Comments
Description
Transcript
小学校における電子黒板の活用に関する研究
小学校における電子黒板の活用に関する研究 -教科学習等の発表・討論場面における実践例- 研究の概要 本研究は,小学校の教科学習,特別活動等における発表・討論の場面で電子黒板等を活用すること で,児童のコミュニケーションが活発になり,学習の充実を図ることができるという実践事例を示し, 県内小学校のICTを活用した学習の充実を促すことを目的としたものである。 キーワード 電子黒板 小学校 ICT活用 Ⅰ 主題設定の理由 1 学習指導要領から 小学校学習指導要領の総則「第4 発表・討論 デジタル教材 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」には次のような 記述がある。 「各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣 れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活 用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教 育機器などの教材・教具の適切な活用を図る」 この総則以外にも随所に,学習指導におけるICT(Information and Communication Technology= コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報コミュニケーション技術)の活用が例示されている。 国語においては言語の学習で,社会では資料の収集・活用,算数では数量や図形の学習といったよう に,コンピュータ等情報手段の適切な活用の必要性が明確に規定された。 このように,学習指導要領に沿った学習活動を行っていくためには,教室にICTの環境を整備し, それを各教科の学習において教員や子どもたちが活用することが欠かせない。また,教員がICTを特 別なものと考えず,従来の指導方法の選択肢の一つに加えた上で,どのような情報をどのように提示 するかを考え,活用していくことが大切である。 2 ICT活用の必要性 文部科学省は平成22年10月に,学習指導要領が円滑かつ確実に実施されるよう『教育の情報化の手 引』を作成した。情報教育や教科指導におけるICT活用についての具体的な進め方とともに,それら の実現に必要な教員のICT活用指導力の向上と,学校におけるICT環境整備等について詳細に解説して いる。 また,内閣に設置されているIT戦略本部より,平成21年7月に『i-Japan戦略2015』が発表された。 2015年までに実現すべきデジタル社会の将来像と実現に向けた戦略が描かれているが,教育・人材分 野の目標を「授業でのデジタル技術の活用等を推進し,子どもの学習意欲や学力,情報活用能力の向 上」とし,教員のICT活用指導力の向上や電子黒板等のデジタル機器を用いた分かりやすい授業の実 現等を方策として掲げている。 これまでに発表された文部科学省委託事業である『教育の情報化の推進に資する研究(ICTを活用 した指導の効果の調査)』『電子黒板の活用により得られる学習効果等に関する調査研究』の報告か らも,ICTを活用した学習指導をすることは,児童・生徒の興味・関心が高まり,課題を明確につか - 1 - むことができ理解が深まる等,子どもたちの学力向上に効果があることが明らかとなっている。これ らのことからも,全ての教員が,学習指導におけるICTの活用を不可欠なものと考え,授業を構想し, 実践していく力を高めながら,日常的にICTを活用する授業スタイルを構築していくことが必要であ るといえる。 3 調査結果からみる県内教員,学校の実態から ICTを活用した教育を推進するためには,ハード面の整備とあわせて教員のICT活用指導力の向上が 欠かせない。平成23年8月に文部科学省が速報値をまとめた『平成22年度 学校における教育の情報 化の実態等に関する調査結果』によると,山梨県の教員の平均値は「授業中にICTを活用して指導す る」では62.5%「児童・生徒のICT活用を指導する」では64%が「わりにできる」若しくは「ややで きる」と回答している。どちらも前年度から数値を伸ばし,全国平均をやや上回っている。 同調査の電子黒板整備状況を見ると,全国では小学校の75.8%,中学校の69.1%の学校で設置され ている。しかし,平成23年3月に山梨県教育委員会が発表した調査結果によると,県内では小学校の 47%,中学校の38%にとどまっている。年々増加傾向にはあるが,所有校の約8割が学校に一台のみ の導入であり,デジタルのコンテンツや教材も不足しているため,日常的に活用している学校や学級 はまだ少ないのが現状である。 山梨県総合教育センターの情報教育部で,平 成23年8月に電子黒板・デジタル大型TV(以下 図1 電子黒板等の利用頻度 図2 電子黒板等の活用で感じる課題 図3 電子黒板等の活用で必要な情報 電子黒板等と記す)の活用について調べるため, 無作為抽出した県内小中学校教諭312人にアンケ ート調査を行った。これによると,9割近く(2 69人)の教員が電子黒板等が学校にあると答え たが,週に2回以上利用しているのはそのうち のわずか13%(36人)であり,全く使用してい ないと答えた教員は63%(170人)いた(図1)。 また,電子黒板等を活用していく上で感じる 課題としては図2のとおりである。台数が少な いため各教室ではなく空き教室等に置かれ,使 おうと思っても設定や移動が大変なため使われ ていない,という現状が伺える。台数やコンテ ンツの不足に伴う活用経験の少なさも影響して いるように思われる。 