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ミスト冷却技術を活用した高強度線材

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ミスト冷却技術を活用した高強度線材
JFE 技報 No. 23
(2009 年 3 月)p. 60–62
製品・技術紹介
ミスト冷却技術を活用した高強度線材
High Tensile Steel Wire Rods Applied Mist Cooling Process
(5) 二次加工メーカーでの鉛パテンティングの撤廃により,
1. はじめに
地球環境改善に貢献する。
ミスト噴射装置は,所定の温度で巻き取った線材を直ち
硬鋼線材など高炭素鋼線材の強度,延性を圧延オンライ
に急冷するため,巻き取り装置直近のステルモア第一風冷
ン上で調整する方法として,圧延した線材を強風で冷却す
帯のコンベア上に設置した。ミスト水量は,温度計により
るステルモア冷却法がある。この方法は,衝風による強制
オンライン測温を行いつつ,線材径,鋼種に応じて制御し
冷却のため冷却能力が十分でない。そのため,二次加工
ている。
メーカーで再加熱,鉛浴に浸漬する鉛パテンティングによ
ミスト冷却技術を活用した高強度線材としては以下のも
る線材に比べ,ステルモア冷却法による線材の強度,延性
のがあるが,紙面の都合上,本報告では (1),(2) を紹介す
が低い。そこで,低温で変態する鉛パテンティングと同じ
る。
ような冷却能力を確保可能なミスト冷却に着目し,世界に
(1) 硬鋼線材の高強度化 , 高延性化「TMP 線材」
先駆けてこれを設備化し,高強度線材の開発に活用した。
(旧オーステナイト粒微細化,パーライトラメラー微細
ミスト冷却と従来の冷却方法の比較を図 1 に示すが,ミ
スト冷却は従来の冷却方法に対して次のような利点を持つ。
化)
®
(2) 低炭素高強度線材「TNH 線材」
(高い冷却能活用 , 強度と溶接性の両立)
(1) 空気で微細化した水滴を高速で吹き付けるため,熱伝
(3)中炭素鋼線材の非調質化
達係数が大きい。
(高い冷却能活用,熱処理プロセスの省略)
(2) 微細な水滴なため,均一な冷却が可能である。
(3) 冷却能力を広範に制御できる。
(4) 現行ステルモアラインに併設し,現行操業と兼用でき
2. 硬鋼線材の高強度化,高延性化「TMP 線材」
る。
図 2 に φ5.5 硬鋼線材の引張特性を示す。ミストパテン
ティング線材は熱間圧延後ダイレクトパテンティングされ
Mist cooling (Developed),
Lead patenting (Off-line) (Conventional)
るため,旧オーステナイト結晶粒が小さく,さらに冷却能
力の向上により低温側で変態が生じるため,パーライトラ
メラー間隔がステルモア冷却線材に比べ狭くなる。その結
Tensile strength (N/mm2)
1 400
P
A
Zw
M
TMP (Developed)
(High carbon)
TNH (Developed)
(Low carbon)
Mist patenting
Stelmor cooling
1 200
φ5.5
1 000
800
600
Reduction of
area
(%)
Temperature
Stelmor cooling
(Conventional)
Time (log scale)
図1
鉛パテンティング,ミスト冷却とステルモア冷却の温
度履歴の比較
Fig. 1
Schematic cooling curve of lead patenting, mist cooling
and stelmor cooling
80
70
60
50
40
42A
Fig. 2
− 60 −
72A
42B
62B
72B
Steel grade (SWRH)
図2
2008 年 9 月 11 日受付
62A
φ5.5 硬鋼線材の引張試験値
Tensile properties of wire rods (φ5.5)
92B
ミスト冷却技術を活用した高強度線材
Tensile strength (N/mm2)
SWRH82B
Mist patenting
Stelmor cooling
2 200
2 000
1 800
TNH1 mist cooling
TNH2 mist cooling
TNH1 stelmor cooling
1 400
1 300
1 200
1 100
1 000
900
800
1 600
1.0
図3
Fig. 3
1.5
2.0
Drawing strain, ε (⫽2ln (d0/d))
700
70
65
60
55
50
45
2.5
Reduction area
(%)
Tensile strength (N/mm2)
1 500
Solid: Occurrence in delamination
2 400
デラミネーションの発生限界
Limit of occurrence in delamination
