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No.3 2009.11 - 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター

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No.3 2009.11 - 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
大 阪 大 学 レ ー ザ ー エ ネ ル ギ ー 学 研 究 セ ンタ ー
産業連携推進室 室長
斗内 政 吉 教授 ▶ P.1-2
シリーズ…コミュニティからレーザー 研 へ のメッセージ その 3
岸 本 泰 明(京都大学大学院エネルギー科学研究科・教授 )▶ P.3- 4
シリーズ… 研究室訪問 その 3
プラズマX 線分光グループ 西 村 博明 教授 ▶ P.5- 6
聞き手:植田 達( 工学 研究科博士前期課程 2年)、雑賀 宏(工学 研究科博士前期課程1年)、
吉岡 貴司(工学 部 4 年)
宮永憲明教授が平成 21年度 松尾学術賞を受賞 ▶ P.7
大型レーザーオペレーションチーム
今 回は、本レーザー研センターで、光テラヘルツ波 デバイスの研 究 等に従事する
斗内 政吉 教 授(産業連携推進室 室長を兼務 )
より、産業連携推進室を紹介いたします。
強度レーザーを利用した光科学新産業の創成を目標に、レー
発足の経緯
ザー研の保有する先端研究施設を国の支援によって産業界に
レーザー研センターと産業界とのインタフェイスを担う目的
一部共用するものです。平成 21 年度からは先端研究施設共用
で産業連携推進室が生まれました。研究開発の成果は、人類へ
促進補助事業として継続しており、
文科省から施設共用の運転
の新知識を創出する知識貢献、あるいは人間の生活や社会に
実施に係る経費や民間企業が利用しやすい支援体制を構築す
直接役立つ実用貢献が求められています。つまり独創の科学
るための経費を補助いただいています。
と最高度技術の創出が知的な営みの重要な目標となります。
世界最大級のパルスエネルギーを出力する激光 XII 号レー
レーザー研の外部評価委員をされている鳥井弘之先生 によれ
ザーをはじめ、最新の科学的知見を生み出している極端紫外
ば、
知的な営みは大学が得意とする科学的アプローチ、
すなわち
光、
テラヘルツなどの先端的なレーザー施設は、産業応用にお
分析プロセス「分析による要素知の創造」と、企業が得意と
いて新領域を切り拓く潜在力を有しています。さらに、レー
する技術開発アプローチ、すなわち統合プロセス「知の統合に
ザー、ターゲット、計測、理論・シミュレーションからなる技術
よる体系の構築」からなり、この知の循環が科学技術を飛躍的
総合力で産業界との共用実験をサポートして、光科学を基盤
に発展させる推進エンジンになるという「知の循環論」を提唱
とした新産業創成を目指しています。激光 XII 号システムに関
されています。レーザー研は、これまでのレーザー核融合研究
しては、年間総ショット数の約 7 %を産業界と共有、4 つの小
に加えて、産業連携でより広域な「知の循環」を図るべきとの
型レーザーシステム( 極端紫外光システム、レーザー損傷シス
企業が事業に必要な基礎データを取得できるというのが
進めていただいています。また先端の研究施設はすぐには使
エールもいただいております。
テム、レーザーアブレーションシステム、テラヘルツシステ
成果の大部分ですが、トピックス的なものとしては、レーザー
いこなせないため、施設利用に関して高度な知識を持つ、施設
ム )については稼働時間全体の 15%程度を共用しています。
研の先端施設による測定データと、企業で開発中のプロトタ
共用技術指導研究員・技術補佐員が実験の遂行を補佐してお
イプによるデータの比較評価を行って、開発中の機器の性能
り、
各主要設備の実験計画立案とシステムのオペレーションを
妥当性を確認した結果、高性能の小型テラヘルツ分光器の市
担当するほか、科学的な問題を解決し、研究提案のための補佐
*
