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戸建住宅の選好における環境性能の影響把握のための基礎的検討

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戸建住宅の選好における環境性能の影響把握のための基礎的検討
戸建住宅の選好における環境性能の影響把握のための基礎的検討
Basic investigation for quantification of the effect of environmental quality
on preference of detached housing
萩島 理*, 谷本 潤**, 高園 洋行***
Aya Hagishima, Jun Tanimoto, Hiroyuki Takazono
The authors performed the questionnaire survey based on the conjoint analysis in order to clarify the monetary
value of the environmental performance of the detached house. The cost, locational condition, household goods
and environmental performance are considered as the attributes, which affect the utility of detached house. The
environmental performance is represented by the amount of the energy consumption cuts by the usage of the solar
collector or the photovoltaic system. From these investigations, the monetary value of the reduction of the energy
consumption based on the MWTP is higher than the market price of the both solar collector and the photovoltaic
system. In addition, the MWTP of the all attributes of the house depends on the economic situation of the
respondents. This tendency is most remarkable in the MWTP of the environmental performance.
Keywords : Environmental economics、Conjoint Analysis、Marginal Willing to Pay、Symbiosis Housing
環境経済学、コンジョイント分析、限界支払意志額、環境共生住宅
1. 緒言
や収益性を考慮した合理的な意志決定が行われる事が多いと考えら
近年、地球温暖化に代表される環境問題は国際的に高い関心を集
れる業務施設に比べると、個人住宅の購買行動には、経済的コスト
めており、二酸化炭素排出量やエネルギー消費量削減などの環境対
以外の「価値」
、例えばデザインやイメージとしての環境共生などが
策は大きな課題となっている。このような背景から、COP3 を受け
より影響を及ぼす可能性も考えられる。
て日本建築学会でも「我が国の建築物の耐用年数を 3 倍、新築建物
そこで本研究は、戸建住宅における立地、床面積といった因子に
のライフサイクルCO2(LCCO2)30%削減」の会長声明を発表するなど、
対し環境性能の価値がどの程度評価されているか、という点に着目
産官学で建築物の環境負荷軽減の取り組みが進められている。
したアンケート調査を行う事で、コスト・利便性と二律背反する事
建築物の環境負荷軽減のためには、高断熱高気密化その他の環境
の多い
「環境」
に対する人々の意識構造を把握する事を目的とする。
性能向上のための設計手法の普及・啓蒙は勿論の事、建物の環境性
環境経済学の分野では、価格による直接的評価が困難な環境の価
能を客観的に評価する事も不可欠であり、世界で多数の指標が提案
値を定量的に把握する事を目的とした様々なアンケート調査の手法
されている1) 2)。これらの多くは、エネルギー消費量、二酸化炭素排
が提案され、多くの適用事例が報告されている4) 5)。建築分野でも開
出量、材料の環境親和性など様々な因子に何らかの重みを考慮して
発行為に対する適用例として、開発行為の環境影響をCVM(仮想評
総合スコアとして評価するものであり、国内でも実際の建物を対象
価法)により貨幣価値として評価した鈴木ら6)による研究、空港の機
3)
とした評価事例が蓄積され精力的に多数の研究が行われている 。
さらに環境性能の高い建物の普及を図るには、前述の環境性能の
能性や環境性をコンジョイント分析により評価した谷本らの研究7)
が挙げられる。後者のコンジョイント分析は、建築計画の分野にお
8) 9) 10)
評価指標整備と並行して、
建物の計画・設計や購入の段階において、
いても適用されており
人々が環境性能を建物全体の価値の中でどう位置づけているか、と
した手法であると推測されるが、これまでにそのような検討事例は
いう点を定量的に把握し、建築物のマーケティングや環境対策のた
殆ど見られない。そこで、本研究では解析にあたっては、コンジョ
めの施策立案に反映させる事が望ましい。特に、ランニングコスト
イント分析を用いた。
*
**
***
:九州大学大学院総合理工学研究院 助教授・博士(工学)
:九州大学大学院総合理工学研究院 教授・工博
:当時 九州大学大学院生・工修
建築物における環境価値の定量化に適
Associate Prof., Interdisciplinary Graduate School of Engineering Sciences, Kyushu Univ. Dr. Eng.
