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第5章 英語教育と英語産業による 精神の植民地化

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第5章 英語教育と英語産業による 精神の植民地化
第5章
英 語 教 育 と英 語 産 業 に よ る
精 神 の植 民 地 化
津
は
じ
め
田 幸
男
に
『言 語 帝 国 主 義 』 の著 者 で デ ンマ ー ク の言 語 学 者 ロバ ー ト ・フ ィ リップ ソ ンは、 ガ ー ナ の社
会 言 語 学 者 の こ とば を 引用 し、 言 語 帝 国 主 義 が もた らす 「精 神 の植 民 地 化 」 現 象 を次 の よ うに
紹 介 して い る。
『(言語 帝 国主 義 とは)あ る言 語 の話 者 の精 神 も生 活 も他 の言 語 に支 配 さ れ て しま い、 教
育 、 哲 学 、 文 学 、 政 治 、 裁 判 等 の生 活 の 高度 な事 柄 の こ とに な る と、 そ の外 国 語 の み使
う こ とが で き、 かっ 、 使 わ な け れ ば な らな い とま で信 じて しま う こ とで あ る。
言 語 帝 国主 義 に は、 最 も高 貴 な る者 で さえ、 そ の精 神 、 態 度 、 願 望 を ゆが めて しま い、
母 語 の持 っ潜 在 的 な力 を十 分 に味 わ い、 認 識 す る こ とが で き な くな る よ うな巧 妙 な仕 掛
け が あ る。』(Phillipson,1992:56)
この 引 用 文 は、 現 在 地 球 的 規 模 で進 行 中 の 「英 語 支 配 」 に ぴ った り と 当 て は ま る。 しか も、
「支 配 」 や 「帝 国 主 義 」 と い った こ とば が か も し出す 強 引 な イ メ ー ジで はな い、 真 の 支配 とで
もい え る よ うな、 「英語 へ の傾 倒 ・同一 化 」 に よ る 「精 神 の植 民 地 化 」 を浮 き彫 りに して い る。
英 語 は確 か に押 しっ け られ て は い るが 、 そ れ は英 語 支 配 を真 に支 え る もので はな い。 押 しっ
け られ て い る以 上 に、 私 た ち は英 語 を 求 め て い る。 欲 しが っ て い る し、 学 び たが って い る。 真
似 したが って もい る。 私 た ち は英 語 に憧 れ、 英 語 に吸 い寄 せ られ て い る。 英 語 を絶 対 視 し、 普
遍 言 語 と見 な し、 英 語 が 出来 な い者 を 軽 蔑 す る とい う意 識 を知 らず 知 らず の う ち に培 って い る
ので あ る。 そ して、 日本 語 を軽 視 し、 日本 文 化 を低 くみ る と い う感 覚 を身 に付 けて しま うの で
あ る。
言 葉 を 使 うに 当 た って、 英 語 と い う権 力 語 に 傾 倒 ・同一 化 し、 母 語 ・自文 化 を 軽 視 す る意
識 ・態度 ・行 動 等 を 「精 神 の植 民 地 化 」 と定 義 す る。
本 論 文 で は、 日本 にお け る この よ うな 「精 神 の植 民 地 化 」 を生 み 出す 原 因 と して 、 「英 語 教
育 」 と 「英 語 産 業 」 を取 り上 げて 考 察 を進 あ る。
第 一 に、 「英 語 教 育 」 の言語 観 、 思 想 等 を批判 的 に考 察 し、 そ れ らが 「精 神 の 植 民地 化 」 と
いか に して結 び付 いて い るか を論 ず る。
第 二 に、 い わ ゆ る 「英 会 話」 に 象徴 され る 「英 語 産業 」 を 取 り上 げ、 そ れ らが い か に 「精 神
の植 民地 化 」 を促 進 して い るか を論 ず る。
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す な わ ち、 「英 語 教 育 」 と 「英 語 産 業」 は それ ぞ れ英 語 支 配 へ の共 犯 者 的装 置 と して機 能 し
て い る こ とを 示 し、 それ が 英 語 中 心主 義 を肯 定 、 助 長 して い る こ とを指 摘 す る。
1.英
語 教 育 と精 神 の 植 民地 化
まず、 現 在 の 日本 の英 語 教 育 を成 り立 たぜ て い る思 想 、価 値 観 、 イ デ オ ロギ ーを以 下 の5点
に ま とめ て み た。
(1)道
具 ・手 段 と して の英 語 教 育 観
(2)「 教 養 英 語 」 か 「実 用 英 語 」 か と い う英 語 教 育 目的 論 の枠 組 み
(3)「 英 語=国
際語 」 とい う言 説
(4)言
語 学 ・応 用 言 語 学 の実証 主 義
(5)英
語 教 育 の専 門 化
これ らを一 っ一 っ検 討 し、 精 神 の植 民 地 化 との 関係 性 を論 じて い く。
(1)道
具 ・手 段 と して の英 語 教 育 観
日本 に お い て も海 外 にお い て も、 英 語 教 育 を語 る と き に は、 英 語 に対 して は一一貫 して、 「無
垢 」 で 「中立 」 な 罪 の な い 存 在 とい う考 え が 圧倒 的 で あ る。 い わ く、 「英 語 は道 具 で あ る」、 ま
た は 「英 語 は手 段 で あ る」 と い う考 え で あ る。
