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徳島県におけるプラタナスグンバイとヘクソカズラ
徳島県立博物館研究報告 Bull. Tokushima Pref. Mus. No.19: 51-54, March 2009 【調査報告】 徳島県におけるプラタナスグンバイとヘクソカズラグンバイの発生 山田量崇 1・行成正昭 2 [Kazutaka Yamada1 and Masaaki Yukinari2: The occurrences of Corythucha ciliata (Say) and Dulinius conchatus Distant (Heteroptera, Tingidae) in Tokushima Prefecture, Shikoku, Japan] キーワード:カメムシ目,グンバイムシ科,新記録,分布 はじめに プラタナスグンバイ Corythucha ciliata(Say, 1832)およびヘクソカズラグンバイ Dulinius conchatus Distant, 1903 は,近年我が国へ侵入したグンバイムシ科の昆虫である.前者は 2001 年に愛知県名古屋市から(時広ほか,2003) ,後者は 1996 年に大阪府池田町から(友国・斉 藤,1998)それぞれ初めて確認されたのを皮切りに,両種は徐々に分布を拡げていき,現在 は日本各地で発生が確認されるまでになった.四国においては,プラタナスグンバイが愛媛 県(時広ほか,2003)と高知県(山下,2008)から,ヘクソカズラグンバイが愛媛県(酒井 ほか,2006)からすでに記録されている.徳島県からは,もう 1 種の侵入グンバイムシ類で あるアワダチソウグンバイ Corythucha mormorata(Uhler, 1878) が 2005 年に確認されたものの, 上述の 2 種に関してはこれまで記録されていない.しかしながら,両種の分布の拡がり方や 近県の発生状況から判断すると,本県でもすでに発生している可能性が高いと考え,調査を 行った.その結果,市街地を中心に発生が確認されたのでここに報告する. プラタナスグンバイ Corythucha ciliata (Say, 1832)(図 1, 3, 4) [ 確認地点 ] 徳島市東吉野町吉野川大橋北詰交差点~中徳島町新聞放送会館付近(国道 11 号線沿いのプ ラタナス街路樹) ,2008 年 9 月 25 日,2008 年 11 月 20 日. 徳島市北常三島町~中吉野町(県道 39 号線沿いのプラタナス街路樹) ,2008 年 9 月 25 日, 2008 年 11 月 20 日. プラタナスグンバイは,2001 年に愛知県名古屋市で発生が確認されて以来,各地に分布を 広げ甚大な被害を及ぼしている.愛知県名古屋市の他に,東京都,横浜市,静岡市,松山市, 北九州市からも報告され(時広ほか,2003) ,2003 年には大阪府から発見された(宮武・山崎, 2006) .その後,2006 年には新潟県(中野,2006) ,広島県(広島県農林水産部,2006) ,京 2009 年 2 月 7 日受付,2009 年 2 月 17 日受理 1 徳島県立博物館,〒 770-8070 徳島市八万町文化の森総合公園.Tokushima Prefectural Museum, Bunka-no Mori Park, Hachiman-chô, Tokushima 770-8070, Japan. 2 〒 771-0116 徳島市川内町宮島錦野 42-17.Miyajimanishikino 42-17, Kawauchi-chô, Tokushima 771-0116, Japan. − 51 − 山田量崇・行成正昭 都市(京都府病害虫防除所,2006) ,高知県(山下,2008)から見つかっている.2007 年には, 岐阜県(岐阜県病害虫防除所,2007) ,三重県(三重県病害虫防除所,2007) ,福島県(福島 県病害虫防除所,2007) ,埼玉県(埼玉県病害虫防除所,2007)から,2008 年には群馬県(群 馬県農業技術センター, 2008)と長野県(長野県病害虫防除所, 2008)から相次いで確認された. いずれも市街地の街路樹や公園に植栽されたプラタナスに寄生して甚大な被害を及ぼしてい るため,各都道府県の病害虫防除所によって注意が勧告されている. 我が国では,プラタナスの他にイタリアポプラに寄生することが報告されているが,海外 ではクルミ科,ブナ科,クワ科,マンサク科,スズカケノキ科,トウダイグサ科,カエデ科, モクセイ科など広く寄生することが知られている(時広ほか,2003) .年に 3 世代くり返し, 冬期には樹皮下などで越冬するらしい(水野ほか,2004) . 発生状況 本県にはプラタナスの植栽がそれほどなされておらず,一部の地域に限られている.徳島 市内では,吉野川大橋北詰交差点付近から北へ中徳島町までの国道 11 号線沿いおよそ 1 km と,北常三島町の交差点から西へ中吉野町までのおよそ 2 km で街路樹として植栽されてい る.2008 年における本種の発生は,夏の終わりまで目立たっていなかった.しかし,9 月 25 日に上述の場所を通行中にプラタナスの葉が部分的に黄化~白化していることに気づい た.グンバイムシ類に吸汁されたような食痕だったため,葉を詳細に観察したところ,葉裏 に集団で発生しているプラタナスグンバイを確認した. 被害の程度はあまりひどくはないが, いずれの木においても発生が確認できた.寄生された葉は,葉脈に沿って黄~白色の斑点が 生じていた.発生密度の高い葉では,ほとんど黄~白色に変色してしまい,枯死した状態の ように見た目が著しく損なわれていた.葉表からはグンバイムシ類の吸汁痕がよく目立ち, 1 2 図 1-2.