現在の取り組み
(C)JOE NISH IZAWA
産業連携推進室は、
この知の循環を促進する場となること
企業の製品化につながる成果も
を目指し、
その第一歩として、産業共用事業「高強度レーザー
まだまだスタートしたばかりですが、平成 19 年度は 9 件、平
場投入につながったという成果例もあります。また、共用実験
も行います。さらに、契約書など外部との文書のやり取りにおい
が拓く光科学新産業」に取り組んでいます。平成 19 年度に文部
成 20 年度は 13 件の産業共用課題を実施しました。平成 21 年
等を通じて、散乱中性子検出方式に関する基本アイデアを共同
ては、
レーザー研の事務方に多大な協力をいただいています。
科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」を受託し、
度は 13 件を超える課題の産業共用支援をおこないます。
で創案するとともに、別の共用課題で材料作成に成功した高速
それら産業連携室の運営に関わるメンバーが細心の注意を
応答の中性子シンチレータ材料を組み合わせることで中性子
払っていることのひとつに、企業に施設利用いただく際の機
計測装置の製品化の可能性検討につながった成果例がありま
密情報の取り扱いがあり、ファイル送受信時のパスワード保
す。これは、現在、進行中です。
護、機密保持契約の締結、鍵付保管庫での文書保管など確実に
想像もしなかったような応用目的との出会いはまだです
行っています。一方、公正な課題選定のために外部委員として
が、いつかはと、楽しみにしています。 企業から参画いただくなどの工夫もしています。
産業連携室の運営とそのメンバー
産業連携室のこれから
9 名の専任教員と、
共用リエゾン 1 名、施設共用技術指導研究
産業共用事業は、
従来の共同研究や受託研究とは違った産業
員と技術補佐員 5 名、事務補佐員 1 名の計 16 名で運営してい
界との接点を与えてくれます。レーザー研のもつ技術の新展開
ます。
の機会を創り出す大切な仕組みと考えられるため、持続的に
各施設のリーダーである疇地教授(レーザー研センター長)、
改善を図ってゆく必要があると考えています。産業界との接点
實野、猿倉、斗内、西村各教授をはじめとする専任教員には、利
が増えて共同研究も増えてゆけば、産業連携推進室の新しい
用企業と具体的相談を行い、新しい産業応用に向けた方策の
取り組みも生まれてくるものと考えています。他の先生方や学
共同立案、実行を担当いただいています。共用リエゾンはレー
生の方とも、レーザー研が独創の科学と最高度技術の創出の
ザー研と産業界とのインタフェイスを担うキーマンであり、
場となるよう、一緒に取り組みができるといいですね。
「高強度レーザーが拓く光科学新産業」
をスタートさせました。高
企業から来られた山本客員教授を中心に、事務補佐員奥村さ
んの補佐を得て、課題募集、宣伝・事業紹介、費用管理、契約管
前列向かって左から、猿倉、西村、疇地、斗内、山本、實野。
理、知財管理を担当いただいています。さらに今後の有償利用
後列、
ガバイノ、梅村、奥村、佐藤、弘中、村上、竹家(以上、敬称略 )
の開始に向けて、事務方とも連携して有償利用制度の整備を
1
レーザー研の広場 No.03/2009 秋 注釈 鳥井 弘之:元 東京工業大学原子炉工学研究所教授。日本経済新聞社、
論説委員などを経て、2002 年より現職。原子力委員会専門委員、産業技術
審議会委員、学術審議会委員など。
「知の循環論」は第 1 回産業共用シンポジ
ウムにおいて講演いただきました。
レーザー研の広場 No.03/2009 秋 2
シリーズ… コミュニティからレーザー研へのメッセージ その ❸
岸本 泰明(京都大学 大学院 エネルギー科学研究科・教授)
私の好きな惑星物理学者の松井典孝氏と文明
学者の横山俊夫氏の対談集「 21 世紀の花鳥風月
( 中央公論社 )
」の中に「文 明とは 文(あや)
に明
3
閉じ込め研究の中でもホットトピックスです。研究生活の中で
るい と書くが、あや とは織りなす文様のこと」
未知の現象や画期的なイベントに立ち会うことほど研究者に
という一文があります。異なった分野・文化の交
