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ベネズエラの最新動向(3 月 1 日~3 月 31 日)

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ベネズエラの最新動向(3 月 1 日~3 月 31 日)
国際協力銀行
ニューヨーク駐在員事務所
2013 年 4 月 5 日
ベネズエラの最新動向(3 月 1 日~3 月 31 日)
I.
1.
政治・経済
マドゥーロ副大統領、チャベス死去を受け暫定大統領に就任



2.
チャベス大統領が 3 月 5 日に死去したことを受け、(国葬が行われた 3 月 8 日に)マドゥーロ副大統
領がベネズエラ暫定大統領に就任。マドゥーロ氏は、次期大統領が選出されるまで暫定大統領を務
める見込みで、与党 PSUV 候補として出馬することも決定。
野党勢力や一部メディアは、マドゥーロ氏の暫定大統領就任が「ベネズエラ憲法に違反している」と
強く批判。憲法に従い、国民議会議長であるカベージョ氏が暫定大統領に就任するべきと主張 1 。
憲法 229 条では、現職副大統領が大統領選挙に立候補することはできないとの規定もあり、当該
規定を回避するためにマドゥーロ氏は副大統領の職務を放棄したとの批判も高まる。
憲法解釈で最終的な決定権を持つ最高裁判所は 3 月 8 日、「マドゥーロ氏が暫定大統領に就任し、
次期大統領選挙へ出馬することに憲法上の問題は全くない」とし、マドゥーロ暫定大統領を全面的
に支持するとの見解を示す 2 。チャベス自身から後継者として指名されたマドゥーロ氏への国民の支
持も高く、マドゥーロ暫定政権は一般的に容認されている状況。
選挙管理委員会、大統領選挙を 4 月 14 日に実施と発表
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選挙管理委員会(CNE)は 3 月 9 日、チャベス後継者を選出する次期大統領選挙を 4 月 14 日に実
施すると発表。正式な選挙活動実施期間は 4 月 2 日~11 日の 9 日間。国際的な選挙監視機関と
して南米諸国連合(UNASUR)が参加する見込み 3 。
野党勢力のリーダーであるカプリレス・ミランダ州知事は 3 月 10 日、野党勢力 MUD からの要請を
受け、野党統一候補として再出馬することを決断 4 。3 月 11 には大統領候補として CNE で正式な
立候補登録を行った。マドゥーロ暫定大統領も同日に立候補登録を完了し、実質的に選挙活動がス
タート。
有力地場調査会社「Datanalisis」が 3 月 26 日に発表した支持率では、マドゥーロ候補の 53.1%に対
してカプリレス候補が 35.6%で、マドゥーロ候補の圧倒的な優勢が継続しており、大統領選挙ではマ
ドゥーロ候補の勝利が確実との見方が一般的。
1
ベネズエラ憲法 233 条では、次期大統領が就任前に死亡した場合には、新大統領が選出・就任するまでは国民議会
議長が暫定大統領を務めると規定されている。(チャベス大統領はキューバでの治療のため、1 月 10 日の就任の宣誓
式には間に合わず、その後も正式な就任式は行っていないことから、野党勢力は新大統領は就任していないとの認識
から批判しているもの。)
2
最高裁判所は、チャベス大統領は就任後に死去した、との認識。野党勢力は、中立な立場をとるべき最高裁判所が
マドゥーロ氏への支持を示したことを批判。
3
米州で最も信頼できる選挙監視システムを有するとされる米州機構(OAS)は、米国政府主導の機関であるとの理
由から今次選挙プロセスには招かれなかった。
4
カプリレス候補は、昨年 10 月に実施された大統領選挙では、チャベス大統領に約 11%ポイント差で敗北している。
1
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3.
ベネズエラ政府、新たな外貨供給システムを導入
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II.
1.
