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熱音響冷却システムにおける熱エネルギーの入出力方法検討

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熱音響冷却システムにおける熱エネルギーの入出力方法検討
The Murata Science Foundation
熱音響冷却システムにおける熱エネルギーの入出力方法検討
−熱音響冷却システムの実用化に向けて−
Investigation for I/O method of heat energy in a thermoacoustic cooling system
For a practical use of thermoacoustic cooling system
A81125
代表研究者 坂 本 眞 一 滋賀県立大学 工学部電子システム工学科 准教授
Shin-ichi Sakamoto
Associate Professor, Department of Electronic Systems Engineering,
University of Shiga Prefecture
共同研究者 渡 辺 好 章 同志社大学 生命医科学部 学部長・教授
Yoshiaki Watanabe
Dean, Professor, Department of Biomedical Information, Doshisha University
A thermoacoustic cooling system is based on the thermoacoustic effect. By applying the
thermoacoustic effect, it is possible to construct a cooling system with many unique advan-
tages: the effective use of waste heat and the absence of poisonous cooling media and moving parts. The thermoacoustic cooling system has been studied by some research groups,
and we have also been involved with the development of a loop-tube-type thermoacoustic
cooling system.
In this report, we focus on the heat exchanger of a loop-tube-type thermoacoustic cooling
system for a practical use. We investigated with three kinds of heat exchangers with differ-
ent interval and width of the fin. The effects of heat exchanger configuration for the energy
conversion of thermoacoustic prime mover were considered. When the configuration of the
heat exchanger was changed, it was regarded that the sound intensity distribution and the
particle velocity distribution, and temperature decrease in the heat pump was varied. More-
over, in this experimental condition, it was confirmed that the phase difference between
sound pressure and particle velocity was nearly same, when the configuration of the heat
exchanger was changed. This shows that the relation between the energy conversion effi-
ciency and the phase difference of the heat sound system is a little. This relation suggests
the review of the current design method. A practical use of a loop-tube-type thermoacoustic
cooling system is promoted based on these results.
われわれは、日々の生活を便利で快適にす
研究目的
るのと引き換えに、更なる環境破壊を知らず
地球の温暖化を肌に感じるようになり、ま
知らずに加速させている。コンピューターや
た、エネルギー資源の枯渇も日々の生活を直
サーバーなどに代表される電子機器からの廃
撃している。これからの未来において、地球環
熱は、高速化、高性能化や小型化により、今
境の保護とエネルギー資源の有効利用は、日
後、増加し続けると予想されており、電気メー
本だけでなく、地球全体の喫緊の課題である。
カーにおいて大きな問題となっている。現状
─ 277 ─
Annual Report No.23 2009
のところ、発生する廃熱を放熱するために、
熱音響冷却システムは、熱エネルギーと音
さらなるエネルギー(電気)を投入している。
エネルギーの相互エネルギー変換を行う熱音
また、フロン系の冷媒はオゾン層の破壊や
響現象を利用した冷却システムである。本研
温暖化を引き起こす。これら上記の課題を解
