、そ
アは、デジタル数字の集積回路(IC)と、IC チップがラン
の意味するところを暗示していた。「でも、あの下にはなに
ダムに選んだ数字を次々と映し出す LED 照明である。表示
があるのだろう」と私は気になった。
される数字は論理的な方法で選ばれたり、「計算」されてい
初めて見た宮島達男の作品は、視覚的にも物理的にも変
るわけではない。宮島にとっては、この非論理的なプロセ
革的だが、理解しがたいものでもあった。目がくらむような
スが、作品について考える刺激剤なのだ。数字は、最近ま
戸外の陽射しの中に出たあとも、もっと知りたいという感覚
ではある種のリズムにのって、特定のスピードで数を上に
が残った。その後、このベテランのコンセプチュアル・アー
下に数えるようプログラムされていた。ただしゼロは、無、死、
ティストが、技術者、科学者、数学者、哲学者、そして偉
十分な供給量、増加、拡張、そして「余生」といったさま
大な思想家たちの影響を受けていることを、私は知った。
ざまなものを連想させるので、数字の中から外していたとい
なるほど、水面下にはいろいろなものがあったのだ。
う。
「この作品を見た人が、『わ~っ !』と思ってくれたら、いい
最近まで、彼の主要テーマは「時間」だった。これは仏
んです」と宮島は言う。「僕の作品は、クリスマスの巨大イ
教への関心が影響している。「仏教の時間の尺度は無限で
ルミネーションみたいなものだと、よく自分で言うんですよ」
。
しょう」
。自身のウェブサイト上の別のインタビューで、彼は
自分の作品が理解しがたいものであることを認めながら、彼
こう話している。「仏教の時間を想像できたら……すべてに
は笑って付け加えた。「アーティストが、見る人をコントロー
結びつく。
」日本を代表するコンセプチュアル・アーティスト、
ルできるわけじゃないですから。僕らは作品を通して、美を
河原温の時を刻むミニマルアート、「日付絵画」(“Today” シ
見出すチャンスを与えるだけです」。彼の LED 作品は美しい
リーズ)にも、深い影響を受けている。
のかと問うと、彼はしばらく間をおいて答えた。「マーク・ロ
宮島の時間に関する作品は、MIT で教鞭をとっていた偉
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大な数学者、故ジャン・カルロ・ロタの影響も受けている。
コラボレーションは初めてのことで、明らかに宮島はこの試
「1994 年に彼と会って、カオス理論や、自然の無作為を捉
みに興奮している。
「基本的に、僕らが作ろうとしているのは、
えるのがいかに難しいかという話で盛り上がった」と彼は言
生命モデルなんです」と彼は言う。「生命はそれだけで存続
う。ある意味で、カオス理論は宮島の一見、無作為に見え
できない。相互に影響しあう、ほかの生命体と繋がっている
る数字の性質を表している。彼の作品の数字は、乱雑に無
んです」
。そのことを視覚化するため、宮島は過去のほとん
秩序に現れているように思えるが、実際はシンプルな規則
どの作品では隠していた配線をすべて表に出した。今回は
体系に則っている。しかも、このようなシンプルな規則体系
彼の作品の内臓部分を見ることができるのだ。作品内部に
が、本質的に予測不能の複雑な動きを生み出すのだ。宮島
潜む相互接続性と比喩的な意味での「生命」そのものを。
は、見る者を引きつける数字のパターンの中にコンセプトを
色とりどりの配線と機械の魔術を間近で目にした私は、夢中
示すことで、予測不能の美しさと、時間の神秘を捉えてみせ
になって「わ~!」
と声を出した。「いいね」
と彼は答えた。「こ
たのである。
れで僕も満足です」
。
「自然の無作為に枠をはめれば、目でそれを捉えることが
できる」と、彼は言う。一例として、彼は四角い枠の中に
星のような点を描き、簡単に宇宙を「捉えて」見せる。「で、
これを計算することもできるわけです」と、彼は問いかける
ように私をちらりと見た。私はこのコンセプトと格闘しながら、
「わかったような気がします」と真剣に答えた。私の頭の中
では、質問が公式となって浮かんだ。点=星=宇宙=時間
=数字=予測不能?「すべて繋がっているんですよ」と彼は
言う。「生命と同じで」。
宮島の作品は今、過渡期にある。新しい段階に入った彼
は、時間の理論を超えて、生命の相互接続性へ進もうとし
ている。「2011 年 3 月 11 日の震災のせいです」と彼は言う。
「あの影響が大きくて。ものすごくショックを受けました」
。
宮島は震災後、半年ほど仕事ができなかったという。「物事
をはっきり考えられなくなって。頭の中が濁ったものでいっ
ぱいになった感じでした」。2006 年から東北芸術工科大学
の副学長を務める宮島は、大きな被害を受けた被災地の
数々の悲劇に個人的な影響も受けていた。
震災以降、彼は「それぞれが相互接続され、互いに影響
しあっているユニット、あるいは “ 装置 ” のスピードやタイ
ミングがまったく違う」新しい作品を創り出した。過去の作
品では、各装置の数字のリズムはスピードだけで決められ
ていたが、今回は人工生命の研究者で東京大学教授でもあ
る科学者、池上高志がプログラムを担当した。科学者との
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