この 「道 具 ・手 段 と して の 英 語 」 とい う言 語 観 は、 英語 が持 って い る権 力性 や支 配 力 を 中和
し覆 い 隠 す イ デ オ ロ ギ ー的 機 能 を 果 た して い る。 「手 段 や道 具 に す ぎな い」 とい う こ とに よ っ
て 、英 語 の 権 力 性 は意 識 され に く くな るば か りか 、 英 語 教育 は 「語 学 訓 練 の 場 」 とい う新 た な
権 力 性 を帯 び る ので あ る。 これ に よ り、 学 習 者 は二 重 の権 力 性 の 下 に支 配 され る こ と とな る。
一 っ は英 語 と い う権 力 。 も う一 っ は、 英 語 教 育 と い う権 力 で あ る。
た しか に 「英 語 は道 具 にす ぎ な い」 と考 え る こ とに よ って 、 英 語 の権 力 性 を 忘 れ る こ とが 出
来 る。 た か が道 具 や手 段 な の だ か ら、 私 た ち が そ れ に支 配 され 、 そ の影 響 下 に置 か れ る こ と な
ど な いの だ と信 じた い気 持 ち か ら この考 え は産 ま れ た ので は な いだ ろ うか 。 しか し、 それ は気
休 あで あ り、 錯 覚 で あ り、 「虚 偽 意識 」 で あ る。 な ぜ な らば、 英 語 支 配 は厳 然 と して 存 在 して
い る し、 国 際 コ ミュニ ケ ー シ ョンで は英 語 が 国際 語 と して権 威 的 な地 位 に い る こ とは動 か しが
た い事 実 で あ るか らだ。
ま た 「英 語 は道 具 にす ぎな い」 と思 う こ とに よ って、 英 語 とそ の文 化 、 そ して欧 米 人 へ の コ
ンプ レ ック スを払 拭 しよ う と した の で はな い か。 英 語 は道 具 、 手 段 に す ぎな い の だ か ら、 訓 練
に よ り、 自分 達 も話 せ る よ う にな る と信 じた か った の だ ろ う。 英 語 は英 語 国 や 欧米 人 の独 占資
源 な ので は な く、 だ れ で も使 え る道 具 で あ るか ら、 日本 人 で も学 習 に よ り ネイ テ ィ ブ ・ス ピ ー
カ ー並 に話 せ る よ う に な る と考 え るわ けで あ る。 こ う考 え る こ と に よ り、英 語 へ の コ ン プ レ ッ
クス を な く して 、 英 語 学 習 を も っ と能 率 的 に 行 お う とす るの が この考 え の 狙 い で はな いだ ろ う
か。
しか し、 こ の考 え は言 語 の影 響 力 を過 小評 価 して い る。言 語 は世 界 観 を 表 して お り、 ま た生
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第5章 英語教育と英語産業による精神の植民地化
活 様式 の反 映 で あ る、 とい う こ とは言 語 学 で は定 説 にな って い る。 言 語 を学 ぶ こ と は、 必 然 的
にそ の考 え方 や文 化 を身 に付 け る こ とに な るの で あ る。 英 語 を手 段 化 し、 脱 英 米 化 した と して
も、 そ の文 化 的、 認 識 論 的影 響 か ら自 由 に な る こ と は不 可 能 で あ る。
この よ うに、 「道 具 ・手 段 と して の 英 語 教 育 論 」 は、 英 語 支 配 の現 実 か ら、 教 師 も学 習 者 も
引 き離 して しま い、 権 力 と して の英 語 の存 在 を み え に く くす る ば か りか 、 英 語 教 育 を 「技 術
的 ・道 具 的」 な もの に 閉 じ込 め て しま い、 社 会 的現 実 か ら遊 離 した もの に して い る。 そ して、
そ れ に よ り、 英 語 支 配 は不 問 に付 され て しま い、 肯 定 され て しま うの で あ る。
(2)「 教 養 英 語 」 「実 用 英 語 」 とい う英 語 教 育 目的 論 の枠 組 み
「教 養 英 語 」 と 「実 用 英 語 」 と い う二 項 対 立 的 な 枠 組 み が は っ き り と した形 で 表 れ た の が
1975年 の 「英 語 教 育 大 論 争 」 で あ ろ う。 これ は 自民 党 議員 の平 泉 渉 の 「
英 語 教育 改革 案 」 に
異 議 を唱 え た言 語 学 者 の渡 部 昇 一 と の間 で 交 わ され た議 論 で あ る。(平 泉 ・渡 部 、1975)
平 泉 は 「10年 や って も話 せ な い」 日本 の英 語 教 育 は失 敗 で あ る と決 め 付 け、 英 語 の強 制 を
や あ、 少 数 の者 に英 語 教 育 を施 し、 英 語 エ リー トを育 成 し、 国 際 化 に対 応 す べ き だ と改 革 案 を
出 した。
これ に対 し渡 部 は、 平 泉 の描 く 「英 語 が 話 せ る よ うに な る」 とい う 目標 は英語 力 の
「顕 在
化 」 を求 め る もの で、 そ れ は現 在 の学 校 教 育 で は無 理 で あ る と し、 そ もそ も学 校 教 育 は、 「潜
在 的能 力 開発 」 の場 で あ り、 従 来 の文 法 訳 読 中心 の英 語 教 育 は それ に十 分 貢 献 して い るの で 、
