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伊勢半グループ 人事制度改革の狙いと展望を聞いた。 強い人財集団を目指す同社に ﹁考え、努力し、やり抜く﹂ さまざまな取り組みを行っている。 さらなる基盤強化を図るべく、 創業200周年に向けて商品の存在感を高め、 株式会社伊勢半を中心に、 グループの基幹となる 果敢に行い続けてきた伊勢半グループ。 新しい商品開発への挑戦を 江戸時代からの技術力の継承と、 人事制度を改革し 組織の活性化と経営基盤の強化を図る OOO ブ レ ー ク ス ル ー の 現 場 OOO ブ レ ー ク ス ル ー の 現 場 色紅なども製造していたという。長い歴史を誇る同グ 浮世絵の絵の具として用いられた細工紅、衣料用の染 期に﹁紅屋﹂として日本橋で創業。食品に用いる食紅、 遡る。庶民に化粧品が普及したといわれる江戸の中後 メーカーだ。その創業は1825年︵文政8年︶まで ける株式会社伊勢半など、計7社で構成される化粧品 化粧品事業の基幹会社として化粧品の製造販売を手が 伊勢半グループは、祖業である本紅事業や、財務・ 経理・人事などの本社機能を担う株式会社伊勢半本店、 一般女性から写真モデルを募集。メイクによって美し フェルム﹂では、﹁きれい応援プロジェクト﹂として トなどを行っている。中高年向けブランド﹁キスミー 存在感向上を目標に定め、数々のキャンペーンイベン 目指すと宣言した。初年度となる2015年は製品の とリソースの集中投資による強いブランド創出などを 拡大、海外事業のさらなる飛躍、ポートフォリオ整理 クオフ宣言を発表。基幹会社伊勢半の着実な売上規模 業190周年記念式典では、200周年に向けたキッ り組みに注力している。2015年7月に開催した創 も、効率性のさらなる改善、適正在庫の追求などの取 行っている。サプライチェーンマネジメントについて 施 す る な ど、 提 案 営 業 力 の 強 化 に 向 け た 取 り 組 み も 化 を 実 施。 ま た、 店 頭 デ ィ ス プ レ イ コ ン テ ス ト を 実 を明確化した。また、これまで部署別に定義されてい 旧制度の課題であった職位の明確化については、職 位体系を整理し、職制上の位置づけ、役割・任用条件 年3月から新人事給与制度の運用を開始した。 などの見直しと就業規則の全面改正を行い、2014 そこで同グループは2012年秋に人事制度改革プ ロジェクトを発足し、職位制度・評価制度・給与制度 規程全般を改めて見直す必要性も生じていた。 題が指摘されていた。また、法改正への対応に向けて、 い部門では、プロセス評価が反映されづらいという問 生産部門や本社部門など業績や数値による評価が難し 果が実感値と合致しないといった状況が生じていた。 人の業績が上がっても部門の業績に左右され、評価結 り、部門業績評価が連動する設計であるため、社員個 細分化され過ぎ、各職位の役割が不明確になっていた かかるといった課題を抱えていた。たとえば、組織が 江戸時代から続く伝統と ループは、紅ミュージアムの運営や、古美術品の修復 くなった姿を広告や店頭ポップに用いる体験型のキャ に役立つと期待される細工紅の復元など、紅の伝統文 ンペーンを行った。また、少女漫画風のイラストをあ た職種を見直し、仕事の内容に基づいた ジモデルを起用したPRを実施、ターゲット層の拡大 けでなく、職務遂行上の行動やスキルの保有状況を評 を改めて規定した。人事評価については、実績評価だ 進取の精神 化を後世へ引き継ぐための活動も積極的に行っている。 しらった﹁ヒロインメイク﹂シリーズでは、初のイメー 分類の職種 現在、同グループは総合化粧品メーカーとして、若 者向けから中高年向けまで、複数の化粧品ブランドを を狙っている。 ルなど職位別の評価指標を定めることで評価の適正化 価するプロセス評価を組み込み、評価項目や要求レベ ドラッグストアや量販店、 バラエティストアへと展開。 ている。同社の商品は大手化粧品口コミサイトなどで 高い評価を得ているが、時代を先取りする発想や製品 という声もあったという。今後、評価を通じた上司と か、評価指標の多様化によりさらに挑戦意欲が湧いた を図り、納得感を高めた。社員からは、旧制度の課題 こうした取り組みの中で実施したのが、これまでの 人事評価制度や給与制度を大幅に見直した新人事制度 部下のコミュニケーションが増えることで、さらなる の質の高さは、長年培われてきた同社の職人気質が発 の導入だ。経営方針にも掲げているとおり、伊勢半グ 組織の活性化につなげていきたい考えだ。そのほか、 若手社員や女性社員の登用も積極的に行い、現在、グ て﹁伊勢半ビジネススクール﹂を開催してきた。また、 史や文化を知り、業務に関する基礎知識を学ぶ場とし も注力している。 