電子黒板を活用していく上で必要な情報とし ては「授業での活用方法,実践例」という回答 が最も多かった(図3)。台数の不足という根本 的な問題もあるが,授業のどの場面でどう活用 するかという課題を多くの教員が抱えている。 電子黒板等の普及は今後一層進んでいくと思 われるため,これらの課題に対する答えを示す ことでより多くの教員が様々な場面で活用して いくことになると考え,本研究主題を設定した。 - 2 - Ⅱ 研究の基本的な考え方 1 電子黒板,大型デジタルTVの活用 現在,電子黒板は様々なメーカーが製造・販売しており,その機能や操作方法については千差万別 である。本研究では電子黒板を「コンピュータと接続し,指またはタッチペンを使い画面上で直接書 き込んだり操作ができたりする大型のディスプレイ」と捉え,特に以下の機能を授業の中で活用して いきたい。 (1)大きく表示,直接操作 ・教科書やノート等を大きく表示したり,考えさせたい部分を隠しておいたりすることができる。 ・表示している内容の一部分を拡大・縮小,移動,回転などの操作ができる。 (2)書き込み ・写真や映像など,画面に書き込みができる。 ・ペンの色や太さが思いのままに変えられ,やり直しが簡単にできる。 (3)記録・保存 ・提示した画面,書き込んだ内容を簡単に記録・保存できる。 ・保存した画面は簡単に呼び出すことができ,前時の振り返りや児童・生徒の考えを比較するとき に利用できる。 また,電子黒板はないが,50インチ程度のデジタルTVが数台導入されているという学校もある。本 研究が電子黒板やデジタル教科書がないから役に立たない,活用できないということにならないよう, デジタルTVの環境でも効果が期待できるようなものにしたい。 現代の子どもたちは,生まれた時からインターネットやパソコンのある生活環境の中で育ち親しん でいる世代で「デジタルネイティブ」と呼ばれている。電子黒板の導入により,児童はこれまで以上 に授業に集中し,さまざまな学習効果が出ることが期待できる。教員以上に早く操作法をマスターし, 使いこなしているという多くの報告もある。授業の中で児童が操作し,発表や話合い,討論を行うた めのツールとして活用できるような場面を考えていきたい。 2 発表・討論場面での活用 小学校学習指導要領では,児童に「生きる力」を育むことを目指し,思考力・判断力・表現力等を 育成するために基礎的・基本的な知識及び技能を習得させ,観察・実験やレポートの作成,論述など 知識・技能を活用する学習活動を充実するとともに,各教科の指導に当たって記録,説明,批評,論 述,討論などの言語活動の充実を図ることを挙げている。 木原(2011)は,活用型の学力を充実させるためのICTの果たす役割として「発表や討論のサポー ト」「思考・判断の精錬を促す」「思考の材料の豊富化」等を挙げている。言語活動における発表や 討論の場面においてICTを用いることで効果が上がるのは,大人も同様であろう。一般的に大人に比 べプレゼンテーション能力が低く語彙量も少ないと言われる児童にとって,電子黒板等を使いながら の発表は伝えたいことが整理され,自分の考えを説明しやすくなり,相手への説得力も増すことが期 待できる。 小学校では担任がほとんどの教科の学習指導を担当しており,教科間の連携を取りながら言語活動 やコミュニケーションの能力の充実を図っていきやすいといえる。教科学習や特別活動等における発 表や討論,話合いの場面において電子黒板を効果的に用いることで,発表や討論が活発になりコミュ ニケーションが増加し,学習の充実が図れることを示したい。 3 コミュニケーションの活発化 多くの研究や実践例で明らかになっているが,授業中に電子黒板を活用することで児童の顔が上が - 3 - り,視線が集中するという効果が上げられている。顔が上がることで,各教科で教員が説明している 教科書や資料の場所を全員で確実に共有することができる。どこを学習するのかすぐに分かったり, 大切なところがイメージしやすくなったりすることで,学習の理解が深まることにもつながる。また, 児童が自分の考えを発表するときに電子黒板があると,自分の考えのよりどころとなる資料や画像, ノート等を簡単に見せることができる。従来は発表のために模造紙や画用紙に大きな字や図でまとめ ていた資料作成の準備時間が短縮され,発表やプレゼンテーションの準備,討論の時間や質問を受け る時間を確保することができる。 このように,電子黒板を活用することで教員と児童間,教材と児童間,さらに児童相互のコミュニ ケーションや対話を向上させるためのプラットフォームとしての役割が期待できる。一人一人の発表 が分かりやすいものになれば全体のレベルも上がり,プレゼンテーション能力も高まるであろう。発 表が苦手な児童にとっても,みんなの前で発表するという活動が楽しいものになる,ということにも つながるのではないかと考えられる。 4 コンテンツ(教材),周辺機器について 電子黒板を授業に活用していく場合は,コンテンツ(教材)及び,実物投影機といった周辺機器の 役割が大きい。本研究では自作のコンテンツも使用するが,デジタル教科書会社,周辺機器メーカー の協力を得て,市販のデジタル教科書や指導用ソフト,周辺機器の活用を図っていきたい。 周辺機器については,一例として次のような使い方が考えられる。 ・実物投影機で教科書や資料,児童の作品,細かい手先の動き等,小さなものを大きく見せる機能。 ・デジタルカメラで撮影した静止画や動画を大画面で映す機能。 ・スキャナで児童のワークシートやプリント(紙媒体)をPCに取り込む機能。 電子黒板を含め,県内の教職員が「複雑で,準備に手間がかかり,使いづらい」というイメージか ら, 「簡単で,短い時間で準備でき,使いやすい」と思えるような実践例について研究していきたい。 それぞれの教員が学校や教室の環境でできそうなことを考え,スタートするきっかけになることを期 待したい。 