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エスケープ 番外編 - タテ書き小説ネット
エスケープ 番外編 明日奈 美奈 タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト http://pdfnovels.net/ 注意事項 このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。 この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範 囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。 ︻小説タイトル︼ エスケープ 番外編 ︻Nコード︼ N2865DN ︻作者名︼ 明日奈 美奈 ︻あらすじ︼ 妹を娘と偽って育てる兄の物語。 以前投稿したエスケープのセイン編です。 1 兄と妹 ﹁兄と妹﹂ ﹃どうして?﹄ こうなることは既に予想していたことだ。 10年前、アドリアン皇国の兵士たちがアルメリアの王宮を襲撃し たときから。 父と母は国の王として民達と運命を共にした。 僕に託されたのは、アルメリアの行く末を見守り、王家の幼い姫君 を、妹を守り育てること。 ﹃おい、お前。夜更けにどこへ行く。 国が大変なときだぞ!﹄ 明るくなり、王家の人間が絶えたと発表されてから城を出ることと する。 眠るセイレーンを背中に背負い、城の裏口から出ようとすると咎め を受ける。 亡くなった妹を埋葬しに行くのです。 街にいた両親が敵の強靭に耐えながら、亡骸の妹を俺に託すために 王宮に夜明け前に来たのです。 二人とも亡くなってしまいました。 ﹃王様と王妃様は家族を大事になされていたと聞いています。 きっと、この事を知れば、埋葬のために城を離れることをお許しに なったでしょう。﹄ それに、俺の隊では一家全員を亡くしたのは俺だけです。 みんな、地方の出身だから。 行ってこいって言ってくれました。 2 うっ、そうか。背中の子供はお前の年の離れた妹なのだな。 最後に王国を守り戦った兄に埋葬してもらえること、誇りに思うだ ろう。 早く行きなさい。 ﹃ありがとうございますっ。﹄ セイレーンは麻布にくるんで背負っている。 城下にある王家の一時避難場所までは着替えがないためだ。 俺はまだ、騎士団の若い兵士ぐらいにしか思えない鎧姿だからいい。 鎧は途中、詰め所で一般の兵士のものを拝借してきた。 今身に付けているので身分を示すのは二振りの長剣と短剣。 どちらともアルメリア王家の紋章入りだ。 ﹃⋮んっ?あなたはだぁれ?﹄ セイレーンは目を覚ました。 だが、彼女の中からアルメリア王家の王女としての記憶は無くなっ ていた。 ああ、かわいそうに。 セイレーン、お前は記憶を無くしてしまったんだね。 父さんのことまで忘れるなんて。 一時避難場所で用意されていた簡素な服に着替え、髪を染めた。 鮮やかな金髪を漆黒の闇色に。 セイレーンにも同様のことを施した。 大人びた顔立ちは民に混ざって暮らしていくなかではちょうどいい。 セイレーンを娘とするにも都合がいい。 ﹃セイレーン、行こうか。 争いのない場所へ。﹄ そうしてたどり着いたのが港町に程近い小さな村だった。 ここでなら、セイレーンを守れると思ったからあばら屋に住み着い 3 た。 仕事として荒れ果てた田畑を一から耕す。 これでいいんだ。 この方がセイレーンは幸せになれると信じて︱︱︱︱。 4 覚悟 ﹁覚悟﹂ ﹃セイレーン、どうしたんだ。 おいっ。﹄ 僕はこの日、無知は恐ろしいことだと思い知らされる。 セイレーンを娘だと偽り育てはじめて3ヶ月の月日がたっていた。 村の人たちは僕を13で子供を持った馬鹿だと嘲り罵った。 それでも、セイレーンを守れればいいんだとがむしゃらだった。 畑を作り、森で野草や木の実を取り、食事にした。 ひもじくたって、貧しくたってセイレーンは僕を慕ってくれた。 ﹃デイネストさん、夜分遅くにすみません。 隣のセインです。﹄ あわてて隣人の戸を叩く。 気難しそうな老婆だが、医術の心得のある者を教えてくれた。 その女はセイレーンを見るなり、大丈夫だと言った。 