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『徳島大学 市民研究者フォーラム紀要』の発刊に寄せて

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『徳島大学 市民研究者フォーラム紀要』の発刊に寄せて
『TOKUSHIMA Regional Study 市民研究者フォーラム紀要』第 2 号の発刊に寄せて
『TOKUSHIMA Regional Study 市民研究者フォーラム紀要』第1号(平成 13 年 7 月 30 日)を発
行してから 1 年半が経とうとしている。この間、平成 14 年度において 2 本の公開講座(「エンタテイ
メントスタディ:美術館・博物館の研究」(春の講座)「市民研究員のための地域文化施設の研究」
(秋・
冬の講座))を開講した。本号に掲載する 4 本の作品は、その二つの講座の受講生が寄稿したものであ
る。
研究レポート(論文)を課す公開講座を開設した趣旨は第 1 号に記した通りであるが、研究テーマを
持って自ら文献検索や資料収集を行うという作業は、なかなか骨の折れるものである。まして、そうし
た基礎作業の上に社会的提言性を加味した論文作成を要求することは、市井の生活者である受講生にと
って決して容易な作業であるはずはない。しかし、その要求を各人がそれぞれのレベルで受け止め、研
究(学習)成果としてまとめることができた。この成果は、公開講座の新たな地平を示唆するものと言
わねばならない。
一般に、成人学習をサポートする醍醐味は、人生経験の豊富な成人が、経験という個人的財産を基盤
として、その内実を多様な形で一定のロゴスにまで高めることを実見することにある。その際、既存の
学問的・社会的パラダイムの拘束から一時的、無意識的に自由になることもありうるし、場合によって
は、パラダイムそれ自体が経験の質量によって組み替えらえることもありえよう。成人学習における支
援の在り方は、従って、必ずしも学術的な厳密さのみを要求するのではなく、そこでの学習経験が個々
の個人史の中に統合できるよう働きかけることにあると考える。
さて、巻頭論文である村木氏の論考は、建築家安藤忠雄氏に傾倒する氏の審美感が至るところに横溢
した作品である。広範囲にわたる資料検索と何よりも複数の現地踏査を踏まえて、実証的豊かな論考が
展開されている。香川県直島におけるまちづくりと比較しつつ、郷土たる徳島における文化(意識)の
不在について論難した件は、実証的な周到さを内蔵した社会的提言性のある考察として傾聴に値する。
本号の中でも異彩を放つ論考と言えよう。
竹本氏の論考は、第 1 号に続いてエコミュージアムをテーマにしたものである。氏の南極・北極への
私的旅行の体験を素材にしつつ、前作にもまして数多くの文献を渉猟し、その成果を<幻想>博物館と
いう形でまとめあげた。科学的事実を丹念に調べあげる姿勢には、氏の瞠目すべき情念が迸っている。
しかも、そうした地道な作業の上に立って、環境破壊に対する抑制の効いた警告が発せられていること
も、この労作の価値を高めることに貢献している。
角元氏の論考は、本号の中で最もアカデミックなものと言って良い。のみならず、意外にもこれまで
着目されることのなかった領域に大胆に垂鉛を降ろした問題作となっている。氏の学術的関心は、英語
教育学と生涯学習論との接点における新領域の開拓にある。徳島市における複数の英語教室の受講生を
対象にした今回の調査は、氏のそうした果敢な意欲が奏効して、NHK 英会話講座の諸機能に関する既
存の仮説を覆すことに成功している。
最後に、坂本氏の随想は、郷土に託す氏の細やかな情緒が溢れた佳品である。今後更に調査研究を進
めて構想力豊かな論考としてまとまることを期待したい。
第 2 号は第 1 号にもましてユニークな論考が揃った。生活者である市民の学習という性格上、発行は
不定期とならざるを得ないが、更に新たなテーマを掲げる受講生が陸続と参加して、このフォーラムの
実績が今後益々蓄積されることを望みたい。
平成 15 年 2 月 15 日
徳島大学 大学開放実践センター
廣渡修一
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