Professor, Interdisciplinary Graduate School of Engineering Sciences, Kyushu Univ. Dr. Eng.
Former Graduate student, Interdisciplinary Graduate School of Engineering Sciences, Kyushu University, M. Eng.
表 1 アンケートの質問票
- - - - - 中略 - - - -
- - - - - 中略 - - - -
- - - - - 以下略 - - - -
コンジョイント分析は、複数のプロファイルを提示して選好を問
う事で全体効用に対する各属性の部分効用が評価可能で、1960 年代
に計量心理学と統計学の分野で開発され、1970 年代に入って、マー
ケティング・リサーチの分野に応用され発展してきた。施設や開発
行為の計画に関するコンジョイント分析の適用事例としては、スキ
問1
問2
問3
ーリゾート計画を対象とした宇治川・讃井らの研究8)、商業スポー
ツクラブを対象とした二宮らの研究9)、集合住宅を対象とした宇治
10)
川らの研究 などが挙げられる。また、1990 年代以降は環境評価の
分野への応用が急速に進められてきている4)。
尚、本稿では、コンジョイント分析の手法として、ランダム効用
理論に基づくペアワイズ型と選択型の 2 種類を取り上げ、同じプロ
問4
問5
問6
∼17
表 2 アンケート調査の主な内容
調査内容
選択型コンジョイントによる質問(計 9 回)
ペアワイズ型コンジョイントによる質問(計 9 回)
住宅購入に際し、500 万円もしくは 1000 万円の自由に使える
お金が与えられた場合に、購入したい商品(いずれも住宅の質
の向上に関わる内容)を尋ねる質問
戸建住宅の 5 属性(表 4)について順位をつけてもらう質問
「地球温暖化への配慮,資源枯渇への配慮,コストの大小,
生活の質・便利さ」の 4 項目の重要度の順位についての質問
個人属性に関する質問(居住地域, 性別, 年齢, 世帯主の職
業, 世帯年収, 家族人数, 家族構成, 住居形態, 最寄り駅, 日
常生活における電車利用の頻度, 太陽光発電・太陽熱温水器
の有無,戸建住宅購入予定の有無, その他)
ファイルを用いたアンケートを行う事で、2 つの手法間に有意な差
があるのかについても併せて検討を行っている。
2.アンケート調査の概要
2.1 調査対象
100 万都市である福岡市の郊外ベッドタウンとして近年人口の増
加の著しい福岡県春日市を対象として、2003 年 12 月から 2004 年 1
月にかけて、電話帳単純無作為抽出、郵便調査方式で 1000 部のアン
ケート票を配布した注 1)。
2.2 質問内容
実際の質問票のサンプルを表 1 に、アンケートの主な質問内容を
表 2 にそれぞれ示す。
表 3 デフォルトとして回答者に想定してもらう戸建住宅
12714kWh
年間エネルギー消費量
床面積
120 ㎡
家電・家財
回答者が購入しようと考えている品質,量
2000m
最寄り駅までの距離
価格
土地 1400 万円, 建物本体 1500 万円
表 4 属性とレベル
属性
レベル 1
レベル 2
年間エネルギー削減量
0%(現状)
14% *
床面積
10m2減少
現状
家電・家財
20%低下
現状
最寄り駅までの距離
500m 延長
現状
追加負担額
300 万円減
100 万円増
*太陽熱温水器導入
**太陽光発電システム導入
レベル 3
22% **
10m2増加
20%向上
500m 短縮
500 万円増
実際の住宅購入の際は、予算や立地などの条件の目安を決めた上
で、属性のレベルが幾分異なる複数の候補から好ましい物件を選択
する事が多いと考え、コンジョイント分析ではこの場面を模した質
ネルギー削減量」を考慮している。
問形式を採用した。即ち、表 3 に示すような戸建住宅を購入する場
「年間エネルギー削減量」は、一般的な戸建住宅の値として