英 語 教 育 改 革 の必 要 は な い、 と反 論 した。
この論 争 は少 な く と も次 の二 つ の変 化 を生 み 出 した とい え る。
まず 一 つ に は、 英 語 教 育 の 目的 に関 して 、 渡 部 の い うよ うな 「教 養 英 語 」 にす るの か 、 そ れ
と も平 泉 の主 張 す る 「実 用 英 語 」(「話 せ る英 語 」)に す る のか 、 と い う選 択 の枠 組 み を 確立 し
た こ とに あ る。 い い か え れ ば、 こ の当 時 は ま だ社 会 的 に正 式 な認 知 を受 けて い なか った 「実 用
英 語 」 が 、 英 語 教 育 の議 論 の お もて 舞 台 に登 場 で き る こ とに な った ので あ る。
同時 に、 この論 争 以 降 、 英 語 教 育 の議 論 は、 「教 養 か 、 実 用 か?」 と い う二 項 対 立 的 枠組 み に
よ り規 定 され る こ と とに な り、 英 語 教 育 を別 の視 点 か ら論 ず る ことが 難 し くな って しま った 。
英 語 教 育 の 目的 は、 この枠 組 み に よ り益 々視 野 が狭 くな って い った と もいえ る。
そ れ ど ころ か、 「実 用 英 語 」 の社 会 的認 知 は、 英 語 へ の傾 倒 、熱 中 を さ らに促 進 した。 「英 語
を や る と得 を す る」 「英 語 は利 益 を もた らす」 と い う考 え が 急速 に広 が り、 英 会 話 ブ ー ムを い
や が うえ で も過 熱 させ た。
現 に 「教 養英 語 」 を標 榜 す る渡 部 昇 一 さ え も、 次 の よ うに英 語 の もた らす 利 益 を 肯 定 して い
る。
『わ れ わ れ が ヨ ー ロ ッパ 語 をや って 損 す るん じ ゃな い ん で す よ。 わ れ わ れ は得 を して い
る ん で、 日本 語 を や らな い 向 こ うが 損 して い る ん だ と い う認 識 を ひ とっ 持 って よ ろ し
い 。」(平 泉 ・渡 部 、1974、153頁)
これ は い わ ゆ る 「英 語 あ りが たが り信 仰 」(大 石、1990)と
いえ る。 一 種 の英 語 賛 美 で 、 英 語
肯 定 論 で あ る。
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問 題 は、 こ の英 語 肯 定 ・賛 美 論 に よ って 、 英 語 支 配 の現 実 とい う もの は見 え に く くな って し
ま う こ とで あ る。 っ ま り、 「教 養 か 、 実 用 か?」 と い っ た議 論 の枠 組 みで は、 どち らの意 見 に
立 って も、 英 語 賛 美 ・肯 定 論 に陥 っ て しま い、 そ の 結 果 、英 語 帝 国主 義 の犯 罪 性 は、 隠 れ て し
ま うの で あ る。 そ の点 で は、 平 泉 も、 渡 部 も英 語 支 配 へ の共 犯者 とい え るの で はな い だ ろ うか
(本 人 た ち は 自覚 して い るか ど うか は知 らな い が …)。
この 「英 語 教 育 大 論 争 」 が も た ら した も う一 つ の 影 響 は、英 語 教 育 界 内部 の権 力 構 造 の変 化
で あ ろ う。
「教 養 英 語 」 を 擁 立 して いた 学 者 た ち は、 英 米 文 学 や英 語 学 を専 門 と して い るが 、 明治 時代
以 来 、 日本 の 英 語 教 育 を 名 実 共 に牛 耳 って きた 。 一 方 「実 用 英 語 」 の認 知 に よ り、 「話 せ る英
語 」 を標 榜 す る応 用 言 語 学 、 英 語 教 育 学 の専 門 家 た ちが 台 頭 して 、 そ の勢 力 を着 実 に伸 ば し続
け て い るの で あ る。 そ して 、 英 語 教 育 の理 念 や 方 向 性 は、 これ ら 「実 用英 語 」 派 が先 導 す る傾
向 に あ り、 「教 養 英 語 」 派 は そ れ に協 調 、 呼 応 、 あ るい は、 そ の勢 力 維 持 の た あ に、 「実 用 」 派
以 上 に、 「実 用 」 的 な姿 勢 を示 す こ と もあ る。
近 年 、 「実 用 」 派 の台 頭 は著 し く、 「教 養 」 派 を凌 駕 す る勢 いで あ る。 さ らに、 国 際化 、 グ
ロー バ ル化 の流 れ を うけて 、 「話 せ る英 語 」 を 標 榜 す る 「実 用 」 派 、 す なわ ち、 応 用言 語 学 、
英 語 教 育 学 の学 者 が英 語 教 育 の 中心 的 存 在 に な りつ つ あ る。 それ が いか に精 神 の植 民 地 化 につ
な が って い る か は、 第4項
(3)英
語=国
目 で論 ず る。
際語 とい う言 説
英 語 を学 ぶ 理 由 と して最 も頻 繁 に あ げ られ る のが 、 「英 語 が 国 際語 だ か ら」 と い う も ので あ
ろ う。 学 ぶ 側 も、 教 え る側 も、 「英 語=国 際 語 」 と い う考 え は もはや 信 念 や 信 仰 に近 い もの に
な って い る。 た しか に、 様 々 な統 計 が、 英 語 が国 際 語 で あ る こと を証 明 して い るが 、 そ う した