プラタナスグンバイ成虫,♂(1)およびヘクソカズラグンバイ成虫,♂(2).スケールは 1.0 mm. − 52 − 徳島県におけるプラタナスグンバイとヘクソカズラグンバイの発生 さらに葉裏には群生するグンバイムシとそれらの黒い粘液状の排泄物が認められた. 本県では,いまのところ本種による寄主植物への甚大な影響は見られないが,継続的に発 生しているかどうか調査する必要がある. ヘクソカズラグンバイ Dulinius conchatus Distant, 1903(図 2) [ 確認地点 ] 徳島県 鳴門市大麻町板東,2008 年 8 月 28 日. 徳島市川内町宮島,2008 年 7 月 11 日,2008 年 7 月 20 日. 徳島市中徳島町,2008 年 8 月 13 日,2008 年 9 月 25 日. 徳島市中洲町,2008 年 7 月 30 日,2008 年 9 月 6 日. 徳島市幸町,2008 年 8 月 18 日,9 月 23 日. 徳島市富田橋,2008 年 8 月 18 日,9 月 23 日. 兵庫県 洲本市由良町,2008 年 7 月 21 日. ヘクソカズラグンバイは,1996 年に大阪府池田市で最初に発見され,翌年には大阪府 豊中市・箕面市,兵庫県伊丹市・川西市・宝塚市からも分布が確認された(友国・斉藤, 1998) .その後,佐賀県,福岡県,岡山県,愛媛県,京都府などから見つかっているが,本 種の確認情報は前述のプラタナスグンバイと比べて明らかに少ない.このことは,主にアカ ネ科のヘクソカズラという有用性の低い植物を寄主とするため,病害虫防除所などの発生予 察情報に取り上げられないことが理由のひとつに挙げられる.しかしながら,実際は都市部 を中心に本種の分布域はさらに拡がっているだろう. 発生状況 2008 年 7 月 11 日,筆者の一人行成は,自宅の庭に生えていたヘクソカズラの葉が白化し ていることに気づき,葉裏を確かめてみたところ本種を発見した.7 月 20 日に,再び同じ 場所を探してみたところ,多数の株が寄生を受けていることを確認した.どの葉も一面白化 しており,葉裏には黒い排泄物とともに群生した本種の成虫と幼虫が認められた.それを受 け,山田が徳島市内を中心に調査を行ったところ,主に市街地にて本種の発生が確認された. 徳島市中洲町,幸町,富田橋においては,花壇などに植栽された植物に絡まっているヘクソ 図 3-4.プラタナスグンバイ成虫(3)およびプラタナス葉裏の発生状況(4). − 53 − 山田量崇・行成正昭 カズラから見つかっている.いずれのヘクソカズラも 1 ~ 2 株程度しかなく疎らに生えてい たが,寄生の程度はかなり大きく, 葉が大部分白化していた. この他に確認された場所として, 道路沿いや公園,駐車場の脇などの人工的な環境がある.本種の分布拡大要因として,植物 とともに人為的に分散する事が指摘されている(友国・斉藤,1998).さらに,交通量の多 い乾燥したところに生えるヘクソカズラで生息密度が多いとあるが(山本,2005),本県に おいてもおそらく同様だろう.ヘクソカズラは,荒れ地や乾燥地,湿地,草原,森林など生 育環境は極めて広く,かく乱された場所であればどこにでも出てくる植物で,市街地でも普 通に見られる植物の一つである.本種は主に道路沿いのヘクソカズラから見つかったことを 考えれば,植物とともに人為的に移動する以外に,本種自体が自動車などに付着して運ばれ た可能性も考えられる. 引用文献 福島県病害虫防除所.2007.平成 19 年度病害虫発生予察特殊報第 3 号(プラタナスグンバイ). 岐阜県病害虫防除所.2007.平成 19 年度病害虫発生予察特殊報第 1 号(プラタナスグンバイ). 群馬県農業技術センター.2008.平成 20 年度病害虫発生予察特殊報第 3 号(プラタナスグンバイ). 広島県農林水産部.2006.平成 18 年度病害虫発生予察特殊報第 3 号(プラタナスグンバイ). 京都府病害虫防除所.2006.平成 18 年度病害虫発生予察特殊報第 3 号(プラタナスグンバイ). 三重県病害虫防除所.2007.平成 19 年度病害虫発生予察特殊報第 1 号(プラタナスグンバイ). 宮武頼夫・山崎一夫.2006.侵入昆虫プラタナスグンバイの大阪からの初記録.Rostria, (52): 25-26. 水野孝彦・近藤 圭・田中健治・岳原有里・出口和夫.2004. 名古屋市のプラタナス街路樹における Corythucha ciliata (Say) の生活史.植物防疫所調査研究報告,(40): 141-143. 長野県病害虫防除所.2008.平成 20 年度病害虫発生予察特殊報第 6 号(プラタナスグンバイ). 中野 潔.2006.プラタナスグンバイの侵入確認と心配事.農林害虫防除研究会 News Letter, (16): 3-4. 埼玉県病害虫防除所.2007.平成 19 年度病害虫発生予察特殊報第 4 号(プラタナスグンバイ). 酒井雅博・小川次郎・久松定智・一柳孝志・栗原 隆・菊原勇作.2006.愛媛県の侵入昆虫(1),四国虫報, (40): 21-23. 時広五朗・田中健治・近藤 圭.2003.我が国におけるプラタナスグンバイ(新称)Corythucha ciliata (Say) (カメムシ亜目:グンバイムシ科)の発生.植物防疫所調査研究報告,(39): 85-87. 友国雅章・斉藤寿久.1998. 大阪府池田市で発見された新しい侵入種と思われるグンバイムシ,Dulinius conchatus Distant.Rostria, (47): 23-28. 山本博子.2005.ヘクソカズラグンバイの侵入と分布拡大—大阪府下の分布状況について—.昆虫と自然, 40 (4): 16-17. 山下 泉.2008.高知県におけるプラタナスグンバイの初発生.げんせい,(84): 20. − 54 −