面を回答者に想定してもらい、5 属性のデフォルト値を表 4 のレベ
12714kWh/(世帯・年)と仮定11)し、これに対して、太陽熱温水器また
ルに応じて増減させた複数のプロファイルを提示して、望ましいと
は 3kWの太陽光発電システムを導入するというシナリオを想定し、
思われる戸建住宅を選択または評定する、というものである。
年間エネルギー削減量割合を 14%、22%と設定している
12) 13)
。尚、
コンジョイント分析に関する質問に加えて、戸建住宅の効用に関
単なるエネルギー削減によるコストメリットではなく、
「積極的な環
わると想定した 5 属性の重要度の順位付け(問 4)
、より一般的な環
境配慮行動」として回答者がこの属性を評価する事を期待し、アン
境意識を把握するための順位付け(問 5)に関する質問を行ってい
ケート冒頭の属性の水準説明では、
「太陽熱温水器の導入によるエネ
る。問 5 の質問は、本研究に先立ち地方自治体により同じ地域を対
ルギー削減 14%」
「太陽光発電システムの導入によるエネルギー削
象として行われた環境意識に関するアンケート(住民票無作為抽出
減 22%」と明示している。
で 1000 部郵送配布, 350 部回収) における質問と同一のものとなっ
「家電・家財」については、住宅購入の際に、回答者が付随的に
ている。回答者数の異なる 2 つのアンケート結果を比較する事で、
購入すると考えられる家電や家財道具を想定しており、定性的では
今回のアンケートにおけるサンプル数の妥当性を確認するのが目的
あるが、回答者が購入しようと考えている水準に対して 20%低下ま
である。また、回答者の属性が環境に対する意識に及ぼす影響を検
たは向上させる、という 3 水準を設定している。
討するため、年齢や性別などの一般的な回答者の属性に関する質問
を行っている(問 6∼17)
。
「床面積」及び「最寄り駅までの距離」については、アンケート
対象地域における地価14)や住宅のコストに関する統計値15)を参考に
して、他因子の各水準に相当する市場価格に比べ突出した条件とな
2.3 各属性のレベルの設定方法
コンジョイント分析を行うにあたり、戸建住宅の効用を構成する
らないように留意し、デフォルト値に対して等間隔で減少・増加さ
せるという 3 水準を設定している。
属性として考慮したのは 5 項目である(表 4)
。通常の住宅購入にお
「追加負担額」
については、
次の手順により水準を設定している。
いて重要な条件となると思われる「床面積」
、立地条件を表す「最寄
即ち、まず、統計資料や市場価格を参考にして「追加負担額」以外
り駅までの距離」
、
住宅購入に付随してまとまって購入すると考えら
の 4 属性各 3 水準について個別に価格を設定する。次に、4 属性の
れる「家電・家財」に加え、住宅購入における「環境配慮」を具体
水準組み合わせの中から、価格合計の最小値と最大値を求め、それ
的に回答者がイメージ出来る属性として、環境機器購入による「エ
を「追加負担額」の水準 1 及び水準 3 と設定する。最後に、水準 1
男
0%
20%
30代以下
0%
40%
40代
20%
会社員
0%
女
60%
50代
40%
公務員
無回答
80%
60代
60%
自営業
100%
70代以上
80%
年金
100%
無回答
20%
40%
60%
80%
図 1 アンケート回答者の内訳
表 5 コンジョイント分析の結果
選択型
ペアワイズ型
(条件付きロジット)
(順序プロビット)
変数
係数 β
T値
係数 β
T値
0.02141
4.4633
0.02581
5.3337
エネルギー削減量
0.03832
6.8757
0.03486
6.3836
床面積
属
0.01106
4.1267
0.01154
4.3441
家電・家財
性 最寄り駅までの距離
0.00030
2.7213
0.00096
9.1042
-0.00196
-3.1883
-0.00214 -16.3535
追加負担額
878
932
サンプル数
-813.694
-1938.348
対数尤度