究グループでは、熱エネルギーを音エネルギー
決する、環境に優しい冷却システムはこれか
に変換し、変換した音エネルギーを再度熱エ
らの人類において必ず必要となる。応募者が
ネルギーに変換することで冷却を行うループ
提案する『熱音響冷却システム』はそのすべ
管方式熱音響冷却システムの開発を行ってい
てを解決する可能性を持っており、重要な課
る。ループ管は、円筒管をループ状に構成し、
題と考える。熱音響冷却システム実用化に向
管内部に駆動部であるプライムムーバーと冷
けての乗り越えるべき課題は未だ数多く残さ
却部であるヒートポンプが設置された構造で
れている。1つの課題は、システムの熱エネル
ある。2つのエネルギー変換部には、非常に細
ギーの入出力方法の検討である。熱音響冷却
かい流路を有するスタックが設置されており、
システムは未利用のエネルギーを入力エネル
作業流体とスタック壁面との間の良好な熱交
ギーとし、熱音響効果を用いて、冷熱を生成
換により、熱と音の相互エネルギー変換を可
する。これまでの研究において上述の通り、
能にしている。ループ管の特長は、駆動熱エ
冷蔵庫温度までの冷却に成功している。しか
ネルギー源として廃熱が利用可能であり、フ
しながら、生成された冷熱を出力する方法に
ロンなどの有害冷媒を使用しないこと、二酸
ついては検討が至っていない。そこで、熱音
化炭素を排出しないことから環境保全に繋が
響冷却システムの熱交換器が熱エネルギー/
る魅力的なシステムである。また、可動部品
音エネルギーの移動やエネルギー変化に与え
を必要としないため、安価で長寿命であると
る影響についての検討を本研究目的とした。
いう利点もある。
これまでの研究において、ループ管内に薄
概 要
膜を挿入する方法や、流路の一部を細くする
科学技術の発展に伴い生活が豊かで、快適
ことで、管内に発生する音場を調整しエネル
になる一方、エネルギー資源の枯渇が叫ばれ
ギー変換効率が向上した例が報告されている。
ている。化石燃料は、人間の生活や産業活動
本研究では、ループ管の実用化に向けて、熱
において欠くことのできない燃料であるが、化
の入出力のための熱交換器に着目した。ルー
石燃料のエネルギー利用効率は悪い。大半は
プ管に用いられる熱交換器は、伝熱面がフィ
廃熱として捨てられ、大量の二酸化炭素を発
ン状で均一になるように構成されており、そ
生させる。すなわち、エネルギーの生産・利
の間隔や幅により、熱の伝わり方や音場への
用は環境問題と密接に関係しており、地球環
影響が変化する。効率的な熱交換にはフィン
境保全に繋がる代替エネルギー技術の開発が
の幅が厚く、間隔が狭い熱交換器が良いと考
求められてきている。我々は二酸化炭素を排
えられる。しかし、熱交換器を通過する音波
出しない代替エネルギー技術の一つとして、
は、粘性による散逸や、ループ管の共鳴状態
熱音響現象を利用した冷却システムである熱
に作用し、その結果、システム内の音場に影
音響冷却システムに注目し、実用化を目指し
響を与える。
て研究を進めている。
本報告では、フィンの間隔と幅が異なる3
─ 278 ─
The Murata Science Foundation
種類の熱交換器を用い、フィンの形状変化が
確認した。また、熱交換器Cを設置した場合
システム内の音場に与える影響について考察
と、熱交換器を設置しなかった場合において、
を行った。
粒子速度の大きさは同様の分布であることを
実験に用いたループ管は縦 8 5 0 m m、横
確認した。熱交換器Aに比べて、熱交換器B
500mm、全長3300mm、内径42mmのステン
の方が流体粒子とフィン側面との接触面積が
レス管で構成した。管内作業流体にはアルゴ
多いため、粘性の影響が大きいと考えられる。
ンを用いて、管内圧力は0.2MPaとした。プラ
しかし、熱交換器Bの粒子速度の方が速いこ
イムムーバーのスタックには厚さ50m m、流
とから、フィン間の粘性の影響より、ループ
路半径0.45mm、ヒートポンプのスタックには
管の共鳴状態による影響の方が大きいと考え
厚さ50mm、流路半径0.35mmのハニカムセラ
られる。音響インテンシティ分布も、粒子速
ミックを用いた。ヒートポンプのスタック下
度分布と同様の傾向で変化することを確認し
部に熱交換器を設置した。また、熱交換器の
た。つまり、粒子速度が減少したため、音響
設置位置はヒーターから1600m mとした。ま
インテンシティも減少したと考えられる。位
た、熱交換器は厚さ4.3m m、直径49.6m mの
相がほとんど変化せず、インテンシティが変
銅を用いた。ヒーターによる供給熱量は200
化する、つまり、位相の変化なしにエネルギー
Wで、供給時間は定常状態となる600秒間と
変換効率が変わるという重要な知見を得た。
した。K型熱電対を用いて、プライムムーバー
これらの実験結果を元にループ管に必要な熱
のスタック上部とヒートポンプのスタック下
交換器の設計を進める。
部の温度測定を行った。また、PCB社製水晶
型圧力センサを用いて、ループ管壁面15箇所
の音圧測定を行った。音圧測定結果より2セ
ンサパワー法を用いて管内の音圧、粒子速度、
音圧と粒子速度間の位相差、音響インテンシ
ティを算出した。熱交換器A、B、Cの3種類
を設置した場合、熱交換器を設置しない場合
の測定を行った。熱交換器のフィンの形状に
よらず、位相差分布は変化しないことを確認
した。粒子速度の節となる位置に熱交換器を
設置したため、音場への影響が少ないと考え
られる。熱交換器の厚さは、スタックの厚さ
に比べておよそ10分の1と非常に薄いため、熱
交換器よりも、スタック流路内の粘性が強く
音場に影響を与えたと考えられる。また、音
場には影響を与えながら、位相の変化が小さ
いという実験結果はエネルギー変換に重要な
役割を与えると考えられる。熱交換器C、B、
Aの順に粒子速度分布は減少していることを
─ 279 ─
−以下割愛−
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