Ⅲ 研究のねらい 小学校の教科学習,特別活動等における発表・討論の場面で電子黒板等を活用することで,児童の コミュニケーションが活発になり,学習の充実を図ることができるという実践事例を示し,県内小学 校のICTを活用した学習の充実を促す。 Ⅳ 研究の方法と内容 1 研究の方法 以下に示すとおりの手順で研究を進める。 (1)指導計画の作成 ア これまでに各研究機関等から公表されている電子黒板等の活用に関する研究や資料を収集し, 吟味する。 イ 協力校児童の実態を把握し,研究の方向性,ねらいを決定する。 ウ 指導計画の試案を作成し,それをもとに使用する教材,学習指導案,ワークシートを作成する。 (2)電子黒板等を活用した授業の実践 ア 対象学年:小学校4年生 イ 授業実施時期:平成23年11月~ - 4 - ウ 実践の方法:ねらいを達成するため,教科(国語・社会・算数),特別活動等で実践を行う。 (3)検証 ア 学習活動の際の児童の反応,ワークシートの記述,授業者・授業観察者の意見,授業後の実態 調査から,電子黒板等の活用がねらいを達成するために有効であったかどうかを確かめる。 イ 活用方法の改善及び普及のため,授業実施後に教材や資料の改善,指導方法の工夫,電子黒板 等の活用場面について見直しを行い,研究の成果を教育センターのホームページに掲載する。 2 研究の内容 教科学習および特別活動等においての「電子黒板活用事例集」を作成し,研究協力校で約1ヶ月の 実践を行った。また,小学校の中学年において電子黒板等に映して授業で活用できるコンテンツや資 料が収録されているホームページのデータを収集し,各機関に許諾を得てリンク集を作成した。 (1)国語 実践教材 「アップとルーズで伝える」 期待される ・教員の指示が伝わり課題が把握しやすくなる。課題の焦点化,共有化ができるようになる。 効果 ・教員の説明,板書時間が短縮される。 ・児童の説明,話合いの時間が増加する。児童相互の学び合いが活発化する。 ・発表の補助,児童の説明,話合いの時間が増加する。 ・前時までのふりかえりが効果的に行われる。 活用事例1 デジタル教科書の活用 教員が主体 ○上巻で学習した説明文教材を開き,類似している学習内容について想起させる。(第1時他) となる活用 ・「動いて,考えて,また動く」の写真や絵と文章との対応について。 ・自分の考えを強く相手に印象付けたいときに,その段落を文章のどこに置くか。 ・考えを述べるだけでなく,それを裏付ける事例やそう考える理由が他段落に書かれていること。 ○挿絵の活用 ・教科書4枚の写真を大きく写し,どの段落で説明しているか考えさせる(第2,3,5,6時) ・必要に応じて「ツール」→「ペン」で書き込みをする。 ・「挿絵」モードからカラー印刷し,黒板に貼る写真として活用する。 ○デジタル教科書で漢字の復習(毎時) 図4 漢字練習 ・実物投影機で漢字ドリルや教科書を映す。 ・代表が前に出て,電子黒板に映る漢字を指でなぞる。 ・実際の筆順を確かめながら,指でなぞる。 ○「ツール」→「ここから読む」で範読を行う。(毎時) 児童が主体 ○児童相互のコミュニケーションの場としての活用(毎時) となる活用 ・課題について「教科書ビュー」と「本文ビュー」を切り替えながら,小集団での話合いに活用 する。 ・早く終わった児童が必要に応じて電子黒板の前に集まり,課題について話合いを行う。 ○「上手な説明のしかた」を考え,発表するときの補助として活用(第2,3,4,7時) - 5 - ・その日に学習した部分で見付けた「上手な説明のしかた」をノートに書く。 ・「教科書ビュー」「本文ビュー」を表示し,マーカーでラインを引きながら話す。 ○読み取った部分に線を引きながら発表する。(毎時) ・「教科書ビュー」「本文ビュー」を表示し,マーカーでラインを引きながら話す。 ・「○段落に□□と書いてあるけれど,△だと思った。」と,自分の考えを発表するときに活用す る。 ・できることに赤,できないことに青,と色分けしてラインを引く。 活用事例2 実物投影機・スキャナの活用 ○自分の考え方を説明するときに,ノートやワークシート,教科書を映し(スキャナでPDF化し), 拡大提示したものを見せながら発表する。 ○残しておきたい,比較したい,複数を続けて見せたい児童の考えは,教員が「カメラ」ボタン を押し,SDカードに記録しておく。 ○授業が終わった後, 「カメラ」ボタンで板書を撮影し,SDカードに記録しておく。次時に見せ, 確認や復習をする。 ○児童が音読をしている様子を映し,自分たちがよい姿勢で読めているのかを確認させる。 その他の ○DVDの視聴 活用事例 ・NHKティーチャーズライブラリー「体験!メディアのABCアップとルーズ(15分)」(第8時) (2)社会 実践教材 わたしたちの県のまちづくり 学習の ・地図を使い県の位置,47都道府県の名称と位置を調べ,都道府県の位置関係を方位で表現する。 ねらい ・県について,知っていることや地図帳などで調べたことを白地図にまとめ,これまでの学習で 分かったことを発表し合う。 ・地図を活用して,県内における自分たちの市の地理的位置を八方位で表したり,県の形や土地 の様子を調べたりする。 ・等高線による土地の高さの表し方を調べ,地図を活用したり実際に地形図をつくったりして, 県の地形の特色を読み取る。 ・地図などの資料から県の主な産業とその分布,交通の広がりを調べ,特色を話し合う。 期待される ・大きな画面で綺麗な映像,画像を見せることで,イメージをつかみやすくする。 効果 ・児童の発表の補助,話合いが活発化する。児童相互のコミュニケーションが向上する。 ・記録したデータを再利用する。 活用事例 ○山梨県に関わる各種地図を大きく映す。 ・県の白地図,市町村名入り地図,地形図,鳥瞰図,農業図 ○山梨県の特色が分かるホームページ上の画像を映す。 ・写真で見る山梨のようす(帝国書院HP) - 6 - ・ぐるっと山梨市(山梨市観光協会) ・富士の国やまなし観光ネット「MAPでわかる!山梨県」「フォトギャラリー」 (自然景観,富士山・富士五湖,花・フルーツ,紅葉,ワイン,文化・歴史,温泉,体験,観光 施設,特産品,祭り・花火などに関わり,多くの写真を見ることができる。) ○NHK「見えるぞ!ニッポン」山梨県の放送を視聴する。 ・「見えるぞ!ニッポン」→「ばんぐみ」→「第21回 山梨県〈ぶどう〉」15分。 ・「見えるぞ!ニッポン」→「クリップ」→「ぶどう」と「ほうとう」の1分程の動画。 ○「Googleマップ,(Google Earth)」の活用。 ・「航空写真」「地図」で,小学校,市,県等のようすを見る。 ○作成資料をデジタル化し発表時に活用する。 ○イラストマップを作成する。 ・自分たちの買い物や旅行体験,親戚・知人との交流などから想起しまとめていく。 ・作成したマップをスキャナで取り込む。 ・順番に電子黒板に映し,発表をする。必要に応じて拡大機能,ペン入力を行う。 ○ワークシートやノートを実物投影機で映して発表する。→記録 図5 47都道府県 ○47都道府県の名称,位置の学習 ○帝国書院HP「都道府県のすがた」でマウスを当てると都道府県 名が表示される ○デジタル教科書(帝国書院 地図帳) ・「カルタ」「神経衰弱」「フラッシュカードクイズ」の活用 ・可能なら,児童が自由に電子黒板上で使えるようにしたい。 ○フラッシュ型教材(47都道府県)の活用 (3)算数 実践教材 分数をくわしく調べよう 期待される ・教員の指示が伝わり,課題把握の向上,課題の焦点化,共有化ができる。 効果 ・教員の説明,板書時間が短縮する。児童の説明,話合いの時間が増加する。 ・児童が考え方を説明するときの補助となる。児童相互の教え合いが活発化する。 ・実物や板書したコンテンツよりも操作しやすい。児童の電子黒板を操作する力が向上する。 活用事例1 デジタル教科書の活用 ○教科書「~を説明しましょう。」の場面で,その課題を拡大提示する。説明するときは電子黒 板の横に立ち考えを発表する。 ○教科書と同じ課題を電子黒板に提示し,課題解決のために児童が電子黒板の近くに集まり話合 いを行う。 ○児童が自分の考え方を説明するときに,ノートやワークシート,教科書を映し,拡大提示しな がら発表する。 第3時:仮分数(9/4)を帯分数になおす方法を発表し合う。 第5時:大きさの等しい分数の見付け方,つくり方を発表し合う。 - 7 - 第6時:帯分数の加法計算のしかたを発表し合う。 活用事例2 実物投影機の活用 ○残しておきたい,比較したい,複数を続けて見せたい児童の考えを教員が「カメラ」ボタンを 押し,SDカードに記録しておく。 ○授業が終わった後,「カメラ」ボタンで板書を撮影し,SDカードに記録しておく。次時以降に 見せ,確認や復習をする。 ○適用問題の答え合わせを行う際,教科書やノートを映し,拡大提示しながら発表する。 その他の活 算数ソフト「スクールプレゼンター」の活用。 用事例 ・コンテンツ1:第3時(仮分数を帯分数になおす)で活用。 図6 真分数のたし算 ・コンテンツ2:第5時(大きさの等しい分数)で活用。 ○「PowerPoint」により作成したアニメーション教材 ・コンテンツ1:第6時(真分数のたし算) ○フラッシュ型教材(授業の初め,朝・帰りの会等で1分程度) ・仮分数から帯分数への変換,帯分数から真分数への変換。 ・何分の何? (4)その他の活用 ア スピーチでの活用(画像を電子黒板で見せながら話す) ○ねらい:発表・プレゼンテーションの能力の向上。討論の活発化。児童の電子黒板操作能力の向上。 ・児童は話したいテーマに関わり,必要な材料を準備しておく。 ・実践テーマ 「わたしの宝物」…事前にデジタルカメラで撮影しておく(家に持ち帰る必要) 「本の紹介」…実物投影機で本を映し,よさやおすすめする理由を紹介する 「心に残った新聞記事」…興味をもった記事を選び,実物投影機で映す。内容を分かりやすく伝え,記事に関す る簡単なコメント,感想を述べる。 ※質問や感想を伝える時間を取る。発表者は必要に応じてペン,拡大機能等を用いる。 イ 「PowerPoint」でフラッシュ型教材(4年生用)を作成し,授業の導入等で用いる。 ○ねらい:児童の電子黒板操作能力の向上,変化に富んだ繰り返し学習による,興味・関心および理解の向上。 (1)社会「47都道府県」…画面に映った都道府県の名称,県庁所在地等を答える。 (2)算数「分数」仮分数←→帯分数の変換 図7 ※全員で,列や班ごとで,一人ずつでなど,変化をつけて行う。 ウ NHK for School(NHKデジタル教材)の活用 ・番組の視聴,「クリップ」(数十秒単位の動画)の視聴 ・「きょうざい・ゲーム」の利用 - 8 - 分数の変換 (5)電子黒板活用リンク集の作成 図8 作成したリンク集 研究に関わって,小学校の中学年を中心に電子黒板等で活用できるホー ムページのデータについて収集し,3つのカテゴリーに分けてリンク集を 作成した(図8)。 ア 児童自身が操作したり,視聴したりできるコンテンツ。 イ 教員が授業において紹介できる教育機関,官公庁のページ。 ウ 授業の準備段階にデータや資料の収集,印刷ができるページ。 山梨県総合教育センターのホームページにアップロードし,教員が利用 できるようにする予定である。 Ⅴ 研究の結果と考察 1 検証授業の結果から 電子黒板を中心としたICT活用場面を入れることで授業中の発表や討論がさらに充実したものにな ることを目標とし,国語の時間に検証授業を行った。 (1)教材名「アップとルーズで伝える」(光村図書四下) (2)本時の目標 写真と文章の対応関係を読み取り,「アップ」と「ルーズ」の長所と短所(できること,できないこ と)や,第6段落までの段落相互の関係をつかむことができる。 (3)電子黒板を中心としたICT活用場面 ア 教科書のページを提示し,児童にとって理解しやすくする。 イ ペンで色分けして線を引き,視覚的に整理する。 ウ 発表場面で,書かれている(根拠となる)部分を映し,説明の補助として活用する。 エ 実物投影機で児童が書いたノート,ワークシートを映しながら,考えを発表する。 オ 段落短冊を操作し,段落相互の関係をつかみやすくする。 (4)準備 ・デジタル教科書 ・教科書の写真を印刷 ・ワークシート ・dbookPROにより作成した段落短冊 (5)展開 主な学習活動 10 1 既習漢字の復習をする。 分 2 本時の課題をつかむ。 アップとルーズではどんな違い があるのか考え,6段落までを 留意点(※),評価規準(□) ICTの活用 ※漢字の読みについて,テンポよく指書 ・デジタル教科書「新出 きを行う。 漢字」で練習する。 ※前時の学習を生かしていけるよう助言 をする。 読み取ろう。 20 3 ④~⑥を読む。 ・デジタル教科書「ここ 分 ・一度目はデジタル教科書の範読, ※一度目は画面に集中させる。 二度目は各自で読む。 4 アップとルーズの違いを読み 取る。 から読む」で④~⑥ を流す。 ※ワークシートを配り,記入させていく。 ※二枚の写真を見比べ考えるよう助言す - 9 - ・アップが④,ルーズが⑤に書か れていることをおさえる。 ・二枚の写真との対応をおさえる。 (1)アップで分かることと分か らないことを文章にサイドライ ンを引いて考える。 (2)アップのワークシートに記 入し,全体で確かめる。 (3)⑤についても,④と同様に 文章にラインを引き,ワークシ ートにまとめる。 5 る。 ※分かることに赤線,分からないことに は青線を引かせる(板書)。 □写真と文章を対応させる説明のしかた を読み取っているか。 ※ラインを引いた部分を発表し合い,掲 ・児童の発表に合わせ, 教科書ビューで色分 けし,ラインを引い ていく。 示の写真と照らし合わせて確認させる。 ※ワークシートには丸写しではなく,ポ イントを記入することを伝える。 ※記入したことを発表し合い,掲示の写 真と照らし合わせて確認させる。 見つけた長所,短所について ※「しかし」「でも」という接続語に着目 対話し,アップとルーズの違い し,それぞれの前に長所,後に短所が をまとめる。 書かれていることに気付かせる。 ・ワークシートを電子黒 板に拡大提示し,記 入のしかた等の指示 をする。 ・早く終わった児童のノ ートを実物投影機で 映し,記入のしかた を確かめる。 ・必要に応じ該当場面を 映す。 15 6 四~六段落の関係を読み取る。 ※アップの長所がルーズの短所になって 分 ・考えを発表する(理由も)。 いることに気付かせる。 ※「対比」ということばを説明し理解さ せる。 ・dbookPROにより作成し たシートで段落の関 係を操作しながら考 える。 □対比しながら述べる説明のしかたをと らえ,段落相互の関係を理解している。 ※「このように」という指示語のまとめ る役割を確認し,⑥が④と⑤をまとめ ていることをとらえられるようにする。 ※1~3と同じ関係になっていること, 3段落の問いかけの答えになっている ことをおさえる。 授業では黒板と電子黒板の効果的な併用を考慮した。黒板にはこれまでの板書と全く同様に,1時 間の流れやポイントが分かるようなものを書き,電子黒板には児童が持っている教科書と同じページ を中心に,ワークシートや段落関係図等,焦点化させたりインパクトをもたせたりしたいものを映す ようにした。実践を開始して約2週間の時期だったが,児童は大変意欲的に学習に取り組み,電子黒 板の前に立ち,映されたページや画像を根拠に自分の考えを発表したり,学習活動6では実際に操作 をしながら,段落相互の関係を考えて話合いを行ったりした。 2 授業観察者の評価から 検証授業を研究協力員,教育センターの情報教育部員,協力校の教員が参観した。さらに情報教育 を専門とする山梨大学の成田雅博准教授をお招きし,指導助言をいただいた。授業後の研究協議会で - 10 - は,本研究に関わってさまざまな意見が出された。1時間の授業を見ただけでは判断できないことも 多いが,発表・討論場面に活用することで効果があるということについては一致していた。さらに, その後の授業実践にも役立つ意見が多く出された。 (1)授業における電子黒板を中心としたICTの有効な活用に関わって ・教科書の本文にラインを引く課題は,児童が電子黒板で確かめられ,安心して学習をしていた。黒 板ではできない(時間や手間が大変かかる)活動だった。 ・残すことは黒板に書いたり貼ったりし,電子黒板との使い 分けが効果的になされていた。 ・全てを電子黒板に頼らないで,サブモニター的に扱うべき だ。黒板にずっと書いておくことで1時間の流れやねらい が分かる。電子黒板はピンポイントで使うとよい。そう考 えると今回の授業はいい流れであり,バランスよく感じた。 ・筆順のアニメーションに合わせて指書きをしていたが,漢字の習得に効果が高いのではないか。 ・教材の提示装置として使っていたが,教員の補助的教具として大変効果的だと感じた。 ・児童も教師も自然な扱いをしている。無理に使わずに,いいところだけ使うという段階でいいと思 う。 ・現時点ではデジタル教科書は副教材の扱いである。全てを使うのでなく主は教科書で教え,ポイン ト,効果的なところだけを使う必要がある。 ・アンダーラインを引くところは時間がかかるので今回の使い方は有効だった。水色の紙にペンで書 いたことで,そのまま残ることになり電子黒板とのバランスが取れていた。 (2)電子黒板の活用による発表・討論場面の充実,コミュニケーションの活発化に関わって ・電子黒板を使うことでそれが媒介となり,効果的に話合いが行 われていた。 ・児童が直接電子黒板を操作する場面が多くなるため,その活用 能力の獲得が前提となる。そのために普段からの日常的な活用 が大切だと思う。 ・「どちらがいいか?」という問いに対し,児童が電子黒板に映 った文字や画像を示しながら,理由を明確にし伝えることがで きていた。 ・発表を聞く側も,電子黒板で示しながらの発表はより伝わりやすいのではないか。 (3)その他 ・電子黒板の活用に振り回されずテンポのよい授業展開であった。 ・デジタルネイティブ世代の児童は,本時の学習に意欲的に参加 していた。小学校においては,ICTの日常的な活用が必要不可 欠だと感じた。 ・電子黒板をどこに設置するのか,説明するときの教員や児童の 立ち位置,教室全体の児童への見え方について配慮し授業設計 を行うとよい。 ・電子黒板にタッチペンでうまく文字が書けないことが難点だと感じた。静電気の関係でうまく書け ないことが多い。ペンの先が堅いゴムでできているものを使うとうまくいく。巾着のような物を被 せて使っている場面を見たことがあるが,抵抗をなくすことが効果的である。 ・電子黒板の画面サイズ(50インチ)では教科書の全体表示が少し小さく感じた。拡大表示や表示内 - 11 - 容の工夫が必要な部分もある。 (4)研究に関わって ・教員が作成した教材を何らかの形で共有し,個人で作ったという感覚でなく,教育委員会等広い範 囲での共通の資産として活用を図っていくことができないだろうか。 ・まずは学校内でのコンテンツ・データベースの構築が必要である。その後,自治体・教育委員会レ ベルで,さらに汎用性の高いものは県全体で共有していけるとよい。 ・今回使用した教材の多くはPowerPointで作ってあり,職員室や他の学校でも扱うことができるので, これを見た教員が使ってみようと思うのではないか。 ・電子黒板が普及するとコンテンツは数多く必要になる。今回の社会で使った日本地図フラッシュ型 教材等は汎用性が高い。(無料であり様々な学年で活用できる。必要に応じて改変ができる。) (5)成田准教授の指導助言(要約) ・コンテンツの蓄積,データベース化は古くて新しい課題である。ぜひ総合教育センターで環境づく りやPRをしてほしい。 ・大学生ではコミュニケーションツールとしてFacebook,Twitter等のSNS(ソーシャルネットワーク サービス)が盛んで徐々に広がりを見せている。 ・デジタルコンテンツを使うことで時間が短縮され,コミュニケーションに使う場面が増える。小学 生のうちから,ICTを活用しいろいろな手段や方法を経験させることは大切である。 ・ペンデバイスの使いにくさは,現場の声としてメーカーに話をしていくことで改善が期待できる。 ・iPadのようなタブレット端末は,授業でも使えるが,今回のような授業検討会でも使えるようにな ってきている。東京学芸大学国際算数数学授業研究プロジェクト(プロジェクトIMPULS)が開発中 の授業観察用iPadアプリ「LessonNote」は,授業開始時刻とともに授業観察者の手書きメモやデジ タルカメラで撮影した画像が自動的に保存され,検討会のときに参加者の書き込みやメモを共有で きるので,新しい授業研究の道具として使える可能性がある。現在無料モニターを募集しているの で,興味のある方はWebで検索してみてほしい。 ・現段階では書画カメラの活用が,地に足をつけた方法として利用しやすいのではないか。 ・全般に有意義な情報交換ができた。学生への指導に生かしたい。 3 アンケート調査より 図9 事前事後調査の比較 コミュニケーションに関わって,「発表や説明をす みんなの前で発表や説明をすることは好きだ ること」「話し合うこと」「聞くこと」の3項目につ いて,児童がどんな認識でいるのか,取組期間の前 0% 20% 40% 60% 80% 100% 事前 後に調査した。 結果は図9のとおりである。「よくあてはまる」「あ 事後 てはまる」と肯定的な回答をした児童の割合は,「発 表や説明をすること」が50%から68%に,「話し合う よくあてはまる あてはまる あてはまらない わからない こと」は90%から100%,「聞くこと」は75%から96 あまりあてはまらない みんなと話し合うことは好きだ %に,それぞれ増加している。 0% 20% 40% 60% 80% 100% これまでは自信がなさそうに下を向いて話してい 事前 ることが多かった児童が,電子黒板に映った写真を 指し示しながら,聞く側をしっかり見て,一所懸命 事後 に伝えようとする場面が見られた。発表することが 「嫌い」であったり「苦手」と感じていた児童にと - 12 - よくあてはまる あてはまる あてはまらない わからない あまりあてはまらない っても,電子黒板という強い味方が現れ,発表に対 みんなの発表や説明を聞くことは好きだ する抵抗感が少しずつなくなっていったことが伺え 0% る。このことに加え,多くの児童 20% 40% 60% 80% 100% 事前 がもっているICT機器に対する興味・関心,さらに機 事後 器を操作できる喜びを感じながら学習に臨んでいた。 電子黒板を用いての発表や話合い,聞く活動を繰り よくあてはまる あてはまる あてはまらない わからない あまりあてはまらない 返すことで,発表やコミュニケーションへの意欲が 高まっていったのではないだろうか。 さらに,電子黒板を活用して発表をしたり説明を聞いたりしたときの使用感や感想について,取組 後に聞いてみた。 ○電子黒板を使って発表や説明をした感想 ・前に出て考えや答えを発表・説明するのはとても楽しかった‥ 5 ・とても使いやすく,発表・説明がしやすかった ‥‥‥‥‥‥‥5 ・黒板に書いたり貼ったりして話すときよりやりやすかった ‥‥3 ・字を書いたり写真を見せたりして話すとき便利で簡単だった‥ 3 ・分かりやすく,上手に説明ができると思う ‥‥‥‥‥‥‥‥‥3 ・電子黒板を使ったら発表することが楽しくなった ‥‥‥‥‥‥2 ・操作がうまくできず止まってしまったことがあった ‥‥‥‥‥1 ○電子黒板を使った授業の感想 ・先生の説明や友達の意見が分かりやすかった ‥‥‥‥‥‥‥‥10 ・算数と国語がよく分かるようになった ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4 ・いろいろな教科や活動に使えることが分かった ‥‥‥‥‥‥‥3 ・授業が(さらに)楽しくなった ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3 ・話す人の方をみてしっかり聞いた ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1 ○電子黒板を使ってみて困ったこと ・ペンの操作が難しいときがあった ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1 ・なし ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥21 表1 電子黒板活用後の調査結果 よく 少し あまりあて あてはまら 分からない あてはまる あてはまる はまらない ない 発表や説明が分かりやすくできた 15 6 0 0 1 先生の説明が分かりやすかった 22 0 0 0 0 友達の説明や発表が分かりやすかった 20 2 0 0 0 電子黒板をこれからも使っていきたい 20 1 0 0 1 - 13 - 事後調査からは,「楽しかった」「使いやすかった」という感想だけでなく「分かりやすく」「上手 に」発表や説明ができるようになった,という意見が多く聞かれた。電子黒板等ICTの活用が一人一 人の話す力,聞く力の向上に加え,学級全体の話合いに関するレベルアップにもつながったといえる。 研究協力校では昨年度電子黒板が1台導入されたが,普段は空き教室に置いてあるため,児童はこ れまで電子黒板に触れる経験がほとんどなかった。そのため今回の研究を行うにあたり,実践する前 に児童の操作スキルやリテラシー(活用する能力)を高めておく必要があるのでは,という心配もあ った。しかし,1ヶ月の実践では「書き込むときにペンの操作が難しかった。」(黒板や紙と比べて 思ったような字や線がかけなかった)という感想と,接続するPCのスペック不足による動作の遅延と いう問題があったが,全体的には問題なく操作ができ,学習活動に組み込むことができた。今回の実 践で小学校4年生の児童は,比較的容易に電子黒板の操作方法を身に付け,発表や討論のツールとし て有効に活用することができたようである。 4 児童の様子から 実践を通して,電子黒板の活用によりみんなの前で話すということへの抵抗が少なくなり,学習中 の児童の発言回数・発言意欲の向上がみられた。さらに,教員や児童の話をしっかりと集中して聞く ようになり,考えを深めるという効果が実感できた。 算数において,これまではワークシートやノートに図と式で書いたものを再度黒板に書いたり,言 葉だけで自分の考えを説明したりしていることが多かった。そのため児童にとっては説明を伝えづら く感じ,「どうせうまく発表できないから」と発表をためらうこともあった。しかし,自分の考えの 拠り所となる作品をスキャナや実物投影機で取り込み,瞬時に電子黒板に映すことで短時間で発表の 準備が整う。また,説明の際にペン書きを間違えても,その部分だけ消して1つ戻ることができ,安 心して発表を行っている場面が多く見られた。 「見せて話そう!わたしの宝物」というテーマで行ったスピーチでは,その日の当番になった児童 が家で撮影してきた写真を大画面に写しながら,必要に応じてペンで書き込みを入れ,自信をもって 写真に対する思いを語っていた。聞いている児童も,大映しにされた画像を食い入るように見つめな がらしっかりと聞き,ただ発表していたときに比べてスピーチの後には多くの質問や感想が出るよう になった。 「教科書の○ページの右上の写真を見てみましょう。何か気付いたことはありますか。」という発 問では,どうしても聞き逃してしまう児童や違うところを見ている児童がいたり,全員を集中させる までに時間がかかったりすることがある。しかし,見せたい写真を電子黒板に大きく示し「この写真 を見てみましょう。」その後で「何か気付いたことはありますか。」と発問をすることで全員が集中 し話合いがスタートするため,時間を多くとることができるようになり,多様な意見が出され討論が 盛り上がることが多くなった。 テレビやゲーム,映像機器等の普及により,生まれたときから映像に親しんでいる子どもたちにと っては,ただ一枚の写真でも映像や画像があることで視覚からイメージしやすく,思考・判断・表現 の大きな手助けになっていくことを今回の実践を通して感じた。このことは当然,学習内容を理解す る力の向上,学力の向上にもつながっていくのではないだろうか。 Ⅵ 研究のまとめ 1 成果 電子黒板を教室に常置させ,1ヶ月に及ぶ教科,特別活動等で活用していく実践を重ねた結果,多 くのことが見えてきた。研究の成果の1点目は,児童の発表意欲の向上である。研究を通して児童に, - 14 - 自分や友達の発表を含めて電子黒板を活用すれば,相手に分かりやすく伝えることができる,という イメージをもたせることができたと考える。分かりやすければ,その後の興味・関心や,また発表し ようという意欲の持続につながる。