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『明治学院大学国際学研究,』45号 - Meiji Gakuin University

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『明治学院大学国際学研究,』45号 - Meiji Gakuin University
明治学院大学機関リポジトリ
http://repository.meijigakuin.ac.jp/
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涌井秀行著『ポスト冷戦世界の構造と動態』八朔社
,2013年5月,252頁
宮本, 幹夫
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review
International & regional studies, 45: 127-131
2014-03-31
http://hdl.handle.net/10723/1925
Rights
Meiji Gakuin University Institutional Repository
http://repository.meijigakuin.ac.jp/
明治学院大学『国際学研究』第 45 号, 127-131, 2014 年 3 月
【書
評】
涌井 秀行著『ポスト冷戦世界の構造と動態』
八朔社,2013 年 5 月,252 頁
宮
本
本書は著者がこの 10 年間に書き溜めた論考を下
幹
夫
あとがき
に編まれたものである。従って論文集の趣もある
(各章の下に続く節以下のラインまで紹介すれ
が,通読してみると各章が関連性を持って繋がっ
ば,内容が透けて見えるよう工夫されている。し
ており,1 冊の本として良く纏まっている。
かしながら,煩瑣になるので章止まりとした。)
本書が扱っているのは第 2 次世界大戦後の世界
経済の構造分析である。19 世紀に始まる近代資本
以下章毎に追って内容を紹介しよう。
主義を歴史的パースペクティブの下で段階的に捉
え,相対化しつつ現代世界を解明している点に特
序章
色があるといえよう。各章は密度の濃い,しかも
資本主義とグローバリゼーションの関係が先ず
テーマも複数同時に盛り込まれている章もある。
明らかにされる。資本主義は「その全体性におい
読み解し,各章の内容を要約しながら,1 つのス
て,世界を前提としてはじめて存在し...グローバ
トーリー(現代世界資本主義史)に取り込んで紹
リゼーションは資本主義の歴史とともにあった」
介することにする。
(4 頁)。さらに資本主義は継続的・段階的に発展
して来たが,グローバリゼーションは継続的とい
目次
序章
うより,相対性理論でいう「時空世界」を「空間
二つのグローバリゼーションと二つの世
移動」
(タイムスリップ?)して出現すると,独創
紀末資本主義
的な設定をする。グローバリゼーションは突如‘大
第1章
アメリカ冷戦体制の構築
波’となって目の前に現れるらしい。英米の「大
第2章
冷戦体制の揺らぎ
覚醒(The Great Awakenings)」運動のようなもの
冷戦構造の溶解=冷戦体制の解除とアメ
リカ一国覇権主義
か。
冷戦体制の解体・解除とアメリカ製造業
の空洞化
末に出現した。ところがこの 2 つのグローバリゼー
アメリカ一国生き残り覇権主義としての
世界軍事=石油支配
れは独占段階という資本主義の新段階を生み出し
アメリカ覇権主義と一国生き残りとして
の金融収奪劇
階を見通せないまま展望もない。と,このように
第3章
第4章
第5章
第6章
第7章
2009 年世界恐慌と金融横奪戦略の破綻
第8章
ポスト冷戦と日本資本主義の戦後段階
第9章
アジアの「工業化」の歴史的意味と人類
の未来
最初の大波は 19 世紀末に,次の大波は 20 世紀
ションには決定的な位相の違いがある。最初のそ
資本主義の延命に繋がったが,今時のそれは新段
現代資本主義の現状が把握される。
第1章
第 2 次世界大戦前の世界は,植民地支配を巡る
資本主義陣営間の対抗・対立を軸に構築されてい
127
涌井 秀行著『ポスト冷戦世界の構造と動態』
た。戦後は資本主義陣営対「社会主義」陣営とい
ソ連は自由主義陣営に対抗するため国民の生活
う,イデオロギーを巡る対抗が軸となり,いわゆ
を犠牲にしてまで軍事・宇宙=重化学工業を優先
る冷戦体制が構築される。
させた。結果が 1991 年 8 月クーデターと独立国家
資本主義陣営は圧倒的な経済力と軍事力を有す
るアメリカを中心に再編された。通貨・金融面(=