LRI
0.156
0.079
的中率
57.1 %
23.3 %
11.899 %
11.829 %
ProbMax−ProbReal *
■は 1%水準有意を意味する。
* 最大の効用となる選択肢の選択確率ProbMaxと実際に選ばれた選択肢の選択
確率ProbRealの差を全サンプル平均とったもの
100%
と水準 3 の中間値を水準 2 とした。
2.3 コンジョイント分析におけるプロファイルデザイン
コンジョイント分析のためのプロファイルの数は、本研究では 5
表 6 限界支払意思額
選択型
ペアワイズ型
10.902
12.078
エネルギー削減量
19.513
16.313
床面積
5.635
5.401
家電・家財
0.151
0.450
最寄り駅までの距離
単位
万円/%
万円/m2
万円/%
万円/m
属性 3 水準を想定しているため理論的には 35=243 となるが、実験
エネルギー削減量
床面積
家電・家財
最寄駅までの距離
計画法理論16)に基づき直交表L27(313)を用いることで 27 種類のプ
4)
ロファイルに縮約した 。属性やレベルの内容に関わらず機械的に
プロファイルを作成しているため、床面積増加にも関わらず追加負
担ゼロ、といったやや現実的ではないプロファイルが一部に含まれ
るが、谷本らと同様7)ここでは統計的効率性を優先して設計を行っ
た。
選択型コンジョイントについては、回答者の疲労を考慮して 1 人
につき 9 回の質問を行っている。各質問では,5 属性の組み合わせ
によって表現された案 1,2,3 が提示され,回答者が最も望ましい
と判断した案を選択するという形式である。1 人に対する 9 回の質
問の各 3 プロファイルは、回答者毎に、直交表による前述の 27 プロ
ファイルから乱数により組み合わせを決定しており、回答者 1 人 1
人に対して直交性が保存されるように配慮している。
ペアワイズ型コンジョイントについては、5 属性の組み合わせに
よる2つのプロファイルのどちらが望ましいかを1∼9までのスケー
ルで選ぶ、という質問を 9 回行っている。回答者 1 人につき 9 回の
質問×2 プロファイル=18 プロファイルとなるため直交性は保たれ
ない、そこで、回答者毎に 27 プロファイルからランダムに 18 プロ
ファイルを抽出して質問を作成する事で、回答者全体として出来る
限り直交性が保たれるようにしている。
3.アンケート結果
3.1 回答者の内訳
1000 部のアンケート票のうち 118 部、11.8%が回収された。回答
者の性別、年齢、職業の内訳を図 1 に示す。男性の回答者が全体の
7 割を越えている。また、60 代以上の高齢者が全体の 4 割以上を占
めるため、
世帯の主な収入源が年金と答えた割合も高くなっている。
この他、住居形態については持家・戸建住宅が大部分を占め、太陽
万円
300
200
100
0
-100
-200
-300
エネルギー削減量
床面積
家電・家財
最寄駅までの距離
ペアワイズ型
選択型
太陽光発電
3kWの市場価格
L1
L2
太陽熱温水器の
市場価格
L3 L1
L2
L3
図 2 手法による要因効果の違い
熱温水器を所有する世帯は全体の 2 割程度、という結果であった。
本研究に先立ち住民票無作為抽出で同じ地域を対象として行われ
た環境意識に関するアンケートに比べ回答数は約 3 分の 1 と少ない
が、2 つのアンケートにおける共通の質問(環境の重要度について
尋ねた問 5)の結果に有意な差は見られなかった。よって、解析を
行うのにはある程度十分なサンプル数と判断している。
3.2 コンジョイント分析の手法による比較
回収された 118 部の各 9 問のうち未回答を除くと、選択型 878 サ
ンプル、ペアワイズ型 932 サンプルが得られた。これらを用いて、
条件付きロジットモデル、順序プロビットモデルによる推定を行っ
た結果を表 5 に示す。
選択型、ペアワイズ型のいずれも全ての属性が 1%水準で有意と
なっている。また、係数βの符号は、追加負担額についてはマイナ
