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電気自動車における全電気ブレーキシステムの協調制御特性
Cooperative Control Characteristics of Full Electric Braking System for Electric Vehicles
精密工学専攻
1. 緒言
21 号
後藤 淳一
Junichi Goto
各輪にモータと電動ブレーキが取り付けられており,各輪
のブレーキ力はそれぞれ独立に制御される構造である.
2.1.1 回生ブレーキ
り,これらを解決する次世代の自動車として電気自動車(EV)
回生ブレーキはモータ
が注目されている.EV の特徴として回生ブレーキの技術に
の誘起電圧を利用したブ
より,高精度,高応答なブレーキ力の発生,及びエネルギー
レーキで,高精度,高応
回収が可能といった利点が挙げられる.
答なブレーキ性能と同時
Regenerative brake torque
近年,地球温暖化を始めとする環境・エネルギー問題によ
り,低燃費車や電動技術応用車への市場ニーズが高まってお
Low speed area
Field weakening area
また自動車機器においても更なる高性能,高効率化が要求
に,制動エネルギーを回
されるようになり,エレクトロニクス技術を活かした電動化
収できるという利点を持
が進められている.ステアリングやブレーキ,アクセルが完
っている.Fig.2 は回生ブ
全に電子制御化されることで,これまでの個別制御から統合
レーキの最大トルク特性
制御化への流れが加速し,安全性や快適性の向上が期待でき
であるが,低速域では誘起電圧の低下により,また高速域で
る(1).ブレーキ分野においても従来の油圧システムに代わり,
はモータの弱め界磁制御の影響により最大ブレーキトルク
サーボモータでブレーキパッドを押し付ける電動ブレーキ
が制限される.そのため不足分のブレーキトルクを補う装置
の研究開発が行われている(2)(3).しかしコストと電動部の信
が必要となる.
頼性に課題があり,実用化には至ってない.
2.1.2 電動ブレーキ
Vehicle speed
Fig.2 Characteristic of
electric brake torque
このような背景から本研究室では将来のブレーキシステム
本研究の特徴として,電気ブレーキトルクの不足を補うた
として回生ブレーキと電動ブレーキを併用した全電気ブレ
めに,ウェッジ機構を備えた電動ブレーキを導入している
ーキシステムを提案しており,その基本構想と摩擦係数等の
(2)(3)
パラメータ変動に対する制御手法を検討してきた
(4)(5)
.Fig.3 に概要図,Fig.4 にモデル図を示す.電動ブレーキ
.しか
は従来の油圧による駆動をサーボモータに置き換えること
しシミュレーション上では可能しているブレーキトルクの
で,高精度,高応答な押し付け力の制御を可能としたブレー
検出や,協調制御における問題点はシミュレーションの域を
キ装置である.またウェッジの巻き込みにより,トルクの自
脱せず実機による検討は行われていない.
己増幅機能を発生させることができ,電力消費を少なくする
そこで本研究では,車両慣性を模擬した実験システムを試
ことができる.
Servo motor
作し,全電気ブレーキシステムの特徴を活かした新たな制御
システムを提案し,実験検討を行う.また電動ブレーキのパ
ラメータ変動に対する効果を検討する.
Brake pad
Brake disc
Servo
Motor
motor
τ MSM
T
Brake pad
Brake
disc
Disc
f
FSM
M
2. 全電気ブレーキシステム
Roller
screw
Screw
XxWW
Wedge
Wedge
2.1 全体構成
fFBB
Abutment
Ff BB
Ff NN
Fig.1に全電気ブレーキシステムの全体構成を示す.
Tire
Motor , Inverter
Brake disc
Wedge
brake
α
Caliper
Brake
force
Pedal
unit
fFAA
Brake
force
Fig.3 Configuration of wedge brake
KCAL
Fig.4 Model of wedge brake
パッドとブレーキディスクが接触した位置をウェッジ位置
Controller
xwの原点とする.ここでウェッジ角α,キャリパ剛性 KCAL,
Battery
Brake
force
Control signal
Brake
force
Power supply line
Fig.1 The configuration of full electric brake system
ブレーキパッドとディスクの摩擦係数をμB,ブレーキ有効
半径を rB するとブレーキトルクτB は式(3)で表せる.