昨年の大統領選挙(10 月)と州知事選挙(12 月)の敗北で政治的影響力を失っている野党陣営は、
マドゥーロ陣営に対し敵対的な選挙活動を展開することが予想されており、両陣営の対立による社
会不安のリスクも高まっている。3 月 21 日には選挙活動中のチャビスタ(政府支持者)と反政府勢
力が CNE 本部付近で衝突し数人が負傷する事件が起きており、CNE 周辺では民兵の配置が強化
されている 5 。
野党陣営は、ベネズエラの社会・経済問題(治安問題、インフレ問題、突然の通貨切り下げ、外貨・
物資不足等)における政府の対応に批判の声を強めており、治安問題と物資不足への対応は大統
領選挙の争点とされている。
マドゥーロ暫定大統領は 3 月 19 日、「SICAD 6 」と呼ばれる新たな外貨供給システムを 1 週間以内
にも導入し、既存の為替システムである CADIVI 制度 7 と並行して運営すると発表。当該システムは、
入札ベースによる新たな外貨調達手段で、特に輸入業者への外貨供給の拡大を目的としている。
ベネズエラでは物資供給を輸入品に大きく依存しており、外貨不足の影響で深刻な物資不足に陥っ
ていることが今次導入の背景 8 。
ベネズエラ財務省は 3 月 27 日、SICAD 制度を通じて、383 の輸入業者に対して 2 億ドルの外貨供
給を実施したと発表。但し、財務省は為替レート等の詳細を開示せず、ベネズエラ中銀も現時点で
はノーコメントとした。入札には外貨取引システムに登録された民間企業が参加したとされるが、政
府は参加企業の詳細も開示しなかった。
現地メディアやアナリストによると、入札ではヴィックリー・オークション方式 9 がとられたとされ、入札
者は相互に提示価格を知ることはできず、最高価格と最低価格の平均が最終的な為替レートとして
設定された模様。為替レートは 12~15 ボリバル/ドルであったとされ、2 月 8 日に切下げられた
CADIVI レート(6.3 ボリバル/ドル)の 2 倍以上の水準となった模様。
現地メディアは、当該入札について、実質的にはマドゥーロ暫定政権による二度目の通貨切り下げ
措置であると指摘。政府が SICAD の為替レートを公表しなかったことについては、透明性に欠ける
ものであるとし、大統領選挙を間近に控え、マドゥーロ候補に悪影響を及ぼすことを避けることが目
的と指摘した。次回の入札日程等の詳細については分かっていない。
外交
チャベス死去を巡る各国の反応と動向

ベネズエラ・チャベス大統領が 3 月 5 日に死去したことを受けた各国の反応・動向は以下のとおり:
- 米国: オバマ大統領は「米国政府はベネズエラ国民を支援するとともに、ベネズエラ政府との
建設的な関係構築を目指すことを再確認する」、「ベネズエラが政権移行プロセスに入るに当たり、
民主主義、法的統治、人権尊重を促進する政策を引き続き支持していく」とコメント。他方、ベネズエ
5
反政府勢力は、公正な選挙を求めて CNE 周辺で連日にわたり抗議運動を繰り返している。
「SICAD」とは、「Sistema Complementario de Administración de Divisas」の略。
7
CADIVI(外貨管理委員会)とは、ベネズエラ中銀の為替管理の実行機関。
8
ベネズエラ中銀が発表した 2013 年 2 月の物資不足率は 19.7%まで上昇している。
9
米国経済学者であるウィリアム・ヴィックリー(1996 年にノーベル経済学賞を受賞)が考案した入札システムで、
セカンドプライスオークションとも呼ばれる。
6
2
ラ政府は、大統領選挙を間近に控えていることを背景に、米国に対する批判的な姿勢を強めており、
3 月 20 日には米国政府との対話を一時停止すると発表。両政府は 2010 年に断絶した国交の正常
化に向けて、米州機構の両大使を通じて交渉を続けてきたが、チャベス死去後の政権移行を巡り両
国関係は悪化している状況。他方、ベネズエラ政府は米国との対話が停止しても、両国間の石油取
引が停止することはないと明言している。
- 中国: マドゥーロ氏が暫定大統領に就任したことを踏まえ、中国政府はベネズエラとのエネル
ギー協力協定のアジェンダを再確認し、ベネズエラとの二カ国間関係を引き続き強化することを望
むとコメント。アナリストは、今後も中国からの融資拡大が期待されるとするも、中国がより厳しい融
資条件を要求する可能性があり、政府や PDVSA の財政状況に悪影響を与える可能性もあると指
摘している。
- ロシア: ロシア・メディアは、チャベス大統領の死去により、ロシアのベネズエラでの原油投資、
軍需品の輸出、ベネズエラ向け融資等に悪影響を与える可能性があると報道。アナリストは、ロシ