ス、それ以外の属性についてはプラスとなり、一般通念と整合のと
れた結果となっている。ペアワイズ型(順序プロビット)のLRIは
Kuriyamaら17)と同様に選択型のそれに比べ低い。的中率については
表 7 回答者カテゴリ別の限界意思支払額(ペアワイズ型)
回答者カテゴリ
エネルギ削減
%/万円
床面積
2
m /万円
家電・家財
距離
%/万円
m/万円
1位
サン
プル
16.313
5.401
0.450 932
17.403
5.726
0.456 742
男性
14.544
5.969
0.433 177
女性
19.225
4.995
0.434 525
年齢
60 歳未満
11.719
6.867
0.471 394
60 歳以上
0.334 498
16.320
6.132
年収
700 万円以下
17.715
5.358
0.550 412
701 万円以上
16.930
4.194
0.358 346
住居 1 ローン返済中
18.200
6.621
0.622 436
ローン完済
17.132
5.517
0.495 782
住居 2 持家
16.777
6.221
0.293 137
賃貸
5%有意のみ記載している。■は同一属性の全回答者カテゴリの MWTP 上位 3 位
まで、■は下位 2 位までを示す。
全体
性別
12.078
13.434
9.885
12.203
13.150
11.891
12.264
9.220
20.031
15.060
2位
3位
4位
5位
年間エネルギー消費量
床面積
家電・家財
最寄駅までの距離
追加負担額
0%
25%
50%
75%
100%
図 3 戸建住宅の属性の重要度(直接順位法)
明確になっている。これは、家計に余裕があるほど戸建住宅
の効用を上昇されるためにお金を支払う事を厭わないという、
一般的な常識と一致する結果と言えよう。
「年収 700 万円以
ペアワイズ型が選択型の約半分の値となっているが、選択肢の数が
上」より「住宅ローン完済」の方がこの傾向が顕著な理由と
ペアワイズ型は 9、選択型は 3 で異なっているため一概にペアワイ
しては、世帯構成により家計の支出が全く異なる回答者集団に対し
ズ型の精度が低いとは判断出来ない。
(ProbMax−Probreal)については、
ては、家計のゆとりを表す指標として現在収入よりも所有資産に関
二つの手法でほとんど差が無い。
する情報の方が有効であった、と考えられる。
表 5 の推定結果をもとに、各属性の限界支払意思額を算出した結
回答者カテゴリの「住宅ローン完済」における MWTP を「住宅
果を表 6 に、各属性の要因効果を図 2 に示す。尚、エネルギー消費
ローン返済中」のそれと比較すると、4 属性の中でも太陽光発電シ
量削減の際に想定した太陽熱温水器及び3kw太陽光発電システムの
ステムや太陽熱温水器の購入によるエネルギー消費量削減において
市場価格 30 万円及び 180 万円(国による補助金 10 万円を考慮)を
両者の差は最も大きくなっている。この事から、
「エネルギー削減」
図 2 に併せて示している。
以外の 3 属性は日常生活の質にダイレクトに影響を及ぼす属性であ
「最寄り駅までの距離」以外の 3 属性の要因効果については手法
による差は小さい。一方、選択型による「最寄り駅までの距離」の
るのに対し、環境配慮行動としての「エネルギー削減」は家計に余
裕があってはじめて「価値」が認められる、と推測される。
要因効果は 4 属性の中で最も小さな値となっているのに対し、ペア
また、
「60 歳以上」の回答者カテゴリは「60 歳以下」の回答者カ
ワイズ型によるそれは 4 属性の中で最も大きくなっている。環境評
テゴリと比較すると面積の MWTP が極端に小さいが、家電・家財
価にコンジョイント分析を用いる際に、どのような質問形式が優れ
の MWTP は逆に大きな値を示している。これは、子供が巣立った
ているか、今後さらに多数の評価事例の蓄積が必要と考えられる18)。
後の夫婦 2 人世帯が多い高齢者にとって床面積の価値は低く、寧ろ