τ W (t ) = 2µ B rB K CAL xW (t ) tan α
(1)
2.2 制御方式の問題点
Fig. 5 に従来方式であるオープンループ方式のブロック線
Interface Circuit
for electromech.
motor
Electromech.
motor drive r
図を示す.オープンループ方式では回生ブレーキがその状況
での最大トルクを出力し,不足分を電動ブレーキが補う構成
Powe r inve rter
circuit
Microcomputer
となっている.最もシンプルで回生ブレーキを最大限利用で
Interface Circuit
for Power inverter
きるためエネルギー効率がよいが,トルクフィードバックを
行っていないため,電動ブレーキにパラメータ変動が生じた
Fig.7 Circuit department of brake simulated experiment
場合に正確にブレーキトルクを制御できないという問題が
Table 1 Experimental parameters
ある.
torque
Brake Torque
command
Command
+ -
Regenerative
brake torque
Brake
Torque Total
Motor
brake
Brake
torque
+ Torque
Wedge
brake
Brake
+
kg・m2
Experiment Inertia
0.0201
Gear Ratio
Vehicle
speed
Speed
Vehicle
dynamics
Dynamics
9
Maximum Motor Torque
Friction
brake Torque
torque
Brake
Fig.5 Open loop brake system using wedge brake
しかし運動エネルギーを回収できる回生ブレーキと,従来
の油圧より高応答,高精度な電動ブレーキを組み合わせるこ
Nm
3.64
Maximum Motor Speed rpm
3000
Torque Constant N・m/A
0.119
Encorder Specification
4000
ppr
とで,エネルギーをできるだけ回収しつつ,所望の制動距離で
車体を確実に停止させるブレーキ制御が期待できる.この制
そこで本研究では回生ブレーキと電動ブレーキの協調制御
の検討を行うために実験システムを試作し,回生ブレーキを
UP
RB
御は将来の自律運転システムにも適用できると考えている.
RM
VBc
-
Br
車のブレーキ性能(ブレーキトルク)の 1/50 を基準として模
擬したものであり,機械部は約 1050mm,幅 250mm,高さ
350mm の大きさとなる.構成は主に機械部と回路部に分け
られる.機械部は駆動,電気ブレーキ用モータ部,車両模擬
部,電動ブレーキ部から構成される.
3.2 駆動,回生ブレーキ用モータ,車両模擬部
駆動及び回生ブレーキ用モータは 200W DC サーボモータ
を使用した.モータの仕様と機械部のパラメータを Table 1
に示す.なお慣性モーメント等のパラメータは,すべてモー
タ軸換算で表記する.
3.2.1 回生ブレーキの概要
電力変換回路部分は三菱電機製 ASIPM を使用し,三相イン
バータの二相分のみを使用して H 型ブリッジを構成してい
る.回生ブレーキ時の H 型ブリッジ回路の動作を Fig.8 に示
VBc
+
VN
LM
VP
EM
- +
Br
UN
VN
(b) VN OFF
Fig.8 Circuit operation of regenerative brake
す.なお,本研究では消費電力,バッテリ量によるトルクの
制限などの検討は行わないため,バッテリの代わりに安定化
電源を使用し,回生電流はブレーキ抵抗で消費させる.
回生ブレーキは電源がモータ誘起電圧に置き換わった昇圧
コンバータの一種とみなすことができる.VN が ON の時,
モータの誘起電圧によって短絡電流が流れ,インダクタンス
に電気エネルギーを蓄えると共に制動作動を行う(Fig.8 (a)).
そして VN を OFF にするとインダクタンスに蓄えられた電気
エネルギーがバッテリ(ブレーキ抵抗)に返還(回生)され,引
き続き制動トルクが働くことになる(Fig.8 (b)).
3.2.2 回生ブレーキの特性
回生ブレーキは電流制御によりブレーキトルクを制御する.
本実験システムの回生ブレーキの電流応答波形を Fig.9 に示
す.各電流とも次第に電流値が低下している.これはモータ
回転速度が低下することでモータ誘起電圧が低下し,インダ
クタンスに十分な電気エネルギーを蓄えることができない
ためである.
6
5
Motor current
Electromech.
Motor for
Motor for driving
Equivalent inertia
brake
Electromech. brake
& regenerative brake Weight of vehicle Reduction gear
iM
UP
RM
(a) VN ON
A
試作した実験システムの写真を Fig.6, 7 に示す.装置は実
RB
iM
る新たな制御システムを実験検討する.
3.1 全体構成
LM
UN
最大限利用し,指定する制動距離内に車体を確実に停止させ
3. 実験システム
VP
EM
4
3
2
1
0
0
2
4
6
8
10
-1
-2
-3
Fig.6 Machinery department of brake simulated
Time s
Fig.9 Response of current control for regenerative
上記式より減速度αが大きければ大きいほど、制動距離は
3.3 電動ブレーキ
電動ブレーキは未だ製品化はされておらず既存のものを応
用することができないため,自ら設計を行った.作成した電
短くなる.これより制動距離を制御するためには,減速度を
制御すればよい.
動ブレーキを Fig.10 に示す.