今回、
「レーザー研の広場」に寄稿させていただくことになり
とって幸せなことはありません。磁場核融合では 1990 年代に
差・交流によって新しい文明
( 文様 )
が創出され、
ました。昨年度までのレーザー研ニュース「 Seven Stars of
JT60 * などを中心に「内部輸送障壁」という現象が発見され、
逆にそれを 紐 解けば文様は消失し、もはやそこ
I L E 」に比べ「レーザー研の広場」は人に焦点を当てた今風の
新しい閉じ込め概念として注目されました。線形的には不安定
には時間を要しましたので今も記憶に新しく、そのお陰か、今
には文明はないということです。文学的表現です
広報誌として個人の考えがよく分り、発 刊 時から楽しませて
なプラズマを作ることが( 帯状流などの)非線形効果まで考慮
では磁場核融合もレーザー核融合も大きな差異は感じていま
が、複雑性とはきっとそのようなものなのでしょう。レーザー
いただいています。私は、博士課程 3 年間とレーザー技術振興
すれば逆に安定になり、
それによって急峻な圧力構造が自律的
せん。レーザー核融合に携わる方々もそのような観点で磁場
核融合から波及した様々な技術や知見が、宇宙・天体物理学
センター 1 年間の計 4 年をレーザー研で過ごしました。博士課
に維持されるというものです( 一つの見方で、完全に解明され
核融合を観察していただければ逆に様々なヒントがあり、両
や惑星科学、物質科学や生命科学など異なった分野・文化と交
程では今年 3 月にご退職された前センター長・三間圀興先生の
ているわけではありません)。大型加速器をはじめ 20 世紀に
者の交流が一層深まるのではないかと思います。
差・交流することで新しい学術( 文様 )
を創出し、
それが回りま
指導を受け、レーザー核融合の重要課題の一つである非局所
成功を納めた多くのシス
熱輸送や高密度プラズマ研究に従事しました。
「一点突破の全
テム は 複 雑 な 非 線 形 や 複
知の連鎖( 鳥井弘之先生/元東京工業大学原子炉工学研究所
面展開」
( 一つでいいからトップの研究をして、それを広げて
雑 性 をで き る だ け 排 除 し
教授 )をもたらすことが共同利用施設化の目標です。装置の老
レパートリーを増やす)が三間先生の口癖でした。当時は高部
て安定性を担保してきまし
さて、
平成 18 年にレーザー研は、
「高密度エネルギー密度状
朽化も含めて解決しないといけない課題が山積していますが、
英明さん( 現レーザー研教授 )が外国留学から帰国された時期
た。媒 質( ビーム やプ ラ ズ
態の科学」の発展を目的に、全国共同利用施設としての新しい
レーザー研の激光 XII 号 から 私たちの激光 XII 号 へと、新た
でもあり、田口俊弘さん( 現摂南大学教授 )も含め、錚々たる先
マなど)が自律的な挙動を
運営体制に移行しましたが、
それを企画・立案する共同利用専
な飛躍とコミュニティーのさらなる前進を願って止みません。
輩達の中で議論にあけくれた日々が思い出されます。一人の
示せば外部からの制御の邪
門員会の委員長を 2 年間拝命いたしました。
この共同利用施設
大学研究室では、非線形性・複雑性としての磁場核融合プラ
研究者が二つの専門を持つように割り当てられて異なった分
魔になるからです。従って、
化は、レーザー核融合研究で培った様々な技術や知見を国内
ズマやレーザープラズマ、あるいは放電・雷に代表される原子・
野間の交流を図ったり( マトリックスと呼んでいた ?)、奇抜な
プラズマの自律的な振舞いを積極的に利用する磁場核融合の
外の幅広い科学コミュニティーに開放・共有することで、大型
分子過程が関与したプラズマ生成過程などプラズマ物理に関
発想を競い合うブレインストーミングの会なども企画された
路線は非線形性に準拠した 21世紀の科学的挑戦と言えます。
レーザーに関わる分野融合型の新しい学術の創生とレーザー
わる幅広い理論・シミュレーション研究を推進しています
(3
り、実験・理論を問わない自由な雰囲気で学生と教員の交流が
この場に居合わせ、これらのメカニズムを解明する研究に参加
コミュニティーの拡大を目指そうとするものです。三間 前セン