導入など、多様な働き方が実現しやすい環境づくりに 育児のための短時間勤務制度や看護休暇・介護休暇の てきた成果と今後の展望を聞く。 次のページでは、新人事給与制度の策定に携わった 担当者に、導入までの具体的なステップと狙い、見え を改善した点について一定の評価を得られているほ 成﹂の3つの経営方針を掲げ、セルフ販売化粧品分野 ループでは﹁人財﹂こそが挑戦・変革を支える鍵だと 揮されたものだという。また﹁挑戦﹂ ﹁変革﹂ ﹁人財育 で自然派化粧品を定着させるなど、業界初の処方や販 考えている。教育・研修にも注力しており、自社の歴 200周年に向けた 促方法などの取り組みに挑戦し続けているという。 組織を活性化し、挑戦意欲を育む 新 制度を導入 中国、韓国を中心に海外 カ国への輸出も積極的に行っ 11 ループの女性管理職は管理職全体の %に達している。 一方、2005年に導入した現行の人事評価制度は、 組織の実態と合わない、評価指標が緻密過ぎて手間が 24 ビジネス力のさらなる強化 着 実 な 歩 み を 進 め て き た 伊 勢 半 グ ル ー プ だ が、 2025年の200周年を前にして、さらなる改革に 着手している。自社製品の顧客満足度調査や競合製品 との比較分析を改めて行い、マーケティング戦略の強 N av i s 0 2 8 – O c t o b e r 2 0 1 5 17 12 総務本部 本部長代理 │ 人事制度の改革はどのように進められたのでしょうか。 佐 々 木 氏 ● まずは澤田社長から、公平性が感じられるものであ ること、やりがいや働きがいが感じられるものであることなど、 見直しに関する方針が提示されました。検討にあたってはみずほ 代以上の社員 情報総研に協力いただき、グループの全社員を対象に意識調査を 実施して制度構築の参考としました。その結果、 代以下の若手社員との世代間の差が出ていま は職務満足度・意欲ともに高い一方、変化を求めない傾向が表れ ており、その点で ました。 うか。 どのような点を重視して、新制度を設計されたのでしょ ﹁健全な危機感﹂を醸成することが必要であるという指摘を受け 総 研 か ら は、 実 力 成 果 主 義 の 要 素 を 評 価 に 含 め る こ と に よ っ て している傾向が見られました。分析の結果を踏まえ、みずほ情報 した。また、他部門との交流など社内コミュニケーションが不足 30 修にも注力しています。 段階の等級を設 ネジメント職には組織の統括能力を一層問うこととし、階層別研 には、専門職志向の強化促進の意味もあります。一方でラインマ シャリストとしての職位を設けました。こうした専門職位の設置 専 門 分 野 に つ い て は 細 分 化 を 行 い、 専 門 資 格 認 定 に 基 づ く ス ペ を明確化して、管理職を適材適所に任用できる制度にしました。 いました。そこで、職位体系を整理し、職制上の位置づけや役割 規模に比べて組織が細分化され、各職位の役割が不明確になって つ目は、職位や職層の明確化です。旧制度では昇進した人の 2 ために課を新設するような組織運営になっていた面もあり、企業 しました。 分を減らし、従来に比べ、給与アップを実感しやすい給与体系と 雑さと処遇との関係を強化しました。また、賃金レンジの重複部 定し、職位に応じて等級範囲を決定することで、職務の責任や複 給与制度に見直しを行いました。具体的には、 テップアップ感を高め、若手社員の処遇の引き上げを可能にする い社員や上級者に偏重している傾向が見られました。そこで、ス 処遇や給与の公平化です。分析の結果、報酬資源配分が年齢の高 浅 利 氏 ● 新制度では3つのポイントを重視しました。1つ目は、 │ 総務本部 人事労務部 課長 澤田晴子 氏 浅利幸人 氏 佐々木亜希子 氏 株式会社伊勢半本店 代表取締役社長 OOO y d u t S e s a C 40 15 浅利 氏 澤田 氏 佐々木 氏 適正で明確な評価と働きやすい環境づくりで 挑戦する人財集団を目指す 18 ブ レ ー ク ス ル ー の 現 場 しました。職場におけるチームプレーや関係部署との協力体制づ 他者支援などの実績についても、評価点として取り上げることと 従来制度の﹁チャレンジ加点﹂の評価基準を変更し、突発事項や 期的な成果や総合的な貢献度も重視することとしました。また、 3つ目は評価の適正化です。これまでの実績評価にプロセス評 価も加えることによって、短期的な目標の達成だけでなく、中長 持って働くことができる環境を整えていきたいですね。 寄与できるさまざまな切り口を通じて、社員がやりがいと誇りを の講座も活用して整備していきたいと考えています。人事部門が 講座や、定年後のライフプラン設計に関する情報提供など、外部 えています。