栄養のつくスープを持って来たからね。 食べさせてやりなさいな。 こう言うとき、男って何もできないからね。 この子の母親はどうしたんだい? 出産の時に亡くなり、最近まで母親に預けていたのだと話す。 養育費を稼ぐために騎士団の見習い兵士をしていたのだと。 ああ、それで子供の扱いも慣れてないのか。 それでも、世の中子供を捨てる親が多い中でその若さで子供を養お うとするなんて出来ることじゃない。 並大抵の覚悟では親は務まらないから。 でもね、子供がその人を親だと思わなければ、親になれないの。 5 子供が親にしてくれるの。 一人で突っ走っても親にはなれないのよ。 ﹃ありがとうございました。 僕一人じゃ、何もしてあげられなかった。﹄ いいって。朝になったらまた様子を見に来るよ。 そう言って彼女は颯爽と帰って行った。 親になる覚悟はしていたと言えば嘘になる。 彼女の言葉に深く感銘を受けた。 一人で突っ走っていたように思う。 がむしゃらにやっていればなんとかなるものだと思っていた。 それは独りよがりだったんだと頭を冷やせた。 秋風荒ぶあばら屋の床に粗末な服を着て薄っぺらな布一枚では寒か ろう。 ﹃セイレーン、寒かろう。 今、暖めるからな。﹄ 布ごと抱き締めて眠る。 昼は畑仕事をし、小一時間毎にセイレーンの様子を見に帰る。 時に水を飲ませ、時に食事を潰して与え、時に汗で濡れた服を替え た。 彼女は毎日、セイレーンの世話の仕方を教えてくれた。 夜はセイレーンが寒いだろうと抱き締めて眠っていると知ると、本 当に親になったと誉めてくれる。 そんな彼女は医術の心得はないらしい。 ただ、たくさんの子供たちを育てているらしい。 そんな彼女に教えられたことはこの先の人生において、大きな意味 を持つことになるとはこのときは思わなかった︱︱︱︱。 6 強さ ﹁強さ﹂ ﹃ああ、ねえ。これをセイレーンちゃんに。﹄ 洗濯をしているとき、村のセイレーンより少し上の子供がいるうち の娘に声をかけられる。 どうやら、あの彼女が噂を広めているらしい。 セインは年若くても立派にセイレーンを育てていると。 本当に感謝の思いしか出てこないよ。 こんな風に人に優しくできる民が多い国が父さんの望みだった。 穏やかな気性の王様だったから、国民も穏やかな性格になった。 父さん、強くなるって難しいね。 ﹃何でも、アルメリアの王女が生きている可能性があって、もし、 生きていたらアドリアンの皇の後宮にいれるんですって。﹄ お痛わしいことだわ。 姫様は王妃様に似て聡明で知的な美しさがあるって噂だったじゃな い。 耳を開けとくのはいいことだ。 今のセイレーンに母さんの面影はない。 髪もあれ以来、黒に染め続けているし、記憶もないからただの村娘。 それでも、もし、セイレーンの存在が露見したなら。 そのときは、セイレーンを守る盾となろう。 ﹃アルメリア王国臥竜騎士団団長。﹄ もうこの世にはいない幻影を見た。 その瞳は家族を守れと訴えているかのようだ。 腐っても、この王国の軍隊のトップだった男だ。 7 妹一人守れなくてどうする。 でも、そのときが来たら、家に火を放ってセイレーンは逃がそう。 これ以上、セイレーンに家族が死ぬところを見せたくはない。 ﹃おっ、セイレーンちゃん。 買い物かい?﹄ ええ。野菜はあるから、魚を少し。 セイレーンちゃん、これも持って行きな。 おばさんが果物を投げてくれる。 やったぁ。これ、あたしの好物なんだ。 かご片手に商店を見て回っていると、セインの嫁っ子と囃し立てら れる。 みんな、あたしがこの村の誰かに嫁いで幸せになると信じて疑わな いんだろうな。 あたしはこの村を出ようと思ってる。 お父さんだってまだ若いから。 幸せになってもらいたいんだ。 ﹃お父さん、なぁに?あの兵士たちは⋮。﹄ 恐れていたことが遂に起きた。 家を、⋮家とは言えないか。 あばら家を取り囲む兵士たち。 えーっと、アルメリア皇国軍ですね。 あの意匠はあの夜に見たものだ。 あーあ、セイレーンと暮らすの結構楽しかったんだけどなぁ。 もう、お仕舞いか。 せめて、これからのセイレーンの人生に光があることを。 ﹃セイレーン、よく聞くんだ。 これから、この家に火を放つ。﹄ 8 お父さんが時間を稼ぐから、裏口から逃げてくれ。 