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ブレーキの安全機構 - 国民生活センター

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ブレーキの安全機構 - 国民生活センター
生活知識情報
第
8回
くるま
自動車やバイク、自転車をはじ
めとするさまざまな乗り物のし
くみや法律、周辺知識などを分
かりやすく解説します。
なんでも教室
相川 潔 Aikawa Kiyoshi
くるま総合研究会
(KSK)
代表
2006年KSKを設立。元株式会社JAF Mate社技術映像部部長。
乗り物に関する幅広い知識を持ち、全国各地で講演や実習、
車両の事故や火災の原因究明などを行っている。
ブレーキの安全機構
今月号はブレーキの安全機構やコンピュー
に分けたX(エックス)配管方式を採用していま
ター制御システムについて解説します。
す(図1)
。比較的軽量なFR車では、前輪2輪
と後輪2輪を独立させた前後配管方式も用いら
油圧を伝える配管
れています(図2)
。
ブレーキペダルを踏んで発生した力(油圧)は
万一、液漏れが生じても片方は働くので、ブ
車の床下を通る細い金属製のパイプやゴムホース
レーキ力が弱くなり停止距離は長くなるもの
を通って各車輪のブレーキ装置に伝えられます。
の、まったく利かなくなることは避けられます。
昔の車は発生した油圧が同じ経路の配管です
コンピュータ制御のブレーキ
べてのブレーキ装置に伝わっていたため、どこ
かで漏れが生じるとブレーキがまったく利かな
車に搭載されたコンピューターが制御するブ
くなる危険がありました。こうした危険を防ぐ
レーキ装置もいくつかあります。
ため、現在の車では油圧経路を2系統に分けて
⑴ ABS(Anti-lock Brake System)
います。
ブレーキを強く踏んでしまってもタイヤが
現在の主流であるFF車
(前部にエンジンがあ
ロックしてしまう危険性を防ぐシステムです。
り前輪を駆動する方式)や重量のあるFR車(前
ブレーキペダルを強く踏むとブレーキが効き
部にエンジンがあり後輪を駆動する方式)は、
「右
すぎてタイヤの回転が止まるタイヤロックが起
前輪と左後輪」と「左前輪と右後輪」の2系統
き、速度が高いと「キー」というような音がして、
タイヤから煙が上がります。後輪がロックする
とスピンしたり、前輪がロックするとハンドル
が利かなくなり危険です。ブレーキが最もよく
図1
ブレーキX配管
図2
FF車や重量のあるFR車
ペダルを強く
踏み続ける
利くのは、
タイヤがロックされる寸前なのです。
ブレーキ前後配管
そこで、タイヤの回転が一瞬ロックされるとコ
比較的軽量なFR車
ンピューターが自動でブレーキの油圧を緩めて
タイヤのロックを
タイヤの回転を
感知して
感知して
ブレーキ力を弱める ブレーキ力を強める
ブレーキ力を弱め、タイヤが回転を始めると油
圧を高めてブレーキ力を強め、再びタイヤの回
転が一瞬ロックするとブレーキの油圧を緩めて
一瞬ロック
回転が回復
ブレーキ力を弱めるという動作を、素早く自動
一瞬ロック
的に繰り返すようにします。このブレーキシス
テムがABSです(図3)
。
これが素早く繰り返され、最適のブレーキになる
図3
ABSが作動すると聞きなれない音がしたり、
ABSの概念
ブレーキペダルに小刻みな振動が伝わりますが、
タイヤの回転が完全に止まらないように制御する。
2014.4
国民 生 活
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生活知識情報
びっくりせずにペダルをしっかりと踏み続ける
人が乗る車では、特に効果があります。
ことが大切です。
ただし、乗車人員が少なく荷物がないときで
ABSは高速道路で急ブレーキをかけても車の
も、後輪ブレーキには、後輪タイヤがロックし
姿勢が乱れないようにすることが本来の働きで
ない程度のブレーキしか利かせません。
す。停止距離が短くなるといわれますが、路面の
* BASは、法令により新型車は2012年10月1日(軽自動車は2014
年10月1日)、継続生産車については2014年10月1日(軽自動車
は2018年2月24日)からすべての車に標準装備となる。
状況や低速度では逆に長くなることもあります。
また、急ブレーキをかけているときでもハン
タイヤがロック
してしまうと、
ハンドル操作
が利かず障害
物に衝突
ドル操作ができるので、障害物を回避できると
いわれます。しかし、当然、通常走行時よりは、
ハンドルの切れも悪くなります。特に高速では
タイヤがロックしなけ
れば、ハンドル操作が
ある程度利き障害物を
回避
思うように車をコントロールできません(図4、
5)
。また、ハンドルを切ってから急ブレーキを
かけると、ABSの効果はなくスピンすることが
あり危険です。テストコースでは他の交通がな
いので障害物を回避できるとしても、一般の交
通の中ではむやみにハンドルを切って障害物を
回避しようとすると、他の車などと衝突する危
険があります。
⑵ ABSとセットになったブレーキシステム
図4
ABSなしのイメージ
図5
急ブレーキを踏んでから
ハンドルを操作しても
車の向きは変わらない。
*は、
①BAS(Brake Assistance System)
急ブレーキをしたときに運転者のブレーキを踏
む力を補助する装置で、ABSと併用される緊
ABS作動のイメージ
急ブレーキを踏んでも
ハンドル操作はある程
度利く。
踏力が弱くても大きな制動力がでる
急ブレーキシステムのことをいいます。
急ブレーキのとき、ABSが利く(タイヤをロッ
クする)ほど強くブレーキを踏めない人が多い
という実態から開発されたシステムです。
急ブレーキを踏むときは、たいていの人はブ
レーキペダルの踏み込み速度が速くなります。
図6
こうした状態を車が感知して、自動的に強力
ブレーキアシストの概念
急ブレーキを車が感知して強力なブレーキが利くシステム
なブレーキを利かせて停止距離が延びるのを防
ぐ装置です(図6)。
② EBD(E�ectr�nic
E�ectr�nic Brake ��rce Distri���
ti�n:電子制御制動力配分装置)は、ABSに付
軽積載荷重に見合った後輪ブレーキ力なので軽積載時はどちらも変わらない
➡
➡
荷重が大きくなっても
荷重が大きくなると
後輪のブレーキ力は固定配分なので
後輪のブレーキ力を大きくして
停止距離が延びる
停止距離の延びを抑える
加されるもので、前後輪の回転数や旋回状態か
ら、ブレーキを踏んだときの制動力を車輪に対
して最適に制御配分します。
EBDは、荷重が大きくなると自動的に後輪の
タイヤがロックしない程度までブレーキ力を大
きくして、停止距離が長くなるのをある程度抑
図7
EBDのイメージ
荷重に応じて後輪のブレーキ力を変化させ、重くなっても停
止距離の延びを防ぐ。
えます(図7)
。ワゴン車などのように大勢の
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