アとベネズエラの関係は、チャベス個人に依存している部分が大きかったと指摘した。他方、ベネズ
エラ政府は 4 月 2 日にロシア政府の派遣団とエネルギー協力について協議し、引き続き関係を強
化することで合意している。
- ブラジル: ブラジル・ルセフ大統領は、「ブラジル政府はチャベスに同意しないことも度々あった
が、チャベスはブラジルの友人であり、偉大な指導者を失った」との声明を発表。ブラジル・メディア
は、ブラジル政界・外交官がブラジルのラテンアメリカでの影響力拡大に向けて動いていると報道。
- コロンビア: コロンビア・サントス大統領は、「コロンビアを含むラテンアメリカにおける平和の実
現に向けたチャベス大統領の限りないコミットメントに感謝する」との声明を発表。また、「チャベス死
去後もコロンビアとベネズエラは建設的な対話を継続する」と述べた。マドゥーロ暫定大統領も、ベ
ネズエラがコロンビアの和平交渉を引き続き全面支援することを約束した 10 。
- ボリビア、エクアドル: ボリビア・モラレス大統領は、チャベス死去後ベネズエラを急遽訪問し、
ベネズエラ国民に対し団結を呼びかけ、『チャベスが進めてきた「民衆のための革命」を継続する』と
コメント。エクアドル・コレア大統領も「チャベス死去後もラテンアメリカにおける社会主義運動を継続
する」とコメントしており、両大統領とも引き続きラテンアメリカで左派政策を進める見込み。一部アナ
リストは、チャベス死去でラテンアメリカの反米左派国の影響力が低下する可能性があると指摘。
- ペトロカリブ 11 、キューバ: マドゥーロ暫定大統領は、チャベス死去後もペトロカリブ加盟国への
支援を継続する明言しているが、ベネズエラの経済・財政が悪化した場合にはペトロカリブへの支
援が削減・停止されるとの見方もある。アナリストは、政治的な理由でキューバへの支援が削減でき
ない場合には、その他の加盟国(ドミニカ共和国、ニカラグア、ジャマイカ等)がより大きな影響を受
ける可能性があると指摘している。カプリレス野党候補は、大統領選挙で勝利した場合にはキュー
バへの優遇的な原油提供を全面的に停止すると公約している。
- イラン、シリア: 3 月 8 日の国葬に参加したイラン大統領は、「チャベスは革命的なリーダーで
あり、盟友であった」と述べ、「チャベス死去後もベネズエラとイランの関係強化は継続する」とコメン
ト。シリア・アサド大統領は、「シリア内戦が続くなか、チャベスがシリア政府を支持してくれたことに
感謝するとともに、その反米闘争を称賛する」とコメントした。
10
コロンビア政府は、昨年 10 月に左翼ゲリラ FARC との本格和平交渉を開始しており、和平交渉の実現にはチャベ
ス大統領の影響が大きかったとされている。
11
ペトロカリブとは、ベネズエラとカリブ 14 カ国で締結されたエネルギー協定で、石油を輸入に依存するカリブ諸
国に対してベネズエラが市場価格より安い設定の原油を安定的に供給するというもの。チャベス政権はこれまで、中
米諸国やカリブ海諸国への石油供給を保障することにより、国際的な影響力を拡大してきた。
3
III.
1.
石油その他の資源セクター
カナダ鉱山企業 Rusoro、30.3 億ドルの補償金を求めてベネズエラ政府を ICSID へ提訴


カナダ鉱山企業 Rusoro Mining は 3 月 21 日、30.3 億ドルの補償金の支払いを求めてベネズエラ政
府を国際投資紛争解決センター(ICSID)へ提訴したと発表。チャベス政権は 2011 年 8 月に国内金
鉱山を国有化し、Rusoro Mining 社の資産も接収。Rusoro Mining 社は、カナダ・ベネズエラ二カ国間
投資協定に従い、適切な補償金を支払うべきと主張してきたが、ベネズエラ政府は補償金の支払い
を拒否している。
Rusoro Mining 社は、当時ベネズエラ最大の金生産企業で、2010 年に 10 万オンス、2011 年に 8 万
オンスを生産していた。同社がベネズエラを撤退してからは、ベネズエラ国営企業 Minerven が開発
を進めているが、生産量は低迷しており、鉱山セクターでは不透明感が広がっている状況。2011 年
のベネズエラ金鉱山の国有化を巡っては、カナダ鉱山企業 Crystallex International も 2011 年 3 月
に 43 億ドルの補償金を求めて ICSID に提訴しており、今後も訴訟問題は継続する見込み。
以上
本レポートは発表時の最新情報に基づいて作成されておりますが、情報の正確性又は完全性を保証するものではあり
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