Fig. 13 は今回提案する加速度制御系である.制動距離指令
電動ブレーキはブレーキ
SB*をα*に変換した後,加速度を制御する.コントローラは
Caliper
パッドを位置制御すること
でブレーキトルクを制御す
PI 補償とし,PI ゲインはブレーキトルクを一次遅れ系と仮定
Roller scre w
して設計した.加速度はエンコーダからの速度信号を微分し,
Brake disk
Braking distance
command
SB ∗ (s )
一次のローパスフィルタを介して得る.
る.制御系のブロック線図
を Fig.11 に示す.ブレーキ
トルク指令を変換係数 KB
により位置指令に変換する.
Motor for
Electromech.
brake
KB の値は実験的に求められ,
KB=5.04 である.
Deceleration
command
α ∗ (s)
Command
transform
+
-
Regenerative
brake
K pa s + K ia
s
+
Travel
resistance
TL (s)
+
+
+
-
-
1
Js
Vehicle speed
ΩW (s )
Wedge
brake
Deceleration α (s )
Fig.10 Electromechanical brake
ブレーキパッドはサーボ
Total
brake torque
T (s )
Brake torque
command
T ∗ (s )
s
Ts + 1
Fig.13 Acceleration control system
モータのモータ電流,角速度,回転角のフィードバック信号
を用いた多重ループ制御によって位置制御する.各制御系は
PI 補償によって制御する.
Brake torque
command
τW ∗
KB
Wedge position
command
∗
XW
Wedge position
Control system
5. 実験検討
Disturbance torque τ D
Wedge
position X
W
Brake
torque
τW
Wedge brake
dynamics
製作した実験システムにおいて,全電気ブレーキシステム
の加速度制御による実験検討を行った.
4.1 実験条件
Dead band
実際の自動車において,乾いたアスファルトでは 6.86m/s2
Fig. 11 Position control system for electromechanical brake
が急ブレーキ,2.94m/s2 が通常ブレーキとなる.本実験では
3.4 制御装置
Fig. 12 に制御装置の構成を示す.制御装置の回路は駆動,
車両模擬部の半径 r=0.1m であるので,3.92m/s2(=39.2rad/s2),
電気ブレーキ用モータと電動ブレーキ用モータでそれぞれ
2.94m/s2(=29.2rad/s2),1.92m/s2(=19.6rad/s2)について実験を行
分離されており,マイコン同士が同期動作を行う構成である.
う.初速度は 1000rpm とし,記録開始から 2 秒後に加速度制
制御方法は駆動,
Motor for
Driving &
electric brake
Encoder
回生ブレーキ用モー
タは速度制御と電流
制御,電動ブレーキ用
モータは市販のドラ
イバで電流制御をす
るため,電動ブレーキ
Electromechanical
brake
本としている.また 4
章で提案する加速度
Interface circuit
Current (Brake)
command
Microcomputer
制御は回生ブレーキ
用マイコンで演算す
Feedback
signal’s
験値を Table 2 に示す.また速度応答波形を Fig. 14 に,加速
Encoder
pulse
Motor current
Current
command voltage
制御と位置制御を基
13.7rad/s2 である.
各加速度指令に対する,制動距離と停止時間の理論値と実
Motor
current
Dedicated driver
用マイコンでは速度
減速度は 11.8rad/s2,電動ブレーキが出力できる最大減速度は
4.2 ステップ状加速度指令による検討
Motor for
electromechanical
brake
Position pulse
御による制動を行う.但し,ブレーキを使用せず惰性による
PWM
度波形と回生ブレーキ電流波形を Fig.15 ~Fig.17 に,電動ブ
レーキのブレーキパッドの位置を Fig. 18 示す.
Power inverter circuit
Current
voltage
Interface circuit
PWM (Brake)
command
Table 2 Experimental result
Feedback
signal’s
theoretical value
experimental value
braking distance rad stop time s braking distance rad stop time s
Microcomputer
Acceleration
command
Fig.12 Configuration of control system
る.
39.2rad/s2
29.2rad/s2
19.6rad/s2
139.8
187.7
279.6
2.67
3.59
5.34
174.9
207.1
276.5
3.31
4.42
5.38
1200
4. 加速度制御
ある距離で必ず停止させるということは,制動距離を制御
することである.制動距離は一般的に(1)式,停止時間 TB[s]
は(2)で表すことができる.但し SB は制動距離[m],V0 は初
速度[m/s],αは平均減速度[m/s2]である.