お父さんは後からお前を追うから、ここに行くんだ。 一時避難場所を示す。 今でも王家の縁の者が詰めているはずで、いくら記憶喪失だと言え 王家の姫を害する訳がない。 僕だって、死ぬのは怖い。 だけど、僕は誇り高き臥竜騎士団の団長で、この国の、アルメリア の正当王位継承者なんだ。 強くあれ。 その強さは己が身を守るため、家族を守る盾と成す︱︱︱︱。 9 王子の目、王子の耳 ﹁王子の目、王子の耳﹂ ﹃あら、セインさん早いのねぇ。﹄ ええ、今日は西の門番の日で早く出たんです。 定刻で帰りがてらセイレーンを迎えに行こうかと。 あら、今日はパン屋さんに、出ている日なのかい? それじゃあ、後で寄らせてもらうわ。 いつもの朝の風景ももう、ないものになる。 思えばあの噂を耳にした日に何らかの動きをとっていれば。 少なくとも、セイレーンが嫁に行くぐらいまで生きていられたかも しれない。 悔しい。 泣きたいぐらいに、とてつもなく。 ﹃セイン、聞いたかよ。 王女様が生きているかもしれないんだとよ。﹄ お前、それ、どこで聞いたんだ? 確か、王家の一族は耐えたと発表されたが。 あの頃、王都の近くの町で暮らしていたからよく知ってるんだ、あ の戦の凄惨さを。 情報源はアドリアンの兵士さ。 この辺りに落ち延びたんじゃないかって探してる。 やっぱり、見つかったら殺されるのかな? ﹃さぁなぁ。でも、王女様は王様の後宮に入れるんだと。﹄ ああ、神よ。 うちのセイレーンはなにか悪いことしましたかね? 10 少しおっちょこちょいで田舎臭く育ちましたけど。 そりゃぁ、王家の姫君らしさの欠片も残ってないけどさぁ。 最近では僕の嫁扱い。 ﹃王族も大変だな。 俺たちゃ庶民でよかったよ。﹄ そうだなぁ。 もし見つかったとして、王女様は戦の時に5つ。 今が15になりたてってところか。 お前んとこのセイレーンと同じ。 アルメリアでは12からが成人だから、王女様はもう成人されてい る。 まっ、どちらにせよ面倒なことさ。 これ以上いけばボロが出ると話を切り上げる。 冗談じゃない。 大切に育てた娘をそんな、実の親と同い年の人間の後宮に入れられ る人間がどこにいよう。 まして、セイレーンは血の繋がった兄弟。 たった一人僕に残された家族。 ﹃セイレーン、逃げるんだ。 逃げて、幸せになってくれ。﹄ 僕の分まで幸せになってくれ。 死ぬのはちょっと怖いけど、愛娘を守れる。 他の男に渡さなくちゃいけないのは嫌だけど、セイレーンが選ぶ男 だ。 きっと、頼りがいがあって一生セイレーンを愛して守ってくれるこ とだろう。 だけど、やっぱり、悔しいなぁ。 この村の若者にでも嫁がせて、孫の顔でも見て。 11 幸せな余生を送るのが僕の夢。 なーんて、年寄り臭いけど現実になるように行動してたのに⋮。 お陰で村にも馴染んで、民の望んでいることもわかって。 これが王族として持つべき耳と目なのだと学んだ。 実際に民として暮らし、民の生活を知ることこそ賢王の務め。 セイレーンよ、名乗りでなくていいから、だから、民の生活を忘れ るな。 何があっても、貧しさを忘れておごらないでくれ︱︱︱︱。 12 PDF小説ネット発足にあたって http://ncode.syosetu.com/n2865dn/ エスケープ 番外編 2016年9月11日20時54分発行 ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。 たんのう 公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、 など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ 行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版 小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流 ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、 PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。 13