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電動油圧ブレーキ用ボールねじ駆動モジュール
*06_03 13/11/01 10:42 ページ 1 NTN TECHNICAL REVIEW No.81(2013) [ 製品紹介 ] 電動油圧ブレーキ用ボールねじ駆動モジュール Ball Screw Drive Module for Electric Hydraulic Brake 川 口 隼 人* Hayato KAWAGUCHI 数 野 恵 介* Keisuke KAZUNO 近年,低燃費化およびCO2排出量削減の要求から,ハイブリッド車,電気自動車の普及が 進んでいる.これらの車両には航続距離の延伸,即ち,電費向上のため回生協調ブレーキ システムが採用されている. NTNは回生協調ブレーキシステムに用いられる電動油圧ブレーキに適用する軽量,コンパ クトなボールねじ駆動モジュールを開発したので,本モジュールの特長を紹介する. Recently, EV and Hybrid Vehicle percentage is getting higher at the automotive market main caused by the low fuel consumption requirement and CO2 emission reduction requirement. Those vehicles have the regenerative braking system, in order to obtain the vehicle running range expansion and the highest electric efficiency. NTN have developed the compact lightweight ball screw drive module for regeneration cooperative brake system. This report introduces the development result and the typical feature for it. るためには,回生ブレーキを最大限作動させる必要が 1. はじめに あり,刻々と変化する必要制動力に瞬時に追従できる よう,回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御が重要 ハイブリッド車,電気自動車の回生ブレーキシステ となる. ムでは,制動時に駆動用モータを発電機として利用し, 運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する.し NTNは,回生協調ブレーキシステム用として,油圧 かし,モータの回転抵抗による制動力だけでは運転者 ブレーキを瞬時かつ任意に制御可能な,高レスポンス, が意図する十分な制動力が得られないため,図1斜線 高推力,小型軽量な「電動油圧ブレーキ用ボールねじ 部に示す不足分の制動力を油圧ブレーキにより補う必 駆動モジュール」を開発した. 要がある.できるだけ多くの電気エネルギーを回収す 2. 電動油圧ブレーキの構成 制 動 力 回生協調ブレーキシステムに用いられる電動油圧ブ ドライバの要求制動力 レーキの構成を図2に示す.各車輪キャリパに油圧が 油圧による制動力 送られる仕組みは以下の通りである. ドライバがブレーキペダルを踏み込むと,ペダル操 作量がECUに送信される.その信号と車両速度など モータによる制動力 (回生ブレーキ) の車両の走行情報から,ECUはドライバが要求する 制動力と発生可能な回生ブレーキ力を勘案し,不足す 制動開始 る制動力を発生させるために必要な油圧発生量を算出 停止 する.ECUはこの算出結果に基づき,DCモータを駆 図1 回生協調ブレーキシステム Regenerative brake system 動する.DCモータによりボールねじ駆動モジュール **自動車事業本部 シャシー技術部 -36- *06_03 13/11/01 10:42 ページ 2 電動油圧ブレーキ用ボールねじ駆動モジュール が作動し,油圧シリンダのピストンを押して適切な油 IN 圧を発生さ,各車輪キャリパで制動力を発生させる. ボールねじ駆動モジュールを採用することで要求に アルミケース ボルト DC モータ回転トルク 応じた細やかな制御が可能となり,制動開始時と終了 アイドラギヤ ボールねじ 時に回生効率が低下する領域でも多くのエネルギーが アウトプットギヤ 回生できる. スリーブ ドライバ DC モータ ブレーキペダル 操作量 ECU 液圧ブレーキ力 ボールねじ 駆動モジュール OUT 回生ブレーキ力 推力発生 (油圧シリンダを押す) インバータ 支持軸受 キャリパ 油圧シリンダ キャリパ 図3 ボールねじ駆動モジュール断面構造 Cross section structure of ball screw drive module モータ アイドラギヤ+シェル型ニードル軸受 支持軸受 図2 電動油圧ブレーキの構成 Constitution of electric hydraulic brake 3. ボールねじ駆動モジュールの特長 3. 1 小型・軽量のシンプル設計 ボールねじ駆動モジュールは,小型・軽量化するた め,図3に示す部品点数の少ないシンプルな構造とし た. サイドワッシャ DCモータの回転トルクを減速機用ギヤ列を介して 図4 アイドラギヤ構造 Idle gear structure ボールねじナットに伝達し,ボールねじ軸を直線運動 させる. 