共同体の成立,つまり「社会主義」ソ連の崩壊で
ある。
需要面)では,世界の 70%を占めるアメリカの金
独自路線を歩み自力更生の道で「社会主義」を
保有を下に国際通貨基金(IMF)と世界銀行が設
模索していた中国も 1979 年鄧小平の「改革・開放」
立され,自由陣営にドルが散布される。ドル体制
によって転換し,1992 年には「社会主義市場経済」
の形成である。
を宣言する。これはある意味中国の「社会主義」
生産・技術面(=供給面)では,航空機・ミサ
路線の放棄である。
イル,電機,通信といった新しい分野で技術革新
中国の「改革・開放」政策への転換は,
「米中協
が行われ,これらが主導産業(リーディング・イ
力の産物」
(80 頁)とするところは著者の慧眼で,
ンダストリー)として登場する。戦前の鉄鋼・繊
これが後のアメリカの政策転換(産業力から金融
維といった在来産業と異なるのは,これらが軍事
力支配へ)へと繋がるようである。
関連産業であり,冷戦体制の下で軍部と癒着し「軍
産複合体制」が形成されて行ったことに特徴があ
こうして戦後の冷戦体制は解体し,残ったのは
アメリカの一国覇権主義のみであるとする。
るという。こうした技術が資本主義陣営に移転さ
れ,アメリカの「軍産複合体制」に組み込まれつ
つ生産力を高めて行った。
第4章
「社会主義」陣営の崩壊は資本主義の勝利を意
これが西側・資本主義陣営の冷戦体制であり,
味するかというと,必ずしもそうではない。冷戦
東側・
「社会主義」陣営については第 3 章で述べら
体制解体後はアメリカ一国覇権主義のみが生き
れる。
残ったが,そのアメリカも内部に様々な矛盾を抱
え込み弱体化していた。
第2章
国内の産業は競争力を失い,財政赤字と並んで
1971 年の金=ドル交換停止と 73 年の完全変動
貿易赤字も増加の途にあった。1980 年代の貿易摩
相場制への移行は,ドル体制溶解の始まりであっ
擦に象徴されるところである。アメリカは 1985 年
た。
「社会主義」体制への防遏として世界に散布さ
のプラザ合意によってドル安誘導,国内産業の輸
れたドルが過剰(インフレ)になり,アメリカが
出競争力の強化を狙った。が,日本を始めとする
金との交換に応じられなくなったためである。こ
アジア諸国には産業力ではとうてい太刀打ち出来
れがドル体制溶解の第一段階。第二段階はアメリ
なかった。1995 年には逆に,国内において不足す
カがドル高を維持出来なくなった 1985 年のプラ
る資金を海外から呼び込むためドル高誘導の戦略
ザ合意。第三段階は逆にドル安で資金不足を招き
に出た。いわゆる逆プラザ合意である。
ドル安に転じた 1995 年の逆プラザ合意である。
ドル高に引き寄せられて海外から資金はアメリ
こうしてドルは安定基軸通貨の地位を失い,冷
カに流入し始めた。これに折からのインターネッ
戦構造を通貨・金融面から支えていたドル体制は
トブームも加わりアメリカでは IT バブルが生ま
溶解に向かう。
れた。後にニューエコノミーと称賛され,資本主
義が勝利したかと思われた時期もあった。
第3章
しかしこの IT バブルとニューエコノミーは,国
この章では戦後冷戦体制の対立軸であった「社
内経済的に見れば実態のない幻想であった。アメ
会主義」陣営=ソビエト連邦の崩壊と中国の転換,
リカの企業はアウト・ソーシング,ファブレスな
「改革・開放」について述べられる。
どの経営手法を活用し,国内には生産拠点を持た
128
涌井 秀行著『ポスト冷戦世界の構造と動態』
ないで,生産は海外にシフトするという,生き残
ロッパから日本・中国などのアジア地域に移って
りを賭けた戦略に出た。結果は国内産業の空洞化
いた。そこで生き残りをかけたアメリカは「一国
である。これが冷戦体制解体後のアメリカの姿で
生き残りのために世界戦略を産業(デトロイト)
あり,アメリカもまた凋落の道を歩んでいたので
から金融業(ウオール街)へシフトした」(143-4
ある。他の資本主義諸国も同様である。
頁)という訳である。
アメリカ 1 国生き残りをかけた金融収奪劇の第
第5章
冷戦体制解体後,アメリカは資本主義陣営の盟
1 幕は,1992 年頃から始まるヨーロッパの通貨危
機である。続く第 2 幕は 1997 年のアジア通貨危機。
主としての立場を放棄し,一国生き残りをかけた
これら一連の通貨危機から明らかになるのは,ア
覇権主義の道を邁進することになる。西アジアの
メリカがそれまでの産業力ではなく金融力によっ
石油支配はその布石の 1 つであった。
て覇権の維持・強化を目論んだことである。最後
西アジアは冷戦体制下にあって,両陣営共に浸
の第 3 幕は,アメリカそのものを舞台にしたいわ
