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子どもの柔軟性の現状と重要性
新 連 載 子どもに 柔 軟 性 をつけて、腰痛を 予 防 しよう 子どもの柔軟性の現状と重要性 前編: 【帝京大学医学部附属溝口病院 整形外科 准教授 西良 浩一】 タイトハムの状態ではない図2の左の子ど です。大人では、椎体と椎体の間にある椎間 もでは、前屈姿勢の時にハムストリングスが 板が飛び出し、椎間板ヘルニアになることが 柔らかいので骨盤の動きが大きく、前方に回 多いですが、子どもの場合、椎体の角にある 転することができています。したがって、運 骨が損傷され骨折となり脊髄神経を圧迫し 動中骨盤が動けるため、腰への負担は少なく ます。 なります。 一方、タイトハムの強い右の子どもでは、 この状態は、膝関節の後ろにあるハムスト 硬いハムストリングスが骨盤の回転運動を妨 リングスの柔軟性がないために生じているの げ、前屈姿勢の時に骨盤が動かないため、代 当院のスポーツ外来には多くの発育期患者 です。このような、柔軟性が無く、硬くなっ 償的に腰椎を動かすことになります。つまり、 が通院しています。最も多いのが中学生です ている状態を、「タイト・ハムストリングス」 タイトハムの状態である子どもは、運動中の が、小学生も例外ではありません。その中で あるいは「タイトハム」と呼びます。これは、 腰への負担が大きく、腰痛につながることが 成長期の腰痛患者に共通しているのは、みん スポーツをしない子どもでも多くいることと 推測されます。 な「体が硬い」ということです。特に「ハム 思います。 はじめに ストリングス」が硬い子どもが多いのが目立 体が硬いとなぜ悪いのか? ちます。 「ハムストリングス」とは人間の下 肢後面を作る筋肉の総称で、アスリートが肉 下肢の筋が硬いと、オスグッドのような膝 離れを起こしやすい部位としても有名な筋群 障害やシーバー病という足の障害が生じやす です(図1) 。 いということも知られております。体が硬い 受診した子どものほとんどは、図2の右の と、膝や足などのいろいろな部位に障害を起 子どものように、立位体前屈を行ったときに こす可能性が高くなるのです。そして、特に 指先が床につかない状態です。 影響が大きいと考えられるのが、腰への影響 CTスキャン MRI 図4 小児ヘルニアのCTとMRI 子どもの腰痛 徳島県のさかまき整形外科の統計によると、 (CTの矢印の部分、MRI画像の中央部分が、骨折部 で、脊髄神経を圧迫している様子を示している) 小学生で2週間以上腰痛が続く場合、約半数 これらの障害の多くは、硬く・幼若な子ど に腰椎分離症(疲労骨折)を認めています。発 もの体を運動などで無理に酷使し続けたこと 育期の幼若な背骨は部活などで無理を続ける が原因の一つです。 と、疲労骨折になりやすくなります。 おわりに 図3が腰椎分離症でよく見られるCTとM です。 RIです。CTの矢印が骨折部で、MRIの 子どものスポーツを否定しているわけでは ハムストリングスは2関節筋といって、膝 白く映っている部分(矢印の部分)が骨外へ ありません。けがや障害の予防のためには、 関節と股関節の2つの関節をまたぐ筋であり、 広がる出血を示しています。 練習ばかりするのではなく、まず柔らかい・ ハムストリングス 骨盤の動きにも関連しています。 しなやかな体を作ることが障害予防には大切 図2を見てください。骨盤の位置の違いが です。もちろん、スポーツを日常的にしない 一目瞭然でわかると思います。 児童にとっても、体育や外遊びの中でのけが や障害の予防のために、柔軟性をつけること が大事なのは言うまでもありません。 特に腰痛予防にはタイトハムを克服した柔 CTスキャン MRI らかい体作りが非常に大切です。タイトハム 図3. 腰椎分離症のCTとMRI を有効に克服する「ジャックナイフストレッ チ」を次号で紹介します。ぜひ、子どもたち タイトハム (−) 図1. ハムストリングスの位置 2 2011年11月8日発行 少年写真新聞社 タイトハム (+) 図2. 柔軟性がある児童と無い児童での骨盤の位置の違い また腰椎分離症以外では、背骨の成長軟骨 に行っていただき、子どもの体を、障害を起 が損傷する終板障害(小児ヘルニア)も多く こしにくい柔らかい体にしていただければ 認められます。図4が小児ヘルニアの写真 と思います。 小学保健ニュース No.958付録 少年写真新聞社 3