電子黒板を意図的に用いた発表・話合いの場面を繰り返し取り入 れることで,みんなの前で発表すること,話すことを苦手と感じていた児童の,発表に対する抵抗感 が少しずつなくなっていったことも成果として挙げられる。多くの 児童が将来行うことであろう,ICTを活用しての多くの聞き手の前 でのプレゼンテーションや相手の説得といったことへの第一歩を踏 み出せたのではないかと感じる。 2点目は,学級全体の児童の発表に伴う力のレベルアップを果た すことができたことである。活動を繰り返すことで,児童は自分の ワークシートやノートを見せたり発表をしたりすることを前提とし て書くという意識が高まり,全体的に丁寧でよく整理された書き方 をするようになってきている。友達の上手な作品を見て参考にすることで,相互作用により一人一人 の児童の書くこと,まとめること,そしてそれを発表するといった力の向上にもつながっていった。 これらは教室に電子黒板があるからこそ身に付いた力であるといえる。 3点目はコミュニケーションの向上,増加の効果である。学習活動においては,児童,教員,教材 間のコミュニケーションが欠かせない。これまでにも挙げた成果であるが, ・教員や友達の説明や話を,しっかり見たり聞いたりするようになった。 ・これまで以上に顔を上げて学習活動に取り組むようになり,作業が遅れる児童,聞き逃す児童が 大きく減った。 ・実際に見ることができないものを紙媒体の資料でなく,動画や画像を大画面で見ることで興味・ 関心が高まり,理解が深まった。 ・電子黒板上で確認し,自分の教科書や資料で再確認しながら考えることができ,安心して学習し ていくことができた。 ・図形や計算等の操作を行う算数科においては,電子黒板が児童の発表の大きな補助となった。 これらのことからも,3者の中に電子黒板が入ることで交流がより円滑に促進され,さらに充実した 学びが得られるということが明らかになった。 2 課題 まずは,コンテンツの充実,整備を図っていくことが挙げられる。簡単に見えるデジタル教材を作 成するにも,素材を集めたり,文字や色のバランス,アニメーションのタイミングを考えたり,使い 勝手をよくしたりするには大変手間がかかることが明らかになった。また,今回は行わなかった理科 や外国語活動等,他教科はもちろん他学年での実践例の作成や収集の必要性を感じている。授業者が 自分の思った形に改変がしやすい,というデジタルの特性を生かし,コンテンツの数を増やし,それ らを当センターのホームページ上で手軽にダウンロードし,活用していけるようなシステムを考えて いきたい。 電子黒板の操作経験が少ない教員や児童にとっては,ペンで書き込んだり,線を引いたり,拡大縮 小をしたり,それを保存したりといった機能を追い求めても操作に戸惑い,授業の流れがストップし てしまうことも考えられる。さらに,PCのスペックが低いと応答を待つ時間が増え授業自体のリズム が止まり,教員・児童・教材相互のコミュニケーションが減少してしまうことにもつながる。ICT環 境の整備,という大きな課題については自治体の状況により大きく異なるが,全体的には緩やかに進 んでいくと思われる。今後も学校現場の実態を把握しながら必要な情報を提供したり,1ヶ月くらい - 15 - を単位として電子黒板等を教室に置き交代で使用したりするなど,活用の工夫についても提案してい きたい。今回の研究ではあまり取り上げることができなかったが「dbookPRO」というソフトは,多く の場面でデジタル教科書の代わりになる優れた機能をもっている。デジタル教材がない環境での指導 事例についても充実させていきたい。 さらに,ICTの活用そのものが児童生徒にとって効果があり学力向上につながるという誤解や,教 員自身がICT活用の必要を感じない,使わなくても大丈夫,という考えも根強く残っている。今回の 研究の成果を今後の研修会等で広め,教員のICT活用指導力を高め,活用指導意欲を向上していく必 要を感じている。 【引用・参考文献】 ・『小学校学習指導要領』 ・フラッシュ型教材「47都道府県と位置」は, ・『小学校学習指導要領解説』 作成者渡邉光浩氏の作品を参考に作成した。 ・『教育の情報化に関する手引』 ・『学校における教育の情報化の実態等に関する 調査』 ・『電子黒板の活用により得られる学習効果等に 関する調査研究』報告書 以上文部科学省 【教材,周辺機器協力】 ・株式会社内田洋行 ・株式会社エルモ社 ・株式会社帝国書院 ・教育出版株式会社 ・東京書籍株式会社 ・光村図書株式会社 ・『新たな情報通信技術戦略 工程表』 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 【研究協力校】 ・木原俊行(2011)『活用型学力を育てる授業づ くり』 山梨市立山梨小学校 校長 内藤 理 ミネルヴァ書房 ・赤堀侃司(2011)『電子黒板・デジタル教材活 用事例集』 教育開発研究所 ・高橋純・堀田龍也 編著(2009)『すべての子 どもがわかる授業づくり』 ・中川一史・中橋優 創る学びの未来』 高陵社書店 編著(2009)『電子黒板が 渡邉 真史 笛吹市立境川小学校教頭 齊藤 宗市 甲府市立舞鶴小学校教諭 神宮司 剛 甲州市立井尻小学校教諭 中根 淳 山梨市立山梨小学校教諭 ぎょうせい ・上原永護(2011)『dbookPRO 作成入門』 【研究協力員】 デジタル教科書 イーテキスト研究所 平成23年度 ・日本地図 白地図 無料素材 JAPAN47(Web) 山梨県総合教育センター ・「フラッシュ型教材」はフラッシュ型教材活用 執筆者 実践プロジェクトが運営するeTeachers (http://eteachers.jp/)からダウンロードし た。研究紀要掲載にあたっては,事務局であ るチエル株式会社の許諾を得て掲載している。 - 16 - 主査・研修主事 中村 弘和 副主幹・研修主事 武持 貴英