透が遅れた地域だった。が,1947 年パレスチナ分
ゆる 2007 年サブプライム金融危機である。それに
割決議の結果イスラエルが誕生し,1952 年ナセル
ついては次章で詳しく述べられる。
のクーデターによってエジプト王政が打倒されソ
連寄りの姿勢を取り始めると,両陣営共にこの地
第7章
域に橋頭堡を築こうとし始める。きっかけは 1956
アメリカでは 1980 年代半ば以降,金融工学の発
年エジプトによるスエズ運河の国有化発表であっ
展と規制緩和等によって金融革命が始まった。そ
た。これが発端となって,以来 1973 年迄 4 次に及
れは住宅ローン,自動車ローン等の債券の証券化
ぶ中東戦争が繰り広げられることになる。
に代表される金融派生商品(ディリバティブ)の
石油輸出国機構(OPEC)は 1960 年にアラブ産
登場に象徴される。こうした金融派生商品が実体
油国のカルテルとして創設されていた。その OPEC
経済を離れて一人歩きを始めると金融恐慌が発生
諸国は第 4 次中東戦争後,イスラエルに味方する
する。金融派生商品は一種のネズミ講のようなも
資本主義陣営に対して石油の輸出を禁止し,価格
ので,著者によると「詐欺的貸付」
(173 頁)であ
決定においてもイニシアティブを取り始める。石
るという。
油価格は高騰し,資本主義陣営はかってないイン
2007 年に起こったリーマンブラザーズの倒産に
フレに見舞われ,折からのデフレに併せ,スタグ
象徴される金融危機は,それまでの危機とは様相
フレーションという事態を招くのである。
を異にした。上に述べた金融派生商品が発端と
以上のような背景から,アメリカはエネルギー
なっており,発売する金融機関もその実態を正し
確保のため 1991 年イラクに侵略し,ここを拠点に
く把握していなかった。こうした「詐欺的貸付」
西アジア及びカスピ海沿岸諸国に石油・天然ガス
は一つ歯車が狂うと不良債権が連鎖的に拡大し,
のパイプラインを張り巡らす。次章以下で述べら
やがては世界な金融恐慌となって勃発する。2009
れる金融支配と並んで,アメリカの軍事=石油支
年の「100 年に一度の危機」とも評された「第二
配というポスト冷戦期の新戦略であった。
次世界恐慌」がそれである。
著者はこの「世界金融恐慌は,戦後世界資本主
第6章
本書の中では一番短いが,後半への導入部とし
義の変容の転換点を示し,成長・
『蓄積メカニズム』
の機能不全の表れではないか」
(176 頁)としてい
て重要である。これまではアメリカ資本主義発展
る。第 1 の機能不全は 1873~96 年迄の「構造不況」。
の原動力をその卓越した産業力(工業生産力)に
これに対処するべく登場したのが独占資本主義で
基づくものとして述べて来た。ところが冷戦体制
ある。続く機能不全は 1970 年代のスタグフレー
解体後世界の工業生産の中心は,アメリカ・ヨー
ションに始まるが,表面化したのは 2009 年の世界
129
涌井 秀行著『ポスト冷戦世界の構造と動態』
恐慌に始まる世紀末大不況期である。
示されている。
最初の機能不全は独占資本主義へと段階的発変
この章の締めとして,「失われた 20 年」から脱
容を遂げて克服したが,今時のそれは「新しいス
却するにはその基盤となっている「零細土地所有
テージ」への道筋さえ見いだせないでいる(180
=零細稲作耕作」を改革することなくして不可能
頁)。独占とは対極の新自由主義(市場原理主義)
だという。その為の手立てとして「土地国有論」
で打開しようと試みたが,逆にそれが機能不全を
に言及しているところが興味深い。
増幅したともいう。
序章で示された資本主義とグローバリゼーショ
ンの関係性において,
「『時空世界』を『空間移動』
第9章
著者の専門とする所はアジア経済論であり,こ
したグローバリゼーション」という把握がここで
の最終章のタイトルは「アジアの『工業化』の歴
繋がって来る。時代が異次元に飛躍し,気がつい
史的意味と人類の未来」とある。人類の未来は欧
て見ると,周囲の(経済)環境は一転していた,
米ではなくアジアで始まるとする著者の歴史認識
ということか。
というか,アジアへの思い入れのようなものが窺
われ,本書の終章として相応しい。
第8章
資本主義は 19 世紀のヨーロッパに始まり,大西
著者によると,1990 年代以降の日本の「失われ
洋を経て 20 世紀は「資本主義のアメリカ段階」
(221
た 20 年」というのは,戦後日本資本主義の「成長」
頁)ともいうべき一時代を築いた。が続く 21 世紀
の促進要因の核心となっていた零細土地所有が逆
は「アジア段階」とも言うべき時代の入り口にあ
転し,逆にそれが阻止要因となっているためだと