ページの写真は、学生と行なっているレーザープラズマの勉強
なされていました。このような自由に議論できる気風がレー
できたことは幸運でした。
ター長をはじめ当時のレーザー研の皆さんが達成された 一
会 )。学生の方々を含めて、大学とレーザー研の間でも積極的
ザー研の活力の源であり、これは今も変わらないだろうと思
一方、
レーザー核融合でも時を同じくして固体水素の 600 倍
点突破 の賜物であり、
これを 全面展開 するのが共同利用施
に交流を進め、研究の 全面展開 を図りましょう。
います。
圧縮に成功し、
大きなブレークスルーを築くとともに、
その後、
設化の目的と言っても過言ではありません。レーザー核融合に
超高強度レーザーによる高速点火概念の創 出など 画期的な
携わる国内の研究者人口が磁場核融合に比べれば圧倒的に少
イベントが 続きました。残 念ながらその場には居合わせてい
ないことを考えれば、この状態を打開することも共同利用施
ませんでしたが、 一点突破 を目のあたりにしている気分で
設化の重要な役割です。
その後、何でも一から挑戦 の気持ちで磁場核融合に移りま
した。特に、高 速 点 火では、田 口・三 間 理 論によれば、一度は
ただ、レーザー核融合を中心に据えたプロジェクト体制から研
したので、
レーザー核融合そのものからは離れましたが、
レーザー
W e i b e l 不安定性によってバラバラになった多数の電流線が
究領域の拡大を図るわけですから、容易なことではありません。
プラズマも磁場プラズマも同じプラズマ、両者には様々な共
プラズマの非線形効果によって自己治癒してコアを効率的に
新しい文化への移行です。試行錯誤の 2 年間でしたが、副委員
通の物理が内在します。非局所熱輸送などはその典型で、磁場
加熱するとのこと、
レーザー核融合もプラズマの非線形性を
長の米田仁紀先生( 現委員長/電気通信大学レーザー新世代
最大限利用して制御しようとしていること
研究センター教授 )や委員会委員の協力のもと、応募システム
を知りました。これも非線形性に準拠した
や評価体制を構築して一定の筋道を立てました。大型装置を
路線と言えるでしょう。レーザー核融合に
用いた共同実験の他にも、将来の大型実験に向けて斬新な研
内在するそのような学術性の中から実験室
究課 題に取り組むグループを支援する枠組みや、応募の審査
天 文 学 ** という深 淵 な 発 想 が 生 まれた の
にあたっては分野別にワーキンググループを設け、そのグルー
島大学修士課程修了、19 84
だと思います。
プの委員長が分野形成に積極的役割を果たす制度も導入しま
年大阪大学博 士 課程 修了、
2002 年( 平成 14 年 )に大阪大学で開催
した。結果的には 2 年間で激光 XII 号の能力を上回る応募があ
された第4回核融合エネルギー連合講演会
り、ショット数や予算の制約などの問題を抱えながらも一歩を
では、西原功修先生( 現レーザー研名誉教
踏み出すことができました。一方で、外部ユーザーを支えるため
授 )から依頼を受けて、プラズマ物理の醍醐
レーザー研のスタッフの方々の負担は増えたり、レーザー核
味である非線形性や複雑性の制御という共
融合実験のショット数が減少したりと、これまでと異なった
通の概念のもとで磁場核融合とレーザー核
方針に戸惑いを感じられた方々も多いのではないかと思いま
融合の双方を一つのフレームで講演したこ
す。忍耐と寛容の期間でしたが、辛抱強く対応いただいたこと
とがあります。そのような考えに至るまで
にこの場を借りて感謝申し上げます。
レーザー研の広場 No.03/2009 秋 わってレーザー核融合研究の格段の発展を促す、そのような
日本原子力
*JT-60:臨界プラズマ試験装置 JAERI Tokamak-60 の略称で、
研究開発機構那珂研究所で稼働している世界最大級のトカマク装置。JT-60
で達成された5億度を越える世界最高温度は、ギネスブックにも登録。
( 独立行政法人日本原子力研究機構那珂核融合研究所ホームページ参照:
http://www-jt60.naka.jaea.go.jp/index.html ).