客 観 的事 実 以 上 に、 私 た ち の頭 の中 に は 「英 語=国 際 語 」 が 染 み付 い て いて 、 そ の こ と 自体 が 、
「英 語=国
際語 」 を よ り一 層 強 め て い る とい え る。 特 に英 語 教 育 界 で は、 この 信 念 が 強 く、 そ
れ に よ り、 英 語 を学 ぶ こ と が必 然 的 な ことで あ る と い う意 識 が社 会 全 般 に広 が り、 そ の結 果 、
英 語 を絶 対 視 す る意 識 も形 成 さ れ る の で あ る。
この 「英 語 一国 際語 」 と い う認 識 を 「言 説 」 と い う概 念 で と らえ、 そ れが 権 力 化 して い く危
険性 を 、 オ ー ス トラ リア の言 語 学 者A.ペ
ニ ー ク ック は次 の よ うに説 明 して い る。
『言 説 と は、 社 会組 織 や慣 習 に埋 め込 まれ た 知 の体 系 で あ り、 知/権 力 の さ ま ざ ま な関
係 の 集 合 体 で あ る。 そ して、 そ れ らに よ り文 献 が組 織 さ れ、 さ ま ざ ま な主 観 的 立 場 が生
産 さ れ、 反 映 さ れ る の で あ る。
そ れ ゆ え、 国 際 語 と して の英 語 とい う言 説 は、 世 界 に お け る英 語 の位 置 を理 解 し表 明
す る特 定 の そ して支 配 的 な方 法 で あ る とみ な す こと が で き る。 っ ま りそ れ は、 言 語 学 者 、
応 用 言 語 学 者 、 英 語 教 育 者 た ち が、 ど ん な ふ うに 自分 た ち の仕 事 を見 な し、 実 行 し、 語
るの か とい う こと に影 響 を与 え る言 説 で あ る。』(Pennycook,1994,p.104、
筆 者 訳)
この言 説 の 影 響 を受 け た教 師 に よ り教 わ る の だ か ら、 生 徒 た ち もす ん な り と 「英 語=国
際語 」
を信 じ込 む で あ ろ う。 か く して、 英 語 教 育 の場 は、 「英 語=国 際 語 」 信 仰 を植 え付 け る場 とな
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第5章
英語教育と英語産業による精神の植民地化
る。 「国 際 語 と して の英 語 を学 ぶ こ と は、 自然 で、 中立 で、 そ して得 す る こ と なの だ 」 とい う
信 念 が 刷 り込 まれ るの が、 英 語教 育 の 場 で あ る。
これ に よ り、英 語 は益 々 権 威化 、 権 力 化 して しま う。 教 師 も生 徒 も英 語 を賛 美 して しま う。
同 時 に、 英 語 支配 の 問題 が 見 え に く くな って しま うので あ る。 あ る い は、 この よ うな言 説 の存
在 そ の もの が 、英 語 支配 の 一 部 を成 して い る と もいえ る。 「英 語=国
際語 とい う言 説 」 に よ り、
英 語 の 正 当 性 は高 め られ、 そ の結 果 、 私 た ち は、 英 語 を賛 美 し、 逆 に 日本語 を軽 ん ず る意 識 が
形 成 され るの で あ る。
(4)言
語 学 ・応 用 言 語 学 の実 証 主 義
上 の(2)で
論 じた よ う に 「実 用英 語 」 派 の台 頭 は、 す な わ ち応 用 言 語学 の 台頭 を意 味 す る
と こ ろ とな っ た。 こ こで は、 言 語学 ・応 用 言 語 学 の理 論 的 基 礎 が 、 いか に 「英 語=国
際語 の言
説 」 に荷 担 し、 精 神 の 植民 地 化 にっ な が って い るか にっ いて 論 ず る。
(3)で
紹 介 したA.ペ
ニ ー ク ッ ク は、 言 語 学 と応 用 言 語 学 の 言 語 観 を 次 の よ う に批 判 して
い る。
『英 語 の広 が りが、 自然 で、 中立 で 、 しか も恩 恵 の多 い も のだ と い う見 解 は、 言 語 学 と
応 用 言 語 学 にお け る実 証 主 義 と構 造 主 義 の支 配 に よ りあ らわ れ る。 な ぜ な ら、 これ らパ
ラ ダ イ ム は、 言 語 の 社 会 的 、 政 治 的 理 解 を行 わず に、 抽 象 的 な シ ステ ム と して の言 語 に
焦 点 を置 くこ とを 許 容 して きた か らで あ る。』(Pennycook,1994:141,筆
者 訳)
実 証 主 義 は、 観 察 可 能 で 数 量 化 す る こ とが 可 能 な もの のみ 存 在 し、 そ れ を 客観 的 に と らえ る
行 為 が 科 学 で あ る と信 ず る 自然 科 学 思 想 で あ る。 この視 点 で は、 部 分 を 特 定化 す る こ とが 重要
で あ り、 部 分 と部 分 の 相 関 関 係 に焦 点 が 置 か れ、 全 体 との関 係 性 を 軽 視 す る こ とに な る。 この
視 点 は、 そ れ ゆえ 、 社 会 的 現 実 と は切 断 さ れ た言 語 を対 象 とす る言 語 学 と応 用 言語 学 の 出 現 を
許 した の で あ る。
ペ ニ ー ク ッ クは ま た、 ソ シ ュー ル に始 ま る構 造 主 義 言 語学 は、 「構 造 と して の言 語 」 を 厳 密
に分 析 す る こ とに偏 り、 「言語 使 用 の実 態 」 を 見 落 と して い た こ と に よ り、 言 語 使 用 の文 化 的、