る。しかしここで展開している資本主義(あるい
いう。従って「この土地問題の解決なしには日本
は「工業化」)は,それまでのものと大きく変わっ
の変革と揚棄はありえない」
(188 頁)としている。
ていると著者は述べる。
以下日本固有の零細土地所有=零細稲作耕作の歴
19 世紀産業革命以来の機械制大工業の時代に
史が荘園時代から第 2 次世界大戦にかけて詳細に
おいては,
(労働手段として)機械的運動=力学的
論じられているが,本書の全体のストーリーから
メカニズムを主要な内容とした,熟練を要する「本
少し外れるので省略する。
来の機械」を使用していた。現在始まっている「ア
日本は敗戦によって占領軍から農地改革を迫ら
ジア段階」では熟練を要する「本来の機械」は不
れたが,基本的に零細土地所有=零細稲作耕作と
要で,プラスチック射出成型部品,金属プレス部
いう制度は変革されることはなかった。これが
品,半導体部品など「科学的加工装置」によって
1960 年代以降の奇跡的ともいえる日本の高度成長
生産された部品が単にラインで組立られ,「コ
の基本的な要因となっているとする。零細土地所
ピー」されるだけである。ここでは熟練は必要と
有=零細稲作耕作が安価で豊富な労働力の供給源
しない。
となり,しかも資本に忠実な「会社人間」を育ん
だのである。
こうした日本固有の国内的要因を踏まえた上
こうした労働手段の一大革命が可能になったの
は「情報革命のコアとしてのインターネット」の
出現である。著者はそれを「新生産様式の芽生え」
で,世界資本主義との関連が述べられる。戦後日
(234 頁)と捉えている。それは本来の社会主義
本資本主義の発展は,「<外から>アメリカの冷
に向かうのか共産主義に向かうのか知れないが
戦体制構築という世界プロジェクトの一環とし
(図 9-1),
「人類史的大転換」で,
「前史(階級社
て<上から>日本政府も関与して,立ち上げられ
会)が終わり,正史(無階級社会)が始まる大き
た」
(203 頁)という。ここには(戦後日本資本主
な曲がり角である」(246 頁)と結ぶ。
義の発展に限定してあるが)著者独自の,
「外から
の資本主義の道」という欧米とは異なるモデルが
130
涌井 秀行著『ポスト冷戦世界の構造と動態』
講評
本書は著者のあとがきによると,
「研究書と一般
る面も多々あると思う。あれやこれや,著者には
ご寛恕願いたい。
書の中間」を狙ったとある。これは成功している
といえよう。著者は講座派の流れを汲む正統派の
マルクス経済学者である。語を厳密に定義し,文
注
章を論理的に展開するための手段であろうが,用
*
語法は難解でしかも講座派固有のロジック(構造
分析)が展開されている。
「外からの資本主義の道」については,涌井秀行『東
アジア経済論-外からの資本主義発展の道』(大月書
店 2005 年 3 月)を参照のこと。
こうした難解さを免れるため,1 冊の本に纏め
る段階で平易に書き直され,加筆された箇所が随
所に見受けられる。初出の論文時より随分と分か
り易くなっているように思われる。また本書に登
場する数値は全て工夫され,グラフ化されており,
これも分かり易い。
本書はある意味資本主義批判の書である。資本
主義に対する見方が異なると,コメントし難い面
もある。ここではそれには立ち入らないで,アカ
デミズムの上での問題に限定する。
資本主義の成立に関して,
「上からの道」
・
「下か
らの道」という 2 つの範疇(型)が我が国の経済
史研究では知られた所である。それに従えば日本
については,
「上からの道」という範疇が適用され
ているが,著者はこれに<外から>という視角を
加え,(戦後日本資本主義の発展に限定してある
が)
「外からの資本主義発展の道」という範疇設定
に道を開いている。このモデルは戦後 20 世紀末の
アジア地域における資本主義成立を理解する上で
有効であろう*。
もう一つ付け加えれば,グローバリゼーション
の捉え方である。従来の研究史では継続的・段階
的に捉えているようであるが,著者のように「『時
空世界』を『空間移動』したグローバリゼーショ
ン」という捉え方をすれば,20 世紀末から現在に
至る世界経済について理解の幅が広がるようであ
る。単なる思いつきのようにも見えるが,発想の
転換を迫り,興味深い。
本書が描こうとしている現代世界経済の見取り
図はかなり複雑で,それを正確に伝えるには評者
の力量が不足していると思う。評者なりに読み替
えながら,用語法も理解する範囲で置き換えた所
もある。ために内容が分かり難く,繋がりに欠け
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