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医療従事者向け資料(PDF:978KB)

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医療従事者向け資料(PDF:978KB)
シ ト リ ン 欠 損 症 の 治 療 : NICCD 後 の 低 血 糖 の 治 療 に つ い て ( 医 療 者 へ の 解 説 )
2016/10/30 始めに シトリン欠損症により,新生児・乳児期ではシトリン欠損による新生児肝内胆汁うっ
滞(neonatal intrahepatic cholestasis caused by citrin deficiency: NICCD),成
人期には高アンモニア脳症を呈する成人発症 II 型シトルリン血症(adult-onset type II citrullinemia: CTLN2)を起こします.NICCD の多くは生後半年頃より回復してきま
すが,回復後に,低血糖を反復したり,易疲労,低身長を訴えたりする患者さんが少な
からず存在します. 厚生労働省の研究班における私達の調査により,男児ではやせ形となり,女児では低
血糖の合併が多いということが明らかになりました.1) 今後は,男女差を念頭に診療す
る必要があります.低血糖時の治療では,薄い糖濃度の輸液をすると言われて来ました
が,一般的な救急療法を施行すべきであり,2014 年 11 月仙台で開催された第 56 回日
本先天代謝異常学会において,シトリン欠損症の病態について発表した際に解説した内
容をご紹介します.2) 低血糖時の治療法 一般的な小児の救急療法に準じて,10%グルコース 1
き続き血糖値を 70
2 ml/kg を静脈内投与し,引
75mg/dl を維持するようにグルコース 3
5mg/kg/min を持続投与し
ます.脳は大量のブドウ糖を消費し,低血糖状態が続くと脳の機能を障害し,場合によ
っては重篤な障害を遺しますので,速やかに血糖を挙げる必要があります.高血糖にす
ることは回避しなければなりませんが,上記の治療では高血糖になる心配はありません. 一般的な救急療法が障害を起こさない理由 シトリン欠損症では,肝臓の NADH シャトルが障害されているために,解糖系が障害
されます.NAD+を必要とするグリセルアルデヒド-3−リン酸デヒドロゲナーゼの反応が
障害され,糖が大量に負荷されると,中間代謝産物が蓄積し,生体の反応に必要なリン
酸が捕捉され,肝機能が障害されることが危惧されます.しかし,肝臓は,肝臓に流れ
こむ血液(門脈血と肝動脈血が混合した血液)のグルコース濃度が高い場合のみグルコ
ースを取り込みます.肝細胞は,炭水化物を摂取し門脈血のグルコース濃度が上昇した
時に,グルコースを取り込み,グリコーゲンを生成貯蔵します.更に,解糖系を経て,
脂質を生成し,貯蔵エネルギーとします.即ち,肝臓は炭水化物の摂取が少ない時には,
グルコースを必要とする脳などの組織にグルコース利用の優先権を譲り,グルコースが
過剰に存在する時にのみ取込み,グリコーゲンや脂質を生成・備蓄する控えめな組織と
言えます. 1
肝におけるグルコース代謝(グルコースの取り込み)
高炭水化物食
低炭水化物食
グルコース分子
肝におけるグルコースの取り込みと代謝
Km for glucose"
15-20mM"
(270-360mg/dl)
GLUT2
グルコース
グルコキナーゼ
グリコーゲン
ATP
ADP
グルコース6−リン酸
Km for glucose"
10mM"
(180mg/dl)
肝細胞
図に示しますように,肝細胞の糖の輸送体(GLUT2)および代謝の第一歩を担うグルコ
キナーゼは共にグルコースに対する Km が大きく,即ち親和性が低いために,肝細胞に
はグルコースが取り込まれにくく代謝もされにくいのです.こうした理由から低血糖で
痙攣や意識障害を起こしている患者さんに対して,高濃度の糖を静脈内に投与しても問
題を生ずることはないのです.肝臓におけるこれらの糖の代謝は,糖尿病の専門家には,
よく知られている事柄です. 中心静脈栄養についても,禁忌と書かれておりますが,これも同様に高血糖にしない
限り,大きな問題はないと考えます.実際,肝臓移植を受けた二人の患者さんについて
の論文では,移植待機の或る期間,中心静脈栄養を受け,問題なく管理されております.
3) 但し,一人の患者さんが中心静脈栄養を受け,高血糖を来たし,同時に高アンモニア
血症も起こしたと報告されております.4) この患者さんは,全身状態が非常に悪く,耐
2
糖能が低下している状態で,高濃度の糖が投与され,高血糖と来したものと考えます.