** 実験室天文学:レーザー核融合研究の歴史においてレーザー技術は飛躍
的に進歩し、今や爆縮実験で太陽中心に匹敵する温度・密度のプラズマの
生成が可能。星の進化の研究においても、複雑な現象を第一原理から明ら
かにするべく、レーザーによる高密度・高温プラズマを利用した実験室で
のモデル実験を通して天文学・宇宙物理研究を進めようというのが実験室
天文学。
P R O F I L E
岸 本 泰 明(きしもと やすあき)
京都大学 大学院 エネルギー
科学研究科教授。1981 年 広
日本原子力 研 究 所( 現日本
原子力研 究 開 発 機 構 )
を経
て、2 0 0 4 年より現 職 。主 な
研 究分野は、磁場核融合プ
ラズマの乱流輸送や高強度
レーザーと物質との相互作
用に関する理論・シミュレー
ション研究などのプラズマ物
理。
HP: http://www. center. iae. kyoto-u. ac. jp/kishi/
レーザー研の広場 No.03/2009 秋 4
休 暇を利用してサイクリング
シリーズ … 研究室訪問 その ❸「 研究に遊び心を 」
かれたとか。
プラズマX線分光グループ 西村 博明 教授
「 昔 のように 今
のレーザー研でも
聞き手:植田 達(工学研究科博士前期課程2年)、雑賀 宏( 工学研究科博士前期課程1年)、吉岡 貴至(工学部4年)
たつき
キーなどにも行
もっと 皆 で 遊 ぶ
さいか
機 会 が あっても
生は、
海が近いこともあり、子供の頃にはよくお父様と釣りに
いい ん じ ゃな い
先生を訪問しました。
行ったとのこと。今も釣りを趣味とする先生は、去年の夏休み
かな? 研 究 者 同
西村先生の 研究室( 量子放射学研究部門 )
では、
レーザー核
にも研究室のメンバーで淡路に釣りに行かれたそう。
「釣りは
士が打ち解ける
融合を研究テーマの1つとしています。レーザー核融合とは、
僕が一番うまかったな」と負けず嫌いな一面も垣間見えまし
ことで『そんな研究してるんだ。それなら自分の研究に使える
高強度レーザーを用いて「地上版ミニチュア太陽」を作り出す
た (^^;)
かも。』といった発見も随分ある。気分転換にもなるしね。」先生
こと。太陽エネルギーの源は核融合反応であり、このミニチュ
吉岡 貴至
今回はプラズマ
※1
や X 線に関する研究をされている西村博明
そんな西村先生は、中学
の研究の中には、医学部の研究室と連携して行っているものも
ア 太 陽 の内部で効率良く核融合反 応を起こすことが 出 来れ
生 時 代 に ラジ オ や オー
あり、多忙な研究生活のなかに 遊び を見つけることが先生
ば、人類は半永久的なエネルギー源を手に入れたことになりま
ディオ機 器の自作に興味
の幅広い研究生活の意欲の源になっているのだと感じました。
す。環境に優しい夢のエネルギー源です。實野 孝久先生( レー
を持たれ、
「自分の工夫し
また、奥様とはレーザー研のスキーで出会われたそうです。
ザー研の広場 No.01)
らの 研究されている L F E X レーザー ※2
たところを同じ趣味をも
「大阪大学の電気系には女子学生が少ないけど、
世の中の半分
開発もレーザー核融合のための 研究の1つです。
つ友人に自慢するのが 面
は 女 性。君たちもなるべく女性の多いところで 活 動したら
じつの
白かった。」とおっしゃい
( 笑 )」耳が 痛い話です・・・。
※ 1 電離した気体のことを指す。固体・液体・気体とは異なった、物質の第
四態といわれることもある。
※ 2 レーザー核融合の実現に王手をかける世界最高のピーク出力を持つ
阪大の大型レーザー。
※ 3 半導体などの電子部品を大量生産する時に必 要な短波長光源。現 在
実用化されているレーザー光源よりも波長が短いため、
より微細な加工が
可能となる。
※ 4 波長が 1 ∼ 20nm の範囲にある光のこと。可視光はだいたい 380 ∼
780nm の範囲の光である。
※ 5 主に量子光学に関連する基礎物理を専門とする研究所。
マックスプラ
ンク量子 光学 研究所の歴史の中でもっとも偉大な栄光は、ヘンシュ教授
が 2005 年に光周波数精査技術の開発においてのノーベル物理学賞授与が
ある。
※ 6 レーザーで発生したプラズマから放射される X 線のこと。プラズマ中で
は電 子が励起( エネルギーが高い状態に移ること)され 基底状態( エネル
ギーが低い状態 )に遷移( 移動 )