2
V0
2α
V0
TB =
α
SB =
Velocity rpm
1000
800
600
400
200
(2)
α =39.2rad/s2
0
(3)
29.2rad/s 2
19.6rad/s 2
0
-200
2
4
6
Time s
Fig.14 Velocity response of acceleration control
8
6
A
5
Motor current
80
4
4.2 パラメータ変動がある場合の検討
Deceleration rad/s2
60
40
20
次に電動ブレーキの変換係数 KB に誤差を与えた場合につ
3
2
いて検討する.変換係数 KB に―10%,―20%の誤差を与えた
1
0
0
0
2
4
6
0
8
2
4
6
8
-1
-20
-2
-3
-40
Time s
(a) Deceleration
場合の加速度制御における速度応答を Fig.19 に示す.
但し,
減速度指令は 19.6rad/s2 である.
Time s
(b) Motor current
1000
2
Fig.15 Response of acceleration control (39.2 rad/s )
Velocity rpm
800
6
A
5
Motor current
80
4
Deceleration rad/s2
60
40
20
3
2
1
0
2
4
6
0
8
400
200
0
0
600
2
4
6
8
-1
-20
-2
-40
0
-3
Time s
Time s
(a) Deceleration
0
(b) Motor current
-200
Fig.16 Response of acceleration control (29.2 rad/s2)
4
6
8
Time s
Fig.19 Velocity response of acceleration control include error
Fig.19 より変換係数 KB に大きな誤差が生じても応答に影
80
20
A
40
5
Motor current
6
60
Deceleration rad/s2
2
4
0
0
2
4
6
響しないことがわかる.これは変換係数 KB の誤差が加速度
制御系の内側ループにあるため,加速度コントローラが補償
3
2
することで減速度に影響がでないと考えられる.
1
0
8
0
2
4
6
8
-1
-20
-2
-40
-3
Time s
Time s
(a) Deceleration
(b) Motor current
Fig.17 Response of acceleration control (19.6 rad/s2)
Brake pad position
rad
6
6. 結言
回生ブレーキと電動ブレーキの協調制御検討について以下
の結果を得た.
(1) 電動ブレーキを専用設計し,車両慣性を模擬した全電気
5
α =39.2rad/s2
ブレーキシステムの実験システムを試作した.各ブレー
4
α =19.6rad/s2
α =29.2rad/s2
キの基本特性を明らかにした.
3
(2) 回生ブレーキを最大限利用する加速度制御系を構成し,
2
減速度を制御することで指定する制動距離内に確実に
停止させることを実験によって実証した.
1
今後の課題として,ブレーキ力をより出力できる電動ブレ
0
0
1
2
3
4
Time s
Fig.18 Brake pad position of acceleration control
ーキの設計を行う.また乗り心地やタイヤ-路面間のスリッ
プ等を考慮した制御システムの検討を行う.
Table 2 より,α=39.2rad/s2,29.2rad/s2 では制動距離,停止
時間ともに長くなっている.これは Fig.15,Fig. 16 で明らか
なとおり回生ブレーキトルクの減少と共に所望の減速度が
得られていないためである.減速度が減少する原因として,
ブレーキ開始直後は回生ブレーキのみ,または回生ブレーキ
と電動ブレーキで所望のブレーキトルクを得ることができ
参考文献
(1) 小川計介 他, ステアリング,ブレーキで進む X-by-Wire
への道, 日経 Automotive Technology, 日経 BP 社, 東京
(2007.4) pp.74-93.
るが,それ以降からはモータ回転速度の低下による誘起電圧
(2) Richard Roberts, et al., Modeling and Control of a Single
の低下によって回生ブレーキトルクが減少するため,不足分
Motor Electronic Wedge Brake, SAE Technical Papers,
を電動ブレーキが補う.しかし電動ブレーキが出力できる最
Document Number 2007-01-0866 (2007)
大減速度よりも不足分の方が大きいため,総ブレーキトルク
が不足し,結果的に減速度が得られないためだと考えられる.
2
(3) M. Semsch, New mechatronic part disc brake, Advanced
Brake Technology, SAE Book R-352, (2003) pp.205-227
α=19.6rad/s では Fig. 17 より,回生ブレーキのトルク不足分
(4) Sakamoto T., Hirukawa K., Ohmae T., Cooperative Control
を電動ブレーキトルクが補っているため,所望の減速度を得
of Full Electric Braking System With Independently Driven
られることができ,理論値とほぼ同じ実験結果となる.
Four Wheels, IEEE Advanced Motion Control 2006, Part2
Fig. 18 より,回生ブレーキのみで十分減速度を得られる場
(2006.3) pp. 602-606.
合でも,電動ブレーキの立ち上がり時にブレーキパッドがデ
(5) 比留川国朗,電気自動車における回生ブレーキと電動ブ
ィスク接触面(3.7rad)を超えている.これによって余計なブレ
レーキの協調制御システム,中央大学大学院修士論文
ーキトルクが発生するので,改善する必要がある.
(2006)
Fly UP