5
果,高強度化と同時に高延性化が達成されている。
図 3 に SWRH82B 鋼線のねじり試験でのデラミネーショ
6
7
9
10
8
Diameter (φmm)
11
12
TNH1: 0.13C-0.76Si-1.48Mn-0.52Cr-Nb, Ti added
TNH2: 0.14C-0.84Si-1.97Mn-0.55Cr-Nb, Ti added
ン(縦割れ)発生限界を示す。ステルモア冷却線材の限界
伸線ひずみが約 1.5 に対し,ミストパテンティング線材の
図4
限界は約 2.0 まで向上しており,その結果,ステルモア冷
Fig. 4
低炭素高強度線材の引張試験値
Tensile properties of developed steels
2
却線材では約 1 700 N/mm の強度の鋼線しか得られなかっ
2
たものが,ミストパテンティング線材では約 2 100 N/mm
表2
Table 2
まで得られるようになり,硬鋼線材の高強度化が可能と
なった。
®
3. 低炭素高強度線材「TNH 線材」
Steel
自動車のシートフレームにはワイヤ構造のフレームがあ
Tensile test
Bending test
Wire
TS
of
size
Annealing
Rupture
Bond HAZ
bond
(φ mm)
part
(N/mm2)
TNH1
る。この用途には SWRM6 クラスの低炭素鋼や SWRH62A,
SWRH82B といった高炭素鋼が使用されてきたが,表 1 に
SWRH62A
示すように,低炭素鋼では強度が低く重量が増える,高炭
素鋼では強度が高いが溶接性が悪く,かしめ接合のため生
溶接性比較
Comparison of weldability between developed steels
and conventional steels
3.2
Not
1 422
HAZ
Good Good
3.2
Done
1 191
HAZ
Good Good
3.2
Not
1 393
HAZ
Inferior Inferior
3.2
Done
1 152
HAZ
Good Good
TS: Tensile strength
HAZ: Heat affected zone
産性が劣るなどの問題があった。
そこで,強度は高炭素鋼並みで溶接性,延性に優れた低
発鋼は低炭素 -Mn-Cr 鋼をベースに,耐へたり性向上のた
炭素高強度線材を開発すべく,高強度化,高延性化の手段
めに 高 Si とし て いる。TNH1,TNH2 は そ れ ぞ れ SWRH
にミスト冷却の高い冷却能を活用することとした。
62A,SWRH82B クラスの強度に相当する。TNH1 において,
図 4 に開発した低炭素高強度線材の引張特性を示す。開
ミ ス ト 冷 却 材 は ス テ ル モ ア 冷 却 材 に 比 べ, 強 度 が
2
100 N/mm 程度高く,絞りも φ7 mm 以上の太径で 10%以
表1
Table 1
上向上しているが,これは,ミスト冷却材のベイナイト組
シートフレーム用ワイヤの特性比較
Comparison of wire rods properties for sheet frame
Grade
Conventional
Developed
織が微細で炭化物も微細であることに起因する。
表 2 に溶接性の比較結果を示すが,TNH1 は焼なましな
Strength Ductility Weldability Total
High C
type
䊊
䉭
䉭
䉭
Low C
type
䉭
䊊
䊊
䉭
(Low Chigh SiMn-Cr
type)
䊊
しでも引張および曲げ試験に異常はみられず,焼なましが
必要な SWRH62A とは異なり,溶接ままで使用可能である。
また,焼なましが不要なため,結果として,溶接部の保証
強度も高い。
䊊
䊊
䊊
4. おわりに
䊊: Good
䉭: Inferior
ミスト冷却技術を活用した高強度線材として,
(1)硬鋼
− 61 −
JFE 技報 No. 23(2009 年 3 月)
ミスト冷却技術を活用した高強度線材
線材の高強度化,高延性化(TMP 線材)
,
(2)低炭素高強
参考文献
1) 村上俊之,大和田能由,玉井豊,白神哲夫.ミストパテンティング活
®
度線材(TNH 線材)を紹介した。本稿では触れなかった
用線材.NKK 技報.2001,no. 174,p. 41–51.
1)
が,中炭素鋼線材の非調質化も実用化している 。
また,冷間鍛造用線材の前組織の調整,制御に本冷却技
術を適用し,二次加工メーカーでの球状化焼鈍の簡略化,
迅速化と冷間鍛造性の向上にも取り組んでいる。
JFE 技報 No. 23(2009 年 3 月)
〈問い合わせ先〉
JFE 条鋼 仙台製造所 商品技術部
TEL:022-258-5515
FAX:022-259-4677
ホームページ:http://www.jfe-bs.co.jp/
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