するときに放射される。波長は約 0.01nm
∼ 1nm( 光のエネルギーで 1~100 keV 程度 )である。
P R O F I L E
西村 博明( にしむら ひろあき)
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター教授
19 53 年1月2 4日生。1979
年 11月 大 阪 大 学 大 学 院
ます。この時の経 験 が 電
最後にこれからの学生に対するアドバイスをお聞きした
気工学を志すきっかけと
ところ、
「僕の学生時代は、当時新しい研究分野であったレー
なったそうです。
ザープラズマ ※6 X 線とこれを用いた核融合の研究を行ってい
大阪大学レーザー核融合
趣味が高じ、さらにエネルギー関係のことをしたいと電気系
た。むろん教科書もなく先生と学生が同レベルからの出発。
研究センター助手。19 9 0
を志された西村先生。その熱意は勉強にも傾けられ、大学時代
だから、分からないことは仲間や先生と議論して知恵を出し
には楠本賞( 大阪大学の学部各学科の主席卒業者に授与され
合った。先生と対等に渡り合える、この経験は何物にも代えが
る賞 )を受賞されました。
「興味を広げようと、いろんな授業を
たいね。これから研究に取り組む学生には課題に真正面から
受けていて、その流れで思いがけず頂戴した。今でも担当教官
ぶつかって、先生とも遠慮のない議論を交わして欲しい。」と
の中井貞雄先生( 現レーザー研名誉教授 )がポケットから小さ
西村先生はおっしゃいます。
く畳んだ受賞通知を出してきて、
「はい、これ。」って渡された
今後は、先生や仲間との議論を大切にし、難題に取り組む過
のを覚えてるよ( 笑 )。学生のうちに様々な科目( 生物、化学、物
程とその過程を楽しむ姿勢を忘れず研究に取り組んで行きた
理 )について勉強していたのが、今の研究の幅広さに繋がって
いと思います。
工学 研 究 科 後 期博士 課
程 中 退。工 学 博 士。同 年
年 独マックスプランク量
子光学研究所客員研究
員。
2003 年大阪大学レー
ザーエネルギー学 研究セ
ンター教 授、現 在に至る。
主に、プラズマ分光診断、
レーザープラズマ量子放
射物理とその応用の研究
に従事。これらの研究で、
プラズマ・核融合学会第 7 回技術進歩賞受賞
( 2002 )
、
プラズマ・核 融合学会第 13 回論文賞
( 2005 )
などを受賞。
いるのかも。」と学生時代を懐かしげに振り返られました。
その 他 の主な研究としては、次世代半導体リソグラフィ光
大学の研究員となってから程無く、
ドイツのマックスプランク
源
量 子 光 学 研 究 所 ※5に 客
※3
として期待されている極端紫外( EU V)光 源
開発です。
パソコンや USB メモリなどを小型化、高性能化する際には、使
員研究員として招聘され
用する集積回路の微細加工が必要不可欠です。なぜなら、
微細
た 西 村 先 生。このと き の
な加工を行うことで、同じ面積上により多くの集積回路を搭載
経験、人 脈が 現 在の研究
することができ、結果、高性能化が実現されるからです。現在は、
の土台となってお り、現
45 ∼ 6 5nm( ナノメートル:100 万分の 1mm )という極めて微
在でも、このときの縁で
細な幅で加工が行われています。レーザープラズマ E U V 光源
知り合ったドイツのイエ
は、波長 13.5 nm という極めて短波長の光を用いてさらに微
ナ大学などとも共同研究
細な加 工を可能としま
をされているそうです。
す。
5
※4
植田 達
雑賀 宏
「若 いうち に は い ろ ん な
西村先生の研究室で
ことを経験することが大切」とおっしゃる西村先生は、
「 今の
は、今日のエネルギー問
研究は粋(いき)
なものが少ない。成果を出すことが第一になっ
題を解決に導く核融合
ている。もちろん成果を上げることは大事だけれどね。どんな
研究や、情報化社会の発
に可能性が低くても、面白い、不思議だと思って1つのことに
展の鍵を握る研究がな
没頭することで、大発見があるんだよ。」と、研究には遊び心を
されていると言っても
持つことが大切だという考えをお持ちです。
過言ではないでしょう。
まさに 研究者 という経歴の先生ですが、意外(?)なこと
神戸生まれの西村先
に遊びにも真剣なようで、学生時代にはレーザー研全体でス
