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呼吸苦、全身のむくみで来院した一例
全身のむくみと呼吸苦を訴え来 院した33歳男性 名瀬徳洲会病院 研修医 小林愛宙・遠山哲彦・ 島貴史 Present Illness 近医にて2007年に、心不全・ネフローゼ症候群を 示唆されている方。 以前からあった全身のむくみ・呼吸苦が今年の2 月に入りひどくなり2008/2/12、当院内科外来を wolk inにて受診。 症状は臥位になるとひどくなり、腹痛や嘔気は ないものの、外来受診の2~3日前より便が真っ 黒であり、診察中、寝不足なのか、居眠りをして いた。 その他の訴えなし。 Past Medical History 2007年、近医にて心不全・ネフローゼ症候 群を示唆されているが、原因・重症度は不 明。内服薬はラシックス(40mg)1T1Xのみ。 高脂血症、耐糖能異常、痛風は指摘され たことがある。 Social History 身長170cm・体重165kg(BMI:57)、無職。 ADL:自立 Allergy:なし Smoke:なし EtOH:なし Physical Examination① VS:BP130/100mmHg、HR115/min、RR16 ~20/min、BT36.2℃、SpO2 60%(RA) GEN:moderate sick CONS:alert HEENT:conjunctiva palpebrae congestion conjunctiva bulbi icteric ・NECK:JVD(-)、thyroid(-)、LNS supple Physical Examination② LUNGS:肥満強く、聴診不可 HEART:apex beat(-)、肥満強く、聴診不可 ABD:soft &distension、bs↓、pain(-)、tds(-) Rectal Examination stool(+)、茶赤色、OB(+) EXT:両前腕・顔面・体幹・両下肢・全てpitting edema(3+)、特に右前腕は圧迫すると水分がにじ み出てくる。 チアノーゼ(+) Examination Tests① ・WBC 7230/Hb 18.2/Ht 60.9/RBC 16.8 U-osm 370/U-pro 101.3 Na137/K4.9/Cl92/BUN27.2/CREA1.44 BS119/BNP417.4/TP5.5/ALB3.0/A/G1.20/ChE127/ Posm295/HbA1c6.5/TSH4.8/FT4 1.2/EPO305.4/ コルチゾール10.6/抗Ach r抗体<0.3 ABG(RA RR16~20) 7.375/74.6/38.4/42.6/13.6/69.7 A-a Do2 18.35 Examination Tests② CXR CTR62%、両肺野胸水貯留あり、肺動脈拡 大あり UCG 脂肪厚く、poor echo 見える範囲では異常 なし ECG sinus tachy、ⅠR<S・aVF R>S、心肥大・ blockなし、no ST-change AUS 脂肪厚く、poor echo 胆嚢壁肥厚あり 腹水あり、腎萎縮不明、副腎形態不明、巨脾不 明 Problem List #1Ⅱ型呼吸不全 #2全身性浮腫 #3チアノーゼ #4多血症 #5心不全 #6便潜血陽性 Ⅱ型呼吸不全の鑑別疾患 ①肺・胸郭系の異常 胸郭変形/胸膜の異常・・脊椎後側彎症 肺結 核後遺症・胸膜癒着 気道狭窄・・喘息重積発作・慢性閉塞性 肺疾 患 ②神経/筋疾患・・進行性筋ジストロフィー・慢性型 GBS ③呼吸中枢機能の低下・・肺胞低換気症候群・ Pickwick症候群 Pickwickian syndrome(Obesity hypoventilation syndrome)① 概念・・1956年にBurwell CSらによって提 唱されたもので、肥満・傾眠・痙攣・チア ノーゼ・周期性呼吸・多血症・右室肥大・右 心不全の8徴候を有する極度の肥満者に 見られる肺胞低換気症候群。 Pickwickian syndrome(Obesity hypoventilation syndrome)② 診断・・十分太っており、低換気を認めるも の。 ABGにてPaCO2>45mmHg、A-aDO2:正常 範囲内、その他の低換気の原因を除外す ること。 ・重症度 ・原因 Pickwickian syndrome(Obesity hypoventilation syndrome)③ 治療法・・①補助換気(非侵襲性の陽圧換 気) ②気管切開 ③酸素療法 ④体重コントロール Hospital Progress 入院当日(2/12)、BiPAPにて、呼吸状態改善を図 るも、PaCO2が100mmHgを下回ることなく、翌日 (2/13)に経鼻挿管し、SIMVモードとした。さらに、 入院3日目(2/14)、気管切開・SIMVモードとした。 その後、ABGにて、PaO2>80mmHg、 PaCO2<45mmHgを目標に呼吸器設定を行い、 入院31日目(3/13)に、SIMV(f15,PS9,FiO2 40,PEEP1.5)にて、7.434/37.4/79.3/24.7/1.2/95.8と なり、SIMVモード中止し、O2吹き流し(NC 7L)に て、7.414/40.4/83.5/25.4/1.3/96.5となった。 Pickwickian syndrome(Obesity hypoventilation syndrome)④ 病態・・肥満は睡眠中の上気道閉塞を助 長し、無呼吸をもたらす→無呼吸が繰り返 されると、低換気となり、PaCO2がたまる →PaCO2上昇すると、脳内のH+イオン濃 度が上昇し、結果的に、高CO2血症に反 応するはずの中枢のchemoreceptorsの感 度を下げ、呼吸回数が上がらないため、 CO2がたまってしまう。 Pickwickian syndrome(Obesity hypoventilation syndrome)⑤ 予後・・診断されたPtはlisk factorとして高 血圧・高脂血症・糖尿病・高尿酸血症・ア ルコール多飲などがあり、突然死のリスク が高い。 Pickwickian syndrome(Obesity hypoventilation syndrome)⑥ ちなみに・・この病名の由来は、Charles Dickensのかいた「Pickwick Club」に登場 する超肥満児joeに由来してつけられた (立っていても眼を閉じており、とても眠そう で、むくみがひどく、とてもいびきが大きい)。 Pickwickian syndrome(Obesity hypoventilation syndrome)⑦ 今回の症例のPtは、元アマチュアの力士 の方で、20歳代の頃には、アマチュア相撲 の全国大会で3位になった実績をもってい る。好きな力士は千代大海で、好物はから 揚げ。