社 会 的 、 政 治 的文 脈 を除 外 して き た と批 判 して い る。
英 語 教 育 の基 礎 とな る言 語 学 と応 用 言 語 学 が、 客 観 性 と中立 性 と科 学 性 を 帯 び る にっ れ 、 言
語 は現 実 か ら遊 離 した抽 象 的存 在 とな り、 そ れ に っ れ て、 言 語 間 の支 配 の構 造 と い った 現 実 が 、
学 問 の視 野 か ら消 え て い った の で あ る。
科 学 主 義 は この よ うに現 実 の矛 盾 や問 題 に無 頓 着 に な る こ とに よ り、 そ の問 題 を 放 置 して お
くわ け だ か ら、 あ る種 の共 犯 関係 を生 み 出 して い る とい え る。
英 語 支 配 の 主犯 格 が英 語 国 だ とす る と、 そ れ に 呼応 す る非 英 語 国 は共 犯 格 と いえ る。 そ して 、
英 語 支 配 に無 頓着 な言 語 学 者 、 英 語 教 育 学 者 も英 語 支配 の共 犯 者 とい わ ざ る を え な い。
(5)英
語 教 育 の専 門化
英 語 の 地 球 的 拡 散 によ り、英 語 教 育 へ の 需 要 は地 球 的 規模 で高 ま り、 英 語 教 師 の世 界 的 組 織
もっ くられ る よ う にな った 。英 語 教 育 の学 会 も数 多 くっ くられ 、 い わ ゆ る英 語 教 育 の専 門 化 が
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進 ん だ。 大 学 院 で 言 語 学 、 応 用言 語 学 、英 語教 授 法 の専 門知 識 を身 に付 け、 英 語 教 育 に携 わ る
よ うに な って い る。
この英 語 教 育 の 「専 門 化 」 そ の もの が英 語 帝 国主 義 を 強化 す る もの だ、 と冒 頭 紹 介 したR.
フ ィ リップ ソ ンは指 摘 して い る。 い わ ゆ る専 門主 義 は、 英 語 中心 主 義 と同様 に英 語 帝 国 主 義 を
正 当化 して しま う もの だ と フ ィ リッ プ ソ ン は主 張 す る。 彼 は次 の よ うに い って い る。
『英 語 中 心 主 義 と専 門 主 義 は、 英 語 と他 の言 語 の間 に あ る構 造 的 、 文 化 的 不 平 等 に貢 献
す る行 動 や信 念 を正 当化 す る こ とに よ り、 英 語 の優 勢 を正 当化 して しま う。 英 語 教 育 に
関 す る専 門 的言 説 は文 化 を構 造 か ら切 り離 し、 言 語 教 育 方 法 の焦 点 を、 技 術 的 な問 題 、
つ ま り、 狭 い意 味 で の教 育 に 限定 して しま い、 社 会 、 経 済 、 政 治 問 題 を除 外 して しま う
ので あ る。』(Phillipson,1992:48,筆
者 訳)
この よ うに、 専 門家 集 団 と して の英 語 教 師 た ち は、 専 門主 義 を盾 に して 、 自分 達 の考 え方 を
正 当化 して い くの で あ った。
例 え ば、 フ ィ リップ ソ ンは、 英 語 教 師 た ち が専 門 家 と して 持 って い る以 下 の5つ の見 解 を、
専 門 主 義 に よ る 「ドグマ」(独 断 的 主 張)と
して批 判 して い る。
1.英
語 で 英 語 を教 え る の が最 良 の方 法 で あ る。(単 一 言 語主 義)
2.最
良 の英 語 教 師 は ネ イ テ ィブ ・ス ピー カ ーで あ る。
3.英
語 教 育 は早 期 で あ る ほ ど良 い。
4.教
え る量 が多 い ほ ど結 果 が 良 い。
5.他
の 言 語 が使 わ れ る と、 英 語 の質 が 落 ち る。
フ ィ リ ップ ソ ンは、 これ らの見 解 は、 専 門 家 の ドグ マ と な っ て い るが 、 これ らはす べ て 「誤 っ
た考 え 」 で あ る と断 言 して い る(Phillipson,1992,第7章
参 照)。
た とえ ば 「3.英 語 教 育 は早 期 で あ る ほ うが よ い」 と い う ドグ マ につ いて 、 フ ィ リ ップ ソ ン
は、 学 習 者 の年 齢 の みが 効 果 的 学 習 の原 因 に な る こ と は科 学 的 に証 明 不 可 能 で あ る、 と い って
い る。
最 近 、 文 部 省 は、 小 学 校 で の英 会 話 教 育 の実 施 を 提 案 した が 、 この 提 案 な ど さ しづ め この 専
門 家 の 「ドグ マ」 を そ の ま ま 「鵜 呑 み 」 に した もの で はな い だ ろ うか 。 子 供 に も、 親 に も、 教
師 に も、 新 た な負 担 を強 い るだ け の愚 劣 な 提 案 で しか な いの だ が 。
この よ う に、 英 語 教 育 の 専 門 化 は、 権 力 と結 び 付 き、 英 語 支 配 を 肯 定 し、 助 長 す る作 用 を し
て い るの で あ る。
狭 くて浅 い 言 語 観 、 定型 化 した 英 語 教 育 目的論 、 国 際 英 語 と い う言説 の権 力 性 、 実 証 主 義 と
構 造 主 義 言 語 学 の 没 政 治 性 、 そ して 、 英 語 教 育 の 専 門 化 。