レーザー研の広場 No.03/2009 秋 レーザー研の広場 No.03/2009 秋 6
L F E X 建設リーダーの宮永憲明 教授が、
「大エネルギーペタ
( 2 枚の回折格子を1枚として用いる)
を左右両側から使うダブル
ワットレーザーの開 発 」の題目で平成 21年度 松尾学術賞を受賞
パス圧縮器
(左右対称光路のダイヤモンド型 圧縮器 )
を考案。
これ
されました。松尾学術振興財団は松尾重子氏( 出捐者 )
、
宅間 宏
を実現するために、
国内外の企業と連携して1m 級の誘電体多層
電気通信大学名誉教授、
ならびに宅間慶子氏が発起人となり、
自
膜回折格子の技術を確立。
然科学を主とする学術研究を助成、振興し国内の学術及び文化
5. 熱膨張係数の少ない石英基板に関して、1m 級の回折格子、
の向上、発展に寄与することを目的として昭和 63 年に設立され
ミラー、無反射膜、薄膜偏光子の低 応力多層膜を形成するため
ました。松尾学術賞は原子物理学と量子物理学・量子エレクトロ
の技術を世界で初めて確立。
ニクスの研究で特に業績の顕著な研究者を対象に年に1研究者
宮永教授は本プロジェクトにおいて一貫して中心的な役割を
に贈呈されます。
担っており、
その貢献に対して今回の賞が授与されました。一方、
近年のレーザー研究では、特に学術分野において高ピーク化
このプロジェクトは 30 余名の教員や技術職員、十数社の企業の
が重要となっています。レーザー研では平成14 年の設計開始を
一致 協力によるものであり、
それらを代表しての受賞です。本受
皮切りに 10 kJ ペタワット
( PW )
ガラスレーザー
( LFEX : Laser
賞が関係各位の努力無しでは不可能だった事は間違いありま
の 開発をスタートしました。LF E X
for Fusion Experiments )
せん。
は、
レーザー研が激光 XII 号レーザーの開発で培った光制御技術
L F E X 建設プロジェクトは道半ばです。目標となるスペックを
を基盤とし、
レーザー核融合点火条件である 5,000 万度を可能
達成し、
画期的な研究成果という果実を得るためには、引き続き
とするレーザーの確立と、国内の大出力レーザー技術の結集と
レーザー研全体の努力と協力が不可欠です。
主要技術の国産化の基盤整備、
世界最高出力と機能をもつ超高
( 准教授 中田 芳樹 記 )
強度光科学に有用なツールの構築に貢献する目的で開発が行わ
れました。受賞理由となった LFE X 独自のコンセプトは以下の
通りです。
1.10 kJ /0.5 ∼ 10 ps を実現するためのチャープパルス増幅・
圧縮の設計指針を提案。
2. サブ ps ∼数 10ps の波形整形を実現するために、スペクトル
位相変調器の設計・導入。
3. 高空間分解能の小型可変形鏡を用い、静的・動的波面歪みを
補正し、回折限界に近い高ビーム品質を得る設計を提案。
分割型回折格子
4. 誘電体多層膜回折格子のコスト半減のために、
「レーザー研の広場 」のコンセプトは「学部生にもわかるレーザー研の広報誌」。このコンセプトのもとで、西 村博明
先生にインタビューをすると聞いた時はどんな記事になるのかと正直心配でした( 笑 )
。
でも、
インタビューが始まると
先生もわかりやすい言葉を選びながら、
いつもは聞けないプライベートな話までしていただけたので、
非常におもしろく
分かりやすい記事に仕上げることが出来たのではと思っています。特に、先生が若い頃のレーザー研の話や現在に至る
までの 経 緯は非 常に興味深いものでした。また、
学 生に対するメッセージや研究への取り組み方などは今 後の 研究
活動の参考になるものばかりでした。現在レーザー研にいる学生も次号以降の「レーザー研の広場」で先生方にイン
タビューしてみて下さい。きっと何か発見があると思います。
発行/ 2009.11.30
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編集発行/大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
猿 倉 信彦 中 西 文美恵 斉 藤 昌 樹
〒565- 0871 大阪府吹田市山田丘 2 - 6 URL http://www.ile.osaka-u.ac.jp
植田 達
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