いずれの手法でもエネルギー削減量の MWTP から得られるレベ
生活の質向上に資すると考えられる家電・家財に高い価値を認めて
ル 2 及びレベル 3 の要因効果はそれぞれ太陽熱温水器および太陽光
いると考えられる。
発電の市場価格を上回っており、今後これらの環境機器が消費者か
ら積極的に支持される可能性を示唆している。尚、他の 3 属性の要
3.4 直接順位法による属性の重要度
戸建住宅の 5 属性の重要度を順位付ける質問(問 4)の結果を図 3
因効果についても一般的な市場価格と近いオーダーの結果が得られ
ている。
に示す。最も重要な属性として 1 位に注目すると、
「追加負担額」を
選んだ人が最も多く 33%、次いで僅差で「年間エネルギー消費量」
3.3 回答者の属性が限界支払意志額(MWTP)に及ぼす影響
回答者の性別や年齢といった情報(以下、
「回答者カテゴリ」とす
の 31%、
「最寄り駅までの距離」と「床面積」はほぼ同じで約 17%
となっている。一方、最下位となった属性は、
「最寄り駅までの距離」
る)に関する質問(問 5∼17)の結果を用いて、回答者カテゴリ別
が最も多く 33%となっている。この質問では、各属性の水準を一切
のペアワイズ型コンジョイント分析による限界支払意思額を算出し
明示していないため単純な比較は出来ないが、図 2 に示したペアワ
た結果を表 7 に示す。尚、選択型、ペアワイズ型の両方の手法で検
イズ型の「最寄り駅までの距離」の要因効果が他の 3 属性に比べ最
討を行ったが、選択型では多くの回答者カテゴリにて各属性の部分
も大きくなっていたのは、
やや過大評価である可能性も考えられる。
効用は 5%有意と認められなかった。これに対し、質問回数は回答
者 1 人当たり 9 回で同条件のペアワイズ型では殆どの回答者カテゴ
4.
結語
リで 5 属性全てが 5%有意と認められた。この結果から、ペアワイ
本稿では、戸建住宅の環境性能が床面積や立地といった他の条件
ズ型の方が回答者母集団の小さい条件下でも安定的に効用関数を推
と比較してどの程度評価されているかを定量的に把握する事を目的
定できる可能性が示唆される。
「住宅ローン完済」というカテゴリの回答者の MWTP は、4 属性
として、選択型とペアワイズ型の 2 通りのコンジョイント分析によ
るアンケート調査を行った。コンジョイント分析を行うにあたり、
のいずれについても他の回答者カテゴリに比べ軒並み大きな値を示
戸建住宅の効用を構成する属性として「コスト」
「最寄り駅までの距
し、その傾向は「年収 700 万円以上」という回答者カテゴリ以上に
離」
「家電・家財」に加え、環境配慮を具体的に回答者がイメージ出
来る項目として、環境機器購入による「年間エネルギー削減量」の
5 つを考慮した。これにより、以下の 3 点が確認された。
1.
価,日本建築学会計画系論文集,No.560,pp.253-260,2002.10
田口玄一,実験計画法 下,丸善,1977
Koichi Kuriyama, Yutaka Ishii,Estimation of the Environmental Value of
Recycled Wood Wastes : A Conjoint Analysis Study,Journal of Forest Research,
5(1),pp.1- 6,2000
大野栄治,環境経済評価の実務,勁草書房,2000
朝野煕彦,コンジョイント分析の定義と適用をめぐる論争点,pp.1-24,
経営と制度 No.1,2004.2
16)
17)
床面積エネルギー削減量の MWTP から得られる要因効果は太
陽熱温水器および太陽光発電の市場価格を上回り、今後これら
の環境機器が消費者から積極的に支持される可能性が示唆さ
18)
19)
れた。
2.
「最寄り駅までの距離」の MWTP はペアワイズ型と選択型で
注記
大きく異なる結果となったが、その他の属性の MWTP は類似
1) 回答者にとって設定された属性や水準に対する認知や理解が低
の傾向を示した。
3.
