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I ICG Report
I
ICG Report
2014年03月05日発行 第375号
発行:ICGインベストメント
ICGレポート編集部
沢井智裕/山本信幸/藤居玲子
「フラット型資本主義」の到来
~人口増、貿易黒字、高成長率を維持できるアジアは魅力~
新興国危機、フライジャル5(脆弱な 5 通貨=ブラジルレアル、インドルピー、インドネシア
ルピア、トルコリラ、南アフリカランド)を狙って、為替市場そして株式市場を崩そうとしてい
たヘッジファンド群もどうやら大儲けは諦めたようだ。これら 5 カ国が狙われた理由は、経常赤
字国で、資本の流出が懸念されていたからであるが、潜在成長余力が高い為、簡単に資本離れは
起こらない。
G20 は「19 対1」の戦い
同じフライジャル 5 の中でもインドネシアとインドのアジア組は為替の立て直しを行い、イン
ドネシアは 12 月末から、インドは 1 月末から、付け加えるなら南アフリカも 12 月末から株価が
戻り基調にある。一方のブラジル、トルコ、の株価は未だ調整中といったところだが、近いうち
に調整は終わり株価は上昇相場に入るであろう。先進各国の大手企業のコンセンサスは「グロー
バル化のさらなる進展」で財政赤字に悩む日米や構造上の問題を抱えるユーロ圏企業には、域外
の拠点で絶対的な収益を上げる体制の構築こそが、生き残る道なのである。
アメリカのマクドナルドやスターバックスは、国内よりも潜在成長余力のあるアジアや南米と
いった拠点を拡大させる。フェースブックやツイッターもアメリカ市場は飽和状態で、新興国市
場を中心に利用者数を伸ばし、ソフト面を充実させて収益を拡大させる。日本でもソフトバンク
が米携帯大手のスプリントを 216 億ドルで買収したり、楽天もキプロス本社(ユダヤ人オーナー)
のバイバーメディア社を 9 億ドルで買収した。大手メディア企業も国際展開を進めているが、メ
ディア関連企業のターゲットは先進国に留まらず人口増、所得増共に期待できる新興国を視野に
入れていることは疑いの余地がない。お互いに成熟した先進国に留まるならば合併や買収の意味
はないというものだ。今後は先進国と新興国の格差はどんどん縮小し、国家間の格差是正が進む。
また 2 月中旬にシドニーで開催された G20(財務相・中央銀行総裁会議)で発表された声明に
よれば「今後 5 年で現行の政策で予想される国内総生産(GDP)を 2 %ポイント以上押し上げる」
という大胆だが現実的な政策を策定するという。このことは実質ベースで 2 兆ドルを超える増加
となり「大幅な雇用創出につながる」。また実質的に年間 2000 億ドル以上の貿易黒字を上げてい
るドイツに対する財政出動のプレッシャーにもなる。ドイツが財政出動することによって内需拡
大が図られる。内需拡大が実現できればそれら資材を大量に海外から輸入する必要に迫られる。
よって貿易収支は改善されるというものである。つまり共同声明の形を取りながら実は、ドイツ
に「緊縮財政を継続するのではなく、他国の分まで財政出動をしなさい。もっとお金を使いなさ
い」との他の 19 カ国からのお達しなのである。
最低賃金の引き上げ問題
国家間の格差もこのように是正される方向に向かっている。いや改善されるかどうかは別にし
て「プレッシャーを与えられている」といった方が正しいだろう。
先進国・新興国、実際のビジネスにおける格差は、このように是正されているか、もしくは是
正される方向に向かうのだろう。しかしマクロは是正されても、ミクロベース、つまり個人レベ
ルにおける貧富の格差の是正は進まないのか?