主要な構成部品は,ボールねじ,それを支持する軸 受,ボールねじの回転止めであるスリーブ,モータか 内径にシェル形ニードル軸受を圧入し,フリクション らの回転トルクを伝達する減速用ギヤ列,アルミケー ロスを低減した. アルミケース合わせ部は,液体ガスケットでシール スハウジングである. ボールねじ駆動モジュールは,DCモータの回転ト した.弾性皮膜,粘着性の薄膜を形成する液体ガスケ ルクを軸方向推力に変換するための根幹部品であるボ ットの採用により,接合部の弾性変形にも追従し,高 ールねじとそれを支持する軸受はもちろんのこと,焼 い気密性の確保を可能とした. 結部材など,NTNが保有する独自技術を結集したモジ 3. 2 長寿命,高強度,耐環境性仕様 ュール商品である. (1)ボールねじの長寿命,高推力化 各部の詳細構造を以下に説明する. 減速用アイドラギヤ部詳細を図4に示す.支持軸に ボールねじの長寿命化には,軸径,ボールサイズお アイドラギヤユニットを挿入し,両サイドにワッシャ よびボール数の増加による高負荷容量化が考えられ を配置した.アイドラギヤユニットは,アイドラギヤ る.一方,モータの回転トルクを軸方向推力にボール -37- *06_03 13/11/01 10:42 ページ 3 NTN TECHNICAL REVIEW No.81(2013) (2)アルミケースの高強度化 ねじで変換するとき,リードは小さいほど高推力化で きる.しかし,通常の設計によるボールねじにリード ボールねじ駆動モジュールのケースは,アルミダイ を超えるボールサイズを適用すると,隣り合う溝のボ カスト品を採用している.ダイカスト製造法の長所は, ール同士が接触してしまうためボールねじの機能が成 薄肉品の鋳造が可能で寸法精度が高い点や,サイクル 立しない. タイムが短く量産性に優れる点,急冷凝固に伴う組織 そこで,こま式循環の特長“1周せずにこま部に引 の微細化および表層へのチル層(内部密度が高い層) き込まれる”に着目し,リードを超えるボールサイズ の形成により材料強度が高い点である. が適用可能な長寿命ボールねじを開発し,本モジュー ボールねじ駆動モジュールのアルミケースの強度 ルに採用した.図5に従来設計と長寿命設計品の概略 は,事前にFEM解析し,アルミケース最弱部の最大 図を示す. 応力を確認した上で最適肉厚を選定し,十分な安全率 従来設計と長寿命設計のボールねじ諸元比較を表1 を確保した. に示す.ボールサイズを大きくし,ねじ溝諸元を最適 (3)耐環境性 化した結果,ナット全長,外径,リードを大きくする ことなく,負荷容量を従来比約2倍とし,コンパクト ボールねじ駆動モジュールは,自動車重要部品であ で,長寿命,高推力なボールねじの開発に成功した. るブレーキシステムに採用されるため,様々な環境下 耐久性確認のため,-30℃の低温から110℃の高温 で,長期間の性能維持が要求される.車外に露出して の雰囲気下,所定荷重を負荷した状態でボールねじ軸 いるため,高温放置,湿度放置,塩水噴霧の耐環境性 を往復運動させる試験をおこなった. を評価した. 試験完了後にボールねじ駆動モジュールの性能確 試験完了後にボールねじ駆動モジュールの性能確 認,分解調査をおこなった結果,効率,気密性など試 認,分解調査をおこなった結果,全ての試験で,機能 験前後で大きな変化はなく,機能を満足した.ボール に問題となる劣化や寸法変化はなく,十分な耐環境性 ねじ,ギヤなど全ての部品において異常はなく,十分 があることを確認した. な耐久性があることを確認した. 図6に塩水噴霧試験後のケース合わせ部の様子を示 す.塩水噴霧試験では,アルミケースのシール面より 内側に腐食の侵入がないことを確認した. 従来設計 長寿命設計 高温没水試験では,高温に放置したボールねじ駆動 ボールサイズ アップ モジュールを水没させた後,アルミケースのシール面 より内側に浸水がないことを確認した. ケース合わせ面 リード リード 図5 長寿命ボールねじ概略図 Schematic of long life ball screw ケース内部に 腐食なし 液体ガスケット 表1 ボールねじ緒元比較 Ball screw specifications comparison 諸 元 長寿命設計 従来設計 軸径 [mm] 16 リード [mm] 4 ボール径 [/従来設計] 1 1.33 動定格荷重 Ca [/従来設計] 1 2.06 静定格荷重 Coa [/従来設計] 1 2.06 図6 塩水噴霧試験後のケース合わせ部 Aluminum case after cyclic corrosion test -38- *06_03 13/11/01 10:42 ページ 4 電動油圧ブレーキ用ボールねじ駆動モジュール 4. おわりに 本稿では電動油圧ブレーキに採用されたボールねじ 駆動モジュールを紹介した. 自動車のバイワイヤ化,電動化が進む中,小型・軽 量なボールねじ駆動モジュールは,今後更なる市場拡 大が期待される. NTNは本開発により,ボールねじを主体としたモジ ュール商品の自動車の重要部品への適用に成功した. 今後更にモジュール商品の軽量化,および機能向上を 図るため,ボールねじ単体の技術開発に留まらず,ケ ースや減速機,モータといった周辺部品の技術開発・ 改良に取り組む所存である. 参考文献 1)数野,他:VEL用ボールねじユニット,NTN TECHNICAL REVIEW No.75(2007)72~77 2)社団法人 日本アルミニウム協会 アルミニウムハ ンドブック(第7版) 執筆者近影 川口 隼人 数野 恵介 自動車事業本部 シャシー技術部 自動車事業本部 シャシー技術部 -39-