「住宅ローン完済」と「住宅ローン返済中」の回答者間での
MWTP は、4 属性の中でも環境性能に関連するエネルギー削減
量において最も大きな差を示し、環境配慮行動としての「エネ
ルギー削減」は家計に余裕があってはじめて「価値」が認めら
れるという一般通念と合致した結果となった。
今後は、環境共生住宅の商品開発や環境配慮商品の補助制度検討
い場合アンケート結果の信頼性が低下する、という社会調査の
一般的な考え方に鑑みると、電話帳単純無作為抽出に拠るので
はなく価格感度が形成された住宅の購入予定者または近年住宅
を購入した者をアンケート対象とした方が、より高精度な結果
が得られると予測される。しかし、本稿では住宅に関する調査
を通して「環境」に対する一般の人々の意識構造を把握する事
を目的としているため、母集団である対象地区とサンプルの同
に資するべく、1) アンケート対象者を住宅購入予定者または近年購
一性を確保する事が容易な電話帳単純無作為抽出法を採用して
入した経験者に絞る 2) アンケート内容を回答者が理解しやすいよ
いる。尚、家電・家財に関する「回答者が購入しようと考えて
うに郵便配布方式から面接法に変更する、といった検討を行う予定
である。
いる品質,量」といった抽象的なプロファイルの設定は、回答者
により推測する内容に大きな幅が生じる可能性が高いが、母集
団との同一性が保証されたサンプルを回答者群とする事で、母
謝辞
集団の平均的な「環境意識」を抽出出来る、と考えている。
本研究の一部は九州大学ユーザーサイエンス機構・平成 16 年度
戦略的研究拠点育成プログラムに拠る。
2) 全体効用が部分効用の和で表される、というランダム効用モデ
ルに基づく解析では属性の直交性は極めて重要な条件であるが、
本研究で想定した属性も完全に直交している、とは言い難い。
参考文献
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
12)
13)
14)
15)
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しかし、1) 限られたサンプル数に対して、交互作用も考慮した
解析を行うことは極めて難しい、2)本稿で取り上げた 4 属性は
住宅の効用を考える上でいずれも必須と考えられる、という点
から、属性を決定している。尚、床面積、家電・家財、距離と
いう 3 属性の水準がある閾値を越えた場合に、追加負担額との
相関項が無視し得なくなる可能性が考えられたので、属性の水
準設定においては、他の属性に比べ突出した条件にならないよ
うに留意している。
附録
A1. コンジョイント分析18)
本研究で採用した選択型コンジョイント分析、ペアワイズ型コン
ジョイント分析の 2 つの手法について解析方法の概略を紹介する。
A1.1 選択型コンジョイント分析
選択型コンジョイントは、回答者に複数のプロファイルの中から
望ましいプロファイルを選択してもらうことで、属性別の選好を推
定する手法である。部分価値の推定は条件付きロジットによる。プ
ロファイルjを選択した時の全体効用Ujはランダム効用モデルによ
り(1)式で表される。
U j = V j + ε j = β ⋅ X j + ε j (1)
Vj:効用のうち観察可能な部分, Xj:プロファイルjの属性ベク
トル, β:部分効用を表現するパラメータ, εj:誤差項(観察
不可能な部分)
ここで誤差項がガンベル分布に従うと仮定すると、回答者がプロ
付表 特別配当金が与えられた場合の購入商品の選択割合
ファイルjを選択する確率Pjは(2)式で、対数尤度関数は(3)式で表され
る4)。部分効用を表現するパラメータβは、(3)式より最尤法により推
定される。
Pj =
exp λV j
選
(2)
∑ exp(λV )
択
k
k
log L = ∑∑ d ij ln
i
j
∑ exp(V
k
割
(3)
exp(V j )
)
合
k
dij:回答者iがプロファイルjを選択したときに 1 となるダミー変
数, λ:スケールパラメータ(通常は 1)
A1.2 ペアワイズ評定型コンジョイント
[%]
特別配当金の金額
商 品
太陽光発電システム
環境機器
太陽熱温水器
5m2
床面積の
10m2
20m2
増加
30m2
20%
家電・家
財の量・
40%
質の向上
60%
500m
最寄り駅
1000m
までの距
1400m
離の短縮
どれも購入しない
サンプル数
価格
180
30
80
160
320
480
40
80
120
120
270
470
0
500 万円
1000 万円
56.6
86.8
30.2
3.8
28.3
43.4
11.3
0.0
20.8