どれ を と って み て も、英 語 を 学 ぶ 者 、 教 え る者 の 「言 語 的 主 体 性 」 を奪 い こそ す れ ぐ 育 て る
もの はな い 。 そ して 、 英語 支 配 へ の 無 関 心 や 追 随 を助 長 す る もの ば か りで あ る。 英 語 教育 にお
け る、 価 値 、 言 説 、 知 の体 系 は、支 配 の 構造 、 不 平 等 な どの 問 題 を 除外 す る こ とに よ って 、英
語 帝 国主 義 を 支 持 、 肯 定 す る装 置 とな って い る とい え る。
50
第5章
2.英
英語教育と英語産業による精神の植民地化
語 産 業 と精神 の 植民 地 化
学 校 で の英 語 教 育 が公 的 な強 制 力 を持 った 「表 の英 語 文 化 」 だ とす れ ば、 い わ ゆ る英 会 話 に
象 徴 され る英 語 文 化 は 「裏 の英 語 文 化 」 とい え るが 、 この 「裏 の英 語 文 化 」 の方 が、 英 語 産 業
と して 日本 の社 会 に広 くか つ深 く根 付 い て お り、 そ の影 響 力 も計 り知 れ な い もの が あ る。
こ こで は まず 第一 に、 英 語 産 業 に よ る さ ま ざ まな 種類 の英 語 と 日本 人 の 関係 にっ いて 紹 介 し、
さ らに、 これ らさま ざ ま な英 語 が精 神 の 植 民 地 化 に どの よ うに結 び付 い て い るの か を論 ず る。
(1)英
語 産 業:ゆ
り籠 か ら墓 場 まで
現 在 の 日本 人 と英 語 との 関係 を 改 め て 考 え て み る と、 日本 人 の 一 生 を 通 して、 英 語 と の付 き
合 いが あ る こ とが わ か る。 産 ま れ て ま もな くす る と、 「幼 児 ・児 童 英 会 話 」、学 校 に行 き始 め る
と 「受 験 英 語 」、 そ して、 「話 せ るよ う に な りた い」 と い う気 持 ちか ら 「英 会話 」 を始 め、 さ ら
に、 「ア メ リカ ・イ ギ リス へ留 学 」 し、 英 語 を マ ス タ ーす る に は言 葉 だ けで はな い と、 英 米 文
化 を学 ぶ た め の 「文化 ・教 養 英 語 」 も学 ぶ 。 い や教 養 よ り も 「資 格 」 が必 要 と、 「資格 英 語 」
に熱 中す る人 もい る。 果 て は年 を 取 って ボ ケ防 止 の た め に 「シル バ ー英 会 話 」 を や る人 もい る。
ま さ に、 「ゆ り籠 か ら墓 場 ま で」 英 語 と付 き合 って い るの が今 の 日本 人 とい え る。
この よ うに、 さ ま ざ まな 形 の英 語 が 商 品 化 さ れ市 場 化 され て い るが 、 これ ら多 様 な英 語 は、
次 の3種 類 に 区分 す る ことが で き る。
①
英会話
幼 児 ・児 童 英 会 話 、 シル バ ー英 会 話 、 一 般 的 英 会 話
②
本場英語
③
受 験 ・資格 英 語 一
英 米 文 化 ・マ ナ ー の学 習
受験英語、英語検定試験
これ ら3種 類 の英 語 文 化 は 日本 人 に どん な影 響 を与 え て い るの だ ろ うか?
(2)英
①
語 産 業 の拡 大
英 会 話 と精 神 の 植民 地 化
英 語 産 業 の 中心 は、 な ん とい って も 「英 会 話 」 で あ り、 町 中 に温 れ る英 会 話 学 校 が そ の こと
を 物 語 っ て い る。 英 会 話産 業 の総 売 上 は年 間3兆
円 に もの ぼ る とい わ れ て お り、 そ の規 模 の大
き さ を物 語 って い る。
英 会 話 の 問 題 点 を は じ め て 指 摘 した の が 、D.ラ
(1975年)で
ミ ス の 「イ デ オ ロ ギ ー と して の 英 会 話 」
あ る。 ラ ミス は、 英 会 話 は、 そ の 白人 崇 拝 に よ り、 人 種 差 別 的 で あ り、 ま た ア メ
リカ文 化 の普 遍 主 義 を肯 定 、 強 化 す る帝 国 主 義 的 な傾 向が 強 い と批 判 した。 さ ら に、 英 会 話 で
は、 資 本 主 義 的価 値 観 の伝 播 が 主 に な さ れ て い る点 も問題 で あ る と指 摘 した。 っ ま り、 英 会 話
は、 日本 が ア メ リカ に追 随 す る こと を肯 定 す るイ デ オ ロギ ー装 置 と な って い る こ とを 明 らか に
した。
ラ ミス の こ の指 摘 は今 で も十 分 通 用 す る もの で あ り、 彼 の指 摘 した 問題 は改 善 した と は いえ
ず 、逆 に 悪 化 した と さえ い え る。 この こ と は次 の2点 か らい え る。
51
第 一 に、 英 会 話 学 校 の 広 告 を分 析 して み る と、 白 人崇 拝 、 ア メ リカ へ の憧 れ、 ア メ リカ文 化
の普 遍 主 義 は以 前 と して 根 強 く表 現 され て お り、 そ の こ とは、 日本 人 の意 識 の 中 に そ の よ うな
価 値 観 が 根 強 くあ る こ とを示 して い る(津 田、1994年 参 照)。
第 二 に、1980年 代 以 降、 日本 で は会 社 名 、 官 公 庁 の組 織 名 に英 語 が 急 激 に使 わ れ は じめ た。