1
いやそうではない。すでにフランスやアメリカ
では富裕層に対する課税強化が行われており、産業別でも過度に儲け過ぎないようにアメリカや
ユーロ圏の金融機関では「レバレッジ経営」を大きく規制し、既に業務の大幅縮小という影響を
受けている。投資銀行業務は縮小・淘汰。ヘッジファンド業界も預かり資産は大手ばかりが伸ば
し、中小は合併や吸収の対象となっている。しかしもっと注目すべきポイントは、富裕層叩きを
して「儲け過ぎ」を是正する反面、貧困層に対しては企業の負担増となる「最低賃金の引き上げ」
に対する運動が活発化している。アメリカでは各州で最低賃金の引き上げが論議の対象となって
いるし、香港ではこの数年で3回も労働者の最低賃金の引き上げが行われている。つまり上は引
きずり降ろされて、下は引き上げられる状況である。
欧米の「レバレッジ型金融資本主義」は終焉に向かい、新興国も含めた「フラット型資本主義」
に移行する時期に来ている。国家が儲け過ぎた利益に関しては、儲けていない国家に再配分され
て、企業で儲け過ぎた利益に関しては、最低賃金の引き上げで労働者へ「還元」される構造とな
る。また個人で儲け過ぎた利益に関しては、重税と言う形で国家に「還元」される。これまで莫
大な利益を上げていたグローバル企業も、タックスヘイブンを利用した租税回避はできなくなっ
た。アップルコンピューターやグーグルが不正に利益を貯め込んでいたとしてタックスヘイブン
を活用した「節税」は極力難しい状況に追い込まれている。
例外なきフラット化
あの中国でさえ、このトレンドに巻き込まれようとしている。権力闘争が背景にあるとはいえ、
これまで国家・地方・国有企業のお金を湯水の如く使っていた官僚や職員は自由にできるお金を
奪われつつある。シャドーバンキングと言われる地方政府の外郭団体「融資平台」はこれまで中
国のGDP比で50%という莫大な資金を採算の合わないと分かっている公共事業や開発につぎ込まれ
ていた。それらにぶら下がっていた官僚や職員は、間違いなく資産家であったはずだが、民衆の
不満が爆発寸前にまで来ていることで、習近平政権もこの動きを無視できなくなってしまった。
それが「腐敗の一掃=資産家の排除」といっても過言ではない構図となった。
中国では太子党の中でも習近平氏に近い太子党の仲間は優遇されても、江沢民元国家主席に近
い太子党の血筋は冷遇されていると言われている。政敵となる胡錦檮元国家主席の共産党青年団
ならなおさら冷遇される。「必要最低限の仲間」しか生き残れない時代に中国も突入したのだ。
中国の毎年の経済成長率は7%程度の潜在成長率があると言われるが、実際には国・地方・郡と
いった単位で浪費してきたに過ぎない経済構造であるが故、7%の成長率達成は極めて難しいだろ
う。中国も大きな転換期を迎えている。通貨人民元を国際化して外資を活用し内需型の経済に移
行できなければ、10年以内に大きな変革が起こるはずである。今度起こる変革は、共産党の存続
に関わるものと思われることから、当面はこの世界的な「フラット型資本主義」にフォローせざ
るを得ない。
当面世界はジニ係数の低下(是正)が課題となる。もしフラット化が進むとすればやはりその
恩恵を受ける国や地域に投資するのが基本だと思われる。だから引き続き新興国への投資は継続
されるし、中でも人口増、貿易黒字、高成長率を維持できるアジアは魅力的なのだ。自由貿易を
積極的に推進しているあたりも、フラット化の波に飲み込まれない自助努力の姿勢といえる。
各国のジニ係数比較
ジニ係数は所得分配の不平等さを
表す指標で、係数の範囲は0から1。
係数の値が0に近いほど格差が少
ない状態、1に近いほど格差が大
きい状態である。グラフ中の「再
分配後」とは税金や社会保障制度
を使って低所得層などに所得を再
分配した後の値である。
2
図版引用:平成24年版厚生労働白書
Q&A
Q. アメリカの景気は本当に回復しているのでしょうか?
A. 景気循環という観点から見ますと、米景気が回復局面に入っていることは間違いないと思い
ますが、問題は「持続的な」という言葉が頭にくるかどうかですね。景気をけん引する住宅市場、
個人消費のどちらを取りましても力強さには欠けます。
Q. ゴールドの価格が反発局面に入っていますが、今後も続きますか?
A. ジョンポールソン氏のヘッジファンドが、ゴールドを保有し続けていた為に、他のヘッジファ
ンドがゴールドの保有に動いています。また仮想通貨であるビットコイン決済の混乱で、その一
部の資金がゴールド市場に流入しています。
Q. 日本株は強気で良いのでしょうか?
A. 基本は強気でいいでしょう。アベノミクスの「3本の矢」は「2本の矢」と割り切るべきです。
アジア諸国では個人消費が堅調で、日本にとっても輸出企業、現地進出企業共に収益拡大のチャ
ンスです。日本企業のグローバル化の進展と堅調な海外株式市場に日本の株価も支えられるはず
です。
NEWS
アメリカ人富裕層の海外資産