49.1
15.1
13.2
20.8
26.4
49.1
1.9
11.3
11.3
53 人
59.6
88.4
28.8
3.8
21.2
63.5
23.1
15.4
21.2
78.9
26.9
30.8
23.1
26.9
68.9
18.9
3.8
3.8
52 人
ペアワイズ評定型では、2 つの対立するプロファイルを回答者に
提示して、どちらのプロファイルがどのくらい望ましいかをたずね
パラメータ(α1は−∞, α9は+∞に基準化される), Φ:標準正規分布
の分布関数
A2. 特別配当金があった場合に「環境」目的にいくら支出するか
戸建住宅の住環境向上のための資金としてボーナス的にお金(以
下、
「特別配当金」とする)が与えられたとき、購入したい商品を選
択肢から選ぶ、という質問を行った(表 1 の問 3 参照)
。提示した商
品は、コンジョイント分析の際に想定した属性及び水準を参考にし
て設定し、
特別配当金の上限までは複数回答可能としている。
また、
選択肢の中に魅力的な商品が無い場合は、
「購入しない」という選択
も可能であり、残金は全て住宅ローンの返済に充てる、という設定
になっている。
提示される特別配当金の金額は 500 万円と 1000 万円
のいずれかで、回答者により異なる。住宅の属性レベルを変化させ
る事により住宅の購入金額の修正を行う場面を想定した前述のコン
ジョイント分析では、まさに Marginal Willing to Pay という言葉通り
自腹を切って住宅を購入する際の環境の貨幣価値が得られる。これ
に対し、問 3 は自分の懐の痛まない仮想的な条件下での環境の経済
的価値に関する情報を得よう、という試みである。
まず、購入選択割合を付表に示す。特別配当金額の異なる 2 ケー
スとも 3kW 太陽光発電システムは回答者の半数以上が選択されて
おり最も選択割合が高い。また、環境機器以外の商品では、特別配
当金が 500 万円から 1000 万円に増加するとより高水準の商品を購入
太陽光発電
dis:回答者iが評定sを回答したとき 1 となるダミー変数, αs:閾値
太陽熱温水器
(5)
s
床面積5㎡増
i
床面積10㎡増
log L = ∑∑ d is ln[Φ (α s − dV jk ) − Φ (α s −1 − dV jk )]
床面積20㎡増
数のパラメータβは推定される。
床面積30㎡増
ビットにより、対数尤度関数は(5)式で表され、最尤法により効用関
家電・家財20%増
ができる。誤差項εjkが標準正規分布に従うと仮定すると、順序プロ
家電・家財40%増
dVjk:観察可能な効用差関数, εjk:誤差項
ペアワイズの評定データは、効用差と関連しているとみなすこと
家電・家財60%増
(4)
距離1000m短縮
dU jk = dV jk + ε jk = β ⋅ ( X j − X k ) + ε jk
万円
700
600
500
400
300
200
100
0
距離1400m短縮
式で表される。
距離500m短縮
500万円の特別配当金があった場合の使途の期待値
1000万円の特別配当金があった場合の使途の期待値
選択型コンジョイントによるMWTP
ペアワイズ型コンジョイント分析によるMWP
る。このとき、2 つの対立するプロファイルjとkの効用差dUjkは(4)
付図 特別配当金の使途の期待値
する傾向にある。
次に、商品購入の期待値に対して、コンジョイント分析の MWTP
から得られる商品の貨幣価値及び市場価格との比較を行った結果を
付図に示す。特別配当金という自分の懐が痛まないお金の方が、商
品購入の心理的閾が低くなるため MWTP による貨幣価値に比べ特
別配当金の使途の期待値は高くなると予想していたが、殆どの商品
において全く逆の傾向となっている。また、MWTP から算出した貨
幣価値と市場価格との差は概して小さい。
コンジョイント分析では、複数のプロファイルを提示して選好を
質問する事で、回答者に属性の「価値」を強制的に比較検討させる
事が出来る。一方、本節の質問は、戸建住宅の全体効用を上昇させ
る方法として属性別に分離した部分効用を表す選択肢を提示し回答
者に購入するか否かを尋ねるものであり、CVM におけるシングル
バウンドの二項選択法とやや類似した設問と言えよう。このような
質問形式の大きな違いに加え、各属性の商品の価格が一定でない事
や商品購入金額の総額が設定されている事によるバイアスの影響も
あるため、特別配当金の使途の期待値はコンジョイント分析による
MWTP とは同列に比較出来ないと考えるのが妥当であろう。
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