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受験生のために - 機器のハイテク化を妨げる熱問題の解決に向けて
受験生のために 受験生のために - 機器の 機器のハイテク化 ハイテク化を妨げる熱問題 げる熱問題の 熱問題の解決に 解決に向けて - (機械工学科 熱工学研究室) 熱工学研究室) 1 はじめに パソコンや携帯電話といったハイテク機器は、今や生活するうえで欠かせない道具とな っています。性能は年々飛躍的に向上しており、次から次へとモデルチェンジしているこ とは、皆さんも良くご存知のことと思います。例えばパソコンの場合、10 数年前に Windows が発売された頃には、CPU の動作周波数はせいぜい 100 MHz 程度でしたが、数年前には 3 GHz を超える製品が発売されており、10 年間で処理能力がなんと 30 倍以上にもなっています。 また同時に、最近のモバイル化の流れで、機器はますます薄型軽量化する傾向にあり、い つでもどこへでも簡単に持ち運べるようになりました。 しかし、この華々しいハイテク化の裏には、常に機器の熱問題が付きまとっていること は意外に知られていません。パソコンの処理能力が高くなると、それに比例して発熱量も 増大するため、熱を取り除いて冷却しなければ熱くなって壊れてしまうのです。つまり、 処理能力の高い素子が開発されたとしても、それに見合った冷却技術が開発されなければ、 製品として成り立たないのです。熱に関する技術者が日々たゆまぬ努力を続けてきたから こそ、パソコンの性能がここまで向上したといっても過言ではありません。 ところで、ここ数年パソコンの性能が頭打ちになっていることにお気付きでしょうか? それは、CPU の発熱量が大きくなりすぎて、冷却技術の進歩が追いつかなくなったためです。 2 熱の性質 それでは、 「熱」とはいったい何でしょうか? また、どのようにすれば「熱を取り除く」 ことができるのでしょうか? 普通、われわれの目で熱を見ることができないので、イメ ージしにくいと思います。詳しい説明は省略しますが、熱の移動(すなわち熱の流れ)は、 電気のオームの法則と同じ形で表すことができます。 電気の場合: 電流 = 電位差 電気抵抗 熱の場合: 熱流量 = 温度差 熱抵抗 つまり、与えられた温度差のもとでたくさんの熱を移動させるためには、熱抵抗を小さく すれば良いのです。 しかし、熱には困った性質があります。抵抗を小さくするのが意外に難しいのです。つ まり、大量に発生した熱を取り除くことは容易ではありません。また逆に、抵抗を無限大 にすることもできません。つまり、温度差さえあれば、どんな壁でもすり抜けて移動して しまいます。電気の場合、そんなことはありません。金属などの良導体を用いれば簡単に 抵抗を小さくできますし、超伝導を利用すれば抵抗をゼロにすることもできます。また、 絶縁体を用いれば、事実上抵抗を無限大にすることができます。 違う言葉で表現すれば、電気は「優等生」なのです。導体という決められた道さえ作っ てあげれば、わき目も振らずにその道に沿って移動します。それに対して、熱は「怠け者」 で、なかなか言うことを聞いてくれません。道を作ってあげても、勝手に道から逸れてし まい、一部分しか目的地に到着しません。しかも、ジワジワとゆっくり移動するので、な かなか目的地に到着しません。 結局、熱を少しでも速く移動させるためには、熱の性質を良く理解し、どんな時にどの ような振る舞いをするのかを実験的に調べ、さらには熱の動きを予測できるようにしてお かなくてはなりません。熱問題の解決のためには、この地道で奥の深い研究が必要になる のです。 電気の流れ 熱の流れ 3 熱の移動の 移動の測定 それではここで、当研究室で開発した熱の移動を測定する方法について紹介したいと思 います。熱の移動は普通は目に見えないのですが、この方法を使えば見えるようになりま す。 図のように、物体表面の一部を非常に薄い金属箔で構成します。金属箔に電気を流して 一様に加熱すると、金属箔から空気へと熱が移動します。その際、熱がたくさん移動して いるところでは温度が下がるため、金属箔に温度分布ができます。これを赤外線サーモグ ラフィーで測定すると、実際に熱の移動を目で見ることができるのです。どこでどれだけ 熱が移動しているかが一目瞭然です。また、熱の移動が時間的に複雑に変化している場合 でも、動画として簡単に捉えることができます。 このような実験を通して、熱の移動に関する理解を深めることができます。そして、熱 を速く移動させるにはどのようにすれば良いのかを知ることができます。こうして得られ た知見が、熱問題の解決に役立つのです。 4 おわりに 本稿では、パソコンと携帯電話を例にとって熱問題を解説しましたが、一般に小型で高 性能な電子・電気機器であれば、どんなものであっても熱問題が発生します。それ以外に も、熱が問題となる分野は数多く存在し、ガスタービンなどの発電プラントや、機械加工 の分野など、数え上げればきりがありません。また逆に、熱を移動させたくない場面も数 多くあります。例えば、建物の断熱、食品などの保温・保冷、あるいは寒冷地における体 温の保持などです。この場合もやはり熱の移動に関する知識が必要になります。 我々の身の回りでは、至るところで熱の移動が生じています。もしこの熱の移動を自在 にコントロールできれば、快適で住みよい社会が訪れると思います。そのためにも、熱の 性質について深く理解し、熱の移動をコントロールする技術を開発していくことが必要な のです。 (文責:機械工学科 講師 中村 元)