日本では昨年末から5000万円以上の海外資産は納税対象となり、3月中に税務当局に報告する
義務が発生している。今年は制度導入後、初めての申告ということで、申告漏れがあってもペナ
ルティーは免除されると言われている。
金融先進国のアメリカでは一歩先を行く。国内・海外を問わずアメリカ国籍・あるいはグリー
ンカード(米国内居住権)を有する者はアメリカ以外の国や地域における5万ドル以上の資産に
ついて報告する義務がある。また海外の金融機関に預けてある預金に関しても1万ドル以上は報
告義務の対象となる厳しさである。加えてアメリカの当局は、海外の金融機関に対して上記に類
する預金者の口座に関して報告義務を怠った場合に、当該金融機関に対してペナルティーを課す
旨、通知した。
諸外国の金融機関が単なる普通預金口座・当座預金口座であったとしても米当局への報告を怠
ることはできない。一方で金融機関側は、アメリカ人の口座開設を拒否するところが増加してい
る。簡単な報告ミスでも米当局からペナルティを課されるのであれば、最初から口座開設をさせ
ない方が無難と考えているからだ。アメリカ当局は該当する当事者への圧力と、預金や資産運用
を受け入れる金融機関側の両方にプレッシャーを掛けている。
(香港 コンサルティング会社)
ドイツ銀が米資産を縮小
新興国からキャピタルフライトが発生している反面、アメリカから資産を引き揚げる金融機関
がある。とは言っても規制強化の煽りを受けての話である。
アメリカ金融当局は、アメリカ国内で営業活動を行う海外の金融機関で資産500億ドル以上を
保有する金融機関に対して「さらなる資本の積み増しと総資産の4%程度を資本に組み入れる」規
制強化策を発表している。ユーロ圏最大級の金融機関であるドイツ銀行は、この新ルールに当て
3
はめると70億米ドルの資本不足に陥ると試算されている。そんな訳でドイツ銀行は米国内にある
資産の売却に迫られているのだ。
資本不足を補うために自己資本比率の分母となる資産を圧縮する手段を選択することになった。
ドイツ銀行は、今後数年を掛けて3000億ドルもの資産を売却する必要がある。米金融当局の新ルー
ルは国内金融機関の過度な優遇・保護との指摘もあり、自由な競争を売りとするアメリカの建国
精神に逆行しているとの見方もある。今後世界の大手行は、アメリカ国内での営業活動において
不利な状況に立たされる。
(ICGヨーロッパ ヨハブ・リウィット)
ソロス氏、米株売りポジションの噂?
2月初旬の急落時に日本株市場でソロス氏が日本株を売っているらしいとの情報が走った。し
かし実際には日本株の売りポジションよりも米国株の売りポジションの方が大きかった。量的緩
和の縮小の影響で、米国株が不安定になった折、ソロス氏のポートフォリオの中身が米証券取引
委員会(SEC)に提出された報告書で明らかになった。
ソロスファンドのポジションにS&P500のプットの売り700万枚が公表された。金額ベースでは1
3億米ドルに達するサイズであったため、様々な憶測が飛び交った。しかしソロスファンドがプッ
トを仕込んだ時期が米国株が高値を更新していた13年第4四半期であったことから、このプット
の買いは、ファンド総資産117億ドルに対するヘッジの売りではないかとの話で落ち着いた。
その後、例えソロスファンドがプットを買い増しして1.5倍のレベルに到達したとしても同時
期の株価上昇を考えると、117億ドルの資産は2億米ドル増加していることから理に敵ったヘッジ
の範囲内に収まる。ソロスファンドは、第4四半期にアップル社、ゼネラルモータース、JPモル
ガンチェース、ディッシュ・ネットワーク社の株式を買い増ししているところからも、プットの
買いは資産ヘッジとしての買いという見方で収まりそうだ。
(米系ヘッジファンドマネジャー)
意外な通貨人民元の下落
中国のシャドーバンキング退治が本格化し、人民元を投機的に売買していた短期筋が市場から
退出している。2月28日は1ドル=6.15人民元台を付け、昨年8月以来の安値を付けた。ただ人民
元安が継続するとの見方は少ない。
ドイツ銀行の試算では、昨年の人民元建てのデリバティブ取引は、2500億米ドルであったが、
今年は既に800億ドルから1000億ドルの水準に達しており昨年の取引量を大幅に上回ることは間
違いない。また世界における取引量も一昨年は17番目に位置していたものが、直近の統計ではス
イスフランを抜いて7番目に上昇した。中国は経済規模が世界第2位であることから、まだまだ順
位を上げてくることは間違いない。
中国政府も人民元の改革開放を全面に押し出し始めており、上海自由貿易試験区では、調達し
た人民元をグループ内の企業に貸し付けたり国外の拠点から融資を受けたりといった双方向の融
通が可能になる。今後は貿易の決済、各国の中央銀行における外貨準備としての備蓄、人民元建
てでの中国株・中国国債への投資等、開放に伴い人民元の需要は増大する一方である。ヘッジファ
ンドを始めとした投機家による人民元離れは一時的な現象に留まるはずだ。
(ICGアジア 沢井智裕)