しかし,輸液内容を変更し,血糖の降下とともにアンモニアも低下しております.グリ
セオールの投与による致死的な障害とは異なり可逆的な障害です.中心静脈栄養も血糖
をモニターし,高血糖としない限り問題はないと考えます. 輸液時に注意すべきこと 高血糖を避けることが重要です.高血糖状態では,肝臓への糖の取り込みも問題です
が,インシュリンが分泌され,肝臓における脂肪の利用が障害されます.シトリン欠損
症の病態は,肝細胞のエネルギー不足と考えられ,主要エネルギー源である脂肪の利用
を妨げることは避けなければなりません. また,国内の輸液製剤には,糖分としてフルクトース,キシリトール,ソルビトール
を含むものがあります.これらの糖は代謝の制御を受けず解糖系で代謝される*為に,
グリセオールと同様に禁忌と考えます. 低血糖を反復する児への対応 空腹時には,肝臓に貯蔵したグリコーゲンを分解し,また,筋から放出されるアミノ
酸などから糖を新生し,血糖を維持します.しかし,シトリン欠損症の患者さんでは,
NAD+/NADH の比の低下や ATP の減少から糖新生系が抑制されます.更に,患者さんは,
蛋白質や脂肪を好み,炭水化物の摂取量が少なくなりがちです.一方,グリコーゲンの
合成にはエネルギーが必要ですが,患者さんの肝臓は低エネルギー状態にあり,グリコ
ーゲンの合成・蓄積が難しい状態です.低血糖を反復する患者さんの診療では,最初に,
食事内容をチェックし,食事の総カロリー,蛋白:脂肪:炭水化物のカロリー比を計算
し,極端な低炭水化物食とならないように注意します.好みに任せた食事が必ずしも良
いとは言えません. グリコーゲンの材料となる炭水化物の摂取を増やしても,低血糖を反復する時には,
肝細胞へのエネルギー補給を目的とし,中鎖脂肪酸の投与を検討します.空腹時の低血
糖が持続する患者さんでは,コーンスターチなどの利用も検討します. 糖尿病の患者さんが低血糖を起こした際には,経口的にグルコースもしくは蔗糖(砂
糖)を投与することがありますが,シトリン欠損症に対する蔗糖(砂糖)の投与はフル
クトースが含まれているため禁忌と考えます.グルコースは,GLUT2 やグルコキナーゼ
による調節に加えて,ホスホフルクトキナーゼによるアロステリックな調節を受けるた
め,グルコースの経口投与により重篤な障害は生じないと考えますが,静脈内投与の方
がより安全で効果的と考えます. シトリン欠損症の治療においては,適切な食事を含め,より効果的な治療法の確立が
必要です. 3
参考文献 1.沼倉周彦,三井哲夫,早坂清 シトリン欠損症の適応・代償期における成長と
有症者の検討.第 58 回日本先天代謝異常学会(2016 年 10 月 27-29 日)東京 2.早坂清,沼倉周彦,渡辺久剛 シトリン欠損症の治療と病態への考察.第 56 回日
本先天代謝異常学会(2014 年 11 月 13-15 日)仙台
3.Yazaki M, Hashikura Y, Takei Y, Ikegami T, Miyagawa S, Yamamoto K, Tokuda T,
Kobayashi K, Saheki T, Ikeda S. Feasibility of auxiliary partial orthotopic liver transplantation
from living donors for patients with adult-onset type II Citrullinemia. Liver Transpl, 10:
550-554, 2004
4.玉川進,中村洋之,片野俊男,吉沢睦,大竹一栄,久保田達也.高カロリー輸液で
意識障害を繰り返した成人型高シトルリン血症の1症例.日本集中治療学会雑誌 1:
37-41, 1994
*グルコースは,GLUT2 やグルコキナーゼによる調節に加えて,ホスホフルクトキナー
ゼによるアロステリックな調節を受ける.フルクトース,キシリトール,ソルビトール
は,これらの調節機構を受けずに解糖系により代謝される.そのために NAD+を必要とす
るグリセルアルデヒド-3−リン酸デヒドロゲナーゼの反応が障害されるシトリン欠損
症では,リン酸が捕捉され ATP の減少が危惧される. 2016 年 10 月 30 日 早坂 清(山形大学名誉教授) 沼倉周彦(山形大学医学部小児科講師) 4
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