そのほか、幅広く教養を広げるための趣味に関する プが目指すべき将来像についても、スクールから発信したいと考 知識の底上げを目的とした研修を行う予定です。また、当グルー くりを後押しすると思います。 澤田氏●200周年に向けて、社員全員が、仕事や働く仲間、自 2016年春には人事マスター管理システムの刷新も行います ので、今後は研修等の受講履歴管理も組み込み、評価や組織再編 社や自社の製品を好きだと感じ、仕事を大いに楽しむようになっ の際に活用できればと考えています。 佐々木氏●新しい評価制度では、同じ視点を持って従業員を評価 てほしいと思っています。その結果、お客さまにとってなくては この新制度を活かすため、どのような取り組みを行って し教育できるスキルが管理職に求められます。そこで階層別研修 ならない化粧品メーカーになれるのではないでしょうか。200 いくお考えですか。 に新人事制度に基づいた評価者研修を組み込みました。また、社 周年に向けての改革はまだ踏み出したばかりですが、 ﹁本物志向・ Profile │ 長・常務・人事部長からなる評価委員会を立ち上げ、評価の適正 N av i s 0 2 8 – O c t o b e r 2 0 1 5 化を推進していきたいと考えています。 19 職人気質・改革心・お客さま意識・進取の精神﹂という同じDNA 人事制度の 3 本柱である資格等級、評価、報酬の再構築に 係るコンサルティング。特定の理論や制度にあてはめるのでな く、事業・組織の特性を踏まえた柔軟な制度設計を行うのが 特徴。あらゆる規模、多くの業種に実績がある。制度設計の 次フェーズとして、システムの構築支援も行う。ユーザーの立 場に立って業務のあり方を見直し 、人事情報、人事評価、給与 計算等のシステムの導入・再構築を支援する。 浅利氏●社内教育に関しては、伊勢半ビジネススクールの一層の ● HRM(人的資源管理) コンサルティング が流れていることを互いに認識し、総力を挙げて取り組むことで、 制度としてはよいものができているのだが、運用が追 いついていない─人事マネジメントに関してこんな悩 みをよく聞く。待ってほしい。そもそもうまく運用でき ない制度は 、本当によい制度だったのだろうか。 書店に行けば 、多くの人事関連書籍を目にする。ど れにも参考になる内容が含まれている。しかし 、それら をそのまま自社に導入すればよいというものではない。 業種業態、そこに働く人々の特質、管理職の成熟度、企 業文化、経営理念等々により、合うものも合わないもの もある。一般的な目標管理が馴染まない組織もあれば、 経験年数が業務熟達度に比例していて年功制が機能す る職種もあるだろう。 重要なのは 、自社の実情に合い、経営者・管理者・一 般従業員が納得して受け入れられ 、経営目的の達成に 寄与できる仕組みである。理解のしやすさも大切で、 合理性を追求し 、いたずらに精緻なものを作る必要 はない。完璧な人事制度はないものと考え、そのとき に実現したいことにどのくらい近づくか、BEST でなく BETTER を目指すことが、実益につながりやすい。 そのためには 、現状から何をどのくらい進歩させるの かを見極める必要がある。まずは自社の現状を再確認 する作業をできるだけ丁寧に実施することだ 。このとき に気をつけるのは 、自社の事情に合わせ過ぎないことで ある。たとえば 、現在の管理職がプレイングマネジャー となっていて、部下の育成に時間を使えていないとする。 だからといってその環境に合わせた制度設計をするだけ では進歩がない。管理職により高いレベルで人材育成 をしてほしいのであれば 、それにつながる制度を検討す べきである。一見、制約条件のように見えても、業務 改善や管理職研修を同時に検討するなど、並行的に変 えられるものもあるだろう。 何をチャレンジとし 、どこを落とし所にするか。関係 者の間で十分なコミュニケーションを図りながら進めて いくことも、改革を進めるうえでのポイントである。 一つひとつ着実に目標を達成していきたいと考えています。 みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 マネジャー 充実も図りたいと考えています。部下の育成方法などラインマネ 小林 陽子 ジメント力を強化する研修や、営業手法や財務知識などビジネス 人事マネジメント改革は BETTER を目指す 企業プロフィール 伊勢半グループ 1825 年創業。株式会社伊勢半を中心に、肌に悩みを持つ人のためのカバー用 ファンデーションを取り扱うマーシュ・フィールド株式会社、オリジナリティを重 視した製品を取り扱う株式会社エリザベスなど、7 社で構成される総合化粧品 メーカー。 「あしたは、もっと美しい」の理念のもと、歴史と技術に裏打ちされた ものづくりを追求している。