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(米通商代表部発表) ITCの排除命令等に対し大統領が拒否権を発動
(米通商代表部発表) ITCの排除命令等に対し大統領が拒否権を発動 ―アップル社のスマートフォン等の輸入をめぐる案件― アップル社のスマートフォン等の製品がサムスン社の特許を侵害しているとして米国際貿 易委員会(ITC)が関税法第 337 条(不公正な輸入取引等の禁止)に基づいて発令した 同製品の輸入を禁止する「排除命令」及びその販売等の営業活動を禁止する「営業停止命 令」に対して、オバマ大統領は、8月3日、大統領に付与されたレビュー権限に基づき拒 否権を発動しました。 この大統領権限は、ITCの決定から6か月以内に大統領がその決定内容をレビューし、 政策的な判断に基づきその決定を拒否できるとするもので、これまでにこの権限に基づき 拒否された事案は数件にすぎず、伝家の宝刀とされてきたものです。最後に発動されたの はレーガン大統領によるもので、DRAMの輸入に対する限定的な排除命令をめぐるもの でしたが、大統領の拒否権発動後、ITCは排除命令の対象範囲を狭くして再度発令し、 これに対して拒否権は発動されませんでした。 大統領のレビュー権限を代行するUSTRは、今回の拒否権発動に至った理由をいくつか あげていますが、その中で、レビューに当たっては関税法第 337 条制定の経緯からITC の決定の及ぼす影響を5つの基準から判断するとして、①公衆の健康、福祉、②米国経済 における競争条件、③米国内での競合製品の生産状況、④米国の消費者、⑤米国の経済的、 政治的な外交関係をあげています。今回の拒否権の発動については、その結論の中で、特 に上記②の競争条件への影響と④の消費者への影響をあげています。 さらに、2013 年1月8日に司法省と米特許商標庁が合同で出した「任意のFRAND1約束 を条件とする標準規格必須特許の救済策に関するポリシー・ステートメント」を援用し、 標準規格設定に必須の特許を所有する者がFRAND条件で当該特許をライセンスしても よいと任意に約束をしている場合に発生し得る問題を特に懸念しているとしています。今 回問題とされたサムスン社の特許はスマートフォン等に不可欠な必須の特許とされ、この ような特許は、標準規格開発機関(SDO)によって設定される標準規格、特に任意のコ ンセンサス方式での標準規格において数多くの製品の相互運用に不可欠なもので、権利者 が実施者に対して不当にレバレッジを効かせたり、あるいは代替技術が利用できたときに 比べてより高いライセンス料を要求するいわゆる「パテント・ホールドアップ」、また逆に、 実施者が特許権者とのFRAND条件でのライセンス交渉を拒否したり、FRAND条件 のロイヤルティを特許権者に支払うことを拒否したりするいわゆる「リバース・ホールド アップ」 (あるいは「ホールドアウト」)が生じ得る可能性があると指摘しています。 1 公正、妥当且つ無差別性( “Fair, Reasonable, and Non-Discriminatory” )の略。 本件係争事案は、2011 年8月1日、関税法第 337 条に基づいて提出されたサムスン社の申 立てを受けてITCにおいて審査されてきたもので、サムスン社はアップル社の製品はサ ムスン社の特許を侵害しており、同製品の輸入を排除する排除命令及びすでに輸入されて いる商品の営業停止命令を発令するよう求めていたものです。ITCは、本年6月4日、 サムスン社の申立ての一部を認め、アップル社の製品を排除する限定的排除命令及びその 営業活動を禁止する営業停止命令の発令を決定しました。対象とされた商品モデルは、ア イフォン4、アイフォン3GS、アイフォン3、アイパッド3G及びアイパッド2 3G(い ずれもAT&Tモデル)の5機種とされています。 今回の大統領の拒否権を受けて、本件についてITCがどう判断するか注目されます。 (6月4日付けのITCの決定通知及び8月3日付けのITC宛のUSTRの不承認通 知)