これ は、 社 会 の 国 際化 に乗 って、 「裏 の英 会 話 文 化 」 が表 に現 れ た こ と を意 味 し、 英 会 話 が 影
響 力 を 拡 張 して い る こ とを示 して い る。 これ は英 会 話 の影 響 に よ る い わ ゆ る 「英 語 病 」 と私 は
名 付 けて い る(津 田、1996年 、1997年)
この よ う に、 英 会 話 は、 日本 人 に英 語 や ア メ リカ へ の憧 れや コ ンプ レ ック ス を あ お る こ と に
よ り、 日本 人 を 「英 語 漬 け」 に し、 「英 語 病 」 を生 み 出 して い る。
②
本 場 英 語 と精 神 の植 民 地 化,
今 か ら数 年 前 に な るが 、 女 性 を 中 心 に 「イギ リス ・ブ ー ム」 が起 きた 。 同 じ頃、 『イギ リス
はお い しい 』 『イ ギ リス は愉 快 だ」 とい う本 が ベ ス ト ・セ ラー に な った。 私 は 「ま た か!」 と嘆
息 を っ い た 。 と い うの も、 この よ うな ブ ー ムを 成 り立 たせ る背景 に、 日本 人 の 欧 米 文 化 へ の 強
い憧 れ、 そ して 、 精 神 の植 民 地 化 を 感 じ るか らで あ る。
この よ うな ブ ー ムが 起 き る下 地 と して 、 日本 人 の 中 に、 「日本 は ま だ ま だ で、 や っぱ り本 場
は○ ○ ○ ○ だ 」(○ に は欧 米 の 国名 ・地 名 な どが は い る)と
い う神 話 的 認 識 が根 強 くあ る。 日
本 人 は欧 米 を偶 像 化 して い るの で あ る。 そ して偶 像 化 した 欧米 に傾 倒 し、 一 体 化 しよ う とす る
結 果 と して、 ブー ムが 起 き るの で あ る。
英 語 につ い て も全 く同 じこ とが い え る。 多 くの 日本 人 に と って、 日本 人 の話 す英 語 、 学 校 の
英 語 は、 本 当 の 「生 きた英 語 」 で は な い。 「や っぱ り英 語 は本 場 で な くち ゃな らな い」 の で あ
る。 そ して 、 「本 場 英 語 」 を求 あ て、 英 会 話 学 校 へ 、 そ して 、 英 語 の本 場 、 ア メ リカ、 イ ギ リ
ス、 オ ー ス トラ リア へ と留 学 す るの で あ る。
私 はな に も 「本 場 」 へ い く人 々 を非 難 して い る の で は な く、 人 々 を駆 り立 て て い る 「本 場 信
仰 」 を問 題 に して い るの で あ る。 そ の 問題 点 とは、 西 洋 文 化 が権 威 化 して い る こ とに対 して全
く何 の疑 念 も感 じず に、 そ れ に傾 倒 、 同一 化 して い る姿 勢 、 態 度 、 行 動 で あ る。 これ は支 配 者
と支 配 の構 造 へ の共 犯 行 為 で あ る。
知識 人 は、 こ の よ うな共 犯 行 為 に対 し、 異 議 を唱 え る の が仕 事 で あ る が、 日本 の 「知 識 人 」
「学 者 」 は、 この共 犯 行 為 の張 本 人 で あ る こ とが お お い。 あ らゆ る分 野 に渡 って、 日本 の 「知
識 人 」 「学 者 」 は 「本 場 」 に頼 って い る。 西 洋 か らの学 問 を輸 入 す る こ と で一 生 を終 えて い る
学 者 もい ま だ に少 なか らず い る ので あ る。
日本 人 の精 神 の 植 民 地 化 の 「責 」 を求 め る と した ら、 「知識 人 」 「学 者 」 にあ る とい え、 「本
場 信 仰 」 に 振 り回 され な い よ う に覚 醒 させ る知 識 人 、 学 者 が 少 な い の は なん と も歯 が ゆ い こ と
で あ る。
③
受 験 英 語 ・資 格 英 語
高 校 や 大 学 入 試 の た め の 「受 験英 語」 にっ いて は もう説 明 の必 要 が な いで あ ろ う。 英 語 は 中
学 校 か ら全 国民 に課 せ られ て い る し、英 語 を入 試 の科 目 に して い な い大 学 は ご くわ ず か で あ る。
多 くの人 々 に と って 、英 語 との 出会 い は この 「受 験 英 語 」 との 出会 いで あ る と いえ る。
52
第5章
英語教育と英語産業による精神の植民地化
そ して皮 肉 に も、 この 「受 験 英語 」 の拘 束 力 が あ ま りに も強 いが た め に、 そ の反 発 で 人 々 は
「英 会 話 」 に走 る の で あ る。 「学 校 英 語 」 「受 験 英 語 」 で人 々 は ただ の英 語 嫌 い に な る ので は な
く、 英 語 に触 れ た こ と に よ り、 実 際 英 語 を使 って み た くな る わ けで あ る。 そ の意 味 で は、 「受
験 英 語 」 と 「英 会話 」 は補 完 的 な 関係 にあ る。
最 近 の 新 た な 傾 向 と して 、 「資 格 英 語 」
実 用 英 語 検 定 、TOEFL,TOEIC等
が広 く
社 会 に根 差 した こ とで あ る。社 会人 にな って か らも、 企 業 は この 「資格 英 語 」 の受験 を 義 務 づ
け、 昇進 や昇 級 の参 考 にす るそ うで あ る。
これ は、英 語 が社 会 的 に強 制 され て い る事 態 が 拡 大 して い るば か りか 、 選 別 装 置 と して の英