4
FUND
絞られた新興国危機
フライジャル5の中でも景気後退が深刻なのは、ブラジル、トルコ、南アフリカであるが、危
機的な状況ではない。むしろ市場が注目しているのは中国のシャドーバンキングの問題で、4大
金融機関を中心に販売された「理財商品」の償還時に元本と利回り7-10%程度が無事に投資家の
手元に戻って来るかどうかである。元本が戻らないケースが一部に見られるが、民衆の動向を見
ながら政府・当局は救済するかどうかの判断をすると思われる。今年償還される理財商品は、残
高のうちの40%を占めると言われており、償還が滞るようだと、金利上昇やそれに伴う貸し渋り
等、中国の金融システム全体に影響が出てくる可能性も心配されている。日米欧共に景気回復は
非常に緩やかで、財政支出を削減しているユーロ圏ではデフレ圧力が深刻化してくるはずだ。日
本もデフレ脱却に向けて、金融緩和+為替(円安)頼みでは心細い。今後も基本的に元気なのは
アセアン諸国だけになりそうだ。
JPMorgan ASEAN Fund
短期★★★★★
投資配分はシンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンへの投資で全体の94
%を占める。セクター別では金融が41%を占め、工業、通信にそれぞれ12.3%、10.6%を配分してい
る。パフォーマンスは、13年が-1.5%、1月単月も-3.5%と芳しくないが、12年は+25.0%の高い
パフォーマンスを上げている。
長期★★★★★
昨年は日米欧の株式市場の上昇率が高かった為、どの市場にも「買い疲れ感」が漂う。一方の
アジア市場は「量的緩和の縮小」というテーマに泣かされた1年間であっただけに、逆に欧米市
場との比較で割安感が出ている。 新興国危機は消費国への転換で既に克服済み。アジア市場は
長期的視野で投資するスタンスに変わりはない。
総評★★★★★
TOKYO
OSAKA
ICGファンドの運用成績
Gold Nugget Fund
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
Jan
Feb
5.20%
-2.51%
-6.94%
10.81%
-0.52%
-2.92
1.91%
2.35%
5.07%
0.21%
-5.46%
Mar
-6.86%
-2.24%
0.43%
1.56%
-5.90%
0.57%
Apr
-6.39%
-4.92%
5.31%
6.37%
-1.11%
-9.09%
May
Jun
1.66%
4.59%
13.13% -6.33%
1.54%
2.35%
-1.69% -3.22%
-6.03%
1.79%
-5.44% -14.68%
Jul
-3.11%
1.06%
-5.94%
6.80%
0.86%
9.64%
Aug
Sep
Oct
-9.07%
3.10% -19.72%
0.79%
5.67%
2.45%
6.78%
4.89%
3.03%
8.99% -11.26%
5.36%
2.02%
7.15% -3.27%
6.15% -5.61% -1.07%
Nov
Dec Year-to-date
12.17%
8.28% -17.89%
11.28% -6.08% 21.75%
3.02%
1.72% 24.75%
0.45% -10.17% -1.30%
-0.58% -3.84%
0.73%
-5.97 -4.45% -32.26%
May
0.00%
-10.54%
-5.73%
-6.70%
13.29%
Jul
-0.33%
4.30%
-5.35%
-7.20%
6.82%
Aug
Sep
-0.86%
0.25%
-4.31%
6.56%
-8.96% -15.17%
2.42% -0.45%
-4.66%
5.06%
Nov
-0.46%
-4.97%
-3.63%
0.23%
-1.29%
Clean Tech Fund
2009
2010
2011
2012
2013
2014
Jan
Feb
Mar
Apr
-2.73%
5.00%
5.28%
4.21%
3.99%
-1.71%
-1.66%
-0.71%
-3.37%
1.30%
2.42%
-3.46%
-1.01%
1.03%
-3.59%
-5.06%
16.00%
Jun
-0.70%
-2.16%
-1.92%
1.89%
-3.62%
Oct
-2.03%
-2.06%
-0.67%
-0.64%
0.47%
Dec Year-to-date
-0.57% -4.62%
3.60% -12.17%
-6.45% -39.19%
5.92% -9.09%
3.20% 37.72%
本レポートは十分に注意深く編集していますが、完全に誤りがないことを保障するものではあり
ません。本レポートはあくまで投資決定上のひとつの材料とお考えください。
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