語 の影響 力 が 広 が って い る こ とを意 味 して い る。 これ に よ り、外 国語 へ の 関心 は益 々英 語 へ一
極 集 中 して い る こ と は否定 出来 な い。
この よ う に、 英 語 は選 別 装 置 と して権 力 化 して い る。 そ して、 人 々 は 「受 験 英 語 」 「資格 英
語 」 の洗 礼 を受 け る中 で 、 無 意 識 的 に英 語 の権 威 に従 順 に な り、 英 語 を賛 美 し、 そ の文 化 や
人 々 へ の 憧 れ を募 らせ るの で あ る。
また 、 英語 の 出来 不 出来 で 日本 人 の人 生 が 大 き く左 右 され て い る とい って も過 言 で はな い。
同 じ左右 され るの な らば、 外 国語 で はな く、 自分 の 国 の言 葉 の 出来 不 出来 に よ る方 が 国民 は納
得 が い くの で はな い か。 この事 実 に対 して、 国民 か ら不 満 が 出 て い な い こ と 自体 が不 思 議 で あ
る。
結
び
以 上 見 て きた よ う に、英 語 教 育 と英 語 産 業 は 日本人 の精 神 の植 民 地 化 を生 み 出 す一 因 に な っ
て い る こ とが 明 らか にな った とい え る。
この よ う に い う と、 多 くの人 々 は、 そ れ は も と も とそ の よ うに思 って い る人 か ら見 た ら、 す
べ て が そ の よ う に見 え る もの だ、 と反 論 す るだ ろ う。
しか し、 論 文 の 冒 頭 に引 用 した 「精 神 の 植 民 地 化 」 の定 義 を もう一 度 引 用 して 見 よ う。 「言
葉 を使 う に当 た って、 英 語 とい う権 力 語 に傾 倒 ・同一 化 し、 母 語 ・自文 化 を軽 視 す る意 識 ・態
度 ・行 動 等」 とあ る。
英 語 教 育 と英語 産 業 に は この よ うな事 態 を生 み 出 す 土壌 が あ る こ とが わ か った し、 同 じ こ と
が、 今 の 日本 の社 会 の あ らゆ る分 野 で の 「英 語化 現 象 」
日常 会 話 の英 語化 等
企 業 名 の英 語 化 、 官 公 庁 の英 語 化 、
を み て も当 て はま る と いえ る。
「い や い や 日本 は古 来 か ら外 来 文 化 の 受 容 が う ま くて 、精 神 の 植 民 地 化 な ん て 考 え られ な い
し、 お お げ さで あ る。」 とさ らに反 論 す る人 も多 い と思 う。
日本 人 の国 民性 が も と も と外 来文 化 の受 容 が上 手 で あ った と考 え る の は誤 りで あ る。 今 まで 、
日本 が い わ ゆ る文 化 的 植民 地 にな らな か った の は、 個 々 の 時代 の努 力 や政 策 や計 画 が あ って の
こ とで あ る。 例 え ば 、 江戸 時代 の鎖 国 は意 図 的 な 文化 防衛 政 策 とい え る し、 明治 初 期 にお け る
大 量 の翻 訳語 の創 造 も 日本 の言 語 文 化 を守 る努 力 の行 為 で あ る。
ひ るが え って 、 現 在 は ど うだ ろ うか。 国 際 化 と グ ロ ーバ ル化 が凄 ま じい勢 い で進 行 す る中 、
53
イ ン タ ー ネ ッ トで 大 量 の 英 語 情 報 が 国 境 を 越 え て 乱 入 して い る 状 況 に お い て 、 私 た ち は、 私 た
ち の 言 語 と 文 化 の 主 体 性 を 保 持 す る有 効 な 政 策 、 計 画 、 戦 略 を 持 っ て い る だ ろ う か 。
権 力 語 に 対 す る意 識 的 な 抵 抗 、 異 議 申 し立 て を し な い 限 り は 、 私 た ち は
「精 神 の 植 民 地 化 」
に 甘 ん じ ざ る を 得 な い の で あ る。
参
大 石 俊 一(1990)『
津 田 幸 男(1994)「
考
文
献
英 語 イ デ オ ロ ギ ー を 問 う∼ 西 欧 精 神 と の 格 闘 』(開 文 社 出 版)。.
英 会 話 学 校 の 広 告 の 神 話 と イ デ オ ロ ギ ー ∼ 記 号 論 的 解 読 の 試 み 」 『国 際 開 発 研 究
フ ォ ー ラ ム 』(第1号)(175-193頁)。
津 田 幸 男(1996)「
目 に あ ま る 日本 の
「英 語 病 」」 朝 日 新 聞
「論 壇 」12月27日
号。
津 田 幸 男(1997)`"Anglomania'muddiesJapan'sself-image"AsahiEveningNews.January23.
平 泉 渉 ・渡 部 昇 一(1975)『
英 語 教 育 大 論 争 』(文 芸 春 秋)。
Phillipson,R.(1992)LinguisticImperialism.OxfordUniversityPress.
Pennycook,A.(1994)CulturalPoliticsofEnglishasanInternationalLanguage.Longman.
ダ グ ラ ス ・ ラ ミス(1975)「
59
イ デ オ ロ ギ ー と して の 英 会 話 」 『展 望 』(斉 藤 靖 子 訳)2月
号 。
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